求められる力、自制心

時代の変化と共に求められる能力は変わっていく。次に求められる能力は何か、この先ニーズが高い仕事は何か、などは常に人々の関心の的である。

今回は仕事としてではなく、個人の比較的汎用的な能力のなかで今後より重要になってくるものについて触れたい。それは

  • 自制心
  • バランス力

である。どちらも以前から重要な能力なので「何を今さら」と思うかもしれない。しかし、今後この二つの能力はさらに重要になってくる。すでに自分の自制心とバランス力に自信を持っている人もさらに磨き抜かなければならくなるだろう。

なぜ自制心がより必要になのか。それは消費を促す企業と一般の人との接点が増えるからである。インターネット以前であれば、企業との接点は、外出中であれば街中に貼られている看板やチラシ、家の中であればテレビのみであった。

それが2000年以降、インターネットとパソコンの普及によって一般的になったパソコン上の接点を利用して、さまざまな企業がサービスの購入や無料利用を促すようになった。その流れはスマホの普及によってさらに加速する。人は家でもオフィスでもない移動中にも企業との多くの接点を持つようになったのだ。

接点の増加はパソコンとスマホで終わりではない。家庭にはアレクサが入り込みし、駅や電車の広告は紙から動画となりまた一部インタラクティブにもなっている。今後さらにインタラクティブな側面が増えると共に、人々の嗜好に合わせてカスタマイズされていくことだろう。

UnsplashPavel Sanchezが撮影した写真

多くの企業の目的は、売上を上げることである。広告枠にお金を注ぎ込みながら消費者の心の平穏を守るために静かな30秒を提供する、などという企業は残念ながら存在しない。多くの企業が、徐々に増えていく消費者と接点を最大限利用し、さまざまな誘惑で消費を促すのである。YouTubeを見れば広告が現れ、新聞を見ればバナーが現れる。

企業に限らずYouTuberなどのコンテンツ作成者も閲覧数を稼ぐために中毒性の高い動画でユーザーの気を引こうとする。その手法は常に改善され洗練されていく。外に出て街ゆく人を見れば、常に片手にスマホを持っている歩いている人の多さに驚かされるだろう。一体そのうちどれだけの人が、充実した人生を送るためにそのスマホを使っているのだろう。

そんな誘惑ばかりの環境で、どんな人間が充実した人生を送り、理想の人生に辿り着けるのだろう。それは、個人の自由な時間へ、あらゆる接点を利用して侵入を試みる企業やコンテンツ発信者の誘惑から逃れることのできる人間である。それを可能にする力こそ自制心である。

自制心というとメンタルの強さのように聞こえるかもしれないが、常の中での仕組みづくりも含んでいる。通知をオフにする、SNSのアプリをスマホから削除するなど、すでに一部の人に推奨されているものなどはわかりやすいだろう。

こうして考えると、今後求められる自制心が、今まで良しとされていた自制心とはレベルが違うことがわかるだろう。今後も続く接点の増加と強化される誘惑のなかで、自らの人生の目的への集中を可能にする、そんな自制心が求められるのである。

もう一つのバランス力についてはまた次回語りたい。

トレンドは反転を繰り返す

トレンド、つまり流行を知ることはデザイナーに限らず様々なシーンで求められる能力である。個人としても組織としても、早めに流行を知ることができればより早くユーザーのニーズを掴むことができるし、早めに流行に合わせた製品やサービス開発に時間やリソースをかけることができる。

され、では流行を知るにはどうしたらいいのだろう。今の流行を知るのはそれほど難しくはないが、未来の流行を知るにはどうするべきだろう。

UnsplashKrisztian Taboriが撮影した写真

もちろん未来を完璧に予想することはできないが、比較的高い確率で予想することはできる。次の二つの視点で過去を振り返れば、未来もある程度予想可能なのである。

  • 短期的には反転を繰り返す
  • 長期的には良くなる

反転を繰り返すというのは過去の歴史の様々な出来事を振り返ればわかりやすいだろう。アールヌーボー時代の次にアールデコが来たのなどはかなり古い例だが、ここ数十年の動きに限って言えば、UIデザインの流行などはその好例といえる。リアルを追求したスキューモーフィズムの後に、単純化したフラットデザインの流れがやってきて、その後再びわかりやすさをやや重視のために立体感を追加したマテリアルデザインへと移っていったのである。

そもそもこのような流行の変化はなぜ起きるのか、それは個人や組織が抱きがちな2つの思いに由来する。

  • 〇〇っぽくありたい
  • 〇〇のなかで目立ちたい

立ち上げたばかりの会社を想像するとわかりやすい。彼らが最初にやりたいことの一つは会社として立派なロゴを作ることである。このようなときにロゴデザインは会社のロゴっぽいデザインになる。なぜなら信頼に足るしっかりとした会社っぽく見られたいから。これが〇〇っぽくありたいの例である。周囲と同じ行動、つまり右へ倣えは安全や信頼獲得を考えたときには非常に論理的な選択なのである。

ただ、右へ倣えは安全や信頼獲得のためには正しい選択でも、成功のためには必ずしも正しいとは言えない。なぜなら競合の多い世界では、成功のためには目立たなければならないからである。これが○○のなかで目立ちたいという思いである。

〇〇っぽくありたい人や組織は流行のど真ん中を狙う一方で、〇〇のなかで目立ちたい人たちは流行からあえて外すのである。

しかし、流行からあえて外した人や組織が成功者として認知されると、その後大多数がそれに倣うこととなり新たな流行となるのだ。このようにして流行は反転を繰り返すのである。

ただし、同じ箇所を行ったり来たりしているわけではない、反転を繰り返す過程で、本当に不要なものは少しずつ削ぎ落とされ、時代や文化、技術の進歩のなかで新しく必要になっった要素が少しずつ取り入れられていくのだ。これが長期的には良い方向に向かう理由である。

こうやって様々な世の中の出来事を振り返ると、5年後、10年後、どんな方向に向かうか予想ができるのではないだろうか。