「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」ランス・アームストロング

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカ人の自転車選手ランス・アームストロングの半生。自転車選手として頭角を現す過程と、睾丸癌により死の淵に立たされてから再び復活するまでを描く。
「マイヨ・ジョーヌ」とは、世界最高峰自転車レース、ツールドフランスでトップの選手が着ることを義務づけられたウェアのこと。とはいえ本書は自転車選手の生涯というよりも、著者自身が強調しているように癌という病気から復活した一人の人間の物語と言う側面が強い。
本書のなかでは病気に限らず、自転車レースがメジャーではないアメリカという国で育った故に、ランスが直面することになった困難が描かれている。その困難を克服する彼の信念は培ったのは、その周囲の人々によるところが大きい。特に、ランスの母が彼に接する様子は非常に印象的である。女手一つで息子を育てながら、常にランスの考えを支持し、決して彼のやることを否定せず、常に挑戦することを求め続けたのである。

母はただ、誠実に努力すれば物事は変わり、愛は救いをもたらす、ということを知っていただけだ。「障害をチャンスに変えなさい。マイナスをプラスにするのよ」と言うとき、母はいつも自分のことを言っていたのだ。僕を産むという決心をしたこと、そして僕を育てたそのことを。

そして、睾丸癌の告知。生死の縁に立たされたことのある多くの人同様、それまでやや傲慢だったランスの考えが次第にではあるが大きく変わっていくのがわかる。

恐怖とはどういうものか、僕は知っていると思っていた。自分が癌だと聞かされる前は。本物の恐怖、それはまぎれもない、まるで体中の血が逆流するような感覚とともにやってきた。
どうして自分が?どうして他の人ではなく自分が?でも僕は、化学療法センターで僕の隣に座っている人より、価値があるわけでもなんでもないのだ。

そして終盤は妻、キークとの出会いと、失意の日々から抜け出してツールドフランスで優勝するまでが描かれている。キークもランスの母と同様、非常に洗練されて思慮深い女性として描かれていて、母とキークだけでなく、ランスが多くの理解者にめぐまれていたということが全体を通じての印象である。
著者ランス自身が、その闘病生活を振り返って、「それまで言われた言葉のなかでもっともすばらしい言葉」として看護婦がランスに言った言葉がある。

いつかここでのことは、あなたの想像の産物だったと思える日が来るように祈っているわ。もう私は、あなたの残りの人生には存在しないの。ここを去ったら、二度とあなたに会うことはないよう願っているわ。そして、こう思ってほしいのよ。『インディアナの看護婦って誰だっけ?あれは夢の中だったのかな』

「明日死ぬとしたら」という問いは、生きている時間の大切さを考える上でよく投げかけられるものではあるが、なかなかそういう風に生きられるものではない。人は怠けるし、現状に甘んじてやるべきことを、いつでもできること、と思ってしまう。本書で描かれているランスの人生はまさに、そんな怠けた心に活を入れてくる。僕はやるべきことをやっているか。やりたいことをやっているか、と。たまたま自転車レースについて調べて本書を知ったが、読み終えて思うのは、本書はもっと多くの人に知られて、もっと多くの人に読まれるべき価値のある本だということ。
【楽天ブックス】「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」

「フェルマーの最終定理」サイモン・シン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
17世紀に数学者フェルマーが残した定理。その余白には「証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」とあった。以後、3世紀に渡って世界の数学の天才たちの挑戦を退けてきたこの定理がついに1994年アンドリュー・ワイルズによって証明されることとなった。
数学が好きな人間なら誰でも聞いたことがあるだろう。「フェルマーの最終定理」をここまで有名にしているその理由の一つがそのわかりやすさである。数学の素人でさえもその定理が言っていることの意味はわかるゆえに誰もが証明したくなるのだが、それを証明することも判例をみつけることもできない。
本書は数学における「証明」というものの意味、そして数学者の性質から非常にわかりやすく、そして面白く説明している。タイトルを聞いただけで数学嫌いな人は敬遠してしまうのかもしれないが、本書は本当にすべてをやさしく書いている。
さて、そして物語は徐々にそのフェルマーの最終定理の核心へと繋がっていく。驚いたのは、その証明にあたって、日本人の数学者志村五郎(しむらごろう)と谷山豊(たにやまゆたか)によって考え出された谷山=志村予想が大きな鍵となったことである。
過去、多くの人がその証明に挑戦し敗れるなかで編み出されたいくつもの数学的証明手法をいくつも見ることで、フェルマーの最終定理は決してただ一人の数学者によって証明されたわけではなく、アンドリュー・ワイルズを含む多くの数学者による努力の積み重ねによって成し遂げられたとわかるだろう。
そんな数学者たちの300年の汗と涙がしっかり感じられるから、アンドリュー・ワイルズの証明の瞬間には鳥肌が立ってしまった。

そろそろお茶の時間だったので、私は下に降りていきました。私は彼女に言いました——フェルマーの最終定理を解いたよ、と

現代に生きる人は思ったことがあるだろう。科学が発展し地上のすべてがすでに切り開かれ、未知なる物など地球上にはなく、なんて退屈な世の中なのだろう…と。しかし、本書は見せてくれる。数学の世界にはまだまだ未知なる世界があふれている、と。
わからない言葉もいくつかあったが、数学という世界の魅力を存分に伝える一冊である。
【楽天ブックス】「フェルマーの最終定理」

「エッジ」鈴木光司

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
長野、新潟、カリフォルニア。各地で発生している失踪事件。父親が失踪するという経験のある栗山冴子(くりやまさえこ)は失踪事件を扱うテレビ番組のメンバーに加わることになる。
ついさっきまで存在していたかのような痕跡を残して人が失踪する。本作品でも触れられているマリーセレスト号の話は非常に有名であるが、本作品がすごいのは、やはりプロローグである数ページで作り出す、失踪のその空気感である。鈴木光司のその巧みな描写技術はおそらく「リング」で多くの読者が経験したのだろうが、本作品でもそれは健在。これが明らかにSF的内容である本作品まで「ホラー」というカテゴリーに含まれてしまう理由だろう。
さて、失踪事件というと、多くの人は超自然的な話を想像するのかもしれないが、実際にはむしろ非常に科学的な話である。本作品で世の中が狂い始めている…と科学者たちに思わせた最初の出来事は、無理数であるはずの円周率πがある桁以降で0になってしまう、というもの。磁場やフォッサマグナなど、失踪という荒唐無稽でありえない話が、科学的なことや、未解決な歴史的事実と絡めて説明されるうちにどこか真実味を帯びて聞こえる点が面白い。

紀元前三千年から二千年に作られたエジプトや南米のピラミッドには既に円周率が使われている。しかし、歴史上円周率の発見は、それよりずっと後の時代とされている。

そして、冴子(さえこ)と番組のメンバーたちは、真実に近づくどころか、真実の法が人々の目の前に次第に姿を現していく。リーマン予想、反物質、インカ帝国、あるはずのない南極大陸の地図、など好奇心を刺激する要素の数々。きっとこれからも鈴木光司(すずきこうじ)の作品は迷わず手に取ることになるだろう。そう思わせる内容である。

オーパーツ
それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる物品を指す。(Wikipedia「オーパーツ」
歳差運動
自転している物体の回転軸が、円をえがくように振れる現象である。歳差運動の別称として首振り運動、みそすり運動、すりこぎ運動の表現が用いられる場合がある。(Wikipedia「歳差」
リーマン予想
ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンによって提唱された、ゼータ関数の零点の分布に関する予想である。数学上の未解決問題のひとつであり、クレイ数学研究所はミレニアム懸賞問題の一つとしてリーマン予想の解決者に対して100万ドルの懸賞金を支払うことを約束している。(Wikipedia「リーマン予想」
ピーリー・レイースの地図
オスマン帝国の海軍軍人ピーリー・レイースが作成した現存する2つの世界地図のうち、1513年に描かれた地図のことを指す。この地図は、クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を「発見」し、アメリゴ・ヴェスプッチが南アメリカを調査してから間もない時期に描かれているにもかかわらず、アメリカ大陸を非常に詳細に描いており、コロンブスやヴェスプッチの原図が失われた現在では、アメリカ大陸を描いた史上最古の地図といわれる。(Wikipedia「ピーリー・レイースの地図」
フォッサマグナ
日本の主要な地溝帯の一つで、地質学においては東北日本と西南日本の境目とされる地帯。中央地溝帯とも呼ばれる。(Wikipedia「フォッサマグナ」

【楽天ブックス】「エッジ(上)」「エッジ(下)」

「No Time for Goodbye」Linwood Barclay

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ある朝、14歳の少女Cynthiaが目覚めると父も母も兄もいなくなっていた。それから25年後、結婚して娘と3人で暮らすCynthiaはいまだに25年前の夜の出来事を忘れられずにいた。
物語は家族の失踪から25年後、Cynthiaの夫のTerry目線で進む。過去の経験から娘のGraceから目が離せないCyinthia。それに対して、過去を忘れて前へ進むべきだと主張するTerry。前半は、そんなぎくしゃくした家族のやり取りで展開する。
印象的なのは25年間、失踪した家族の理由を考え続けて、何度も「自分のせいかも?」と自分を責め続けたCynthiaの心のうちだろう。
家族の失踪に対して物語的に説明をつけようとすればいくらでも説明のつく出来事を考えることはできる。それゆえに期待はずれな結末を覚悟したりもしたのだが、結末に待っていた真実は予想以上に深く泣ける家族の物語だった。
おそらく今年もっとも泣かされた物語。

その後の数時間に起こったことによって、そのメモはただのメモではなく、母親が娘に遺した最後のメモになってしまった。

「Fire Starter」Stephen king

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
実験的投薬によって不思議な力を身につけたAndyとVicky、しかし2人の娘Charlieはさらに強力な力を持つこととなる。それは念じるだけで火をおこすことのできるパイロキネシスだった。AndyとCharlieはその力のために組織Shopから追われることとなる
宮部みゆきのクロスファイアのもととなった物語と聞いて非常に興味を持って手に取った。物語の鍵となるのパイロキネシスという能力を持ちながらもその力をコントロールしきれないゆえに自らの力におびえる7歳の少女Charlieと、その父親で人の心を操作する能力を持つAndyである。
2人はその逃避行のなかでたびたびその力を使わざるを得ない状況に陥るのだが、使い過ぎることによって自らの体力や命さえも脅かすのである。個人的にはCharlieの力が無意識に出てしまうシーンなどが印象的だ。たとえば、泣きわめくCharlieの横で、温度計の目盛りがじわじわ上がっていくのを見て、なんとかCharlieに平静さを取り戻させようと努めるAndyのシーンや、階段を降りようとしてテディベアのぬいぐるみにつまずいた次の瞬間にぬいぐるみが燃え上がるシーンなどがそれである。
さて、超能力者を中心にすえた物語は多々あるが、終わりはだいたいその人が死ぬか能力を失うか、である。Stephen Kingがこの物語をどうやって終わらすか、という点も途中から僕の興味をそそる部分だったのだが、その点も及第点をあげられるだろう。幼い女の子Charlieがその年齢に似合わないたび重なる試練を乗り越えて成長していく物語としてその心の揺れ動くさままでしっかりと描かれている。
ややスピード感に欠けると感じる部分もあるが非常に満足できる内容である。

「アリアドネの弾丸」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
不定愁訴外来の田口公平(たぐちこうへい)は新たに設置されるエーアイセンターのセンター長を任される。しかし、不審な事件が起こり始める。
エーアイとは、「Autopsy imagin」のっ略で死亡時画像診断とも言われており、著者海堂尊(かいどうたける)はデビュー作の「チームバチスタの栄光」からその利便性を訴えている。そして同時に、その利便性にもかかわらずその使用が広まらないのが、解剖という行為が司法と医療という境界上に位置するためその利権争いによってであるとも、繰り返し著書のなかで触れられている。
さて、本書も当然そのような話が多く触れられているが、ミステリーとしてもなかなか傑作に仕上がっている。なんといっても、エーアイセンターが発足するにあたって田口公平(たぐちこうへい)は「チームバチスタの栄光で」活躍した白鳥圭輔(しらとりけいすけ)と「イノセントゲリラの祝祭」で強烈な印象を残した彦根新吾(ひこねしんご)をオブザーバーおよび副センター長に据えるから、このシリーズを読み続けている人にとっては興奮させる展開である。2人のロジカルモンスターが競演するのである。
そして物語は、コロンブスエッグと呼ばれる縦型MRIの周辺で起きた殺人事件の真相解明へと移っていく。強烈な磁場を形成するMRIゆえにその周囲での金属の取り扱いに注意しなければならない、読者はすぐにそれが何らかのトリックに使われるだろうことは気づくだろう。それをどう物語に仕上げ、それをどう解決するか、それが本作品の鍵であるが、個人的には十分及第点をあげられる内容といえる。

もしも医療主導でエーアイセンターが完成したら、エーアイが第三者として司法解剖を監査できる。警察は捜査現場の問題を、司法解剖の闇に紛れ込ませ誤魔化してきた。それが全部明るみに出れば、法医学者はもちろん、警察にとっても死活問題だ。

エーアイという題材を用いてミステリーを描き、訴えたい内容をしっかりと読者に伝えるそのバランスがすごい。
【楽天ブックス】「アリアドネの弾丸」

「ギフト」日明恩

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
レンタルビデオ店によく訪れた少年は死者を見ることができる。過去の出来事を引きずって立ち直れない元刑事須賀原(すがわら)は少年と一緒に死者の言葉を聞こうとする。
死者が見える、という比較的使い古された設定ではあるが、著者もそこは十分に理解しているのだろう。最初に少年が登場するシーンで、少年は「シックス・センス」のDVDのパッケージを見て涙を流している、というように、その考え自体決してオリジナルではないということは、過去の幽霊が登場する映画の名前を作品中に多く出すことによって早々に主張している。そういうわけで、ではその題材をどうやってオリジナルの物語として紡ぎあげるか、という視点で楽しむことになった。
著者、日明恩はこれまでにも「鎮火報」や「そして警官は奔る」など、登場人物の深い心情描写で非常に印象に残っているのだが、消防士や警察官など、基本的には現実的な物語だった。そういう意味で死者が見える超能力者というのは非常に新しいのだが、物語中では死者も生者同様のふるまいしかしないため、人と人の物語として安心して読み進められるだろう。
さて、須賀原(すがわら)と少年はその少年の能力によって、数人の死者と話をすることになる。交差点の事故で亡くなった年配の女性。幼くして池に落ちた幼い女の子。虐待されても人と一緒にいることを好む犬。死者も生きている人も含めて、自分のことよりも、家族や兄弟のことを必死に思いやっているのが印象的である。
そして最終的に、須賀原(すがわら)は、未だ忘れられない過去の出来事と向き合うこととなる。それはつまり須賀原(すがわら)が職務質問をしたためにあわてて交差点へ飛び出して事故死した少年、その霊と会話することである。何故そんな行為に及んだのか、何故そんなにあわてて逃げる必要があったのか。そんな疑問が明らかになるにつれて、人間の持つ複雑かつやさしい気持ちに触れることができるのではないだろうか。
本作品が示す、死者と言葉を交わすことで次第に解けていく誤解は、つまり、もっと会話を交わすことができれば、多くの死者を救うことができたということを暗示しているのだろう。
人と人との「思いやり」の物語。死者の言葉を通じでそれが感じられる。未だ実力に注目度が追いついていないと思える日明恩のお勧めできる本の一つ。ちなみに、テーマとしては高野和明の「幽霊人命救助隊」なども非常に近い気がする。本作品が気に入った方はぜひそちらも手にとってほしいところ。
【楽天ブックス】「ギフト」

「エデン」近藤史恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
白石誓(しらいしちかう)はフランスのロードレースチームに所属している。ツール・ド。フランスで出会ったのは、敵チームに所属していて、めきめきと頭角を現してきたニコラとその幼馴染であるドニだった。
「サクリファイス」の続編である。前作は日本でのロードレースを扱っていたたが本作品はその3年後の物語。全作品と同様ロードレースという日本ではとても注目度が高いとはいえないプロスポーツの世界ゆえに、その世界に身を置く選手たちやその環境などどれも新しいことばかりで非常に面白い。
誓(ちかう)は、チームのエースであるフィンランド人のミッコをアシストすることを自らの役割としてレースを戦うが、すでにチームの解散が現実味を帯びている状態ゆえに、チーム内の選手間や監督との間に不和が広がる。
そしてレース全体を覆うのはドーピング問題。それはもはやドーピングをした選手がいるチームの問題だけに限らず、ドーピングの事実が発覚することはロードレースの人気の低下、そしてスポンサー離れにつながるゆえに、選手たち全員に影響を与える問題。さまざまな要素を物語に織り込みながら誓(ちかう)はレースを戦っていく。
そして全作品にも劣らないラスト。すでに出版されている続編「サヴァイブ」も近いうちに読みたいと思わせる十分な内容である。

最初は罪のない、誰も傷つけない嘘のはずだった。
マイヨ・ジョーヌ
自転車ロードレース・ツール・ド・フランスにおいて、個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージである。各ステージの所要時間を加算し、合計所要時間が最も少なかった選手がマイヨ・ジョーヌ着用の権利を得る。(Wikipedia「マイヨ・ジョーヌ」

【楽天ブックス】「エデン」

「“痛みなく”“疲れなく”気持ちよく完走できるランニングLesson」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「”痛みなく””疲れなく”気持ちよく完走できるランニングLesson」
マラソンについて初歩的な内容から順々に解説している。ランニングをすることのメリット、ランニングを始めるための体作り。フルマラソン、ハーフマラソンのためのトレーニング、体のケアの方法などである。

昨今のマラソンブームのなか、マラソンを始めた人は多いのだろう。しかし「マラソン」と聞くと、だれもが学生時代の授業で経験があるせいか、大した知識を必要とせずにひたすら走れば肺活量の向上によって上達するもの、と思うかもしれない。

しかし、実際にはそのままではモチベーションを保てたとしても度重なる怪我や、向上しないタイムと向き合うことになるのである。
本書は単にトレーニングの方法だけでなく、現代に合わせた、たとえばネットを利用した仲間との交流によるモチベーション維持など、総合的に役立つ情報をコンパクトにまとめている。初心者ランナーには一読の価値ありといえるだろう。
【楽天ブックス】「“痛みなく”“疲れなく”気持ちよく完走できるランニングLesson」

「The Broken Window」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Rhymeのもとへ長い間連絡を取っていなかった叔母から電話があった。従弟のArthurが殺人の罪で逮捕されたと言う。しかし、Arthurは人を殺せるような人間ではない、調べていくうちに、無実の人間を容疑者に仕立て上げ、自分はのうのうと生きている人間がいることがわかる。
犯罪学者Lincoln Rhymeシリーズの第8弾。今回の相手は「すべてを知る男」。情報化された個人情報を利用し他人になりすまし、その人間の前科、習慣、趣味、商品の購入履歴などを基に、もっとも犯人にしやすい人間に狙いを定めて、その家や車に犯罪の起きた場所とつながる証拠をおく。
捜査の過程で浮かんできたデータマイニングという業界。その業務は人々のすべての情報をたくわえ、整理しそれを企業に提供するというもの。むしろそれは近い未来への僕らの生活に対する警鐘のようだ。犯人によってクレジットカードを勝手に使用され、犯罪にりようされて生活を破壊された元医師の言葉など、ただフィクションという言葉で済ませられないものを感じる。

人々はコンピューターを信じるんだ。コンピューターが、あなたはお金を借りていると言えば、あなたは金を借りているということになるし。あなたは信用に値しないと言えば、たとえ億万長者だろうが、信用されない。人はデータを信じて、事実なんて気にしないのさ。

それでもいつものように次第に犯人を追い詰めていく。
さて、今回もAmelia Sachsはもちろん、ルーキーから少しずつRhymeに鍛えられて成長しているRon Pulaskiも非常にいい味を出している。無実の罪で捕らえられたArthurがRhymeの従兄弟ということで、シリーズ内であまり語られなかったRhymeの学生時代に触れられている。個人的には犯人との対決よりも、その学生時代の物語により引き込まれた気がする。

「サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉」春山昇華

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2007年の夏、サブプライムローンを初めとする住宅ローンへの不安から起こった金融危機。本書は「サブプライム」という言葉でひとくくりにされている問題を、住宅バブル、略奪的貸付、金融技術、世界の余剰資金という複数の視点から見つめ解説する。
理系の僕は正直言って経済には疎く、なかなかこの手の内容が理解できない。本書を手に取ったのも数日前に読んだマイケル・ルイスの「世紀の空売り」の細かい金融商品の仕組みが理解できなかったからである。本書も8割も理解できれば上出来かな、と思っていたのだが、非常に読みやすくわかりやすい。著者があとがきで「学生にもわかるような解説書にするという難題」と書いているとおり、経済の知識が未熟な人にも十分に理解できるような内容になっている。
興味深かったのが、サブプライム問題を理解するためにはアメリカという国の背景を理解する必要があるという説明のなかで、日本や欧州は消費者が冷遇されているが、アメリカは消費者が優遇されているという点である。アメリカでは借金をして豊かな生活をする文化が日本よりもはるかに染み付いているゆえに、金融商品がさまざまなニーズにこたえる形で発達しているのである。それ以外にもアフガン戦争やカードローンなどをサブプライム問題をここまで深刻にした要素としてあげている。
また、本書ではサブプライム問題の解説とともに、今後の世界の姿を描いている。今までアメリカが輸入超過で貿易赤字を生むことで、世界の景気を支えていた、それゆえに今後は世界の景気を支えるためにはアメリカに変わる貿易赤字大国が必要、というのはひょっとしたら経済に詳しい人には常識なのかもしれないが、僕にとっては非常に新鮮だった。
今まで見えなかった世界の動きが少し見えるようになった気がする。

国際決済銀行
通貨価値および金融システムの安定を中央銀行が追求することを支援するために、そうした分野についての国際協力を推進し、また、中央銀行の銀行として機能することを目的としている組織。1930年に第一次世界大戦で敗戦したドイツの賠償金支払いを取り扱う機関として設立された。本部はスイスのバーゼル。(Wikipedia「国際決済銀行」

【楽天ブックス】「サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉」

「Beフラット」中村安希

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者が多くの政治家たちをインタビューし、その会話のなかで疑問に思ったことなどを素直につづる。
「インパラの朝」の旅行記の女性ならではの独特かつ素直な視点と、深く考えて生きている様子に好感を抱いて、本作品にも同様のものを期待して手にとったのだが、読み始めてすぐ実は旅行記ではないと気づき、読むのをやめようかとも思ったのだが、読み進めるうちに本作品も悪くないと思い始めた。
政治関連の本というとどうしても、漠然とした政策や理念の羅列になってしまって何一つ具体的なことが見えてこないのだが、本書ではそんな僕らが思っていることを著者が代弁してくれる。わからないことをはっきりと「わからない」と言ってくれる著者の姿勢が新鮮である。政治家の説明だけ聞くと正論に聞こえるけど、なんだかそれは正論過ぎて実現しそうにない、と言ってくれるところもなんだかほっとする。
そして、日本の状況をアメリカや北欧など、著者の海外での経験と照らし合わせて比較して見せてくれる。著者は別に「ああすべき」とか「こうすべき」と語っているわけではないが、「どうすればいいんだろう?」と読者が素直に考えてしまうような、少し敬遠したくなるような政治や政策を近くに運んできてくれるようなそんな一冊である。
政治や政策を熟知している人には別に薦められるような内容でもないが、イマイチ政治に関心がない、という人は読んでみるといいのではないだろうか。
【楽天ブックス】「Beフラット」

「現代アート、超入門!」藤田令伊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
西洋絵画の良さはわかるが現代アートは何がいいのかさっぱりわからない。という人は多いだろう。実際僕もそんななかの一人。一体現代アートはどうやって楽しめばいいのか?そんな人にまさにうってつけの一冊。
著者は元々は普通のサラリーマンだったという経歴ゆえに、普通の人の目線に立って解説を進めていくため、難しい話は一切ない。ピカソの「アヴィニヨンの娘たち」、デュシャンの「泉」、アンディ・ウォーホルの「ブリロボックス」など節目となった作品や、マグリットの「光の帝国」やマーク・ロスコの作品のように意味不明なものまで、その楽しみ方を非常にわかりやすく解説している。
すでに現代アートを楽しめている人にはほとんど意味のない内容だが、現代アートに興味を持ちつつも「さっぱりわからない」という人が一皮向けるのにはちょうどいい一冊。個人的に本書を読んで思ったのは、もはや現代アートにおいては「アート」=「美術」という等式は成り立たないということ。

史上初のキュビズム絵画とされ、アートの歴史に名を刻んだ「アヴィニョンの娘たち」は必ずしも「美しい」絵ではない。実際、ピカソ自身、美しく描こうとしたわけでもない。そして、「美」を求めない作家や作品は、現代アートにはゴロゴロしている。

個人的には現代アートとは、常に人々の既成概念を破壊しようとして進化しているように感じた。できるだけ現代アートの動向にもアンテナを張っておきたいと思う。

あれこれと思い巡らせた結果、「わかった!」という答えが得られなくてもかまわない。アート鑑賞は、必ずしも「わからあんければならないもの」ではないし、「わからないことがわかる」のも収穫となる場合がある。

複雑なことを考えずに現代アートを楽しもう、と思えるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「現代アート、超入門!」

「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」金哲彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リクルートランニングクラブで小出義雄監督とともにコーチとして活躍した著者が、フルマラソンの魅力やトレーニングの基礎知識、そして、タイプ別のトレーニングメニューを紹介している。

先日読んだ小出義雄監督の「マラソンは毎日走っても完走できない」とは異なって本書の著者はインターバルトレーニングを推奨していないなど、若干異なる部分もあって戸惑うが、全体的には非常に読みやすい。本書では基本的な項目の説明ののち、3つのタイプの人間に合ったトレーニングメニューをフルマラソンの100日前から掲載している。何から始めればいいかわからないようなマラソン初心者にとっても、非常に具体的でわかりやすい内容と言えるだろう。

個人的には、どのメニューも外での練習を基本としていてジムなどで行う場合などの代替練習などにも触れてほしいと感じたりもしたが、基本的には満足のいく内容である。むしろトレーニングメニューは永久保存版にしたいくらいである。
【楽天ブックス】「金哲彦のマラソン練習法がわかる本」

「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」マイケル・ルイス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
サブプライム・ローンにまつわる大変動を予期し、それをもとに財をなす準備をあらかじめ整えていた一握りの人物に焦点をあて、その過程と心の内を描く。
残念ながら、僕自身が本書で書かれていることをすべて理解ししたなどとは言えない。というのも、全体的に著者の別の作品「マネーボール」同様非常に読みやすい文体で書かれているが、聞き慣れない金融商品や専門用語など調べなければ分からないことや、調べてもわからないこともまた多く含まれているのだ。それでも、「勝ち組」の側にいた彼らが感じた金融という虚像に対するなんともやるせない空気が本書を読むことで伝わってくるのだ。
そしてまた、漠然とではあるが世界中がアメリカ発の住宅好況に酔っていた2000年代半ばにその裏で何が起こっていたかを理解することもできるだろう。メディアなどで語られるサブプライムローン問題は非常に簡潔で、あまりにもわかりやすいために逆に「なんでこんなわかりきったことが起こったのか?」とさえ思えてしまうが、実際に起こっていたのは、ひたすら複雑になった債権と、その複雑さについていけずに不当な格付けをする格付け機関。そして、それをなんの疑問も持たずに信じきっていたトレーダー達という構図なのである。言ってみれば、購入相手を見つけるためにわかり難く構成された債権のわかりにくさに世界が飲み込まれてしまったようなものである。
正直、最初の時点での僕の感想は、自らを賢いと思い込んでいるトレーダーたちさえも気づかなかったことに目をつけ、そんなエリート達を出し抜くなんてなんて爽快なことなのだろう、というものだっが、実際にスティーヴ・アイズマンやマイケル・バーリ達を襲ったのは「勝利の爽快感」などというものではなく、形も根拠もないものを信じ気って混乱へと突き進んだ世の中へ対する虚しさのようである。
しっかり理解するためにはまだまだ僕の知識は足りない。類する本をいくつも読む必要がありそうだ。

ABS(アセットバックトセキュリティ)(Asset Backed Security)
ABSとは、資産担保証券とも呼ばれ、対象資産としての債権や不動産を裏づけに、(SPCを通じて)証券を発行・売却することで、資産をオフバランス化し、それに伴い現金を得る資産流動化取引を行った際に発行される資産を担保とした証券のこと。(exBuzzwords用語解説「ABSとは」
ISDA
“International Swap and Derivatives Association”の略で、日本語では「国際スワップ・デリバティブ協会」のことをいう。ISDAは、OTCデリバティブの効率的かつ着実な発展を促進するため、1985年にアメリカ合衆国のニューヨークで設立されたデリバティブに関する世界的な組織(全世界的な業界団体)で、OTCデリバティブ市場の主要参加者(会員)により構成されている。(ISDAとは|金融経済用語集

【楽天ブックス】「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」

「ハーバードからの贈り物」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカのハーバード大学では最後の授業で、教授たちは、これから社会に巣立つ学生たちにむかって、未来への助言をかねた話をするのだそうだ。本書はそんなハーバード大学の教授たちが学生たちに語る話をまとめたものである。
自分にもし過去に戻ってやり直せるとしたなら、高校時代、どこの大学に進むか、ということをもう一度真剣に考えて進路を決めたい。Facebookのマークザッカーバーグの物語やGoogleの創立者の物語のなかで見える、アメリカの学校の雰囲気は僕にそう思わせる。
そんなアメリカの名門ハーバードの教授たちが話すというのだからなんとも興味をひかれる。そもそも僕の大学に時代はどうだったのだろう。そんなありがたい話はなかった。そもそもどれが最後の授業なのかさえ覚え得ていない。
さて、本書では集められた教授たちの話のいくつかは、教授自身の話であり、いくつかは教授の家族、友人の話である。どれもページ数にしてわずか数ページ。それでも間違いなくいくつかは心に残ると思う。 卒業してもう何年も経っているが読んでもまったく問題ない。個人的に印象に残っているのは、こんな話。
あなたは毎日の生活のなかでいろんな人と関わっている。なかには一日中顔を合わせている職場の同僚もいれば、ほとんど言葉を交わさないコンビニの店員もいる。あなたは、そんな関わり合いのなかで、その人は自分をどう認識するか?というもの。人と人とのかかわりあいのすべてが、その人に自分をポジティブに認識してもらうチャンスなのだという。
こうして改めて反芻するだけで涙が出てくる。そんなありがたい話が盛りだくさんの一冊。
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「マラソンは毎日走っても完走できない 「ゆっくり」「速く」「長く」で目指す42.195キロ」小出義雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高橋尚子をオリンピック金メダルに導いたことで有名な、小出義雄監督が、マラソン初心者がやりがちな間違えや、効果的に記録を伸ばすためのトレーニングを紹介する。

なんといっても本書の帯のコピー「マラソンの練習が分かっていないから30kmあたりで歩いてしまう人が多いんだよね」。この言葉にやられてしまった。実際僕が唯一挑戦したフルマラソンは26km付近で失速。その後は歩いてゴールするのがやっと。毎週のようにスカッシュやサッカーをやっていて体力に自信のある僕のよこを、おそらくマラソン以外のスポーツなど一切していないだろう年配の人たちが最後はどんどん抜いて行くのだ。恐らくマラソンに対する考えを間違えていたのだろう、と漠然と感じさせてくれる経験だった。

さて、本書のなかにはその答えに近いものが書かれている。一度もフルマラソンになど挑戦したことのない人が思い描く「マラソン」とは、せいぜい学生時代の校内マラソンの延長で、5キロかせいぜい10キロ程度なのだろう。そういう人は、肺活量を鍛えるためにひたすら走りがちだが、本書ではむしろ「足をつくる」ということを重視している。

肺活量はたしかに勝負のなかでは疎かにできなものなんだろうが、完走という目標をもっているひとにはたしかに優先度の低いものなのだろう。本書では、「足をつくる」ことを意識しつつ、その目標をハーフマラソン、フルマラソン、と、目標となるレース別にメニューを紹介している。

個人的には、そのトレーニングが、どの筋肉を鍛え、どういう状況で役に立つか、といった内容が書かれていなかったのが残念だが、それでも、読めばいやでもモチベーションがあがってくるに違いない。
【楽天ブックス】「マラソンは毎日走っても完走できない 「ゆっくり」「速く」「長く」で目指す42.195キロ」

「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流世界最強マネジメント」フェラン・ソリアーノ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マンチェスターユナイテッドやレアルマドリードにチームの強さの上でも収益の面でも大きく遅れをとったスペインの名門FCバルセロナ。2003年に最高責任者に就任した著者が、FCバルセロナが世界最強のチームになるまでの過程を論理的に説明していく。
本書はサッカーのチームをその題材として描いているが、内容はいろんなことに応用できるだろう。印象的だったのは第4章の「リーダーシップ」である。この章ではチームを4つのタイプに分類し、それぞれのタイプに応じて指導者が取るべきリーダーシップのタイプについて語っている。
たとえば、チームのタイプが「能力はあるが意欲に欠けるチーム」であれば指導者は「メンバーの意見を聞き決断を下す」役割を担うべきで、チームのタイプが「能力があり意欲にあふれたチーム」であるならば、「メンバーに任務を委任し、摩擦が起きそうなときだけ解決に向けて調整をする」役割となる。というようにである。
一体世の中のどれほどの「リーダー」が、自分のチームのタイプに応じて自らの振る舞いを変えているだろうか。「リーダーは変わる必要がある」ということを漠然と理解している人もいるだろうが、ここまではっきりと示してくれるのは非常に新鮮である。そして、本書ではリーダーのタイプと合わせて、実際にバルセロナで指揮をとった、ライカールトやグアルディオラの言動にも触れているのである。僕自身、過去転職を繰り返して多くの自己顕示欲旺盛な「リーダー」を見てきたが、本書はそんな彼らに突きつけて見せたい内容に溢れている。
さて、「リーダーシップ」の内容にだけ触れたが、それ以外にも興味深い内容ばかりだ。「チーム作り」や「戦略」「報酬のあり方」など、もちろんいずれもサッカーを基に話が進められているが、どれも現実に応用可能だろう。
全体的には、バルセロナの成績だけでなく、所属した選手や周囲のビッグクラブ、たとえば銀河系軍団のレアル・マドリードなどに触れているため、サッカーを知らない人間がどれほど内容を楽しめるかはやや疑問だが、個人的にはお薦めの一冊である。
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「The Drawing of the Three」Stephen King

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Dark Towerに向かってただひたすら浜辺を歩くガンマンの目の前にひとつのドアが現れる。そのドアを開けるとどうやらそれは誰か別の人間の目で別の世界を見ているようだ。
「The Dark Tower」シリーズの第2弾である。このシリーズを読む前の予備知識として第1弾の「The Gunslinger」は非常に退屈だが、本作品以降は面白くなる、と聞いていたのだが、正直第1弾の退屈さは予想を上回る程で、続きを読もうか躊躇するほどだった。しかし、本作品。ガンマンであるRolandの旅が今後も不毛な大地を舞台に続くのかと思いきや、突然現れたドアによって、突然現代と繋がって非常にスリルあふれる展開になる。
最初のドアから見つめる世界は、飛行機に乗って、これから麻薬の密輸をしようとしている男の視点、いはゆる僕らの言う「現代」であった。そしてすぐにRolandは自分はただドアを通してその視点から世界を見つめるだけでなく、その男自身の行動を操れることを知る。そしてその世界からこちらの砂漠に物を持ってくることができることも…。
そして、そのRolandに視点を奪われながら、密輸を企てる男EddieはRolandの力を借りて危機を乗り越えながら、やがてマフィアの争いに巻き込まれていく。かなり思い切った展開で、前作と本作の間に著者のなかの本シリーズに対する大きな変化が感じら違和感もあるが、面白くなったことは間違いない。
本作品中ではそのドアが鍵になるのだが全体で3つのドアが現れる。2つ目のドアから見えるのは車椅子の女性の視点。やがてRolandは「何故、この時代なのか?」「なぜこの人間なのか?」とそのドアが自らを導く意味について考えるようになる。Rolandの過去はいまだ謎のままだが、そのドアを通してRolandが見て、ときには操作する人物達それぞれのドラマが本作品を非常に面白くしている。次回作が楽しみになる一冊。

「NO LIMIT 自分を超える方法」栗城史多

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世界七大陸最高峰の単独・無酸素登頂に挑む登山家栗城史多(くりきのぶかず)の写真と声を集めている。
正直内容はお世辞にも濃いとは言えない。文字は大きいし写真ばかりだし、30分もあれば読み終えてしまえるような内容である。しかしだ、挑んでいることがことだけに、書かれている言葉が重いのだ。
僕らには、彼が挑んでいることがどれほど大変なのか想像すらできない、「無酸素登頂が普通の登頂とどのように違うのかもわからない。そんな状態で、言葉が重く伝わってくる、なんて軽々しく言うのもおこがましいが、彼が本書の中で「何かを伝えたい」の「何か」を部分的かもしれないが、受け取った。と考えていいのではないだろうか。
さて、本書のなかで、栗城史多(くりきのぶかず)の過去の挑戦のなかでいくつか心に残っていることをつづっているのだと思うが、なかでも印象的だったのは、2009年のエベレスト登頂の失敗を大きな糧として挙げている点だろう。

登頂の喜びは一瞬だ。下山、失敗、敗北のつらさのほうがよっぽど長く続いていく。でも山に負けたとき、自分とどう向き合うのか?
そこからの成長こそ、山登りの本質があるような気がする。

僕も比較的楽観的に物事を考え、苦難さえも楽しめる人間だから、考え方に重なる部分もあった。物事をマイナスに考えてしまう人が読めばいろいろ参考になるのではないだろうか。

そして不可能は自分が作り出しているもの、可能性は自分の考え方次第で、無限に広がっていくんだということに気づいた。

なんかもっと大きいことに挑戦したくなる一冊だ。

やがて冒険で得る一番の財産は、冒険の記録ではなく、人との出会いだと気づく。
アコンカグア
アンデス山脈にある南米最高峰の山である。標高 6,962 m(6,959m・6,952mとの文献もあり)。またアジア以外の大陸での最高峰でもある。(Wikipedia「アコンカグア」
アンナプルナ
ネパール・ヒマラヤの中央に東西約50kmにわたって連なる、ヒマラヤ山脈に属する山群の総称。サンスクリットで「豊穣の女神」の意。(Wikipedia「アンナプルナ」
ダウラギリ
ネパール北部のヒマラヤ山脈のダウラギリ山系にある世界で7番目に高い山である。ダウラギリはサンスクリット語で「白い山」という意味である。(Wikipedia「ダウラギリ」
マナスル
ネパールの山。ヒマラヤ山脈に属し、標高8163mは世界8位である。山名はサンスクリット語で「精霊の山」を意味するManasaから付けられている。(Wikipedia「マナスル」
チョ・オユー
ネパールと中国とに跨る標高、8,201 mで世界第6位の山。(Wikipedia「チョ・オユー」
栗城史多オフィシャルサイト エベレストからのインターネット生中継を目指す小さな登山家

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