とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「千里眼 背徳のシンデレラ」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
岬美由紀(みさきみゆき)の活躍する千里眼シリーズ。「千里眼」でテロを実行した友里佐知子(ゆうりさちこ)の後継者である鬼芭阿諛子(きばあゆこ)が能登の白紅神社で宮司を務めているという。能登に急行した美由紀は、恐るべき内容が綴られた友里(ゆうり)の生涯を記録した日記を入手する。
物語の大半が友里佐知子(ゆうりさちこ)の日記で占められていて若干本編の内容に物足りなさを覚えた。それでも友里(ゆうり)の日記には波乱万丈な人生とともに共産主義の理想国家をつくるために揺れ動く考え方などが描かれていて、「全共闘」やよど号ハイジャック事件をリアルタイムで知らない僕等の世代には新鮮かつ刺激的でページをめくっていて飽きさせることがない。
そして相変わらず能力を持ったことによって悩む美由紀(みゆき)の考え方やその葛藤も今後の展開を楽しみにさせてくれる。

真の意味での千里眼は存在しない。だから人は、心を通わそうと努力する。理解しあおうと人を思いやる。そこに人の温かさがある。人の心が見えないからこそ、人に優しくなれるのだろう。

次回作にまた期待する。


コリオリの力
地球は自転しているため、北極点上空から見ると反時計回り、南極点上空から見ると時計回りに回っている。そのため、北半球では右向き、南半球では左向きのコリオリの力が働く。地球が(ほぼ)球体のため、その大きさは緯度によって異なる。そのため、大砲やロケットなどの弾道計算にはコリオリの力による補正が必要である。台風が北半球で反時計回りの渦を巻くのは、風が中心に向かって進む際にコリオリの力を受けるためである。また、大気だけでなく、海流の運動もコリオリの力の影響を受けている。
全共闘
全学共闘会議の略称。大学の学生自治会の全国連合組織が「全学連(全国大学自治会総連合)」であるが、それとは異なり、基本的には、70年安保闘争あるいは、個別大学闘争勝利のために、学部やセクトを越えた連合体として各大学に作られたのもの。
リストラ
事業再編成(リストラクチャリング Restructuring)に由来する略語。現在では解雇の意味で用いるのが通常となっている。

【Amazon.co.jp】「千里眼 背徳のシンデレラ(上)」「千里眼 背徳のシンデレラ(下)」

「北の狩人」大沢在昌

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
秋田県警の警察官である梶雪人(かじゆきと)は12年前に父親を殺された事件の真相を突き止めるために新宿にやってきた。歌舞伎町で十年以上前につぶれた暴力団のことを聞きまわることで、過去の秘密が次第に明らかになっていく。
歌舞伎町を舞台にした暴力団同士の抗争、台湾マフィアとの駆け引きなどで展開するストーリーはあまりにも普段の私生活とかけ離れているために現実感に乏しい。それでも雪人(ゆきと)に関わる人の少し変わったものの見つめ方が新鮮である。
新宿でキャッチのバイトをしている高校生の杏(あん)はある時思うのだ。

お洒落と男の子と夜遊び。そのみっつしかない毎日が、ひどく下らないことのように思えてきた。

雪人(ゆき)と目的を共にする新宿署の刑事である佐江(さえ)は新宿をこんなふうに語る。

新宿てのは、深い海みたいなもんだ。いつもでかい魚がじぶんより小せえ魚を狙っている。どいつもこいつもゆだんすりゃ食われるのよ。

物語の長さのわりに展開が小さく感じた。主人公の雪人(ゆきと)が東北出身であるという人物設定が感情移入をしずらくさせている感じを受けた。物語中の大きな役割を担う暴力団幹部達にも、その生きてきた背景をしっかり描けばラストのシーンはもっと大きな感動を受けるのではないかと感じた。全体的にはやや物足りなさを覚えた作品である。
【Amazon.co.jp】「北の狩人(上)」「北の狩人(下)」

「鍵」乃南アサ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
森家の3人の子供。長女の秀子(ひでこ)、長男の俊太郎(しゅんたろう)、次女の麻里子(まりこ)は両親を相次いで失ったショックを感じ始め、俊太郎と麻里子の関係もぎくしゃくし始めていた。そんな折、近所では通り魔事件が相次ぐ。
この物語は通り魔事件の犯人を追ったミステリーでもあり、暖かい家族の物語でもある。そんな中で、突然両親を失って悩む俊太郎(しゅんたろう)の心情と、麻里子(まりこ)が生まれつき持った両側感音性難聴というハンデが物語に深みを与えている。麻里子(まりこ)は健常者には意識しないような日常に普通に起きる出来事で麻里子(まりこ)は戦わなければならないのである。そんな麻里子(まりこ)の世間を見つめる視点は新鮮である。

世の中には親切な人ばかりいるわけではないことくらいは、痛いほど分かっている。自分のような女子高生が、突然目の前に現れて話し始めても、きちんと耳を傾けてくれるだろうか、自分のいっていることの意味を理解してもらえるだろうか──。いつだって、そんな不安を抱えて歩いているのだ。

通り魔事件は、3人の家族としての絆を深めるための要素、麻里子がハンデと戦って強くなるための要素として働いていて、残念ながら謎解きの要素などは少なく、また、解決までのくだりにも説得力を欠いた部分があり物足りなさを覚えた。家族の物語として展開するなら、3人の兄弟の一人一人にもっと読者の心を鋭くえぐるような深い心情の描写があればさらに物語の深みが増すだろうと感じた。
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「今はもうない」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
犀川&萌絵シリーズの第八作。避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合った部屋で一人ずつ死体となって発見された。今回も犀川創平(さいかわそうへい)と西之園萌絵(にしのそのもえ)は真相に挑む。
今回の物語は事件の関係者である笹木(ささき)の手記という形で展開していく点が新鮮である。それでも、犀川(さいかわ)と萌絵(もえ)のやり取りは、相変わらず知的で論理的で時に子供っぽく、時に僕の理解を超えてしまう。物語中の表現にときにはっとさせられ、退屈な日常には大いに刺激になる。
特に今回の物語では最後にちょっとした嗜好がこらされて、読者に満足の行く終わり方をしている。期待以上ではないが無難に期待を裏切らない作品である。
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「地下鉄に乗って」浅田次郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第16回吉川英治文学新人賞受賞作品。
小沼真次(こぬましんじ)はクラス会の帰り道。永田町駅と赤坂見附駅の間にある階段を上がった。するとそこは三十年前だった。ワンマンだった父とその父に反発して自殺した兄の昭一(しょういち)、そして恋人のみち子。タイムスリップという奇跡が真次(しんじ)人の記憶や出来事を塗り替えていく。
父親とは子供にとって頑固でわからずやだったりするものだ。そしてそれが父親が子供に見せているほんの一つの顔だということを子供は気付かずに生きていく。ひょっとすると一生父親の他の顔を見ずに終わることが大部分なのかもしれない。物語中で真次(しんじ)は憎かった父の過去にタイムスリップし、過去の父と出会うことで、父も苦労を重ねて生き抜いてきたと理解していくのである。
そして、タイムスリップという奇跡は、真次(しんじ)と父親の間だけでなく、恋人であるちか子との間にも大きく影響し、ラストには悲しく切ない結末が用意されている。

おかあさんとこの人とを、秤にかけてもいいですか。私を産んでくれたおかあさんの幸せと、私の愛したこの人の幸せの、どっちかを選べって言われたら・・・

しっかりとコンパクトにまとめられた一冊だった。
【Amazon.co.jp】「地下鉄に乗って」

「ストロボ」真保裕一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
今回で二回目の読了である。50歳を迎えた写真家喜多川光司(きたがわこうじ)は今、人生の転機となった過去を振り返る。愛し合った女性カメラマンを失った42歳、昔の師と再会した37歳、病床の少女の撮影を思い出した31歳、若かった学生時代の22歳と時代を遡って行く。
一人の写真家の人生の光と影を強烈なまでに見せられた。写真家としてのキャリアや名声と手にする一方で失われていく情熱。刺激よりもお金を優先する仕事を受けて葛藤する姿。人生を送る上で得るものと失うものがあることがリアルに描かれている。そうやって割り切らなければ長いこと同じ業界では仕事を続けていくことはできないのだろう。

今は仕事を選べる立場になった。採算とは無縁の誠意ある支援のおかげで地位をてにしながら、今は報酬を優先した仕事を当然のような顔で引き受けている。

仕事だけではなく、プライベートにおいても長い間生活を共にすることで夫婦間が冷え込む様子が描かれる。

長い年月、気持ちのすれ違いの生じない夫婦などありはしない。こうやっていまずい時さえやり過ごしてしまえば、あとはもとの平穏な暮らしに戻っていける。

あらゆる面で納得のいく人生を送ることはやはり難しいことなのだろう。
小さな偶然がその後の人生を大きく変えることもある。そして若い頃の過ちを清算することもできずにずっと心の奥に背負っていかなければならないこともある。僕自身、身に覚えのあることばかりである。
そして物語中では主人公の喜多川(きたがわ)だけでなく彼に関わった多くの人達の生き方もまたしっかりと描かれている。そしてその生き方もまた小さな出来事に大きく左右され揺れ動いて進んでいくのである。
そんな人生を強烈に見せられて、結局人生やみくもに今目の前にある道を信じて進むしかないのだと感じた。というよりも実際にそうやって手抜きせずに自分の人生と向き合うことがもっとも大切なことなのだろう。大きな転機や出会いは一生懸命人生を生きていれば自然と付いてくるものなのだ。
人生を考える上でいいきっかけを与えてくれる一冊である。
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「繋がれた明日」真保裕一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
中道隆太(なかみちりゅうた)は19歳のときに喧嘩の弾みで人をナイフで刺して殺してしまった。そして6年後に仮釈放を迎え、その後の隆太(りゅうた)の社会への復帰の様子や人間関係などを含め、刑期を終える日までを描く。
罪を償ったはずの犯罪者の一つの生き方という、今までまったく縁のなかった世界が描かれている。そこには思っている以上に様々な障害があるのだ。「人殺し」であるがゆえに社会から誤解を受け、差別され、遺族からは恨みを買う。若干誇張があるのかもしれないが、現実に似たようなことは少なからず存在するのだろう。

死んだ者は生前におかした罪を問われず、被害者となって祀られる。残された加害者は、罪の足かせを一生引きずって歩くしかない。

「罪を償った」とする以上。「犯罪者」というだけで仕事に就けなかったり世間から奇異の目で見られることはあってはならないことなのだろう。とはいえ法律だけでは対応できないことも世の中にはたくさんあるのだ。物語中でも「人殺し」である隆太(りゅうた)と接する人々の反応は実に様々なものだ。
もし友達から「実は昔人を殺したことがあるのだ」などといわれたら、僕にはどんな反応ができるのだろう。とつい自分に置き換えて考えてしまう。しかし、そこに答えはない。少なくとも向かい合って偏見を持たずに話を聞き、しっかりと自分の意見を発することができるような人間でありたい。
物語中で隆太(りゅうた)は罪を償ってもなお、自分を犯罪者にしたきっかけを作った被害者への恨みを捨てきれずにいることで葛藤する。殺人は時として、被害者にも加害者にも「恨み」を残すのだと知った。
そして現在の日本の制度についても問題点を投げかけてくる。被害者の家族に出所日を通知するのが最良の選択なのか。無期懲役の判決を受けても20年以上勤め上げれば仮釈放されるのがいいことなのか悪いことなのか。縁のない世界だからといっていつ自分の身に降りかかるかわからない。いつまでも無関心ではいるわけには行かないようだ。
物語全体としては、隆太(りゅうた)の心情を表すシーンが非常にリアルで、読者は否応なく隆太(りゅうた)に感情移入させられていくだろう。ただ、殺人者とそれに対する偏見、差別、それゆえに起きる誤解、それらを題材に物語の大部分が展開していくため大きく心動かされるシーンは残念ながらなく、同じような展開ばかりで若干しつこい感じを受けた。この内容であればもう少しコンパクトにまとめられたように思う。もっと大きな展開があればこの厚さでもテンポ良く読み進められる作品に仕上がっていたのではないだろうか。
【Amazon.co.jp】「繋がれた明日」

「西の魔女が死んだ」梨木香歩

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
「西の魔女」であるおばあちゃんが死んだ。主人公であるまいは2年前のおばあちゃんと過ごした中学生に入ったばかりの事を思い出し、物語の大部分はその回想シーンで展開していく。
まいのおばあちゃんと過ごした家は、ジャムを作ったり、手で洗濯物をしたりと、幼い頃に味わった田舎の匂いや風景を思い出してしまう。そして「魔女修行」という名の下にまいは人としての心構えのようなものをおばあちゃんから学んでいく。その過程や、学校生活に悩むまいを見て、ついつい僕は同じ年齢だった中学生の自分自身と比較してしまうのだった。

わたし、やっぱり弱かったと思う。一匹狼で突っ張る強さを養うか、群れで生きる楽さを選ぶか・・・・

きっとまいの「魔女修行」はまいの今後の人生の基盤をつくる大切な時間だったのだろう。
物語全体の感想はというと、やや込められたメッセージが弱いように感じた。物語自体が比較的単調に進むので、最後に心を鋭くえぐるような強烈なメッセージが出てくるのではと期待したが、そのまま終わってしまった感じ。
【Amazon.co.jp】「西の魔女が死んだ」

「シーズ・ザ・デイ」鈴木光司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2年ぶり2回目の読了である。17年前、ヨットで大平洋を横断途中に沈没というアクシデントに見舞われ、それ以来満足の行く人生が送れていなかった主人公の船越達哉(ふなこしたつや)41歳。そこに、沈没したヨットの正確な位置を記した海図をもった女性、稲森裕子(いなもりゆうこ)が現れ、船越はもう一度その夢に再挑戦することとなる。そしてその過程で17年前の沈没の原因が少しずつ明らかになっていく。
ヨットによる航海というあまり馴染みのないものを題材にしながらも、広い海の上で何ヶ月も集団生活を送るという難しさ。大海原に昇る朝日や沈む夕日、著者のリアルな描写によりその困難や魅力は存分に伝わってくる。そしてその魅力を読者に止むことなく伝えながら物語は進み、船越(ふなこし)の生まれる前に失踪した父親と、娘の陽子(ようこ)を絡めて見事に物語は見事に完結される。父と子の辿った運命、沈んだ船にもう一度出会う運命。そんな抗うことのできない強い運命を感じずにはいられない。

その瞬間、ぞくりと背筋に悪寒が走った。直感がもたらされたのだ。文明の利器によって与えられる情報より確かに、彼はこの世にないことを知った。

そして、もちろん本人の意識次第ではあるが、41歳という年齢でここまで青春を謳歌できる船越(ふなこし)とその友人たちの生き方もまた僕の心を強く刺激するのである。久しぶりに余韻に浸れるような本に巡り合えたと言った感じである。
【Amazon.co.jp】「シーズザデイ(上)」「シーズザデイ(下)」

「邪魔」奥田英朗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第4回大藪春彦賞受賞作品。今回で二回目の読了である。
過去に最愛の妻を事故で亡くした九野薫(くのかおる)は現在警部補として所轄勤務をしている。同僚の花村(はなむら)の素行調査を担当し、逆恨みされる。及川恭子(おいかわきょうこ)はサラリーマンの夫と子供二人と東京郊外の建売住宅に生活している。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先で起きた放火事件を期に揺らぎ始める。
30代半ばという人生の中間地点。それは「もはや人生にやり直しが効かない」という事を少しずつ実感する世代なのか。そんな中で人はどう現実と折り合いをつけて生きてくのだろう。

自分はいつから現実をみないようにしてきたのだろう。心の中にシェルターをこしらえ、そこに逃げ込むようになったのだろう。

現実を直視しないようにすることも幸せに生きる術なのかもしれない。中には、目の前にある幸せに気づずに生きている人もいるのかもしれない。

先月までは何不自由ない暮らしをしていた。家計を助ける程度のパートをして、家で子供や夫の帰りを待っていた。退屈だが特に不満はなかった。それがどこで歯車が狂ったのか。

幸福とはこんなにも儚いものなのか。リアルに描かれるその様子はただただやりきれない。九野薫(くのかお)と及川恭子(おいかわきょうこ)の二人を中心としながらも、いろんな要素を絡めて展開するこの物語には読者を夢中にさせるに十分な力があった。
【Amazon.co.jp】「邪魔(上)」「邪魔(下)」

「神々のプロムナード」鈴木光司

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
妻の深雪(みゆき)と長女の亜美(あみ)を残して松岡邦夫(まつおかくにお)は失踪した。友人の村上史郎(むらかみしろう)は松岡(まつおか)の行方を捜すことになり、次第に宗教組織の存在が明らかになっていく。という物語。
失踪した松岡(まつおか)を捜すというメインのストーリーの過程で、自分の仕事にやり甲斐を感じていない史郎(しろう)や男に頼らないと生きていけない深雪(みゆき)を題材として、人としての生き方や存在意義などにしばしば触れていて、そんなテーマ自体は個人的には好きなのだが、残念ながらそれによってこの物語を通じて著者の訴えたい部分がぼやける印象がある。登場人物の心情を効果的に描いたとは言い難い。全体的にもう一つアクセントが欲しかった。
【Amazon.co.jp】「神々のプロムナード」

「ライオンハート」恩田陸

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
時代は17世紀から20世紀。時間と空間を超えた、エリザベスとエドワードの不思議な出会いと別れを描く。
物語の展開に慣れ始めた中盤以降はすべての章で、エリザベスとエドワードの登場が待ち遠しく、章が終わるのが寂しく、次の章の始まりがまた楽しみ。夢の中の出来事と記憶の中の出来事を豊かな描写で描くことで、読者を物語の舞台となる時代に引き込んでいく。久々にそんな気持ちにさせてくれる物語であった。ただ、最後だけはもう少し納得のいく解釈を用意してもらいたかった。
【Amazon.co.jp】「ライオンハート」

「99%の誘拐」岡嶋二人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
昭和43年、イコマ電子工業社長の生駒洋一郎(いこまよういちろう)は息子の生駒慎吾(いこましんご)を誘拐された。そして約20年後の昭和62年、また一つの誘拐事件が発生する。最新の技術を用いた犯罪が警察の追跡を翻弄する様子を描く。
物語全体としては謎解きの部分が非常に少なく、読者に推理を楽しませようという意図あまり感じられない。また、登場人物の背景についての記述が少なく、キャラクターとして薄い存在のまま犯罪の動機についても納得できかねる部分がある。最新の技術を駆使した誘拐という大それた犯罪を行う様子はこの物語の見せ場で一気に読ませるだけのスピード感を持った部分ではあるのだが、登場する技術について詳細な説明の多くが省かれているために、残念ながらリアルさがあまり伝わってこない。(もちろん詳細に書きすぎると実際の犯罪に応用する輩が存在してしまうと言うことも考慮した結果ではあるだろうが)その結果、どこをとっても物足りなさを覚えてしまう作品であった。
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「ルパンの消息」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、実は殺人事件だった。そんなタレ込み情報が警視庁にもたらされた。時効まで24時間。当時不良高校生だった喜多芳夫(きたよしお)と竜見譲二郎(たつみじょうじろう)と橘宗一(たちばなそういち)の三人組が決行した悪戯がその事件に大きく関わっていた。喜多(きた)と竜見(たつみ)の供述により二転三転しながら次第に15年前の真実が明らかになっていく過程がスリリングに描かれている。
一気に読ませるストーリー展開はさすが横山秀夫作品といった感じである。そして物語中においても、聡明だったが現在はホームレスとなり公園のベンチで寝ている男、不良だったがある女性との出会いを期に進学を志し、しっかりした家庭を持った男など、事件関係者の人生が適度に描かれていて、十人十色の生き方があるのだと感じさせてくれる。そしてそんな人生をつくった昭和という時代に疑問をも投げかけてくれるのだ。

戦争も戦後も薄れた昭和の後半という奴は確かにそんな時代だったかもしれない。何もかもが膨れて、伸びて、伸びきって・・・。なぜ豊かになったのかみんな次第にわからなくなっていった。アポロの仕組みも技術も何もわからずに、テレビの映像で月面を跳ね回る男たちを繰り返し見せられる、あの奇妙な感覚が昭和の後半、ずっと続いていたような気がする・・・

ただの刑事物語では決して終わらない。これが横山作品の魅力である。この作品は横山秀夫の処女作であるが、後に書かれた「半落ち」「顔」以上の傑作だと感じた。
【Amazon.co.jp】「ルパンの消息」

「4TEEN」石田衣良

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第129回直木賞受賞作品。
太って大きなダイ、小柄でメガネで賢いジュン、ウェルナー症という病気を抱えたナオト、そして読書が趣味の主人公テツロー。東京湾に浮かぶ島。月島を舞台に14歳の中学生4人の青春を描く。
友情、恋、性、暴力、病気、死。彼らの生活の中で多くの出来事が展開する。そんな4人の前で起こるバリエーションに豊かさに、若干作られたストーリーという面を強く感じないでもない。それでも自分が14歳だった頃、何をして楽しんでいたかをつい考えてしまう物語であった。時代は違えど、目の前で起こる出来事、興味の対象に対してストレートに感情を表現する彼らの姿に、読者は昔の自分との共通点など、忘れていたものをいろいろ思い出すことだろう。


ウェルナー症候群
20世紀初頭に、ドイツ人の眼科医オットー・ウェルナーによりアルプスの谷間に住む4人兄弟の患者が初めて報告されたことから、この名前がつけられた。 一般の人より数倍のスピードで年をとる病気「早期老化症」の一つで、20歳頃から白髪や皮膚の皺などの老化の特徴が現れ始め、糖尿病,癌などで40歳あまりで死亡してしまう。
 また、ウェルナー症候群は日本人に極めて多い早期老化症である。この症状を長年にわたって診断してきた東京都立大塚病院の後藤眞博士らによると、ウェルナー症候群の臨床報告数は世界でおよそ1200例。そのうち日本からのものが800例を超えて群を抜いている。

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「誘拐の果実」真保裕一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
都内で大病院の孫娘、17歳の辻倉恵美(つじくらえみ)が誘拐された。犯人の要求は入院患者、永淵孝治(ながぶちたかはる)という患者の命である。一方、神奈川県内では書店の息子で19歳の工藤巧(くどうたくみ)が誘拐された。こちらの犯人の要求は七千万円分の株券である。
別の場所で起こった二つの誘拐事件が、それに取り組む刑事たちの努力の末に次第に共通点が見えてくる。
物語全体としては、誘拐を起こした犯人たちの意図や家庭環境が複雑で感情移入できない箇所も多い。それでも「自分を許せない」というような、今では多くの人が忘れかけている純粋な気持ちを思い出させてくれる話ではある。作者の多くのアイデアが詰まった作品であるというのは感じるが、それが効果的に物語りに取り入れられたとは言いがたく、一般的な刑事物語の範囲を出るものではないと感じた。
【Amazon.co.jp】「誘拐の果実(上)」「誘拐の果実(下)」

「千里眼とニュアージュ」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
史上最大のIT企業が設置した”48番目の都道府県”萩原県。そこはニートと呼ばれる無職の人々や失業者たちが、生活費も支給されながら暮らす最先端の福祉都市である。
ところが住民たちは悪夢にうなされて臨床心理士への相談を希望する。そんな舞台の上で、「蒼い瞳とニュアージュ」の主人公であり、萩原県で生活する一ノ瀬恵梨香(いちのせえりか)と、千里眼シリーズの主人公であり、「千里眼 トランス・オブ・ウォー」の話の後にイラクから帰国したばかりの岬美由紀(みさきみゆき)の人生が重なるという、松岡作品ファンにとっては待ちに待った作品だったのではないだろうか。
物語は、主人公クラスの二人が活躍するという内容ではなく、どちらかというと主役の座は美由紀(みゆき)に譲り、恵梨香(えりか)は自分の生き方に迷い、時に投げやりな姿勢が印象に残る。
美由紀(みゆき)は相変わらず、読者の誰もが憧れるような行動力と聡明さを併せ持ちながらも完璧な女性であり続けるわけではなく、誰もが味わいそうな悩みや葛藤を見せるところがまた読者のヒロインであり続ける要素なのであろう。

イラクで過ごした日々は、あまりにもわたしの視野を大きくしすぎた。たとえ相談者でなくとも、目の前にいる人に苦痛を与えておいてカウンセラーといえるのだろうか。多数が少数に優先するという考えは、自衛隊を辞したときに捨てたはずなのに。

物語全体としては、美由紀(みゆき)と恵梨香(えりか)が出会うこと意外は今までの松岡作品と比べて目新しいことも、感動する場面もないように思えた。ニッポン放送株買収問題で脚光を浴びたライブドア、2000年に発覚した藤村真一氏の遺跡捏造事件など、社会の出来事を上手く素材として物語に取り入れようとするあまり、内容が薄くなってしまったように感じる。次回作品に期待する。


モノマニアック
幼少の頃の偏執的な性格を残し、他人を所有物で判断する傾向のある人格のこと

【Amazon.co.jp】「千里眼とニュアージュ(上)」「千里眼とニュアージュ(下)」

「波のうえの魔術師」石田衣良

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
私大の文学部を卒業しながらも職がなく、親の仕送りに頼りながら残りの生活費をパチンコで稼ぐという就職浪人生活を送っていた主人公の白戸則道(しらとのりみち)。あるとき彼は老人に声をかけられる。「わたしの秘書として働いてみないか?」それがマーケットへの入り口だった。そんな物語。
タイトルとなっている「波のうえの魔術師」とはその老人のこと。つまり上下に揺れ動く株価を利用するということ。そんな内容なので株式投資に関する知識がある人ほど楽しめるだろう。知識がない人は大いに興味を掻き立てられることだろう。個人的にはわからない単語が多々出てきたのですべてを理解できるくらいの知識を身につけたいと感じた。それでも物語を最低限楽しむことは出来た。


ブルとベア
相場の先行きに対する予想を表しおり、英語で雄牛を意味する「ブル」は相場に対して強気を、クマを意味する「ベア」は相場に対して弱気を表している。「ブル型」投信は、相場に対して強気ということなので、相場が上昇すると利益が出る仕組みの投信。逆に「ベア型」投信は相場が下落すると利益が出る投信。

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「パーフェクト・プラン」柳原慧

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第2回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。
代理母として生計を立てる小田桐良江(おだぎりよしえ)と歌舞伎町で働く田代幸司(たしろこうじ)、赤星(あかぼし)サトル、張龍生(ちょうりゅうせい)の4人は投資アドバイザーである三輪俊英(みわとしひで)の息子である俊成(としなり)を誘拐して、ある犯罪計画を立てる。彼ら4人の計画通りに進むかに思えたところで物語りは大きく展開していく、という話。
物語はクラッキング、オンライントレードなど旬な題材を盛り込んだ、まさに今風な物語に仕上がっているが、物語自体の面白さ、深みは予想を超えるものではなかった。物語よりも新たな専門知識の風を吹き込んでくれたことが印象的である。


ソーシャルエンジニアリング
ネットワークの管理者や利用者などから、話術や盗み聞き、盗み見などの「社会的」な手段によって、パスワードなどのセキュリティ上重要な情報を入手すること。パスワードを入力するところを後ろから盗み見たり、オフィスから出る書類のごみをあさってパスワードや手がかりとなる個人情報の記されたメモを探し出したり、ネットワークの利用者や顧客になりすまして電話で管理者にパスワードの変更を依頼して新しいパスワードを聞き出す、などの手法がある。
ベルフェゴール(Belphegor)
ベルフェゴールは、人間界の結婚生活などをのぞき見る悪魔で、牛の尾にねじれた二本の角、顎には髭を蓄えた醜悪な姿をした悪魔とされる。しかし、それとは別に妖艶な美女として描かれることもある。何故か車輪付きの椅子、または寝室の奥で洋式便所に座った姿で現される。
七つの大罪
「七つの罪源」ともいわれ、「罪そのもの」というより、キリスト教徒が伝統的に人間を罪に導く可能性があるとみなしてきた欲望や感情のことを指す。伝統的な七つの大罪とは高慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲の7つを指す。
エニグマ
第二次世界大戦でドイツ軍が使用した暗号システム。ドイツ軍はエニグマに絶大の自信を持っていたため、 これが連合軍に解読されるとは夢にも思っていなかった。エニグマ暗号がもし解読されていなければ、 ノルマンディ上陸作戦や大戦での連合軍の勝利はずっと遅れたか、 あるいは、勝利そのものさえなかったかもしれない。
ES細胞
embryonic stem cellsの略語で、正式には「胚性幹細胞」という。不死化し、がん細胞のようにいくらでも永く増殖しつづける力をもっている。しかし、ヒトES細胞は、“人の生命の始まりである受精卵”を破壊して作り出すものだけに、いかに有用な細胞とはいえ、倫理的に果たして作製が許されるものかどうか、欧米を中心に真剣に議論されている。
ディスレキシア
学習障害の一つのタイプで、脳内の中枢神経系の機能障害。特徴としては、平均の知的能力があり、その他の障害が無いのにも関わらず、文字をすらすらと読むことができなかったり、スペリングをよく間違い、文字を書くことが苦手などがある。
ウィザード
本来「魔法使い」を意味する英語で、コンピュータの世界では稀に見る天才的技術者をウィザードと呼んだりもする。
サヴァン症候群
知能障害をもちながらも、例えば音楽や目で見た風景を写真と同じくらいに見事に再現できるなど、突出した記憶力を持つ人々のこと

【Amazon.co.jp】「パーフェクト・プラン」

「光射す海」鈴木光司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
入水自殺をはかって病院に入院することになった若い女性のさゆりは記憶を失っていた。同じ病院に入院していた砂子健史(すなこたけし)はさゆりがたまに口ずさむハミングに聞き覚えがあり、さゆりのことを調べ始める。そして物語は、遺伝子病を絡め、太平洋を航海中のマグロ漁船まで広がっていく。
今回で約5年ぶり2回目の読破となったが内容を知っていても十分に楽しむことが出来た。僕自身は、現状から逃げ出してマグロ漁船で人生を模索する真木洋一(まきよういち)にもっとも感情が多く重なる。真木洋一(まきよういち)は同じようにマグロ漁船に初めて乗り込んだ水越(みずこし)をこう表現する。

道そ捜そうとする「あがき」においては、五歳年下の水越に負けると常々感じていた。持って生まれた体力、知力は人それぞれ異なる。与えられた領域の中で、精一杯あがかなければ生きる意味がないことを、水越(みずこし)から学んだつもりだ。

ハンティントン舞踏病という逃れられない運命に悩む女と、逃げようと思えば逃げられる現実を突きつけられた男。自分だったらどうするか、そんなことを考えてしまう内容である。全体としては、普段の生活からは想像もつかないマグロ漁船での生活と、実在する恐ろしい遺伝病を絡めた物語の展開が非常に上手い。そして結論への導き方も無駄がなくすっきり読ませてくれたうえで、さまざまな興味を掻き立ててくれる。


ケースワーカー
福祉事務所で現業を行う職員の通称。現業員とは、相談援助の第一線で働く職員のことで、これには生活保護だけではなく、障害者や児童、高齢者の相談業務を担当する職員も含まる。通称ですから、本来なら役所内での言葉で終わりそうなのだが、行政機関で福祉関係の相談業務に従事する人数が相対的に多いため、「福祉を中心に生活の相談にのる人」の通り名として一般的に使われるようになっている。
ハンチントン舞踏病
錐体外路障害のうちの運動増加筋緊張低下症候群の一つで、顔面筋・眼筋・舌筋、頚部・四肢などの筋に踊るような不随意運動がみらる。中年すぎに発症し、遺伝性家族性があり、精神障害や痴呆を伴う。有病率は人種によって異なり、欧米では人口10万人あたり4〜7人と比較的多い疾患とされているが、東洋人、アフリカ人では少なく、我が国では人口10万人あたり0.4人となっている。

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