「ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家」ムハマド・ユヌス/アラン・ジョリ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グラミン銀行の創始者ムハマド・ユヌスの自伝。バングラディシュという国の成り立ちやその貧しさ。そしてそこ育ったムハマド・ユヌスの成長の過程などとともに、グラミン銀行を語る。序盤は著者自身の家庭環境や成長の過程で起こった印象的な出来事などとともに、バングラディシュの悲惨な状況について触れている。そもそも今の僕らの世代の一体どれほどの人が東パキスタンという国の名前を知っているのだろうか。その独立の過程を知るにつれて、まだまだ知らなければならないことが多い事に気づかされる。

そしてそんな不安定な国の状況のせいで、人々は教育の機会に恵まれないため貧困から脱出することができない。また宗教的理由もその貧困をなくすことの弊害となっており、そんななかで育ったユヌスはやがてそれを解決する1つの方法にたどりつくのである。

そんな中、本書のなかで印象的だったのは、技術はすでに持っているのだから教える必要がない、という考え方である。確かに本書で書かれているように、世の中では貧しい人を助けるために、職業訓練などで技術や知識を与える傾向があるだろう。しかし、ユヌスの考え方は、誰もがその人生のなかで人に役立てる技術や知識を手に入れているはずで、必要なのはそれを実現する資金だというものなのだ。また、貧困の解決方法として職業訓練という手法が世にはびこる理由として、訓練ならその後に何が起こっても教える側に被るデメリットはなく、教える側は教えて終わりにすることができる、としている。

イスラム教を信じる人たちの間で、女性にお金を持たせて仕事をさせることの難しさが伝わってくる。またそんな幾多もの問題を乗り越えながら貧困をなくそうと努める著者の姿を知るにつれ、日本や先進国で同じ事ができないわけがないと思えてくる。

あまり文章に強弱がないため、読み進めるのは若干大変かもしれないが、世の中にはびこる貧困の問題点や貧困への向き合い方や信念を持って仕事や人生を送ることのすばらしさを感じる。
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