モウリーニョのリーダー論 世界最強チームの束ね方

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
モウリーニョの幼馴染の著者が、モウリーニョのリーダー論を語る。

モウリーニョのリーダーシップの考え方が知りたくて本書にたどり着いた。

自らをスペシャル・ワンと公言するモウリーニョの生き方が存分に伝わってくる。そんな中でも速さについてモウリーニョが語った言葉が印象に残った。

デコ(元ポルトガル代表)を見ろ、もしあいつがボルトと100メートルを競争したら、悲惨な結果になるのは間違いない。だが、フィールド上では俺が知る中でも有数の“速い”選手だ。状況をすばやく分析し、それに対してすぐに対応できる“速さ”をもっている。

複数の速度を考えることで上を目指せるのは、様々な分野に言えることなのだろう。例えば、ある技術の習得するのが速い人がいて、その人に習得速度でかなわないとしても、一つの技術の習得からから次の技術の切り替えを速くするなど、別の速度を上げることで全体的にはそれ以上のパフォーマンスを出すことができる、などである。身体能力で敵わない人や記憶力で敵わない人などと出会った時に持ちたい視点である。

冒頭で書いたように、モウリーニョという人物について、自分がもっとも知りたいのは、どのようにして選手のモチベーションを高めるか、であり。それについてはランパードに語った言葉がヒントになるだろう。

お前はジダンやヴィエイラ、あるいはデコと同格だよ。ただ、それを証明するには勝たなければならない。お前が世界最高の選手であることを、優勝して証明するんだ。

この本人の実力を認めつつ新たな目標を提示するセリフは秀逸で、どんな人にも応用できると思った。サッカーの監督の中ではアーセナルの一時代を築いたアーセン・ベンゲルも有名だが、彼とモウリーニョの違いについても書いている。

本書を読んでモウリーニョも成功から、周囲のモチベーションを高める方法について学べる点を挙げるとしたら次の3点になるだろう。

  • 言語化(試合中だけでなく練習や日常生活におけるまで24時間)
    試合や練習だけでなく、選手が理想のキャリアを描けるよう最適な過ごし方を論理的に説明する。
  • 自分自身のモチベーションと感情を表現する
    誰よりも感情を表現し共感する。
  • 選手のキャリアや人生の向上のためのモチベーションを高めるためのセリフ・気遣い
    プライベートには立ち入らないのではなく、選手の家族との時間などプライベートも含めてベストな人生を送れるよう行動する

使える考え方はすぐに実践してみたいと思った。最近はサッカーの戦術についても改めて面白さを感じているので、リーダーシップと合わせて学ぶことができるサッカーの監督の考え方に触れられる本を、引き続き読んで行きたいと思った。

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「マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」」冨田浩司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
イギリスの政治家サッチャー時代について描く。

先日読んだ「シャギー・ベイン」がサッチャー政権時代の物語だったことで、当時のイギリスの様子や当時の政治の様子を知りたくて本書にたどり着いた。

本書ではサッチャーが首相になる経緯から、その政権において取り組んだこと、そして退任までを順を追って説明している。

印象的だったのはフォークランド戦争である。サッカーW杯などでイングランドとアルゼンチンが対決する際必ず持ち上がる出来事であるが、どのような経緯で発生したことなのかは知らなかった。本書を読んで、フォークランド戦争のアルゼンチン側の思惑や、イギリス側の民意などを理解すると、日本と韓国の間の竹島問題やロシアとの北方領土問題でも似たようなことは起こりうると感じた。

サッチャーという人物については、思っていた以上に感情的に物事に取り組んだ人物だという印象が強くなった。そんなサッチャーの政治家らしからぬ人間性が、当時の行き詰まっていたイギリスの政治に良い方向に作用したのだろう。

外交の専門家は、本能的に外交というものを、異なる主張についてどこかで折り合いをみつけるプロセスだと考えがちである。…サッチャーの交渉スタイルはこのような外交専門家の「職業病」とは無縁で、…いわば「玉砕型」と呼べるものであった。

また、サッチャーを含む当時の政治家たちの駆け引きや政策を知るにつれて、政治という仕事においても新たな視点をもたらしてくれた。

政治指導者には、時として、政策的には正しくても、政治的に機能しない選択肢を捨て、政策的には不十分でも、政治的に実現可能な選択肢を選ぶ懐の深さが求められる。

これまで政治家の本はバラック・オバマやジョージ・W・ブッシュなどアメリカ大統領に関するものしか読んだことがなかったが、他の政治家の考え方にも触れてみたいと思った。

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「リボルバー」原田マハ


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
パリのオークション会社に拳銃が持ち込まれた。それはゴッホを撃った拳銃だという。高遠冴(たかとおさえ)は真実の裏付け調査を始める。

高遠冴(たかとおさえ)は会社の上司、仲間と共に、拳銃を持ち込んだサラという女性に拳銃が委ねられた経緯からゴーギャンの家系にそのヒントがあると考え、家族や愛人などの関係者を調べていく。その過程でゴーギャンの生き方や当時の感情に少しずつ触れることとなる。

そんな調査の中で高遠冴(たかとおさえ)はゴーギャンのさまざまな感情を想像しながらその思考に近づこうとする。ゴッホの絵が大きく進歩していくのを目にして、焦りや羨望を感じるあたりは、何かに秀でた人間を目の当たりにした時に誰もが覚えのある感情だろう。

遅くに画家を志したという点では似ていながらも、2人はかなり異なる人生を送ってきた。ゴーギャンは結婚して妻子がある一方、ゴッホは弟のテオをのぞけばほとんど孤独の身なのである。家族との関係も含めて二人の人生を想像することで真実に迫ろうとする。

ゴッホは家庭を築くことはできなかったが、弟テオとその妻ヨーの不屈の情熱に支えられて世に出た。一方ゴーギャンは家庭を築き、五人もの子供を授かっていたにもかかわらず、彼のために親身になって尽くしてくれる身内は存在しなかった。

ゴッホとゴーギャンという二人の画家が一時期一緒に過ごしたことは有名だが、そんな2人の関係に新たな視点を与えてくれる。そして、そんな新たな視点を持つことで改めて、それぞれの絵画を見直したくさせてくれる。ゴッホの「ひまわり」だけでなく、ゴーギャンの「マンゴーを持つ女」「かぐわしき大地」「死霊が見ている」「マリア礼賛」など、本書で触れられているさまざまな絵画を改めてじっくり鑑賞したいと思った。

ゴッホが自殺したというのが通説だが、それ自体も実は噂の域を出ないことを知った。いつものように著者原田マハはその経歴ゆえに絵画が絡むと見事にその知識を発揮するが、本作もこれまでの作品と同様に絵画と画家の人生を見事に物語に落とし込んでいる。

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「Mourinho ジョゼ・モウリーニョ自伝」ジョゼ・モウリーニョ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ヨーロッパの強豪チームでサッカーの監督を勤めるジョゼ・モウリーニョにの自伝である。写真と短い文章でその人生を語る。

「自伝」というタイトルになっているが、どちらかというと写真集に近い印象である。ポルト、チェルシー、インテル時代のモウリーニョの動向は、世界のサッカーの動向をよく見ていたので強烈に覚えているが、その後の成績などはあまり知らなかったのでそれ以降の経歴が新鮮だった。

本書を読むにあたってもっとも知りたいと思ったのは、その一見高慢とも思える態度にもかかわらず、どのように選手たちの心を掌握して勝利という結果に結びつけるかという点である。しかし、案の定、なかなか本という媒体から伝わってくるものではない。それでも、選手たちと良い関係が築けていることや、モウリーニョ自信が常に挑戦を求めて一箇所に止まらない生き方をしていることは十分に伝わってくる。

改めてモウリーニョのように強い情熱を持って、大きな責任のもとで仕事をしながら人生を送れることを羨ましく感じ、大きな刺激をもらった。

冒頭でも「短い言葉と鮮やかなで伝えたい」と書いてはあるもの、「自伝」というタイトルに惹かれて、期待感を持って読み始めると、物足りなさを感じるかもしれない。

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「ピエタ」大島真寿美

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
18世紀のヴェネチア、孤児たちを引き取って育てていたピエタ慈善院を描く。

ピエタとは、現在でいう赤ちゃんポストであり捨てられた子供たちが、職業訓練をして過ごす場所だという。本書はそのなかでも、合奏・合唱の才能を伸ばした女性たちと、作曲家ヴィヴァルディの関わりを中心とした物語である。

語り手となるエミーリアはピエタのなかで人生を生きた一人の女性であるが、そのほかにもピエタに関わるさまざまな人物が描かれ、いろんな人間の生き方があることが伝わってくる。貴族に生まれピエタで共に音楽を学んだヴェロニカ、ピエタで音楽の才能を開花させたアンナ・マリーニ、音楽の才能を開花できずに薬剤師として独立したジーナなど、どの人生にも200年という時を隔てているにもかかわらず、現代に通ずる人生の厚みが感じられる。

大きく展開する物語ではないが、18世紀のヴェネチアという遠い地の遠い昔に生きた人々の人生がしっかり伝わってくる作品で、ヴェネチアという国や当時の音楽に対する考え方に興味を抱かせてくれた。

読み終わってから、ピエタの存在をあらためて調べてみると、かなり史実に近いことに驚かされた。ヴィヴァルディについては「四季」という曲名についてしか知らなかったが、ヴェネチア出身でかつピエタ慈善院に大きく関わっていたというのは本書を通じて初めて知ることとなった。

著者大島真寿美氏は「」で、浄瑠璃の世界を描いたことが印象に残っており、温かい人物描写、さまざまな立場の人物を良い面と悪い面の両面だけでなく、生きがいや悩みまで描くというのはどの作品にも共通しているようだ。他にも異国の地、遠い過去を身近に感じさせてくれる作品がありそうである。今後も大島真寿美氏の作品は読み続けていきたいと思った。

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「Shuggie Bain」 Douglas Stuart

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2020年ブッカー賞受賞作品。1980年代にスコットランドのグラスゴーで家族と生活する少年Shuggie Bainを描く。

舞台は1980年代のサッチャー政権時代である。そんななか少年Shuggieは母Agnesとタクシーの運転手であるShug、姉のChatherineと兄のLeekと祖父母の狭いアパートで生活していた。やがて父親代わりだったShugが家を出たことで、Agnesはアルコールへと逃避していく。

生活保護に頼って公団住宅で貧しい生活を送る中、Shuggieや兄のLeekはAgnesに養われる側から、Agnesの面倒を見る側へと家のなかでの立場が変化していく。そして、そんななかShuggieは自分がどうやら周囲の少年たちとは異なることにも気づいていくのである。

家庭の都合から学校に行くこともできず、行っても自身の性格から周囲に溶け込むことができない、そんなShuggieが成長していく様子を描く。姉のCatherineは早々に母のAgnesを諦め、結婚して遠方へと生活の拠点を移し家に戻る機会が減っていく。思春期の兄もまた、少しずつ自分の居場所を定めていく。そんななか母が大好きなShuggieは一人母を気にかけて生きていく。ただのアルコール依存症であるだけでなく、プライドが高くと子供たちを守るという優しさをを見せてくれるから、Shuggieは母を捨られないのである。

並行して当時の経済や生活の様子に触れられる点も新鮮である。炭鉱が閉鎖して多くの炭鉱労働者が失業し、タクシーの運転手などで急場を凌ぐ様子が描かれている。日本でも一部観光地になっているが、炭鉱という古い産業が何故栄え衰退していったのか、そんななかサッチャーなどの当時の政治家はどんなことを考えどんなことに取り組んだのかに興味を持った。

終盤は頼れるのは兄LeekだけになったShuggieが、母を救いたい思いと、自分の人生の間で揺れ動く様子が描かれる。Shuggieを気にかける兄Leekの言葉にも同じ道を通った人間としての言葉の重みを感じる。

Don't make the same mistake as me. She's never going to get better. When the time is right you have to leave. The only think you can save yourself.
俺と同じ過ちをするなよ。ママは決して良くならないよ。時期が来たら家を出るんだ。それが自分を救う唯一の方法だ。

小学生の少年Shuggieが背負った過酷な人生に涙が溢れてきた。

英語慣用句
if he / she is a day, 少なくとも…(〜歳である)
give a belt たたく、ぶつ、殴る
milksop いくじなし、決断力のない、臆病者
get one's knickers in a knot 小さなことでビクビクする
get one's goat イライラさせる、怒らせる
not know one from Adam その人のことを認識しない
leave 〜 to chance 〜を成り行きに任せる
brass neck 自信がある、堂々としている

和訳版はこちら

「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」藤代圭一

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
さまざまなスポーツでメンタルコーチをつとめる著者が、子供に対しての質問の考えを語る。

本書は子供に対しての質問というテーマで書かれているが、次の例のように、大人同士のコミュニケーションでも意識すべきことばかりである。

  • 答えは全て正解
  • わからないも正解
  • 他の人の答えを受け止める

面白いと思ったのは筆者は「受け止める」と「受け入れる」を次のように定義していることである。

「受け入れる」は、自分の考えと異なる意見でも、心の中に入れて、同意することです。「受け止める」は、相手の価値観や意見を理解することです。

個人的には「受け止める」も「受け入れる」も相手の考えを理解することで同意することではないという認識なので、
(同意するかどうかは「同意する」という言葉を別に使うしかない)。

結局、本書の要点は次の5つの質問に集約されるだろう。

  • どうたった?
  • 自分に点数をつけるとしたら難点だと思う?
  • どうしてそう思うの?
  • うまくいったことはなにがあった
  • どうすれば、もっと良くなると思う?

全体的な考え方には同意できるが、上にも書いたように、子供との会話においてだけ適応する内容ではない。職場環境においても、部下に自主性を持たせたりやる気を出させたりする上司は実践していることある。そう考えると、どちらかというとそのような社会経験がない親が読めば学びはあるかもしれない。誰でも知っているようなクイズや逸話を挟んでページ数を必要以上に増やしているのは残念である。

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「シューマンの指」奥泉光

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
指を失ったはずの天才ピアニスト永嶺修人(ながみねまさと)がピアノの演奏を再開したという。彼は確かに指を失ったはずなのに。里橋優(さとはしゆう)は封印していた記憶を辿り始め再び音楽に向き合う決心をする。

物語はミステリーの様相を呈しているが、音楽に傾倒する里橋優(さとはしゆう)と永嶺修人(ながみねまさと)の様子を描いているので、そのなかでシューマンの音楽についての議論が多く展開される。正直、音楽を本格的にやってない人間にとってはほとんど意味がわからないだろう。ただ、音楽は追求すれば奥の深いものだと言うことだけが伝わってくる。

シューマンという作曲家は名前しか知らないが指が不自由だと言うことを本書を読んで初めて知った。

ミステリーとしては一般的な範囲のものだろう。そこで展開される音楽論を好意的に受けるとかどうかで読者の受け取り方はかなり変わるだろう。個人的には、音楽論はほとんど理解できなかったが、それでもここまで音楽を論じることができたら楽しいだろうと感じた。

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「Dime quién soy」Julia Navarro


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
失業中の新聞記者のGuillermo Albiは叔母からの依頼により、息子を捨てて家を出たとして、家族の中で誰も多くを語ろうとしない祖父母Amelia Garayoaの人生を調べることとなる。

Guillermo AlbiはAmeliaの消息を追って、スペイン、アルゼンチン、イギリス、ロシア、イタリアなど各地を飛び回る。そして、少しずつその人生が浮かび上がってくる。裕福な家に生まれて、父親の知り合いの息子と結婚したにも関わらず、恋をして息子を捨て家を出て革命へと関わっていく。

第二次世界大戦から、ベルリンの壁の崩壊まで動乱の時代を自らの正義のために生きていた女性の姿が、スペインや各国の歴史とともに描かれる。第二次世界大戦中の物語は、日本目線もしくはアメリカ目線で触れることが多く、本書のようにスペイン人から見た第二次世界大戦の物語は初めてだったので新鮮だった。フランコの独裁政権のもとで、近い考えを持つドイツのヒトラーが台頭していく中、どのように行動すべきか悩み、分裂していくスペインの人々の動きが興味深い。

そんな動乱のスペインの中でGuillermo Albiの取材により、若く美しい世間知らずな女性だったAmeliaが、自らの信念のために自らの美しさを利用して祖国のために勇敢に戦う女性に変貌していく様子を描いていく。

最初はスペイン語で1,000ページ越えということで躊躇したが、退屈な部分はほとんどなく、全体的に読みやすく物語としても十分楽しませてもらった。

「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2022年本屋大賞受賞作品。第二次世界大戦中のドイツの侵攻によって故郷を失ったセラフィマはロシアの女性狙撃手としての訓練を受けることなる。

進行してきたドイツ軍に村を焼き払われたセラフィマが、女性狙撃手の英雄リュドミラ・パヴリチェンコと共の同志であるイリーナに拾われ、狙撃兵となる訓練受けることとなる。そんなセラフィマの狙撃手としての訓練の様子と、戦場で仲間と共に狙撃兵として成長していく様子を描く。

コサックのオリガや貴族を嫌悪するシャルロッタなど、さまざま背景や歴史から集まった仲間たちの多様性も物語を面白くしている。

途中、セラフィマたち女性狙撃手と前線で戦う男性兵士の考え方や性格の違いなどに度々触れていて、同じ村の幼馴染のミハイルと再会するシーンでは、女性であるが故に、戦場で女性に暴行を加える男性兵士に嫌悪感を抱く様子が見てとれる。

同じ年にKate Quinnの「The Diamond Eyes」でもロシアの狙撃手を扱っており、かなり内容が重なっている。おそらく「The Diamond Eyes」を読んでいなかったら、もっと本書の新鮮さを感じられたことだろう。「The Diamond Eyes」の主人公で実在した人物であるリュドミラ・パヴリチェンコは本書でも登場しているので、引き続きロシアの狙撃手の物語にさらに触れたい人は「The Diamond Eyes」を読むのもいいだろう。

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「アジャイル開発とスクラム 第2版 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント」平鍋健児、野中郁次郎、及部敬雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アジャイルとスクラムについての基本と現状を多くの例を踏まえて説明する。

序盤はよくあるスクラム関連書籍のように、アジャイルとスクラムの説明から始まる。

大部分が一度は耳にしたことのある内容だったが、改めてその意味を復習する機会となった。そんななか次回これをやってみたいと思ったのは次の二つである。

大きな収穫としては、本書を読むまで2020年のスクラムガイドの改訂を知らなかった。改訂項目を見るとスクラムの陥りがちな罠が見えてくる。本書では次の3つに触れている。

  • インセプションデッキ
  • やらないことリスト

1.スクラムが形式的、儀式的になってしまっている
2.プロダクトオーナー vs 開発チームの構図に陥ってしまっている
3.スクラムマスターがスクラム警察もしくは雑用係になってしまっている

2020年の改訂だけでなく、2017年の改訂についても理解してその傾向を理解して実践へ反映していきたい。

また、スクラムでは常に発生する悩みであるが、どうしても複数のプロジェクトが同時に進んでいたり、チームメイトが複数のプロジェクトをまたがって担当している場合にうまくいかない場面が出てくる。しかし、本書ではスクラムをスケールさせるいくつかの考え方にも触れている。

  • Less
  • Nexus
  • SAFe
  • Scrum@Scale
  • Disciplined Agile

本書の触れ方だと詳細の考え方がわからないので、追って深掘りしてみたい。

後半では、いくつかの日本の大手企業のスクラム導入の様子やインタビューを掲載している。これまで触れてきたスクラムやアジャイル関連の書籍はどれも海外の著書で、そのため、例も海外のものが多かった。本書は日本の企業がスクラムを導入例に数多く触れている点が新鮮である。

スクラムやアジャイルに対してまた新たな気づきを与えてくれた。

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「すべては「前向き質問」でうまくいく」マリリーG・アダムス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
クエスチョンシンキングという考え方について、仕事に行き詰まったベンの体験を元に説明する。

会社を辞めようと思っていたベンは上司のアレクサの助言で、クエスチョンシンキングのコーチであるジョセフと出会う。ジョセフとの会話のなかで少しずつベンがクエスチョンシンキングを理解する様子が描かれる。

クエスチョンシンキングでは「批判する人」と「学ぶ人」の2つに分けていて、批判する人の典型的な問いかけを次のように挙げている。

  • だれのせいだろう?
  • 私のなにがいけないのだろう?
  • どうしてこんなに失敗ばかりするのだろう?
  • どうして負けてしまうのだろう?
  • どうすれば自分が正しいと証明できるだろう?
  • どうすれば主導権を握れるだろう?
  • どうして彼らはあんなん無知で人をいらいらさせるのだろう?
  • どうしてこんな最悪のチームから逃れられないのだろう?
  • どうしてくよくよするのだろう?

それに対して、「学ぶ人」の問いかけは次の12の質問である。

  • 私はなにを望んでいるのだろう?
  • 私はどんな選択ができるのだろう?
  • 私はどんな思い込みをしているのだろう?
  • 私はなにに対して責任をもてばいい?
  • ほかにどんな考え方ができるだろう?
  • 相手はなにを考え、なにを感じ、なにを必要とし、なにを望んでいるのだろう?
  • 私はなにを見落としているのか、あるいは避けているのだろう?
  • 私はこの人(状況、失敗、成功)からなにを学べるだろう?
  • (私自身に・相手に)どんな質問をすればいい?
  • どんな行動をとることがもっとも論理歴だろうか?
  • これをどうすればWin-Winに変えられるだろうか?
  • なにが可能だろうか?

物語視点で伝えてくれるのでわかりやすい。また人間なら「批判する人」に陥ってしまうのは自然なのことだと言っている点も面白い。重要なのは「批判のする人」になっていることに気づくことで、気づくことさえできれば「学ぶ人」になることは難しくないという。

内容自体は、選択理論7つの習慣の「主体的である」Four AgreementsのDont’t Take Anything Personalとそれほど変わらない。しかし、表現を変えると響き方も変わるもので、2つに分けるというシンプルな構図がわかりやすい。マイナスな方向に向かってしまう人にはこんな説明の仕方もいいな、と感じた。

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「線は、僕を描く」砥上裕將

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
両親を失って親戚の家に身を寄せながら大学生活を送っていた青山霜介(あおやまそうすけ)は、アルバイトをきっかけに水墨画家篠田湖山(しのだこざん)に出会い、水墨画を学ぶこととなる。

霜介(そうすけ)の水墨画との出会いと学びを通じて、水墨画の魅力が伝わってくる。水墨画には4つの基本となる画題、蘭、竹、梅、菊があり、それらの習得に悪戦苦闘する霜介(そうすけ)の様子とその周囲の人間模様を描いている。

特に同じように水墨画に情熱を注ぐほかの登場人物の存在も物語をひきたてている。そのうち一人は、水墨画家の孫であり、霜介(そうすけ)と同じ年齢の千瑛(ちあき)であり、技術に優れている一方で、師である篠田湖山(しのだこざん)に認めらたいという思いを持ちながら、試行錯誤を続けるのである。元々は1年後の霜介(そうすけ)と千瑛(ちあき)の勝負という形で始まったが、水墨画に真剣い向かう中で少しずつお互いに心を開いていくのである。

全体的に物語を通じて、水墨画について興味を掻き立てらるだろう。他のアートと水墨画の大きな違いとして、水墨画におちては線をひくことと、塗ることは同時に行なわれるということである。また、本書では余白で表現をすることの重要性も語っており、水墨画に限らず、絵画やデザインでも通じる考え方だと感じた。

本書は水墨画がテーマだが、一つのことに情熱を注ぐことの魅力を改めて感じた。

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「星落ちて、なお」澤田瞳子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第165回直木賞受賞作品。明治時代、日本画家の娘として生まれたとよの画家としての人生を描く。

明治から大正にかけての6つの時期のとよの人生を描く。画鬼とよばれた父暁斎(きょうさい)の元で育ち、絵を学んでそだったとよは、暁斎(きょうさい)が亡くなったことで、自分の絵のスタイルや、その生き方を悩む様子を描いている。

また、とよだけでなく同じように父の影響を受けて、自らのスタイルに固執する兄周三郎(しゅうさぶろう)や、逆に絵の才能を開花させられなくて早々に居場所を失った弟の記六(きろく)など、画家の家に生まれたさまざな人生が見える。

日本画家として知っているのはせいぜい、狩野家、歌川家程度だったが、本書を読むと、歴史に名を残せなかった多くの画家たちがいたことがわかる。そして、現代の多くの芸術家と同じように、流行りや廃りのなかで自らのスタイルと求められるスタイルのなかで葛藤していたことがわかる。

後半には、関東大震災の場面があり、東北大震災と同じように、当時の家族を心配し、家まで歩いて行く様子が描かれている。物語の中で関東大震災に触れるのは初めてなので新鮮である。随分昔の話のように感じるが実際にはすでに電車が走っていたという事実に気付かされた。

全体的に、芸術家としての生き方の難しさを改めて感じさせられた。

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「エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する」グレッグ・マキューン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
努力をしないで成果を出す方法を語る。

序盤で、むやみに努力することの危険性を語り、その後、楽して成果を出すための考え方を順を追って意説明している。ポイントは、

  • 楽しく進めること
  • 十分な休息をとること
  • まず始めること
  • 失敗を積み重ねること
  • ゆっくり進めること
  • 大事なものにフォーカスすること
  • シンプルにすること

である。どれも言われてみれば当たり前なことばかりだが、例を交えて説明しているから面白い。

多大な犠牲を払って成功した人々と同じくらい、簡単に成功した人々もいる。ただ、苦労の少ない成功は、物語になりづらいだけなのだ。

努力をするのは悪いことではないが、努力したとしても報われるとは限らない。努力を盲信している人にとっては良いきっかけになるのではないだろうか。

僕自身は楽しいことじゃないと身につかない、という考えで、著者の考え方に近いが、それでも改めてその考えに触れると、自分の考えの純度が上がる気がする。

昨今リモートワーク化が進んでいるが、一方でコロナ禍が収束してオフィスワークに戻して行っている企業もある。しかし、本書を読んで改めて、電車のなかで毎日2,3時間を過ごすオフィスワークスタイルは無駄な努力で決して戻るべきではないと感じた。

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「心淋し川」西條奈加

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第164回直木賞受賞作品。江戸の千駄木町の一角の心町(うらまち)と呼ばれた場所で生きる人々の5つの物語を描いている。

それぞれの人々が時代の流れの中で、好きな人と好きなことの2つの間で揺れ動く様子が見える。

過去は簡単に歴史の一部になってしまう。しかし、そんな歴史の一部の江戸という時代にも、歴史に残らない多くの人々が存在していて、現代の人々と同じように、人間関係や自らの存在意義や恋愛に悩みながら暮らしていたのだと気付かされる。

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「思わずクリックしたくなる バナーデザインのきほん」カトウヒカル

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
バナーデザインの考え方を様々なアイデアとともに例を交えて解説している。

バナーデザインを始めたばかりの人向けの内容ではあるが、デザイナー歴20年以上になる僕も、いくつか気づきを得ることができた。ぜひ今後デザインで迷った際に思い出したいと思ったことは

  • 意図にあった装飾やあしらいを使う
  • 縦書き
  • 車体
  • 作字

である。なかでも漢字を作字するアイデアは、日本のデザインで使える独自性を出すための有効な方法だと思った。

作者は基本的にPhotoshopでバナーを作っているようで、llustratorでバナーを使うことが多い自分とは、出来上がるバナーの傾向に違いがあることを改めて感じた。異なるツールも試してみたいと思った。

例として上がっているバナーに、デザイン的なツッコミが多々思いついたが、意図した説明をするために、良い例と悪い例を試行錯誤しながら作ってくれたことだろう。このように知識を分けてくれるデザイナーの方々には感謝しかない。

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「A Rule Against Murder」Louise Penny

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ArmandとReine-Marieの夫婦は結婚記念日を祝うためにホテルに滞在していた。しかし台風の晩に別の宿泊客のMorrow一家のJuliaが亡くなったことで、Armandは捜査を始める。

真相解明のために、ホテルのスタッフやMorrow一家の家族から話を聞いていく中で、Morrow一家の家族の闇が見えてくる。Morrow家は、かつてそのホテルに大きな寄附をし、すでに他界した父親の銅像のお披露目のために集まっていた。お互いへの思いを打ち明けていくなかでThomas,Julia,Peter,Mariannnaの4人の兄弟の親の愛への渇望が明らかになっていく。

そんなMorrow家のなかで再婚相手としてMorrow家の一員となりその家族の様子を一歩離れた位置から見ているFinneyの視点が面白い。

The only thing money really buys? Space. A bigger house, a bigger car, a larger hotel room. But it doesn't even buy comfort. No one complains more than the rich and entitled.
お金で買えるものはなんだとおもうかい?場所だ。大きな家、大きな車、大きなホテルの部屋。しかし、それでは快適さは得られない。お金持ちや地位のある人ほど不平を言うものだ。

また、Armandの父親の過去も明らかになる。「臆病者」と呼ばれた父親を持ったことで周囲の人間からは馬鹿にされたり、同情されたりするが、Armandの父親に対するの思いの告白から違ったの側面が見えてくる。それは自らの過ちを認めて行動を変えられる尊敬すべき人間の姿である。

父親になると、子供のまでで常に自信に満ちている人間でありたいという思いがあるのは事実である。しかし、その一方で、間違っていたらそれを認めて謝罪し、自らの行動正せる人間でありたい、と改めて感じた。

正直、主人公の刑事の滞在中のホテルで殺人事件が起きるという古臭い設定に、序盤でがっかりしかけたが、最終的には両親の愛情に飢えた子供たちと、子供を愛した親の悩みながら生きる姿を感じることができた。

「くもをさがす」西加奈子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コロナ禍で移住先のバンクーバーで乳がんが見つかり、その治療の様子を描く。

直木賞受賞作品の「サラバ!」が有名な著者が、エッセイとして自らの乳がんの治療の経緯と、バンクーバーの生活の様子を描く。

乳がんの診断から順を追って描いている。そのなかで、バンクーバー生活の中で著者が気づいた、日本との文化の違い、医療の違いなどが見えてくる。無責任なバンクーバーのスタッフたちに憤慨する一面があるかと思えば、そのほがらかなスタッフたちに勇気をもらう場面もあり、日本とバンクーバーを比較してどちらが良い悪いと単純に言えないことを改めて感じさせられる。

また、乳がんという女性特有の病気を患った人間の視点や生活も伝わってくる。抗がん剤治療や放射線治療のつらさのなかで、多くの友人たちに恵まれて乗り越えている様子が感じられる。

両胸があったところに、2本の赤い線が引かれていた。真っ直ぐ、定規で引いたような線だった。…本当に綺麗な傷跡だった。
書くことを、身体がどうしても拒むほどのいにくい瞬間があったし、書くことを、やはり身体がどうしても許してくれない美しい瞬間もあった。

病気に悩んでいる人が勇気をもらえる内容である。

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「言葉にできるは武器になる。」梅田悟司

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
電通のコピーライターである著者が、伝わる言葉の生み出し方を語る。

序盤は、内なる言葉の重要性を語っている。考えることを内なる言葉を発することとしていて、考えてなければ、伝わる言葉は生み出せないというのである。そして「伝わる」にも4つの段階があるとしている。

  • 不理解・誤解
  • 理解
  • 納得
  • 共感・共鳴

中盤からは、考えを深める手法を紹介している。書き出して考えを整理する方法やグルーピングなど一般的に広く知られている手法もあったが、中でも印象的だったのは、「T字型思考法」「真逆を考える」である。

T字型思考法とは「なぜ?」「それで?」「本当に?」を繰り返す手法で、覚えやすく、考えの解像度を上げるために有効だと感じた。

また、真逆を考えるでも真逆にも複数あるという考え方がが新鮮である。

  • 否定としての真逆
  • 意味としての真逆
  • 人称としての真逆

そのほかにも、言葉にプロセスとして5つの方法を紹介している。

  • たとえる(比喩・擬人)
  • 繰り返す(反復)
  • ギャップをつくる(対句)
  • 言いきる(断定)
  • 感じる言葉を使う(呼びかけ)(誇張・擬態)

最後は、より良い言葉を生み出すために著者が心掛けていることを説明している。

  • たった一人に伝わればいい
  • 常套句を排除する
  • 一文字でも減らす
  • きとんと書いて口にする
  • 動詞にこだわる
  • 新しい文脈をつくる
  • 似て非なる言葉を区別する

改めて自分が使っている言葉についてしっかりと考えてみたいと思った。

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