とにかくおすすめ

ジャンル関係なくオススメを知りたい人向け

とにかく面白い

ページをめくる手が止まらない、寝る時間さえ惜しくなる最高のエンターテイメント

泣ける本

思いっきり泣きたい人向け

優しい気持ちになれる本

悲しいとかハラハラするとか怖いとか必要なく、ただただほんわかして、暖かい気持ちを感じたい人におすすめの本

深い物語

いろいろ考えさせられる、深い物語

生き方を考える

人生の密度を上げたい方が読むべき本

学習・進歩

常に向上していたい人が読むべき本

組織を導く人向け

日本の経済力を強くするために、組織づくりに関わる経営者などにおすすめしたい本

デザイン

ただ美しいものを作れるだけじゃなく、一歩上のデザイナーになりたいデザイナーが読むべき本

英語読書初心者向け

英語は簡単だけど面白い、そんな面白さと英語の易しさのバランスの良いものを厳選

英語でしか読めないおすすめ

英語で読む以上、英語でしか読めない本を読みたい。現在和訳版がない本のなかでぜひ読んでほしい本。

「Journey to Munich」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
イギリスへ戻ったMaisieの元へ極秘の依頼が届く。それは、ナチスに拘束された実業家Leon Donatの家族に扮して、身柄を引き取るというものだった。Maisieはその実業家の娘に扮してナチス支配下のミュンヘンへ向かう。

いよいよナチスの勢いが増し、世界は第二次世界大戦へと向かっていく。そんななかMaisieは偽りのパスポートでドイツに入り、ドイツの現状を目にすることとなる。また、Maisieは極秘任務に加えて、ドイツにいる、かつての夫のJamesの死の原因を作ったElaine Otterburnを国外に出るように促すことも依頼されており、極秘任務の達成と、Elaineの捜索がミュンヘン滞在中のMaisieの目指すこととなる。

Maisieの目線を通じてナチス政権下のドイツの様子を知ることができる。そこはゲシュタポの少年たちが闊歩し、人々は普段の生活を送りながらも、言いたいことを言えず、ゲシュタポと出会うことを避けるように生きているのである。そんななか、ナチスのやり方に反抗し、勇気を持って正しい行動を行う人々もたしかにいるのである。

Maisieは任務の過程で、自由なドイツを求める人々と出会い、協力して任務の遂行に向かう。悲劇の末に、Maisieが新たな人生を踏み出す一冊。

「百貨の魔法」村山早紀


オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
昭和の時代からある町にある百貨店。その百貨店には願いを叶えてくれる白い猫がいるという。そんな百貨店で繰り広げられる物語を描く。

物語を通じて、今ではあまり聞かなくなった、百貨店というお店の世界観に触れられた気がする。ただ単にものを売るための場所ではなく、憩いの場所やおもてなしなどを提供する場所だったことがわかる。エレベーターガールなど、懐かしい職業も登場し、昭和の時代のサービスと、今のサービスの違いを考えさせられる。古いものを過度に賛美するのも変だし、新しいものが必ずしも正しいというわけではないけれど、どちらからも学ぶ部分はあるだろう。

物語は、百貨店で働く、いろんな部署の人物からの視点で展開する。そんなそれぞれの人の考え方には、いくつかはっとさせられるようなものも含まれていた。

ひとはひとりでも育つものです。親と縁のないのはやはり寂しいことですが、代わりに、地上にしっかり立てる足を手に入れられるような気がします。
鏡を見なければ、ひとは自分と向かい合えません。見たくないからと真実から目をそらせば、その中にある美しさを見つけることができないんです。

最後は、百貨店の人間関係から後継者問題が絡んでくるが、個人的には前半の軽いノリで最後まで通してしまった方がいい作品になった気がする。

【楽天ブックス】「百貨の魔法」

「デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す」前田育男

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マツダのデザインを変えた著者が、デザイン本部へのリーダー就任から、優れたデザインの車を世の中に送り出すまでを語る。

本書を読むまで知らなかったことだが、1996年よりマツダの株式保有率をフォードがあげたことによって事実上フォードの傘下に入っていた。しかし、そんな時代が、現在のマツダの発展の大きなきっかけとなるのである。なぜなら、「マツダとはどんな会社であるべきか?」を問い直すことになったからである。2009年にフォードの統治が終わりを告げ、著者がデザインリーダーとなってからは自分たちの会社のオリジナリティの追求の熱は一気に加速することとなる。「魂動」というコンセプトはそんななかから生まれたのである。

興味深いのは、やはり著者の悩みや葛藤の過程が描かれていることだろう。おそらく僕と同じように、一般の人は、すごいデザイナーとはいいデザインを颯爽と生み出す、というような印象を持っているのだろう。しかし、本書で著者が吐露している当時の心境は、責任の大きさや、社員からの期待や諦めに苦しみながら試行錯誤する様子である。

また、デザインという感覚的なものでありながらも、「魂動」というコンセプトの2文字をひねり出すまでに多くの時間をかけている点も興味深い点ではないだろうか。本書で著者も述べているように、デザインはもちろん見た目や感覚を重視するものである。しかし、その方向性を共有するための言葉も非常に重視しているのだ。

それまで言われるがままに自分のタスクだけをこなしていたモデラーや、効率ばかりを考えていた開発部門や生産部門が、「魂動」を形にするためのデザイナーの熱意を共有する場を設けることで、少しずつ自ら「魂動」の実現へと動くように変わっていくのである。いいものを作るためには文化がなによりも重要なんだと感じた。

【楽天ブックス】「デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す」

「ノーマンズランド」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ストロベリーナイト」シリーズである。硝子の太陽ルージュ、ノワールの後の物語である。

物語は、姫川玲子(ひめかわれいこ)を中心とした殺人事件の捜査と、バレー部の高校生の男女2人を描いた甘い恋の物語が並行して進み、やがて、2つの物語が交わる形式をとっている。

自分のまわりですでに2人の刑事が殉職して自らの行動を振り返る一方で、女子大生の殺害事件の捜査を進めるのだが、容疑者として上がっている人物の周辺に不審な匂いを嗅ぎ取る。高校生の物語は、隣の中学校の女子バレーのエースの庄野初海(しょうのはつみ)に憧れた江川利嗣(えがわとしつぐ)が、高校で初海(はつみ)と同じバレー部になり少しずつ近づいていく。

そして、物語は北朝鮮による日本人拉致と絡んで進んでいく。犯人との対面によって、日本人拉致による北朝鮮側の工作員の視点が描かれているところがもっとも印象的だった。確かに僕らは、一方的に日本人拉致で北朝鮮を非難しているが、国のために、拉致を実行しなければならなかった北朝鮮工作員の心情はどのようなものだったのだろう。

「硝子の太陽 ルージュ」、「ノワール」のような一気読み感はないが、やるせなさや深みを感じさせる作品。どちらかとこちらのテイストの方が好きである。

【楽天ブックス】「ノーマンズランド」

「Microinteractions」Dan Saffer

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
iPhoneのアラームは、マナーモードでも音がなる、という悩ましい事例から、ユーザーの要望に対して、機器はどのような反応をすべきか掘り下げていく。

機器の側でユーザーの位置情報や行動を記録することは可能で、それを可能な限り活かすというのが本書の主張だと理解した。しかし、実際には、わずかなユーザーの利便性の向上のために必要以上にデータ構造を複雑にしてしまうメンテナンスコストも考えなければならないし、ユーザーから見てなんの情報が取られているのかわからないという不信感にもつながりかねない、などもっと考えなけれないことは多い。そのような理由から、若干現実に開発をしていない人の意見か、もしくは理想論を連ねているような印象を受けた。

「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」二宮敦人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
妻の奇妙な行動によって藝大に興味を持った著者が、藝大生のインタビューをしながらその実態を描く。

もっとも興味深かったのは、音校と美校の文化の違いである。美術は、作った作品はそのまま自分の作品として存在し続けるのに対して、音楽はその音の流れている一瞬一瞬が作品である。また、美術では、作ったもの自体が評価されるのに対して、音楽では演奏するその人自身も舞台に上がる作品の一部だという認識の違いがあるのだそうだ。そのため、美校の生徒は時間にルーズだが音校の生徒は非常に時間に厳格で、美校の生徒は制作の為の作業着なのに対して、音校の生徒は常にハイヒールを履くなど、見た目に非常に気を使うのだそうだ。そんな、まったく異なる人種が共存する場所が藝大なのだという。

また、インタビューに答えた藝大生のこだわりも面白かった。口笛を極める学生や、からくり人形を歯車から作る学生など、どれも「なんのためにそんなことのために時間を費やすのだろう」と思ってしまうよう内容だが、その考え自体が、頭が凝り固まっている証拠なのだろう。そして、世の中の人がそうやって常識の範囲で物事を考えるからこそ、藝術という枠にはまらない分野が必要なのだろう。

どうやってそれまでの枠を壊すか。藝術とはそんな分野なのかもしれない。僕自身デザイナーという仕事をしており、どちらかというと頭が柔らかいほうのつもりではいるが、それでも多くの刺激をくれる一冊であった。

【楽天ブックス】「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」

「わたし、定時で帰ります。」朱野帰子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
定時に帰ると心に決めた、女性社員東山結衣(ひがしやまゆい)が残業が常態化している組織のなかで悪戦苦闘する様子を描く。

まず、このようなタイトルの本が世の中に出ることが、大きな時代の変化だと思う。そんな背景もあって本書に興味を持ったのかもしれない。

定時に帰ると決めて、時間内の生産性をあげようと努める結衣(ゆい)に、残業なしでは間に合うはずのないプロジェクトや、残業することで頑張っているとみられたい社員など、実際の組織のなかで見覚えのある多くの困難が襲いかかる。

正直もう少し単純で薄い物語を想像していたが、「仕事の時間の長さよりも、生産性が大事」と言う人間が、気がついたら、部下を守る為だったり、自分が無責任に見られないだったりと、気がついたら自らも残業の嵐にひたってしまう様子が本当にうまく描かれている。著者は実際の、IT企業を体験しているかかなりの下調べをしたのだと感じた。

24時間戦えるバブル期の会社のイメージが大きく変わっている現代において、その変化を物語に落とし込んだ一冊。一読の価値ありである。

【楽天ブックス】「わたし、定時で帰ります。」

「エアビーアンドビー ストーリー」リー・キャラガー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
創業者の3人が出会い、エアビーアンドビーを作り成長させていく様子が描かれている。

序盤は、チェスキー、ゲビア、ブレチャージクの出会いと、少しずつコンセプトを変えながらエアビーアンドビーが大きくなっていく様子が描かれている。その過程で、3人の創業者がそれぞれの担当分野において少しずつ成長していく様子が興味深い。

エアビーアンドビーというサービスを知っていて、それゆえに興味を持って本書を手に取ったのだが、本書を読むといろいろ想像もしていなかった困難があったことを知る。

例えば、エアビーアンドビーは、自分の部屋に見知らぬ人を宿泊させるというサービスの形態ゆえ、犯罪まがいのことが全く起こらないということはありえない。本書では、エアビーアンドビーで起こった幾つかの犯罪や悲劇と、それに対応するエアビーアンドビーの様子も描かれている。そんななか最初は投資家などのアドバイスを聞いて責任逃れや結論の先延ばしをするような対応をしていた創業者のチェスキーが、それでは騒動が治らないと見るとすぐに自分たちの信念に立ち返るところに舵を切るところは、組織としてユーザーに向き合うすべての人にとって学ぶ部分があるだろう。

また、考えてみればありそうな話だが、エアビーアンドビーはそのプラットフォームを通じて行われる人種差別とも戦っているのだという。例えば、白人のプロフィール画像の人にしか部屋を貸さないホストや、アジア系のユーザーを差別するホストがいるのだそうだ。しかし、これは改めて考えてみると、ユーザーの属性によって部屋を貸すか貸さないかを選択するのは、許されてもいいと感じるぶぶもある。例えば、静かな住宅であれば子供を連れた家族の宿泊には貸したくないなどはホストが選べていいはずで、この辺の線引きが非常に難しいと感じた。

ホテルチェーンなどの既存の勢力から受ける攻撃についても触れている。エアビーアンドビーの拡大に影響を受けてか、ホテルチェーンのいくつかも民泊事業へのシフトする様子をみると、エアビーアンドビーはまさに「世界を変えている」のだと感じる。

印象的だったのは、創業者の3人が困難に出会うたびに、繰り返していた偉人たちの言葉で、本書の中でも効果的に使われている。一つはガンジーの言葉で、見事にエアビーアンドビーの状況にも当てはまる。

はじめに彼らは無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろうーーだが勝つのは我々だ
悲観主義者はだいたい正しい。だが世界を変えるのは楽観主義者だ。

【楽天ブックス】「ザッポス伝説」

「ザッポス伝説」トニー・シェイ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
正直ザッポスという社名を知らなかったのだが、優れたブランドの一例として紹介されており興味を持った。

本書では著者でザッポスの創業者であるトーニー・シェイの幼い頃の様子と、ザッポスができるまでを描いている。もっとも印象的だったのは、トニーが幼い頃からお金を儲けるために試行錯誤していた点である。しかし、そんなお金儲けの視点が、少しずつ「本当に情熱を持って打ち込めるものを探す」方向へと移っていくところが面白い。

また、ザッポスができあがってからは、そのブランドの方向性や、それを守るために試行錯誤している様子がわかる。

ザッポスのそのユニークな企業文化がどのように出来上がったかといえば、それはやはりトニー・シェイがすでに十分なお金を持っていて、本当の幸せは、お金を得ることによってではなく、本当に情熱を持って取り組める何かとを持っていることだと知っていたからだろう。

【楽天ブックス】「ザッポス伝説」

「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」山口周

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グローバル企業が幹部にアートの勉強をさせる動きが活発になってきた。なぜアートを学ぶ必要があるのか。本書はその理由を世の中の動きとあわせて説明する。

本書では意思決定のクオリティを左右する要素として「アート」「サイエンス」「クラフト」という言葉を使っている。これまでの世の中では「サイエンス」と「クラフト」が主流だった。なぜなら、組織においては説明責任が求められことが多く、それゆえに、「説明できる」「サイエンス」「クラフト」が主流になりがちなのだ。しかし、「説明できる」ゆえに伝えやすく、他の多くの組織に取っても導入しやすいため、結局「サイエンス」「クラフト」という2つの要素だけに頼る組織は、他の組織と差別化がしにくく、レッドオーシャンから抜け出せないのだという。

そして、だからこそ「アート」の要素が今後組織の生き残りを左右していくと説明しており、その過程でいろんな実例を挙げている。そんななかでも面白かったのは、高学歴者を幹部に連ねながらも反社会的行為に走ったオウム真理教や、DeNAの不祥事、ホリエモンやナチスの下でユダヤ人を大量虐殺するシステムを作り上げたアイヒマンを例に上げて、「偏差値は高いが美意識が低い」と言っている点である。おそらく多くの読者が、学歴が「人の良さ」を決めるものではないという点には同意するのではないだろうか。本書ではそれを「美意識」「誠実性」という言葉で説明している。

なぜ人間に美学とモラルが必要かといえば、一つには意外かもしれませんが、最終的に大変効率がいいからです。「効率がいい」というと語弊があるかもしれませんが、より大局を見て、一本筋が通っていると、大きな意味で大変効率がいいのです。

なぜ、効率的かというと、本書では、変化の早い今の世の中において、法律は変わる可能性があり、法律だけを基準に組織の良し悪しを判断していると、組織全体が法律の変化に大きく影響を受けてしまうのだ。一方、「美意識」「誠実性」に基づいた善悪の判断の方が長く有効なのである。

その他に興味深かった話は、日本のクルマのデザインを変えた、前田育夫氏の話である。彼の書籍がいくつか出ているようなのでこれを機に読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」

「Frontend Architecture for Design System」Micah Godbolt

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
デザインシステム作りを視野に入れて、組織として大規模なプロジェクトのフロントエンドの構成を説明している。

序盤はこれまでのWebデザインの変遷を説明している。1人で完結するWebサイトのコーディングが、モバイルサイトやレスポンシブデザインの出現により複雑になり、個人では完結できなくなった作業であることを改めて認識するだろう。

OOCSS,SMACSS,BEMと現在広く認知されている手法を例を交えながら解説している。印象的だったのはコンポーネントのmargin指定の話である。異なるコンポーネントをカラムレイアウトに入れる際、(例えば横3列のカラムにコンポーネントA,B,Cを入れる)上端が揃うようにするためには、コンポーネントにmarginを指定してはならないのだ。

中盤以降は若干フロントエンドでもエンジニアよりの考え方が入ってくるため、デザイナーの僕には理解が十分にできたとは言い難い。

後半の、CSSからデザインシステムのドキュメントを生成するサービスHologram, Pattern Labについて触れている。CSSの規則を構築した先には当然そのドキュメント化があるので、機会があればぜひ利用したいと思った。

「真実の檻」下村敦史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生の石黒洋平(いしぐろようへい)は、亡くなった母の部屋で見つけた写真によって、自分の本当の父親は死刑囚だったことを知る。苦悩の末、本当の父の罪が冤罪であることを信じて19年前の事件の真相を知るために動きだす。

初めて読む作家である。人生のあるときに自分の出生を知った。というのは、物語としては使い古された展開にも思える。あえてそこに踏み込むには、何かこれまでにない展開を描こうとしているからなのでは、と期待して読み始める。

石黒洋平(いしぐろようへい)は苦悩の末に、父親の無実の罪を晴らすことを決意し、雑誌記者夏木涼子(なつきりょうこ)の協力を取り付ける。

正直、ここまでの流れで、人間の心情描写にあまり深みを感じず、行動や決断がやたら早いのが少し残念だった。人生を左右する大きな決断や、見知らぬ人と行動を共にすることに対する警戒など、現実であればもう少し躊躇しそうな場面で、あまりにもあっさり決断しているのである。心情描写は男性作家より女性作家がすぐれている部分ではあるが、この辺は今後に期待したい。

また、弁護士や検事などの法律的な説明がかなり詳細で、他の刑事小説にはない新鮮さを感じた。最後は、頑張って予想外であろうとしたゆえの予想どおり、といった印象で、もう一捻り、またはそれ以外の部分での深みが欲しかった。昨今の社会問題に触れるわけでもなく、今このタイミングで、改めてこの使い古された舞台設定で描く理由はないように感じた。

この著者の代表作として、江戸川乱歩賞を受賞した「闇に香る嘘」というのがあるので是非次回読んでみたい。

【楽天ブックス】「真実の檻」

「「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣」石川和男

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
著者が自身の組織でも徹底している残業しないための習慣を説明している。

一般的に言われていることとほとんど変わらず、特別新しいことはない。目次を読めば言おうとしていることは理解できるだろう。

しかし、わかっていても組織として実行するには、組織のなかに存在する様々なタイプの人を納得させなければならないのである。著者のように、組織の中心にいる人間が、組織を残業しないチームに変えるのと、中堅や平社員が変えるのでは労力も手法も大きくことなるだろう。むしろ、本当に必要とされている本は、残業しないチームにどのように周囲を説得しながら変えていくか、という本なのかもしれない。

【楽天ブックス】「「残業しないチーム」と「残業だらけチーム」の習慣」

「Org Design for Design Org: Building and Managing In-House Design Teams」Peter Merholz, Kristin Skinner

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
デザイン組織を作るための方法を説明している。小さなデザイン組織から、組織が大きく成長する中でどのようなデザイナーを増やしていくべきか。

序盤はデザインが重視されるようになった背景を説明している。80年代や90年代は徹底的な効率化により企業は競争力をつけていき、デルなどの企業が存在感を強めていった。しかし、効率化も頭打ちになったため、IDEOなどのデザインに力を入れ始めた企業が抜け出してきたため、現在デザインに多くの企業が目を向けているのだという。

第2章では、最近までのデザインの考え方とこれからのデザインの考え方の違いを説明している。これまでのデザインの考え方は、マネジメント、マーケティング、デザイン、設計、製造、販売、サポート、という全体の一つのフェーズでしかなかったが、これからは、すべてのフェーズに関わるべきものとしている。

中盤以降では実際の企業のデザイン組織の作り方について書いている。多くのデザイン組織はデザイン部を社内に設けるCentralized型か、デザイナーを事業部に割り当てるEmbedded型なのである。

Centralized型のメリット
デザインコミュニティや文化をサポートできる
明確な作業分担を作れる
デザイナーにプロジェクトベースで仕事をさせられる
一貫したユーザー体験を提供できる
仕事の効率化をはかれる
Centralized型のデメリット
責任者の力がない、責任の所在が不明確
彼ら、私たちという態度が生まれる
優先度やタイミングが不明確になる
Embedded型のメリット
開発がスピーディでサイクルがまわせる
デザイナーがチームの一員として機能する
チームが提供するものに責任を持てる
良質のものを提供できる。
Embedded型のデメリット
チームが一つの問題に長い期間集中する
デザイナー同士のつながりが希薄になる
デザイン文化の一貫性やデザインコミュニティーが希薄になる
ユーザー体験が分断される
同じ努力が複数の場所で行われ、非効率さが生まれる
ユーザー調査がおざなりになる

その双方の長所と短所を説明した上で、本書ではCentralized Partnershipという双方の利点を兼ね備えたデザイン組織を提案している。

そして終盤以降は、デザイナーをタイプによって分類し、デザインチームがグループとなり、組織となるにあたって、どのようなタイプのデザイナーをどのように入れて組織を大きくしていくかを説明している。正直、終盤のくだりは、大きなデザイン組織の人事に影響を与えられる人、というかなりニッチな人にしか役に立たないかもしれない。

本書によって、Centralized型とEmbedded型の組織の長所と短所を整理することができた。しかし、それは本書から説明されるまでもなく明らかだったことと、短所を補おうとすると本書が提案するような折衷案を目指すというのは必然的である。そのため、本書が何か新しい考えをもたらしてくれたという印象はない。

「面白くて眠れなくなる素粒子」竹内薫

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
素粒子をわかりやすく解説している。

素粒子について新しく得た知識は原子核が陽子と中性子によってできており、陽子と中性子は3つクォークと呼ばれる素粒子でできている。というところまで。その先は予想どおりわかりにくい。

面白かったのは、物理学者のタイプの話で、理論物理学者と実験物理学者という大きく2つのタイプがいるというものぐらい。超ひも理論の本を読むのは本作品で2作目だが、相変わらずとらえどころのない感じ。わかりやすく話しているせいか、どこまでがたとえ話でどこまでが実際の話なのかがわかりにくいと感じたが、後半では、著者が、ほとんどが妄想だと言っていることを考慮すると、実際の話はほとんどない気もしてきた。

「どういうものなんだろうと考えること、どういうものなのか頭の中に具体的なイメージを浮かべようとすること」はNGです。
どこまでが本当で、どこからが妄想なのか、私たちにはもうわからないんです。

とっつきにくい世界の一つの足がかりとしてはわるくないかもしれない。
 
【楽天ブックス】「面白くて眠れなくなる素粒子」

「新版 ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」W・チャン・キム

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
QBハウス、セブン銀行、オフィスグリコのようなブルーオーシャンを切り開いた企業たちのように、競合のいないブルーオーシャンを開拓するにはどのような戦略をとるべきなのか。本書では、そんなブルー・オーシャンを切り開こうと考える組織の経営者たちに向けて、その戦略を考える上で有効な手法がいくつか紹介されている。

戦略キャンバス
6つのパス アクションマトリクス

ブルー・オーシャンを切り開いた企業として豊富な実例を挙げている。サーカスを一大エンターテイメントへと変えたシルク・ド・ソレイユ、近づきがたいワインを一般に広めたイエローテイルの話は面白く、上に挙げた戦略キャンバスに照らし合わせると、これらの会社がまさにそれまでの既成概念を打ち破った戦略で成功したことがわかる。

また、企業ではないものの、組織を大きく変えた例としてNYPD(ニューヨーク市警察)を例にとり、ティッピングポイントリーダーシップという手法を説明している。ティッピングポイントリーダーシップとは、組織に大きく影響を与えうる、人、出来事、行動を見極めてそれを活かすことである。つまり、組織や人や街全体を対象にするよりも鍵となる部分に努力を集中させることが効果につながるということで、当時のニューヨークが本部長ビル・ブラットンのそのような取り組みによって徐々に改善されていく様子を説明している。

また、組織を変える上で、公正なプロセスの重要性を説いている。公正なプロセスとは3つのEで説明される、関与(Envolvement)、説明(Explanation)、明快な機体内容(Clarity of Expectation)であり、本書では、変化に成功した企業と失敗した企業を例にとってその重要性を説明している。

最も印象的だったのは、最後の章の「レッド・オーシャンの罠を避ける」である。ここには、企業が陥りがちな間違った戦略の多くが書かれている。特に「「ブルー・オーシャンを創造するには、他者に先駆けるほかない」という誤解」は耳の痛い話で、かつて所属していた企業でもこのような考え方が蔓延していた気がする。

iMac以前にもパソコンは存在したし、iPod以前にもMP3プレーヤーは存在した。
スピードは重要ではあるが、それだけでブルー・オーシャンを開拓できるわけではない。市場に一番乗りしたものの、イノベーションから価値を引き出さないまま製品やサービスを販売してしまい、退場を余儀なくされた企業群の墓標が、産業界には溢れている。

全体的にはうわさどおり非常に読み応えのある良書だと感じた。ぜひまた時間をおいて読み返したいと思った。

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「ムーンナイトダイバー」天童荒太

天童荒太といえば、有名な作品は「永遠の仔」だろう。どちらかといえば悲しい物語が多い。本作品もそんな部類の一つで、震災で両親と兄を失った瀬奈舟作(せなふなさく)を扱っている。舟作はその4年半後、ダイビングのスキルを活かして遺留品を海から回収する仕事をすることとなるのだ。

天童荒太

夜の海に潜る場面から物語が始まるため最初は前後の状況がわからないが、物語が進む中で、少しずつ、震災のことやそれぞれの過去が明らかになっていく。そんななか、遺品回収に関わる遺族の心情や、周囲への配慮はとてもフィクションとは思えない深みがあり、報道では伝わらない遺族の気持ちの深い部分に触れられた気がした。特に、少しでも価値のあるものを回収してしまうと、お金のための行動とみなされかねないために避けるべき、という考え方は、遺族の気持ちや周囲の目線の複雑さを表している気がした。

物語は、夫を亡くした女性の登場が、舟作(ふなさく)に個人的な依頼をしてくることで、動くこととなる。

わたしの願いというのは、ダイバーの方に、この、夫がしていた指輪を探さないでほしい、ということです。

なぜ、探すようにではなく、探さないようにと依頼するのか。その女性のつらい気持ちに触れることが、震災ゆえに傷ついたまま生きてきた舟作(ふなさく)自身にとっての転機にもなっていく。

【楽天ブックス】「ムーンナイトダイバー」

「スティーヴン・ジェラード自伝 君はひとりじゃない」 スティーヴン・ジェラード

ジェラード

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元イングランドの代表選手で、プレミアリーグのリバプールで1998年から2015年までの17年間中心選手として活躍したジェラードが、自身のサッカー選手としてのこれまでの出来事や思いを語る。

本書ではジェラードが、クラブチームやイングランド代表での出来事を気持ちの向くままに語っている。重要な試合での出来事の描写はサッカー好きでなければあまり楽しめないかもしれないが、ジェラードが、チーム内の若手選手や、移籍に悩む選手の相談相手になる場面は、だれにとっても学べる点があるだろう。

本書で語られるいくつかの試合の重要な場面は、どれもすぐにYouTubeで検索することができ、第三者として試合を見ていたいままでと違った楽しみ方ができる。

【楽天ブックス】「スティーヴン・ジェラード自伝 君はひとりじゃない」

「UIデザイン みんなで考え、カイゼンする。」栄前田勝太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
UIデザインはもはやデザイナーが1人で行うことではない。すぐれたUI、すぐれたサービスを作るためには組織全体で取り組むことが必要である。そんなコンセプトの元で、取り組むべきことを順を追って説明している。

正直、普段アジャイル開発でUIデザインに関わっている僕にとっては知っていることばかりだったが。それでもいくつかこれまでに聞いたことのないUX手法を知ることができた。

6up Sketches
6コマ漫画。あるアイデアについて、ターゲットユーザーがそのサービスを使う前から使った後の様子を描き、チームでそのアイデアが達成すべきストーリーを共有することが目的。

UIフロー図
元は37Signalsの記事で紹介されていたもの。画面を矢印で繋げていくものですが、画面内でユーザーが見るものとユーザーがすることに分解して情報の関係を記述し、画面遷移図よりも詳細で、利用の流れも把握しやすいという特徴があります。

本書でもっとも興味深方のは第5章の「デザインシステムを作り育てよう」であるが、内容としては「Design System」の内容を説明しているだけなので、詳しい人はそちらを読むべきだろう。こちらも新しい知識として次の2つはしっかりチェックしておきたい。

Awesome Design Systems
Storybook for Vue

その他にもUXハニカムとUXピラミッドという考え方に久しぶりに触れたので、共通言語としてしっかり覚えておきたいと思った。

UXハニカム
役にたつ、好ましい、アクセスしやすい、信頼できる、見つけやすい、使いやすいの6つを価値があるための要素としている。
UXピラミッド
UXハニカムをピラミッド図にしたもので、上から 満足できる 好ましい、価値がある
安心できる 役にたつ、信頼できる 利用できる 使いやすい、アクセスしやすい、見つけやすい と表す

【楽天ブックス】「UIデザインみんなで考え、カイゼンする。」

「Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで」玉置真一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
UXデザインを始めるための方法についてやさしく説明している。

本書の面白いところは、UXの方法を知っているだけでは組織にUXデザインを浸透させることはできない、という前提にたって、どのように組織の中に浸透させるか、という点についても書いているところだろう。

UXについては

ユーザビリティ評価
プロトタイピング
ペルソナ
シナリオ
ユーザー調査
カスタマージャーニーマップ
共感ペルソナによるユーザーモデリング

というすでにUXを勉強している人にとってはおなじみの手法を取り扱っているが、ところどころ、次のような新しいUXデザインの手法に触れることができた。

– ユーザービリティの評価手法 – ヒューリスティック評価 – 認知的ウォークスルー – NEM(Novice Expert ration Method) – 弟子入りインタビュー – 構造化シナリオ法 – ペルソナ共感図 – Seeing – Saying – Doing – Feeling – Hearing – Thinking

すでに試みたことのあるUXの手法でも、呼び方が異なったり、呼び方自体を知らなかったりすると、組織のなかに浸透させるの障害となりうるので、どんなUXの手法もすぐに理解できるようにしておきたいと思った。

また、本書の中で引用されてた書籍にも時間があれば目を通していきたい。 「Experience Vision」山崎和彦、上田義弘

【楽天ブックス】「Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで」