オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第162回直木三十五賞受賞作品。樺太で生きるアイヌの人々と、その生活に魅了されたポーランド人を描く。
1800年代後半から日本やロシアなどの大国が戦争へと突き進む中、樺太で生きるアイヌの人々を描く。特に、アイヌの男性ヤヨマネクフとブロニスワフ・ピウスツキという、リトアニア生まれのロシア人を中心に物語が進む。 ヤヨマネクフは日本とロシアの領土問題で所属する国が変わる中、アイヌの文化や存在価値を認めてもらおうと苦悩する中で、ロシアや日本を行き来する。一方ブロニスワフは、リトアニアという地域に生まれ、自らの祖国をロシアという大国に取り込まれ、母国語を強制的に奪われたことで、まさに同じような境遇に向き合っているアイヌの人々に惹かれていくのである。
アイヌを題材に扱った作品だと、漫画の「ゴールデンカムイ」が最近では有名である。「ゴールデンカムイ」はどちらかというと、物語のなかの登場人物として、アイヌの優れた文化などを紹介しているが、本書はむしろ日本とロシアの領土問題に翻弄され、文明化が進む世界のなかでアイヌの文化をどのように存続させていくかの苦悩を中心に描かれている。
知識としてアイヌという民族の存在は知っていたが、北海道に住む民族という印象しかこれまで持ってなかった。もちろんロシアと日本という領土の問題と絡めてその存在を考えてみたことがなかったので、本書では初めてそのつらい歴史に目を向けさせてもらった、また、熊送りや女性が口に施す刺青など、これまで知らなかったアイヌの文化を知ることができた。
狩猟最終民族としてのアイヌの文化を維持することはつまり、文明化の流れにのらないこと、それは世界から孤立、民族の衰退である。そんな文化の維持と民族の存続という両立ならぬアイヌの葛藤が物語から感じられるのである。
しかし、その一方でこんなことも感じた。交通手段や情報の障壁が少しずつなか、人類の歴史において消えてった民族や言語、文化は数知れず、それに抵抗して自分たちの民族を残そうとすることはそこまで重要なのだろうか。もちろん今日明日、急に日本がなくなる、日本語を話すのは禁止と言われれば大きな抵抗はあるだろうが、100年200年単位で民族や文化が消滅したり他の民族と混ざり合ったりして個性が失われていくのは、人類の発展の中で避けられないことなのではないだろうか。
アイヌの歴史や苦悩だけでなく、文化や民族のありかたに目を向けさせてくれた。日本からロシアまで壮大なスケールと詳細に調べたであろう歴史を見事に融合したすばらしい物語。
【楽天ブックス】「熱源」