とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

世界を知る

世界の大きな流れを知りたい人向け

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「水の時計」初野晴

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
暴走族の幹部だった高村昴(たかむらすばる)は、暴行事件の罪を逃れる代わりに脳死状態の少女の臓器を、それを必要としている人に運ぶ役目を受ける。
物語は6章で構成されている。章ごとに視点が異なり、最初と最後はそれぞれ昴(すばる)視点で展開する。昴(すばる)視点に立った展開では、彼の言動からは、世の中に絶望して周囲に当り散らす、礼儀も知らない若者にしか感じられなかったが、章を追って、視点がその周囲の人間に移るにつれて、昴(すばる)の悲しい過去や、辛く強い生き方が見えてくる。
物語は一章で、昴(すばる)が脳死状態の少女と対面することで大きく動き出す。脳死判定、臓器移植法、未だ日本の中では結論を見ない問題に本作品も踏み込んでいく。
そして第二章から視点は臓器を必要としている人、不公平な病気に苦しんでいる人に移る。不明熱、白血病、すい臓がん、そして、そんな不公平な不幸から逃れたいという思いにつけこむ悪意ある人間達。人の気持ちや葛藤、社会問題をバランスよく織り込みながら物語は展開していく。
物語が進むにつれ、昴(すばる)の過去が見えてくる。自分ではどうしようもできない社会の偏見という壁に未来を阻まれ、それでも自分には誠実に生きようとする姿。強くなりたくて強くなったのではなく、彼が生きるためには強くならなければならなかったのだ。

あのときの彼は、いったい誰に相談したらいい?お金がないと、どうして口にできよう?世間の不運にくじけず二本の足で立ってきたプライドはあるのだ。どんなにつまらないプライドでも、それがあるからこそくじけずにいられたのだ。

そしてそんなテーマをさらに掘り下げるのが、脳死状態の少女、葉月(はづき)の存在である。

もしこの世に神様がいるとしたら、人間が作り出したあんな理不尽な死の形をきっと嘆くだろう。死に続けるという矛盾。ピリオドが訪れない死。自然の摂理から外れてしまった死。

昴(すばる)の絶望的で悲しい世間に対する視線。こんな人間の気持ちさえも理解できる人間になりたいものだ。社会問題や死生観について改めて考えさせられただけでなく、人々の織り成すドラマにもたっぷり涙させてもらった。


竹内基準
脳死の判定基準。
糸球体
腎臓内に存在し、血液内の有形成分とタンパク質をろ過し、原尿を生成する器官。(Weblio「糸球体とは」
ケルト神話
アイルランド、ウェールズのケルト人に伝わる神話群。(Wikipedia「ケルト神話」
レストレスレッグ症候群
身体末端の不快感や痛みによって特徴づけられた慢性的な病態。(Wikipedia「むずむず脚症候群」

【楽天ブックス】「水の時計」

「オーデュポンの祈り」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
コンビニ強盗を試みて逃亡の身となった伊藤(いとう)は小さな島に辿り着いた。そこは少し変わった人々と言葉を喋るカカシがいた。帰ろうとしても逃亡生活が待っている伊藤(いとう)はしばらくこの島で生活することにした。
序盤から伊坂ワールド全快である。どこかで伊坂幸太郎を小説界のシュールレアリストと称していたがまさにその言葉のとおり現実感の薄い物語。前々から伊坂幸太郎の紡ぐ物語と僕の読書に対して求めているものとのギャップは感じていたのだが、先日たまたま手に取った「魔王」が思いのほか良く、再び彼の作品を読んでみようとおもっての本作品だったのだが、ページをめくる手は遅くなるばかり。
物語はその見知らぬ不思議な島で展開していく。1人(?)のカカシの言葉を信じて島から出ようとしない人々の言葉は、時に人々が忘れかけている幸せの形や、しばしばフィルターを通してみている真実を、端的にあらわしている。
個人的に印象的だったのは、生まれながらに足の不自由な人間を見ながら、島のペンキ塗りが言う言葉。

あいつを見るといつも思う。俺はまだマシだって。俺は普通に歩けている。あの男が、奇跡でも起きないかと祈っている願いが、俺にはすでにかなっている。

伊藤(いとう)が島に着てから少しずつ起こる変化。そして島に伝わる言い伝え。

ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ

多くのものが足りないように感じられるにもかかわらず、あえて一つ挙げようとするとその答えがわからない。その答えを島の人々は、島の外から来た伊藤(いとう)に期待する。

人に価値などないでしょう。ただ、たんぽぽの花が咲くのに価値はなくても、あの花の無邪気な可愛らしさに変わりはありません。

印象的な言葉をいくつか得ることができたものの、全体として評価すれば、この長い布石が最終的な結末に対して必要だったのか疑問を感じてしまう。このあたりが感覚の違いなのだろう。また機会があったら別の作品も手にとってみたい。

支倉常長
江戸時代初期の仙台藩士。伊達政宗の家臣。慶長遣欧使節団を率いてヨーロッパまで渡航し、ローマでは貴族に列せられた。(Wikipedia「支倉常長」
リョコウバト
北アメリカ大陸東岸に棲息していたハト科の渡り鳥。鳥類史上最も多くの数がいたと言われたが、人間の乱獲によって20世紀初頭に絶滅した。(Wikipedia「リョコウバト」
ジョン・ジェームズ・オーデュポン
アメリカ合衆国の画家・鳥類研究家。(Wikipedia「オーデュポン」

【楽天ブックス】「オーデュポンの祈り」

「白夜街道」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁公安部の倉島(くらしま)警部補は、元KGB所属のロシア人ヴィクトルが日本に入国したという情報を得る。
物語は「曙光の街」の5年後という設定である。「曙光の街」のエピソードの中で、ヴィクトルの強さを肌で感じ、平和に見える日本の中でも、裏では命をかけたやりとりがあり、だからこそ公安という仕事の必要性を肌で感じた倉島(くらしま)が、5年を経て成長した姿を本作品で見ることができる。
本作品でも物語の視点は主に、ヴィクトルと倉島(くらしま)で展開していく。前作では、日本を舞台にした闘いや本当の強さにあこがれる男達の人間物語であったが、本作品の半分近くがロシアでの物語りとなっていて、僕ら日本人にはあまりなじみのないロシアの文化や、その周辺国の歴史を中心に進められているため、ロシア、中央アジアの歴史、文化などに興味をかきたてられる作品に仕上がっている。
ヴィクトルと倉島(くらしま)、お互い多くの人間と同じように、自分の良心に背かないように生きていこうとしながらも、その生まれ育った国や文化が異なるために異なる考え方をするその人生の差と、その2人が合間見えて何かを感じ合う展開がこのシリーズの魅力なのだろう。
そしてロシアと日本を比較することで、日本にある安全がかならずしも永遠に続くものではない、言い換えるならいつ終わってもおかしくない貴重なものであることを訴えてくる。

すべての人々は平和で安全な日常の中で暮らす権利がある。だが、その日常は実に危ういバランスの上に成り立っていることを、倉島はすでに知ってしまった。

ただ、前作を読んでない読者にはやや理解しにくいのかもしれない。


バラ革命
2003年にグルジアで起こった、エドゥアルド・シェワルナゼを大統領辞任に追い込んだ暴力を伴わない革命。(Wikipedia「バラ革命」
オレンジ革命
2004年ウクライナ大統領選挙の結果に対しての抗議運動と、それに関する政治運動などの一連の事件の事。(Wikipedia「オレンジ革命」
ペチカ
ロシアで普通のスタイルの暖炉を想定しつつその全般を指す。日本では、特にロシア式暖炉のことをいう。(Wikipedia「ペチカ」

【楽天ブックス】「白夜街道」

「TENGU」柴田哲孝

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第9回大藪春彦賞受賞作品。
死を目前にした元警察職員の依頼によって、ジャーナリストの道平(みちひら)は、26年前に群馬県沼田市の村で起きた連続殺人事件に再び向き合うこととなる。天狗の仕業とされたその事件の真犯人は誰だったのか、そして、何かを知っていたはずの目の見えない美しい女性はどこへいったのか。

舞台となる沼田市は、天狗の伝説が伝わる村。だからこそ常に天狗の影が背後にちらつく。

本作品中では26年の時を隔てた物語が交互に展開していく。事件当時、まだ新聞記者の駆け出しだった道平(みちひら)が取材の中で遭遇した出来事の回想シーンと、現代の再び事件の真相を突き止めようとするシーンである。回想シーンでは、現場に残された凄惨な死体と大きな手形。人間がたどり着くことのできない場所に放置された死体によって、何か未知の生物の存在を感じさせると共に、ベトナム戦争末期という時代背景も手伝って、大きな陰謀の気配さえも漂う。ゴリラやオランウータンのような獣の仕業なのか、アメリカがベトナム戦争のために遺伝子操作で作り出した兵器なのか。枯葉剤によって生まれた奇形児なのか。それとも本当にそれは天狗の仕業なのか…。

現代の真実に少しずつ近づいていく様子ももちろん面白いが、回想シーンの中の展開についても先が気になって仕方がない。そして、そんな凄惨な物語に彩りを添えているのは、その村に住んでいた目の見えない美しい女性、彩恵子(さえこ)の存在である。

マタギなどの日本の伝統的な習慣から、ベトナム戦争、遺伝子操作やDNAなどの最先端の生物学から人類学まで、物語の及ぶ範囲は実に広く、それでいてじれったさを感じさせない。そして極めつけのラストでは多くのものを改めて考えさせてくれる。人間の尊厳とは何なのか、社会の倫理とは、人権とは…。

もしこの世に神が存在するとするならば、なぜあれほどまでに過酷な運命を背負う者を作りたもうたのか。

そして僕らに問いかける。僕ら人間は世の中のすべてを知っているのか、多くの研究者達が説明した真実が、本当の真実なのか…。

イリオモテヤマネコは先進国日本のあれほど小さな島で、あの化石動物は1965年まで誰にも発見されることなく隠れ住んでいたんだ。

年末迫るこの時期。もう今年は鳥肌が立つような本には出会えないと思っていたが、このタイミングでいい読書をさせてもらった。

シャム双生児
体が結合している双生児のこと。(Wikipedia「結合双生児」
モルグ
死体置き場という意味。
参考サイト
Wikipedia「イリオモテヤマネコ」

【楽天ブックス】「TENGU」

「シャイロックの子供たち」池井戸潤

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
都内の銀行の支店で起こるできごとを描いた物語。
他の池井戸潤の作品と同様に本作品も銀行を舞台としている。本作品は短編集の形を取っているが、各章でそれぞれ別の行員の視点から眺めているだけで、全体として物語はつながっている。支店長になるために部下に檄を飛ばす副支店長、良心に従うために上司に反抗する若手行員。支店の稼ぎ頭など、銀行という閉鎖的な世界で生きる人々を描く。
10章で構成されているため10人の銀行員の視点で描かれる。それぞれが銀行というシステムの中、それぞれの価値観で生きている。他人から見ればそれは、「悪」だったり「見栄」だったり、「嘘」だったりしても、本人にはそこにしがみつかなければいけない理由があるのだ。それぞれの生き方について「こんな生き方、考え方もあるのか・・・」とその存在を肯定的に受け入れることができれば本作品を読む意味は大きいだろう。

銀行という職場では上司に逆らったら負けだ。

本作品と同様に「銀行を中心とした、多くの人間物語が作品を通じて感じられたらいい」そう思っていて、それ以上の期待をしていたわけではないのだが、本作品は少し予想を裏切ってくれた。物語を読み進めるうちに全体を包みこんでい不穏な空気に、次第に飲み込まれていってしまった。

君たちのおかげで、少なくともこの家にいるとき、ぼくはずっと幸せでした。

シャイロック
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に登場する人物。悪辣、非道、強欲なユダヤ人の金貸し。

【楽天ブックス】「シャイロックの子供たち 」

「クーデター」楡周平

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本海の北朝鮮領海付近でロシア船が爆発炎上したのとときを同じくして、正体不明の武装集団が能登で警察車両を銃撃した。戦場カメラマンの雅彦(まさひこ)とその恋人でジャーナリストの由紀は、真実を知るため、そしてそれを伝えるために現場へ急行する。
まず最初に思ったのは、これは過去読んだ楡周平作品とはやや異なるということである。たとえば「フェイク」「再生巨流」などは、会話が多く、とにかく読みやすく、それによって物語の中に一気に引き込まれる作品であったのだが、本作品の序盤には、ややじれったささえ感じるほどに、兵器などの緻密な描写が続き、さらに視点も多くの登場人物の間で移り変わっていた。しかし、逆にそれが、全体的にこれから何かが起こるという不穏な空気を感じさせていったのだと思う。(もちろんそれは「クーデター」ということはタイトルからも想像がつくのだが。)。
序盤は潜水艦が登場することもあって、そのめまぐるしく変わる視点や自らの死を察する瞬間の兵士たちの描写は福井晴敏の「終戦のローレライ」を思い起こさせる。そしてテーマに関しても平和な国で生きているがゆえに、自分の身を守ることに危機管理能力のない人々として日本人は描かれていて、これまた福井晴敏の「亡国のイージス」を連想してしまった。
また、メディアが人々に与える影響の大きさや、伝えるべきことと、視聴者が求めるもののギャップ。メディアも視聴率あってのものだけに、抱く現場の人間達の葛藤。このあたりは真山仁の「虚像の砦」や、野沢尚の「破線のマリス」「砦なき者」などと通じるものがある。
そして楡周平は、クーデターを物語の中とはいえ起こすことで、現在の自衛隊の無能さ、そして自衛隊を役に立たないものとした、政治家達の無能さを真実味を帯びた形で読者に見せてくれる。

「それでは突発的な侵略行為があった場合にはどうするのだ。敵が攻めてきてから弾を作り始めたって間に合うわけがないだろうが。一体全体こんな馬鹿げたシステムを作り上げたのはどこのどいつだ!」
(他ならぬお前達政治家じゃないか。)

多くの要素や矛盾、葛藤など、僕が好むあらゆるものが取り入れられている気がするが、残念なのは、最後の結末への流れだろうか。ここまで盛り上げたのだから最後はそれ相応の結末を用意して欲しかったというのが正直な感想である。


略最低低潮面(ほぼさいていていちょうめん)
これより低くはならないと想定されるおよその潮位である。海図に示される水深は、この略最低低潮面を基準面としている。また、領海や排他的経済水域は、潮位が略最低低潮面にあるときの海岸線を基線とする。(Wikipedia「略最低低潮面」
領海
沿岸国の基線(潮位が略最低低潮面であるときに表される海岸線)から最大12海里までの水域。(Wikipedia「領海」
排他的経済水域
国連海洋法条約に基づいて設定される経済的な主権がおよぶ水域のことを指す。沿岸国は国連海洋法条約に基づいた国内法を制定することで自国の沿岸から200海里(約370km<1海里=1852m>)の範囲内の水産資源および鉱物資源などの非生物資源の探査と開発に関する権利を得られる。その代わりに、資源の管理や海洋汚染防止の義務を負う。(Wikipedia「排他的経済水域」
ホーカーシドレーハリアー
イギリスのホーカー・シドレー社が開発した世界初の実用垂直離着陸機。(Wikipedia「ホーカーシドレーハリアー」
プエブロ号事件
1968年にアメリカ合衆国の情報収集艦が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に拿捕された事件。(Wikipedia「プエブロ号事件」
マーシャラー
空港や軍用飛行場、航空母艦などで両手に持った黄色のパドルまたはライトスティックを使い、着陸した航空機を駐機場(スポット)やハンガーに誘導(マーシャリング、marshalling)する専門職のこと。(Wikipedia「マーシャラー」

【楽天ブックス】「クーデター」

「凍りのくじら」辻村深月

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生の理帆子(りほこ)は、失踪した父を持ち、病気で入院している母の見舞いに病院へ通い続ける。そしてある日、図書館で一人の青年と出会う。
幼い頃から読書が好きだった理帆子(りほこ)は、周囲と自分との温度差を感じながら生きている。そして、そう意識するからこそさらに周囲に溶け込めない自分を感じる。それでも周囲の雰囲気を乱すようなことはせずに、自分の求められる役割を演じることに努める。

自分が一人「違う」ことはこの場所では絶対に伏せる。彼らにわからない言葉や熟語は使わないし、必要以上に自分の意見も言わない。意見や感想っていうのは、それを受け止めることができる頭を持ってる人間相手じゃなければ、上滑りをして不快なだけだ。

そして、心の奥では場を楽しめない自分を感じながらも、自分なりの退屈しのぎに周囲の人間を観察してはSFの言葉を当てはめている。友人は「少し不安」「少し憤慨」、母親は「少し不幸」、そして理帆子(りほこ)自身は「少し不在」。
そうやって自分の居場所のないことを認識しながら、自分を含めて客観的に世の中を見つめるからこそ、その人間関係は次第に手遅れなほどいびつになっていく。そんんな、理帆子(りほこ)の招いた不幸によって、徐々に周囲にあるもの、あったものの大切さに気付いていく。

女のストーカーは相手に対する曲がった愛情によってそうなる。そして、男のストーカーというのは、自尊心の高さによってそうなる。

本作品で特徴的なのは、国民的なアニメであるドラえもんの道具やエピソードを物語に取り入れている点だろう。「先取り約束機」、「悪魔のパスポート」、「かわいそメダル」…、たびたび引用されるドラえもんの道具の数々、思わず「そんな道具もあったな」と懐かしさにまたドラえもんを読み直したくなってしまうだろう。

僕らはラブストーリーもSFも、一番最初は全部「ドラえもん」からなんだろう。大事なことは全部そこで教わった。

今まで読んだ二作品「冷たい校舎の時は止まる」「子どもたちは夜と遊ぶ」とはやや趣の違ったややゆっくりした展開。スリルやスピード感より、りほこのまわりを流れる「今」、今はいない父との思い出、という静かに存在する何かに重きを置いているように感じた。
主人公である理帆子(りほこ)から、視点を最後まで別の人間に移さない点も、他の辻村作品とは異なる点だろう。個人的には、この著者の、怖いほどにリアルに描き出してしまう心情描写が好きなだけに、もっと多くの登場人物へ目線を移して、各々にの気持ちやその結果として起こす行動までの過程を仔細に描いてほしかったと感じた。(本作品は設定上無理だったのかもしれないが)。
辻村作品らしく、終盤には心地の良い衝撃が待っていたが、それでも期待値が高いだけに、物足りなさを感じてしまった。
そういえば我が家のドラえもんのコミックはどこにいったのだろう。
【楽天ブックス】「凍りのくじら」

「ホームタウン」小路幸也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
親が殺人者という過去を背負って生きている行島柾人(ゆきしままさと)は、札幌の百貨店の特別室に勤務していた。そこへ、結婚をひかえた妹の木実(きみ)が失踪したという知らせを受ける。
失踪した木実(きみ)を、その特異な人間関係を活かして探そうとする様子は多少の個性は感じられるとはいえ、辛い過去を背負って生きているがゆえの展開や心情描写などはほとんど見られず、謎解きの物語として終始してしまう。
本人ではなく、肉親に殺人者がいるがゆえに、本人ではどうしようもない理不尽な社会の目や罪悪感に悩まされるという本作品の状況は、殺人事件の被害者の娘と加害者の娘が知り合うという設定の野沢尚の「深紅」を思い出させてくれたが、本作品の物語展開からは、主人公たちが背負ったそのような不幸な過去など必要ないのではないかと思えるほど、物語展開と過去の関連の薄さを感じてしまった。
それでもそんな中印象に残った言葉もある。

子供の頃は、自分が知らない世界のドアばかりが目の前にあるんだ。開いても開いてもどんどんそのドアは現われる。開けば開くほど楽しくて・・・どんどん走って進んでいくんだ。でも、大人になるってことは、そのドアを閉めることを覚えるってことだ。あるいは開けるを知っているのに、目の前にあるのに開けないで引き返すことを覚えるということ

【楽天ブックス】「ホームタウン 」

「脳内出血」霧村悠康

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
東京近郊のホテルで女性の変死体が発見される。同じころ有名科学誌に掲載された若手の研究者の論文に捏造疑惑が持ち上がっていた。
物語の多くは、論文の捏造疑惑を巡って、医師や教授たちのやりとりを中心とした部分と、身元不明の変死体の謎を追う刑事達を中心とした部分で構成されている。
刑事達が真相に迫っていく展開は、よくある刑事物語と比較して特に新しいなにかがあるわけではないが、その一方で、論文をめぐる展開の部分では、このまま生きていれば決して知ることのないはずの、科学の矛盾や、研究者達の葛藤などが新鮮である。

上質の研究、発明や発見は、質に相応した科学誌に掲載されるべきであった。しかし、同質の論文であれば、そこに人間の感情が働くことも現実で、審査員の個人的感情から論文が却下されることも少なからず発生している。

しかし、物語の結論は満足のいくものだったかというと残念ながらそうでもない。むしろ、事件の解決は、研究室内部の様子のおまけのような印象を受けるぐらい安っぽさと物足りなさを感じてしまった。
【楽天ブックス】「脳内出血 」

「ファイナルシーカー レスキューウィングス」小川一水

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
レスキューの最高峰、航空自衛隊の救難飛行隊に所属する高巣英治(たかすえいじ)を描く。
本作品が一般的な人間物語と異なる点はやはり、英治(えいじ)の小学生時代に肩にとり憑いた少女の幽霊である。英治(えいじ)はその幽霊の力があるからこそ、救難飛行隊で遭難者の発見に誰よりも貢献できるが、それゆえに、他の隊員たちのように命を懸けていないという罪悪感や、自分の実力で今の地位を手にしたわけではないという満たされない達成感に悩むのである。
そんな英治(えいじ)と仲間達が悪戦苦闘する姿を描いた展開自体はもちろん魅力的だが、物語中で言及される自衛隊員としての自覚とその矛盾に対する葛藤が面白い。

自衛隊は救助システムとしか見なされない。システムだから壊れていれば咎められ、正常に作動すれば忘れられる。

また、遭難者と隊員を比較したときに明らかに隊員のほうが世の中のためになる存在だと誰もが認識しながも、自分勝手な行動から遭難した人々のために命をかけなければならないという葛藤も面白い。
いくらでも続編が作れそうだし、それを期待してしまうような作品であった。また、近いうちに「空へ 〜救いの翼」として映画化されるということだが、きっといい作品になるだろう。
【楽天ブックス】「レスキューウィングス ファイナルシーカー」

「魔王」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
安藤(あんどう)はあるとき、自分が念じれば他人を自分の思ったとおりの台詞を喋らせることができることに気付く。そして、同じころ一人の政治家が世の中を騒がしていた。
物語は二部で構成されている。前半は安藤(あんどう)目線に立った展開で、後半はその5年後、安藤(あんどう)の弟の恋人である詩織(しおり)目線で描かれている。
今まで、「重力ピエロ」「グラスホッパー」という2作品に触れて、正直、この著者、伊坂幸太郎の作品は自分とは合わないのだと思っていた。「良い」とか「悪い」ではなく、多くの鍵穴にしっかり合致するマスターキーが自分の心の鍵穴にだけは合わないような、そんな感覚であった。しかし、今回は届いてきた。なんかじわじわ伝わってきた。
他の作品同様、本作品も、物語の本筋と関係あるんだかないんだかいまいちはっきりしないエピソードや台詞で構成されいている。憲法第九条や自衛隊など、少しだけ現実の社会問題を含んでいるように感じられるそれらのエピソードを読みすすめるうちに、なんかいろいろ考えてしまうだろう。

馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ。

だからつい僕もいろいろ考えてしまった。
人間が争うのはなんでだろう。
人間が物事を深く考えるからだろうか。
それとも、人間が物事を深く考えないからだろうか。
【楽天ブックス】「魔王 」

「ロンリー・ハート」久間十義

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松島早紀(まつしまさき)巡査部長とその上司の永倉(ながくら)警部補の所属する所轄警察署は、拉致事件と中国人によるキャバクラ強盗事件を扱っていたる。その一方で、落ちこぼれの高校生3人組みは日々の鬱憤をナンパなどで晴らしていた。
高校生三人組の生活と、警察の捜査を交互に見せることで、いつかこの2つの物語が重なっていくのだろうという期待を持たせる。そして、高校生三人組の目線でも、他の二人の行き過ぎた悪さに戸惑う博史(ひろし)、自分を他の二人のおろかな行為の尻拭いをしなければならない被害者としか思わない、亮(あきら)など常に目線は移り変わり、一見自分勝手にしか見えない人間にもそれぞれポリシーがあり言い分があるのだということを認識させられる。
そして、捜査の忙しさによって家庭のケアに時間を割けない永倉(ながくら)とその高校生の娘、絢子(あやこ)のやりとりも重要な要素となっていく。そして、キャバクラ強盗事件から、中国人組織と、日本国内における、中国人、日本の暴力団、警察組織の駆け引きにも触れられている。
そんな捜査の過程で刑事達は嘆く…

オレたちが若いときは犯罪は貧困から始まると教えられた。貧乏と差別。それに当てはまらないものは、犯罪以前の”異常”の範疇だったんだ。それがどうだ。いまはぜんぶが”異常”だよ。

終盤の、目の前で起こる出来事に戸惑い暴走する少年と、恐怖によって判断力を失った少女の行動を共にするシーンは個人的にはもっとも印象に残っている部分である。前半の展開の遅さにはややストレスを感じたが、後半は十分によみごたえがあった。
ただ、個人的には、松島(まつしま)巡査部長の女性被害者を守る立場と、犯人を逮捕したいという気持ちや、女性蔑視がはびこる警察組織内ゆえの葛藤をもっと表現して欲しかったと感じる。


ユトリロ
近代のフランスの画家。(Wikipedia「ユトリロ」
ニール・セダカ
アメリカ合衆国のポピュラー音楽の シンガーソングライター。森口博子のデビュー曲でもある「機動戦士Ζガンダム」のテーマ曲「水の星へ愛をこめて」などを作曲。(Wikipedia「ニール・セダカ」
ポール・アンカ
カナダ出身のポピュラー・シンガーソングライター。(Wikipedia「ポール・アンカ」

【楽天ブックス】「ロンリー・ハート(上)」「ロンリー・ハート(下)」

「私という運命について」白石一文

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
以前から名作とは聞いていたが、そのタイトルから「人生を考えさせよう」という意図が見えるような説教臭い物語をイメージを抱いていたことも確かだ。しかし、実際読み始めてみると、描かれているのは、やや勝気ではありながらも一生懸命生きている自分と同年代の女性、亜紀(あき)の生活である。

亜紀(あき)は仕事や恋に悩み、理想と現実との間のギャップに違和感を覚えながら生きている。20代後半という年齢ゆえに、周囲は結婚という道を選び、そして自分の目の前にもそういう運命の選択が訪れるにもかかわらず、違う何かを求めて踏み出せない。女性だけでなく、将来を悩むすべての人に共感できるのではないだろうか。

そして人生には多くの喜びや悲しみがある。亜紀(あき)の人生も例外ではない。親しい友人の恋愛や、弟の結婚、そして身近な人の死、時に、空気の読み方すら知らない不条理な運命が襲いかかってくる。そしてあまりに不条理だからこそ、「運命」と思わずにはいられない。「何か意味があるのではないか」と願わずにはいられない。

そして亜紀(あき)の周囲で起こる小さな偶然。それは30年、40年と生きていれば誰でも数回は目にするような偶然ではあるが、運命を信じる者にはその偶然は運命として受け止められる。死んだらどうなるんだろう?運命って信じる?誰でも一度は考えたことがある問いかけに対して、本作品もいくつか答えを提供している。

運命を信じるって、決して、あきらめたり我慢したりすることばかりじゃないでしょう?

恋人を失ったがゆえの答え。死を常に意識して生きてきたがゆえの答え。その考え方はみんな少しずつ異なるけれど、それでもみんな見えない何かの力を信じている。

運命というのは、たとえ瞬時に察知したとしても受け入れるだけでは足りず、めぐり合ったそれを我が手に掴み取り、必死の思いで守り通してこそ初めて自らのものとなるのだ。

一体、何度この作品の中に「運命」という言葉が出てきただろう。読む前に心配したような説教臭さは微塵もなく、読んでいるうちにいろんな考え方が僕の中に優しくしみこんでくる。読む人によっては人生のバイブルにさえなりかねない作品である。

ベルガモット
ミカン科の常緑低木樹の柑橘類。イタリア原産。(Wikipedia「ベルガモット」

【楽天ブックス】「私という運命について」

「サスツルギの亡霊」神山裕右

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カメラマンの矢島拓海(やじまたくみ)は一枚の絵葉書を受け取った。その差出人は2年前南極で死亡したはずの義理の兄だった。期を同じくして拓海は南極越冬隊への仕事の依頼を受ける。
この作品の魅力は、その舞台を南極という地に設定している点だろう。その土地自体がすでに僕らにとっては未知の土地であるし、常に雪に覆われている点や、時に太陽さえも昇らないその場所はそれだけで十分に魅力的な素材となっている。しかし、本作品の仔細な描写と通じて、その生活の様子を知ることによって、南極という地に対して、僕ら一般の人間がどれほど偏見と幻想を抱いているか知るだろう。

昭和基地には郵便局、水道局、歯科を含めた病院施設など、人間が生活に必要なあらゆるものがあるのに、警察と刑務所だけがない。

物語は、南極へ向かう航路から不可解な事件が起こり始め、次第に2年前の義理の兄の死亡の裏に隠された真実に迫っていく、という流れであるが、個人的にはミステリーや謎解きの色合いよりも、南極という地特有の厳しさや不思議。そして、少人数社会ゆえに起こる諍いや各人が感じる存在意義などに焦点を当てているように感じた。
とはいえ、物語展開としての面白さが欠けているというわけでもなく、特に、鍵となる登場人物の背景がしっかり描かれていることに好感が持てる。そして、もちろん南極で過ごし、少しずつ義理の兄の生きてきた足跡に触れることによって変化する拓海(たくみ)の心情も描いている。

美しい景色をフィルムの中に閉じこめ、永遠に自分の物にしたいと思って、今までカメラを握ってきた。だが、誰かに何かを伝えたくて写真を撮りたいと思ったのは、初めてのことだった。

南極という地特有の出来事を要所要所に小道具として盛り込んでいるため、ややイメージしにくい部分もあるが、本作品を通じて得られる知識や、歓喜された好奇心という点では十分に満足のいく作品である。


ルッカリー
ペンギンやアザラシが、みんなで集まって子育てをする場所。(Weblio「ルッカリー」
アデリーペンギン
中型のペンギン。南極大陸で繁殖するペンギンはこの種とコウテイペンギンのみである。(Wikipedia「アデリーペンギン」
サスツルギ
風が作る雪の模様こと。
タイドクラック
潮の干満により海氷が動いてできる割れ目。
インマルサット
国際移動衛星機構(International Mobile Satellite Organization)という名称の組織で、 4つの静止衛星を運用して船舶や地上のインマルサット端末へさまざまな通信サービスを提供いる。(Wikipedia「インマルサット」
太陽フレア
太陽の大気中に発生する爆発現象。(Wikipedia「太陽フレア」
デリンジャー現象
電離層に何らかの理由で異常が発生する事により起こる通信障害の事。(Wikipedia「デリンジャー現象」
参考サイト
南極観測のホームページ
南極-ANTARCTICA

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「千里眼 優しい悪魔」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
千里眼第2シリーズ第9作。スマトラ島自信で記憶を失った女性を治療するためにインドネシアに趣いた岬美由紀(みさきみゆき)はそこで、世界を操る闇の集団メフィスト・コンサルティング・グループのダビデと出会う。因縁の戦いが再び始まる。
例によって、時事ネタや、感心するような小話を随所に散りばめて展開しており、物語の面白さ以外にも楽しめる作品に仕上がっている。
本作品は、小学館の千里眼シリーズからたびたび登場するメフィスト・コンサルティング・グループのダビデと「千里眼 ファントム・クォーター」などで登場するジェニファーレイン、そして「千里眼 シンガポールフライヤー」で表に出てきた人の心を信じない集団、ノン=クオリアの間で繰り広げられる争いを描いており、角川文庫のシリーズの大きな区切りとなるような構成となっている。
中盤から利害が一致したことによってダビデと美由紀(みゆき)は行動を供にして、ジェニファーレインの悪事を阻もうと試みる。美由紀(みゆき)はいつのもとおりその正義感から、そして、ダビデは、かつての部下だったジェニファーレインを思ってか、仕事としてか…、今まで、そのおどけた表情の裏に隠されたダビデの本性だが、本作品ではダビデ目線で描かれるシーンもあり、過去のシリーズの流れとは少し違った空気を感じる取ることができるかもしれない。

きみが過食症の女性のカウンセリングをしているとき、地球の裏側では五人の子供が飢えによって死んでいる。

本作品では、登場人物だけでなく、過去の事件などが何度か引用される。僕自身この千里眼シリーズは小学館と角川文庫で10年近く、ほぼすべてを読んでいるが、それでもその引用される登場人物や事件の前後関係が思い出せない。このあたりに松岡圭祐のおごりを感じてしまう。
物語的にはやや物足りない印象も受けるが、今後の展開に対する期待を感じさせる作品である。

参考サイト
メフィストフェレス
ドイツにて民間に伝えられる悪魔。(Wikipedia「メフィストフェレス」
タリホー
アメリカ合衆国のメーカーであるU.Sプレイング・カード社によって製造されているトランプのひとつ。バイスクルと並ぶ同社の人気商品。(Wikipedia「タリホー」
マホガニー
センダン科の広葉樹で、古くから知られる世界的な銘木のひとつ。
参考サイト
エレベーターのキャンセル技

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「ミッキーマウスの憂鬱」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
夢を支える仕事がしたいという思いから、ディズニーランドでの勤務が決まった青年、後藤大輔(ごとうだいすけ)の職場での姿を描いている。
松岡圭祐の初期の作品ということで、ずいぶん前からタイトルだけは耳にしていたが、なかなか触れる機会がなく、今回ようやく書店で目に止まり読むことができた。
本作品はもちろん、ディズニーランドを扱った作品である。物語中にはたくさんのアトラクション名が出てくるため、ディズニーランドに何度も足を運んだことのある人には非常に楽しめる作品かもしれない。残念ながら僕は2度しか行ったことがないので、そのイメージが湧いたのは、シンデレラ城、カリブの海賊、ビッグサンダーマウンテンなどわずか数点で、ディズニーシーに話が及ぶとまったくイメージできない、という具合であった。とはいえ物語はディズニーランドの舞台裏もかなり詳細に描いているので、夢は夢のままでとっておきたかった、と後悔する人もいるのかもいれない。
物語中でも、夢の世界の舞台裏に入ったことで、現実を突き付けられ、失望する後藤(ごとう)の姿が描かれる。

夢のディズニーキャラクターを演じる者たちの葛藤。そんなものが存在するなんて、できることなら知りたくなかった。夢は夢のまま、そのほうがどれだけよかったかわからない。

それでもやがて後藤(ごとう)は、周囲の人に支えられて、夢を支える仕事に自分の存在意義を見出していく。
物語の過程で描かれる、キャストたちの着付けの様子や、来場者の夢を壊さないためにキャストに強いられるさまざまなルールに、ディズニーランドの成功の秘訣を見ることができる。
また、物語の中で描かれる複雑な人間関係や、そこで発生する諸問題によって、東京ディズニーランドという、世界で唯一ディズニーカンパニーが経営権を持たないディズニーランドという企業としての利害関係についても理解を深めることができるだろう。
夢の舞台の裏側を描いたという展では本作品を読む意義はあっても、物語としてはややありきたりな印象を受けた。

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「ストロベリーナイト」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
溜池近くの植え込みから発見された惨殺死体から、捜査一課の警部補、姫川玲子(ひめかわれいこ)はその遺体損壊の必要性に気づく。類まれなる勘によって真実に近づいていく玲子の前に現れた謎の言葉は「ストロベリーナイト」。
最近では特に珍しくもなくなったが、本作品も、事件解決へ向かうとともん、警察組織内の縄張り争いや、刑事同士の足の引っ張り合いなどもしっかり描いている。
何か過去のトラウマを抱えていると思われる玲子(れいこ)の言動、そして、次第に浮かび上がる死体遺棄事件の関連性。それでいて読みにくさを感じさせないテンポや思わず笑ってしまう喜劇タッチも随所にちりばめられている面白さにも事欠かない。

…死後の損壊は、なんのため?主に、死体損壊は、なんのため?
「れれ、れ、玲子ちゃん」
…死体損壊は、死体損壊は……。
「玲子ちゃん、ワシの、この気持ち、受け止めて……」
…死体損壊は、死体損壊は……。
「玲子ちゃん、抱いてェーッ」
「やかましいッ」

前半部分で期待値は絶頂に達するが、残念ながら後半はあっけないほどあっさり事件が解決。やや拍子抜けである。
本作品では玲子(れいこ)の真実を見抜く力は、犯罪者に近い嗜好回路ゆえと結ばれている。しかし、それならば読者にも、犯罪者が犯罪者に走らざるを得なかったと納得させるような、苦悩や葛藤の描き方をして欲しかった、というのが個人的な感想である。
とはいえ総合的に評価すれば、今までにない刑事物語という印象を受けた。徐々に明らかになる玲子の過去と刑事になるまべのいきさつのくだりは、少々出来すぎな感もあるが、全体的には新しい警察物語で、読んでも損にはならないだろう。


ネグレリアフォーレリ
正式名はフォーラー・ネグレリア。温かい淡水中で増殖し、鼻の粘膜から脳に侵入する。その後1日‐2週間のうちに急激に悪化する。脳組織を破壊する。日本では1996年に鳥栖市で発生した。
二号警備
警備業務の種類。
一号警備
事務所、住宅、興行場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
二号警備
人や車両の雑踏する場所またはこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し防止する業務
三号警備
運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務
四号警備
人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務
ロボトミー手術
前頭葉切断の手術。難治性の精神疾患患者に対して熱心に施術されたが、現在は精神疾患に対してロボトミーを行うことは禁止されている。

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「カディスの赤い星」逢坂剛

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第96回直木賞受賞作品。
1975年、楽器メーカーを得意先に持つPRマン漆田亮(うるしだりょう)はスペインから来日したギター製作家から、一人の男を捜すように依頼される。その調査はやがて独裁政権末期のスペインへと繋がっていく…。
以前より気になっていた逢坂剛(おうさかごう)という作家に触れるためとりあえず直木賞受賞作品から手に取った。
物語の舞台は日本とスペインに渡っているのだが、物語中では終始スペイン文化が溢れている。日本を舞台とした序盤では、メインとなる調査のほか、漆田の恋愛やPRマンという仕事の様子にも触れられていて、刑事物語と似た雰囲気を感じる。
一方舞台をスペインに移した後半では、独裁政権下のスペインの様子がよく描かれていて、冒険物のような絵がかれ方をしている。スペインというどちらかというとクールな印象を抱くヨーロッパの国が、実はわずか30数年前までヨーロッパ最後の独裁政権と呼ばれていたというのは新しい驚きであり、ヨーロッパ各国の時代背景をほとんど知らないことに気づかされる。
やや内容を詰めすぎた感は否めない。もう少しコンパクトにまとめられたのではないか、とも思うが、多くのスペインの都市の名前が挙がり、余裕があればGoogleストリートビューなどで町並を感じながら読むのもいいだろう。スペイン好きにはたまらない一冊かもしれない。


イサーク・アルベニス
スペインの作曲家・ピアニストであり、スペイン民族音楽の影響を受けたピアノ音楽の作曲で知られる。(Wikipedia「イサーク・アルベニス」
セヒージャ
カポタストのこと。
ソレア
苦悩や孤独を表現するフラメンコの代表的な歌のこと。(Wikipedia「フラメンコ」
種痘
天然痘の予防接種のこと。(Wikipedia「種痘」
ETA
バスク語で「バスク祖国と自由」を意味する言葉 Euskadi Ta Askatasuna を略したものであり、バスク地方の分離独立を目指す急進的な民族組織。(Wikipedia「ETA」
参考サイト
VentureView「「広報」と「広告」、その根本的な違いとは」

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「首都直下地震<震度7>」柘植久慶

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
タイトルのとおり、東京を震度7の直下型地震が襲う。鉄道や電力などがマヒした中、、登場人物が未曾有の大惨事を生き延びようとする姿が描かれている。
午後6時という一日の中でもっとも慌しくなる時間に起きた大地震によって会社員はオフィスに閉じ込められ、帰宅ラッシュの電車や地下鉄はパニックを起こす人や浸水した水などで大惨事になる。
大地震によって起こりうる可能性をすべて描きたいためか、休暇でディズニーランドに行っている者、地下鉄に乗り合わせている者、高層階で食事を取っている者など、実に多様な人物が登場する。しかし残念ながら格人物の背景を描かずにひたすら人数ばかり増したため、読者は混乱するばかりだろう。
地盤のゆるい地域の大惨事が何度も描かれている。そして、多くの人は、何年かに一度起こるか起こらないかの大地震よりも毎日の通勤の便と価格を優先する。残念ながら物語としての完成度は低く、大地震への警鐘を鳴らす以外の意義は感じられない。こうこの手の本を軽んじてしまうこと自体が、災害に対する意識の低さを象徴しているのかもしれない。
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「ハゲタカ」真山仁

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ニューヨークの投資ファンドの鷲津政彦(わしずまさひこ)は日本の企業を買収し再生させ、そこから利益をあげるスペシャリストであり、その企業再生の様子を描く。
鷲津(わしず)率いるチームは、法律やマスコミを巧みに利用して、銀行から不良債権化した債権を安値で買い取り、それを基に、その企業を再生していく。「ハゲタカ」と呼ばれる彼らのそんなビジネスは一見血も涙もない利益だけを追求した行為にも思えるが、本物語の中で印象に残ったのが、結局、社員や経営者の反感を招いてはその企業を再生させるための大きな障害になるから敵対的買収はしない、というスタンスである。
むしろ本作品の中では、会社を利用して私腹を肥やし、身を粉にして働く社員達さえも大切にしようとしない経営者達の怠慢さが強調されている。かれらの多くは経営が立ち行かなくなった理由を、貸しはがしや貸し渋りをした銀行のせいにして、自分たちの経営の責任を最後まで認識しない。

今や”真の勇気”を持った経営者も官僚も、そして政治家も存在しなかった。

倒産間際の会社の経営者に名を連ねながら、信じられないほど豪勢な社宅に住んでいる経営者達に、最後通牒を突きつける鷲津(わしず)の戦略は時に爽快ですらあり、それが本作品の魅力なのだろう。
ただ、個人的にはリゾートホテル経営の家系に生まれ、立ち行かなくなったホテルの再建に悩む松平貴子(まつだいらたかこ)や、友人からスーパーチェーンの再建を任された芝野(しばの)の奮闘する様子をもう少し描いて欲しかったと感じた。
物語はもちろんフィクションであるが、現実に存在する名をもじったであろうと思われる企業名が多々登場し、過去の経済界の大事件にも再び興味をそそられる。例を挙げるなら丸紅、ローソン、山一証券、ナビスコ、など、時間があれば過去の買収劇の舞台裏を調べてみたいものだ。企業の買収劇に関して僕らは紙面で数行の文字としてみるだけだが、実際には多くの駆け引きや利害関係、人間物語が詰まっているものだと改めて感じた。
とはいえ、全体的には企業買収の駆け引きに終始し、鷲津という感情移入のしずらい人間を主人公格にすえているせいか、物語としての楽しみはあまり見出せなかった。僕の経済に関する知識の乏しさゆえなのかもしれないが。


ブラッド・メルドー
アメリカのジャズミュージシャンピアノ奏者、作曲家。(Wikipedia「ブラッド・メルドー」
総量規制
1990年3月に当時の大蔵省から金融機関に対して行われた行政指導。大蔵省銀行局長通達「土地関連融資の抑制について」のうちの不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑えることをいう。バブル崩壊の一つの要因となった。(Wikipedia「総量規制」
ビル・エバンス
ジャズのピアニスト。(Wikipedia「ビル・エヴァンス」
タルムード
ユダヤ教を教えを記した書物。聖書の解釈なども記してある。

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