とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「ロード&ゴー」日明恩

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
恵比寿出張所の救急隊員生田温志(いくたあつし)が運転する救急車は搬送していた一人の負傷者によってハイジャックされる。
著者日明恩(たちもりめぐみ)は「鎮火報」「埋み火」で消防隊隊の様子を克明に描いていて、本作品も非常に共通する部分を感じる。周辺の道路事情に詳しい様子や、負傷者を搬送し、搬送中に治療を行うがゆえにその救急車の運転には非常に気を使わなければならないことなどが、運転手目線で描かれている。

一分一秒を争う重症外傷の現場において、生命にかかわる損傷の観察と処置のみを行い、その他は省略して5分以内に現場を出発し病院に搬送する。それがロード&ゴー──救急における非常事態宣言だ。

序盤はそんな救急隊員の日常に始まり、やがてその日常の秒無のなかで搬送した、負傷していると思われた男によって救急車は乗っ取られることになる。言うことに従わなければ爆弾を爆発させるという犯人。そんな犯人自身も家族を人質にとられているゆえに犯行に及んでいるという。
その目的はなんなのか。物語が進むにつれ次第に見えてくる犯人の意図や、現在の救急医療の矛盾、社会制度の歪み。さすがに日明恩(たちもりめぐみ)、ただの犯罪小説には終わらない。

救急救命士の資格を持っていても、傷病者がどれだけ状態が悪くて危険な状態だとしても、何も出来ないんです。それが今の法律です。
救急隊員は重篤度の高い傷病者を優先する。その次に優先する、いやせざるを得ないのは、痛みを強く訴える傷病者だ。もっとも後回しとなってしまうのは、痛みを訴えない人となる。我慢強く、謙虚な人であるほど、ときに搬送で後回しになったり、場合によっては搬送を辞退してしまうことも、珍しくない。

物語を面白くしているのは女性の救命救急士の森栄利子(もりえりこ)である。震災で身内を亡くしたために救急士を志し、自分だけでなく他人にも厳しいゆえに周囲と軋轢を抱える。男性が大部分を占める救急というなかで生きていくゆえの難しさや、人を救うことが仕事にもかかわらず、その容姿ゆえに広報役を担わなければならないために、複雑な思いを抱えている。
また、すでに著者日明恩(たちもりめぐみ)の本を読んでいるひとには嬉しいことに、途中、「鎮火報」や「埋み火」の登場人物も活躍する。一気に読める内容と言えるだろう。
【楽天ブックス】「ロード&ゴー」

「空想オルガン」初野晴

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
穂村千夏(ほむらちか)は吹奏楽部の高校2年生。吹奏楽に青春を注ぎ込む過程で彼女の周囲に起こるできごとを描く。
読み始めてすぐに気づいたのだが、どうやら本作品は主人公である穂村千夏(ほむらちか)とその幼馴染である上条ハルタが繰り広げる「ハルチカシリーズ」の第3弾ということで、最初の2作品をすっ飛ばしていきなり第3弾から読み始めるということになってしまった。もちろん内容は本作品から読み始めた読者にもわかるように登場人物の紹介などがされているのだが、おそらく順番どおりに読んだほうが楽しめたのだろう。
物語は高校の吹奏楽部を中心としてコミカルに描かれるドタバタ劇。同じ吹奏楽に情熱を注ぐ他校の生徒との出来事や、部員のトラブルの解決、練習場所の確保などのエピソードである。パっと読んでパっと忘れる、的な物語かとも思ったいて、それは基本的に間違ってはいないのだが、終盤に差し掛かるにしたがって少しずつ考えさせる文章がちりばめられている。
シリーズのほかの作品も読んでみようと思える内容である。

手回しオルガン
ピンの出た円筒に接続されたハンドルを手で回し、円筒に隣接した鍵盤をピンで押さえる仕組みの自動オルガン。
紙腔琴
手回し式の小型オルガンの一種。1890年(明治23年)、戸田欽堂が発明し、栗本鋤雲が命名した[1]。西川オルガン製作所で製作し、東京銀座の十字屋楽器店で売り出した。
駿府城
静岡県静岡市葵区(駿河国安倍郡)にあった城。別名は府中城や静岡城など。江戸時代には駿府藩や駿府城代が、明治維新期には再び駿府藩(間もなく静岡藩に改称)が置かれた。
チベタン・マスティフ
チベット高原を原産地とする超大型犬。俗にチベット犬とも呼ばれ、希少種である。

【楽天ブックス】「空想オルガン」

「安藤忠雄仕事をつくる 私の履歴書」安藤忠雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
建築家安藤忠雄(あんどうただお)がその半生を描く。
安藤忠雄(あんどうただお)と言えば、丹下健三(たんげけんぞう)、黒川記章(くろかわきしょう)と並んで、建築など素人である僕にも知っている建築家の一人。そんな有名な建築家でありながら彼のその知識は独学によって身につけられたものだというから興味深い。
本作品は、そんな安藤(あんどう)の学生時代から、建築家になり、現代に至るまでの仕事や生活を描く。安藤の今までの作品とその制作秘話だけでなく、安藤が勉強のために訪れたという日本の建造物もいくつか紹介されているから面白い。
安藤(あんどう)もまた、パソコン、携帯電話という大きな変化のなかで生きている。昭和の経済の絶頂期を知りながら今の不況を生きている。そんな安藤(あんどう)の語るところによるとやはり現代の若い人間が元気がないとか。この世代の人は、自分達の若かったころを美化し、今を嘆く傾向が強い。実際にどうなのかがわからないが、東北大震災後に描かれたらしく、今を嘆く記述が随所に見られた。建築だけでなくいろいろな面で考えさせられる部分はあった。

東大寺南大門
国宝。平安時代の応和2年(962年)8月に台風で倒壊後、鎌倉時代の正治元年(1199年)に復興されたもの。東大寺中興の祖である俊乗坊重源が中国・宋から伝えた建築様式といわれる大仏様(だいぶつよう、天竺様・てんじくようともいう)を採用した建築として著名である。(Wikipedia「東大寺」
倉俣史朗
日本のインテリアデザイナーである。空間デザイン、家具デザインの分野で60年代初めから90年代にかけて世界的に傑出した仕事をしたデザイナー。(Wikipedia「倉俣史朗」
田中一光
昭和期を代表するグラフィックデザイナーとして活躍した。グラフィックデザイン、広告の他、デザイナーとして日本のデザイン界、デザイナーたちに大きな影響を与えた。作風は琳派に大きな影響を受けている。(Wikipedia「田中一光」

【楽天ブックス】「安藤忠雄仕事をつくる 私の履歴書」

「英雄の書」宮部みゆき

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
中学二年生の兄がクラスメートを殺傷し、姿を消したため、小学生の妹の友里子(ゆりこ)は兄の行方を探そうとする。兄の部屋の書物たちが言うには、兄は「英雄に魅入られた」のだという。
普段の宮部作品のような、平和に見える現代社会に生まれる人々の摩擦を描いた作品を期待したのだが、実際には「ブレイブストーリー」に続くファンタジーということだった。上下巻にわたる物語ではありながらも、ファンタジーとしては短めに類するだろう。残念ながら非現実的なその世界観がなかなかしみ込んでこないで、そのファンタジーゆえの非現実感がそのまま違和感として受け取れてしまった。
別にファンタジーが嫌いなわけではなく、「ロードオブザリング」や「獣の奏者」などは比較的楽しめたと思っている。思ったのは現代社会とリンクしたような、中途半端なファンタジーは書くのが難しいということ。また、ファンタジーはその世界観を読者の心のなかで構築するためにある程度の長さが必要になるということ。
そんなわけで残念がらあまり楽しむことができなかったが、その辺も読者の気分に左右される部分もあると思うので、ぜひ挑戦してみていただきたい。
【楽天ブックス】「英雄の書(上)」「英雄の書(下)」

「The Help」Kathryn Stockett

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1960年代のミシシッピ州。そこでは黒人差別が未だに色濃く残っていた。黒人女性たちが家政婦として白人に仕えるなかで、ジャーナリストになる夢を持つ白人女性Skeeterは、黒人女性たちの声をまとめた本を作ろうと思い立つ。

物語は2人の黒人家政婦の生活から始まる。子供を愛するAibileenと、口は悪いがケーキを作らせたら右に出るもののいないMinnyである。

Aibileenは子供が好きで、仕えた過程の元で世話した子供たちの人数を誇りに思っていて、2人の幼い子供のいる家庭に勤めている。Minnyはとある出来事によってそれまでの雇い主から解雇され、白人のコミュニティのなかで孤立した風変わりな女性Celiaの元で働くことになる。Aibileenとその勤め先の子供達の関係も面白いが、MinnyとCeliaのおかしな関係も心を和ませる。

それほど遠い昔ではない1960年代にまだこれほどの差別が残っていたということに驚かされる。白人と黒人は、食事を同じテーブルですることもなければ、トイレやバスタブまで別のものを使うべきと信じられていたのだ。途中想起したのはルワンダのツチ族とフツ族のこと。彼らの差別は結果として大虐殺という事態に発展してしまったが、1960年代のミシシッピの黒人と白人もきっかけがあれば大きな混乱になっていたであろう。

こう書くと、当時の白人達はみんなが黒人を害虫のように扱っていたように思うかもしれないが、白人のなかにも差別を悪として親身になって黒人の家政婦たちに接していた人がいたということは知っておくべきだ。

さて、若い白人女性Skeeterは何か今までにない読み物を書こうと思い立ち、白人家庭に勤める家政婦達の声を本にすることを思いつき提案するのだが、思うように進まない。なぜなら、白人のSkeeterには簡単な決断に思えるものが、MinnyやAibileenにとっては大きな危険に自分の家族をさらすものなのである。その温度差が物語が進むにつれてひとつの目的の達成へと向かっていくのが面白い

私は周囲を見回した。私達は誰にでも見えるひらけた場所にいる。彼女にはこれがどれだけ危険なことかわからないのか...。公衆の面前でこんなことを話すということが。

本が出版されたら白人女性たちは誰のことが書かれているかわかるだろうか。黒人の家政婦たちを解雇するだろうか。そんな不安を抱えながらもSkeeter、Minny、Aibileenは秘密裏に出版に向けて奔走する。

日本は差別という現実にあまり向き合うことのない平和な国。それゆえに自分の無知さを改めて思い知らされた。物語中で引用されている人物名や組織名にも改めて関心を持ちたい。多くの人に読んで欲しい素敵な物語である。

公民権運動
1950年代から1960年代にかけてアメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)が、公民権の適用と人種差別の解消を求めて行った大衆運動である。(Wikipedia「公民権運動」
モンゴメリー・バス・ボイコット事件
1955年にアメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリーで始まった人種差別への抗議運動である。事件の原因は、モンゴメリーの公共交通機関での人種隔離政策にあり、公民権運動のきっかけの一つとなった。(Wikipedia「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」

「6TEEN」石田衣良

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
月島を舞台にした、4人の16才の少年の物語。
直木賞を受賞した「4TEEN」の2年後を描く。正直「4TEEN」を読んだのはもう10年以上前だから、前作のエピソードと絡めて本作品を楽しむことはできなかったが、本作品も同じ4人の少年、テツロー、ナオト、ダイ、ジュンがその日々の生活のなかでお金もなく限られた範囲で与えられた自由のなかで、楽しいことを探してすごしていく中で、いろいろなことを経験し成長する姿が描かれている。
当然といえば当然だが、それぞれのエピソードがかなり作られた感じが出てしまったが、清々しい読了感を与えてくれる。

「今日はいい天気だね」とか「涼しくなったね」とかいう会話が、なによりも一番贅沢な世界というのは、案外悪くないんじゃないだろうか。豊かさとか生涯賃金とか経済成長率なんかに、いつまでもこだわっていても意味などないのだ。
クラインフェルター症候群
男性の性染色体にX染色体が一つ以上多いことで生じる一連の症候群。(Wikipedia「クラインフェルター症候群」

【楽天ブックス】「6TEEN」

「ホーキング、宇宙のすべてを語る」スティーヴン・ホーキング

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
イギリスの車椅子の物理学者、スティーヴン・ホーキングが宇宙についてわかりやすく語る。
サイモン・シンの「宇宙創生」を読んで、人々が永遠にたどり着くことができない宇宙についてその仕組みを何年もかけて明らかにする過程に魅了され、もう少し深く掘り下げたわかりやすい本はないか、と思い本書を選んだ。
本書はホーキングが最初に宇宙について書いた「ホーキング、宇宙を語る」をより読みやすく面白くした。と序文にあるのだが、とても「誰にでも理解できる」とは言いがたい内容である。その読みにくさは内容だけでなく、翻訳にも問題があるのかもしれないが、どちらにせよ消化不良な印象はぬぐえない。
数学関連の本もそうだが、その分野の最先端の話を理解するのに一冊の本を読んだだけで足りることなどないのである。1つのステップとして、少しずつでも本書に出てきた意味のわからない単語を理解するよう努めたい。

グルーオン
ハドロン内部で強い相互作用を伝播する、スピン1のボース粒子である。質量は0で、電荷は中性。また、「色荷(カラー)」と呼ばれる量子数を持ち、その違いによって全部で8種類のグルーオンが存在する。膠着子(こうちゃくし)、糊粒子ともいう。(Wikipedia「グルーオン」
弦理論
弦理論(げんりろん、英: string theory)は、粒子を0次元の点ではなく1次元の弦として扱う理論、仮説のこと。ひも理論、ストリング理論とも呼ばれる。(Wikipedia「弦理論」

【楽天ブックス】「ホーキング、宇宙のすべてを語る」

「女の子のための現代アート入門」長谷川祐子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
20年間展覧会やプロジェクトで現代アートを紹介してきた著者が現代アートについて語る。
同じ著者の別の作品「「なぜ?から始める現代アート」がいろいろな側面から現代アートの楽しみ方を語っているのに比べると、こちらはひたすら現代アートを紹介している。重なる部分も多く、どちらか迷っtている人がいるなら僕は、「「なぜ?から始める現代アート」の方をお勧めする。
もちろん、本作品からもいろいろな興味深いアーティストを知ることができた。黄色の顔を描くオスジェメオスなどはまさにその一つである。

登場人物たちの顔が黄色いのは黒人でもアジア人でも白人でもない、人種が特定できない顔にしたかったからだ。

終わりに著者が書いたこんな言葉が印象に残った。

考えることは、見聞きしたものをフレームに入れてあなたの体のなかにしまっておくプロセスです。起きている間に見たものの97パーセントは、眠っている間に記憶をつかさどる脳の海馬という場所で選別され、捨てられます。

アンテナを常に張って、感性を刺激し続けたいものである。
【楽天ブックス】「女の子のための現代アート入門」

「時をかける少女」筒井康隆

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
すでに原作より、ドラマやアニメの方が有名になってしまったこの物語。考えてみれば原作を読んでなかったなと思って手に取った。
驚いたのは「時をかける少女」はこの本に含まれる3つの物語のうちひとつということで、予想外に短い物語なのだ。アニメではなんどもタイムリープする主人公だが本作品では和子(かずこ)は自らの意思でタイムリープするのはわずか一回だけなのである。
読み終えてから感じたのは、本作品が何度も何度も繰り返し映画やドラマやアニメになる理由は、その内容ゆえではなくそのタイトル「時をかける少女」というどこかミステリアスでわくわくさせるネーミングにあるのだろうということである。
【楽天ブックス】「時をかける少女」

「The Burning Wire」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズの第9弾。今回の犯人は電気を自由自在に操る。
電気を使って感電させたりすることで殺害するという今回の犯人。読み進めていくうちに感じるのは、ものすごい効率的な殺人兵器と化すにも関わらず、人々の生活にあふれている「電気」という存在に対する違和感である。極悪非道で進出機没な犯人だが、Rhymeはいつものごとく現場に残されたわずかな手がかりから犯人を追跡していく。AmeliaやPulunskiが失敗を重ねながら悪戦苦闘する姿も毎度のことながら面白い。
さて、そんな電気使いの犯人の追跡とあわせて、メキシコでは「The Cold Moon」以来、逃亡し続けている通称「Watch Maker」の追跡も逐一連絡がRhymeの元に入ってくる。遂にWatch Makerは捕らえられるのか?そんな楽しみも味わえるだろう。
パターン化している部分も感じないことはないが、相変わらずテンポよく読めるのが辞められない一因だろう。

「無理」奥田英朗

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
市町村合併によって生まれたとある地方都市。多くの男女が悶々とした日々を送っている。そんな人々を描く。
物語は同じ地方都市で生きる男女を行き来する。女子高生。市の政治家。生活保護を担当する役員。宗教にはまりこむ主婦。暴走族あがりのセールスマン。いずれも現状に不満を抱きながら、すこしでもよりよい未来を求めて日々悪戦苦闘しているのだがなかなか思うように進まない。
そして次第に5人の悲惨な人生はひとつの出来事へと向かっていく。生活保護や老人を狙った詐欺など、現代の話題を適度に盛り込み意図せず悪循環へと陥っていく不幸な人々をテンポよく描いている。いずれもどこか他人事として見れないリアルさを感じてしまうから面白い。まさに一気読みの一冊。
【楽天ブックス】「無理(上)」「無理(下)」

「宇宙創生」サイモン・シン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宇宙はいつどのように始まったのか。この永遠の謎とも思えるこの問いに、人類は長い間かけて挑んできた。その奇跡をサイモン・シンが描く。
「フェルマーの最終定理」「暗号解読」で人々の知性が過去繰り広げてきた挑戦をわかりやすく、そして面白く見事に描いてきたサイモン・シン。そんな彼が今回選んだのが宇宙の物語である。
僕らは義務教育ゆえに地球は自転しながら太陽の周りを廻っていることを知っている。夜空の星が信じられないほど遠くにあることを知っている。しかし、人類がそれを常識として認識するまでには、何千年もの時が必要で、時には間違った方向に進んだりしたのである。
コペルニクスやガリレオ、誰でも知っている有名な物語からほとんど知られていないレアな物語まで、人類が地球の大きさ、月の大きさ、太陽の大きさ、夜空に見える星までの距離。最初は永遠に明らかになるはずがないと思われていた謎が、科学の発展と、天体に心を奪われた人々の執念深い観察と突飛な発想によって少しずつ明らかになっていく過程が描かれている。真実が真実として人々の中に定着するのに必要なのは論理的な推論と、観測によって裏付けられた事実だけでなく、政治的な問題や宗教的な問題も多くを占めることがわかるだろう。そのような問題をドラマチックに描いてくれるから本書は面白いのだ。

死は、科学が進歩する大きな要因のひとつなのだ。なぜなら死は、古くて間違った理論を捨てて、新しい正確な理論を取ることをしぶる保守的な科学者たちを片づけてくれるからだ。

前半はどこかで聞いたような古代の人々の物語が中心で、しっかりと理解しながら読み進められるが、後半は次第に理解を超えた話になる点が面白い。僕が初めて宇宙の物語を知ったときから「ビッグバン」というものが常識のように語られていたので、僕が生まれる数年前まで宇宙創生に関して、ビッグバン理論だけでなく、定常宇宙理論も多くの科学者によって支持されていた事実には驚かされた。

ビッグバンは、空間の中で何かが爆発したのではなく、空間が爆発したのである。同様に、ビッグバンは時間の中で何かが爆発したのでなく、時間が爆発したのである。空間と時間はどちらも、ビッグバンの瞬間に作られたのだ。

登場人物の多さで混乱してしまう部分もあるが、人類が長年かけて明らかにした宇宙の仕組みを非常に面白く描いているお勧めの一冊。

クエーサー
非常に離れた距離において極めて明るく輝いているために、光学望遠鏡では内部構造が見えず、恒星のような点光源に見える天体(Wikipedia「クエーサー」
CMB放射(宇宙マイクロ波背景放射)
天球上の全方向からほぼ等方的に観測されるマイクロ波である。そのスペクトルは2.725Kの黒体放射に極めてよく一致している。(Wikipedia「宇宙マイクロ波背景放射」
定常宇宙論
1948年にフレッド・ホイル、トーマス・ゴールド、ヘルマン・ボンディらによって提唱された宇宙論のモデルであり、(宇宙は膨張しているが)無からの物質の創生により、任意の空間の質量(大雑把に言えば宇宙空間に分布する銀河の数)は常に一定に保たれ、宇宙の基本的な構造は時間によって変化する事はない、とするもの。(Wikipedia「定常宇宙論」

【楽天ブックス】「宇宙創成(上)」「宇宙創成(下)」

「「なぜ?から始める現代アート」長谷川祐子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京現代美術館のチーフ・キュレーターである著者が現代アートについてわかりやすく語る。
現代アートというと、西洋絵画や日本画と比べるとどうしても「わかりにくい」というイメージがあるが、著者は多くの現代アートを例にとって、それが制作された考え方などをわかりやすく語ってくれるので初心者にとっても非常にわかりやすい。現代アートというと「アートとは何か?」という定義への挑戦、的なイメージを僕は持っているのだが、そんなアートの定義として本書で著者が書いている次の言葉が印象に残った。

アートは、時を越えて生き残る「通時性」と、共有する現在をときめかせる「共時性」の、二つの力をあわせもっている。

いろんなアートやその考え方を説明する過程で出てくる作品やそのアーティストの考え方に魅了されてしまうだろう。「政治性」を持ったアートを説明している章では、「ゲルニカ」や「お腹が痛くなった原発くん」を例に挙げている。
アートを見る目を少し肥えさせてくれる一冊

フランク・ステラ
戦後アメリカの抽象絵画を代表する作家の1人。マサチューセッツ州、ボストン郊外モールデンに生まれ、プリンストン大学で美術史を学ぶ。(Wikipedia「フランク・ステラ」
ドナルド・ジャッド
20世紀のアメリカ合衆国の画家、彫刻家、美術家、美術評論家。当初は画家・版画家であり美術評論でも高い評価を受けたが、次第に立体作品の制作に移った。箱型など純粋な形態の立体作品は多くの美術家や建築家、デザイナーらに影響を与えている。抽象表現主義の情念の混沌とした世界の表現に反対し、その対極をめざすミニマル・アートを代表するアーティストの1人。(Wikipedia「ドナルド・ジャッド」
エルネスト・ネト
ブラジルを代表する現代美術家の一人で、布や香辛料など自然の素材を用いた作品で知られるアーティスト。2001年のヴェネチア・ビエンナーレではブラジル館の代表となるなど、既に世界的な評価は高く、出身地であるリオ・デ・ジャネイロを拠点にしながら、多くの展覧会、プロジェクトに参加している。(はてなキーワード「エルネスト・ネト」
マシュー・バーニー
アメリカの現代美術家。現在はニューヨーク在住。コンテポラリー・アートを代表する作家のひとりとして近年、台頭してきた。
フランシス・アリス
1959年ベルギー、アントワープ生まれ。メキシコシティ在住。社会的危機を抱いた都市空間を舞台にヴィデオや抽象絵画によって世間を挑発し続けるアーティスト。(はてなキーワード「フランシス・アリス」
SANAA
妹島和世(せじまかずよ)と西沢立衛(にしざわりゅうえ)による日本の建築家ユニット。プリツカー賞、日本建築学会賞2度、金獅子賞他多数受賞。(Wikipedia「SANAA」

【楽天ブックス】「「なぜ?」から始める現代アート」

「ブレイズメス1990」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1990年、天才心臓外科医天城雪彦(あまぎゆきひこ)が東城医大へ赴任する。新しい天城(あまぎ)の医療スタイルや考え方は東城医大の医師たちに衝撃を与える。
同じく数十年前を扱った「ブラックペアン1988」の3年後の物語。その中では古くからいる医師を追い出す結果となった高階(たかしな)が、今回は天城(あまぎ)の日本医療と相容れない考え方に猛然と反発する。簡単に言えば、天城(あまぎ)は医療を進歩させて医療を維持するためには、お金を缶から受け取る必要があり、医師の数は限られているのだから、多くの金を払える人から治療すべき、というのに大して、高階(たかしな)は医療にカネの話を持ち出すべきではないというのである。

真実は、腕があってもカネがなければ命は救えない。だから医療は独自の経済原則を確立しておかないと、社会の流れが変わった時、干からびてしまう。

著者はもちろん、この作品を社会の流れが変わって、「医療崩壊」という言葉が広まったあとに本作品を書いているのである。つまり、天城(あまぎ)の本作品中で見せる態度は、医療界が本来20年前にやるべきだったこと、として描かれているのだろう。高階(たかしな)と天城(あまぎ)の議論が非常に深みを感じさせるのは、今の状況があるがゆえである。
そして天城(あまぎ)は自らの言葉を実践すべく公開手術へと向かっていく。

「天城先生は、医療現場においては命とお金と、どちらが大切だとお考えですか?」
「カネよりも命のほうが大切だ、という青臭い戯言には同意しますが、カネがなければ命も助けられないという現実から目を逸らすわけにもいきません。

東城医大の物語の歴史をさらに深くする一冊である。
【楽天ブックス】「ブレイズメス1990」

「ルワンダの大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記」レヴェリアン・ルラングァ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1994年の4月から7月にかけて総計100万人のツチ族が同じルワンダに住むフツ族によって殺された。幸運にもその虐殺のなかで生き残った青年ルラングァがその様子とその後を語る。
ルワンダの虐殺といえば、アウシュビッツなどと並び世界史において「ジェノサイド」という言葉を用いられる数少ない例の一つ。「ルワンダの涙」「ホテル・ルワンダ」などでもそのエピソードは知られている。
本書ではそんな1994年の大虐殺のまさにその「迫りくる死」を描いている。目の前で多くの知り合いが殺され、そして妹や母までもが無残に殺されていくのである。信じ難いのは当時公共のラジオ放送が人々にツチ族を殺すように呼びかけていたことである。

「僕はまだ八歳なんですが、もうツチ族を殺してもいいんですか?」
「かわいらしい質問だね!誰でもやっていいんだよ!」

最初は、生き残ったのはどこかに隠れていて運良く見つからなかったからだろう、と思っていたのだが、実際には、肩を砕かれ、鼻を削ぎ落とされ、左手を失ってその苦しさのあまり「殺してくれ」と叫んでいたから、逆に殺されなかったのである。「殺さないでくれ」と叫んでいたらきっと殺されていただろう。
そして、その虐殺の後についても描かれている。スイスの慈善団体の助けで生き延びた彼は、その後またルワンダに戻って、自らの腕を切り落とした男と再会するのである。自らを生死のふちに追い込み、親や妹達を殺した殺人鬼が普通に日常を送っていることに耐えられないルラングァ。終盤はその心のうちを描いている。読んでいて感じるのは、僕とほとんど変わらない年齢にも関わらず人生の苦難の多くを経験してしまった彼の荒んだ心のうちである。
全体的に文章から強い怒りを感じ、冷静に分析されて描かれた内容とはいえないが、その狂気の様子を知るひとつの手がかりにはなるだろう。
【楽天ブックス】「ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記」

「リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ」四方啓暉

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
リッツ・カールトン大阪の開業に携わり、開業後は副総支配人としてその運営に関わった著者がそのホスピタリティについて語る。
実際僕自身リッツ・カールトンは足を踏み入れたこともないのだが、「クレド」というものについて語るとき必ず挙がるのがリッツ・カールトンであり、その徹底されたサービスはよく知られているところである。
しかし、世の中に多くのサービスがあって、そのどれもが顧客目線でサービスの質を向上しようとしているにも関わらず、そんな中でもリッツ・カールトンが際立って高い評価を受ける理由はなんなのか。そんな疑問に本書はわずかではあるが答えてくれることだろう。
なかにはもちろん高いお金をかけるからこそ実現するものもあるが、いくつかは異なる業種にも適用できるようなものであり、それだけでなく、単純に人と人とのコミュニケーションの際にも利用できそうな考え方まで示されている。
以前読んだ、オリエンタルワールドのサービスについて書かれた本の内容と類似点がある印象を受けた。どちらもあらゆる過程で根本となるポリシーをもとに判断を下しているのである。こんなことが実現できるならぜひそんな会社で働いてみたい、と思わせる一冊である。
【楽天ブックス】「リッツ・カ-ルトンの究極のホスピタリティ」

「On the Island」Tracey Garvis-Graves

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生T.J.とその家庭教師のAnnaがモルジブに向かう途中、航空機が墜落し、やがて2人は小さな島に流れ着く。
過去いくつもの物語が作られている、無人島漂流記という題材。本作品は先生と生徒という男女でその物語が展開していく。飲み水の確保や、火をおこすことに悪戦苦闘する姿は比較的予想されているもの。その土地特有の病気もまたその一つであって、男女であればやがて恋愛関係になるのも予想通りかもしれない。
本作品で予想外のことと言えば、過去、無人島漂流記という物語は島から脱出して物語を終えるのにもかかわらず、本作品ではその後の2人の様子も描かれている点だろう。島での生活と、都会の最先端の文化での生活のギャップや、飛行機事故の生存者として有名になってしまったが故の2人の苦悩するさまなどが新しい。
すべてがフィクションではなくて、9.11やスマトラ沖地震を物語に絡めている点も面白い。

「暗号解読」サイモン・シン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人には秘密があり、誰かにそれを伝える際にその秘密を守るために暗号がある。人は暗号を考案してはそれを破ってきた。暗号の進化の歴史をそれに関連するエピソードを交えて描く。
著者の代表作でもある「フェルマーの最終定理」。こんな難しい題材をどうやって読者に面白く伝えるのだろう?という疑問を見事に吹き飛ばしてくれたサイモン・シンが暗号について書いたのだからおのずと期待は増してしまう。実際その内容はその期待を裏切らないものであった。
多くの暗号エピソード同様、初期のアルファベットをずらした暗号から、第二次大戦中のドイツの暗号機エニグマ。いずれもその仕組みとそれを解読した人々の努力を非常に面白く描かれている。いずれのエピソードもその暗号の歴史的重要性を示しながら展開するので物語性も十分である。

ポーランドがエニグマ暗号を解読できたのは、煎じ詰めれば三つの要素のおかげだった。恐怖、数学、そしてスパイ行為である。侵略の恐怖がなければ、難攻不落のエニグマ暗号に取り組もうなどとは、そもそも思いもしなかっただろう。

また、暗号だけでなく、古代のヒエログリフの解読についても触れている。ヒエログリフは文字であって暗号ではないのだが、その解読の手順は非常に似通っている。現代の人間が誰もその当時の声を聞いたことがないにもかかわらず、ヒエログリフがどのような音で発音されていたかまで明らかになっているという話は、本書を読むまで信じられなかったのだが、解読者たちのその思考の流れを本書とともに追うことで納得することができた。
そして、中盤を過ぎると暗号の伝達方法も手紙からメールとなり、公開鍵、RSA非対称暗号へと移っていく。一方向関数を利用したRSA暗号のエピソードはいろいろな書籍で目にするが、何度読んでも面白いしそれを作り上げた人々に感心してしまう。
終盤では、現代の暗号もいつか破られることがあるのか?という考えで、量子コンピュータに触れるとともに、犯罪をも助ける暗号技術を国が規制すべきか否か、という点についても語っている。
理系の人間にとっては大満足の一冊となるだろう。

線文字B
紀元前1450年から紀元前1375年頃までミュケナイ時代に、ギリシャ本土からエーゲ海諸島の王宮で用いられていた文字である。(Wikipedia「線文字B」
鉄仮面
フランスで実際に1703年までバスティーユ牢獄に収監されていた「ベールで顔を覆った囚人」。その正体については諸説諸々。これをモチーフに作られた伝説や作品も流布した。(Wikipedia「鉄火面」
エニグマ
第二次世界大戦のときにナチス・ドイツが用いていたことで有名なロータ式暗号機のこと。幾つかの型がある。その暗号機の暗号も広義にはエニグマと呼ばれる。(Wikipedia「エニグマ」

【楽天ブックス】「暗号解読(上)」「暗号解読(下)」

「クラウド化する世界 ビジネスモデル構築の大転換」ニコラス・G・カー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Googleのサービスに見られるように、世の中はクラウドというスタイルへと移行しつつある。本書の序盤はそんな「クラウド」について、過去にクラウド化された物を例にとって初心者にもわかりやすく説明している。
その例に使用されているのが、「電力」である。発電機が発明されて、電気にガスよりも多くの利点があると世の中が認識すると、すぐにお金のある企業は発電機を買って電気を利用し始めるが、やがて「電力」はおのおのの企業や家庭がその敷地内で発電するものではなく、現在の「発電所」と呼ばれるような、ひとつの場所で多くの電力を発電し必要とされる場所に送られることが一般的になっていった。
この電力の進化の流れは、現在の「クラウド」と呼ばれるものと同じ流れであり、そう考えると「クラウド」という言葉こそインターネット向けに使われ始めたものではあるが、その進化の流れは決して特別新しいものではないことがわかる。遠距離に送ることができて、その送るインフラが整備されていれば、それはひとつの場所で大量に生産するほうが効率的で、利用者にとっても余計な知識や維持費が不要になるのである。
そんなクラウドの流れを説明するとともに、中盤以降ではセールスフォースなど現在あるクラウドサービスについて解説し、終盤にかけてはクラウド化が人に及ぼす影響に対して疑問を投げかけている。

インターネットで入手できる豊富な情報は、過激主義を抑えるのではなく、むしろ拡大するかもしれない。人間は自分の見解を裏付ける情報を得ると、自分の考えこそが正しく、自分とはことなる考えを持つ人は間違っているのだと、確信してしまう。
我々が技術を作り上げるのと同じくらい確実に、技術も我々を形成する。

翻訳のせいか若干読みにくく、また全体的に著者が言いたいことや本全体としての焦点が「Google」なのか「インターネット」なのか「クラウド」なのか、はっきりしないと感じる部分もあるが今のインターネットの流れを把握するには非常にわかりやすい内容である。
【楽天ブックス】「クラウド化する世界 ビジネスモデル構築の大転換」

「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」辻野晃一郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ソニーでVAIO、スゴ録などを生み出し、その後グーグル日本代表取締役を務めた著者がソニーと、グーグルについて語る。
タイトルにグーグルの名前があるが、内容の大部分は著者のソニー時代のエピソードで占められている。入社当時、すでに立派な企業であったソニーはすでに大企業病に陥っており、過去の人々が築き上げた栄光にすがって努力をしない人々がいた。本書のなかで語られるエピソードからは、そんな組織のなかで著者が悪戦苦闘する様子が伝わってくる。

「まあ、ソニーだからなぁ。出せば売れるんだよ」
こういう連中が偉そうな顔をしてふんぞり返り、過去の栄光にすがって何もしないからソニーはどんどん駄目になっていくんだ。

第七章では「ウォークマンがiPodに負けた日」としてAppleのiPodとiTunesについても語っている。著者が言うにはインターネットで最初に音楽配信をやったのはソニーだったということ。にもかかわらず、人々の音楽の楽しみ方の変化についていけなかったゆえにアップルとの差は開く一方。すでにいろんなメディアで語られたアップルの成功物語であるが、それをソニーの内部という違った目線から語られるので新鮮である。

当時の旧ウォークマン部隊の人達は、iPod対抗を議論するときに、依然として「音質の良さ」とか「バッテリーの持ち時間」、果ては「ウォータープルーフ(防水加工)」などの話を主題として持ち出してくるので唖然とした。
新商品発表会でスピーチをする直前、スタッフが入手してきたiPod nanoが手元に届いた。彼等の新製品を一目見た瞬間に、私は敗北を悟った。

最後に、自らの体験を振り返って、これから日本の企業がどうあるべきかを語る部分が非常に印象的である。異なるタイプの世界的な企業に勤めた経験がある著者が語るからこそ非常に重みを持って響いてくる。

まず日本でうまくいったら次はアジア、そして欧米、といったような順次拡大の発想をするのではなく、最初からいきなりグローバルマーケットに打って出る、といった大胆なアプローチを考えて欲しいものだ。それが世界に貢献する日本を取り戻す未来に繋がる唯一の道であると思う。

今のこの変化の激しい時代を生きることを大変と思う人もいるだろうが、むしろ、様々な生活を楽しむことのできる貴重な時代に生きている、と前向きに受け取ることもできる。著者が締めくくったそんな内容のエピローグにはなんか元気をもらえた気がした。
【楽天ブックス】「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」