とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「刹那に似てせつなく」唯川恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人を殺して警察に追われる身となった並木響子(なみききょうこ)42才と、暴力団に追われる道田(みちだ)ユミ19才の二人は偶然の出会いから一緒に逃亡をすることになった。とそんな唯川恵らしくないストーリーが展開していく。
非日常的な2人の行動が普段の生活では感じない多くのことを考えさせてくれる。特に、ユミのひねくれながらも本質を見極めた物事の感じ方が印象的である。

言っておくけど、この国のやつらはみんな貧乏だよ。モノがいっぱいあるってことは何もないことと同じなの。シャネルもグッチもプラダもあるのに、そこら辺で売っている安物の財布を持てる?

また、登場人物の一人である弁護士の皆川久美子(みながわくみこ)が響子(きょうこ)に向けて言う言葉も心に残る

このまま引き下がってはますますそういう男をのさばらすばかりです。弁護士らしくない発言だと言われてしまいそうですが、判決だけが目的ではない戦いがあってもいいのではないかと思っています。

最後の「解説」のページで書評家が、「この本は『買い』だ」と書いている。激しく同意する。特に古本屋で250円で買った僕にとっては。250円では十分すぎるくらい僕の心に変化を与えてくれた。


蛇頭(じゃとう)
中国から日本や米国等の外国への密入国をビジネスとして行う密航請負組織のこと。欧米では「スネークヘッド」と呼ばれる。
じゃぱゆきさん
歌手・ダンサー等の資格を持って日本に入国し、実際にはクラブ・パブ等でホステスとして働いた(働かされた)経験を持つフィリピーナのこと
からゆきさん
明治、大正、昭和のはじめに貧しさのために東南アジアの娼館に売られていった女性たちのこと

【Amazon.co.jp】「刹那に似てせつなく」

「海辺のカフカ」村上春樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
村上春樹の作品を読むのは「スプートニクの恋人」に続いて2作品目である。
主人公のカフカ少年はそれまでの自分の生き方に疑問を持ち家出をする、そして運命に導かれたかのように四国の図書館に辿り着く。とそんなストーリーである。
感想はというと、正直わからない。この本が世界中の多くの人から支持を受けていることももちろん知っている。それでも僕にはわからない。
現実と非現実の境界線、意識下と無意識下の境界線が曖昧すぎて、謎が謎のまま残される。もちろん意図的に謎を残して、真実は読者自身の考えに委ねているのだろうが、明確な意図をもってその謎を残しているのか疑問が残る。また、登場人物がみんな個性が薄いことも気になる。「個性が薄い」という言い方は少し違うかもしれない。個性はあるのだが現実感が乏しいのである。大島さんも佐伯さんも、カフカ少年も、ホシノさんも、ナカタさんもあまりにも非現実なキャラクターなため誰一人として感情移入できないのだ。
作者自身、ホシノさんも、ナカタさんなどのキャラクターについて、こんなキャラがいたら読者はいろいろ考えるだろう。読者にたくさんのことを考えさせることを目的に書かれたような作品のように思う。そして、僕はいろいろ考えさせられ、そして答えが出ないことに悩むのである「指はなぜ6本ある?」そう聞かれたら誰もが困るように、やはり僕もこの本を読み終わって困るのであった。おそらくすべてに説明、理論を求める僕自身に問題があるのだろう。僕がこの本をもう一度開きたくなったときには僕自身少し違った人間になっていることだろう・・
【Amazon.co.jp】「海辺のカフカ(上)」「海辺のカフカ(下)」

「悪意」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
楽な本を読みたい時に僕は東野圭吾の本を手に取る。今回もそうである。
物語は野々口修(ののぐちおさむ)と日高邦彦(ひだかくにひこ)という二人の作家の間に起きた殺人事件に対して、刑事の加賀恭一郎(かがきょういちろう)が少しづつ解明して行くという展開で進む。
作家を登場人物としているため、東野圭吾本人の実体験と思われるシーンが何度か物語中に含まれていて新鮮さを感じる。そして東野圭吾「らしさ」があらゆるところにちりばめられている。そもそも僕はこの本を単純な推理小説だと思って手にとったのだ。読み終わったら一息ついて、次の本を読みはじめられると思っていた。でもこの本は僕の目の前に突き付けて来た。今まで見えていて見ないようにしていた現実。裏表のない「善意」に対して、強烈な「悪意」が芽生えることも時にはあるということを。
【Amazon.co.jp】「悪意」

「血と骨」梁石日

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第11回山本周五郎賞受賞作品。
昭和初期から中期にかけて、在日朝鮮人である金俊平という蒲鉾職人の生き方を描く。
金俊平のように自分以外の人を信じないという生き方は戦時中の騒乱の時代の中では多かったのかもしれない。ストーリーのおもしろさという面ではあまり薦めないが、昭和の歴史を当時の雰囲気を味わいたい方は読んでみるのもいいかもしれない。
お金がなければ見向きもされない。女は体を売っていきるしかない。病気になれば「早く死んでほしい」と思われる。僕の生まれるほんの20数年前までの昭和という時代はそんな時代だったのだ。
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「スプートニクの恋人」村上春樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
食わず嫌いで、遅ればせながらようやく村上春樹デビューとなった。
主人公の「僕」が恋する女性のすみれは、年上の女性ミュウと恋に落ちることになった。ミュウは自分のことを「14年前のある出来事から自分を失った」と言う女性。「僕」とすみれとミュウという少し普通の人と違った3人が不思議に絡み合う。
3人それぞれに少しずつ理解できる部分がある。この物語の中では少し「変わった人」感を大きく表現されているが、彼等のような人は実際には世の中にたくさんいるのかもしれない。3人の中で僕は特にミュウの生き方、考え方に共感を覚える。そんなシーンを描いた箇所をいくつか挙げてみる。
「ぼく」がミュウと出会った時の印象。

ぼくがミュウにについていちばん好意を持ったのは彼女が自分の年齢を隠そうとしていないところだった。すみれの話によれば彼女は38か39だったはずだ。そして実際に38か39に見えた。ミュウは年齢が自然に浮かび上がらせるものをそのとおり受け入れ、そこに自分をうまく同化させているように見えた。

ミュウが過去を語ったときの一言

自分が強いことに慣れすぎていて、弱い人々について理解しようとしなかった。幸運であることに慣れすぎていて、たまたま幸運じゃない人たちについて理解しようとしなかった。いろんなことがうまくいかなくて困ったり、たちすくんでいたりする人たちを見ると、それは本人の努力が足りないだけだと考えた。不平をよく口にする人たちを、基本的には怠けものだと考えた。

登場する3人のような、普通の人とは違う考え方を持った人間は、自分を理解してもらえる人に出会えるか否かが非常に重要であるということを物語の中で訴えてくる。そしてその裏で、現実の世界」と、「気持ちや本能が求める世界」との接点のようなものをテーマにしているように感じる。
作者の言いたいことがなんとなく伝わっては来るが、正直僕には難しすぎる。10人が読んだら10通りの解釈の仕方があるようだ。全体的に「結局どうなの?」という疑問が残り、「後味が悪い」とまでは言わないが、不思議な余韻を残してくれた。
【Amazon.co.jp】「スプートニクの恋人」

「流星ワゴン」重松清

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
永田カズオ38才、妻ともうまくいかず、受験の失敗によって荒れた息子の家庭内暴力が日に日に増す中、ふと考えた。

死んじゃってもいいかなあ、もう

そこに一台のワゴンがやってきて、窓から顔を出した男の子が言った。「早く乗ってよ。ずっと待ってたんだから。」そして、そのワゴンはカズオを不思議な世界に連れて行った。
子供の頃、父親は大きく、そして言うことは常に正しい。そんな存在だった。もちろん怒られたこともある。今思うと時々理不尽な怒られ方をしていたようにも思う。それでも、あの頃の僕には度胸も気持ちを表現する言葉も足りなくて、自分の思いをぶつけることができなかったが、たくさんの言葉を身に付けた今ではいろいろ言い返せるかも知れない。もう一度あの瞬間に戻って自分の気持ちをぶつけてやりたい。そんな考えを持ったことがある人って意外と多いのではないだろうか。でもそれは決して実現することはない。
この本の中ではそんな実現することのない状況を見せてくれる。ワゴンでいろんな場所に連れて行ってもらったカズオは自分と同じ38歳の父親と会う。彼はそこでいろんな思いをぶつける。息子の素直な思いをぶつけられて戸惑う父親。そして、父親になって息子との接し方に戸惑っているカズオ。そんな二つの親子の関係を対比して子供の思いや父親の思いを伝えてくる。これから父親になるひとや子育てに悩む人にはなにか手がかりになるのかもしれない。
【Amazon.co.jp】「流星ワゴン」

「オルファクトグラム」井上夢人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
主人公の稔(みのる)は姉の家を訪問した際に姉の知佳子(ちかこ)は殺され、稔(みのる)に頭をバットで殴られ、1ヶ月の意識不明の状態に陥った。奇跡的に意識を取り戻すと、常人の数億倍の嗅覚を身に付けていた。稔(みのる)はその嗅覚を利用して知佳子を殺した犯人を見つけようとする。
犯人探しというよくある物語の中に嗅覚という不思議な題材を絡めてあり、そのことで人間の五感について考えさせてくる。
人は視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感を備えながら、人の世界の大部分は視覚によって構成されている。例えば、嗅覚を失っても人は日常生活を普通にすることができるが、視覚を失ったとたんに1人では生活できなくなる。人の五感の利用率の中は、視覚だけで8割を占めているのである。僕ら人間にとってはそれが当然でも、生き物全体から見ればここまで視覚を重視している生き物は特殊である。例えば犬などはモノクロの視覚しか備えていないにもかかわらず人間の何倍もの嗅覚を備えているためそれを補うことができる。犬の五感の利用率は嗅覚が4割、聴覚3割、視覚2割と言われている。そのことで、犬は飼い主の機嫌の良し悪しも匂いから判断することができるのだ。また蟻などの昆虫も匂いを有効なコミュニケーションの手段として利用している。僕ら人間は視覚という一つの能力を重視して嗅覚を放棄してきたた。それによって不便なこともあるはずだ。例えば相手の気分など、嗅覚を利用すればわかりやすいことに対して、視覚しか手段のない人間は相手の顔の表情から読み取るという非常に非効率的な方法をとるのである。
最初はその奇抜な発想だけに頼った物語のような感じがしたが、読み進めて行くウチにそのテーマに引き込まれていった。
【Amazon.co.jp】「オルファクトグラム(上)」「オルファクトグラム(下)」

「魔術はささやく」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本推理サスペンス大賞受賞作品。宮部みゆきの名作である。もう5年も前に一度読んだのだが、なぜかもう一度読み直してみたくなった。
主人公の守(まもる)は父親は横領の罪をかぶったまま失踪し、母親が早くに亡くなったことで、母親の姉の家庭で育てられた。そんな中、彼の周囲には妙な事件がおき始めた。3人の女性が立て続けに死亡したのである。そんななぞめいた事件の一つにかかわったことから守の周囲は動き始める。
周囲の目や障害にも負けない守(まもる)の強さや正義感に共感を覚える。そして読み進めていくうちに守の強さは周囲の人に支えられて形成されたものであることも伝わってくる。
守ると親しい近所のおじいちゃんは守(まもる)にこう言った。

「おまえのおやじさんは悪い人ではなかった。ただ、弱かったんだ。悲しいくらいに弱かった。その弱さは誰の中にもある、おまえの中にもある。そしておまえがその自分の中にあるその弱さに気がついたとき、ああ、親父と同じだとおもうだろう。ひょっとしたら親が親なんだから仕方がないと思うこともあるかもしれない。じいちゃんが怖いのはそれだ」

守(まもる)の通う学校の先生は守(まもる)にこう言った

「俺は遺伝は信じない主義だ。蛙の子がみんな蛙になってたら、周りじゅう蛙だらけでうるさくてらかなわん。ただ世間には、目の悪いやつらがごまんといる。象のしっぽをさわって蛇だと騒いだり、牛の角をつかんでサイだと信じていたりする。」

周囲の流れは風当たりがどんなに強くても、気持ちの持ちようで道は開けるということを教えてくれるのと同時に、その風当たりに負けてしまう人がいるのも仕方がなく、そんな弱い人を責めてはいけないのだとも教えてくれる。
さらに物語の中で「あんなやつは殺されて当然だ」という台詞が出てくる。実際に憎らしい人が死ぬことはめったにないにしても、「あんなやつは死んだほうがいい」という強烈な殺意を抱いたことぐらい、誰でも一度か二度はあるのだろう。しかし、僕らそうやって殺意を覚えることはあってもはそんなに簡単に人を殺したりしない。なぜなら、そこにはリスクが伴うからだ。リスクとは信用や社会的地位の失墜である。では、リスクを負わないだけの力を得たら人を殺したりするだろうか・・・。考えてみた。殺したりするかもしれない。ほんの少しの労力で、僕がやったとわからないのなら、僕が責任を問われることがないという確信があるのなら殺したかもしれない。きっと多くの人がそうなのだろう、人は力を得ると自分で裁きたがるのだ。「これが正義だ!」「悪いやつはこの世からいなくなれ!」と。としかし人には感情があり、感情がある以上、人を冷静に裁くなどできるはずがないのである。
これがこの本が読者に訴えてきた一番大きなテーマなのだ。僕はそう受け取った。ちなみにこの「力を得たことによって、自らの手で人を裁く」というテーマを中心に据えたのがその後の宮部作品「クロスファイア」なのだと2回目にして感じた。
守(まもる)が父親の最後の行動を知って一人つぶやくシーンは涙を誘う。
【Amazon.co.jp】「魔術はささやく」

「人質カノン」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
7つの物語で構成された短編集である。「八月の雪」という3つめの物語が印象的である。交通事故で右足を失った充(みつる)は家の中でおじいちゃんの遺書らしきものを見つける。これは一体なんなんだろう?そう思っておじいちゃんのことを調べてみようとする。
この世界に生きている人には例外なく、一冊の本にはおさまり切れないぐらいの物語があるということを再認識させてくれる。もちろん僕のおじいちゃんもおばあちゃんも、そして道ですれ違っただけの人生で一度しか会わないような人も、電車の中で隣にたまたまに乗り合わせた人も、例外などあるわけがない。どんな人にも敬意を払わなければならない。考えてみれば当たり前のことだ。
【Amazon.co.jp】「人質カノン」

「終戦のローレライ」福井晴敏

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第24回吉川英治文学新人賞受賞作品。
昭和20年。第二次世界大戦末期、すでに誰の目にも日本の敗戦は濃厚になりつつある時代、五島列島沖に沈む特殊兵器・ローレライを回収するための作戦が秘密裏に進められていた。17歳の上等工作兵、折笠征人(おりかさゆきと)、清永喜久雄(きよながきくお)、そして海軍潜水学校で教師を勤める絹見真一(まさみしんいち)もその作戦のために集められた一人であった。
戦争という抗いようのない大きな流れ。60年もの月日がたった現在ではその時代の生の声を聞くこともできず時代の一部分という認識しか持たない僕に、その大きな流れに巻き込まれた人たちの悲しみ、想像を絶する苦しみをリアルなまでに伝えてくれる。勝敗に関わらず戦争から生まれるのは悲しみや苦しみばかりだということを。
いくつか印象に残っているシーンをあげてみる。
アメリカ合衆国海軍で初の実戦配置に抜擢されたアディの最期は突然訪れた。

「魚雷衝突まで六十・・五十・・」
チーフはアディと視線を絡ませたのもつかの間、瞼を閉じた。「ジュリア・・・」という小さな囁きその唇から漏れた。アディはそれを聞いた途端。これで死ぬらしいと理解した。唐突に訪れた死の瞬間に呆然となり、慌ててガールフレンドの顔の一つも思い出そうとした。しかし、こういうときに名前を呼ぶに相応しい女性の顔は見つけられなかった。そんな相手を見つけるには短すぎる人生だった。まだやり残したことがたくさんある・・・

人によっては自分が死ぬことに気付かないまま最後を迎えることもある。主人公の征人(ゆきと)は自分と同じように敵の戦闘機の機銃を避けていた男の最期の瞬間を見た。

両手で耳を塞ぎ、甲板に顔を押しつけたその男は、後頭部に弾丸が刺さってもぴくりとも動かなかった。顔の下から流れ出した血を甲板に広げ、生きていた時とそっくり同じ姿勢で死んだ。あれでは自分が死んだということもわからなかったのではないか?特攻という自発行為の結果で死ぬならまだしも、こんなのは絶えられない。

また、日本海軍の最前線で無人島に流れ着き、生きるためには死んだ人間の肉を食べるしかなかった。そんな地獄の中を彷徨っていた彼等はある真理と直面した。

肉が喰える以上誰も死なない。そして誰も死ななければ肉は喰えなくなる−−

そんな戦争という舞台のうえで展開される、命の重さや人と人との信頼関係、信念が僕の心に大きく響いてくる。こんな生き方をしたい、こんな強い心を持ちたい。こんな行動ができる人でありたい。そう思わせてくれる登場人物ばかりだ。
主人公の征人(ゆきと)は同じ潜水艦に乗り込んでいる田口(たぐち)に見つめられてこう思った。

そう、この目だ。殺気を常態にした瞳の底に、やさしい光を蓄えた瞳。怒鳴りつける一方、部下の顔色を目敏く察し、ひとりひとりに気を配るのを忘れない目。おれに見えていたのはそういう目だ。反発しながら学ばされ、嫌いながら近づこうとしていた、一人前と言う言葉の先にある目。男として手本にできると信じた目だ。

ドイツで特殊訓練を受けて育ったフリッツは征人(ゆきと)の思ったことをすぐに口にする性格を見て思った。

あいつの強さの本質は、立場の優劣で人を隔てないところだ。誰をも理解しようと努め、傷ついても向かってくる愚直さだ。あいつの無責任なまでのやさしさは傷つくことを恐れない強さに裏打ちされたものだ。

大平洋戦争。大東亜共栄圏の建国というスローガンで正当化して植民地を広げて行こうとした日本。あの時代のことを考えると多くの人はこう思うのだろう。昔の日本人は愚かだった、と。自分達を客観的に見ることができずに、周辺国の国民の苦しみを考えずに、「自分達日本人は特別な存在なのだ。」という根拠もない理由によって突っ走っていたのだ、と。そうやって現代では大平洋戦争時代の日本人の生き方を否定して多くの人が生きているし、戦後の日本の教育の中でもそんな教えられ方をしている。
では、日本人が太平洋戦争までに積み上げて来た物はどこにいってしまったのだろうか。確かに大平洋戦争において日本人がしたことは非常に罪なことで簡単に許されることではない。しかし、あの時代には「カミカゼ精神」やら「玉砕」やら今聞くと冷めてしまうような言葉を掲げて戦争に向かっていった東洋の小さな国の国民は、周辺国とっては確かに驚異であり、「日本人」というブランドが存在していたのも事実である。しかし戦後60年を迎えた今、日本を見つめてみると、情報や文化や技術を取り込むことに焦り過ぎた結果、その中で生きているのは国民性の薄れた空っぽな人間たちである。そして、その「国民性の薄れた空っぽな存在」に「かっこいい」という感覚を覚えているのだから少し悲しくもある。
あの第二次世界大戦の時代に比べて明らかに自分が日本人であることに対する誇りが薄れているのだはないか、と今までにない気持ちを僕の中に喚起させてくれた。
【Amazon.co.jp】「終戦のローレライ(1)」「終戦のローレライ(2)」「終戦のローレライ(3)」「終戦のローレライ(4)」

「塩狩峠」三浦綾子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新潮文庫WEB読者アンケート第4位。この言葉に惹かれて購入した。
一人の人間が、キリスト教に惹かれ、そしてその教えにしたがって自らの命を投げ出して多くの人を救う。そんな実際にあった話をもとに作られた物語。
明治初期を舞台にしていること。キリスト教の教えが多く主人公の周囲に取り入れられること、そして、自分の性格とあまりに懸け離れた人物像によってなかなか素直に物語を受け入れずらい。それでもこの本を読む前と後では生き方が少なくからず変わるかもしれない。
こんなふうにひたすら自分以外を思いやって生きれるなら、それもまた素敵な生き方なのかもしれない。しかし僕は「人生は一度きり」という考えの持ち主。したがって、やっぱり人生は自分のために生きることにする。
【Amazon.co.jp】「塩狩峠」

「ボーダーライン」真保裕一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ロサンゼルスの日系企業で働く探偵のサム永岡(ながおか)は、一人の日本人の若者を安田真吾(やすだしんご)を探すように依頼を受ける。安田を探すウチに彼の冷酷な性格が見えてくる。という話。
人はどうやって人間性を形成するのか。人や動物や虫どの命の尊さを生きているどの過程で知るのか。そして、生まれつきの犯罪者などいるのか。そんな周囲の環境が与える人の性格の難しさを考えさせてくれる。永岡が真吾の父親の英明(ひであき) に語るシーンは印象的である。

「空っぽな連中ほど、仲間と群れたがり、一人になるのを忌み嫌う。一人ぽっちで時を過ごすのは辛いですからね、嫌でも自分ってものを見つめざるをえなくなる。そんな勇気すら持ち合わせちゃいない連中ばかりが増えて、街にあふれている」

一人暮らしで、人を部屋にいれたがらない僕には勇気の出るメッセージ。この本を読んで、僕は自分と向き合える中身のある人間だ。そう思えるようになった。
【Amazon.co.jp】「ボーダーライン」

「パイロットフィッシュ」 大崎善生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回吉川英治文学新人賞受賞作品。
編集者に勤める主人公の山崎隆二(やまざきりゅうじ)の元に、昔の恋人である由紀子(ゆきこ)から電話がかかってきたところから物語は始まる。過去の二人の出会いや別れ、二人の間に起きた出来事。そして今の二人の生活を描く。
タイトルとなっている「パイロットフィッシュ」とは、他の魚が生活しやすいように水槽の水を奇麗にする魚のことである。人との出会いや別れ、そしてその人との間に起きた出来事が今の自分の言葉や行動に確かに根付いていることを意識させてくれる作品。僕のパイロットフィッシュは一体誰なのだろう。僕は誰のパイロットフィッシュになれるのだろう。いろんな人と出会い、いろんな経験をすることがしっかりしたオリジナリティのある人間をつくる礎であることを再認識させられた。
【Amazon.co.jp】「パイロットフィッシュ」

「王妃の館」浅田次郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
倒産寸前の旅行代理店が「王妃の館」の宿泊ツアーとして、2つのツアーを組んだ。1つは149万8千円のポジツアー、もう一つは19万8千円のネガツアー、しかも客に部屋を共有させるという無謀なツアーである。そんなツアーの様子がコメディタッチで、ルイ14世時代と絡んで展開していく。
正直「中途半端」な印象を受けた。設定的にはかなりコメディタッチで進みながらも、コメディとして読むととてもおもしろいとは言えない。ルイ14世時代の物語も興味を惹かれたが浅い部分までしか掘り下げられていない。この物語全体としてのテーマが感じられなかった。作者もこの作品を実験的に書いたのではないかという印象を受けた。
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「柔らかな頬」桐野夏生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第121回 直木賞受賞作品。
失踪した5才の娘、有香を探して、カスミは生活する。娘の失踪から4 年後、内海という元刑事の男が捜索に名乗り出る。内海は胃ガンですでに余命わずかと宣告されていて、その余生を、有香を探すことに費やそうと考えたのだ。こんな物語である。
娘の有香がいなくなった謎を解こうとするではなく、どちらかというと、娘が失踪した事実と向かい合って、どうやって生きて行こうか探しているカスミ。自分の死が迫っていて、どうやって現実を受け入れて生きて行くか悩む内海。そんな2人の姿が強烈だった。
僕が余命を宣告されたらどんな生き方を選ぶだろうか。
真実を知るために「今」を犠牲にできるだろうか。
幼い頃、僕はどこまで周囲の出来事を把握していたのだろうか。
この本を読んで実際に直面しないと答えの出ない疑問が僕の周りにわきあがってきた。
【Amazon.co.jp】「柔らかな頬(上)」「柔らかな頬(下)」

「肩ごしの恋人」唯川恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第126回直木賞受賞作品。
欲しい者は欲しい、人の男を奪う事をなんとも思わないるり子。そして、仕事も恋も常にブレーキがかかって、理屈抜きでは楽しめないクールな萌。この二人は親友でありながら性格は正反対。そんな二人の仕事や恋や友情がこの物語の中では展開していく。
僕自身はどちらかと言えば萌に似ている。極端な言い方をすれば誰も信用しないし、すべて自分で解決するという生き方である。それでも、自分が幸せになるためには同性に嫌われようが構わないというるり子の生き方も少し爽快に感じる。僕自身はそんな女性を今まで軽蔑していたが、ある意味、もっとも自分に素直な生き方なのかもしれない。そう思わせてくれた。
きっと萌のような生き方をしている人はるり子のような生き方に、るり子のような生き方をしている人は萌のような生き方に、多少なりとも憧れているのだろう。
るり子の言ったこんなセリフが印象的である

「不幸になることを考えるのは現実で、幸せになることを考えるのは幻想なの?」

確かに一般的にはそうかもしれない。そう考えると、みんなの言う「現実」ってなんなんだろう。
【Amazon.co.jp】「肩ごしの恋人」

「スカイ・クロラ」森博嗣

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
どこの国の話かわからない。いつの時代の話かわからない。そして僕には縁のない戦闘機のパイロットの話。だから話に入っていくまでに少し時間がかかるかもしれない。
「死」に近い場所で生きている主人公たち。こんな生活をしていればこんな考え方になるのかもしれない。決して共感はできないが、ひょっとしたらそうかも・・・そう思わせてくれるシーンが多々ある。一つ印象的なセリフを挙げる

生きている間にする行為は、すべて退屈凌ぎなのだ。

なるほど、そうなのかもしれない。結局いつか自分がこの世からいなくなることはわかっている。それなのになぜ僕らは学んだり遊んだり恋したりするのか。そう、退屈だからだ。なんかそれで説明できてしまうからおもしろい。
今まで読んだ本にはなかった不思議な感覚を覚える。ありきたりな本に飽きた人にはお勧めである。
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「人間の条件」森村誠一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
意外なことに森村誠一の作品を読むのは初めてである。
物語は新興宗教「人間の家」の周囲で起こる犯罪の謎を、棟居弘一郎(むねすえこういちろう)が少しづつ突き止めて行く流れで進んで行く。この物語のヒントになっているのはもちろんオウム真理教なのだろう。そしてオウムの事件を知っているからこそ、リアルに物語の中に引き込まれて行く。
この物語がただの刑事物語と違うところは、刑事とはどうあるべきか。人間とはどうあるべきか。生き方とは何か。生き甲斐とは何か。そんな問いを投げかけてくるところであろう。
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「火の粉」雫井脩介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元裁判官・梶間勲の隣に、以前、勲自身が、無罪判決を言い渡した男、竹内真伍が引っ越して来た。そんな奇妙な偶然で始まる。
竹内が引っ越して来たことによって、梶間家に少しずつ変化が起こりはじめる。そんな展開である。そう、実際に家族なんていうのは、つながりは薄く、隣人のちょっとした策略で簡単に崩れてしまうものなのかもしれない。特に、嫁、姑などの微妙なバランスで保たれている家族はそうなのだろう。
また、裁判官という仕事についても衝撃を受けた。改めて考えてみると、なんて責任の重い職業なのだろう。一つ間違えれば何もしていない人の命までも奪いかねない。そして一方一つ間違えれば凶悪な殺人者を「無実」として世の中に解き放つこともまたあり得るのである。これは裁判官だけでなく、弁護士、検察官についても同様のことが言えるかもしれない、実力があるか否かによって無実の人が有罪判決を受けて人生を棒にふったり、有罪の人が無罪となって世の中に出ていったりするのである。
一時期、弁護士という職業に憧れた時期もあったが、憧れだけに留めていて良かったと感じる。
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「魔笛」野沢尚

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
僕にとっては、野沢尚が亡くなった後、始めて読む彼の作品となった。そして過去に読んだ事のある野沢作品の中でもっとも印象的なストーリーとなった。ストーリーは渋谷のスクランブル交差点で爆弾を爆発させた犯人の手記を中心に進む。
爆弾の爆発する瞬間の被害者の描写がリアルである。爆発によって体がバラバラになる瞬間まで、彼等は、彼女らは確かに意識を持って行動していた。今日の予定や未来のことを普段の僕らと同じように普通に考えていた。その事実をイヤというほど伝えてくる。
また、ストーリーは犯人の育った過程に多く触れる、その人の育った環境、周囲の人によって人はどうにでもなってしまうのである。
僕はそう受け止めたが、読む人によって感じ方はさまざまであろう。
【Amazon.co.jp】「魔笛」