オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
姫川玲子シリーズ。
今回は短編集という事で、姫川玲子を中心とした8つの物語が収録されている。このシリーズは「ストロベリーナイト」「ソウルケイジ」など長編が人気があるが、個人的には短編集である「感染遊戯」や本書が好きである。
本書でも中程に収録されている「彼女のいたカフェ」が非常にいい感じである。書店に併設されたカフェの店員目線の物語で、特に理由もなくカフェのスタッフを始めた彼女が、毎日そこで難しそうな本を読む女性に恋するという内容である。もちろん、その女性が姫川玲子であり、やがてカフェに姿を現さなくなる…という物語であるのだが、その数年後に事件を通じて2人の再会を描くのである。
まだ、ほかの章では、ブルーマーダーの事件や、過去に殉職した姫川の部下について描いたりするなど、どうしても一冊ずつ間隔があいてしまうために内容についていくのは難しいが、姫川玲子の捜査に対する信念や部下に対する温かい思いが伝わってくるだろう。
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とにかくおすすめ
ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け
とにかく面白い
ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント
泣ける本
思いっきり泣きたい人向け
優しい気持ちになれる本
悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本
世界を知る
世界の大きな流れを知りたい人向け
深い物語
いろいろ考えさせられる、深い物語
生き方を考える
人生の密度を上げたい方が読むべき本
学習・進歩
常に向上していたい人が読むべき本
組織を導く人向け
日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本
デザイン
ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本
英語読書初心者向け
英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選
英語でしか読めないおすすめ
英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。
「たま高社交ダンス部へようこそ」三萩せんや
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校入学と同時に、食べ物に釣られて社交ダンス部に入部してしまった雪也(ゆきや)だが、徐々に社交ダンスの魅力にはまっていく。しかしやがて部の存続をかけて競技会に出場する事になる。
社交ダンスのモチベーションを上げるために、社交ダンス関係の本をなんでもいいからと思い、本書に出会った。少しずつダンスの魅力にはまっていく流れは、非常にありがちではあるものの、挿絵も非常に奇麗で、普通に楽しむ事ができた。特に目新しさはないが、ダンスに興味を持っている人、普段楽しんでいる人が少し違った角度から改めてダンスに目を向けようとしたときには本書はちょうどいいかもしれない。
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「「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」酒井崇男
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
なぜアップルやグーグルやトヨタは成功し、日本の電気・半導体・通信・IT企業は完敗してしまったのか。それは「タレント」の重要性を理解していたか否かなのだ。本書はそんな視点で企業が発展して行くためにどのようにしてタレントと向き合うかを語っている。
今や、材料や労働力はどこでも手に入れる事ができるので、物を作るのは人件費や物価の低いところを選ぶ事ができる。そうなると企業として重要なのは何なのだろう。本書はそれを「設計情報」だと主張する。優れた設計情報」さえできあがれば、あとはそれをひたすら各地で現実に存在する物やサービスに転写するだけなのである。そしてその「設計情報」を作る人こそが「タレント」と呼ばれる人なのである。
「タレント」というとなんとなく「すごい人」という印象しかないが、プロフェッショナルやスペシャリストと比較するとタレントというものが何なのか分かりやすいだろう。
世の中がただ一言「天才」とか「才能のある人」と読んでいる人の正体が分かった気がする。
また本書は後半でタレントを育む事の成功例としてトヨタの主査制度を挙げている。興味深いのは、トヨタの主査制度は日本よりもアメリカで高く評価されている点だろう。
著者は言う。アメリカは日本ほど新たな文化を創造するのは得意ではないが、いいものを徹底的に分析して取り入れる能力は非常に高く、日本で生まれた主査制度もそうやってアップルなどの企業で成果を上げたのである、と。
アメリカという国の見方が少し変わった。
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「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」オリバー・ヴェッセル・テルホーン
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
魅力的なボールルーム王者だったビルとボビー・アービンの哲学を語る。
解剖学からダンスの姿勢を語っている。体の各部の骨の名称を用いて姿勢やライズ&フォールの体の動きを説明しているが、なかなか文字だけで理解するのは難しい。それでもいくつかダンスの動きや姿勢のあるべき姿として気付かされるものはあるだろう。
本書によって、長い間疑問だった、フェザーステップとフェザーフィニッシュの違いはようやく理解する事ができた。
後半ではダンスの歴史についても多くのページを割いて説明している。クイックステップやスローが生まれた歴史的背景も知っておくと面白いかもしれない。
そもそも文字だけで動きをすべて説明しようとするのに無理があるのか、僕のダンスに対する理解が、まだ本書を理解する程度まで達していないのかはわからない。数年後にまた読んでみたいと思った。
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「いのちのダンス 〜舞姫の選択〜」吉野ゆりえ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
学生時代からダンスに打ち込んで、海外でも活躍した著者だが、ダンスパートナーでもあった夫と分かれてから、苦難の人生が始まる。
5年生存率わずか7%という難病を患うのである。担当医との確執などを経ながら、再発と手術を繰り返して行きていく様子が描かれて行くが、本書は闘病記ではない。病気と闘いながらブラインドダンスなど目の不自由な人のためにダンスを教える事に尽くし、できる範囲で一生懸命生きることの大切さを教えてくれるのである。
また、同じダンスをする人間として、著者が関わったブラインドダンスというものに興味をかきたてられた。ダンスをしていない人にとっては想像しにくいかもしれないが、社交ダンスに置いて相手の動きを察知する能力というのは非常に大切で、目の不自由な状況こそ、その能力をもっとも伸ばす事ができるに違いない、と思うのだ。
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「ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく」堀江貴文
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ライブドアの経営者として有名になった後、2年6ヶ月の実刑判決を受けてすべてを失った著者「ホリエモン」がその過去や働く事に対する考え方を語る。
目的を見つけるとひたすらそのために努力をするその姿勢は(本人は「努力」とすら思っていないでひたすら好きな事をやっているつもりだと思うが)、同じ種類の人間である僕にとっては特に新しいものではない。だからといって、普段努力をしない人が読めば良い影響を受けるかというとそんなこともない、そういう人はその感覚が理解できないだろう。
多くの自己啓発本と同様に本書は、挑戦することによって得られるスキルや、充実感などについて語られているので、内容についても新鮮なものはないだろう。
唯一、印象的だったのは、田原総一郎が著者に語ったという言葉
大きな目標を達成しようとする目前で、小さな礼儀不足や身だしなみのせいで失敗することがある。信念も大切だが、多少の譲歩もやはり必要なのだ。
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「いつも「時間がない」あなたに」センディル・ムッライナタン/エルダー・シャフィール
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「時間がない」というのは僕自信つねに感じていること。世の中の多くの能力は、お金よりも時間によって獲得できる事が多い。そんな時間の必要性を常に感じている僕にとってなにかしらヒントになる内容が含まれていればいいと思い本書を手に取った。
残念ながら本書が扱っているのは「時間がない」人向けとは少々異なる。
序盤は欠乏が生み出すメリットとデメリットについて語る。メリットは恐らく誰しも身に覚えがあるだろう。本書で「集中ボーナス」と呼ばれる物である。人は時間が少なければ残された時間を最大限に使おうとするし、貧乏であれば買うものすべての高い安いを常に意識しながら買い物をするのである。その一方で欠乏にはデメリットもある。本書で「トンネリング」と読んでいるもので、目の前のもの以外に注意が向かなくなる視野狭窄のことである。
著者はこの欠乏が生み出す「集中ボーナス」と「トンネリング」によって世の中の多くのことを説明して行く。ローン地獄から抜け出せない貧しい人々の話がもっともわかりやすい例だろう。
そして、後半は、欠乏のデメリットに対処するための「スラック」の重要性である。「スラック」とは「余裕」というような言葉で表現されるもの。わかりやすい説明として、オフィスで1日の大部分をネットサーフィンを過ごしているアシスタントを挙げている。ここでよくやりがちな間違いは、その人物が1日忙しく働くように業務を割り振る事である。それによって、今までであれば周囲の人間はいざという時にその人物に仕事をふることができたのに、そのような突発的な業務を受け入れる先(つまりスラック)がなくなってしまったため、すべての人の業務が悪循環に陥っていくのである。
同じくスラックの考えを利用した事例として、30の手術室がフル稼働する病院を例にあげている。30の手術室は常に手術の予定でいっぱいなのだが、急患を受け入れなければならない。しかしそれを受け入れる事によってすべての手術の予定が崩れ、医師たちは深夜まで働く事を余儀なくされるのである。この問題を解決した手法は1つ手術室を常に開けておくこと、つまりスラックを作る事である。
本書を読むと、いつもひまそうにしている会社の事務員も、組織に必要なんだと思えてくる。
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「内村航平 心が折れそうなとき自分を支える言葉」児玉光雄
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ロンドンオリンピックで金メダルをとった内村航平のこれまでのコメントや家庭環境などから、その考え方を描く。
金メダルを取ってさえ満足しない内村の生き方は、ひたすら自らの理想の演技と求め続けているゆえである。本書では、そんな彼の生き方は普段の仕事にも応用できる、という姿勢で語っている。日々漫然と仕事をこなしている人に何か新たな気付きを与えてくれるかもしれない。
しかし、内村航平の生き方や考え方は好きだが、それを利用してこのような薄い内容の本でお金を稼ごうとする著者は好きになれない。読み終わって気付いたのだが数年前にも「イチロー式集中力 どんな時でも結果が出せる!」という同著者の本を読んでいて、そのときにも同じ事を感じたのだ。著者が実際に、内村浩平やイチローに話を聞いたような記述は一切ないのも残念である。
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「荒神」宮部みゆき
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
東北の山村に怪物が現れ、村を一夜にして壊滅状態する。命からがら逃げ延びた蓑吉(みのきち)は敵対する永津野藩の人々によって助けられる。永津野(ながつの)藩、香山(こうやま)藩という過去の因縁によって敵対しながらも、それぞれが怪物退治に動き始める。
過去には何度も超能力者を扱った物語を書いている宮部みゆきだが、本書の怪物ほど非現実的な描写をしたものは記憶にない。だからこそ、そんな非現実的な存在を取り入れてまで訴えたい何かがあるのだろう、と思いながら読んだ。
物語は永津野(ながつの)藩、香山(こうやま)藩という2つの憎しみあう藩の間で起こる。永津野(ながつの)の曽谷弾正(そやだんじょう)は技術を盗むためにさまざまな口実を設けて香山(こうやま)の人をさらうために、香山(こうやま)の人々から憎まれ、恐れられていたのだ。
曽谷弾正(そやだんじょう)の妹である朱音(あかね)によって、怪物から逃げ延びた蓑吉(みのきち)が救われることから始まる。兄のやり方を嫌って朱音(あかね)は蓑吉(みのきち)を秘密裏に保護し、怪物の存在を知るのである。
また一方で、小日向直弥(こびなたなおや)は香山(こうやま)の政治に巻き込まれ、化け物の正体を見極めるために山を登るのである。永津野(ながつの)藩、香山(こうやま)藩のそれぞれの方向から、怪物に迫るうちに、2つの藩の過去の歴史が明らかになって行く。
物語はもちろんフィクションであるが、関ヶ原の戦いによって憎み合うようになった2つの藩の歴史を読むと、実際の日本にも、歴史の表にはほとんど出てこないような土地に生きた人々は、多くの葛藤や細かいいざこざのなかを生きてきたのだと理解できるかもしれない。教科書からはわからない、過去の日本の一部が見えるような気がする。全体的には最後まで飽きる事なく楽しむ事ができたが、宮部みゆきというだけで最近は期待値が非常に高いので、その期待に応えてくれたとは言い難い。
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「インターフェースデザインの心理学 ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針」スーザン・ワインチェンク
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
後半はアプリにあまり関係ないような心理的な話も多かったが、それをどう応用するかはデザイナー次第なのだろう。
クリック数はあまり重要ではないということは本書で初めて知った。これからのUIデザインにおいては、「ユーザーを悩ませないこと」こそ優先し、むしろ選択肢を減らして決断しやすくして、選択の回数を増やす(つまりクリック数を増やす)という方向へ進むのが正しいと思った。
「データより物語」とか「目標に近づくほどやる気が出る」とか、いろんな書籍で触れられているような内容や、以前に聞いたことがあるような内容ばかりではあったし、必ずしもインターフェースデザインに関係がなく、むしろ心理学に近いような内容も多く含まれていたが、新鮮でなくても同じ考えに繰り返し注意を向けるという意味では、本書は悪くないと感じた。
【楽天ブックス】「インターフェースデザインの心理学 ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針」
「Wicked: Life and Times of the Wicked Witch of the West」Gregory Maguire
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
劇団四季の「ウィキッド」を観劇してから、オズの物語のファンである。本書は言うまでもなく「ウィキッド」の原作。後に「ウィキッド」としてオズの魔法使いでは悪の化身「西の魔女」とされる生まれながら緑の肌を持つElphabaの生涯を描く。
序盤はGlindaとElphabaの嫉妬や恋愛や意地など、どこにでもありそうな女性の成長の様子を微笑ましく描かれている。緑の肌をして社交的ではないElphabaだったが、Glindaと同じ部屋になったことで、次第にGlindaと仲良くなって行くのだ。しかし、月日が経つに従って、2人は人生の選択を迫られて行く。
おそらく本書で描かれているのは、多くの人が「オズ」という言葉から想像するよりもはるかに政治的な世界だろう。エメラルドシティを中心としたオズの国では動物たちが人間と同じように、話し、多くの職業に就き社会を構成する一部となっていたが、やがて、動物達は言葉を喋らず家畜として暮らすべき、という政策が広まる事になる。そんな政策に反対するElphabaは心を同じくするたちとともに抵抗しようとする。Elphabaの妹NessaroseもやがてともにGlindaやElphabaと過ごす事になる。物に執着しないElphabaだが、父が、妹のNessaroseだけに与えた靴にこだわりを持つ。
そして月日とともに、Glinda、Nessarose、Elphabaは別の道へ進むこととなる。父からの愛を求めたElphabaが混乱するオズの世界に翻弄されながら、やがて西の魔女になっていくのだ。やがてDrothyという名の女性がやってくる。一緒に飛んできた家でNessaroseを押しつぶすして殺す事になったDrothyはElphabaがこだわりつづけた靴をはいてエメラルドシティに向かうのである。
残念ながらハッピーエンドとは言えないが、オズの物語に深みを増してくれるだろう。
「The Girl in the Spider’s Web」David Lagercrantz

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ドラゴンタトゥーの女」という印象的なタイトルで、映画にもなったこのミレニアム3部作は、「面白い本」と聞かれたら必ずタイトルである。不幸にも著者のスティーグ・ラーションが亡くなったことで、続編を諦めていたのだが、本書によって別の著者による4作目がつくられたのである。
正直、著者が変わったことで本書は懐疑的に見ていた。実際序盤は描写がややしつこく、シリーズ三部作までに感じられたテンポの良さが失われてしまった印象を受けたが、中盤から物語が大きく動き出すとそんなことも気にならなくなり十分に楽しむ事ができた。
物語は、人工知能の第一人者であるBalderが殺害されることから始まる。しかし、幸か不幸かBalderの自閉症の息子Augustがその現場を目撃していたのである。それに気付いた犯人だが、その不自然な行動から自閉症と判断し、自閉症の子供であればわざわざ目撃者として殺す必要はないとその場を去る。実はAugustは自閉症でもサヴァン症候群という見た物を強烈に記憶し、写真のような絵を描く事のできる能力を持っていたのである。それを知ってAugustを殺そうとする犯罪集団とAugustを守ろうとするBlomkvistやSalanderを描く。
得意のハッキングで誰よりも早くAugustの危険を察知して救出するSalanderは、これまでの4作品のなかではもっともSalanderが優しくかっこいい人間として描かれている気がする。それはAugustという少年と行動することになったこの物語のせいなのか、著者が変わったせいなのかはわからないが、Salanderに対する見方が変わるかもしれない。
また、Augustの救出劇だけでなく、雑誌社ミレニアムの社員達も重要な活躍をする。特に若い優秀なAndrei Zanderは重要な役割を担う鵜。若く優秀でジャーナリズムを愛するAndrei Zanderの好きな映画、好きな小説が本書で触れられていたので挙げておく。
そして、やがて現れるSalanderの双子の姉妹Camilla Salanderの影。里親の証言からCamillaの歪んだ考え方が明らかになって行く。
今後も続編があることを感じさせる終わり方で、次回作品が楽しみである。
「遠い太鼓」村上春樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1986年から1987年までギリシャ、イタリアで過ごした村上春樹がその日々を語る。
3年の間、村上春樹はスペッツェス島、ミコノス、イタリアのシシリー、ローマと住む場所を変え、その場所で生活をしながら執筆活動を行った。そんななか書き続けた日々の記録が本書である。特に何か目的があって書いていたわけではないだろうが、ただの旅行者としてではなく、それぞれの国で生活していたからこそわかる、その国の事情が伝わってくる。
面白かったのは駐車場が作れない構造ゆえに解消しないローマの車事情や、選挙の旅に生まれた土地に戻らなければならないギリシアの選挙事情などである。また本書を通じで、村上春樹はイタリア人の仕事に対する熱意のなさを嘆いている。公務員がしっかり働かないから、イタリア市民は税金を納めないのか、それとも税金が回収できないから給料が安くてみんな働かないのか、最後までわからなかったが、日本のシステムは非常に微妙なバランスの上に成り立っているのだと感じた。
村上春樹はこの3年の間に「ノルウェーの森」「ダンス・ダンス・ダンス」を書き上げている。海外での生活が小説にどのように影響を与えたのか、あまり好きな作家ではないが、本書を読んだことで、ぜひその2作品を読んでみたいと思った。
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「黒い羽」誉田哲也
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
幼い頃から右肩に瑕(きず)のある君島典子(きみじまのりこ)は遺伝子治療を受けることを決意し、軽井沢にある研究施設に向かう。しかしその途中で車が横転し、生き残った4人の患者とスタッフで施設にたどり着くが、そこではさらなる悲劇が待っていた。
瀕死の状態でたどり着いた研究施設では、多くのスタッフ達がすでに惨殺されており、そんななか恐怖と向き合いながら4人で生きようとするという物語。
遺伝子治療という考えも特に新しい概念ではなく、それであれば皮膚の病気に悩む人々の心情描写をリアルに行っているというわけでもなく、全体的にあまり深みを感じられる部分がなく、誉田哲也の最近の本なのが信じられないほどである。
いい作品を書くことができる著者であるだけに、お金儲けのためだけに小説を書くというような著者にはなって欲しくないと思った。
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「フォルトゥナの瞳」百田尚樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自動車塗装工として働く木山慎一郎(きやましんいちろう)はある日人の体が透けて見えることに気付く。それはその人が近いうちに死ぬ事を示すものだった。人の死が見えることで慎一郎(しんいちろう)の生活は変わって行く。
形こそ、近いうちに死ぬ人がわかる、というものだが、慎一郎(しんいちろう)の苦しみは、世の中に数多くあるタイムトラベルを用いた物語と共通している。未来が見えるゆえに近いうちに死ぬ人がわかり、その人を救いたいのだが、どのように説明すればいいかわからない、というものである。そういう意味では慎一郎(しんいちろう)のその能力ゆえの葛藤は、普段SF物語に触れている人には見慣れたものなのかもしれない。
一方で、家族を幼い頃になくし、天涯孤独で生きていながらも、目の前の仕事に誠実に取り組み、やがて恋に落ちる慎一郎(しんいちろう)の普通の人間としての生き方は尊敬できる。
物語は終盤に向かうにつれて、慎一郎(しんいちろう)は多くの人の死を知り、自らの行動を決断することとなる。
多少は形を変えているものの、よくあるSF物語の焼き直しという印象で、全体的には大きく予想を裏切ることも超える事もなかった。肩の力を抜いて読むにはいいかもしれない。
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「組織戦略の考え方 企業経営の健全性のために」沼上幹
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
組織というのは大きくなるに従って昨日しなくなって行く。無駄なミーティングに費やす時間が多くなり、忙殺される人がいる一方で、暇な人もいる。本書は組織が陥りがちなこととその改善方法や予防を著者の経験から説明する。
「組織戦略」という言葉からは、むしろ企業などの組織を競合とどのように渡り合って行くか、を描いたような印象を受けたが、本書で描かれているのは、むしろ組織内部が機能するための方法である。
まずは組織を単純なヒエラルキーと捕らえる事から説明する。組織とは、業務をプログラム化し、そのプログラムで対応できない状況のみを管理者・経営者が判断するという形を基本としているのだ。この状況が機能しなくなるのは、例外処理が増えすぎて管理者・経営者が忙殺されてしまうことから起こるのだそうだ。本書はこんな状況に対して5つの解決策を挙げて説明している。
中盤では、事業部制、職能性、マトリクス組織という3つの代表的な組織構造についてメリットとデメリットを説明している。
また、マズローの欲求階層説を挙げて、日本の多くの企業が「自己実現欲求」を過信していると語る。
本書の多くは僕自身が過去企業に属していて感じた事を再確認させてくれた。今後組織作りに携わる事が会ったら繰り返し読み直したいと思えるほど内容の濃さを感じた。
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「何を話せばいいのかわからない人のための雑談のルール」松橋良紀
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
雑談が苦手な人というのは意外にも多いようで、本書はそんな人のために雑談を巧くこなすための方法を語っている。
僕自身もどちらかというと合理的な生き方をしている人間なので、「会話は「情報交換」」という意識が強い。そのせいか、共通の趣味を持っている人には聞きたい事が山ほど溢れてくるのだが、初対面の相手には「あまりプライバシーに踏み込んでは失礼」という思いも手伝って、すぐに話す事が尽きる。そんな僕みたいな人間にとって、本書は耳の痛くなるような内容のオンパレードである。
後半は、よく言われるオープンクエスチョンや、話し相手を4つのタイプ(視覚タイプ、聴覚タイプ、体感覚タイプ、理論タイプ)に分類して会話を組み立てる方法など、実践してみたいと思う内容がいくつか含まれていた。話を掘り下げるチャンクダウンや漠然とした方向へ展開するチャンクアップなども、意識して会話に臨んでみると面白いかもしれない。
【楽天ブックス】「何を話せばいいのかわからない人のための雑談のルール」
「まっすぐ進め」石持浅海
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
川端直幸(かわばたなおゆき)が書店で遭遇した美しい女性は腕にふたつの腕時計をしていた。
本書は、直幸(なおゆき)が書店で出会った女性の謎を解く事から始まる。腕時計を2つしていたその女性、高野秋(たかのあき)は過去の辛い出来事ゆえにそのような行動をとっていたのである。そんな過去の重荷を背負った高野秋(たかのあき)はその複雑な心に気付いた直幸(なおゆき)とともに人生を歩もうと考え始める。
共に行動することが多くなった直幸(なおゆき)と高野秋(たかのあき)であるが、物語は終盤に進むにつれ、秋(あき)に起こった悲しい出来事の真実が明らかになって行く。心を開き始めた秋(あき)とそれに答えようとする直幸(なおゆき)の関係が温かい。
日常的なことのなかに、登場人物たちが推理を繰り返す石持浅海の世界観が今回も全快である。どちらかというと殺人絡みなのだが、本書は直幸(なおゆき)と秋(あき)の恋愛を中心に展開される点が新鮮である。
小さな謎と深い推理を楽しみ、読後は温かい気持ちに慣れるのではないだろうか。
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「蘇る教室」菊池省三/吉崎エイジーニョ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「学級方向立て直し請負人」という異名を持つ菊池省三の教育方針を、元生徒である著者が描く。
学級崩壊はなぜ起きるのか。序盤は現状の教育の現場と、菊池が立ち直らせた生徒達、立て直したクラスについてのエピソードとその方法について描いている。
まず印象的なのは本書のなかで「ほめ言葉のシャワー」と呼ばれる取り組みである。「ほめ言葉のシャワー」とは毎日帰りのホームルームで、その日の日直がみんなの前に立ち、生徒がそれぞれその人のいいところを褒めるのだ。いい行動を褒められる事で、引っ込み思案な生徒も、自分の存在価値を認識するのである。そして、普段素行の悪い生徒も、自分にもいいことができるということを学ぶのだそうだ。
その描写を見て思ったのは、両親に褒められることのない生徒というのが決して少なくないという点だろう。「ほめ言葉のシャワー」という取り組みによって変われる生徒がたくさんいるのは、その裏返しなのだ。
僕自身が比較的いい育てられ方をしたために、そのような状況で育てられる環境というのが想像しにくいのだが、教育というものを突き詰めるためには、多くの子供達がどのような環境で育てられているかを理解するのは大切だと思った。
菊池が生徒たちに教えようとするものの多くは、一生通じるような考え方ばかりである。
本書は教育に関する内容について書かれているが、大人になって誰もが一人前と認めて、自分を叱ってくれないと思う人は、菊池が生徒達に教えようとしていることに感じるものがあるだろう。
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「42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」」NHKスペシャル取材班

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
年々高速化が進むマラソンについて語る。本書では特にエチオピアのゲブレシラシエ、ケニアのパトリック・マカウを取り上げている。日本人と比較した際のこの2人のマラソン体質(乳酸の量や赤血球の形)も興味深いが、後半に触れいている2人の走り方の違いも興味深い。
また、タイトルにもなっているように、本書では、「つま先で着地」するマカウとゲブレシラシエの走り方が、日本人に多い「かかと着地」よりも有効であると説明する。しかし、それではなぜ日本人ランナーも「つま先着地」をしないのか。実は「つま先着地」の走り方を身につけるためには、幼い頃から「つま先着地」を繰り返し、それに必要な筋肉やアキレス腱を身につける必要があるのだそうだ。
また、なぜアフリカの選手がマラソンで強いのか、彼らの生活を説明する事で、その勝利に対するハングリー精神を示してくれる。また、マラソンで成功して裕福になった例だけでなく、裕福になったが故に酒に溺れて堕落した例もあり、自らを律することがどれほど重要なことかを改めて感じるだろう。
本書では、近いうちに20年以内に2時間を切るという予想についても触れている。正直、趣味でマラソンをする人に役立つような内容ではなかったが、繰り返し繰り返しトレーニングすることで伸ばす事のできる、人間の無限の可能性を感じられるのではないだろうか。
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