「淳子のてっぺん」唯川恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

子供の頃山登りが好きだった少女淳子(じゅんこ)が、やがて大学生、社会人となって思うようにいかない人生に嫌気がさしていたとき、ふたたび山登りに心身ともに救われる。それからというもの登山が生きがいになり、少しずつ登る山も高くなっていく。そんな淳子の挑戦を描く。

どうやら本書の主人公である淳子は、実在する人物田部井淳子をモデルにしているらしい。唯川恵というと、どちらかというと女性向けの恋愛小説というイメージがあったが、今回はそんなイメージを覆すような、実話に基づいた女性のすばらしい生き方をを描いている。

社会人になったあとの淳子は、それまで男性ばかりだった登山という文化の中で、女性だけの登山隊の実現をしようとして、女性だけの登山隊を組んでアンナプルナやエベレストといった世界最高峰へと挑戦していくのである。今更ではあるが、そもそもエベレストのような高い山にどのように挑戦するかを本書を読むまで知らなかった。ただ一直線に頂上を目指して登るのではなく、集団で、途中となんども行き来して荷物や食料をはこびながら少しずつキャンプの位置を上げていくのである。そして、最後の頂上アタックは、そのとき体調のいい人だけが決行する。という流れをとるのである。

海外に行くだけで膨大な費用が必要だった1970年代ゆえに、現地までいきながら頂上へ挑戦できなかった女性たちの憤慨は理解できるし、女性ゆえにその感情を表に出さないわけにはいかず、その結果、集団としては頭頂という目的を達成しながらも、やるせない気持ちで帰国せざるを得ないことは、本書を読まなければわからなかっただろう。

ただ単に、山登りの良い面だけでなく、人間同士の葛藤なども読み取れるのがいいところだろう。決して、命をかけて登山をしたいとは思わないが、エベレストやアンナプルナ、アイガー、マッターホルンといった有名な山々についてもっと知りたくなった。

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「刹那に似てせつなく」唯川恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人を殺して警察に追われる身となった並木響子(なみききょうこ)42才と、暴力団に追われる道田(みちだ)ユミ19才の二人は偶然の出会いから一緒に逃亡をすることになった。とそんな唯川恵らしくないストーリーが展開していく。
非日常的な2人の行動が普段の生活では感じない多くのことを考えさせてくれる。特に、ユミのひねくれながらも本質を見極めた物事の感じ方が印象的である。

言っておくけど、この国のやつらはみんな貧乏だよ。モノがいっぱいあるってことは何もないことと同じなの。シャネルもグッチもプラダもあるのに、そこら辺で売っている安物の財布を持てる?

また、登場人物の一人である弁護士の皆川久美子(みながわくみこ)が響子(きょうこ)に向けて言う言葉も心に残る

このまま引き下がってはますますそういう男をのさばらすばかりです。弁護士らしくない発言だと言われてしまいそうですが、判決だけが目的ではない戦いがあってもいいのではないかと思っています。

最後の「解説」のページで書評家が、「この本は『買い』だ」と書いている。激しく同意する。特に古本屋で250円で買った僕にとっては。250円では十分すぎるくらい僕の心に変化を与えてくれた。


蛇頭(じゃとう)
中国から日本や米国等の外国への密入国をビジネスとして行う密航請負組織のこと。欧米では「スネークヘッド」と呼ばれる。
じゃぱゆきさん
歌手・ダンサー等の資格を持って日本に入国し、実際にはクラブ・パブ等でホステスとして働いた(働かされた)経験を持つフィリピーナのこと
からゆきさん
明治、大正、昭和のはじめに貧しさのために東南アジアの娼館に売られていった女性たちのこと

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「肩ごしの恋人」唯川恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第126回直木賞受賞作品。
欲しい者は欲しい、人の男を奪う事をなんとも思わないるり子。そして、仕事も恋も常にブレーキがかかって、理屈抜きでは楽しめないクールな萌。この二人は親友でありながら性格は正反対。そんな二人の仕事や恋や友情がこの物語の中では展開していく。
僕自身はどちらかと言えば萌に似ている。極端な言い方をすれば誰も信用しないし、すべて自分で解決するという生き方である。それでも、自分が幸せになるためには同性に嫌われようが構わないというるり子の生き方も少し爽快に感じる。僕自身はそんな女性を今まで軽蔑していたが、ある意味、もっとも自分に素直な生き方なのかもしれない。そう思わせてくれた。
きっと萌のような生き方をしている人はるり子のような生き方に、るり子のような生き方をしている人は萌のような生き方に、多少なりとも憧れているのだろう。
るり子の言ったこんなセリフが印象的である

「不幸になることを考えるのは現実で、幸せになることを考えるのは幻想なの?」

確かに一般的にはそうかもしれない。そう考えると、みんなの言う「現実」ってなんなんだろう。
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