とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「当確への布石」高山聖史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
犯罪被害者救済の活動を続けてきて、自らも心に傷を持つ大原奈津子(おおはらなつこ)は衆議院統一補欠選挙への立候補を決める。その仲間達と当選するために奔走する姿を描く。
選挙の内側が見える作品である。多くの人がすでに認識しているとおり、有権者の心はきまぐれである。政策や候補者の人柄によって決まるのであれば日本はもっと過ごしやすい国になっているのかもしれない。
本作品でも奈津子(なつこ)たちはそのきまぐれな有権者にどう訴えるかを考える。補欠選挙という注目を集めにくい状況をどう利用するか。
そして、政治という多くの利害が絡むことだからこそ、メディアへの対応方法や候補者同士の駆け引きも一歩間違えれば致命的となる。そして本作品をさらに一味変わったものにしているのが、対立候補と決裂した森崎啓子(もりさきけいこ)という女性の存在である。彼女が支持した候補は必ず当選するという実績を持つ。その森崎が奈津子(なつこ)の街頭演説の場に頻繁に現れるようになる。彼女の目的はなんなのか。
そんな選挙の描写に加えて、奈津子(なつこ)が犯罪被害を救うことをスローガンに掲げていることから、犯罪者と被害者に対する日本の状況と、進んでいる海外の状況などにも触れられている。

患者が再犯したのは、医師としてのミスではない。先進資本主義国のなかにあって、精神障害犯罪者を処遇する施設が存在しないのは唯一、日本だけなのだ。

物語の面白さと社会的背景、そして登場人物の魅力まで満足の行く作品だった、加えて、こうやって多くの仲間達と一つの目的に向かう姿に憧れを感じさせてくれた。

辻立ち
街を練り、人が聞いてくれそうな辻に立って挨拶をすること。
シャペローン
イギリスにおいて被害者に対する支援活動を行う警察官
参考サイト
Wikipedia「補欠選挙」

【楽天ブックス】「当確への布石(上)」「当確への布石(下)」

「魔女の笑窪」大沢在昌

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
裏の世界でコンサルタント業を営む女性、水原(みずはら)。過去何人もの男性と関係を持ってきたがゆえに、人を見てその人の人間性を見抜く技術を持つ。
水原のクライアントの多くは、裏の世界に生きるものたち。おのおのが独自のルールに則って生きている。裏の世界を舞台にした物語の中ではよく語られることだが、彼らは表の世界以上に、「義理」…言い換えるなら「貸し借り」を重んじる。なぜなら、法律を気にしないで生きている以上そこには刑罰の類のものが存在しない。それはいわゆる強い恨みを買えばそれはすぐに「死」につながるからである。そのような考えは本作品でも大きく扱われている。
そしてそれと対比するように、法律の許す範囲でなら平気で人を裏切る人間として表の世界の人々に触れている。
いくつか興味深い内容はあったが、そこまでである。物語というのは、その主人公に共感したり、その主人公の生き方にあこがれたりしてこそ楽しめるもの。すでに中年の域に差し掛かりながら体を武器にして裏の世界で生きる女性に、どうやって読者は魅力を感じればいいのだろう。

トローリング
曳き釣り。ルアーやベイトをボートで引っ張って行う釣りの一種。

【楽天ブックス】「魔女の笑窪」

「屈折率」佐々木譲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
安積啓二郎(あづみけいじろう)は自分の事業からの撤退を機に、兄の経営していて存続の危機に瀕していた実家のガラス工場の建て直しを担うこととなる。啓二郎(けいじろう)はそのガラス工場で透子(とうこ)というガラス工芸作家に出会う。
本作品には、優秀な営業マンが企業を立て直す経済小説の要素と、恋愛小説の要素が取り入れられている。
この物語で新しいのはその恋愛の形だろうか。啓次郎の妻は経済的にも自立したキャリアウーマンで夫の浮気も仕方がないものと考える。また、透子もガラスと恋人ならガラスを選ぶという女性。男性目線で描かれた物語でありながらも女性の強い生き方を魅せてくれる。
また、ガラス工場という点でも、面白い。大田区という世界でも有名な工場地帯を舞台としており、やや頑固な生き方をしながらも、そこで働く人々は高い技術を持つが、市場調査や営業力を持たない。そこに経験豊かな啓二郎(けいじろう)が取締役として加わることで徐々に業績は上向いていく。
屈折率のものすごい高いガラスのエピソードはなんとも興味深くロマンチックで印象に残った。自分の中の話のネタの一つに加えておきたい。
その厚さにやや戸惑うかもしれないが、個人的には、読んで後悔することのない作品と感じた。

予納金
自己破産を裁判所に申立てする際、裁判所に収めるお金のこと。これを収める事が出来ないと自己破産の手続を受けることはできない。

クラインの壺
境界も表裏の区別も持たない(2次元)曲面の一種。(Wikipedia「クラインの壺」
参考サイト
日本ガラス工芸協会

【楽天ブックス】「屈折率」

「スクープ」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
テレビ報道局に勤める布施京一(ふせきょういち)は独自の取材で数々のスクープをものにする。
布施(ふせ)が真実を知るために、現場に潜入していく様子が繰り返し描かれる。時にはマリファナやコカインを楽しむ芸能人達と遊んだり、中国人との博打に勤しんだり。スクープが目的なのか、スリルを楽しみながら生きているうちにスクープが副産物として生まれるだけなのか…。
本作品から改めて伝わってくることだが、ただの殺人事件や芸能人の覚せい剤所持のような日常的事件ではスクープになりえない。多くの問題が未解決のまま、裏の世界で徐々にその触手を伸ばしていることに気付くだろう。大物政治家の癒着などはいまさら驚くようなことでもないが、マフィアと組んで援助交際をしながらコカインを売りさばく女子高生などはその1例である。
本作品の魅力は、布施(ふせ)と、刑事の黒田(くろだ)のやりとりにあるかもしれない。頻繁に情報交換をする2人は、一見互いに毛嫌いしていながらもお互いの心のそこにある「正義」を認めている。

「俺たちだって、若い頃は将来についての不安はあった。」
「そんなのとは質的に違いますね。将来の夢が持てないんですよ。どうしたって、世の中よくなりそうにない。大人は世の中に絶望している。その絶望を子供たちは敏感に感じ取るのかもしれませんね。」
「誰がこんな国にしちまったんだろうな。」
「俺たちでしょう。」

人間の中に、お金や性に対する欲望があるかぎり単純に取り締まることのできない多くのこと。そんな類の多くの問題に改めて目を向けさせてくれる作品であった。

LSD
非常に強烈な作用を有する半合成の幻覚剤である。(Wikipedia「LSD(薬物)」

アメリカ禁酒法
1920年から1933年までアメリカで実施された。(Wikipedia「アメリカ合衆国憲法修正第18条」

【楽天ブックス】「スクープ」

「天使と悪魔」ダン・ブラウン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1グラムで20キロトンの核爆弾に匹敵する反物質が盗まれ、バチカンのどこかへ持ち込まれた隠された。犯行は宗教と敵対し、過去迫害され続けたいた組織イルミナティによるものだった。
翻訳によるニュアンスの違いが嫌いで、ずいぶん長いこと海外小説から離れていたのだが、周知のようにこの話題性。これだけ話題になる作品はどれほどのものなのか、と久しぶりに手に取ってみた。
物語の舞台はバチカン市国とその周辺のつまりイタリア、ローマである。物語中に出てくる通りの名前や建造物、彫刻まですべて実在する物なので、いやがおうにもそこにある芸術への興味を喚起されることだろう。
また、イルミナティなる、科学を追求しながら教会から迫害されていた組織がその黒幕であるということから、物語中では科学側の主張と、それと相反する宗教側の主張が見られ、それは僕ら日本人のような、無神論者からみても決して理解し難いものではなく、また、ガリレオの地動説など、教会と科学者と間で起こった過去の諍いなどにも触れられているため、いろいろな考え方に触れられるだけでなく、多くのことを考えさせてくれる逸品である。
物事の謎をすべて解き明かそうとするのが科学なら、謎を「神の力」としてきたのが宗教であり、それならその科学と宗教は共存できないのか、敵対しつづけるものなのか…。
なかでも、イルミナティの策略によって窮地に立たされた教会がメディアを通じて教会の必要性を訴えるシーンは強烈な印象を残してくれた。

科学とはどんな神なのでしょうか。民に力だけを与え、その使い方に関する倫理の枠組みを示さないというのは、どんな神でしょうか。子供に火を与えるだけで、それが危険だと注意してやらない神とは、いったい何者ですか。
あなたがたは大量破壊兵器を量産しますが、世界中を飛び回って指導者達に抑制を求めるのは教会です。あなたがたはクローン生物を創り出しますが、人々におのれの行動の倫理的な意味を考えるよう釘を刺すのは教会です。

そして個人的に興味深々だったのが、イルミナティに伝わる伝統的なアンビグラム。土(earth)、空気(air)、火(fire)、水(water)の四台元素の文字が、いずれも点対称(つまり上から見ても下から見てもearthと読める。)で描かれる。そんなことあるのか、と思うかもしれないが、実際にその印は本の中で見ることができる。個人的には本作品のもっとも魅力的な要素の一つだと感じている。
「ダビンチコード」など、他の作品も読まなければならないような気にさせてくれた。

アクアバ人形
ガーナのアシャンティ族の若い女性が妊娠中に背中にくくりつける木彫りの像。将来、強壮な子供が授けられるようにという願いが込められている。
参考サイト
Wikipedia「イルミナティ」
Wikipedia「ビックバン」
Wikipedia「反物質」
Wikipedia「アンビグラム」

【楽天ブックス】「天使と悪魔(上)」「天使と悪魔(中)」「天使と悪魔(下)」

「神南署安積班」今野敏

渋谷の街を管轄する神南署。刑事課強行班係の安積(あずみ)係長とその部下達の様子を描く。
なんといっても本作品の見所は、安積班の4人の個性豊かな刑事たちだろう。生真面目な村雨(むらさめ)、最年少の桜井(さくらい)、太って緩慢な動作しかできないにも関わらず鋭い洞察力を持つ須田(すだ)。そして、俊敏で緻密な黒木(くろき)。読み終わった後には安積班の4人の名前と特徴を覚えてしまっていることからもその個性の強さがわかるだろう。
そして当然のように、昨今の刑事物語では当然のように語られる、現場捜査員と上層部の幹部たちの間で起こる摩擦やそ子にはさまれる中間管理職たちの葛藤も描かれている。

警察に限らずどんな組織にも二つのタイプの人間がいる。上司に可愛がられるタイプと部下に慕われるタイプだ。それはなかなか両立しない。

8編の物語から構成され、いずれも安積班を扱っているがそれぞれ活躍する人物は微妙に異なる。刑事という職場にある強い信頼関係がなんとも爽快である。
【楽天ブックス】「神南署安積班」

「あの日にドライブ」荻原浩

オススメ度 ★★★☆☆
現在43歳の伸郎(のぶろう)は元銀行員で現在はタクシーの運転手。その生活を描く。
「もしあのときこうしていたら…ああしていたら…」。誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。生きているうちに時に迫られる選択。人生のターニングポイント。一つの道を選択したら、もう一方の道を選択した場合に自分の人生に起こる結果を僕らは知ることができない。
過去のエリート人生から脱落して、その間の期間だけのつもりで選んだタクシーの運転手という職業。長距離の客に出会えるかどうかが運に左右され、それ以外の時間を車の中で一人でいろいろ考えてしまうからこそ陥いる、後ろ向きな後悔のスパイラル。読んでいる人間までへこませるようなマイナス思考のオンパレードだが、やがて自分だけが不幸なわけではなく、また、青く見える隣の芝生も、実際には多くの欠点を抱えていることに気付いていく。

曲がるべき道を、何度も曲がりそこねた。脇道に迷ったし、遠回りもした。でも、どっちにしたって、通り過ぎた道に、もう一度戻るのは、ちっとも楽しいことじゃない。

結局は今を前向きにとらえて生きることこそ人生を楽しむ最良の方法なのだと伝えたいのだろう。僕にとってはそれは新しい考え方でもなんでもなく普段から意識していることではあるが、普段人生や運命をどうとらえているか、そういう読者の人生に対する姿勢によって、本作品の受け止め方は変わってくるのではないだろうか。
難しいことを考えずにのんびりとした気分で読むには悪くないかもしれない。
【楽天ブックス】「あの日にドライブ」

「猛禽の宴」楡周平

オススメ度 ★★★☆☆
日本でコカインネットワークを築いた朝倉恭介はアメリカで組織の長であるファルージオを介して幹部たちと顔を合わせる。その後ファルージオが襲撃されたことで組織は、トップ争いの混乱に向かう。
「Cの福音」の続編に当たる。舞台をニューヨークに移し、そこをテリトリーとする多くの組織、中国系マフィア、イタリア系マフィアなどの間で広げられる勢力争いと、駆け引きに焦点があてられている。
メインはそのマフィア間の抗争であるが、むしろ興味をひかれたのが、湾岸戦争の後遺症に悩む元米軍兵士のアラン・ギャレットの人生である。
国を守るために多くのものを犠牲にしたのに、国は何も助けてはくれない…。この物語はもちろんフィクションであるが、似たような話は世界中にあるのだろう。
物語自体は朝倉(あさくら)とギャレットが出会って自らの安全やプライドを守るために闘いを始めるというものだが、朝倉恭介シリーズの「つなぎ」的な印象が否めない。このシリーズの続編を今後も買うか考えてしまう。
ただの人間の物語であるだけでなく、なんらかのテーマを内包した物語でなければ貴重な時間を割いてまで読む意味を見出せなくなるかもしれない。

アパラチン会議
1957年11月14日にアメリカ合衆国ニューヨーク州の町オウェゴ(Owego)の郊外アパラチン(Apalachin)で開かれたマフィアによる秘密会談のこと。 (Wikipedia「アパラチン会議」

【楽天ブックス】「猛禽の宴」

「RYU」柴田哲孝

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
沖縄の川で無人のボートが発見された。そのボートに残されていたカメラには不思議な生物が写っていた。沖縄の伝説のクチフラチャは実在するのか、ルポライターの有賀雄二郎が動き出す。
「TENGU」「KAPPA」に続く、柴田哲孝の未確認生物シリーズの第3段である。さすがに3作目となると、その生物が醸し出す不穏な空気などで、マンネリな感を出してしまうかと思いきやそんなこともなくしっかり楽しませてもらった。
沖縄の文化やその土地の人柄、アメリカの支配下におかれた沖縄の歴史的背景にまで触れながら構成されるストーリー。科学と迷信や伝統を組み合わせるそのバランスの良さは本作品でも健在である。
ただ、今回は最終的にその生き物と地元の人間との戦いになることから、そのシーンには人間のエゴのようなものを感じてしまった。

【楽天ブックス】「Ryu」

「ぼくのメジャースプーン」辻村深月

オススメ度 ★★★☆☆
人を操る不思議な力をもつ「ぼく」は、学校で起きた事件のために言葉を失った幼馴染み「ふみちゃん」のために、その犯人と会うことなった。不思議な力を使って犯人に罰を与えるために。
基本的に物語は、不思議な力を持ちながらその力の使い方を知らない小学四年生の「ぼく」と、同じ力を持って過去に何度かその力をつかったことがある大学教授の秋(あき)先生との間の会話が軸となって進む。
学校のウサギを殺した犯人と一週間後に面会する約束をとりつけ、2人は犯人にどんな罰がふさわしいかを話し合う。
物語は大人である秋(あき)先生が、小学生の「ぼく」の気持ちに対して、いくつかの疑問をなげかけ、時にはいろんなたとえ話や経験談を交えながら進むのが、それが「ぼく」と20歳以上も歳の離れた僕の心にもここまで響くのは、その問題が決して答えの出ない問題だからだろう。物語の中でもその場にいないほかの人物の意見としていくつかの考えが紹介されている。

復讐しても、元通りにはならない。すごく悔しいし、悲しいけど、その感情に縛られてしまうこと自体が、犯人に対して負けてしまうことなんだ。
犯人を、うさぎと同じ目に遇わせる。自分のために犯人がひどい暴力を受けることは、その子だって望まないかもしれない。だけど、自分のために狂って、誰かが大声を上げて泣いてくれる。必死になって間違ったことをしてくれる誰かがいることを知って欲しい。

生きているうちに知らぬ間に組み立てられていた自分の心の中の常識、生命の価値だったり、正義の形だったり、強さの形だったり、人を想う坑道だったり、そういった、今までとりたてて疑問に想ってこなかったものに対して、「もう一度考え直してみよう…本当にこれでいいのか、本当にこれは正しいのか…」。そう思わせてくれる作品である。
【楽天ブックス】「ぼくのメジャースプーン」

「疾風ガール」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆
タレント事務所で働く祐二(ゆうじ)はあるとき、バンドでギターを弾いている夏美(なつみ)というとびっきりの才能と出会う。事務所の方針とは相反するものの彼女を売り出すことを決意する。
一見軽率なイメージを与えがちな、タレント事務所であるが、本作品では最初から、そこで働く祐二(ゆうじ)の、優しいがゆえに、苦しむ様子が描かれている。

お前が食い潰したんだよ。彼女の2年をな。二度とは戻らない。十代の最後を、二年間もな。

普段接することのな世界で生きる人々のその一生懸命な姿、そこで生きるがゆえに感じる多くの矛盾や葛藤が描きながら進む夏美と雄二の夢物語を期待し、期待感は膨らんだのだのだが、夏美(なつみ)の所属するバンドのボーカル、薫(かおる)の自殺をきっかけに話は一気に動き出す。
どうして薫は自殺したのか…。
しんみりとしがちなテーマではあるが、自分の才能を知らずに思ったまま行動をする夏美(なつみ)の姿はとそれに振り回される祐二(ゆうじ)のやりとりはなんとも微笑ましくタイトルの「疾風ガール」を裏切らない。

一人でも輝けるあんたには、周りの人間が自分と同じぐらい輝いて見えちゃうのかもね。でも、それはあんたが照らしてるからであって、その人の背中は、実は真っ暗になってるってこと、あるんだよ。

幼い頃は「がんばればなんでもできる」なんて言われて育ったけど、20代も過ぎれば「才能」というものが世の中には存在することは誰もが理解している。生きる道によってはその「才能」の違いは努力で補えたりもするが、「才能」がなければいきていけない道もある。
そういう道で生きている人たちがどんなことを感じ、その道でそんな嫉妬や葛藤、そして絶望が生じるのか、ほんのすこし理解できたような気がした。
【楽天ブックス】「疾風ガール」

「Cの福音」楡周平

オススメ度 ★★★☆☆
ニューヨークで身元不明の東洋人の死体があがった。コカインの常習者だけが明らかとなったがそのまま身元不明として処理された…。
朝倉恭介(あさくらきょうすけ)は、頭脳明晰で格闘技にも長けでいながら、両親を事故で失った過去によるせいか、自分の心を満たす生き方を模索する。その結果の一つとして日本におけるコカインのネットワークシステムを確立した。
すでに何冊か発汗されている朝倉恭介(あさくらきょうすけ)のシリーズの第一作にあたる。本屋の楡周平の作品の売り場を見れば「朝倉恭介」とそのまま本のタイトルにこの登場人物の名前をすえたものも見かけた。登場人物の名前を本のタイトルにするような例はそれほど多くはない、思い浮かぶのでも、御手洗潔(島田荘司)、金田一耕助(横溝正史)、岬美由紀(松岡圭祐)、浅見光彦(内田康夫)ぐらいだろうか。
本シリーズの朝倉恭介(あさくらきょうすけ)が他の登場人物の違うのは、コカインネットワークを築くことからもわかるように、誰にも受け入れられるような「正義」ではないということだ。だからこそその社会のルールに反した生き方の信念がどうやって読者の心を惹きつけていくのかに興味がわく。なんにしても今後に期待である。
本作品は、どちらかというと物語自体よりも、その考え出されたコカインの密輸のシステムを読者に知らし目対のではないかと思えるような内容である。


ショーロ
ブラジルのポピュラー音楽のスタイル(ジャンル)の一つである。19世紀にリオ・デ・ジャネイロで成立した。ショーロという名前は、chorar(ポルトガル語、「泣く」という意味)からついたと言われている。(Wikipedia「ショーロ」
保税地域
外国から輸入された貨物を、税関の輸入許可がまだの状態で関税を留保したまま置いておける場所のことを指す。(Wikipedia「保税地域」

【楽天ブックス】「Cの福音」

「ゆりかごで眠れ」垣根涼介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日系二世としてコロンビアで生まれ育ちマフィアのボスとなったリキ・コバヤシは、日本の警察に捕らわれた仲間を助け出すために、ひとりの少女とともに日本にやってきた…。
久しぶりの垣根涼助作品の文庫化だが、もはや垣根作品には欠かせない題材である南米の文化が当然のように取り入れられている。
リキの部下であり警察に拘束された男を取り調べる警察の動向と、またその部下を救おうとするリキたち組織の人間の動きが本作品のメインではあるが、そんな中で随所に、その主要人物の回想シーンが挟み込まれている。
日本人の血をひくがゆえに生まれ持った知性によって、「豊か過ぎる国」、コロンビアだからこそ起きる混乱によって多くの親しい人を失いながらもマフィアのボスという地位を築いたリキ、そしてリキだけは自分を助けてくれると信じて疑わないその部下たち。
そんな暴力の支配する血なまぐさい世界を描いただけの作品になりそうだが、リキのそばを離れようとしない少女カーサの存在が彩(いろどり
を添えている。リキとカーサとの出会いのくだりは平和な日本という国しか知らない僕には興味深く、特に、絵を描くときに人の首まで描くことに込められた意味が語られる場面は非常に印象的であった。

世界は、人生は、決して辛く悲惨なものではなく、明るく喜びに満ちていることを、あなたが体感させてあげるのです。

一方で、物語は日本の警察官にもしばしば視点が移る。拘束された男の取調べを受け持つ武田(たけだ)と、その元恋人であった若槻妙子(わかつきたえこ)である。
裕福な家庭に生まれながらも自分と周りとの空気の違いに孤独感をぬぐえずに生きている妙子(たえこ)、正義を貫きたいがゆえに警察に入りながらもやがて麻薬に溺れていく武田(たけだ)、本作品を読み終わってこう振り返ってみると、人格をつくるのはその生まれ育った環境ばかりでなく、生れる前から心の中に巣食ったなにかなのかもしれない、そういう考えをもたらしてくれた。

あんたは、相変わらず泣かない子だね。
どんなに悲しくても、昔からそうだった。

【楽天ブックス】「ゆりかごで眠れ(上)」「ゆりかごで眠れ(下)」

「月光」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
クラスメートの運転するバイクに撥ねられて死んだ姉、野々村涼子(ののむらりょうこ)の死の真相を知るために、妹の結花は、姉と同じ高校への入学を決め、姉と同じ写真部へ入部することを決める。
すでに死んでしまった姉、野々村涼子(ののむらりょうこ)の人物像が、物語を進めるうちに明らかになっていく。その過程ももちろん興味深いが、むしろ涼子(りょうこ)をバイクで撥ねてしまったクラスメイトの菅井清彦(すがいきよひこ)の、その悲しい生い立ちゆえにその心の中にはぐくまれた世の中に対する敵対心のようなものに心を揺さぶられるものがあった。

孤独、不安、諦め。確かにそういうのあったよ──

そしてだからこそ、涼子(りょうこ)の強い生き方も際立つのだろう。

何かを嫌うよりも、好きになることの方が、ずっと大切なんだって、思ってきた。少しくらいつらくても、嫌なことでも、それを乗り越えるのが大事なんだって……

ミステリーとしての要素だけでなく、学園を舞台とした青春小説のような色合いも持っている。「青春小説」なんて言葉を使ってしまうと、なんか恋愛とか、努力とか、すごい薄っぺらく現実とかけ離れた理想の物語のような印象を与えてしまうかもしれないが、本作品には、受け入れるべき自分の弱さや、生きるうえで持つべき信念のようなものを考えさせてくれる作品だった。
【楽天ブックス】「月光」

「カフーを待ちわびて」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
沖縄でお店を営む明青(あきお)の元に幸(さち)という女性から手紙が届いた。「私をお嫁さんにしてください。」それからしばらくして、幸(さち)と名のる女性が明青(あきお)の元に現れた。
典型的な恋物語という感じだが、舞台が沖縄ということもあって、ユタや模合(もあい)など沖縄の文化が取り入れられている。その恋物語はもちろんすべてがすんなりいくわけでもなく、恋に必要な障害もあり、温かいが排他的な沖縄の離島の様子も描かれている。
僕の好む小説とは明らかに異なる路線であるが、こんなすっきりとした読書もたまには悪くない。そう思わせてくれた。
【楽天ブックス】「カフーを待ちわびて」

「汝の名」明野照葉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
若き女性社長である麻生陶子(あそうとうこ)は、引きこもりの妹である久恵(ひさえ)と一緒に暮らしていた。やがてそんな2人の関係も崩れ始める。
物語は1つの部屋で共同生活を送る2人の女性の生き方を描いている。冒頭は会社を経営する陶子(とうこ)の姿から入り、自らの求める理想の生活を自分の力で得ようとする世の中に対する姿勢のかっこよさに引き込まれていくだろう。そしてやがて、陶子(とうこ)と同居しながら家事の全般を担いながらも、過去の辛い経験から働くことができずに悩む久恵(ひさえ)の内面も徐々に描かれるようになる。
異なる生き方をしているからこそ、時に互いに羨み、時に互いに蔑みもする。そしてそんなやりとりが双方の生きるエネルギーへと変わっていく。
面白いのは陶子(とうこ)の経営する会社のくだりだろうか。顧客のニーズに応じて、現実の世界の演技者を派遣するビジネス。それは、真実か虚構かに関わらず、たとえ一時的なものであっても、自分の求めている環境や人に囲まれていたいという世の中の人々の心を風刺しているようだ。

人は完全に一人では決して満足できない。観客が要る。それが盛大な拍手を贈ってくれる観客ならばなお喜ばしい。自我はそれによって満たされる。

2人の生き方に共感できるか否かは別にして、その生き方の逞しさは昨今の女性たちにぜひ学んでほしい部分でもある。
【楽天ブックス】「汝の名」

「笑う警官」佐々木譲

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
女性警察官殺人の容疑者として挙げられた津久井(つくい)巡査部長。組織はその容疑を利用して津久井(つくい)の射殺許可を出す。かつて津久井(つくい)と苦難をともにした佐伯(さえき)警部補は独自に津久井(つくい)の潔白を証明しようと動き出す。
多くの人が理解しているとおり、警察というのは決して清廉潔白な組織ではない。単純に私腹を肥やしている警察官もいるだろうが、世の中の平和を維持するための行動ではあっても必ずしも規則に則っていることばかりではない。軽微な犯罪を見逃す見返りとして裏の情報を得ることで、より大きな犯罪を防いだりするのはその1例だろう。
そして時には大きな犯罪を防ぐために犯罪者に協力することもあるらしい。最終的に「平和を守る」という点では一致していても、どこまでが赦される行為か、という点ではそれぞれの警察職員によって異なる。
本作品では、公の場で、警察内部の真実を語ることを正義と信じて行動しようとする津久井(つくい)巡査部長と、その行為を「警察に対する裏切り」と受け止める派閥との争いである。個人の利益に直結するものではなくそれぞれの信念に委ねられるものだからこそ、どこに敵がいるかわからない。そんな環境の中で友人である津久井(つくい)を守ろうと行動する佐伯(さえき)の周到で機敏な判断と、その良きパートナーとを果たすことになる女性警察職員、小島百合(こじまゆり)の知性溢れる言葉の数々がなんとも魅力的である

もし、正義のためには警官がひとりふたり死んでもかまわないってのが世間の常識なら、おれはそんな世間のためには警官をやっている気はないね。

警察小説は、おそらく小説の中でももっとも多く書かれている小説だろうが、そんな警察小説の中でも際立って個性のある作品に仕上がっている。

「向日葵の咲かない夏」道尾秀介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ミチオは欠席した友人の家を訪れた際、首を吊って死んでいるその友人を見つける。しばらくしてその友人はミチオの元に、蜘蛛に姿を変えて現れる。蜘蛛になった友人の訴えを元にミチオは妹のミカとともに真相を知ろうとする。
幾ページも読まないうちに、その荒唐無稽さ、過去に読んだことのない不思議っぷりに戸惑った。自殺した友人が蜘蛛に生まれ変わってミチオの前に現れた時点で、かなりしんどくなったが、それでも読み続けたのは、物語をそこまで現実離れしたものにしてさえも訴えたい何かが最後にあるのではないか、そう思ったからだ。
最終的にその期待に応えてくれたかというと首をひねらざるを得ないが、まあ、こんな物語もありかな、と納得することはできた。
往々にして誰かの心に深く突き刺さる何かは、ほかの人から見ると逆にひどくくだらなく見えたりする。だから、僕がこういう評価をしたこの作品が、誰かの心を鷲掴みにする可能性もないとはいえないだろう。
【楽天ブックス】「向日葵の咲かない夏 」

「KAPPA」柴田哲孝

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
釣り人が上半身を引きちぎられた状態で発見された。目撃者は「河童を見た」という。ルポライターの有賀は真相を突き止めるために沼を訪れる。
前作「TENGU」が傑作だったゆえに、同じ未確認生物を題材とした本作品にも自然と手が伸びた。
本作品はそのタイトルが示すとおり沼にひそんだ謎の生物を追うことがメインであるが、大きな沼を舞台にしているため、その沼と長い間関わってきた地元の人々の生活の様子も描かれている。中でも放流されたブラックバスが与えた影響についてのくだりは印象深い。
内容については、やはりどうしても前作「TENGU」と比較してしまうのだが、「TENUG」ほど話の広がりは残念ながらないが、ルポライターで自由に生きている有賀(ありが)や、地元警察署の阿久沢(あくざわ)、沼でずっと生きてきた源三(げんぞう)の人間性に焦点を当てている。
そんな中、正反対の生き方を歩んできた、有賀(ありが)と阿久沢(あくざわ)が語りあうシーンはいろいろと考えさせてくれる。

おれも以前は、自由でいることは男の強さの証明だと考えていた時期もあった。つまり家庭とか、財産とか、社会的な信用とか、守るべきものがひとつずつ増すごとに男は少しずつ弱くなっていく。攻撃よりも守備に徹せざるを得なくなるからな。

タイトルこそ未確認生物として共通しているが前作「TENGU」とはかなり趣の異なる作品。期待値が高かっただけにやはり評価は厳しくなってしまう。


レッドテールキャット
体長は最大で約120cm。熱帯産大型ナマズの人気種であり、ペットショップでは5?程の幼魚が出回っている事が多い。(Wikipedia「レッドテールキャットフィッシュ」
キシラジン
麻酔前投与薬として使用される。牛、馬では鎮静薬や鎮痛薬としても用いられる。犬や猫ではケタミンと併用されることが多い。(Wikipedia「キシラジン」)
ケタミン
フェンサイクリジン系麻酔薬のひとつで、三共エール薬品[1]から塩酸塩としてケタラール®の名で販売されている医薬品。(Wikipedia「ケタミン」
参考サイト
熱川バナナワニ園ホームページ
Wikipedia「ミシシッピアカミミガメ」

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「ジウIII 新世界秩序」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ジウ」シリーズの完結編。「ジウII」でジウと出会い、黒幕のミヤジなる人物と出会った伊崎基子(いさきもとこ)はそれまでになかった言動を見せるようになる。一方門倉美咲(かどくらみさき)は引き続きジウの足取りを追う。そんな中、新宿の歌舞伎町が封鎖される。
「ジウ」シリーズは常に2人の女性警察職員に焦点を当てて展開される。人の気持ち、ときには凶悪犯罪を犯した犯罪者の気持ちさえも理解しようと努める門倉美咲(かどくらみさき)と、闘いと危険な状況を好む伊崎基子(いさきもとこ)である。
完結編である本作品では、世の中を裏で操るミヤジとの出会いによって、人を殺すことさえ躊躇わなくなった伊崎(いさき)の心の変化が描かれている。
前作を読んだときに予想したとおり、三部作というのは常に全作品を上回らなければ、読者は満足しない。物語を完結させるためとはいえ「ジウI」「ジウII」とじっくりと時間をかけて作り出したこの不穏な空気を、まんぞくさせるような形で完結させるには、「ジウIII」のわずか1冊は少なすぎたといえるだろう。
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