とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

世界を知る

世界の大きな流れを知りたい人向け

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「臨床真理」柚木裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第7回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。
臨床心理士の佐久間美帆(さくまみほ)は、患者として藤木司(ふじきつかさ)という青年を担当することとなった。美帆(みほ)に心を開き始めたように見えた司は「声の色が見える」と言う。
著者柚木裕子のデビュー作品ということらしい。昨今注目が集まる心のケアという分野と、共感覚という一般の人にはおそらく一生かけても出会うことのないだろう特殊能力を組み合わせて、物語を構成している。
物語の中で、信頼を築いた美帆(みほ)と司(つかさ)は手首を切って死んだ女の子、彩(あや)の死の本当の理由を探ろうとするのだが、彩(あや)もまた失語症という普通の生活を送りにくい症状を抱えているため、彼らの生きかたやその特異な能力ゆえの生活のしかたや考え方が見えてくる点は面白いだろう。

失語症患者がパソコンをなかなか使わない理由のひとつに、感じよりもひらがなのほうが判別しにくいということがある。漢字ならば文字を見ただけでイメージが頭の中に浮かびやすいが、ひらがなはひつつひとつ読んでいかないと意味がわからない。

若い著者であろうことをうかがわせるようなIT用語もいくつか出てきて、新しさを感じさせてくれたが、共感覚や福祉施設、臨床心理士など、掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられる題材が揃っていただけに、全体的にちょっと変わったミステリーに過ぎない程度の作品で終わってしまった点が残念である。

【楽天ブックス】「臨床真理(上)」「臨床真理(下)」

「Down River」John Hart

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年エドガー賞受賞作品。
5年前に町を離れたAdamの元へ、旧友のDannyから連絡が入り、Adamは生まれ育った町に戻ることを決める。殺人の容疑をかけられた町、そして母が自殺した町へ。
舞台となるのはノースカロライナ州シャーロット。大きなブドウ園を所有する地元の名士の下に生まれ幸せな子供時代をすごしながらも、母親が目の前で拳銃自殺を図ってから家族の歯車が狂い始める、Adamの行動の中からときどきそんなトラウマが見え隠れする。
5年ぶりに故郷に戻ったAdamは、義理の兄弟や旧友、昔の恋人との再会するなかで、その5年という月日の中で変わってしまったもの、そして未だ変わらないものと向き合い、自分だけでなく、多くの人が同じように5年間苦しみながら過ごしてきたことに気付く。
本作品からは、家族でブドウ園を切り盛りしようとするアメリカの一つの家庭の様子が見えてくる。これはそんな家族の中で起こった小さな間違いから生じた大きな悲劇の物語といえよう。
登場人物それぞれが持っている苦悩の描き方が印象的である。誰もが人は弱く、間違いを犯すものだと知りながらも、自分の不幸を他人のせいにしたり、自分を正当化したり、とその心は常に揺れ動いているのである。そしてそれでも月日は流れていく。近くを流れる、子供時代から親しんだ川、そしてなにかを伝えるかのように表れる白いシカ。いったい何を意味するのだろう。

シャーロット(ノースカロライナ州)
ノースカロライナ州南西部に位置する商工業、金融都市。(Wikipedia「シャーロット(ノースカロライナ州)」

「南アフリカの衝撃」平野克己

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1ワールドカップが近づくにあたって関心の南アフリカ。本書ではその歴史や経済、そしてアパルトヘイトについて書いている。
アパルトヘイトの撤廃からすでに15年近くが経過しながらも未だに犯罪天国と呼ばれ、大きな貧富の格差がある南アフリカ。章ごとに、南アフリカの経済、歴史、日本との関係、と余計な話でページを稼いだりせずに無駄のない構成となっている。ボーア戦争などの植民地時代の歴史から、マンデラ後の、大統領ムベキ、ズマの政策などにも触れている。南アフリカといえばアパルトヘイト。それ以外に大したイメージを持たない僕には多くの興味を与えてくれた。
団体名が最初以外はすべて略称になってしまうので、そのたびにいちいち読み返さなければならないなど、お世辞にも読みやすいとは言い難かったが、内容の濃さを感じた。また、歴史的事実だけでなく南アフリカに在住経験のある著者の視点からだからこそ見えてくるその激動っぷりが見えてくる。
しかし南アフリカのみならず他国の実情を見て、そこに国の自由や平和だけに人生をささげた人のエピソードを知るたびに、自由の認められている国に生まれたことの幸運を感じる。

SADC(南部アフリカ開発共同体) 
南部アフリカ開発調整会議を改組し1992年に設立された地域機関。経済統合や域内安全保障を目指している。(Wikipedia「南部アフリカ開発共同体」
アフリカーナー 
南アフリカ共和国に居住する白人のうち、ケープ植民地を形成したオランダ系移民を主体に、フランスのユグノー、ドイツ系プロテスタント教徒など、宗教的自由を求めてヨーロッパからアフリカ南部に入植したプロテスタント教徒が合流して形成された民族集団である。(Wikipedia「アフリカーナー」
プラチナ 
装飾品に多く利用される一方、触媒としても自動車の排気ガスの浄化をはじめ多方面で使用されている。自動車産業の発達している日本はアフリカからのプラチナの最大の輸入国である。
ボーア戦争  
イギリスと、オランダ系ボーア人(アフリカーナー)が南アフリカの植民地化を争った二次にわたる戦争。南アフリカ戦争、ブール戦争ともいう。(Wikipedia「ボーア戦争」
ナント勅令 
1598年4月13日にアンリ4世が発布。プロテスタント(ユグノー)などの新教徒に対してカトリック教徒とほぼ同じ権利を与え、近代ヨーロッパでは初めて個人の信仰の自由を認めた。1658年の、フォーテヌブローの勅令によりこの勅令は廃止され、迫害を恐れたプロテスタント(ユグノー)の一部が南アフリカに入植する。

【楽天ブックス】「南アフリカの衝撃」

「硝子のドレス」北川歩実

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
菅見英晴(すがみひではる)は突然行方をくらました恋人の実咲(みさき)を探して奔走する。一方、肥満に悩む千夏(ちなつ)はやせるためにダイエットコンテストに参加する。
「金のゆりかご」の巧妙に計算された物語とその過程を裏切らないラストが良かったので、同じく北川歩実の作品ということで手にとってみた。
物語中では千夏(ちなつ)だけでなく多くの痩せたい女性たちが描かれている。その多くが、家族や親類からは「見た目が大事なんじゃない」と諭されながらもそれを受け入れることができずに、「痩せれば私の人生は変わるはず」という考えに縛られながら生きている。
自分の外見が嫌いだから、外出することを控え、それによって運動ができずに、ストレスを発散するには家の中で食べるだけ、という悪循環にはまっている。そして外見に関するコンプレックスはその性格にも現れ、時に被害妄想的な行動をも起こす。
本作品の中でそんな悲劇の一部を見ることができるだろう。
細かいどんでん返しの数々は、「金のゆりかご」と共通するものがあるが、ダイエットを扱った物語ということで、女性でもなく、痩せたいなどと思ったこともない僕にとってはやや共感できかねるシーンが多くなかなか物語に入っていくことができなかった。この辺はひょっとしたら女性の方が理解しやすいのかもしれない。ぜひ女性の感想を聞いてみたいものだ
【楽天ブックス】「硝子のドレス」

「春を嫌いになった理由」誉田哲也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
フリーターの秋川瑞希(あきかわみずき)はとある霊能力者の通訳を勤めることとなった。過去の苦い経験から霊能力を嫌悪しながらも、初日から男性の遺体を発見してしまう。
瑞希(みずき)がテレビスタッフと霊能力者の間で右往左往するエピソードと平行して、本作品中ではもう一つの物語が進んでいく。それは中国の田舎で育ちながらも、日本でお金を手にする夢を描く、中国人兄妹である。
個人的にはその中国人兄妹の日本に密入国するための過程や、日本に到着した後の現実と夢のギャップに打ちひしがれる姿などに、興味を覚えた。
そんな2つの物語が終盤どのように結びつくのか、読者はそんなことを考えながら読むことだろう。
さて、誉田哲也の作品といえば女性の主人公がいつも魅力的なのだが、本作品の秋川瑞希(あきかわみずき)にはやや個性の弱さを覚えた。霊能力という部分ですでに現実からやや離れているという点が、それぞれの登場人物の現実味を薄めている一因かもしれない。
【楽天ブックス】「春を嫌いになった理由」

「サクリファイス」近藤史恵

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第10回大藪春彦賞受賞作品。
ロードレースチームに所属する白石誓(しらいしちかう)は、チームのエースを優勝に導くためのアシストとなることに魅力を感じる。しかしチームのエースには嫌なうわさが囁かれていた。
過去自転車を職業としている人の物語というのは読んだことがあってもロードレースをメインに扱ったものは記憶にない。それぐらい自転車競技というのは日本ではマイナーな存在なのだ。それを裏付けるように、最初の数ページで僕らがどれだけロードレースというものに対する知識がないか知るだろう。そして同時にロードレースが単にマラソンの自転車版という程度の単純なものではなく、他のスポーツにはない魅力をもったものであることも。
さて、物語中では誓(ちかう)が次第にレースで力を発揮できるようになるのだが、そこでチームのエースである石尾(いしお)にまつわる噂が頭から離れなくなる。強い若手に対する嫉妬から過去、若手の一人の大怪我をさせているという噂。
タイトルとなっている「サクリファイス」つまり「犠牲」。これがどんな意味を含んでいるのか。そんなことを考えて読むのも面白いだろう。
最終的にはやや誓(ちかう)の刑事なみの洞察力に違和感を感じながらも、心地よい汗のにおいを感じさせるような青春小説として読むことができた。
【楽天ブックス】「サクリファイス」

「果断 隠蔽捜査2」今野敏

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞受賞作品。
家族の不祥事による降格人事に従って、大森署の署長となった竜崎。その管内で拳銃を持った立てこもり事件が発生する。
「隠蔽捜査」の続編である。そして、主人公は今回も、恐ろしいまでに自分に厳しく生きる東大法学部卒のキャリア竜崎(りゅうざき)である。縦割り社会の警察組織の中にあって、人の顔色を伺うことなく合理的な行動をしようとする竜崎(りゅうざき)は今回も周囲から異質な存在として見られる。それでも少しずつ新しい環境にあって周囲から信頼を得ていくすがたが面白いだろう。
さて、この竜崎(りゅうざき)という登場人物がなぜこんなにも強烈かというと、それはきっと、「真面目」と「賢い」という2つの要素が融合した登場人物というのが日本の文化に今までなかったからではないだろうか。
賢く頭の切れる人間は時にルールを逸脱する。そしていい結果を導くことが長く日本人に受け入れられてきた美学だったのだ。そしてそれと対になるように、真面目な人間はどこか融通が効かずに最終的に損をする。それが良くあるお約束だったのだ。
ところがここで竜崎(りゅうざき)には「真面目」と「賢い」が同居してしまった。そうするとさぞ近づきがたい人間のように聞こえるのかもしれないが、物語はその竜崎本人の目線で進む。理想に近い行動を選択しながらも、心の奥ではつねに信念と規則と人の気持ちと、いろいろなものの重さを量りにかけて決断しているのだとわかるだろう。

「そんなに堅苦しく考えることはない。私用でちょっと出かけるなんてのは、誰だってやっていることだ。」
「みんながやっているからといって正しいというわけではない。」

実はそんな竜崎(りゅうざき)の物事の考え方は、かなり僕にとっても共感できる部分があり、特にこの台詞は印象に残った。

「相変わらずですね。ご自分が正しいと信じておいでなので、何があろうと揺るがないのです。」
「俺は、いつも揺れ動いているよ。ただ、迷ったときに、原則を大切にしようと努力しているだけだ。」

そう、結局、国や誰かの決めたルールで判断するのでなく、人は自分のなかの何かにしたがって判断をし、行動しているのだ。しかしその「何か」が不安定なものならば意味がないし、その「何か」と目の前で起こっている事実を照らし合わせるためには、知識や観察力が必要。だから僕らは学ぶのだ。
【楽天ブックス】「果断 隠蔽捜査2」

「The Girl with the Dragon Tattoo」Stieg Larsson

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
名誉毀損の有罪判決を受けた、失意のジャーナリストBlomkvistの基に、すでに第一線を退いた経済界の大物、Vangerから仕事の依頼が来る。それは30年前にいなくなった当時17歳の少女の事件を解決して欲しい、というものだった。
物語の舞台はスウェーデンの田舎町である。事業家のVangerの家系ゆえに、その親類や関係者たちで居住者の多くが占められており、その日は、唯一他の場所へ行くルートとなっていた橋で交通事故が起こったため実質孤立した場所となっていた。そんな中で消えた少女。残された写真や警察の調査報告書から少しずつ真実に近づいていこうとする。
「どうして彼女は…」とか「彼女は一体何を…」というように、今は存在しない彼女の心を推し量る場面では、名作、宮部みゆきの「火車」や同じく宮部みゆきの「楽園」で味わった空気と同じものを感じさせてくれる。関係者に30年前のことをたずねて歩くうちに、それぞれが持つ思いを知っていく。

家族にとってはそれは時間がかかるだろう。でもそのうち彼らも悲しみと失望を乗り越え、元の生活に戻っていく。なぜなら人生は続くし、生きていかなければならのだから。そして最後は、昼も夜も被害者のことを考えるのは、調査を続けなければならない刑事ただ 1人になる。

そんな Blomkvistの調査と平行して、話はタイトルにある、竜の刺青のある女Salanderの物語も進んでいく。スウェーデンを含む北欧の国々と聞くと、僕らは日本と比較してはるかに教育体制が整っているような印象を持つが、彼女はその生い立ちから、生きていくために後見人制度に頼らざるを得ない。そこで発生する問題からは、北欧といえどもまだまだ多くの改善すべき点があると感じさせてくれる。
さて、少女の失踪の秘密は、やがて聖書の中の文章と深く結びついていく。その過程で、僕の興味を強くひいたのが聖書の「外典」の話である。聖書はもともとヘブライ語で書かれているが、その原典に存在しないもの(つまり選出されなかったもの)を「外典(Apocrypha)」と呼び、カトリック、東方教会、プロテスタントでそれぞれ選定の基準が異なる。というもの。
こうやって徐々に徐々に真実が明らかになっていく物語、というのは、どうしても期待感を高めすぎてラストがそれに伴う衝撃を用意できていないことが多いのだが、本作品はその点も及第点はつけられる。
物語中で登場する多くの地名がスウェーデン語であるということから、言語にも興味を持つだろう。ただの謎解きだけでなく、ヨーロッパから、やがてはオーストラリアにまで広がるスケールと、読んでいるなかで多くの現実の問題や人々の生活に深く根付いている宗教にまで物語は広がり、非常に楽しめた。
読んでいる最中に、翻訳して出版したくなったが、先日本屋で「ドラゴン・タトゥ-の女」というタイトルで邦訳が並んでいるのを発見したので、興味がある方はそちらも手に取ってみるといいだろう。もちろん、英語で読んでも非常に読みやすい。500ページを超えるその厚さに多少躊躇するかもしれないが、読み始めれば時間も忘れて読み進められることだろう。

ウプサラ
スウェーデン中部の都市で、ウプサラ県の県都。人口は約13万人(2000年)で、スウェーデン第4位。よりスウェーデン語に近い発音はウップサーラ。北欧最古の大学であるウプサラ大学がある。(Wikipedia「ウプサラ」
キルナ
スウェーデンで最も北に位置する都市(正確には、市、kommun)である。鉄とライチョウがが街にとってとても重要な産業であり、またキルナという名称がサーミ語のギーロン(Giron、ライチョウ)に由来している事による。(Wikipedia「キルナ」
ペンテコステ派<
キリスト教のプロテスタント教会のうち、メソジスト、ホーリネス教会のなかから1900年頃にアメリカで始まった聖霊運動、つまりペンテコステ運動 (Pentecostalism)からうまれた教団、教派の総称ないし俗称。(Wikipedia「ペンテコステ派」
参考サイト
Wikipedia「旧約聖書」
Wikipedia「外典」

「夜を急ぐ者よ」佐々木譲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
追っ手から逃れるために沖縄にたどり着いた原田泰三(はらだたいぞう)は、台風が過ぎるまでとあるホテルへ身を潜めることにした。そこで一人の女性と出会う。
佐々木譲が直木賞を獲った影響だろう。過去の佐々木譲作品が書店の棚を飾ることが多くなった。本作品もそんな中のひとつである。とはいえやはり今ほど評価の高くなかった時代に書かれたこともあり、物語中に際立った個性は感じられない。
非常に読みやすいという点では評価したいが、もう一度同じ著者の作品を手に取りたい、と思わせるような魅力はない。
内容まさに典型的なハードボイルドといえるだろう。ハードボイルドの明確な定義があるのかどうかはわからないが、「銃」「男女」「愛」という必須項目と思えるものを本作品もしっかり満たしている。あまりにも王道なので、読書の原点に戻ったような気分さえ感じた。

ラッフルズ・ホテル
シンガポールの最高級ホテル。(Wikipedia「ラッフルズ・ホテル
ウチナーグチ
沖縄諸島中南部(沖縄本島中南部と慶良間諸島、久米島、渡名喜島、粟国島、奥武島、浜比嘉島、平安座島、宮城島、伊計島)で話される言語の総称。(Wikipedia「沖縄方言」
ノーマン・メイラー
アメリカ合衆国の作家。ノンフィクション小説の革新者。(Wikipedia「ノーマン・メイラー」

【楽天ブックス】「夜を急ぐ者よ」

「HOT ROCKS」Nora Roberts

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
犯罪者である父親を持っているという過去を捨てて、新しい場所で自分の店を開いていたLaine Tavish。ある日、彼女の店に年老いた男が訪ねてくる。一方ニューヨークでは2800万ドルのダイヤモンドが盗まれたという。
恋愛小説のベストセラー作家NoraRobertsの作品。Laineの父親が絡んだダイヤモンドの強奪によってLaine自身も犯罪に巻き込まれていく。一方で保険会社に雇われて、ダイヤモンドを取り戻そうとする私立探偵のMax。Maxはダイヤモンドのありかを探るために娘のLaineに近づく。
なんといっても犯罪者の娘という設定が面白い。それゆえに物語中で見えてくる、Laineの賢さやしたたかさが彼女自身を魅力的に見せてくれる。終盤、Laineは数年ぶりに、今も犯罪を続けている父親と再会する。そこで、まだ子供だと思っていた娘が、自分の店を持ち、自分の人生をしっかり生きている姿に、ショックを受けながらもどこか誇らしげな父親Jackの態度が印象的である。その一方で、娘のLaineに会いに行くための交通手段としてさえも、車を盗み、娘にしかられる父親のやりとりもほのぼのとしていて一つの見所と言えるだろう。

「車を盗んで、その車で私の家まで来たのね?」
「どうすればよかったんだ?ヒッチハイクか?」

父親のJackが犯罪者でありながらも憎めないのは、やはりその犯罪を通じて人を傷つけたり、被害者の人生に致命的な傷をつけるような犯罪はしないという哲学のせいだろう。ルパンやキャッツアイなど、多くの英雄的に犯罪者が持っている哲学でありがちではあるが、読者を引き付けるためには必要な要素なのだろう。
それにしても、J.D.Robbs(Nora Robertsがサスペンスを書くときに使用している名前)の著者名で書かれている巻末のエピソードが物語を複雑にしている。一体これはどういうことなのか。誰かの解説が欲しいところだ。

「スロウハイツの神様」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スロウハイツでは、6人の男女がそれぞれ夢を追い、お互いに刺激を与えながら生活をしていた。そんな6人の間で繰り広げられる日々を描いている。
一つ屋根の下で6人もの男女が共同生活をするという設定に関してはやや現実離れしている感はあるが、そこで描かれる、上下関係や友情、才能や成功に対する妬みや、友情から来る厳しさなど、随所に辻村深月らしい、鋭くえげつないまでの感情の描写が見て取れる。
他の5人が中学生の頃から小説家として作品を世に出していたチヨダ・コーキという作家と、脚本家としてすでに成功している赤羽環(あかばねたまき)の2人はやや異質な存在として描かれていて、その2人を中心にスロウハイツは回っている。
チヨダ・コーキは人付き合いが苦手で、自分の作品が人々に影響を与えることに喜びを見出すようなタイプで、赤羽環(あかばねたまき)は自分にも他人にも厳しく、見ていて痛々しさを感じさせるような決して弱音を吐かないで生きていくタイプである。
物語中ではチヨダ・コーキの作品の影響で起こったとされる15人の少年が死んだ事件が大きな出来事として描かれている。そこには物事の悪い部分ばかりに注目する世のメディアや評論家達の傾向が見える。
痛々しいのは一読者がメディア宛てに送ったこんな手紙。

派手な事件を起こして、死んでしまわなければ、声を届けてもらえませんか。生きているだけではニュースになりませんか。今日も学校に行けることが「平和」だったり、「幸福」であるのなら、私は、死んだりせずに問題が起こっていない今の幸せがとても嬉しい。……功罪の功の方はほとんど表に出ることはありません。

物語は現在を中心に話は進むが、ときどき過去に戻ってその背景を説明していく。しだいに見えない糸によって彼らがスロウハイツという場所に集ったことが見えてくるだろう。
辻村深月にはここ2作品ばかり、やや期待を裏切られたような印象とともに受け止めていたのだが、本作品には最初の頃の良さがよみがえってきたような印象を受けた。なんといっても、相変わらず伏線の散りばめ方に上手さを感じる。前半になにげなく読み過ぎていった内容が後半部分で描かれた重要事項にぴったりはまる。この感覚を味わえるのは僕の知る限り辻村深月作品だけだろう。また、女性著者ならではの人の感情の描写力もその大きな魅力である。
【楽天ブックス】「スロウハイツの神様(上)」「スロウハイツの神様(下)」

フィクションだけでなく

このサイトは今まではフィクションのみの感想を書くというコンセプトで進めてきたのだが、今年からはノンフィクションについても書いていこうかと考えている。
というのは、フィクションでもお面白い作品というのは必ずといっていいほど現実を取り入れているし、実際、作家でいえば横山秀夫は新聞記者だからこそ、「クライマーズハイ」の中の新聞社の様子があそこまでリアルに描かれるのだと思うし、藤原伊織は広告代理店に勤めていたからこそ「シリウスの道」で描かれる職場の様子はリアルなのだろう。池井戸潤の「空飛ぶタイヤ」もフィクションではあるけれど、現実の事件をもとに描いていることは明らかである。海堂尊も医者だからこそ、日本の医療の問題点を小説に落とし込むことができるのだ。
そう考えると、フィクションとノンフィクションの境目は面白い小説ほど曖昧であり、そんな現実を描いた小説に影響され、そのことについて「もっと知り合い」と思って新書などを手に取ることも少なくないのである。
つまり、別に自分の中でフィクションとノンフィクションの間に線を引く必要はなく、読んだものに対して、自分なりに消化する場になればいいのではないかと思い始めたのである。

「イノセント・ゲリラの祝祭」海堂尊

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
田口公平(たぐちこうへい)は病院長の命により、厚生労働省で行われる会議へ出席することとなった。
残念ながら御世辞にも序盤は面白いとは言えない。多くが会話につきており、登場人物の名前や組織名の多さに、一つ一つ整理して読まないととても話についていけない。漠然と理解した範囲でまとめると、どうやら物語は先進国の中できわめて低い解剖率のせいで、多くの犯罪が見過ごされるであろうという日本の社会の懸念を解決する手段として、エーアイの導入を改革派が叫んでいるにもかかわらず、現在の地位を守るために保守派が難癖をつけて却下させようとしている、ということらしい。
ところが「イノセント・ゲリラ」こと、彦根信吾(ひこねしんご)の登場によって物語りは一気に面白くなる。過去の作品で「ロジカルモンスター」こと厚生労働省の役人、白鳥圭輔(しらとりけいすけ)が行ってきた、権力にしがみつく保守派の医者たちの屁理屈をことごとく論破していく姿。今回はそれを彦根信吾(ひこねしんご)が見せてくれる。必死で現状の破綻した制度を維持しようとする官僚たちを切り捨てていく姿はなんとも爽快である。

「国家システムに競争原理を働かせては、ゆがんで壊れてしまう」
「競争原理を行政制度に導入した時に壊れるのは、官僚が手にしている既得権益だけだ」

しかし、全体的に見るとなかなかお勧めできる作品ではない。日本の医療問題をいろいろ考えさせたいのはわかるが、やはりある程度面白さを全体的に意地しなければ、読者を引き込んで、その方向へ目を向けさせるのは難しいのではないだろうか。
そういう意味では前半は僕にとってはひたすら退屈な展開であり、後半部分の面白さを評価したとしても、及第点を与えられる内容ではない。

検案
医師が死体に対し、死因、死因の種類、死亡時刻、異状死との鑑別を総合的に判断することをいう。死体検案の結果、異状死でないと判断したら、医師は死体検案書を作成する。異状死の疑いがある場合は検視を行い、死因などが判断できない場合は解剖を行う。(Wikipedia「検案」
参考サイト
Wikipedia「監察医」

【楽天ブックス】「イノセント・ゲリラの祝祭(上)」「イノセント・ゲリラの祝祭(下)」

「ブラックペアン1988」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1988年。世良正志(せらまさし)は研修医として東城大学医学部付属病院で外科としての第一歩を踏み出す。そこで初めて見る現実や、常識はずれな医師たちに出会う。

海堂尊作品ということで、過去の経験から、他の海堂作品と繋がっているのだろうと思いながら読み進めていたがなかなかつながらない。何人かの登場人物の名に聞き覚えを感じながらもなかなか繋がらない。そう思いながら上巻の中盤に差し掛かったところで、研修医として、田口、速水、島津という3人が登場。どうやら「チームバチスタの栄光」の数年前を描いたものらしい。そこでようやくタイトルの1988の意味に気付くに至った。

つまり生意気で破天荒な振る舞いをする医師高階(たかしな)は将来、「チームバチスタの栄光」で東城する病院長ということになるのだ。世良を驚かせた医師は高階(たかしな)だけでなく、昇進を拒みながらも技術の向上にこだわる渡海(とかい)もまたその一人である。

物語前半は対照的な考え方をする高階(たかしな)と渡海(とかい)のやりとりが面白い。

どんなに綺麗ごとを言っても、技術が伴わない医療は質が低い医療だ。いくら心を磨いても、患者は治せない。
心無き医療では高みには辿りつけません。患者を治すのは医師の技術ではない。患者自身が自分の身体を治していくんだ。医者はそのお手伝いをするだけ。手術手技を磨き上げるのも大切だが、患者自身の回復力を高めてやることも同じくらい重要なことだ。<

そして、その2人の間に挟まれながらもいい刺激を受けて成長していく世良(せら)が前半の見所といえるだろう。

一見いがみ合っているように見えながらもこんな個性的な医師たちが、最終的に見事な化学反応を起こし病院という巨大組織を機能させていくところが面白い。「ジェネラル・ルージュの凱旋」でも感じたことだが、お互いの力を認め合うこんなシーンを見ると、かっこよさよりもそんな環境で仕事ができることに対する嫉妬を覚えてしまう。

そして終盤は、教授である佐伯(さえき)に焦点があてられる。物語序盤は医療の脚を引っ張る癌細胞のような存在に見えていた佐伯(さえき)も、その本音を知ればかっこよく見えてくることだろう。

私が病院長を目指す理由は、てっぺんに近づけば近づくほど自由度が上がるからだ。自由度が上がれば、自分より能力が低い連中にとやかく指図されなくなる。

そして最期は佐伯(さえき)が執刀するときのみに使用するという黒いペアン(医療器具)の存在理由が明らかになる。

かっこよく、すがすがしく、そして医療の在り方、医師の在り方について考えさせてくれる作品である。

ウィルヒョウ
ドイツ人の医師、病理学者、先史学者、生物学者、政治家。白血病の発見者として知られる。(Wikipedia「ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョー」

【楽天ブックス】「ブラックペアン1988(上)」「ブラックペアン1988(下)」

「警官の血」佐々木譲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年このミステリーがすごい!国内編第1位

昭和23年。警察官として人生を歩み始めた安城清二(あんじょうせいじ)。そんな父親の警察官としての生きかたを見て、息子の民雄(たみお)、そしてその息子の和也(かずや)も警察官として生きることを選ぶ。
” >笑う警官」以降、今野敏と並んで警察小説の雄とされる佐々木譲の長編である。物語の始まりは、戦後の混乱の続く、昭和23年である。家族を支えるために警察官になろうという清二(せいじ)の決意から、60年にも及ぶ親子3代の警察物語が始まるのである。
面白いのはその時代背景の描き方だろう。時代は大きく移りながらも、基本的にはその舞台は上野周辺を描いているため、その時代の日本人の生活事情が大きく反映されている。昭和の清二(せいじ)の時代からは、戦後の混乱ゆえに、多くのホームレスが上野周辺で生活しており、多くの人々が生きることにすら不安を覚えている、今からは考えられないような生活である。そして、そこで起きる、窃盗や殺人事件に対応しながら治安を守るのが、清二(せいじ)の主な仕事であったのに対して、二代目の民雄(たみお)の捜査の対象は赤軍派というテロ組織へと変わる。そして三代目の和也(かずや)の任務は、同じ警察組織の刑事の汚職を疑った内部調査となる。
警察の組織が大きくなるに従い、対応しなければいけない犯罪の規模も大きくなるとともに、大きくなったがゆえに内側から汚職が発生する、というように、時代に伴って変化する警察組織が見て取れる。
警察物語としては特に大きな事件が発生するわけでも、興味深い謎が発生するわけでもなく、読者を寝不足にさせるほどの吸着力もないが、警察という職業に対する、3人の強い気持ちと、それと同時に、組織の大きさゆえに人生を大きく狂わせてしまうような、圧倒的な、その組織や時代の流れの大きさを感じさせるような作品である。

ノンポリ
英語の「nonpolitical」の略で、政治運動に関心が無いこと、あるいは関心が無い人。(Wikipedia「ノンポリ」
Wikipedia「共産主義者同盟赤軍派」
Wikipedia「巣鴨拘置所」
Wikipeida「キューバ革命」
Wikipeida「谷中五重塔放火心中事件」

【楽天ブックス】「警官の血(上)」「警官の血(下)」

「ひまわりの祝祭」藤原伊織

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自殺した妻と瓜二つの女性と出会った秋山(あきやま)は、その後、数人の男たちに監視されていることに気付く。それは亡くなった妻が残した謎に拘わることだった。
本作品はゴッホの作品を物語の鍵として扱っている。秋山(あきやま)やその亡くなった妻も美術に造詣が深く、おのおののエピソードには、ゴッホだけでなく、多くの画家の名前や、用語がちりばめられている点が、非常に面白く、その方向に興味のある人には物語の面白さをさらに深く味わえるのではないだろうか。
物語は藤原伊織の作品らしく、年配の少し浮世離れした男性を主人公として扱っていて、その生きかたがまたかっこよく、思春期を過ぎた僕らに「まだまだこれからだ」と思わせてくれるような力がある。
前回読んだ「シリウスの道」があまりにも傑作だったために、本作品は読む前にハードルが上がりすぎていた感があるが、悪くないできである。

人間を動かす要素は三つあるそうです。カネ、権力、それに加えて、美。つまり欲望の要素ですね。だけど、僕はその逆もあるんじゃないかと考えた。この時代、人はまだ誠実によって動かされることがあるかもしれない。
コルサコフ症候群
側頭葉のウェルニッケ野の機能障害によって発生する健忘症状である。(Wikipedia「コルサコフ症候群」
デ・クーニング
20世紀のオランダ出身の画家。主にアメリカで活動した。抽象表現主義の画家で、具象とも抽象ともつかない表現と激しい筆触が特色である。(Wikipedia「ウィレム・デ・クーニング」
アーシル・ゴーキー
20世紀のアルメニア出身のアメリカの画家。(Wikipedia「アーシル・ゴーキー」
国吉康雄
洋画家。岡山県岡山市中出石町(現・岡山市北区出石町一丁目)出身。 20世紀前半にアメリカを拠点に活躍、国際的名声を博した。(Wikipedia「国吉康雄」
アンドリュー・ワイエス
アメリカン・リアリズムの代表的画家であり、アメリカの国民的画家といえる。日本においてもたびたび展覧会で紹介され、人気が高い。(Wikipedia「アンドリュー・ワイエス」

【楽天ブックス】「ひまわりの祝祭」

「失われた町」三崎亜紀

オススメ度 ★☆☆☆☆ 1/5
数年に一度起きる「町の消滅」。そんな不思議な世界で人生を左右される人々を描く。
登場人物の名前や地名などから、途中まで日本を舞台にしたとした物語と思って読み進めていたのだが、途中からどこか別の惑星の話のようなファンタジーのような雰囲気さえも感じた。にもかかわらず最終的に結局どこだかわからない。空想の世界の話であれば最初から登場人物の名前をカタカナにしてくれればわかりやすいと感じた。
そもそもの「町が消滅する」という常識はずれな設定は、本作品の根底となるテーマらしいから目をつぶるとしてもそれ以外も展開も登場人物たちの判断もスピーディすぎて、台詞も行動もすべてが現実感に乏しく感情移入などできるはずもなく、きっと著者の中では素敵な物語が展開しているのだろうが、読んでいる側としては、登場人物たちが、物語の中で頑張れば頑張るほどその薄っぺらでありきたりな行動に冷めていってしまった。
人々の一生懸命生きるさまや、運命に翻弄される姿、出会いや別れの感動を伝えたいならなにも「町が消滅する」などという設定じゃなくても、戦争だったり、災害だったりと、いろいろ描き方はある気がする。最終的になぜ、「町が消滅する」という舞台設定にしたのかの著者の意図も見えてこない。たびたび語っていることだが、常識外れの舞台設定をした場合、その違和感を覆い隠すぐらいの感動や面白さを提供しなければただの駄作で終わってしまう。今回はその悪い例。
読むのがつらくてあと何ページあるんだろうとなんども残りのページ数を確認してしまった。著者が好き勝手に書いただけという印象。残念ながら本作品には昨今の読書離れの一端を見た気がする。いろいろ批判してしまったが唯一、文章の紡ぎ方は非常に綺麗だった。(だからこそ物語の失望が大きかった)。
とはいえ、広い世の中にはこういう物語が好き、という人もいるのかもしれない。
【楽天ブックス】「失われた町」

「TOKAGE 特殊遊撃捜査隊」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大手都市銀行の行員3名が誘拐された。警視庁捜査一課特殊犯係の上野(うえの)も捜査員として加わることになる。
誘拐事件を扱った物語と言ってしまえばなんともありきたりな印象を与えるかもしれないが、そこは今野敏らしく登場人物もそれぞれから事件を見つめる視点も個性的で魅力的な作品に仕上がっている。
そのタイトルの通り本作品はトカゲと呼ばれる警視庁捜査一課特殊犯捜査係の覆面捜査部のメンバーに焦点をあてているが、そのトカゲの中にも経験豊富な涼子(りょうこ)と、訓練は積んできたが誘拐事件にかかわるのは初めてという上野(うえの)という対照的な存在があり、その二人のやりとりが非常に面白く描かれている。
涼子(りょうこ)は女性でありながら誰もがその能力を認めており、今回の誘拐事件を通じて、初の実践となる上野(うえの)に多くを学ばせようとするのである。そんななか印象に残ったのは、今回の事件を通じて少しでも多くを学ぼうとする上野(うえの)が信頼できる上司である高部係長と同じトカゲの涼子の間で起こる阿吽の呼吸に対して嫉妬する箇所だろうか。

2人の間には他人が踏み込めない雰囲気がある。男女の関係ではない。優秀な捜査員同士の共感、あるいは連帯感だ。

本作品はそんなトカゲの2名だけでなく、前線本部や捜査本部でもそれぞれそこにいる人々の思惑が交錯し目に見えない駆け引きが繰り広げられる点が面白い。例えば前線本部、つまり本作品の誘拐事件では身代金を要求された銀行であるが、そこに詰める交渉のスペシャリストのたがみを含む警察職員と、事件は解決して欲しいが表には出せない多くの事情を抱える銀行の幹部社員たちのやりとり、そしてもちろん犯人とのやりとりも魅力である。
また、銀行を相手取った誘拐事件ということで、銀行が過去に行ってきた貸し渋りなどによって犠牲となった中小企業や、公的資金など世の中のあり方について考えさせられるような内容にも触れている。
久しぶりに今野敏作品を読むとやはりその読書を続けるのをさえぎられたくないというような物語の吸引力を感じる。
【楽天ブックス】「TOKAGE 特殊遊撃捜査隊」

「ラスト・セメタリー」吉来駿作

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
18年前に死んだはずの友人葛西(かさい)が帰ってきた。葛西は次々と仲間を殺している。深町(ふかまち)、ハルなど昔の仲間たちが再び集まり始める。
物語は高校の仲間たちと、そのうちの一人の家の裏に広がっていた、死者を復活させるという森「死にながらの森」を舞台として進む。その視点は18年前と現代を行き来しながら、生き返った仲間、葛西(かさい)が迫ってくる様子と、18年前に葛西(かさい)が死に、彼を生き返らせるために行う儀式の核心へと徐々に迫っていく。
興味深いのは本作品の中で、「人を、その人たらしめているのはその人の記憶である」という考え方だろうか。外見が変わっても声が変わっても、その人がその人の記憶を持っていればきっとその人がその人だと、多少時間がかかったとしても周りが気付くことができる、というのである。
後半に18年前に仲間たちと行った儀式が描かれたのち、物語の視点は再び現代に戻って、その後、多くの仲間たちが悩まされた不幸が描かれていく。
登場人物たちのまわりで起こる不思議な現象が少しずつその世界観によって納得する形で説明されるにもかかわらず、心にとどまり続ける不思議な感覚、このユニークな世界観は昨今の書店にあふれた本に飽きた人には何か新しい衝撃を与えるかもしれない。
【楽天ブックス】「ラスト・セメタリー」

「パンデミックアイ 呪眼連鎖」桂修司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
弁護士の伊崎(いざき)は北海道の刑務所の保護房に入った直後に不審な死をとげた2名の事件を調べるため、同じように保護房に入るが、その日から悪夢に悩まされるようになる。同じように悪夢に悩まされ始めた刑務所職員たちとその解決に奔走する。
怨念を扱った作品ということで、怨念の名作「リング」とついつい比較してしまうが、本作品が、「リング」と異なるのは、不思議な悪夢に悩まされる伊崎(いさき)がその謎を解こうとする現代を舞台とした物語と、その悪夢の中に登場する、泰造(たいぞう)と、同じ名を持つ男の明治時代の物語が交互に進むことだ。
それによって読者は、現代と過去の2つの方向から、その悪夢の原因となった出来事へ少しずつ迫っていくような感覚を抱くことができるだろう。弁護士である伊崎(いさき)たちの現代の物語からはただの怨念の謎解きだけでなく、犯罪者たちの近くで生きている刑務所職員との会話などから、犯罪者という人間に対する興味深い考えに触れることができる。

できる子の側から見れば、どうしてできないのかも分からない、そんな子供たちがいたでしょう?それと同じように、どうしても善悪が分からない人間がいるのです。

そして明治時代を舞台とした泰造(たいぞう)の物語からも、発展途上の日本であったがゆえに未完成のシステムの中で犠牲になった多くの人々のその悲劇にも目を向けさせてくれる。「あの時代に北海道で一体何があったのだろう。」と、歴史の教科書に書かれていないことに多くの読者が興味を持つのではないだろうか。
数十年前に起こっていた日本の悲劇は、アフリカや東南アジアなど、現在でも多くの発展途上国で起こっている悲劇と共通する部分があるに違いない。ただ単に読者を怖がらせるだけでなく、歴史的な出来事に目を向けさせる広がりを持った作品である。
【楽天ブックス】「パンデミック・アイ呪眼連鎖(上)」「パンデミック・アイ呪眼連鎖(下)」