とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「さよならバースディ」荻原浩

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
霊長類学研究センターではバースデーと名づけられたボノボに言語習得実験を行っている。田中真(たなかまこと)と恋人の由紀(ゆき)が中心となってプロジェクトを進めるが、そこで事件は起きる。
人間の次に賢いと言われるボノボを題材としているだけに、ボノボと人間の生き方を比較したような描き方を期待して本作品を手に取った。例えば最近読んだ「償い」の中で、「ボノボはその賢さゆえに人間のように地球を汚すような生き方をせずに森と共存している。」という考え方があった。ボノボやイルカなどの知能の高い動物を扱う物語においては、その動物と比較して、「では科学を使っている人間は本当に賢いのか・・・?」という問いかけにたびたび出会う気がする。そんな答えのないテーマに今回も僕は浸りたかったのだろう。
しかし、物語は終始、ボノボの実験内容の詳細な描写とその施設で起こった事件について展開する。ボノボの知能の高さを見せているにしては内容が浅く、ミステリーとしての面白さを見せようとしているのなら、テンポが遅い、というように、最終的に、ボノボに焦点を当てたかったのか、それとも霊長類学センターで起きた事件に焦点を当てたかったのかなんとも中途半端な印象を受けた。
また、複雑な研究設備を文字で説明しようとしているのはわかるのだが、物語の中で大して重要でない出来事まで細かく書くためにスピード感が乏しく、ラストはすでに結論が見えているのになかなか終わらない、というようにややじれったさまで感じてしまった。同時に著者の読者を涙させようという意図が見え過ぎた点も残念である。
本作で読了した荻原作品はまだ2作目であるが、読者の感情をコントロールしたいばかりに物語中に登場する文化や事件、人間などの心情についてやや過剰に演出された描き方が多い気がする。物語を楽しみながらも、世の中の問題点や知らない文化を知識として蓄えたい、というふうに読書の意義を考える僕の求めているものとは、この著者の作品は一致しないのかも、と感じた。
【楽天ブックス】「さよならバースディ」

「迷走人事」高杉良

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
離婚後、大手アパレルメーカーに復職した竹中麻希(たけなかまき)は、広報部の戦力としその力を発揮する。社内の人間関係や将来に悩む女性視点で企業の内部を描いている。
物語の中には大きな山場もなく、一つの企業の日常が淡々と展開されていく。社長の交代劇や業務提携に伴うマスコミ対策などの、上場企業ゆえの業務のほか、訪問販売大手との提携、カタログ販売への進出などアパレルメーカーの企業戦略も盛り込まれている。
また業務以外では、竹中麻希(たけなかまき)と次期社長と目される松岡浩太郎(まつおかこうたろう)そして、麻希(まき)に思いを寄せる営業のホープ、秋山弘(あきやまひろし)の3人の人間関係が軸となって展開する。
ラストは若干物足りなさも覚えたが、アパレルメーカーなど、自分のかかわりのない業界に大しても十分に興味を掻き立ててくれた作品である。
【楽天ブックス】「迷走人事」

「ウルトラ・ダラー」手嶋龍一

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ダブリンで新種の偽百ドル札が発見された。英国情報部員のスティーブンは、真実の究明のために世界を走り回る。
偽百ドル札の出現によって徐々に明らかになる国家間の情報戦を描いている。各国の情報部員たちの、暗号を交えたやりとりや駆け引き。それはそれで現実に近い様子を描いているのかもしれないが、僕の生活圏とあまりにかけ離れた世界と、過剰とも思えるな視点の切り替えが、話に入るのを難しくさせている。
そんな仲、物語の中で重要な役割を演じる日本人女性、内閣官房副長官の高遠希恵(たかとおきえ)、や篠笛の師範である槙原麻子(まきはらあさこ)の多才かつ知性溢れる振る舞いは数少ない魅力の一つである。
また物語中に多くの芸術品や伝統的文化が描かれていて、知識欲を刺激する点も個人的には評価したいところである。
偽百ドル札によって世界情勢が大きく変化するという設定は非常に面白いし、国家間の駆け引きの大部分が国民の目の届かない範囲で行われているのだろうと考えさせてくれたが、残念ながらその魅力的な材料を読者に巧く伝える技量がこの物語にはなかったという印象を受けた。
正直何度本を閉じようと思ったかわからないが、最後まで読み終えたのは、「一度読み始めた本は最後まで読破する」という僕自身の性格によるものだろう。

篠笛
日本の木管楽器の一つ。篠竹(雌竹)に歌口と指孔(手孔)を開け、漆ないしは合成樹脂を管の内面に塗った簡素な構造の横笛(Wikipedia「篠笛」

イムジン河
朝鮮半島38度線付近を流れる臨津江のこと。フォーク・クルセダーズの代表曲。
韃靼海峡(だったんかいきょう)
間宮海峡のこと。
コリドラス
南米に広く分布するナマズ目カリクティス科コリドラス亜科コリドラス属に分類される熱帯魚の総称。(Wikipedia「コリドラス」
参考サイト
篠笛ManiaX – 和風横笛愛好(日本伝統的竹管)
Wikipedia「フォークランド紛争」
Wikipedia「Moto-Lita」

【楽天ブックス】「ウルトラ・ダラー」

「告白倒産」高任和夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大手百貨店の総務部長の倉橋(くらはし)は百貨店の業務に関連して警察に任意同行を求められる。執拗な取調べに対して対応するうちに次第に、会社の対応が厳しくなっていく。
序盤の警察での取調べシーンでは、百貨店の総会屋との付き合いについて書かれている。

わたしらつきあっている範囲の総会屋は、べつに怖くないんですよ。怖いのは暴力団でね。警察は頼りにならないが、総会屋はそんなときおさえてくれる。はっきりしているのは、こんな便利な人間を雇っておけるなら、二千万円なんて安いもんだ。役立たずの社員二人分だ。

理想ばかりでは大きな会社の経営維持的ないというのは事実なのだろう。どこまでが罰せられる犯罪で、どこからが見逃してもらえる犯罪なのかを探りながら、世の中を渡っていくしかないのだろう。それは言い換えれば、警察を含めた世の中のさじ加減でそれらの罪はいつでも「罰せられる罪」に変わるのである。
世の中に認知され、そのイメージが大きく業績を左右するような企業は、その判断ミスが命取りになる。ライブドア事件や、最近では日本教職員組合の会合を拒否したプリンスホテルの対応を思い出した。
百貨店業界の裏を濃密に描いた経済小説を期待して読み始めたのだが、残念ながら期待に応えてくれたのは最初だけで、後半はあまり個性のないミステリーで終わってしまった。高任和夫という作家自体、経済小説を思わせる題名の書籍を多く出版しているようだが、この内容を考えると、今後もその作品に手を伸ばすかどうかは悩むところである。
【楽天ブックス】「告発倒産」

「オレたちバブル入行組」池井戸潤

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本が好景気に沸いていた1988年。大手銀行への入社という狭き門を突破した半沢(はんざわ)。それから十数年、融資課長となった半沢(はんざわ)の支店では、とある企業に5億円の融資をした承認した矢先にその企業が倒産した。銀行内部の軋轢と債権回収の裏側を描く。
冒頭の内定確定までのエピソードは、バブル期という時代と大不況といわれる現在との違いを強く印象付ける。当時、銀行とは入社することができたらその家族も含めて一生安泰といわれた時代である。それが、バブルの崩壊を経て大きく変わる、半沢(はんざわ)はその大きな変化に翻弄されたバブル期入社のエリートの一人である。

銀行不倒神話は過去のものとなり、赤字になれば銀行もまた淘汰される時代になったのである。銀行はもはや特別な組織ではなく、もう儲からなければ当然のように潰れるフツーの会社になった。

銀行の内部が詳細に描かれている。融資の決定、債権の回収。そして極めつけは社内の人間関係である。国に守られている企業という過去ゆえに、その内部は効率や実力主義とは無縁で、人脈や人事権を持っている人間が社内のもっとも恐れられる存在である。この辺は警察組織と非常に似た印象を受ける。
世間では憧れの存在であったエリートである半沢(はんざわ)とその社内の友人たちはも、銀行という融通の効かない組織の中で、次第に理想と現実のギャップに打ちひしがれていく。

ピラミッド構造をなすための当然の結果として勝者があり敗者があるのはわかる。だが、その敗因が、無能な上司の差配にあり、ほおかむりした組織の無責任にあるのなら、これはひとりの人生に対する冒涜といっていいのではないか。

銀行という後ろ盾を一度失えば、不必要なほどの高いプライドを持った無能な人間になりさがる。だからこそ、家族の生活や家のローンに苦しむとともに、社内の人間関係に振り回される。その生き方にうらやむような部分は一つもないように今の僕には感じられるが、バブル期という時代はそんな影の部分を見せないくらい光輝いていたのだろう。
夢と現実に折り合いをつけつつ必死に自分の生き方をまっとうしようとする人々の人生がしっかりと描かれているうえに、経済小説としてもオススメできる濃密な作品であった。

参考サイト
イトマン事件

【楽天ブックス】「オレたちバブル入行組」

「ギャングスター・レッスン」垣根涼介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
渋谷で若者たちを率いていたアキはチーム解散後、裏金窃盗集団の一員になると決めた。柿沢(かきざわ)、桃井(ももい)という2人の犯罪プロフェッショナルの下で、訓練と必要な知識を学び始める。
時間的には「ヒートアイランド」と「サウダージ」の間に位置する。アキを描いたこの作品は垣根涼介のほかの作品に比べて、社会問題や人間の内なる悩みなどのテーマ性が薄いが、気軽に読める手軽さがある。
表の顔を裏の顔を持つアキを含む3人。法律の及ばない生活だからこそ、口にしたことは必ず守ろうと努力する姿勢と、いつでも冷静に物事に対応できる者が信用を勝ち取る。戸籍を売っているホームレスや武器の密輸を手伝うコロンビアの日本人たちとのエピソードから見えるのは、結局どんな状況にも共通する人間の重要な部分である。
アキ以外にも、未来に悩むヤクザの柏木(かしわぎ)や、コンパニオンのバイトをしているアケミにも目線が移る。肩で風を切って歩くヤクザも、綺麗な顔をしたコンパニオンも、みんな理想と現実のギャップに悩みながら生きている。読んでいるうちに世の中のすべての人が可愛い憎めない存在に思えてしまうから面白い。このどこか爽快な感じは垣根涼介作品に共通する空気である。
【楽天ブックス】「ギャングスター・レッスン」

「償い」矢口敦子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ホームレスとなった元医者の日高は、たどり着いた町で、一人の少年と出会う。その少年は13年前に日高(ひだか)が命を救った人間だった。時を同じくしてその町では社会的弱者を狙った連続殺人事件が起こっていた。日高は刑事に依頼されて真相の解明に一役買うことになる。
本作品では幼いころに日高(ひだか)が命を救った少年、真人(まさと)と日高(ひだか)が人間の生き方についてお互いの考えを言い合う展開が多く描かれている。複雑な家庭環境の中で育ったがゆえに、少し風変わりな人生観を持つ真人(まさと)、そして、その過去ゆえに自分の送ってきた考え方を「正しい」とは言い切れない日高(ひだか)。正解のないそんな問いかけが最後まで物語を包んでいる。
特に、この作品の中で繰り返し行われている問いかけは、命を救うことが必ずしも本人にとっていいことなのか?ということである。結果的に不幸になるのであればあえて命を繋ぎ止めないどころか、時にはその命を終わらせてあげることも必要、と主張する真人(まさと)の考え方を、日高(ひだか)は否定することができない。
そして、日高(ひだか)は連続殺人事件と真人(まさと)の関連に気づき始める。

私はとんでもない過ちを犯したのだろうか。善だと信じた行為が、悪への加担だったのだろうか。

ホームレスとなった日高(ひだか)の過去が少しづつ明らかになるとともに、真人(まさと)の家庭環境も少しづつ見えてくる。
興味深いテーマではあるが、ラストは、そんな少しづつ物語を覆ってくる不穏な空気に見合う結末とは言いがたい。読むタイミングが異なればもっと感動できたのかもしれない。
【楽天ブックス】「償い」

「扉は閉ざされたまま」石持浅見

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大邸宅で行われた同窓会の最中に、伏見亮輔(ふしみりょうすけ)は新山(にいやま)を事故に見せかけて殺した。しかし、参加者の中には並外れた洞察力を持つ碓氷優佳(うすいゆか)がいた。
登場人物は7名のみで、ほとんど殺人の舞台となる大邸宅のみで物語が完結する王道のミステリー。犯人である伏見(ふしみ)が新山(にいやま)を殺すところから物語は始まり、そのまま犯人である伏見(ふしみ)の目線で展開していく。
同窓会参加者の優佳(ゆか)がずば抜けた洞察力の持ち主であることも早い段階で描かれるため、多くの読者が早々に物語の最後を推測できることだろう。最終的には優佳(ゆか)が真相を解明し、犯人が伏見(ふしみ)であることに気づくのだろう、と。
だからこそ、多くの読者は伏見(ふしみ)の言動を注意しるのだ。一体どこで優佳(ゆか)が真相を突き止めるためのボロを出すのか、と。僕もそうやって物語を読み進んでいったが、残念ながら優佳(ゆか)の気づいた小さなてがかりに僕自身は気づくことができなかった。(もちろん小説ゆえになせる業だと信じたいところだが)そして、そんなミステリーの王道ともいえる物語展開に加えて、本作品は臓器提供という未だ日本では広まっているとはいえない文化についても言及しており、個人的にはその考え方も物語に負けず劣らず印象的であった。
久しぶりにミステリーらしいミステリーを読んだ。石持浅見作品は本作品で3作目の読了になるが、いずれも非常に狭い範囲で物語が完結する点が特徴的である。例えば「月の扉」はハイジャックされた飛行機と飛行場のみで物語が終わり、「水の迷宮」は水族館という狭い建物の中だけであった。もう少し広く現実世界をうまく取り込んだ作品もあるのであれば読んでみたいものだ。
【楽天ブックス】「扉は閉ざされたまま」

「上陸」五條瑛

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
会社勤めを辞めた兄貴分の金満(かねみつ)、若い前科者の安二(やすじ)、本国の家族のために働く不法滞在者のアキム。3人は共同生活を送りながら建設現場で働く。そんな3人の少し変わった生活を綴った。
格差社会の底辺とも言えそうな3人の生活。そこには僕らが知らない出来事が毎日のように起こり、そして彼らには彼らのルールと常識がある。
特に、不法滞在者であるアキムの生活や人間関係の中には、アジア諸国の人たちの生活が見える。そして本国へお金を送金するつもりで日本に密入国したが、日本にある多くの誘惑の中で、信仰をなくし、質素な生活から離れていく不法滞在者が多く存在するこエピソードが描かれていて、なぜ不法滞在者が犯罪に走るのかがわかるような気がする。彼らは悪ではなく、弱いだけなのだ。

どんな金でも、金は金です。それがなければ生きていけない。ボクも家族も

日本で生まれ育った人は、弱ければ誰かに頼って生きようとするだろう。しかし、彼らは、犯罪に走ることしか知らない。彼らの育った国がそういう文化だったのだから。そんな海外の事情とあわせて、日本がアジアの特殊な存在であることも改めて感じさせてくれた。

俺は家族に話すよ。東の果てにはいろいろなものがあった。見たこともない物で溢れていた。俺の言葉じゃ説明できないくらい、いろいろあったんだよって、そして、いろいろな人間がいたよって。いい人も悪い人もいた。でも俺は幸運だった。

HALAL
コーランの用語で、 「許された」または「合法の」という意味。HALAL食品は、アラー(神)により食べることを許されたもので、HALAL食品を摂ることは すべてのイスラム教徒の義務とされている。

【楽天ブックス】「上陸」

「虚像の砦」真山仁

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
風見敏生(かざみとしお)は民放テレビ局に勤めるディレクター。報道の使命を「権力の監視」と考え、誰よりも先に真実を報道しようと努める。そんな中、中東で日本人3人が誘拐された。
物語はもちろんフィクションであるが、イスラム共和国、バグリード、メソポタミア放送、大無辜(おおむこ)教、秋月弁護士という言葉が出てくる、それらはもちろん、イラク、バグダッド、アルジャジーラ、オウム真理教、坂本弁護士を題材にしているのだと容易に推測できる。そのため、それらの事件に対する今までの自分の認識と、物語中の展開のズレが、再び僕の中の事件に対する興味を喚起することとなった。
物語中ではテレビの力とそれによる危うさを語るとともに、テレビ局と総務省そして政治家の関係をわかりやすく描いている。その関係の鍵となるのは、憲法二十一条の言論の自由と、放送法の公平中立条項、そして、5年に1回再取得が必要なテレビ局の免許制度である。

放送事業に関して言うと、政官民は三すくみ状態にあります。放送局にとって総務省は監督官庁ですから、頭が上がらない。総務省は、放送局には強面で臨めても、政治家の先生たちには弱い。ところが政治家の先生たちは、放送局にはめっぽう弱い。

物語の多くは風見(かざみ)周辺のテレビ局の報道の様子を描いているが、お笑いに命をかけるプロデューサーの黒磐(くろいわ)にもしばしば視点が移る。

バラエティと呼ばれている番組で、やっている事は何かね。自分より弱い人を血祭りに上げて笑い飛ばす。一番ゲスな笑いだ。しかも視聴者には、今日が幸せだったらいいじゃないかという諦めを刷り込み続けている

「報道」も「笑い」も世の中に必要なもの、と位置づけられながらも、テレビという強い影響力を持つがゆえの危うさと、視聴率至上主義に毒されてしだいに信念から遠ざかっていく制作者の歯がゆさも描かれている。

俺たちは今、我が身の驕りのツケを払わされているだけなのかもしれない。いや、もっと言えば、大衆を躍らせた罰を受けているのかもしれない。テレビの向こうの視聴者を小馬鹿にしていた俺たちだって、彼らと大差ないほどの愚か者だった事を思い知らされているんだ。

世の中のすべての物事を実体験するなど不可能だから、僕らは、新聞や本、テレビなどから情報を集めて世の中を知るための努力をするしかない。しかしそれらの情報媒体は人が作るものだから多少なりとも主観が入るのは避けようのないこと。そんな中で優れた情報媒体とは一つの出来事に対して複数の視点から情報を伝えているもののことを言うのだろう。例えば最近話題の高齢者医療制度であれば、その悪いところだけでなく、そのいいところを伝えてこそ、優れた情報媒体と言えるのだ。しかし今のテレビの報道で、これができている番組は一体どれほどあるのだろう。僕だけだろうか、多くの番組に視聴者の気持ちを意図的にどこかに向けようとしている作意を感じるのは。

情報とは、情に報いることだ。しかし、報道とは、道に報いて初めてそう呼ぶことができる。なのに、そのキャスターは道に報いるどころか、情に報いることすらせず臆面もなく嘘のニュースを流した。…

野沢尚の「破線のマリス」や「砦なき者」を読んだとき以上に、メディアを通して真実を知ることの難しさを考えさせる作品であった。

【楽天ブックス】「虚像の砦」

「マグマ」真山仁

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
外資系ファンドに勤める野村妙子(のむらたえこ)が休暇から戻ると、同じ部署の社員は解雇されていた。不可解な空気を感じながらも、託された地熱発電を業務とする会社の再生へ取り組む。
なによりもまず、企業買収で利益を上げる買収ファンドという業務形態が新鮮である。妙子(たえこ)自身、この業種の魅力として、「企業の地獄から天国までのすべての過程に責任を持つこと」と述べているように、いろんな業種のビジネスモデルを知ることができるという点で非常に魅力的な仕事なのだろう。
そして本作品で妙子(たえこ)が再生を請け負った会社は、地熱発電を主な事業とする会社である。エネルギーを扱うので当然のように日本のエネルギーの大部分をまかなっている原発問題についても触れられていて、その危険性や政治的な問題にまで話は広げられている。
妙子(たえこ)は再生請負人として弱みを見せられない立場にある。それでも、純粋に地熱発電が日本の環境にやさしいエネルギーであって有意義に活用すべきという考えや、研究者たちの努力や熱い思いに答えたいという考え、そして、企業再生のためには情けをかけてはならないという考えの間で葛藤しながら、自分の与えられた責任を果たすために突き進む。彼女の存在はこの物語の大きな魅力である。
物語は妙子(たえこ)の目線だけでなく、地熱発電の第一人者の御室耕冶朗(おむろこうじろう)にもたびたび移る。地熱発電に情熱を燃やすその強い気持ちをつくっている過去や思いもまた読む人の心に残るだろう。
新しい知識と、現実の社会問題、そして詳細な心情描写。面白い物語に必要不可欠な三要素がしっかり詰まっている作品である。


自然公園法
優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図り、国民の保健、休養及び教化に資することを目的として定められた法律。国立公園・国定公園・都道府県立自然公園からなる自然公園を指定し、自然環境の保護と、快適な利用を推進する。(Wikipedia「自然公園法」
ガイア仮説
地球は様々なシステムが融合して出来上がった、1つの生命有機体であるとする仮説。(はてなダイアリー「ガイア仮説」
参考サイト
Wikipedia「地熱発電」
地熱発電の基礎知識

【楽天ブックス】「マグマ」

「クレイジーヘヴン」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
旅行会社に勤める坂脇恭一(さかわききょういち)は日々の生活に疑問を感じながらも自分の生きる意味を考えながら生きている。一方、田所圭子(たどころけいこ)は、OLを辞めてから金を作るために売春に手を染め、今はヤクザの悪事を手伝わされていた。そんな2人が出会う。
恭一(きょういち)と行動を共にすることになった圭子(けいこ)の考え方は、恭一の考え方に間近で触れるうちに少しずつ変化していく。
自分の考えに自信が持てないからこそ、周囲の顔色をうかがって行動を選択し、その結果、誰からも必要とされなくなり、自分の存在価値が信じられなくなる。そんな圭子(けいこ)のような生き方をする人間は、自分の能力を知ってしまった20代中盤から後半の女性には意外と多く存在するのかもしれない。男女平等が叫ばれながらも、未だ、女性は男ほど簡単に一人で生きる決心などできないのだから、それも仕方がないことなのかもしれない。
自分に自信がなく、一人で生きていくことができないと思うからこそ、必死で相手のために尽くして見捨てられないようにする圭子(けいこ)の行動は痛々しくさえある。それでも、内なる変化を気づいたときに、圭子(けいこ)がかみ締める言葉の数々が妙に心に残る。

弱いのは恥じゃない。恐がって逃げることこそ、みっともない。
被害者面のままうずくまっているのは、気持ちがいいし、簡単だ。あたしは悪くない。運が悪かったのだ。取り巻きも悪かったのだ──そう思っているだけでいい。楽なやり方だ。でも、卑怯だ。

この言葉を聞かせてあげたい人が僕の交友関係のなかにも何人か思い浮かぶ、きっと世の中にはもっと多くの割合で存在する自分に自信が持てない人たち。そんなひとたちこそこの本を読めば何かがかわるかもしれない。もちろん僕自身にとってもいつまでも記憶に残しておきたい言葉である。
相変わらずの読みやすさとスピード感。そして、心に染み入るエピソードや台詞の数々。今や垣根涼介は大好きな作家の一人である。


参考サイト
犯罪人引渡し条約

【楽天ブックス】「クレイジーヘヴン 」

「千里眼 シンガポール・フライヤー」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
千里眼第2シリーズの第8作。「千里眼 美由紀の正体」で自分の過去を知った岬美由紀(みさきみゆき)は精神疾患に悩まされていた。そん中、世の中は新種の鳥インフルエンザの猛威に晒されていた。
本作品で岬美由紀(みさきみゆき)は今まで以上に人間味を出す。人の心を読めることで、人の悪意を瞬時に察しながらもそれを証明することができないために周囲に協力を求めることができない。そして、どんな人でも少なからず悪意を持っているため、目に入る全ての人の表情が気になる。そんな悪循環に悩まされる。

わたしには世の中が見えすぎた。知りたくないことまで知ってしまい、真実の重さを心が支えきれない。

例によって、多く現実の出来事を物語に盛り込んでいる。ルネサンス佐世保の猟銃発砲事件、富士スピードウェイで開催されたフォーミュラ1での交通問題。時事ネタが素早く取り込まれることが松岡圭祐の指示される理由だろう。
本作品では「クオリア」という言葉がキーワードになる。

クオリアとは、僕ら人間が何かに注意を向けたとき、そこに感じる独特な質感。たとえばビールののどごし、チョコレートの味わいの深さ。夜空に瞬く星の美しさ。

新種の鳥インフルエンザ、ヴェルガ・ウィルスの日本への拡大を防ごうとする美由紀(みゆき)と、クオリアを否定する組織「ノン=クオリア」が対峙することになる。

この世は物質がすべてじゃない。クオリアというものがあると、確かに信じているから

人間が生きる喜びを感じる多くの要素を説明しうるクオリア。しかし、成長過程によってはそれを理解できない人もいることを、理解できるからこそ物語の結末に興味を掻き立てられる。
小学館から発行されていた千里眼第1シリーズに比べて、この角川文庫の第2シリーズは物足りなさを覚えることが多かったのだが、本作品はそんな中でも心に残るものがあった。


ドリトル現象
動物や物がしゃべっているように感じる精神病。
不思議の国のアリス症候群
知覚された外界のものの大きさや自分の体の大きさが通常とは異なって感じられる主観的なイメージの変容した状態。(Wikipedia「不思議の国のアリス症候群」
スンガイ・ブロー
シンガポールの北西に位置するマングローブや渡り鳥を観察できる、自然保護区。
ポルフィリオ・ディアス
1876年から1911年までメキシコを支配した独裁者。(Wikipedia「ポルフィリオ・ディアス」
エビングハウスの忘却曲線
長期記憶の忘却を表す曲線である。心理学者のヘルマン・エビングハウスによって導かれた。(Wikipedia「忘却曲線」
参考サイト
Wikipedia「マリーの部屋」

【楽天ブックス】「千里眼 シンガポール・フライヤー(上) 」「千里眼 シンガポール・フライヤー(下) 」

「邂逅の森」熊谷達也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第131回直木賞受賞作品。
大正から昭和の始め。マタギという生き方をした松橋富治(まつはしとみじ)という男の人生を描く。
この時代を扱った物語に触れる機会が少ないためか、物語中の多くの出来事が新鮮に映った。なによりも富治(とみじ)とその仲間の猟の様子は非常に細かく描写されており、山や獣といった、現代ではないがしろにされているものに、多くの読者が関心を抱くだろう。
山の神の存在を心のそこから信じているわけではないが、山の神を怒らせるようなまねを敢えてしようとも思わない。急速に近代化へと進む時代の中で、富治(とみじゅじ)の考え方も少しずつ変化していった。ただ、それでも何か説明できない大きな力が働いているのだという思いは捨てきれない。そんな不思議な感覚は、現代に生きている人間の中にもあるのではないだろうか。
現代人が忘れてしまった大切なものの存在を訴えかけてくるような作品である。
【楽天ブックス】「邂逅の森 」

「震度0」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1995年1月、阪神大震災と同じとき、N県警で1人の警察幹部が失踪した。県警幹部達は各々、自分の地位や体裁を守るために、その対応に追われることになる。
本作品で描かれているのは警察のもっとも醜い一面だろう。本部長、刑務部長、刑事部長、N県警という地方警察で、権力をもった幹部達が各々、自分の経歴に傷をつけないため、今の地位を守るため、天下り先を確保するために、1人の警察幹部の失踪事件を操作しようとする。
時には利害の一致したほかの警察職員と協力し、「真実を追究する」という建て前をちらつかせて、相手の持っている情報を出させる。その一方で、情報を早めに仕入れては、都合の悪い事実を隠蔽しようとする。そこにはもはや正義も真実も大した意味を持たない。多少誇張されているのだろうが、これが警察の実態なのだろう。
それでも本作品を読みながら、そんな警察幹部達の目線で事件を見つめるうちに、地位やキャリアアップにこだわっている彼等の気持ちが理解できたような気がしてしまうからページをめくる手は加速するばかり。家族を養いながら警察という縦社会の中で生きてきた人間は、警察以外で生きる能力がないのだから立場にこだわるのは当然なのかもしれない。
そして、そんな彼等だが、元々は正義感が強いからこそ警察になった男たち。だからこそ、事実の隠蔽や虚偽の記者会見に強い良心の呵責を覚え、それがまた印象的なのだ。

見て見ぬふりをする人間にだけはなるな──。
昔からそうだった。人の心をいじくるのが好きだった。いじくり回して遊ぶのが楽しくてならなかった。だが──
とうとう、人の死までいじくった。

警察内部の権力闘争にページの大部分が費やされてはいるが、ラスト20,30ページで大きく動く。一人の人間の告白が、人間の感情の複雑さを再認識させてくれることだろう。人が人に対して抱く感情は一つではない。愛しみ、蔑み、憎しみ、羨み、敬い、・・時には多くの感情を複雑な割合で併せ持つ。この物語の中で一体いくつの感情が描かれていることだろう。
「ルパンの消息」「半落ち」と同様に、最後の数ページで一気に読者を納得させて読後の心地よさに導いてくれた。


博徒(ばくと)
(江戸〜明治までの)賭博を生業とする者、博打打ち。テキ屋とともに、ヤクザの源流とされる。(はてなダイアリー「博徒」

【楽天ブックス】「震度0 」

「曙光の街」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
お金もなくロシアの冬を過ごしていた元KGB諜報員ヴィクトルの元へ、昔の上司で今はロシアンマフィアとなったオギエンコが、日本のヤクザを一人殺してほしいという依頼をする。ヴィクトルは仕事のために日本へ渡り、また日本の公安もその情報をキャッチする。
物語中には3人の目線が用意されている。日本にやってきたヴィクトルと、日本の公安警察の倉島(くらしま)、そして、ターゲットとなるヤクザの下に就いている暴力団の兵藤(ひょうどう)である。
国のための諜報活動、プロ野球、3人はいずれも、かつては何かに本気で取り組んでいた男。それが時の流れとともに、惰性で生きるようになっていた。そんな彼らだが、ヴィクトルという男の生き方に触れることで、少しずつ「自分が求めていた何か」に気づいていく。
そしてその過程で日本とロシアが比較される。日本は不況と言えども飢えることなどない。不幸な生い立ちといえども生きていける。あらゆる面で日本という国で生きている人は甘えた考えを持っているということが繰り返し描写される。実際、ヴィクトルや、娼婦として日本に連れてこられたエレーナの生き方や過去は僕ら日本人の想像できる範囲をはるかに超えていて、逆にかっこよくすらある。
ヴィクトルも何度も日本の未来を嘆く。

平和な国だ。だが、自ら血を流して手に入れた平和ではない。生まれたときから与えられていた平和だ。そうした平和は人を腐らせる。危機感を失った国民。本当の危機がやってきたとき、対処する方法がなくてただ慌てふためくだけに違いない。

実際その通りなのだろう。この国は見栄さえ張らなければ何もしなくても生きていける国。そんな国に生きて危機感を常に持っているというほうが無理なのかもしれない。しかしそんなぬるま湯のような生活に浸っていても何か自分の内なるものを磨くような生き方は出来るはず。ヴィクトルと対峙した公安の倉島(くらしま)や暴力団の兵藤(ひょうどう)が見せた心の変化がそのためのヒントなのかもしれない。
【楽天ブックス】「曙光の街 」

「TVJ」五十嵐貴久

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
お台場にあるテレビ局が生放送中に武装集団によって占拠された。経理部に勤める女性社員の岡本由紀子(おかもとゆきこ)も事件に巻き込まれるが、恋人を救うために行動を起こす。
「女性版ダイハード」とか「女性版ホワイトアウト」と聞いていた本作品だが、感想はというとどちらとも言えない新しい物語という印象。なぜなら、ダイハードのブルースウィルスもホワイトアウトの織田裕二も賢かったのだが、本作品のヒロイン、由紀子(ゆきこ)は時々賢そうな素振りを見せることはあっても、プラスチック爆弾どころかパソコンも操作できないどこにでもいそうな無知な女性なのだ。
本作品は最初に由紀子(ゆきこ)の結婚願望から始まる。

あの頃までは、本当に心からお祝いが言えたと思う。幸せになってね、と祈ることが出来た。ちょっと待ってよ、と思うようになったのは、次の年の六月から秋にかけていきなり四人の友達が結婚した時だ。

これで多くの読者が彼女の味方になってしまったのだろう。相変わらず五十嵐貴久の読者を一気に物語に引き込む技術には感心するばかりである。
また、犯人グループの警察を欺くその手口も本作品の大きな魅力の一つである。五十嵐貴久作品に触れたのはこれで4回目だが、この著者の作品にハズレはないと感じた。


参考サイト
金嬉老事件

【楽天ブックス】「TVJ」

「孤狼 刑事・鳴沢了」堂場瞬一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1人の刑事が自殺し、1人の刑事が失踪した。鳴沢了(なるさわりょう)と今敬一郎(こんけいいちろう)は失踪した刑事を探すことを命じられる。
今回、「寝不足書店人続出?」というキャッチの帯に魅せられ、こうやって「刑事・鳴沢了シリーズ」を初めて手に取った。しかし、本作品中の事件が原因か、それとも、堂場瞬一(どうばしゅんいち)という作家の個性なのか、とりたてて物語にスピード感が感じられなかった。むしろ地道な捜査を続けて真実に少しずつ近づいていくという印象を受けた。
鳴沢了(なるさわりょう)という刑事にもそれほどの魅力は感じなかった。むしろ、昔の相棒とされる小野寺冴(おのでらさえ)という元女性刑事に魅力を感じたのは、単に自分が男だからだろうか。
物語の中でいくつか警察内部の派閥が出てくる。派閥に属して自分の派閥の人間をトップに推すからこそ、警察内部で安心して仕事に取り組むことができるという考えを持つ刑事と、派閥などくだらないと考える鳴沢(なるさわ)や今(こん)。もちろんそこに明確な答えなどなく、著者も鳴沢(なるさわ)も「こうあるべき」と考えを読者に押し付けないところに、好感が持てた。
そして、終盤の鳴沢(なるさわ)のように「今の自分の行動は正しいのか」と葛藤する姿は、読者に共感を与えるために必須な人間味であり、この辺が「刑事・鳴沢了シリーズ」の魅力の一つなのではないだろうか。
今回、刑事・鳴沢了シリーズに初めて触れたのだが、どうやら本作品はシリーズの中では4作目であり、中途半端なところから読み始めてしまったようだ。物語中の会話などから推し量ると、本作品の前の3冊にも大きな動きがあったのだろう。機会があったらそちらも読んでみたい。ただ、本作品に限っていえば「寝不足書店人続出?」というのは褒めすぎだろう。
【楽天ブックス】「孤狼 刑事・鳴沢了」

「夏の名残りの薔薇」恩田陸

オススメ度 ★☆☆☆☆ 1/5
山奥のホテルで毎年開催されるパーティ。毎回同じメンバーが招待されて、食事時には不思議な話が語られる。そんなホテルで宿泊者達が織り成す物語を描いた作品。
残念ながら理解できない作品だった。死んだはずの人がその後なんの説明もなく普通に生きていたり、と。物語中でたびたび引用される太字で書かれた文章も最後まで理解できなかった。恩田陸という作家がしばしがこういう手法に走ることは知っているし、「ライオンハート」や「三月は深き紅の淵を」もその類の作品で僕にはさっぱり理解できなかったのだが、今回も同様にさっぱりだった。
ひょっとしたらミステリーを読み漁っている人には何か著者とシンクロする部分があるのだろうか。それがないのであれば著者の自己満足にすぎないと思うのだが、こういう作品に対してあたかも「自分にはわかった」的なことを言い出す評論家がいそうな気がする。そして「あれが理解できる人が本当のミステリーファン」とか。僕に言わせればそれは著者を甘やかしているに過ぎないと思うのだが、とりあえず理解できた人がいるなら説明をして欲しい、というのが正直な感想。
きっと僕のような理系人間には好かれない作品なのではないだろうか。


コケティッシュ
なまめかしい、あだっぽいの意味で女性の粋な美しさや魅力を表現することば

【楽天ブックス】「夏の名残りの薔薇」

「イントゥルーダー」高嶋哲夫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
コンピュータ開発のスペシャリストである羽嶋浩司(はしまこうじ)は、ある日、数年前に別れた女性から松永慎二(まつながしんじ)という自分の知らない息子の存在を告げられる。しかもその息子はひき逃げにあって生死の境を彷徨っているという。会話さえしたことのな息子は一体事故の直前に何をしていたのだろう。
著者の高島哲夫の別の作品である「原発占拠」と同様に、この作品でも原子力発電所という人類のエネルギー減でありながら危険性のある施設をテーマにしている。主人公である羽嶋浩司(はしまこうじ)が一流のエンジニアであるため、原発に肯定的な考え方を持つ。しかし、物語中では「完璧なものなどありえない」という、科学への過信を警戒するような意見が散りばめられているから。「では最終的に物語はどこに落ち着くのか」と読者の興味を喚起するのだろう。

科学でなんでもわかるのはけっこうだが、それがどうしたと言いたいね。冬は寒い、夏は暑い。昔からそうだった。それに反して、冬でも夏でも同じように暮らそうとするから無理が生まれるんだ。
絶対に安全でなければならない。百パーセントの安全性。そんな技術は存在しない。だから原発には反対すべきなんだ。

新しい事実を知るにつれて少しずつ羽嶋(はしま)の心の中で形を成して息子・慎二の人間性。それは少しずつ羽嶋(はしま)の内面にも変化が起こす。

部長の優しさは、相手をいたわるのではなく、能力のない者をあわれむ優しさでした。それって、百倍も傷つくってことご存知でしたか

高島哲夫らしく、映像が浮かんでくるようなスピード感あふれる物語展開は本作品でも健在。ただ、後半はやや二転三転させすぎた感がある。あまりにも物語をもてあそび過ぎると真実味が薄れ、「つくられた話」感が強調されてしまうという印象を受けた。
高島哲夫は本作品でも一貫して一つの立場を取っている。技術は人類を幸せにするもので破壊するものではない。チェルノブイリなどのような出来事は、利益に走った権力者やうぬぼれた科学者の心が招くものだ。そういう考え方である。
原発に対して僕自身は否定の立場も肯定の立場も取っていないが、原子力発電によって電力を供給しておいて、「ほら、あなた方が使うから原発は必要なんだ」と訴えるのはいかがなものかと思う。僕らがそのエネルギーを利用しているのは、原発が必要だという意思の現われではなく、単にそこにエネルギーがあるからなのだ。本当に原発の是非を問うには国民投票を行う以外にないのだろう。
【楽天ブックス】「イントゥルーダー」