とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「ソウルケイジ」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
多摩川の土手に放置された車の中に、血まみれの左手が残されていた。姫川玲子(ひめかわれいこ)を含む捜査一課の刑事たちの事件解決までを描く。
「ストロベリーナイト」の続編に当たる。学生時代に負った心の傷を抱えながら男社会の警察組織の中で警部補として部下を抱える立場にある姫川玲子(ひめかわれいこ)を中心として物語は展開する。
今回面白いのは、得られた手がかりをヒントに直感的に真相に近づいていく玲子(れいこ)と、それとは対照的に、一切の予断を排して捜査を進める日下(くさか)の対比だろう。表面的には毛嫌いしたり、その手法を不安視しながらも、その実力を認め合う二人がそれぞれの手法で真実に近づいていく。
どちらが正しいというのではなく、どちらが理想的な捜査とうのでもなく、異なる種類の人間がいるからこそ組織として警察は機能する。本作品で描かれているのはまさにそんな組織としての機能性である。
そんな警察側の面白さに加えて、事件自体も不思議な展開を見せる。事件の不思議さだけでなく、関係者たちの生きかたやその裏にある感情がしっかり描かれている。

幼くして両親を失っているにも拘わらず、その眼差しは、実に澄んでいて、真っ直ぐだ。これは長年愛情を受け、それを感じ、自身の中で育んできた者の目だ。

「愛情」なのか「償い」なのかそれとも「自らへ課した罰」なのか。人をつき動かす説明し難い力の存在を見せられた気がした。
【楽天ブックス】「ソウルケイジ」

「獣の奏者」上橋菜穂子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
そこは闘蛇(とうだ)と王獣(おうじゅう)と呼ばれる獣たちが住む世界。獣を操ることが国を治めることに大きく貢献する世界。母を失ったエリンはやがて王獣(おうじゅう)という美しく強い獣に興味を持つようになる。

ファンタジーに挑戦したのは久しぶりである。獣を操るという点で、スタジオジブリの名作「風の谷のナウシカ」を思い起こさせるが、単なる焼き直しではなくオリジリティに溢れている。メインとなる2つの獣、闘蛇(とうだ)と王獣(おうじゅう)はいずれも人には決して慣れない生き物で、一歩間違えれば平気で人を飲み込む危険な生き物である。しかし、その強さゆえに操ることができれば強力な戦力となる。人は「音なし笛」を吹くことによってのみコントロールしてきた。

ファンタジーというと、どうしてもその世界観ゆえに、空想の人物名や地名の多さに辟易し、また、話を分かりやすくしようとすると対立の構造が単純すぎてリアルさに欠けるという問題があり、リアルさと分かりやすさのバランスというのは常に難しい部分ではあるのだが、本作品は非常にわかりやすく読みやすく、それでいて単純になりすぎずに少しずつ世界の複雑さが読者に見えてくる点が好感がもてた。

「闘蛇編」と「王獣編」はシリーズ全4作の最初の2作であるが、物語としては一度完結している。今後さらに広がっていくであろうその世界観に期待したい。

「ノーフォールト」岡井崇

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
柊奈智(ひいらぎなち)は大学病院に勤める産科医。過酷な勤務が続くなか、容態が急変した妊婦に緊急の帝王切開を行った。子どもは助かったが、母親に原因不明の出血が起こる。
ここ最近医療問題を扱った書籍、ドラマが注目を浴びている。小説で言えば「チームバチスタ」シリーズ。ドラマでいえば「救命病棟24時」だろうか。そしてその多くが医師や病院を相手取った訴訟や、現場の厳しい労働環境に触れているのは、人々の関心の高さを反映しているのかもしれない。
本作品も、タイトルから想像できるように、医師や病院の責任や、その労働環境に触れ、物語の中で、現在の日本の医療の多くの問題点を指摘している。日本の医療だけでなく、アメリカの医療訴訟の多さから日本医療の将来を懸念し、ヨーロッパの先進国と比較して日本医療の遅れを嘆いている。

アメリカの弁護士から見ると、産婦人科の医師は数億円のネギを背負ったカモに見えるらしい。

医療技術が進化したせいだろうか、出産は生命のリスクの少ないものと多くの人が認識しているせいだろうか、それとも身内に不幸があったとき、人はそれを誰かのせいにせずにはいられないのだろうか。いずれにせよ医療の現場では医療訴訟は深刻な問題である。
そして裁判になればそこは、必ずしも真実を追求する場ではなく、ときには勝利するために善人を悪人に仕立て上げるなどの駆け引きの場となるのである。その結果、一生懸命患者のために尽くしてくれた敬われるべき医師が、「人殺し」として罵られる可能性すらあるのである。
そんな状況によって、医師たちは訴訟を恐れ、医師になりたがる人が減り、人手不足が医療現場を過酷なものとし、ミスを誘発させる。そんな悪循環が本作品から見えてくるだろう。

“患者さんにはこういう話をしなさい、そうすれば訴えられない。カルテにはこう書きなさい。カルテはいつでも開示されます”そんな話は医療安全ではない。言うなれば訴訟安全だ。

また「医療過誤」と「医療災害」その線引きの難しさを考えさせられた。医師たちは現場で成長し高い技術を身につけていくから、時には失敗から学ぶこともあるのである。

最善でなければ、また教科書通りでなければ”過誤”と認定するのでは、一般に行われている多くの医療が”過誤”になってしまいます。

最期に著者は、無過失補償制度に触れている。ヨーロッパの先進国に取り入れられているこの制度こそ、著者が本作品を通じて読者に訴えたい、日本医療に行われるべき改革なのだろう。
健康な僕らは普段目をむけることのない、それでも人の生死に大きくかかわる医療現場に蔓延する深刻な問題に、この本を読むことで気付くのかもしれない。
本作品は近々始まる予定のドラマ「ギネ」の原作である。藤原紀香の演技にはやや不安だが、この世界をどのように描くのかが楽しみである。

クロスマッチ
輸血に伴う副作用を防止するために行われる検査。(Wikipedia「交差適合試験」
鑑定人
訴訟などにおいて一定分野の専門的知見に基づき意見を述べる人。(Wikipedia「鑑定人」

【楽天ブックス】「ノーフォールト(上)」「ノーフォールト(下)」

「空飛ぶタイヤ」池井戸潤

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
走行中のトレーラーのタイヤがはずれ、歩行者を直撃して死に至らしめた。調査の結果は整備不良。納得のできない運送会社社長の赤松(あかまつ)は、大手自動車メーカーに闘いを挑む。
すぐにピンと来た方もいるだろう。この物語はフィクションでありながら、数年前に実際起こった出来事をヒントに描いているのは明らかだろう。物語中では「ホープ自動車」という名称で登場しており、そのグループは、現実の三菱グループと同様に、ホープ重工、ホープ銀行といったグループ企業動詞の協力関係が強い。
本作品では、企業のリコール隠しに関わる出来事をその周囲の多くの視点から描いている。タイヤの外れたトレーラーの所有者である運送会社の社長の赤松(あかまつ)、隠蔽体質を知りながらもそんな社員の一員として生きることしかできない社員。グループ企業というだけで支援を断ることのできない銀行員。妻を殺されて怒りの矛先を探す夫。そんな一人一人の人間物語に何度も目頭が熱くなった。
社会抱える矛盾とそんな矛盾だらけの世の中の中で必死に信念を貫こうとする生きかたを見せてもらった。
【楽天ブックス】「空飛ぶタイヤ(上)」「空飛ぶタイヤ(下)」

「ツアー1989」中島京子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
香港のツアーで一人の青年がいなくなった。同行していた人はみんなその青年のことをほとんど記憶していなかった。青年の思いを寄せていた人への手紙を託されたライターは自分でその青年を探そうとする。
不思議な雰囲気の物語。多くの人が海外旅行に出かける昨今であるが、人は「旅行」に何を求めているのか、そんな問いに対する今まで気付かなかった一つの答えを示してくれた気がする。
なんか実はもっといろいろ、もしくはもっと別のことを著者は訴えたかったのかもしれない。他の人が読めばまた、他の受け止め方があることだろう。
【楽天ブックス】「ツアー1989」

「どれくらいの愛情」白石一文

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
男女の恋愛模様を描いた短編集である。
名作「私という運命について」のあの独特な空気をもう一度味わいたくて手に取った。実際、最初の物語「20年後の私へ」はその期待に応えてくれたと言えるだろう。
39歳にして離婚暦を持つ岬(みさき)は、多くの同年代の女性と同じように、人生を考え、自分の存在意義を考え、そして、恋愛に悩む。仕事を一生懸命こなしながら、お見合いなどをして人生が満足のできるものになるように努力もしている。
そんな中で遭遇するいくつかの真理や新たな疑問が、岬(みさき)の考えを通して見えてくる。

この人は愛するべき人を探しているのではなく、妻となるべき人を探しているのだ。その二つのどこがどう異なるのかはわからないが、そこはどうしても譲れない一線だった。

答えのない疑問だからこそ、それを考えることの無意味さと重要さという相反するものを感じる。
本作品自体は短編集という形式をとっているが、表題作「どれくらいの愛情」は十分なボリュームがある。その中で主人公である正平(しょうへい)の良き助言者である、不思議な力を持った男性の言葉が素敵である。

与えられた運命というのはいわば地面のようなもので、その地面があるからこそ、そこから飛び立つことができる。または与えられた運命は、最初に電車に乗る駅のようなもので、その始発の駅があるからこそ、別の目的地に向かって旅立つことができる。

主人公にすえられた登場人物だけでなく、その周辺の登場人物からも、お手本となるような生きかたをいくつも見れた気がした。カッコいいことは若いときだけ限ってできることではなく、強い意志を持ち、深く自分を見つめ続けて、その生きかたの意味を考え続ければ、何歳になってもできるものなのだと、教えられた気がした。

カリエス
脊椎を含む骨組織の結核菌による侵食などを指す医学用語。(Wikipedia「カリエス」)

【楽天ブックス】「どれくらいの愛情」

「シャトゥーン ヒグマの森」増田俊也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大雪の中、小屋に孤立した動物件研究者たち。人間の味を覚えた巨大なヒグマがシャトゥーンが徘徊する。
タイトルから想像できるように、ヒグマが次々と襲ってくる物語である。ジョーズのヒグマ版とも言うべきか。そういう意味では読者の期待を裏切ることはないだろう。本作品の魅力はやはり人とヒグマとの格闘シーンと言うべきだろうか。といってもその多くは、四肢を引きちぎられ、目や鼻をもぎ取られるという、一方的に人間が惨殺されるというものなので、抵抗を持つ人もいるだろうが、ここまで描いた作品にあまり出会ったことがなかったので新鮮であり、同時に頭にこびりつくような恐怖感も植えつけてくれた。そのすべてがヒグマの習性に基づいて描かれているという点がただのホラーと異なりより恐怖を増幅させるのだろう。
描かれるのはそんなヒグマの恐ろしさだけでなく、シマフクロウやヤチネズミなどの野生動物にも触れ、多くの野生動物を減らしているのは人間の無知や、「自然を操作できる」という驕りのせいだと訴えてくれる。

【楽天ブックス】「シャトゥーン ヒグマの森」

「栄光なき凱旋」真保裕一

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第二次世界大戦中のアメリカ側から描いた物語。アメリカに住む日系二世の3人の若者に焦点を当てている。
物語はアメリカから見た太平洋戦争であるが、三人の日系2世、しかもいずれも日本で生活した経験を持ち、多少なりとも日本語を話せる青年に焦点をあてているからこそ、今までと違った角度で改めて太平洋戦争を見ることができる。
ヘンリー・カワバタとジロー・モリタは幼馴染でともにリトル・トーキョーに住みながら、白人から受ける日系人の差別に苦しむ。一方、マット・フジワラはハワイで生活し白人の女性を恋人に持ちながらも、日本の真珠湾攻撃で彼らの生活は大きく変わっていく。
僕らが第二次世界大戦を振り返るとき、その印象は、日本は愚かな突撃を繰り返し、アメリカはそれを緻密な戦略で対応したというものであるが、本作品を見て改めて理解できたのは、戦争は勝とうが負けようが愚かな行為でしかなく、それは多くの不条理な死によって構成されるという事実である。
アメリカで過ごす日系人の目を通して、アメリカで起こっている多くの人種差別を理解することになるだろう。以上に迫害されていた黒人たちもいたという。主張するように黒人席へ座り「ぜんぜん汚くない」と主張する日系人の姿が印象的だ。こんな人が実際にいたなら誇るべきことなのだろう。
終盤のヘンリーが戦場で戦うシーンは、小説という媒体でありながらも、活字を追うことで脳裏にそのシーンがリアルに浮かんでくる、そして戦場の、不条理さ、無意味さ、愚かさ、そういったものを感じずにはいられない。少しずつ壊れていく自分の心を意識しながら、それまで信じていなかった神に訴えるシーンが強烈である。

神よ。見ていますか。
ここにはただ祖国を愛する純粋な男たちがいます。白人や日系人という分け方は関係なく、ドイツ兵という敵も存在はしない。国のために戦うという意味で、ここにいる者は皆、同じ覚悟と志を抱く同胞だった。
だから神よ。せめて苦痛を与えずに天へ呼び、安らかな眠りを与えたまえ。

3人の強く信念を持っていきている立派な日系人が、戦争という大きな力の前で、自分に無力さに失望し、自分の醜さを知り、それでもそんな自分自身と向き合って自分なりの答えを出そうとする生きかたは誰もが感銘を受けるだろう。
すでにいくつかの作品で栄光をつかんだであろう著者、真保裕一が描きたかった作品の一つなのだろう。その詳細な描写からそんな心構えが伝わってくる。

【楽天ブックス】「栄光なき凱旋(上)」「栄光なき凱旋(中)」「栄光なき凱旋(下)」

「埋もれる」奈良美那

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第3回ラブストーリー大賞受賞作品。
韓国で翻訳家になるために勉強しながら生活している26歳の由紀(ゆき)を描く。
日本で生まれ育ちながらも、韓国で生活する由紀(ゆき)の目を通して、韓国と日本の文化の違いが見えてくる。未だ恋愛においては男性の方が年配なのが一般的と考えられるところや、女性がタバコを吸うのを疎ましく思われる点は、一昔前の日本を見ているようだ。
また有紀(ゆき)が、父親の仕事の都合で幼い頃引越しを繰り返しいたという過去が、有紀(ゆき)の正確に大きな影響を与えているという点も興味深い。思春期に転校を繰り返すことを強いられた人間の人格形成の一端を垣間見た気がする。

わたしが適応するのは表面だけ。心を開ききれないから。新しい色に染まってゆくたびに、いったん自分を殺すこともしなくちゃいけない。そればかり繰り返していたら自分が無になりそうだから。必死で自分を守ってしまうの。

読み終わって改めて本のオビを見てみると、どうやら濃厚な官能シーンが評価された作品らしいのだが、個人的には由紀(ゆき)を含む登場人物の性格と、それを形づくる要因となった生活習慣や過去の描き方が、比較的納得のできるもので、とても印象に残った。
そして気に入ったのはこの言葉。

いろんな土地でたくさんの悪意に出会ったけれど、それよりもたくさんの善意に出会った。

そうそう、悪意に出会って、時には嫌な思いをすることは避けられないけど、勇気を持って行動を起こすことによって僕らはいろんな人の優しさや、素敵な出会いに触れることができるのだ。
【楽天ブックス】「埋もれる」

「黒と白の殺意」水原秀策

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
囲碁棋士の椎名弓彦(しいなゆみひこ)は対局の前日、殺人事件に巻き込まれ、その容疑者として弟の直人(なおと)が拘束される。
言うまでもないが本作品を特長付けているのは囲碁という誰もが知識としては持っていながらも、あまり馴染みのないゲームをその題材においている点だろう。殺人事件の背後に隠された人間関係はもちろん、その過程で描かれる日本の囲碁事情、また、囲碁棋士たちの生活が見えてくる点が新しい世界を見せてくれた気がする。
そして、力で優劣を決められる世界だからこそ、才能を持つものに対する羨望、嫉妬、畏れが、多くのスポーツやビジネスシーン同様、この世界でも見えてくる。
終盤、囲碁の対局を描くシーンは、囲碁のルールすら自信のない僕にとっても、こんな真剣勝負をしてみたいと思わせる。囲碁をスポーツと呼ぶかは議論のわかれるところであるが、どんな分野でも自分と同程度の相手と思う存分力を発揮して勝負をする瞬間というのは、最高の瞬間に違いないのだと思い出させてくれた。
体力の衰えによらず一生楽しむことのできる囲碁というものに大きく興味をかきたてられた。
【楽天ブックス】「黒と白の殺意」

「Run!Run!Run!」桂望実

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
岡崎優(おかざきゆう)の夢はオリンピックマラソンで金メダルを獲ること。幼いころから毎日のジョギングを欠かさなかった。彼にとっては箱根駅伝も通過点にすぎない。大学の陸上部へ入部したあとも優(ゆう)の考え方は変わらなかった…。

よくある青春小説だと思って手に取った。何人かの平凡な集まりの平凡な部が、誰かの登場によって少しずつ意識改革を伴いながら遠かった目標に近づいていく…。そんな物語を想像していたので、優(ゆう)の自分を特別視し、他人を蔑む態度はずいぶん新鮮に映った。

仲間と慰め合うのは勝手だけど、そういうのに僕を巻き込まないでくれる?

僕自身も努力とか根性という根拠のないものよりも、科学や理論的な考え方で向上に努める人間だから、彼のそんな自己本位な考え方や歯に絹着せぬ物言いも、どこか共感できてしまう部分があるのであった。それでも優(ゆう)は「自分は特別な人間だから特別扱いされるのが当然」ということまで公言してしまうから、次第に部の中でも孤立していく。

いろんな物語を読みなれている読者なら、ああ、これから彼はどこかで妥協し、仲間の大切さに気づいていくのだろう。と予想するのだろう。しかしなかなかそうならず、さらにいうなら、彼の自信も日々の積み重ねによるものである点が使い古されたスポ魂物語と違う点かもしれない。

また、物語の舞台となっている大学の部活のパソコンなどの技術を駆使し、練習中の血液検査から適度な練習量を測る科学的な取り組み方にも大いに刺激を受けた。
僕自身もうある程度成熟して、人間関係の大切さもわかったつもりでいるが、優(ゆう)のようにわき目も振らずひとつことに一直線に向かう生き方に読みながら、憧れを抱いてしまった。それができるのは、その間に生じる数々の障害を乗り越えられる強い気持ちを持ったものだけなのだろう。

そして物語はそんな優と陸上部の部員たちとのやりとりだけでなく、優(ゆう)の母や父、兄との関係にも及んでいく。

結構、読み始める前の印象以上に心に深い作品であった。

ほかの価値観を知らないから、自分の価値観をたった一つの正解だと思ってしまう。普通は友人や先輩や、そういった自分と違う考え方をもった人と接していくうちに、自分が絶対じゃないってことを学んでいくものなんだ。
CPK(クレアチンホスホキナーゼ)
動物が持つ酵素で、筋肉の収縮の際にエネルギー代謝に関与している。

【楽天ブックス】「Run!Run!Run!」

「金のゆりかご」北川歩実

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
GCS幼児教育センターのGC理論は、幼児期の教育が天才を作り出すというもの。過去の何人もの子供たちにその教育を受けさせてきた。野上雄貴(のがみゆうき)も過去、その教育を受けた一人。そんな彼が今回GCS幼児教育センターに社員として迎えられようとしている。どんな意図が働いているのか。
「胎教」も含めて、幼い頃の教育方法は多くの人の関心の向くところである。本作品では、幼い頃の環境の作り方が多くの知識や考え方を詰め込むのに適した、容量の大きい脳を形成するという考え方を、「CG理論」として挙げており、その教育によって成長した子どもたちと、その周辺の大人たちの様子を描いている。
多くの人が心の奥ではすでに理解している。必ずしも数学や教科ができて、
多くの知識を持っていることが必ずしも「幸せ」に繋がることではないと。だからこそ、本作品の登場人物たちは、その葛藤に苦しめられる。そんな倫理的な側面に加えて、もちろん本編のほうもしっかり楽しませてくれる。
何度も真実の裏に本当の真実が見えてくる。意表をつく展開の本など何度も読んで慣れていると自負している僕でも、「やってくれる」と思わせてくれる展開で、一方でそういう意表をつく展開の物語には、読者の予想を裏切ろうと努めるがあまり内容が希薄になるのだが、本作品はそんなことはなく満足できる一冊だった。
【楽天ブックス】「金のゆりかご」

「竜巻ガール」垣谷美雨

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
今を生きる女性4人を描く短編集。
今でも世の中には男尊女卑の文化は残っているのだろう。僕ら男から見てもたびたびそう感じるのだから、女性たちが感じるその不平等はさらに強く映っているに違いない。
自分の容姿の美しさのせいで性の対照として見られ続け、それを避けるためにガングロになる女子高生。一方、ある三十代の女性は、婚期を逃して会社にとどまり続ける。多くの男性社員が自分より出世し自分は常に若い女性社員と比較され続ける。
男と同じように評価されたとしても、女性たちは仕事ができれば「女性らしくない」とか「家事はできない」「可愛くない」と言われるのだろう。女性たちが生きるのをここまで難しくさせているのは、社会の評価と、男性の評価と、女性の評価があまりにも異なった審査方法をとっているからに違いない。
女性が女性を評価するときの腹黒さに比べれば、男性が女性を「かわいいから許す」などという本人たちの努力無関係に女性を評価する姿勢さえも可愛く見えてくる。

彼女は安心したいのだ。かつての私がそうだったように。
結婚したところで数々の問題を抱えて、不幸になる女が多いという事例をひとつでも多く見て、今の独身生活を選んだ自分が間違っていなかったことを確認したいのだ。

最期の章は日本に住む中国人を夫にした女性の話。仲良くやっていけるか不安がる日本人に対して、仲の良さなど大した問題じゃないと言い張る中国人。そのやりとりはなんとも心に残った。

日本デハ、大抵ノ人、生キテルデショウ

女性達の生き方の困難を理解していない男性たちにお勧めである。
【楽天ブックス】「竜巻ガール」

「終末のフール」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
3年後に小惑星が地球に衝突する。人々は働くのを辞め、学ぶのを辞め、何人かは暴徒と化し、何人かは自ら命を絶った。残された3年という月日を生きている人々を描く。
僕らはいつか死ぬということをもちろん知っていながらも、常にそれは遠い未来だと考えている。だからこそ「3年」と明確に自分の最期のときを突きつけられた人々の様子を通じて、生きることの意味を考えさせようとしているのだろう。
人々がそんなに簡単に命を絶ったり、そう簡単に食料を求めて暴徒と化すのか、正直疑問である。登場人物の一人のキックボクサーの苗場(なえば)さんは、世界の終りが3年後に迫ってもジムに通ってミットにハイキックを撃ち続けている、一風変わった人間のように描かれている。
彼はこういう。

明日死ぬとしたら、行き方が変わるんですか?
あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの行き方なんですか?

「明日死ぬとしたら?」と仮定して自分の行き方を見つめなおす考え方は、新しくもなんともなく、むしろ昔からたびたび語られることであるが、僕が思ったのは、むしろ、これって特別なことだろうか?ということ。こういう人、結構いるんじゃないかと思う。人間そんなに捨てたものではなく、最期まで格好よく生きることがきるのはのは一握りのヒーローだけじゃなく、日本にだって、僕の周りにだってたくさんいるんじゃないかと思うのだ。
そして僕自身も、もちろん実際にそんな状況になってみないとどうなるかなんてわからないが、この物語の中のような状況に陥ったら、なんか、毎日サッカーして、最期の日には空を眺めて楽しめそうな気がするのだが、他の読者はどう感じるだろうか?
今回、伊坂幸太郎という著者が人気ある理由が少しわかった気がする。彼の作品は何かを考えさせようとする、でも決して答えは示さない。そんな内容だから、「人生とは何か?」など、普段深く考えないで生きる人々になにか「はっ」とさせるような強い衝撃を与えるのではないだろうか?

【楽天ブックス】「終末のフール」

「女神」明野照葉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
誰もがあこがれる美貌を持ち、仕事もトップセールスを誇る。そして恋人はエリート医師、と完璧な女性に見える沙和子(さわこ)。そんな折、同じ職場に勤め、周囲と同じように沙和子(さわこ)に憧れる真澄(ますみ)は、ときどき見せる沙和子(さわこ)の不思議な行動に興味を持って、彼女を観察し始める。
本作品で沙和子(さわこ)が見せる生き方は、人々の心に存在する強い願望を象徴しているようだ。人は誰もが誰かにあこがれている。自分より頭のいい誰か、自分より運動の得意な誰か、自分より優れた容姿を持っている誰か。悩みを持っていない人など世の中にはいないのに、人は誰かにそんな理想の生き方を感じるのだろう。
本作品でもる沙和子(さわこ)は、周囲から見ると完璧な女性。しかし物語は沙和子(さわこ)の視点も移り、沙和子(さわこ)にもまた大きな悩みやコンプレックスを抱えながら生きていることが窺える。そして、だからこそそれが自分の描く完璧な人間を演じようといる努力に変わっていくのである。
沙和子(さわこ)の世の中の一般論に左右されない考え方が爽快である。

主婦として家におさまっている女だって、突き詰めてしまえば同じことだ。からだと居心地のよい住環境を提供して、男に食わせてもらっている。客は夫一人かもしれなくても、売春とたいした違いはない。

僕の頭の中にある常識にも波紋を作る。

男というのは「君の幸せ」と言いながら、自分の人生の設計図に女を同伴者として取り込もうとする。

物語は昨今の世の中の怖さを伝えてくる。お金さえ払えば戸籍を買うことも、整形手術をして顔を変えることもできる。皺や肌のたるみを除去して若くみせることもできる。
しかし、多くの人が誰かにあこがれ、「こんな自分は嫌だ」と思ってはいても、実際に行動に移すことはできない。親からもらった顔を変えるのは良くない。体を売るのは良くない。人を欺くのは良くない。そんな「倫理」と呼ばれるものを言い訳にして、何もせずにただ自分の不幸だけを嘆き続けるのだ。
沙和子(さわこ)がこの作品の中でみせてくれるその生き様は、人によっては「そんなもの『幸せ』ではない」と断じるかもしれない。そういう生き方しかできない彼女を「哀れな人」と蔑むかもしれない。でも、「こんな生き方もありなのかもしれない」「こんなふうに強く生きてみたい」と思わせてくれる部分があるからこそ心に響く何かを感じるのだろう。
本作品で興味深いのは、そんな沙和子(さわこ)の生き方を知った数人の人々の見せた反応である。
僕らが持っているそれぞれの価値観は僕らだけのものであり、必ずしも他人の価値観に依存する必要はないのだから、そんな価値観に正直に生きてもいいのじゃないだろうか。たとえ誰も認めてくれなくたって…。
しかし東野圭吾の「白夜行」に登場する雪穂を思い出したのは僕だけではないだろう。
【楽天ブックス】「女神」

「放火」久間十義

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
池袋の雑居ビルで19名の死傷者を出す火災が発生した。新聞記者のまゆ子は真相を究明するため、そして警部補の黒田(くろだ)も警察上層部の動きに不信を感じながらも関係者を当たる。
2001年に起こった歌舞伎町ビル火災を思い起こさせる。実際著者もこの事件をヒントに本作品を描いたのだろう、最初の従業員が脱出するシーンや都市ガスのガスメーターがガス管から外れている点も事件と同じであり、すでに忘れ去った過去の傷ましい事件へと僕の関心を向けさせてくれたが、その一方で、誰にも知られずに夜な夜な放火を繰り返す、というタイトルの「放火(アカイヌ)」という言葉が僕に与えたイメージとその内容はかけ離れているような違和感を感じた。
とはいえ、風俗店に認可を与える公安委員会の事務作業を警察が行うことよって発生する矛盾、すなわち癒着に触れており、物語の視点は非常に面白い。この視点の面白さをもう少し物語の面白さに繋げられないものか、登場人物に誰一人として感情移入できないほどその薄い描写にそう感じずにはいられない、なんとも残念な作品である。

【楽天ブックス】「放火」

「ゆれる」西川美和

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
母の一周忌のために猛(たける)は兄、稔(みのる)のいる田舎に戻り、そこで幼馴染だった智恵子(ちえこ)と再会をする。3人で出かけた際に起きた智恵子(ちえこ)の死という出来事によって、猛(たける)と稔(みのる)という仲のいい兄弟の間に今までと違う空気が流れ始める。
オダギリジョー主演で映画化されて高い評価を得ている「ゆれる」の原作である。と言っても、映画を監督した西川美和による著なので、その内容はほぼ完全に映画と重なる。すでに本を読む2日ほど前に映画を見ているので、物語中の文字に心の中に残っている映像を重ねながら読み進めることができた。
タイトルのとおり、ある出来事を期にゆれる2人の心がなんとも怖く描かれている。幼い頃から優しかった兄、稔(みのる)。弟の猛(たける)もずっと感謝をしていた。優しかった兄が自慢だった。でも、本当に兄は僕に優しかったのか。妬んだり、嫌ったりしたことはなかったのか。自分は本当に兄に感謝していたのか、うっとうしく感じたり、そんな自分を抑えた生き方をしている兄を蔑んだりしていなかったのか。
僕自身も、3人兄弟の真ん中として育ったから、兄弟の間に起こる妬みなどはよくわかる。そして、兄弟の中で「自分だけが両親に愛されていないのじゃないか」という気持ちも。

兄はその冷たさを、その不快さを、感じることがないのだろうか。むしろそういった不快さを常に体に追いながら生きるのが兄の「自然」なのか。
これまで兄が全く怒りの感情を持たないかのようであったことを不思議にも思い。時には苛立ちさで感じながらも、その一方で去勢された不能者を見るような悪趣味な愉悦感を覚えてきた。

この物語中で描かれているそんな複雑で落ち着きどころのしらない心の揺れは決して特別なものでもなく、なにか突発的な出来事が起こったからという理由で、必ずしも引き起こされることではなく、どんな人でも心の中に、抱え、それでも表面上は隠して生きている、そういう類のものなのだ。
とはいえ、個人的には最後の猛(たける)の心を、もう少し説得力を持って描いてほしかった。きっと著者の中では明確な理由を持って説明できていることなのだろうが、読者としてはいまいち納得しかねる、といった印象。それでもこういう人間の感情を描ける著者は自分の知る限り数えるほどなので、その点は評価したい。一般的には映画のほうが小説より評価されているようだが、両方あわせてその世界に浸ることをお勧めする。
【楽天ブックス】「ゆれる」

「警察庁から来た男」佐々木譲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
北海道県警に警察庁から特別監査が入った、監察官であるキャリアの藤川警視正は、監察の協力者として、半年前に北海道県警の裏金問題を証言した津久井(つくい)刑事を指名する。
舞台は「笑う警官」の半年後である。目線は監察官の協力者を努める津久井(つくい)と、別方面の捜査から、道警内部に疑いの目を向ける佐伯(さえき)、新宮(しんぐう)を基本として、物語は展開される。
前作品「笑う警官」を読んだときも感じたのだが、実は「笑う警官」の一個前の作品が存在して単に自分がその作品を読んでいないだけではないか?という疑問は本作品を読んでいる際も感じた。それは、言い換えるなら、この作品の登場人物の過去がそれだけリアルに描かれているということなのかもしれない。
「笑う警官」でも活躍した女性刑事小島百合(こじまゆり)巡査は本作品でも登場し、その、一般的な刑事とは違ったスキルを披露して真実の究明に貢献する。その描写からは間違えなく自分が好む燐とした女性像が想像でき、僕にこのシリーズを好きにさせた大きな要素である。
また、新人警察官の新宮(しんぐう)の成長も注目である。本作品で一つの忘れられない経験をした彼が今後どうやって一人前の刑事になっていくのか。

「おれたちは、骨の髄まで刑事だよな。ただの地方公務員とはちがうよな」
「おれたちは、刑事です」
「目の前にやるべき事件があり、しかもおれたちが解決できることだ。こいつを組織に引き渡すなんて真似はやるべきじゃないよな」
「そのとおりです」

本シリーズの魅力はやはり、その捜査の様子に違和感がないことだろうか、もちろん素人意見ではあるが、不自然な捜査や信じられないような偶然が起きたりしないから、リアルな警察官を感じられる。読者によっては物足りないと思う人もいるかもしれないが個人的には支持したい。

エドウィン・ダン
明治期のお雇い外国人。開拓使に雇用され、北海道における畜産業の発展に大きく貢献した。(Wikipedia「エドウィン・ダン」

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「ブレイクスルー・トライアル」伊園旬

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第5回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。
門脇(かどわき)は久しぶりに再会した旧友、丹羽(にわ)の誘いにより、ブレイクスルートライアルというセキュリティ会社が企画するとある施設への浸入コンテンストに参加することを決意する。ともに人には言えない過去を抱えながら、最新の防犯技術を備えた施設への侵入を試みる。
「浸入」を目的として話は展開するから、そこには多くのセキュリティ技術について触れられている。指紋認証や静脈認証がそれである。それぞれのセキュリティシステムの長所や短所にも触れられている点はいろんな興味を掻き立ててくれるかもしれない。
物語としては、門脇(かどわき)を中心とした視点のほかに、その施設への侵入、もしくはたまたま居合わせたいくつかのグループへと移るが、いずれもその描写は感情移入できるレベルとは言い難く、個人的には、どれか一つに絞ってもっと詳細な成長過程などまで描いて欲しかったと感じている。
また、本筋の施設への浸入のくだりも、読んでて手に汗握るというレベルとは程遠く、全体的には、現代のセキュリティシステムに関する描写に適当に登場人物と物語を肉付けした、というレベル。
正直、この作品と言い「パーフェクトプラン」といい、この「このミステリーがすごい!」という賞自体に疑問を感じさせる内容であった。ひょっとしたら審査員達が「新しくなければならない」「ミステリーでなければならない」などのように、何か間違った方向の意識に縛られているのではないだろうか。

アリステア・マクリーン
スコットランドの小説家。スリラーと冒険小説で成功した。『ナヴァロンの要塞』で最もよく知られている。(Wikipedia「アリステア・マクリーン」
ギャビン・ライアル
イギリスの冒険小説・スリラー小説家。(Wikipedia「ギャビン・ライアル」
ジャック・フットレル
アメリカのジャーナリスト・小説家・推理作家。1912年タイタニック号の遭難事故で死亡。(Wikipedia「ジャック・フットレル」

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「フレンズ シックスティーン」高嶋哲夫

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
15歳のアキの目の前で、親友ユキの父親と妹の優子(ゆうこ)は、暴力団の抗争に巻き込まれて死亡した。親友のユキは心を閉ざし言葉を喋らなくなった。アキは友人の3人と「親友のユキのために自分たちにできること」を探し始める。
15歳という、肉体的には成熟しながらも、精神的には不安定な、アキを含む4人の友人たちの行動が興味深い。それは読者の予想通り、少しずつ間違ったほうに進んでいく。(「間違っている」という考え方自体、僕らの主観的意見に過ぎないのだが)。
何をすればユキは再び喋るようになってくれて、幸せになるのか、そして自分たちは?。若いからこそ、何をすればいいかわからないけど何かをせずにはいられない。冷静にならなければいけないとわかってても心の中に沸き起こる感情に抗うことができない。
それは単純に友人に対して起こった悲劇に対する怒りからだけでなく、不条理な世の中に対する思いや、やりきれない自分に対する怒りの捌け口へと変わっていくようにみえる。
以外だったのは、最後まで読んでも、著者である高嶋哲夫の結論的なものが見つからなかったということだ。そういう点で、過去読んだ彼の作品「ミッドナイトイーグル」や「イントゥルーダー」とはやや異なる印象を持つとともに、結局、この作品はどういう意図で書かれたのだろう?、といった、少々もやもやしたものを感じている。
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