とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「交渉人・爆弾魔」五十嵐貴久

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
交渉人である遠野麻衣子の携帯に、シヴァと名乗る人物から、宗教団体の幹部を釈放するよう要求があった。時を同じくして都内で爆弾事件が発生する。
「交渉人」の続編であり、遠野麻衣子も前作で活躍したヒロインであり、前作の2年後を描いている。交渉人という言葉は、すでにその名を使った数多くのドラマや映画が存在していることからも分かるとおり、一般的なものとなっている。
そんな中、僕らが持っているイメージはおそらく、立てこもり犯などと電話で交渉する姿だろう。ところが本作品の「交渉」はメールと、警視庁のウェブサイトへのメッセージのアップロードという形を取っている。どちらかというと「交渉人」というより、優れた洞察力を持つ女性刑事の事件といった印象が強い。
物語では中盤、爆弾が仕掛けられているという情報をメディアが流したことによって、都内は逃げようとする人々でパニックになり、交通網は麻痺していく様子が描かれている。そこには物語の展開という以上に、日本の大都市の大規模なテロに対する備えに対する作者の危惧が見て取れるような気がする。
ただ個人的にはやや違和感を覚えた。たった一つの爆弾の存在だけで、人々は電車から勝手に降りようとするだろうか、と。物語に必要な展開だったから、と言ってしまえばそれまでだが。
ケチをつけられるところはいくつかあったが、物語の演出として受け入れられる程度のもの、五十嵐貴久のほかの作品と同様に、一気に読ませるそのスピード感は評価できる。
ちなみに本作品は米倉涼子主演のドラマ「交渉人」とはまったく関係がない。
【楽天ブックス】「交渉人・爆弾魔」

「The Girl who Played with Fire」Stieg Larsson

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Lisbeth SalanderはBlomkvistと距離を置くことを決めて海外に旅に出る。一方Blomkvistは、新たな2人のパートナーと共にスウェーデンの裏に広がる性売買の実態を暴こうと動き出す。
Stieg Larsson三部作の第二作である。前半は前作「The Girl Who has The Dragon Tatoo」の後のSalander、Blomkvistとその周辺の様子が描かれて、ややスピード感に懸ける部分があるが、3つの殺人事件を機に、Salanderが追われる身となって、物語は一気に加速する。
面白いのは、事件を巡って3つの方向から真相を究明しようとする動きがあることだろう。一つは警察であり、残りの2つは、Salanderの無実を信じる、Blomkvistと、Salanderの職場である、警備会社である。
一見ただの殺人事件に見えていたものが、次第にSalanderの過去と深く関わっていることが明らかになってくる。「All The Evil」と呼ばれた日、Salanderに何が起こったのか、すべての公式な記録から抹消されたその出来事。その結末はまたしても想像を超えてくれた。
また、凶暴な売春婦と一般的に忌み嫌われているSalanderを、わずかであるが信頼している数人の人間がいて、彼らが必死になってその無実を証明しようとする姿がなんとも温かい。特に、彼女の保護者であり理解者であったPalmgrenとチェスをするシーンなどでは、彼女の中の優しさのようなものも感じさせてくれる。
物語としては文句なし。個人的にはもう少しスウェーデン語やスウェーデンの地名を知っておいたほうが楽しめるだろう、と思った。

Presbyterianism
キリスト教プロテスタント教会の中で、カルビン派を崇拝する派のこと。
GRU
ロシア連邦軍における情報機関。参謀本部情報総局を略してGRUと呼ばれる。旧ソ連時代から存続している組織である。(Wikipedia「ロシア連邦軍参謀本部情報総局」
Minsk
ベラルーシ共和国の首都。
アスペルガー症候群
興味・関心やコミュニケーションについて特異であるものの、知的障害がみられない発達障害のことである。「知的障害がない自閉症」として扱われることも多いが、公的な文書においては、自閉症とは区分して取り扱われていることが多い。(Wikipedia「アスペルガー症候群」

「ダンサー」柴田哲孝

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
遺伝子工学の研究所から姿を消した謎の生命体「ダンサー」。ルポライター有賀雄二郎(ありがゆうじろう)は同じ時期に姿を消した息子の雄輝(ゆうき)を探す。
柴田哲孝の久しぶりの作品。「TENGU」で大きな衝撃を与えてくれた著者だが、その後、同じく未確認生物を扱った「KAPPA」「RYU」はややマンネリな印象を受けた。そしてやや間を置いて出版された本作品。人に危害を与える生き物を扱っているという点では前の3作と共通しているが、そこには遺伝子操作という今までの作品にはなかった最先端技術が盛り込まれている。
本作品ではなんらかの遺伝子操作で生み出された「ダンサー」が一人の女性志摩子(しまこ)のもとへと向かう。志摩子(しまこ)と「ダンサー」の関係。それががもっともこの物語の面白い部分であり、読者はどういうつながりが二人にあるのだろう、と考えさせられる。その答えは、人間の未知なる可能性を見事に取り入れたものとなっている。
同時にそんな超自然的な展開に説得力を持たせるために、世界で報告されている不思議な症例について触れている点も柴田哲孝らしい。「サイ追跡」「帰巣本能」という言葉にはなんとも好奇心をかきたてられる。
さて、本作品は「KAPPA」の10年以上後を描いており、ルポライター有賀雄二郎(ありがゆうじろう)の息子の雄輝(ゆうき)はすでに大学生となっており、本作品ではその2人が十二分に活躍する。あまりにも早くこの2人が歳をとってしまったころから、おそらく著者自身、このシリーズをそう長く書き続ける気がないことが想像でき、その点はやや残念である。
そして、2人のたくましい親子だけでなく、有賀(ありが)のもう1人のパートナーである犬のジャックも活躍する。彼目線で描かれたシーンは涙を誘う。長年共に過ごした主である有賀(ありが)に対する思いに、命の尊さを感じるかもしれない。その一方で事件を形成している要因の一つが、命の尊さを無視した動物実験の結果というところがこの作品の深いものに仕上げているのだろう。
「TENGU」にこそ及ばないが、十分に満足のいく作品だった。
【楽天ブックス】「ダンサー」

「追伸」真保裕一

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ギリシアに滞在している山上悟と日本にいる奈美子の手紙のやりとりで構成される物語。本作品に手紙の内容以外の要素は一切ない。作者である真保裕一の一つの挑戦的な作品である。
2人の何往復にもわたる手紙のやりとりによって少しずつ2人の置かれた状況や、その家族、周囲の人との関係までもが明らかになっていく。きっと、小説を書いた経験のある人や、実際に小説家として生きている人にとってはそれなりにその技法に読み応えを感じるのだろう。しかし、ただ単に読者として普段物語を楽しんでいる僕は物足りなさを感じた。
とはいえ、携帯電話やメールやインスタントメッセンジャーなど、多くの気軽なコミュニケーション手段が日常の中に取り入れられている昨今において、手紙というものの存在意義のようなものを感じるきっかけにはなった。

便箋に向かって一語一語選んでいく言葉は思うがまま口にするより、たとえわずかながらでも時間を費やした文、相手の胸へと確実に響き、残っていくのでしょう。

【楽天ブックス】「追伸」

「武士道シックスティーン」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃から剣道で強くなるためだけを目標に生きてきた香織(かおり)と、日本舞踊から剣道の道に入った勝ち負けにこだわらない早苗は高校で同じ剣道部に所属することとなる。
基本的に物語は、香織(かおり)と早苗(さなえ)という、同じ剣道部に所属しながらもまったく正反対の取り組み方をする二人の目線で交互に展開していく。最初はやはり香織(かおり)の異様なまでの勝負へのこだわり方が面白いだろう。そして、その剣道に対する姿勢は当然のように他の部員や顧問の先生との摩擦を生む。

「お前には、負ける者の気持ちが、分かるか」
「・・・・・・わかりますよ。人並みになら」
「どう分かる。どう思った。負けたとき。」
「・・・・・・次は斬る。ただそれだけです。」

一方で早苗(さなえ)は勝ち負けよりも、自分の剣道を少しでもいいものにしようと心がける。序盤はそんな張り詰めた香織(かおり)目線と、のほほんとした早苗(さなえ)目線がなんともリズミカルに進んでいく。
次第に今までの自分の剣道への取り組み方に疑問を抱き始める香織(かおり)。そして早苗(さなえ)もまた香織(かおり)に影響されていろんなことを考えるようになる。
違ったタイプの人間が出会ってお互い刺激を受け合い、少しずつ人間として成長していく、と。言ってしまえばそんなありがちの物語なのだが、まあそれでも自身を持ってお勧めできるのは、誉田哲也らしい独特の会話のテンポと、登場人物それぞれが持っているしっかりした個性のせいだろうか。香織(かおり)には優しい兄と厳しい父が、早苗(さなえ)には、情けない父と自分勝手な姉が、それぞれ物語にとってもいい味を出しており、香織(かおり)、早苗(さなえ)の生きかたにも大きく影響を与えていることがわかる。
すがすがしい読み心地の青春小説。新しい何かを始めたくなる4月。こんな時期に読むのにまさにぴったりの作品。といってもいまさら剣道はさすがに始められないが。
【楽天ブックス】「武士道シックスティーン」

「Child44」Tom Rob Smith

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2009年このミステリーがすごい!第1位。
時代は1953年のソビエト。大戦の英雄でありMGB(国家保安省)のLeoは内部の諍いから、妻と友にモスクワから遠い東の地に送られる。そこでLeoは子供を狙った連続殺人事件に出会う。
本作品から面白い部分を挙げればいくらでもあるが、まずは、戦後の混乱のソビエトの社会であろう。未完成な社会ゆえに、未完成な正義が幅を利かせている。KGBがその間違った正義であり、彼らに嫌われたらどんなに誠実な人間さえも容疑者にされる。そして人々は自らが密告されることを恐れるがあまり、ひたすら目立つことを恐れて生きていくのである。このような魔女狩りのような世界がわずか数十年前に隣国で存在していたことに驚いた。
さて、本作品では、そんな権力の象徴的存在であるMGBであるLeoが、その権力を失っていく。そして権力を失ったことによって正直な意見を妻のRaisaから聞かされ、そこから見えてくる真実がさらにLeoを苦しめるのである。Leoの妻、Raisaが語った言葉などはまさにどんな社会にも通じる真実を表現しているだろう。権力を持った人の周囲では人は正直ではいられないのである。

私があなたと結婚したのは怖かったから。もし拒絶したらいつか私も逮捕されるって思って、嫌々了解したのよ。つまり私たちの関係は恐怖の上に成り立っていたの…。もしこれからも一緒に過ごすのなら、今から本当のことを話すようにするわ。気持ちのいい嘘じゃなくて。

やがてLeoとRaisaは協力して連続殺人事件を解決しようとする。そんな協力関係の中で少しずつ変化していく二人の関係が大きな見所の一つである。そして、連続殺人事件の謎。何故、事件はいつも線路の近くで起きているのか、何故子供ばかりが狙われるのか。何が犯人を残酷な殺人へと突き動かすのか。
揺れ動く登場人物の心の動き、作品中から教えられる悲劇の歴史、物語展開も最後まで予想を巧に裏切ってくれた。この完成度は誰にでもオススメできる。

ウラジーミル・レーニン
ロシア出身の革命家、政治家、法律家。優れた演説家として帝政ロシア内の革命勢力を纏め上げ、世界で最初に成功した社会主義革命であるロシア革命の成立に主導的な役割を果たし、ソビエト社会主義共和国連邦及びソビエト連邦共産党(ボリシェヴィキ)の初代指導者に就任、世界史上に多大な影響を残した。(Wikipedia「ウラジーミル・レーニン」
チェーカー
レーニンによりロシア革命直後の1917年12月20日に人民委員会議直属の機関として設立された秘密警察組織の通称である。(Wikipedia「チェーカー」
フェリックス・ジェルジンスキー
ポーランドの貴族階級出身の革命家で、後にソ連邦の政治家に転じた。革命直後の混乱期において誕生間もない秘密警察を指揮し、その冷厳な行動から「鉄人」「労働者の騎士」「革命の剣」など数多くの異名で呼ばれた。(Wikipedia「フェリックス・ジェルジンスキー」

「永遠のとなり」白石一文

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
まもなく50歳に届く青野誠一郎(あおのせいいちろう)。うつ病をきっかけに会社を辞めて生まれ故郷で小学校時代からの親友の敦(あつし)と過ごす。
部下の自殺を期にうつ病になり、誠一郎(せいいちろう)は過去の含めて自分の人生を考える。また、敦(あつし)は、肺がんと闘いながら、年寄りの話し相手となることを生きがいとしている。
どたばたするわけでもなく、寝る間を惜しんで動き回るわけでもないが、誠一郎(せいいちろう)と敦(あつし)が、その人生に陰り、もしくは終りを意識したがゆえに、その人生の意味を探そうとする心の焦りが見えてくる。
それはただ他人の世話を焼いたり、金銭的な援助をしたりといった形で現れてくる。それでも答えのない人生の意味。2人は嘆く、世の中は一体なんなのか、なんのために生まれてきたのか、と。それでも生きていく、小さな出来事に一喜一憂しながら。
決して読み手を強く引き込むようなエピソードがあるわけでもないが、読んでいるうちにじわじわしみこんでくるものを感じる。
この物語が教えてくれるのは、幸せな生きかたでも、運命をいい方向に変える方法でもなく、ただ、どうしようもなく不公平な運命の受け入れ方なのかもしれない。
【楽天ブックス】「永遠のとなり」

「ボトルネック」米澤穂信

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
兄を失った失意のリョウがたどり着いたのは、もうひとつの世界。その世界ではリョウは生まれずに、代わりに姉のサキが生きていた。
別の世界に飛び込んでしまうという突飛な展開ながら、決してその非現実な舞台設定で読者を遠ざけることなく、そこから描かれる世界観はむしろ妙に引き付けてくれる。なぜなら、リョウとサキはお互いの世界の違いが自分たち2人がそれぞれの世界に及ぼした影響だということに気付いていて、それが自分自身の世の中に対する存在価値だと気づいて行くからである。
1人の人間が男か女か、そしてその性格の違いだけで、少しずつ世界に違いが生じている。あるはずの木がなかったり、捨てたはずの皿が残っていたり、死んだはずの人が生きていたり…。
やがてリョウは自分がやってきたこと、やらなかったことの意味に気付いていく、ラストはもちろん読者次第だと思うが、僕の中には他の作品では味わえない感情を起こしてくれた。僕らはこんな非現実な経験をすることはまずないが、それはむしろ幸せないことなのかもしれない。また、舞台が石川、福井と北陸地方で、その観光名所がうまく物語に取り入れられている点も面白いだろう。

兼六園
石川県金沢市にある日本庭園。広さ約3万坪、江戸時代を代表する池泉回遊式庭園としてその特徴をよく残している。(Wikipedia「兼六園」
東尋坊
福井県坂井市三国町安島に位置する崖。
「東尋坊」

【楽天ブックス】「ボトルネック」

「戦場のニーナ」なかにし礼

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
戦場で瓦礫の中で生き残った一人の赤ん坊は、ロシア兵に助け出され、「ニーナ」と名づけられ、中国人として育てられることになった。
「戦場のニーナ」というタイトルがなんとも魅力的でついつい買ってしまった。戦争に人生を振り回されたという話だと、中国残留孤児や、真保裕一の「栄光無き凱旋」で描かれた、アメリカに住む日本人たちなどが僕の頭に思い浮かび、いずれの人生にもいろいろ考えさせられるものがある。
本作品もそういう刺激を期待していて、実際ニーナはロシアで自分の国籍をはっきり知らぬままその人生の大部分を過ごし、その間には多くの悲しい出来事が起こるのだが、物語中で展開する会話は残念ながら非常に現実感に乏しく、小学生の演劇のような表面的な台詞に終始している。その一方でなぜか恋人であるユダヤ人とのベッドシーンだけはやたらと長くしつこくて半分も読んだところで残りのページの多さに途方にくれてしまった。
巻末にある参考文献の数々や物語中に登場する多くの都市や歴史的建造物の多さに、著者が相応の下調べをしたことがわかるだけに、登場人物の心情描写や台詞のチープさが作品全体の質を下げてしまってこのような作品にしか仕上がらなかったことが本当に残念である。
ぜひ著者に真保裕一の「栄光無き凱旋」を読んで人の心の中に現れては消えていく複雑に入り混じった感情とその表現方法を知って欲しいと思った。
【楽天ブックス】「戦場のニーナ」

「日本人の英語」マーク・ピーターセン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本人が間違えがちな単語の使い方を分かりやすく解説している。
冠詞の「a」と「the」と「my」の使い方や、副詞(off、out、over、around)などのニュアンスの説明はどれも目からうろこである。
中でも印象的だったのが「over」と「around」の違いである。本書ではこういっている、「over」も「around」も回転を表す副詞だが「over」はその回転軸が水平で「around」はその回転軸が垂直だというのである。
なるほど、だから人が「turn around」したらスピンだし、「turn over」なら「寝返りを打つ」なのか、「get over」なら「乗り越える」だし「get around」なら「回避する」なのだ。
副詞と組み合わさった慣用句をすべて日本語の意味とつなげようとするのではなく、副詞の意味を直感的に理解して全体をイメージするほうがずっと早いに違いない。
同じように「車に乗る」は「get in the car」なのに「電車に乗る」は「get on the train」。こんな違いの理由についても解説している。
「この一冊を読めばもう完璧」などということは決してないが、今までの理解度を50%増しぐらいにはしてくれるだろう。
【楽天ブックス】「日本人の英語」

「1/2の騎士」初野晴

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校のアーチェリー部主将の円(まどか)はある日、オカマの幽霊サファイアと出会う。時を同じくして中高生の間に広まる不思議な噂。円(まどか)はサファイアとともに見えない犯罪に立ち向かうことになる。
読み終わったときは「まあまあ」という評価でも、時が経つに従って、印象を強めていく物語がある。僕にとってはそれが吉田修一の「パレード」と初野晴の「水の時計」なのだ。そんなわけで、期待とそれを裏切られる不安とともに購入した本作品。
女子高生を中心に据えた物語のため、「時をかける少女」のようなさわやかな物語を想像したが、読んでみると、もちろんさわやかなテンポで描かれているものの、それぞれの犯罪者と、そこで登場する人たちの間で描かれる妬みや失望などの表現にはときどきハッとさせられた。
かといって、そんなに重い内容というわけではない。一方では円(まどか)とその友人たちの友情の物語という側面も持っていて、ときにはおっちょこちょいで、ときには熱い物語が繰り広げられている。
基本的に5つの章に分かれているが、個人的には障害者たちとともに真相に迫っていく4番目の物語が心に残った。特に、障害者の近くで生きている人間が言ったこんな台詞。

ひとりでトイレに行けるようになりたい。それが叶うなら、歩けないことも口がきけないことも我慢する。本気でそう願っていた十六歳の少女を、私は二年前に看取った。

少し怖くなるような生々しい表現に「水の時計」との共通点を感じた。しばらくこの著者の作品は見逃さないように、と思った。

四色型色覚
色情報を伝えるために4つの独立したチャンネルを持つ状況をいう。(Wikipeida「4色型色覚」

【楽天ブックス】「1/2の騎士」

「「スーパー名医」が医療を壊す」村田幸生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ここ数年医療訴訟という言葉が周知のものとなった。本作品はどうして医療訴訟がここまで一般的なものとなったのか、どうしてここまで医師と患者との信頼関係は崩れていったのか、ということを、僕らがなじみのある医療系ドラマを例に挙げて開設している。
「白い巨塔」「医龍」「ブラックジャックによろしく」「ER」など、多くの人がおそらく、ドラマには当然かなりの誇張が入っているものとして見ているだろう。しかし、その逆もある。つまり、これが真実なんだ、とドラマを通して、それが誤っているにも関わらず受け入れてしまっていることもあるのだ。それはドラマ事態の描き方に大きく影響される。本作品はそういう部分を多々指摘している。
面白かったのは筆者が僕らの描く名医の条件としていくつかの項目を挙げている点である。

・ハンサムでだいたい濃い顔をしている
・患者さんの私生活にまで異様に干渉する
・実力はあるのにアウトローな一匹狼
・よく屋上へいく

なんとも納得のいく。これにあてはまる医療ドラマの中の主人公たちが何人も思い浮かぶ。
そんな面白さも交えつつ、医療の現状の問題点とその原因を訴えてくる。その根底にあるのは、「患者の側はもっと医療は完璧ではなりえないという事実を受け入れるべき」ということである。
「専門外で力及ばず」で失敗したら訴えられるのに、じゃあ、力が及ばないと思ったから断ったら「患者を診るのが医者の使命!」といわれる…。「じゃあ、どうしたらいいの?」という医者たちの嘆きが聞こえてくるようだ。
僕ら患者の側が知っておくべきことをなんとも見事に伝えてくれた。
【楽天ブックス】「「スーパー名医」が医療を壊す」

「臨床真理」柚木裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第7回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。
臨床心理士の佐久間美帆(さくまみほ)は、患者として藤木司(ふじきつかさ)という青年を担当することとなった。美帆(みほ)に心を開き始めたように見えた司は「声の色が見える」と言う。
著者柚木裕子のデビュー作品ということらしい。昨今注目が集まる心のケアという分野と、共感覚という一般の人にはおそらく一生かけても出会うことのないだろう特殊能力を組み合わせて、物語を構成している。
物語の中で、信頼を築いた美帆(みほ)と司(つかさ)は手首を切って死んだ女の子、彩(あや)の死の本当の理由を探ろうとするのだが、彩(あや)もまた失語症という普通の生活を送りにくい症状を抱えているため、彼らの生きかたやその特異な能力ゆえの生活のしかたや考え方が見えてくる点は面白いだろう。

失語症患者がパソコンをなかなか使わない理由のひとつに、感じよりもひらがなのほうが判別しにくいということがある。漢字ならば文字を見ただけでイメージが頭の中に浮かびやすいが、ひらがなはひつつひとつ読んでいかないと意味がわからない。

若い著者であろうことをうかがわせるようなIT用語もいくつか出てきて、新しさを感じさせてくれたが、共感覚や福祉施設、臨床心理士など、掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられる題材が揃っていただけに、全体的にちょっと変わったミステリーに過ぎない程度の作品で終わってしまった点が残念である。

【楽天ブックス】「臨床真理(上)」「臨床真理(下)」

「Down River」John Hart

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年エドガー賞受賞作品。
5年前に町を離れたAdamの元へ、旧友のDannyから連絡が入り、Adamは生まれ育った町に戻ることを決める。殺人の容疑をかけられた町、そして母が自殺した町へ。
舞台となるのはノースカロライナ州シャーロット。大きなブドウ園を所有する地元の名士の下に生まれ幸せな子供時代をすごしながらも、母親が目の前で拳銃自殺を図ってから家族の歯車が狂い始める、Adamの行動の中からときどきそんなトラウマが見え隠れする。
5年ぶりに故郷に戻ったAdamは、義理の兄弟や旧友、昔の恋人との再会するなかで、その5年という月日の中で変わってしまったもの、そして未だ変わらないものと向き合い、自分だけでなく、多くの人が同じように5年間苦しみながら過ごしてきたことに気付く。
本作品からは、家族でブドウ園を切り盛りしようとするアメリカの一つの家庭の様子が見えてくる。これはそんな家族の中で起こった小さな間違いから生じた大きな悲劇の物語といえよう。
登場人物それぞれが持っている苦悩の描き方が印象的である。誰もが人は弱く、間違いを犯すものだと知りながらも、自分の不幸を他人のせいにしたり、自分を正当化したり、とその心は常に揺れ動いているのである。そしてそれでも月日は流れていく。近くを流れる、子供時代から親しんだ川、そしてなにかを伝えるかのように表れる白いシカ。いったい何を意味するのだろう。

シャーロット(ノースカロライナ州)
ノースカロライナ州南西部に位置する商工業、金融都市。(Wikipedia「シャーロット(ノースカロライナ州)」

「南アフリカの衝撃」平野克己

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1ワールドカップが近づくにあたって関心の南アフリカ。本書ではその歴史や経済、そしてアパルトヘイトについて書いている。
アパルトヘイトの撤廃からすでに15年近くが経過しながらも未だに犯罪天国と呼ばれ、大きな貧富の格差がある南アフリカ。章ごとに、南アフリカの経済、歴史、日本との関係、と余計な話でページを稼いだりせずに無駄のない構成となっている。ボーア戦争などの植民地時代の歴史から、マンデラ後の、大統領ムベキ、ズマの政策などにも触れている。南アフリカといえばアパルトヘイト。それ以外に大したイメージを持たない僕には多くの興味を与えてくれた。
団体名が最初以外はすべて略称になってしまうので、そのたびにいちいち読み返さなければならないなど、お世辞にも読みやすいとは言い難かったが、内容の濃さを感じた。また、歴史的事実だけでなく南アフリカに在住経験のある著者の視点からだからこそ見えてくるその激動っぷりが見えてくる。
しかし南アフリカのみならず他国の実情を見て、そこに国の自由や平和だけに人生をささげた人のエピソードを知るたびに、自由の認められている国に生まれたことの幸運を感じる。

SADC(南部アフリカ開発共同体) 
南部アフリカ開発調整会議を改組し1992年に設立された地域機関。経済統合や域内安全保障を目指している。(Wikipedia「南部アフリカ開発共同体」
アフリカーナー 
南アフリカ共和国に居住する白人のうち、ケープ植民地を形成したオランダ系移民を主体に、フランスのユグノー、ドイツ系プロテスタント教徒など、宗教的自由を求めてヨーロッパからアフリカ南部に入植したプロテスタント教徒が合流して形成された民族集団である。(Wikipedia「アフリカーナー」
プラチナ 
装飾品に多く利用される一方、触媒としても自動車の排気ガスの浄化をはじめ多方面で使用されている。自動車産業の発達している日本はアフリカからのプラチナの最大の輸入国である。
ボーア戦争  
イギリスと、オランダ系ボーア人(アフリカーナー)が南アフリカの植民地化を争った二次にわたる戦争。南アフリカ戦争、ブール戦争ともいう。(Wikipedia「ボーア戦争」
ナント勅令 
1598年4月13日にアンリ4世が発布。プロテスタント(ユグノー)などの新教徒に対してカトリック教徒とほぼ同じ権利を与え、近代ヨーロッパでは初めて個人の信仰の自由を認めた。1658年の、フォーテヌブローの勅令によりこの勅令は廃止され、迫害を恐れたプロテスタント(ユグノー)の一部が南アフリカに入植する。

【楽天ブックス】「南アフリカの衝撃」

「硝子のドレス」北川歩実

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
菅見英晴(すがみひではる)は突然行方をくらました恋人の実咲(みさき)を探して奔走する。一方、肥満に悩む千夏(ちなつ)はやせるためにダイエットコンテストに参加する。
「金のゆりかご」の巧妙に計算された物語とその過程を裏切らないラストが良かったので、同じく北川歩実の作品ということで手にとってみた。
物語中では千夏(ちなつ)だけでなく多くの痩せたい女性たちが描かれている。その多くが、家族や親類からは「見た目が大事なんじゃない」と諭されながらもそれを受け入れることができずに、「痩せれば私の人生は変わるはず」という考えに縛られながら生きている。
自分の外見が嫌いだから、外出することを控え、それによって運動ができずに、ストレスを発散するには家の中で食べるだけ、という悪循環にはまっている。そして外見に関するコンプレックスはその性格にも現れ、時に被害妄想的な行動をも起こす。
本作品の中でそんな悲劇の一部を見ることができるだろう。
細かいどんでん返しの数々は、「金のゆりかご」と共通するものがあるが、ダイエットを扱った物語ということで、女性でもなく、痩せたいなどと思ったこともない僕にとってはやや共感できかねるシーンが多くなかなか物語に入っていくことができなかった。この辺はひょっとしたら女性の方が理解しやすいのかもしれない。ぜひ女性の感想を聞いてみたいものだ
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「春を嫌いになった理由」誉田哲也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
フリーターの秋川瑞希(あきかわみずき)はとある霊能力者の通訳を勤めることとなった。過去の苦い経験から霊能力を嫌悪しながらも、初日から男性の遺体を発見してしまう。
瑞希(みずき)がテレビスタッフと霊能力者の間で右往左往するエピソードと平行して、本作品中ではもう一つの物語が進んでいく。それは中国の田舎で育ちながらも、日本でお金を手にする夢を描く、中国人兄妹である。
個人的にはその中国人兄妹の日本に密入国するための過程や、日本に到着した後の現実と夢のギャップに打ちひしがれる姿などに、興味を覚えた。
そんな2つの物語が終盤どのように結びつくのか、読者はそんなことを考えながら読むことだろう。
さて、誉田哲也の作品といえば女性の主人公がいつも魅力的なのだが、本作品の秋川瑞希(あきかわみずき)にはやや個性の弱さを覚えた。霊能力という部分ですでに現実からやや離れているという点が、それぞれの登場人物の現実味を薄めている一因かもしれない。
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「サクリファイス」近藤史恵

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第10回大藪春彦賞受賞作品。
ロードレースチームに所属する白石誓(しらいしちかう)は、チームのエースを優勝に導くためのアシストとなることに魅力を感じる。しかしチームのエースには嫌なうわさが囁かれていた。
過去自転車を職業としている人の物語というのは読んだことがあってもロードレースをメインに扱ったものは記憶にない。それぐらい自転車競技というのは日本ではマイナーな存在なのだ。それを裏付けるように、最初の数ページで僕らがどれだけロードレースというものに対する知識がないか知るだろう。そして同時にロードレースが単にマラソンの自転車版という程度の単純なものではなく、他のスポーツにはない魅力をもったものであることも。
さて、物語中では誓(ちかう)が次第にレースで力を発揮できるようになるのだが、そこでチームのエースである石尾(いしお)にまつわる噂が頭から離れなくなる。強い若手に対する嫉妬から過去、若手の一人の大怪我をさせているという噂。
タイトルとなっている「サクリファイス」つまり「犠牲」。これがどんな意味を含んでいるのか。そんなことを考えて読むのも面白いだろう。
最終的にはやや誓(ちかう)の刑事なみの洞察力に違和感を感じながらも、心地よい汗のにおいを感じさせるような青春小説として読むことができた。
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「果断 隠蔽捜査2」今野敏

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞受賞作品。
家族の不祥事による降格人事に従って、大森署の署長となった竜崎。その管内で拳銃を持った立てこもり事件が発生する。
「隠蔽捜査」の続編である。そして、主人公は今回も、恐ろしいまでに自分に厳しく生きる東大法学部卒のキャリア竜崎(りゅうざき)である。縦割り社会の警察組織の中にあって、人の顔色を伺うことなく合理的な行動をしようとする竜崎(りゅうざき)は今回も周囲から異質な存在として見られる。それでも少しずつ新しい環境にあって周囲から信頼を得ていくすがたが面白いだろう。
さて、この竜崎(りゅうざき)という登場人物がなぜこんなにも強烈かというと、それはきっと、「真面目」と「賢い」という2つの要素が融合した登場人物というのが日本の文化に今までなかったからではないだろうか。
賢く頭の切れる人間は時にルールを逸脱する。そしていい結果を導くことが長く日本人に受け入れられてきた美学だったのだ。そしてそれと対になるように、真面目な人間はどこか融通が効かずに最終的に損をする。それが良くあるお約束だったのだ。
ところがここで竜崎(りゅうざき)には「真面目」と「賢い」が同居してしまった。そうするとさぞ近づきがたい人間のように聞こえるのかもしれないが、物語はその竜崎本人の目線で進む。理想に近い行動を選択しながらも、心の奥ではつねに信念と規則と人の気持ちと、いろいろなものの重さを量りにかけて決断しているのだとわかるだろう。

「そんなに堅苦しく考えることはない。私用でちょっと出かけるなんてのは、誰だってやっていることだ。」
「みんながやっているからといって正しいというわけではない。」

実はそんな竜崎(りゅうざき)の物事の考え方は、かなり僕にとっても共感できる部分があり、特にこの台詞は印象に残った。

「相変わらずですね。ご自分が正しいと信じておいでなので、何があろうと揺るがないのです。」
「俺は、いつも揺れ動いているよ。ただ、迷ったときに、原則を大切にしようと努力しているだけだ。」

そう、結局、国や誰かの決めたルールで判断するのでなく、人は自分のなかの何かにしたがって判断をし、行動しているのだ。しかしその「何か」が不安定なものならば意味がないし、その「何か」と目の前で起こっている事実を照らし合わせるためには、知識や観察力が必要。だから僕らは学ぶのだ。
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