オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
姫川玲子シリーズ。
今回は短編集という事で、姫川玲子を中心とした8つの物語が収録されている。このシリーズは「ストロベリーナイト」「ソウルケイジ」など長編が人気があるが、個人的には短編集である「感染遊戯」や本書が好きである。
本書でも中程に収録されている「彼女のいたカフェ」が非常にいい感じである。書店に併設されたカフェの店員目線の物語で、特に理由もなくカフェのスタッフを始めた彼女が、毎日そこで難しそうな本を読む女性に恋するという内容である。もちろん、その女性が姫川玲子であり、やがてカフェに姿を現さなくなる…という物語であるのだが、その数年後に事件を通じて2人の再会を描くのである。
まだ、ほかの章では、ブルーマーダーの事件や、過去に殉職した姫川の部下について描いたりするなど、どうしても一冊ずつ間隔があいてしまうために内容についていくのは難しいが、姫川玲子の捜査に対する信念や部下に対する温かい思いが伝わってくるだろう。
【楽天ブックス】「インデックス」
カテゴリー: 趣味/関心事_警察
「自覚 隠蔽捜査5.5」今野敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
しがらみや上下の階級意識の強い警察組織において、合理的に物事を解決しようとする大森署署長の竜崎伸也(りゅうざきしんや)の物語。
「隠蔽捜査5.5」という副題が小数点をつけているのは、本書が短編集という意味である。同じ警察組織の中の、竜崎(りゅうざき)の周辺の人々が、日々起きる事件や問題を対処していく様子を描く。一歩判断を間違えれば大きな問題になりかねない状況を、竜崎(りゅうざき)が解決していく様子が爽快である。
本書ではシリーズ全体を通じてたびたび登場する戸高(とだか)の活躍もいくつか見られる。彼は優れた捜査官でありながらその勤務態度ゆえに問題視されているのであるが、仲間からの信頼は厚い。竜崎(りゅうざき)と戸高(とだか)の不思議な信頼関係は本シリーズの魅力の一つでもある。
このシリーズを読むといつも思う事であるが、自分自身も人間として竜崎(りゅうざき)のように、常に冷静で、平等かつ合理的に行動したいと思わせてくれる。
【楽天ブックス】「自覚 隠蔽捜査5.5」
「盗まれた顔」羽田圭介
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人の多い町に出て、記憶した顔と一致する顔がないかを探し続ける見当たり捜査員である、白戸(しらと)は同僚の安藤(あんどう)、谷(たに)とともに毎日犯罪者の顔を探す事を仕事とする。
テレビ番組などで聞いたことのある見当たり捜査であるが、このように小説となってその捜査を見るとその厳しさに驚くだろう。通常でも1ヶ月に1人か2人の犯罪者を見つけられる程度なのだと言う。つまり1ヶ月のうちの大部分は、ただ町に出てなんの成果も挙げられない日々なのである。
実際、本書では白戸(しらと)の同僚の谷(たに)が何ヶ月も成果を挙げられずに憔悴する様子が描かれている。また、逆に白戸(しらと)の、すでに逮捕した犯罪者の顔が忘れられずに苦しむ様子も興味深い。実際の見当たり捜査員にしかわからないであろう悩みや葛藤が描かれている点が面白い。
さて、ある日の捜査の際に、白戸(しらと)が既に死んだと思っていた男の顔を見かけてから物語は大きく動き出す。白戸(しらと)は大きな陰謀に挑んでいく事となるのである。
警察物語としては、組織内の陰謀などはもはや新しくもないが、やはり見当たり捜査員という、見ることのできない人生を見せてくれるという点で興味深い。本書を書くために多くの調査をしたと思われる著者羽田圭介(はだけいすけ)という著者にも好感が持てたので、別の作品も読んでみたいと思った。
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「衛星を使い、私に」結城充孝
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自動車警邏隊の女性警官クロハの日々を描く短編集。
本書は「プラ・バロック」「エコイック・メモリ」に続く第3弾であるが、時間としてはそれ以前ということで、クロハがまだ未熟な時代を描いている。短編集という事で6つの物語に別れているが、どれも読み応えがあり、また根底には一つの共通した問題があり、全体として一つの物語としても捉える事ができる。
さて、このシリーズでいつも印象的なのは、著者が現代のIT技術をうまく物語に組み込む点である。本書でも撮影された画像の位置情報や、交通事故のシミュレーションが捜査に大きく影響を与えるため、新しい知識も得る事ができる。
個人的には第二編の「二つからなる銃弾」が印象的である。射撃の優れた腕を持つクロハが射撃競技に出場する様子を描く。あまり見る機会のない射撃という競技の様子を感じる事ができるだろう。
引き続き本シリーズの続編を楽しみにしたい。
【楽天ブックス】「衛生を使い、私に」
「宰領 隠蔽捜査5」今野敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
管内で国会議員が失踪した。署長の竜崎伸也(りゅうざきしんや)は極秘の捜査によって誘拐殺人事件であることが明らかになる。
例によって、地位の上下や私欲に縛られずに正義を全うしようとする竜崎(りゅうざき)の姿勢に触れられる本シリーズは面白い。今回の事件は神奈川県警も巻き込んでいることから、神奈川県警、警視庁、双方の立場を考慮して行動していく。また、事件のほかに、息子の大学受験という家族の問題も同時に抱えている。様々な業務を洗い出してそれぞれを優先順位をつけて的確な解決方法を見つけ出して処理していく様子はなんとも爽快である。
毎回、自分自身の行動についても見つめ直させてくれる一冊。
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「北海道警察の冷たい夏」曽我部司
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2002年7月。渡辺司(わたなべつかさ)は覚せい剤をもって札幌北警察署へ向かった。それは北海道警察の冷たい夏の始まりだった。
映画化された佐々木譲の小説「笑う警官」とその続編「警視庁から来た男」「警官の紋章」の中で、常に過去の出来事として描かれている北海道警察の汚職事件。そのリアルな描写が、実は現実に起こっていた事件をベースに描かれていることを知ったのは恥ずかしながら最近のことである。本書はその現実にあった北海道警察の不祥事を克明にまとめたものである。
一人の男の出頭によって、稲葉(いなば)という一人の幹部警察官が、覚せい剤や拳銃の応手実績を挙げるために、暴力団やロシアンマフィアたちと共謀して事件を捏造していたことが明らかになり、さらに北海道警察がその事実を隠蔽しようとした、と筆者は本書で主張している。
興味深いのは、稲葉(いなば)が決してただ私欲に目がくらんで自らの立場を利用した犯罪者ではなく、彼は、その人を思う気持ちゆえに、自らのために危険を冒してくれた捜査協力者を守り、多くの人と同じように実績を挙げて認めてもらうために犯罪に走ったということだろう。
著者の目線ゆえにだろうか、稲葉(いなば)という人間がむしろ北海道警察という大きな組織によって仕立てられて被害者に見えて来る。そして、悲しいことに、その隠蔽体質は事件後も一切改善されていないということだ。むしろ、それは日韓ワールドカップや朝鮮拉致被害者など、同じ時期に起きたわかりやすい出来事のなかで、しっかりと目を向けるべきものに目を向けて、批判すべきものを批判することをしなかったメディアや国民にも責任があるのかもしれない。
また、本書を読みながらこんなことを考えてしまった。世の中には多くの警察小説やドラマが溢れていて、その多くに日常的に接していながら、一体僕自身がどれだけそれらを現実のものとして受け入れているのだろう…、と。そんな架空の物語の中で、覚せい剤や拳銃の密売、警察の腐敗などを描いているものにも多々出会ってきたが、実際その多くを、どこか物語の演出として過剰に描いたもののように受け入れてきた自分に気づかされたのである。しかし、本書を読むと、現実の世界でも警察は、暴力団の中に暴力団を装って捜査員を潜入させたり、Sと呼ばれる捜査協力者を利用して情報を集めたりするのである。そして、社会の秩序を守るべき警察が大規模な犯罪に手を染めたりする。
先日、ロシアの秘密警察の話を読んで、こんな国に生まれなくて本当に良かった、と思ったが、本書を読むと、日本も根本的にはあまり変わらなく、大きくなりすぎた組織が自らの失態を隠蔽する土壌は日本という国にも確かに存在するのである。
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