とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「チーム」堂場瞬一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
箱根駅伝への出場を逃した大学の中から選ばれて作られる学連選抜。複雑な思いを抱えて各大学から集まった選手たちが一つのチームとなって箱根駅伝での優勝を目指す。
真面目に見たことなどないが、箱根駅伝と言えばもはや知らないものはいないだろうともうぐらいの正月の一大イベントで、そこで起きる様々なドラマ。襷を繋ぐことにかける選手たちの熱い思いもなんとなく想像できる。しかし、そのイベントの知名度のわりにはそれを物語とした小説やドラマなど、本作品に出会うまで聞いたことすらなかった。本作品を読むと駅伝というのが非常に物語に向いていると感じるのだが、ひょっとしたらそれは著者の力量によるものなのかもしれない。
単純に箱根駅伝を扱うなら、それはおそらくそのなかの出場大学に焦点をあてるのだろうが、本作品が選んだのは「学連選抜」というチーム。どんなチームスポーツにおいても選抜チームのつくる記録というのは常に、チームスポーツの意義に疑問を投げかける可能性を持つ。単純に優れた選手だけを集めて勝ててしまうなら、はたしてそれはチームスポーツなのか?長年かけて育んだチームワークの勝利への貢献度が低いのであれば、それはもはや個人競技なのではないか、そんな疑問である。
さて、そんな学連選抜チームのなかでも、本作品は特に4人の選手を中心に描いている。昨年10区で失速し、今年こそリベンジを、と思いながらも大学自体は箱根出場を浦(うら)。「化け物」と呼ばれるほど優れていながらも所属した大学のほかの選手の力不足で箱根出場を逃した、山城(やましろ)。かつては浦(うら)と同じ陸上部に所属しながらも、進んだ大学のほかの選手の志の低さに流され、本気で気持ちを入れては知ることをしなくなった門脇(かどわき)、そして実力はありながらも1年生と経験の乏しい朝倉(あさくら)である。特に際立っているのは、箱根はいずれ走るマラソンへの調整と位置づけ、チームワークを軽んじる山城(やましろ)だろうか。
それでもそこはこういうった物語の常で、衝突を繰り返しながらも少しずつ一つにまとまっていくのであるが、その過程でみえる駅伝というスポーツの異質な面や、箱根駅伝というスポーツの奥深さが非常に好奇心を刺激する。

今まで俺は、駅伝はあらゆるスポーツの中で最も過酷な集団競技だと思っていた。アイコンタクトで華麗にパスをつなげたり、八人の力を一本の矢にしてスクラムを押したり、そういう目に見える形のチームワークが存在しないが故に過酷なのだ。走っているときは一人。しかし自分の前で必死になっていた選手、襷を待っている選手の思いを消し去ることはできない。

なんか来年の正月はちょっとテレビを見そうである。一気読みの一冊。
【楽天ブックス】「チーム」

「謎解きはディナーのあとで」東川篤哉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2011年本屋大勝受賞作品。
国立署の女性刑事宝生麗子(ほうしょうれいこ)は宝生グループのお嬢様。それを知るものは警察署内の一握りのみ。そんな彼女が関わることとなったいくつかの事件を描く。
本作品で面白いのは言うまでもなくその警部でありお嬢様という主人公の特異な設定だろう。さらに、麗子(れいこ)の上司である風祭(かざまつり)警部も同じくお金持ちの出身というありえない設定。そして、鍵となるのは宝生家の執事影山(かげやま)の存在、謎めいたこの執事はたぐいまれなる推理能力を発揮する。それゆえに育ちだけがよくて頭の足りない麗子(れいこ)、風祭(かざまつり)警部の2人が解決できない事件を、話を聞いただけでことごとく解決してしまうのである。読んでて癖になるのはそのお嬢様としてのプライドの高い麗子(れいこ)と、執事のわりにときどき見せる麗子に対する蔑んだ影山(かげやま)の態度。

「どう、影山?なにか思いつくことある?どんな些細なことでもいいのよ」
「では、率直に思うところを述べさせていただきます。失礼ながらお嬢様ーーこの程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか。」
「・・・・・・・・、クビよ、クビ!このあたしが執事に馬鹿にされるなんてあり得ない!」

本書では6つの事件が扱われているが、今回はどんなやりとりになるのか、と楽しみになってしまうだろう。現実感などまったくないが、独特のテンポで楽しく読ませてくれる。
【楽天ブックス】「謎解きはディナーのあとで」

「ツイッターノミクス」タラ・ハント

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
本書で一貫して主張しているのは「ウッフィーを増やす」ということである。「ウッフィー」とは何か。明確に本書でそれが定義されているわけではないが、「信頼」とか「安心」とか「尊敬」といった言葉で置き換えられそうなもの。
著者が言うのは、現在ほど、SNSが浸透している今、利益をあげようとするなら、「ユーザー数を増やす」「利益をあげる」「価格をあげる」とか、過去の慣習に従うのではなく、ウッフィーを増やすことこそその近道だと説くのである。
この考え方には僕自身非常に納得できるものがある。例えば映画を例にとってみても、映画館に足を運ぶ人の多くはCMで観た映像だけを頼りに決断して、実際に面白かったかどうかを知る手段はほとんどなかったが、インターネットが浸透した今では、映画を観終わった人がすぐにその感想を情報を発信してしまうのである。「クチコミ」の広まるスピードがインターネット以前と以後では何倍にもあがってしまったのである。
つまりそれは、言い換えるならインターネット以前の時代では「印象」だけで顧客を得ることのできていたものが、今は「内容」を伴わなければ不可能になったおいうことなのだ。
著者の体験をもとに、あらゆるウッフィーの増やし方と、自らの成功例、そして、いくつかのアメリカの企業を例にとってウッフィーを増やすことに成功した例や失敗した例を挙げている。どの例もとても興味深い。

多くの企業がマーケティングで犯す過ちは、顧客獲得にエネルギーとリソースをすべて投じてしまうことだ。だがほんとうは、解約率の縮小に使うべきである。カスタマー・サービスの改善に努力すれば、満足した顧客はオンラインでクチコミを起こしてくれる。
大切なのは、「ターゲット顧客」を設定して売り込みの対象にするのではなく、本物の顧客とつながりを持つことだ。

またアメリカの企業のSNSに関する認知上は日本のそれよりはるかに進んでいることがわかる。日本にも速く追随して欲しいものだ。
さて、この「ウッフィーを増やす」という感覚。企業であれ個人であれ、その重要性を知っている人はすでにその何年も実践しているのだろう。そして、きっとその重要性を知らない人はいつまで経っても理解できないのだろう。結局それは人を信じるということに繋がってくるのだから。
なんにせよ、多くの企業がウッフィーの重要性を理解し、それを獲得することを第一に考え始めたら、すべてに人にとって過ごしやすい世界になるだろうと感じた。

クルートレイン宣言
米国のマーケティング・コンサルタントのクリストファー・ロックが新しい時代のマーケティングのための「95のテーゼ」を発表し、1999年に書籍として出版されたもの。インターネットによって組織と消費者の間に今までないレベルのコミュニケーションが生まれるようになり、組織は市場への反応して変化することが求められる。と言うもの。(Wikipedia「The Cluetrain Manifesto」
モレスキン
のモレスキン社(Moleskine, 旧社名:Modo & Modo)が販売する手帳のブランド。撥水加工の黒く硬い表紙と手帳を閉じるためのゴムバンドが特徴である。(Wikipedia「モレスキン」
TED(Technology Entertainment Design)
アメリカのカリフォルニア州モントレーで年一回、講演会を主催しているグループのこと。
TEDが主催している講演会の名称をTED Conference(テド・カンファレンス)と言い、学術・エンターテイメント・デザインなど様々な分野の人物が講演を行なう。講演会は1984年に極々身内のサロン的集まりとして始まったが、2006年から講演会の内容をインターネット上で無料で動画配信するようになり、それを契機にその名が広く知られるようになった。(Wikipedia「TED (カンファレンス)」

【楽天ブックス】「ツイッターノミクス」

「Affinity」Sarah Waters

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
2001年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。
引きこもりだったMargarettは人の勧めで、刑務所を訪れて囚人の女性たちと話をするようになる。そこで出会った霊媒師の女性Selina。会話を重ねるにつれて2人は惹かれ合っていく。
すでに成人していた、兄弟が結婚して巣立っていく中、働くこともなく引きこもり生活を続けているため居場所を見つけることができない。そんなMargarettが囚人たちの生き方に自分を重ねあわせていく。刑務所で彼女が体験したことを家に帰ってきて日記に書く、という形態をとっているため、ひたすらMargarettの一人称で進んでいき、その心のうちが描かれる。そこが本作品の個性であり魅力である。
同時に、Selinaの視点に立って2年遡った状態からも物語は描かれる。一体どんな状況で彼女は罪を犯したのか。そして、その2年前のSelinaの周囲の出来事がどのようにして今の刑務所へと結びついていくのか、と想像しながら読み進めていくことになるだろう。
「ミステリー」というカテゴリに本書を分類することにまったく違和感がないが、どうも今ひとつ何か期待していたレベルには達していない気がする。

「決断のとき」ジョージ・W・ブッシュ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュ。2001年から2009年の8年の8年の間に下した大きな決断を振り返って描く。
時系列ではなくいくつかのテーマを順に描いている。そのうちのいくつかはアメリカの政治や経済に詳しくないとなかなか理解するのが難しいものだったが、他は興味深く読むことができた。多くの人と同じように、僕にとって興味深かったのは、第7章「アフガニスタン」、第8章「イラク」、第9章「カトリーナ」、そして9.11を描いた第5章「炎の日」である。
いずれも、ニュースや新聞では見れなかった動きや、大統領の葛藤が見える。

群集には、瓦礫の山に登っていた私が見えるはずだ。それがつぶれた消防車だったというのは、あとで知った。
群集が叫んだ。「聞こえないぞ」私は言い返した。「こっちは聞こえてる!」歓声を浴びた。「聞こえるとも。世界中があなたがたの声を聞いている」私がいうと、荒々しい声が沸き起こった。

描かれている内容のいくつかは薄れた記憶を鮮明にしたし、いくつかは、当時まったく知らずすごしていた自分の無知さを知ることになり、そのうちいくつかは僕が知っている内容と実は微妙に異なっていて、メディアというフィルタを通じて日本に届けられる内容と、大統領という決断を下した当事者に見えている内容の見え方が大きく違うことに、改めて、「見え方の違う現実」というものを意識させられた。
全体を通じて感じたのは、ブッシュ大統領が、常に「自分がどう見えるか」「自分をどう見せるか」というのを強く意識しているということだ。こういう書き方をすると鏡ばかり見ている自意識過剰な人間のように聞こえてしまうかもしれないが、彼が常に気をつけているのは、自分の自信のなさを少しでもカメラの前で見せてしまうことが、国民に大きな影響を与えるということを知っているからである。
例えば、イラク問題について語る際、彼は常に4つのカテゴリーの視聴者を意識していたという。第一は戦争遂行と戦費の支えとして欠かせないアメリカ国民、第二は命の危険を冒している米軍兵士、第三はイラク国民。そして第四が敵であるテロリストである。そんな彼の注意深い言動が、結果的に成功したことも失敗したこともある。いずれも、表情やわずかな仕草が世界に影響を与えてしまう立場にいる人間にしか語れない内容で、非常に印象的である。
本書ではほかにも肝細胞問題などの簡単には答えの出ない問題に触れている。多くの人種や宗教を抱える国だからこそ起こる異なる考え、日本の政治が簡単そうに思えてしまう。

ときには私たちの意見の違いは非常に根深く、私たちが共有しているのはひとつの国ではなく大陸ではないかと思えるときがあります」

また、文章からはいまなお、その決断の瞬間、結果的に思い通りに進まなかった出来事を悲しみとともに振り返るブッシュの重いが読み取れる。

過ちは、イラクの大量破壊兵器に関する情報が間違っていたことだ。もう10年近くたっているから、フセインが大量破壊兵器を保有していたという仮説がどれほど浸透していたかを言い表すのは難しい。戦争支持派はむろん信じていた。反対派も信じていた。

そして、また、本書のなかで引用される言葉の数々。自分の決断が多くの人々に影響を与えるという立場で大きな責任を背負ってきた人間が言うだけに、どの言葉も重い。

崇高な大義が犠牲を避けられたことは、これまで一度もありません。代償がなにもないときだけ自由を護るという考え方であるなら、私たちは国家として絶望的な状況といえましょう。

そして、最後はホワイトハウスを出たあとのことも書かれている。世界の中心から、穏やかな生活へと。その変化の大きさはとても僕ら一般人が想像できるようなレベルのものではないだろう。

新聞を読んだら、ついどう対応しなければならないだろうかと考えてしまう。やがて、決断はもうほかの人間のデスクで下されるのだと思い出した。

多くの日本人は最終的にブッシュ大統領を好ましく思っていないのだと思う。その理由がなぜだかはわからないが、本書はその考えを多少なりとも変えることになるのではないだろうか。

ヒズボラ
レバノンを中心に活動しているイスラム教シーア派の政治組織。(Wikipedia「ヒズボラ」

【楽天ブックス】「決断のとき(上)」、】「決断のとき(下)」

「迷宮」清水義範

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
記憶を失った「私」は治療と称して、一人の男と会い、ひとつの犯罪に関する記事を読ませられる。その犯罪とは、ある猟奇殺人事件だった。
読み始めてすぐに、おそらくエンディングには大きなどんでん返しが待ってるだろうと推測できる。明かされない男と「私」の正体。きっとこの2人の招待が鍵なのだろう、と推測できる。
そして「私」は新聞記事や週刊誌の事件に関する記事を読ませられる。多くの読者と同じように僕自身もその結末として考ええられるあらゆる想像をしながら読み進めた…。
さて、残念ながら結末は納得のいくものではなかった。というよりも僕には理解の範囲を超えていた。例えば有名な乾くるみの「イニシエーション・ラブ」のように、ほかの情報を整理しないと理解できないものかと思い、検索して調べたりもしたが、1回読んだだけでは理解のできるものではなかった。
解説できる人がいるならぜひ解説して欲しいところだ。
【楽天ブックス】「迷宮」

「グーグル秘録 完全なる破壊」ケン・オーレッタ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン。スタンフォードの大学院で出会った2人がGoogleを起こしてから、これまでの進化の過程を描く。
アップルのスティーブ・ジョブスや、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグに比べるとはるかにメディアに顔を出すことの少ないGoogle創業者の2人。そんな2人の生い立ちや出会いなどから時系列に、Googleの成長の過程と、周囲の反応などを描いている。
僕の印象では、ラリー・ページもサーゲイ・ブリンも非常に知的でストイックなイメージだったのだが本書を読むと、実はずいぶんその印象と異なることがわかる。2人はむしろ何かに夢中になって周囲が眼に入らない少年のようである。2人が繰り返し口にしたというこんな言葉が印象的である。

「不可能という言葉に、健全な疑いを持とう」

さてそんな子供のような2人でも、そのアイデアとエンジニアとしての発想に未来を感じた人々が集まることによって、Googleという企業は大きくなっていくのだ。実際には僕らが思っているほど、世界を変えるのに必ずしもリーダーシップは必要ないし、幅広い知識も必要ないということなのだろうか。Googleの成長の過程では、知識や技術が必要であればそれを持った人が加わってくるように見える。
さて、面白いのはGoogleの成長だけでなく、Googleの成長とその無料でサービスを提供してしまう手法によって、慌てふためく既存メディアの対応である。訴訟を起こす企業、新しい波に乗ろうとする企業などさまざまであり、そこには今ある利益を守ろうとするためにイノベーションを起こせない大企業の弱点がはっきり浮かび上がる。
向かうところ敵なしに見えるGoogleだが、本書ではGoogleの弱点として、たびたび人々の感情に鈍感な点を挙げている。例えば大容量のGmailにはメールを永遠に蓄えられる余裕があるため、削除機能は必要ないと主張し、人には消したいメールがあるという感情に気づかないし、YouTubeの広告枠を売りながら、動画によっては広告主はそのこに広告を表示したくないという感情に気づかないのだ。
多くの企業がGoogleによって苦しめられるなか、一般ユーザーはその恩恵に享受している。しかし、僕らもその行く末を楽観視していいのだろうか。本書を読み進めるなかで僕はそんな著者からの問いかけを何度も感じた。

これから見極めるべきは、ネットという新たな流通システムが、コンテンツ・プロバイダーに十分な対価をもたらすほどの収入を生むかどうかだ。

流通が簡略化され仲介業者がいなくなればコストは抑えられる。しかしそれによって、そのコンテンツの製作者はそれに見合う利益を得られるだろうか。長期的に見れば、今の流れは将来的にコンテンツの品質の低下を招く恐れがあるのである。今からそんな事態を回避する動きをするべきなのかもしれない。
【楽天ブックス】「グーグル秘録 完全なる破壊」

「アマルフィ」真保裕一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
イタリアで9歳の少女が誘拐された。身代金の受け渡し場所として指定されたのはアマルフィ。外交官の黒田(くろだ)は邦人保護として少女の母親に付き添うこととなる。
数年前に豪華キャストで映画化された作品。著者真保裕一のファンとしてその物語を味わいたいという思いからあえて映画は見ずに本作品に触れることとなった。
物語は真保裕一作品のなかでは珍しく海外、イタリアを舞台としている。外交官の黒田(くろだ)目線で物語を展開させることにより、日本とイタリアとの文化の違いがところどころに描かれる。また、外交官視点により、「滞在先での自国民の保護」という役割を担いながらも、現実にそのとおりにできない事情が見えてくる。
普段の真保裕一作品のような深みや物語の訴えたいテーマのようなものが見えてこない。最終的に世界の紛争に結びついているとは言え、どうも跡付け感が漂ってしまう。後記によると、どうやら本書は映画のプロットを小説化したもので、小説が先にあってそれが認められて映画化されたものではないということである。
残念ながらもともとの真保裕一ファンにとっては期待に沿える内容とは言えないだろう。

カラビニエリ
イタリアの国家憲兵。(Wikipedia「カラビニエリ」

【楽天ブックス】「アマルフィ」

「風の中のマリア」百田尚樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
30日生きることのないオオスズメバチの物語。マリアは飛ぶのが速く「疾風のマリア」と呼ばれる。
百田尚樹は僕にとって注目の著者であるため、内容など確認せずに手にとったのだが、それにしてもハチの物語とは。読み始めてそれに気づいた後は、むしろこのハチをどのようにして200ページを越す物語に仕上げたのか、とそちらに俄然興味を抱いた。
序盤は巣のなかでワーカーという餌を捕獲する役割を担う一人のマリアの狩りの様子を描きながら、オオスズメバチの生態を説明している。30日という短い生涯ということで1日1日と上の立場になって、毎日戻らない仲間のハチたちの情報によって、自分も近いうちに命が尽き果てることを意識して狩を続ける。
周囲の昆虫と話すことにより一生餌を捕獲し続け、恋もせず子供も生まないということに疑問を持ち始めるあたりは、短い一生のなかに人並みの悩みを与えて、人生の縮図のようで面白い。
物語を楽しみながら、女王蜂による集中産卵の意味が見えてくる点も興味深い。昆虫にしゃべらせて擬人化させてしまっている時点で、小説としては難しい部類の構成になったと思うが及第点は十分に与える内容と言えよう。
むしろ本書を読んでさらに興味を持ったのが著者が今後どのような作品を手がけるのかということ。「永遠の0」で戦争を描き「ボックス」でさわやかなスポーツ物語。「輝く夜」でラブストーリーを描いたと思ったら今回は昆虫の話。まだまだ新しい方向から物語が生まれそうである。
さて、僕がハチ関連の本を読むことなど数年に一度だと思うが、意図せず連続してしまった(「ハチはなぜ大量死したのか?」)この偶然も面白い。本作品にもミツバチの話は出てくるのであわせて読んでみるのも面白いかもしれない。
【楽天ブックス】「風の中のマリア」

「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2006年から各地で報告されたミツバチの失踪事件。本書はそんななぞ名が事件の原因を探ることでハチや自然、その進化を語る。
なんという魅力的なタイトルなのだろう。この本を手に取る人の多くは、むしろ農業や昆虫に興味ある人間よりもミステリーファンなのかもしれない。僕自身もタイトルと最初のプロローグで一気に心を掴まれてしまった一人である。

2007年の春までに、実に北半球のミツバチの四分の一が失踪したのである。

序盤は、ミツバチの習性について説明している。コロニーと呼ばれる蜂のグループにおける、女王蜂や採餌蜂、貯蜜蜂の役割などである。それによってミツバチのコロニーがどれほどシステム化されたものだか理解できるだろう。
同時に、世の中の植物の多くが、蜂の助けを借りて受粉することによって果実をつけること。蜜蜂が消えたら、僕らの食卓に毎朝並んでいるものの多くが消えてしまうことを強調することで、本書が扱っている内容の重要性を訴えている。
さてCCDと呼ばれる蜂の失踪。その原因は新種のウィルスなのかダニなのか、それとも農薬なのか、携帯電話の普及に原因があるのか。信憑性のある説から荒唐無稽なものまで、各地であげられた報告やその矛盾点を説明し、また、その過程で過去に起こった、ウィルスやダニ、農薬に起因する事件を取り上げている。
話が時系列に進まないのでお世辞にも読みやすいとは言えない。そして物語が後半へと進むにしたがって不安になったのは。「なぜ大量死したのか?」の回答は本作品に最終的に書かれるのか?ということ。そう、残念ながら本作品にその答えはない。というよりも現実世界でもその原因未だわかっていないのだ。
ミステリーではなく現実の話なのだからそういう可能性があることを考慮すべきだったのだろうが、個人的にはがっくり来た。罪なのは本書のタイトルだろう。原書のタイトルは「The Collapse of the Honey Bee」の方が内容にはるかに合致している気がする。僕と同じような思いをする日本の読者は多いに違いない。本書は蜂の失踪事件をきっかけに、自然への人間の接し方について再度深く考えさせる方向へ意図された内容なのである。
最初からそういう目線で見れば、本書は非常に面白い。最終的に本書が訴えているのは「回復力」の重要性である。自然界で動物や昆虫が大量に死ぬのは理由があり、やがてその耐性を持ったものが生き残って種は強くなっていく。それを人間が下手に手助けすれば弱いまま種が残り、いつかそのしっぺ返しを食らう時が来るのである。自然界のバランスを保とうとする「回復力」の範囲内の変化であれば介入せずに見守ることも重要なのだと説いているのだ。

人は芋虫なしに蝶だけを欲しがるが、そういうわけにはいかないのだ。

本書を通じてミツバチのすばらしさを知るだろう。著者も書いているが、僕も本書を読んでミツバチを飼いたくなってしまった。
【楽天ブックス】「ハチはなぜ大量死したのか」

「The Gunslinger」Stephen King

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
黒衣の男は砂漠を逃げていく。ガンマンは追った。そんな冒頭で始まる物語。Stephen Kingの「The Dark Tower」シリーズの第1弾である。
なぜガンマンが黒衣の男を追い続けているのか、彼らは過去にどんな因縁を抱えているのか。その説明は一切描かれない。ただガンマンは男を追い、立ち寄った町で男について尋ね歩く。男はなぜ蘇ったのか。19という数字は何を意味するのか。
自分の英語力が未熟なせいかと思うほど意味の繋がらない回想シーン。いずれもおそらくこの後のシリーズの続編でその細かい物語の断片が繋がっていくのだろうと思われる。本作品だけを評価すると、残念ながら面白いとはとても言えないが、「The Dark Tower」というシリーズを読む上で欠かせない作品として我慢して読むべきなのだろう。

「野村の「眼」」野村克也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
弱小チームだったヤクルトスワローズにID野球を浸透させ、3度の日本一に導いた野村克也。その野球に対する考え方を語る。
「ID野球」「野村再生工場」。このような単語は野球に詳しくない人間でも何度か聞いたことがあるだろう。こういう言葉が浸透したのは、おそらく野村の監督としての振る舞いが、ほかの監督とは違っていたからだろう。
本書では、野村克也がプロになってレギュラーを掴むまでの過程。そして中盤以降は、ヤクルト、阪神、楽天での監督としての目線で、選手や試合、戦術について語っている。
残念ながらその内容は、野球以外のものに応用できるとは言いがたく、野球ファンのための内容と言える。すでに70歳を超えている著者に対して求めるのは酷なのかもしれないが、その語り口調からは謙虚さよりも傲慢さが感じられる点が残念である。
【楽天ブックス】「野村の「眼」」

「秋葉原事件 加藤智大の軌跡」中島岳志

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
記憶に新しい秋葉原連続無差別殺傷事件の犯人加藤智大(かとうともひろ)。彼はなぜ追い詰められていったのか、彼はなぜ事件を起こさなければならなかったのか、そんな視点で加藤智大(かとうともひろ)を見つめていく。
時系列で加藤の成長の過程が説明されていく。いきなりページをめくる手を鈍らせたのは、小学校、中学校時代の母親の虐待のような厳しいしつけである。

加藤は、母の罰に耐えかねて、よく泣いた。すると母はスタンプカードを作り、泣くたびにスタンプを1つ押した。そして、スタンプが10個たまるとさらなる罰を与えた。

虐待や厳しいしつけを受けたからといって、そんな人すべてが犯罪を起こすわけではないから結局本人の責任。という人もいるだろう。しかし、これほどその厳しいしつけの影響が加藤の性格に如実に現れているを目の当たりにすると、加藤が成人しているとはいえ両親への責任の追及をすべきなのではないかと感じてしまう。また、そこになにか負の連鎖のようなものも感じてしまった。大学に行かなかったことで自分たちの生活に満足していない両親が、過渡な期待を子供たちに押し付けることで、形は違えどやはり次の世代にも不幸な人生が形作られていくのだ。
しかし、高校以降の加藤の生活には、僕の思っていた以上に、素敵な友人たちがいたようだ。。「きっと悩みを打ち明ける相手もいなかったのだろう」と思っていただけに、その点は逆に驚かされた。
以降も、転々とする職場や、ネットの掲示板上にも加藤の気持ちを理解してくれようとしてくれる人がいるという事実になんだか救われた気がする。

「冗談抜きで友達になりたいと思うようになったよ。」
「それは嬉しいですけれど、私と友達になってもあなたにとっては何のメリットもないですよ。」
「じゃ今日から友達だから。」
「以前にもこんなやりとりした人がいましたっけ。どこへ行ってしまったんでしょうね。」

しかし、残念ながらそれらの好意に上手に甘えることのできない加藤。この性格もおそらく家庭での育てられかたによって、形作られたのだろう。そんなしつけを強要した母親や、同じ母親のもとで成長した加藤の弟は事件に対してどう思うのか、実際そのような手記が出ているということなので、そちらもぜひ機会があれば触れてみたいと思った。
終盤に差し掛かるにつれて、結局事件を起こした原因はなんだったのか。誰が悪いのか。何の罪なのか。今後同じような事件を起こさないためには世の中はどう変わるべきなのか、と考えてしまう。しかし、そこには当然明確な答えなどない。
次第に追い詰められていく加藤が、犯行直前にも掲示板に書き込みを続けていた。

店員さんいい人だった。
人間と話すのっていいね。
タクシーのおっちゃんともお話した。
そこにあったのは何気ない言葉だった。しかし、加藤はそんな言葉を通じて、世界を信じた。それがたとえ一時だったとしても、彼の心は動いた。自然と笑みがこぼれた。涙もこぼれた。言葉こそが彼の岩盤のような他者への防波堤を穿ち、頑なな姿勢を突破した。

きっと誰でも、彼に共感する部分を持っているのだと思う。自分の不幸の原因がわからなくて、何が自分を幸せにしてくれるのかわからなくて、そんな鬱憤を社会や人のせいにして、自分のなかの孤独を常に感じて、自分を理解してくれる誰かと話したくて・・・。誰しもきっとそんな感覚に覚えがあるだろう。それでもそういう人たちが「今のところ」このような事件を起こしたり自殺したりしないのは、その気持ちを一時的にであれやわらげてくれる存在、機会を周囲に持っているからだろう。
さて、僕はこの本を読んでどうすべきか・・・。なんか、僕は割と甘えている人間に冷たかったり厳しかったりするのだが、くだらない愚痴や、退屈な人の話でも、これからはもう少ししっかり聞いてあげようかな、と少し思った。
【楽天ブックス】「秋葉原事件 加藤智大の軌跡」

「疑心 隠蔽捜査3」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大森署の署長を務める竜崎伸也はアメリカ大統領来日の際、方面警備本部の本部長に任命される。
「隠蔽捜査」シリーズの第3弾である。このシリーズはいずれも竜崎伸也(りゅうざきしんや)という有能なエリート警察官を描いている点が、多くの警察物語と大きく異なる点である。
一切の不正を行わないだけでなく、キャリアでありながら、その立場に溺れて部下に不必要な指示を与えたりせず、常に事件解決、防止のための合理的な決断をし、それを実行する点が僕ら読者の持つ「キャリア」のイメージと大きく異なり、本シリーズの魅力となっている。
しかし、本作品では、補佐役として方面本部に参加してきた魅力的な女性キャリア畠山美奈子(はたけやまみなこ)に恋愛感情を抱いてしまい、竜崎(りゅうざき)の持つ倫理観と、それと相反する感情の葛藤のなかで、本部長という重要な役目をこなさなければならない、という過去2作品とはやや異なった展開になっている。
例によってテンポのいい迅速な展開で非常に読みやすい。このシリーズの魅力は、最終的に竜崎の見せてくれる芯の通った決断と合理的な判断が、しっかりと問題を解決してくれるという、その爽快感だろう。前2作に比べるとややその個性が薄れてしまった気もするが、一気読みさせてくれる展開力は健在である。
【楽天ブックス】「疑心 隠蔽捜査3」

「外科医 須磨久善」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本人でありながら世界からも注目を浴びる心臓外科医。日本初のバチスタ手術に挑んだ男でもある。その心臓外科医としての地位を固める過程が綴られる。
著者海堂尊はドラマや映画にもなった「チームバチスタの栄光」で一躍有名になり自信も医者であるという異例の経歴の持ち主である。そんな彼が出した実際の外科医についての本ということで興味を抱かずにはいられなかった。
本書では今までに須磨(すま)が越えてきたいくつかの壁について語っている。序盤に触れられているのは須磨(すま)が海外からのオファーによって経験することになった公開手術である。
似たような状況をドラマなどで見たことがあるからある程度は想像できるものの、実際にはそれは通常の手術とは比べ物にならないくらい多くのことを気にかけながら進めなければいけない手術で、緊張やプレッシャーも信じられないほどのものだということがわかるだろう。
それ以外のいくつもの困難とわずかなチャンスをものにしながらその地位を固めていく須磨(すま)。そこでは日本の医学会の保守的で異端児を嫌う風潮が何度となく触れられている。
そして後半はバチスタ手術について触れている。現在バチスタ手術の状況や、臓器移植が実質ほとんど行われていないという実情が、須磨にバチスタ手術の必要性を強く感じさせたこと。など、日本最初のバチスタ手術が本当に多くの人の助けを借り、また、費用いくつかの解決しなければいけない問題を越えてようやく実現されたものであることがわかる。

バチスタ手術を今、一番必要としているのは日本ではないのか。
当時の日本ではまだ脳死が認められておらず、心臓移植再開のメドも立っていなかった。なので、拡張型心筋症という難病に罹った日本人には希望がなかった。
現在、バチスタ手術が生き残っているのは世界中を見回しても日本だけだ。バチスタ手術は他国では全部死に絶えた、と言っていいだろう。なぜ須磨が有名なのかといえば、いまだにバチスタ手術をやっていて、しかも数多くの患者を助けているからだ。

医療現場の実情だけでなく、ぶれない須磨(すま)の生き方も本書を通じて見えてくる。自分を複雑化しないで単純に「外科医」という基本から逸脱しないで物事を考え決断するその姿勢には見習うべきものを感じた。
そのほかにも「本物」に対する須磨(すま)の考え方が印象的だった。

ニセモノは、できた直後にはきらびやかですが、その瞬間からすでに滅びに向かっている。本物は違う。年月とともにその威厳を増すものなんです。

人とは違う生き方をずっと続けていた人というのはやはりそれなりのものが身につくのだと、それが本書を読んでいて伝わってくる点に驚かされた。
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「知らないと恥をかく世界の大問題」池上彰

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ジャーナリスト池上彰が世界の現状をわかりやすく語る。
「知らないと恥をかく」とタイトルにあるが、こういう本を読んでいると周知している時点ですでに多少恥を晒している気もする。正直言って割と経済や政治に疎い自覚はあるから本書を手に取ったのだ。
扱っている内容は、世界ではリーマンショックや各地の紛争、アメリカ一極集中の崩壊、そして日本国内の問題などであるが、少し読み進めると、本当に表面的な説明だけで、さらに詳しく知りたい人にとっては物足りない内容だと気づくが、世界で起きている多くの諸問題に対して興味を持つきっかけとして、本書は有用といえるのではないか。
たとえば、サブプライムローン問題などは、その問題の引き起こした出来事の大きさ故に多くのメデイアで説明されつくされたものではあるが、各国の低金利が原油価格の引き上げの大きな要因となっている問題などは正直まったく知らなかったことなので、なんとも恥ずかしい驚きであった。世の中をしっかり理解するためには一度しっかり経済学などを勉強すべきなのかも、と感じてしまう。
本書を読み終えたからといって「知らない」ことが「知っている」になるわけでは決してない。読み終えたあとも、世の中はわからないことだらけだという印象は大して変わらないが少しはハードルを下げてくれたような気がする。

パクスブリタニカ
イギリス帝国の最盛期である19世紀半ばごろから20世紀初頭までの期間を表した言葉。特に「世界の工場」と呼ばれた1850年頃から1870年頃までを指すことも多い。イギリスはこの時期、産業革命による卓抜した経済力と軍事力を背景に、自由貿易や植民地化を情勢に応じて使い分け覇権国家として栄えた。(Wikipedia「パクス・ブリタニカ」
ブレトンウッズ協定
第二次世界大戦末期の1944年7月、アメリカ合衆国のニューハンプシャー州ブレトン・ウッズで開かれた連合国通貨金融会議(45ヵ国参加)で締結され1945年に発効した国際金融機構についての協定である。(Wikipedia「ブレトンウッズ協定」

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「本田にパスの36%を集中せよ ザックJAPANvs.岡田ジャパンのデ-タ解析」森本美行

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ワールドカップやアジアカップなど、日本代表の主要な試合を詳細なデータで解説する。
つい先日「マネーボール」という本を読んだ。その本はメジャーリーグで選手への年俸総額は下から数えたほうが早いにもかかわらず毎年地区優勝を争うアスレチックスがどのようにデータを分析しどのような尺度で選手を評価しているかを興味深く解説したものである。それを読み終えたとき「同じことがサッカーでもできないものか?」という感想を抱いたのだが、その「マネーボール」のサッカー版がまさに本書であり、本書でも「マネーボール」について言及されておりそれなりに影響を受けたことが窺える。
サッカーは野球よりデータの取り方が複雑になるようだが、本書ではいくつかの尺度を用いて解説している。詳細なデータを見ると、僕らが試合を見た印象のいくつかはデータと矛盾していることがわかる。

スペイン代表はほぼ全ての試合をボールポゼッション率で圧倒してきた。当然スペインの攻撃はパスを華麗に繋いでシュートまでいくと思うだろう。データで言えば相手ボールを奪ってからシュートまでの時間は多くかかっていると思われるだろう。しかし、相手ボールを奪ってから16秒以内にシュートを打ったのが6番目に多いチームだった。
Jリーグ2010年のトラッキングデータで瞬間的に最も速く走った選手のランキング表を作ってみた。Jリーグの中で誰が最も早い選手なのだろうか?
答えはおそらくサッカーに詳しい人であれば名前を挙げる事が殆どないと思われる鹿島アントラーズの小笠原満男選手だ。

試合の中で試合をコントロールするゲームキャプテンも、ピッチの外から冷静に分析して指示を出す監督もこの印象に左右される。だからこそ客観的なデータが重要になってくるのだろう。
日本代表の主要な試合のデータをいろんな角度で見ることで、たとえば岡田ジャパンとザックジャパンの考え方の違いなど、またひとつサッカーを楽しむ視点が増えた気がする。ただ、どうしても上でも述べた「マネー・ボール」と比較してしまうのだが、そのデータ解析を面白くわかりやすく説明しているとはいい難く、データ、解説、データ、解説という単調な繰り返しで終わってしまっている点が残念である。サッカーを知っていて、日本代表の試合をある程度見ている人にしか楽しめない内容になっているような印象を受けた。
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「オバマも救えないアメリカ」林壮一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年、そのスピーチに未来の希望を感じ、オバマ大統領は選ばれた。その後アメリカの貧困層にはどんな変化があったのか。著者が実際にアメリカの貧困層の人々たちに接してその声を届ける。
「すべてのアメリカンに大学教育を受けさせる」「国民全員に医療保険を与える」。弱者を思いやる発言に胸を打たれ、多くの人が、彼なら本当に世の中を変えるかもしれない、と将来への希望を見たのだろう。期待が大きかっただけにその失望も大きいのだ。本書のなかに描かれる人々の声は、失望と、期待しすぎた自分への憤りが見える。

私はあなたに投票した。でも、もう本当に疲れきっているの。一体、何がCHANGEしたのかしら?あなたには本当に失望しています

本書のなかで貧困層の現状を訴える過程で、いくつか議論を巻き起こした事件が取り上げられる。()いまだ根強く残る人種差別と貧困ゆえに高まる犯罪率。日本と同じ先進国でありながら、最下層にここまで差があること、生まれてから努力しても変えようのない状況に人生の不公平を感じてしまう。
大統領が変わることに将来の希望を見た彼らの声を聞くと、アメリカという国で、大統領選挙があれほど国民の関心を引く理由がよくわかる。僕ら日本人がアメリカ人と比べて政治に関心がないのは、ある意味、それが僕らの人生を左右するほどの影響をもたらさないためだろう。それは幸せなことだとも言えるかもしれない。どんな無能な人間が総理大臣になろうと政治によって命の危機を感じることはないだろう。
多くの声をまとめているだけで、著者の考えがあまり介入していない点に好感が持てる。おそらく、本書を読んで、いくつかの貧困にあえぐアメリカ人が口にしているように「オバマは口だけだ」と思う読者もいれば、「そう簡単に改善できないぐらいひどい国にブッシュはしてしまったのだ」とオバマ大統領への期待の目で見続ける読者もいるだろう。貧困層の現状を伝えるだけでそれによる判断は読者に委ねているのである。

オスカー・グラント
サンフランシスコとベイエリアの各地をつなぐ公営高速鉄道システム「BART(Bay Area Rapid Transit)」の駅で、内でけんかをしているとの通報に応じて駆けつけた鉄道警察官らに電車から降ろされ、地面に押さえつけられた状態で撃たれ、死亡した。事件の様子は、通行人が携帯電話で撮影しており、動画がインターネットやテレビで広く放映された。(AFPBB News
アマドゥ・ディアロ
ニューヨーク市に住んでいた23歳のギニア人の移民。1999年2月4日に、ニューヨーク市警察に勤める4人の白人警官から、合計で41発の銃弾を受けて射殺された。 4人の警官は解雇され起訴されたが、その全員が裁判で無罪となった。(Wikipedia「アマドゥ・ディアロ」
ジェニファー・ハドソン
アメリカ合衆国の歌手、女優。(Wikipedia「ジェニファー・ハドソン」

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「ほかならぬ人へ」白石一文

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第142回直木賞受賞作品。
本作品は2つの物語で構成されている。1つ目は宇津木明生(うつぎあきお)という、名家に生まれながらも才能豊かな2人の兄にコンプレックスを抱きながら生きてきた男の物語。2つ目は結婚を目前に控えたOLみはるの物語である。
どちらの物語にも、生きていくことの目的や意義や、幸せの形や、そういった答えのないもの(もしくは各自答えの異なるもの)に対する疑問を読者のなかにじわじわと染みこませてくるような世界観を漂わせている。
たとえば1つ目の物語では宇津木明生(うつぎあきお)の周囲には叶わぬ恋に突き進む2人女性がいて、恋愛についての考えを語る。

みんな徹底的に探してないだけだよ。ベストの相手を見つけた人は全員そういう証拠を手に入れてるんだ。

年をとろうとも、結婚しようともベストな相手を見つけることが人生の目標…、そんな考え方にどきっとさせられてしまう。
そして2つめの物語も結婚を目前にもほかの男性と関係をもちながらゆれる女性を描く。

足元の地面が固まれば固まるほど、その硬い地面をほじくり返したい衝動に駆られるのはなぜだろう?

目的を達成することが幸せなのか、目的を達成できないから幸せなのか。安定しているから幸せなのか、安定していないから幸せなのか。長生きすることが幸せなのか、もっと生きたいと思って死ぬから幸せなのか…。
残念なのは2つの物語に関連性があまり見出せなかった点だろう。過去にもいい作品がありながら(特に「私という運命について」は傑作)本作品で初めて直木賞を受賞したということでいままでとは違う何かを期待したのだが、そういう意味での新しさは残念ながら感じられなかった。
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「愚者のエンドロール」米澤穂信

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
古典部の高校生4人が2年生が作りかけたミステリーを見せられ、その続きの脚本の製作に手を貸すよう依頼される…。
「氷菓」に続く古典部シリーズの第2弾である。筆者米澤穂信の作品にいくつか触れるとわかることだが、ミステリーに対してかなりの強い思い入れがあるようだ。(特に「インシテミル」のなかでミステリーに対する言及が多かった)そして、そのミステリーにおける暗黙のルールを強調しながらも、そのルールの枠からどうにかして逸脱しようと終始試みているように感じられる。
本作品で興味深いのはその舞台設定だろう。折木ホータロー、千反田えるを含む古典部4人は素人によって途中まで映像化されて放り出されたミステリーを見せられ、続きがどうなるのか考えるよう依頼されるのだ。
つまりそれは、単純に目の前で起きた殺人事件の謎を解くのとは実はかなり異なる。彼らは常に、映像のなかで得られた手がかりのほかに「実は脚本を担当した人は、この窓が空きにくい事実を見逃していたかも?」とか「脚本担当がこの建物を下見したときは冬でここはもっと草が少なかったかも」という、そのミステリーの作成のなかで生じた見落としや誤りをつねに想定しながら、推理を進めていかなければならないのだ。
そんななか、ホータローは「これが真実」と提出される案を論破していく。では、真実は?というよりも真実として描かれるはずだった映像の脚本は?物語の出来不出来にかかわらず、この奇妙さはかなり新鮮である。結末よりもこの奇妙な設定にずいぶん魅力を感じてしまう。
全体的には前作同様、力を抜いてのんびり読める作品である。
【楽天ブックス】「愚者のエンドロール」