オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第二グリーンハイツで殺人事件が起きた。物語はその事件に関連する出来事を、5人の男女がそれぞれの視点からワープロで綴る。
井上夢人が新たなミステリーの手法に挑戦した物語といった印象を受ける。ミステリーを読み慣れている読者は恐らく半分も読まずに、物語を包み込んでいる謎の正体に気付くことだろう。そして、ありふれたその題材に対して、作者がどうやってこの物語を終わらせるか、というところに興味を抱くのかもしれない。
ある程度実績を積んだ作家にしばしば見られる実験的手法の物語。同様に実験的手法を用いた物語で思い浮かぶものといえば、恩田陸の「三月は深き紅の淵を」、桐野夏生の「グロテスク」、宮部みゆきの「長い長い殺人」などがあるが、未だその特異な手法で物語を何倍も面白くした作品に出会ったことはない。
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カテゴリー: いのうえゆめひと
「オルファクトグラム」井上夢人
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
主人公の稔(みのる)は姉の家を訪問した際に姉の知佳子(ちかこ)は殺され、稔(みのる)に頭をバットで殴られ、1ヶ月の意識不明の状態に陥った。奇跡的に意識を取り戻すと、常人の数億倍の嗅覚を身に付けていた。稔(みのる)はその嗅覚を利用して知佳子を殺した犯人を見つけようとする。
犯人探しというよくある物語の中に嗅覚という不思議な題材を絡めてあり、そのことで人間の五感について考えさせてくる。
人は視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感を備えながら、人の世界の大部分は視覚によって構成されている。例えば、嗅覚を失っても人は日常生活を普通にすることができるが、視覚を失ったとたんに1人では生活できなくなる。人の五感の利用率の中は、視覚だけで8割を占めているのである。僕ら人間にとってはそれが当然でも、生き物全体から見ればここまで視覚を重視している生き物は特殊である。例えば犬などはモノクロの視覚しか備えていないにもかかわらず人間の何倍もの嗅覚を備えているためそれを補うことができる。犬の五感の利用率は嗅覚が4割、聴覚3割、視覚2割と言われている。そのことで、犬は飼い主の機嫌の良し悪しも匂いから判断することができるのだ。また蟻などの昆虫も匂いを有効なコミュニケーションの手段として利用している。僕ら人間は視覚という一つの能力を重視して嗅覚を放棄してきたた。それによって不便なこともあるはずだ。例えば相手の気分など、嗅覚を利用すればわかりやすいことに対して、視覚しか手段のない人間は相手の顔の表情から読み取るという非常に非効率的な方法をとるのである。
最初はその奇抜な発想だけに頼った物語のような感じがしたが、読み進めて行くウチにそのテーマに引き込まれていった。
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