オススメ度 ★★★★☆ 4/5
本所深川の同心平四郎(へいしろう)と甥っ子弓之助(ゆみのすけ)の繰り広げる物語。
序盤は平四郎(へいしろう)が弓之助(ゆみのすけ)やその友人のおでこの助けを借りながら諍いを解決していく。そんななかで次第に江戸の時代の人々の暮らしが見えてくる。
写真や動画という技術のなかった江戸のような時代の人々の生活を僕らはなかなか想像することができないが、本書はそんな生活を本当に現実味を帯びた形で見せてくる。生きている中で人間関係に悩み、将来に悩み、恋に悩むのはいつの時代も変わらないのだろう。
そして、そんな遠い時代のことを弓之助(ゆみのすけ)やおでこといった愛される登場人物を作り上げて、面白おかしく見せてくれるのは、やはり著者宮部みゆきの技術あってのことだろう。
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カテゴリー: ★4つ
「最後の証人」柚木裕子
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「検事の本懐」に登場する元検察官の佐方貞人(さかたさだと)を扱った物語。本作品では息子を交通事故で失ったにも関わらず、加害者の権力者が、何の罰を受けない事に復讐を誓った夫婦の事件を担当する。
佐方(さかた)が裁判に向かう様子と、時間を数ヶ月前に遡って息子の復讐をしようと計画する夫婦の様子が交互に描かれる。終盤に向かうにつれてその二つの物語が一つに重なっていく。復讐を誓った夫婦が何らかの事件を起こしたのだろうがその詳細が裁判が始まるまで伏せられている点が面白い。
復讐は成功したのか、裁判の被告人は誰で佐方(さかた)は誰の弁護をしているのか。そして、裁判の行方を左右する最後の証人とは一体誰なのか。予想を越える展開だけでなく、正義感の強い佐方(さかた)の、胸に響く言葉は本作品でも健在である。
著者柚木裕子は今個人的に注目している作家である。佐方(さかた)弁護士を扱った作品だけでなく、今後の作品すべてが楽しみである。
【楽天ブックス】「最後の証人」
「鋼鉄の叫び」鈴木光司
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
テレビ局に勤める雪島忠信(ゆきしまただのぶ)は父親からの影響で戦時中の特攻についての番組を思い立つ。そこに、特攻を直前で辞めて生き延びた人がいるという不確かな情報を得る。生の声を聞くためにその人間を探そうとする。
本書のなかでも語られているが、戦争を経験した人の多くが他界し、戦争の生の声を聞けるのもあと数年なのだろう。きっとその後は戦争に対する関心も一気に薄れていくのだ。本書はそんな戦争における、日本のとった特攻という悲劇の作戦について読者に示してくれる一冊である。
忠信(ただのぶ)は戦争を体験している父親から一度戦時中の父親の体験を聞かされた事があり、それゆえに特攻という出来事へ執着する。そして、そんな忠信(ただのぶ)が得た特攻の生存者の情報。忠信(ただのぶ)はその情報の真偽を確かめるため奔走するのである。
一方で忠信(ただのぶ)の父親和広(かずひろ)の戦時中の体験も描かれる。そのつらい体験と、病気療養中に海軍病院で出会いその後特攻で亡くなった上官峰岸(みねぎし)の話。
そんな忠信(ただのぶ)とその父親のつながりをもって、戦争を遠い昔の出来事ではなく、世代を超えて現代に繋がる悲劇として巧みに伝えてくれる。
2,3年前に同じく特攻を描いて話題になった「永遠の0」といくつか共通する部分があるが、本作もまた鈴木光司らしく緻密に考え抜かれた深く感動的な作品に仕上がっている。
【楽天ブックス】「鋼鉄の叫び」
「エス」鈴木光司
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ネット上にある人物の自殺する様子を撮影した動画がアップロードされていた。プロダクションで働く孝則(たかのり)はその真相を探ろうとする。
「リング」シリーズの鈴木光司が久しぶりにあたらしいホラー小説を描いたのか、とあまり期待せずに読み始めたの。四人の少女を連続して誘拐して殺人した殺人鬼のその動機はなんだったのか。序盤はすこし謎めいた殺人事件にしか見えなかった物が、読み進めるに従って読者は「リング」と無関係ではない事に気づくだろう。
孝則(たかのり)はその自殺映像を託されてその謎を解明しようとする一方で、婚約者である、丸山茜(まるやまあかね)が最近見知らぬ人につけられていると訴える。幼いころに事件に巻き込まれた経験のある茜(あかね)にとっては無視できない出来事なのである。
そうした複数の不思議な出来事がやがて一本の流れへと繋がっていくのである。「リング」シリーズで、「ループ」を読んだときの驚きがここにもあった。かつての人気歌手や人気漫画かが、過去の人気作品にこだわりすぎると見苦しさを感じてしまうが、ここまで見事に過去の名作を蘇らせてくれると、そのすごさに感心してしまう。
まだまだ続編がありそうな内容。生き返った「リング」はどこへいくのか、今後の展開が楽しみである。
【楽天ブックス】「エス」
「阪急電車」有川浩
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
関西圏の私鉄グループ阪急の路線の今津線で繰り広げられる人々のドラマを描く。
阪急電車はドラマを描く舞台を電車や駅に限定しただけにすぎない。電車のなかには通勤、通学など、送り迎えなど様々なドラマが繰り広げられる。本書が描くのはそんななかでも強く生きようとしている女性たちに焦点をあてているように感じる。
本書が扱う10人ほどの女性のなかでも特に印象的なのは、婚約者を同僚に奪われてその相手の結婚式に復讐を決意して参加する翔子(しょうこ)の生き方であるが、そのほかにも女子高生悦子(えつこ)と年上の馬鹿な彼氏の話や、ランドセルを背負った誇り高き少女の話など、魅力的な登場人物があふれている。
ローカル線ののんびりとした雰囲気を、強い女性たちの信念で味付した見事な一冊。
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「Different Seasons」Stephen King
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
四つの作品を集めた短編集であるが、一作目の「Rita Hayworth and the Shawshank Redemption」は映画「ショーシャンクの空に」の原作であり、三作目の「The Body」は映画「スタンドバイミー」の原作という短編集ながらもそれぞれの物語は非常に濃密で完成度の高い出来となっている。映画が非常に忠実に描かれているので、いまさらこの二つの作品の素晴らしさは語る必要もないが、四作目の物語「The Breathing Method」もまた強烈な作品に仕上がっている。
主人公である男性は、ある物語を語る会に通うようになる。そこでは毎回参加者の一人がほかの参加者に向けて物語を語るのだが、あるクリスマスの晩に参加者の一人の医師が過去を思い返してある女性の物語を語るのである。その女性は役者を夢見てニューヨークに出てきたが、出会った男と恋に落ちて妊娠し、男が去ったあとも一人でその子を産んで育てようとして、医者であるその語り手のもとを訪ねたのだと言う。彼女の産まれてくる子供のための強い意志は、その語り手である医師の心に永遠に刻まれることとなったのである。
出版されたのが1983年という本であるが、30年を経た今読んでも決して不満に思う事はないだろう。長く心に残るであろう作品。
「Agent6」Tom Rob Smith
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ロシアでKGBの一線を退いたLeoと妻のRaisa、そして容姿にとった2人の姉妹の4人は質素だが平和な生活を送っていた。教師としてArisaは国際交流のイベントのために、2人の娘を連れてアメリカにいくこととなる。
「Child44」「SecretSpeech」に続く、冷戦時代のロシアを描いた第3弾。誰もが秘密警察KGBの目を恐れて生活しているロシア。前二作品でKGBの第一線から退いて両親を殺された姉妹ZoyaとElenaとともに暮らしていた。思春期を迎えた ZoyaとELenaを連れて、妻であり教師のRaisaがアメリカでアメリカの生徒たちとの交流イベントに向かうところから物語は大きく動き出す。
アメリカ人歌手Austinは、かつて共産主義を支持していたためCIAから睨まれてその活動の場所を失ったが、ソ連は彼を共産主義の象徴として再び表舞台に立つように説得しようとする。そんな陰謀に巻き込まれるRaisaとElena。そうしてアメリカで起こった出来事がその後のLeoをアフガニスタン、アメリカへと向かわせるのである。
僕ら日本人がアフガニスタンやタリバンについて意識したのはきっと9.11テロ以降であろう。本書はそんな混沌に陥るアフガニスタン、そしてそれを引き起こした冷戦時代のソ連、アメリカの関係を見せてくれる。太平洋を越えた3国にまたがって、前2作品以上に大きなスケールで展開される物語。
おそらくシリーズラストとなるであろう、むしろ終わりに近づくにつれて、読み応えのあるシリーズが終わってしまう事にさみしささえ覚えてしまう作品。
「利休にたずねよ」山本兼一
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第140回直木賞受賞作品。
千利休はその唯一にして確固たる美学ゆえにその地位を上りつめた。しかし、その美に対する信念ゆえに秀吉に疎まれ切腹を命じられる。
千利休の名前を聞いた事のない人など日本人でいるのだろうか。しかし、実際に彼が何をやっていたのか、そう考えると茶室に関わる何か、としか知らない。茶室や茶という文化が同時どのように人々に捉えられていたかすら普通は知らないだろう。本書は千利休の生活や行き方、そしてそこに関わる人たちの視点を通じてまさにそんな当時の様子を見せてくれる。
こういう風に書くと、ひどく退屈な歴史小説のように聞こえるかもしれないがそんなことはない。本書で何度も描かれる、利休の美しい物にたいする考え方は、永遠と受け継ぎたいと思わせる。むしろ日本人の物作りに対するこだわりの原点があるようにも感じられる。
本書を読むと世の中のすべてが違って見える。人の表情、仕草、歩き方、建物の形状、物の置き方…。すべてにおいてもっとも美しい方法というのがあるに違いない。きっと利休であれば最も美しい方法を選択しただろう。
【楽天ブックス】「利休にたずねよ」
「漂砂のうたう」木内昇
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第144回直木三十五賞受賞作品。
根津遊郭で働いている定九郎は大きな時代の流れに飲まれながらも、そこで働く花魁や遣手たちとともに生きていく。
そもそも遊郭とはどういう場所なのか。吉原という言葉やその話を聞いた事はあるけれど、実際にそれがどういったものでどうやって営業されるのか、そこで働く花魁たちはどのようにそこで働く事になったか、などわからないことばかりである。本書はまずそんな僕らには馴染みのない当時の遊郭の様子を見せてくれる。
そしてまた、本書の舞台は明治時代のはじめの頃。それまで武士として生きていた人々が他の生き方を探さなければいけないという大きな変革期。ちまたでは福沢諭吉の「学問のすすめ」が広まり学ぶことの重要性を世の中が意識し始める。そんな変化のなかで自らの生き方を考える人々の心のうちに、どこか現代の人々の悩みと共通したものを感じるだろう。
日本画のような非現実的な状態でしか知らない時代の人々の生活を、より現実味を帯びてみせてくれる作品。
【楽天ブックス】「漂砂のうたう」
「将棋の子」大崎善生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元将棋マガジン編集者の著者が何人かの棋士を目指す男たちを描いたノンフィクション。将棋界の厳しさを描く。
冒頭で一人の棋士の劇的な昇段の瞬間を描いている。奨励会というプロを目指す棋士たちのその厳しい現実に、一気にひきこまれてしまう。
将棋一筋に生きようとした彼らは、何をきっかけにこの道を進んだのか、そしてその道を進み続ける人はどうやってその後を生き、その道を諦めざるをえなかった人は今どうしているのか、何人かの奨励会にいた人たちに焦点をあてて、その子供時代、奨励会時代、そして今を描いている。どの人生も印象的で、そしてどの人生からも将棋界という世界の厳しさが感じられる。
同時に驚かされたのが、著者が本書のなかでなんども繰り返しているように、昭和57年組と呼ばれる、羽生善治のいる世代が将棋界にとってどれほど革命的だったかということである。また、コンピューターの発展によって、アマチュアからも強い人が育つようになり、将棋界は大きな変革期にあることも伺わせる。将棋界の現状を理解し、そこにさらに関心を持たせてくれる一冊である。
楽天ブックス】「将棋の子」
「検事の本懐」柚月裕子
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
検事佐方貞人(さかたさだと)。多くの検事と違って、人の話をしっかり聞いて人を人として接しようと努める。そんな検事佐方(さかた)を描いた物語。
本書は5つの物語から構成される短編集。いずれも視点こそ違えど、佐方貞人(さかたさだと)という検事が関わる事になる。刑事の視点、佐方(さかた)の上司の視点、佐方(さかた)の学生時代の友人の視点など、多数の視点から一人の人間を見つめる事で、その人間性が見えてくる。
それは、一見ぶっきらぼうで身だしなみに気を使わない粗野な印象であるが、非常に強い正義感を持っている。物語終盤は弁護士でありながら横領をしてその資格を剥奪された佐方(さかた)の父親について明らかになっていく。佐方(さかた)のその正義感の源が見えてくるだろう。男の行き方、信念が見えてくる作品。
本書によって著者柚月裕子は一気に僕自身の要チェック作家の一人になった。その作品をすべて読んでみたいと思わせる一冊。
【楽天ブックス】「検事の本懐」
「数学ガール」 結城浩
数学の好きな「僕」と同じクラスの数学を得意とする才女ミルカさん。そして一学年下で数学を学ぶテトラちゃんの3人が数学に取り組む物語。
なぜかシリーズ第二弾の「数学ガール フェルマーの最終定理」を先に読んでしまったので、若干人間関係が前に戻っているが、タイトルから想像できるようにそれはあまり重要ではない。本作品でも、同様に数学の面白さを読者に教えてくれる。
面白かったのは、フィボナッチ数列の一般項の話。1,1,2,3,5・・・と誰もがフィボナッチ数列というのは学生時代に見聞きしたことがあるだろうが、本書ではその一般項を導きだす。そもそもフィボナッチ数列の一般項を求めるなどという発想自体なかったので楽しく読ませてもらった。
すべて完璧に理解したとは言いがたいが、複素平面なども含めて数学の楽しさを思い出させてもらった気がする。ノートを微分や積分などの式で一心不乱に埋めたい気持ちにさせてくれるが残念ながら今のところその時間がとれない。いつかしっかり本書のすべての問題を鉛筆とノートで書きながらもう一度読んでみたい。
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「舟を編む」三浦しをん
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第9回本屋大賞受賞作品。
出版社につとめる馬締光也(まじめみつなり)はその名の通り真面目で、変人として通っていたが、ある日辞書編集部へと配属される。馬締(まじめ)はそこで辞書の編集に取り組む事となる。
最近でこそ調べ物はインターネットで片付いてしまうが、小学生の頃には母がプレゼントしてくれた辞書をよく使っていたのを覚えている。本書が描くのは、そんな辞書を作る側の物語である。
辞書編纂メンバーの言葉に対する取り組みに触れると、言葉についていろいろ考えさせられる。そもそも言葉は辞書によって定義されるものではなく、僕らの生活やその言葉を繰り返し使う中で人々の心のなかに共通の意識として染み付いていくものなのだ。例えば本書で分かりやすくも印象深いのが、「愛」という言葉の説明に対して議論をする場面である。
言葉とは時間によっても変化していくものなのだろう。編纂メンバーはそうやって一つ一つの言葉を、哲学を持って定義していく。
そして、彼らは言葉だけでなく、辞書の素材についても気を配るのである。本書の中では、紙の選び方についても触れている。辞書はページ数が多いから一枚一枚の紙は薄くなくてはならないが、薄いことによって裏の文字が見えてしまったも行けない、もちろん手触りも非常に大切なのである。
こうやって見てみると、辞書を作るというのはなんとやりがいのある仕事なのだろうか。本書を読むと、今まで考えてこなかった、一つ一つの言葉の意味、重さを改めて考えさせられる。辞書というものの見方を変えてくれる一冊。
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「ザ・コピーライティング 心の琴線にふれる言葉の法則」ジョン・ケープルズ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コピーを書いてその効果を検証し続けた経験を著者が語る。
過去の分析の結果からどのコピーが優れた結果を残し、どうしてそれが優れているのかを多くの事例とともに解説していく。どれも納得のいくものばかりで、コピーライティングに関わる人にとってはまさに「読むべき本」と言える。
本書を読み進めていくと、世の中にあふれるコピーの多くが実際にはその目的を果たしていない事がわかる。例えば、商品のコピーであれば、その商品を売る事が目的であり、「このコピーはうまい!!」と言われることではないのである。
また同時に、そのような意味のないコピーが世の中にあふれる理由として、理解のないクライアントやそもそもその効果を測定すら使用としない一般的な姿勢についても語っている。後半は複数のコピーの効果の測定方法についても書かれている。
広告の主体が紙からインターネットへと移る昨今、本書で書かれている事をすべて鵜呑みにしていいというわけではないが、基本的な考えは適用できるだろう。
本来手元に置いて繰り返し読むべき本なのだろう。
【楽天ブックス】「ザ・コピーライティング 心の琴線にふれる言葉の法則」
「成功する人たちの企業術 はじめの一歩を踏み出そう」マイケル・E・ガーバー
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
20年間にわたってスモールビジネスを対象にした経営コンサルティング活動を行ってきた著者がその経験を生かして多くの起業家が陥りやすい謝った考え方をいくつかの例を交えて分かりやすく教えてくれる。
非常にいいと思うのは本書ではパイの店を開いたサラという人間に対してアドバイスする形で説明してくれる点だろう。祖母から教えてもらったパイの焼き方が非常においしくて、パイを焼くのが好きで、毎日好きな事をして過ごせると思って店を開いたサラ。しかし、実際にはやらなければならないことがあふれていて、ついにはパイを焼く事さえ嫌になってしまった。
一体何が問題なのかを著者は、人間を3つの人格に分けて説明する。起業家、マネージャー、職人である。この3つの人格がバランスよく機能しなければ会社は成長しないのだという。
全体を通じて印象的だったのはシステムの話。システム化、マニュアル化という言葉を聞くと、どこか冷淡で、仕事に誇りをもって取り組んでいる人のなかには毛嫌いする人もいるかもしれないが、本書がマクドナルドや、著者が偶然であったらすばらしい接客をしたホテルを例にとって書いている内容を読むと考え方が変わるだろう。
特に職人タイプの人は、自分の仕事を「自分にしかできない」として自らの価値を高めているのかもしれないが、その状態のままでは永遠に自分は現場を離れられず、永遠に忙しいままなのである。僕自身現在はまだ職人職が強い職業に就いているので、とても新鮮だった。
本書はなにもこれから起業しようとする人だけが読むべき本ではない。会社で働いている人間にも、マニュアル化やシステムの必要性が見えてくるだろう。もちろん起業家が読めば参考になるだろうが、企業に興味がない人でも、本書を読むと、自らが長年かけて育んだ技術を会社として機能させてみたいと思うのではないだろうか。
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「感染遊戯」誉田哲也
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
各地で官僚絡みの犯罪が相次いだ。過去をたどればその立場故に人から恨まれる理由はあるはずだが、犯人たちはその情報をどこから得ていたのか。
「ストロベリーナイト」に始まる姫川シリーズの一冊。体裁こそ短編集となっており、姫川の登場もごくわずかだが、姫川シリーズファンは読み逃してはならない内容である。実際、読み始めてから本書が短編集であることを知って残念に思ったのだが、読み進めるにしたがって、それぞれの短編の背景にある共通したつながりに魅了されてしまった。
物語のテーマとしては、官僚の怠慢によって起こった、薬害エイズ事件や年金問題や、インターネットによる情報流出であるが、本書の魅力は社会的問題に絡めているだけではなく、そんな無関係な人々が無関心のまま通り過ぎてしまう出来事を、当事者の目線に立ってしっかりと読者に伝えてくる点だろう。そして、そうして引き起こされた恨みや後悔が不幸の連鎖へと変わっていくのである。
個人的には元警察官でありながら、息子が殺人事件を起こした事で退職せざるを得なかった男の話が印象的だった。本シリーズのなかで本来主役である姫川玲子(ひめかわれいこ)が、本書のなかで最も存在感を表す箇所でもある。
関連する事件は読後すぐに調べて詳しく知りたくなる。再び姫川シリーズを読みたくさせてくれる一冊。
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「桶川ストーカー殺人事件 遺言」清水潔
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
埼玉県の桶川駅前で起こった女子大生猪野詩織さん殺害事件。ひとりの週刊誌記者が警察よりも先に犯人を探し当てる。その週刊誌記者が事件をつづる。
埼玉で生まれ育った僕にとっては「桶川」というのはそう遠くない街の名前の一つであるが、日本ではすでに「桶川」とは「ストーカー」を連想させる言葉になってしまったかもしれない。この事件はそれぐらい強い印象を残している。しかし、この事件は実際どういう風に起こって、犯人は結局どうなったかというと、あまり知られていないのではないだろうか。残念ながら人々の関心というのはその程度のものなのだろう。実際僕自身もそんななかの一人だったのである。
さて、本書は週刊誌記者であり本書の著者でもある清水潔(しみずきよし)氏が事件の一方を受けて現場にいき、少しずつ真相に近づいていく様子が描かれている。彼にとってのこの事件は、被害者からたびたび相談されていたという2人の友人から話を聞いたときに大きく動き始める。
そして、読み進めていく過程で、猪野詩織(いのしおり)さんが陥った境遇を知るに連れて、たまたまその時その場所にいたがゆえに若くして人生を終えなければならなかったという運命の無情さを感じずにはいられない。また、詩織(しおり)さんが感じた恐怖が、その友人や著者自身にも伝染していくのがやけに説得力がある。
著者は、犯人に対する恐怖や怒りについてももちろん触れているが、むしろそれ以上に、警察やメディアに対する怒りややるせなさを語っている。どうして警察は組織の体裁を重視して殺人犯を放っておくのか、どうしてメディアは警察との対立を恐れて真実を追究しようとしないのか。
歪んだ世の中を感情に訴える形で見せてくれる秀逸な一冊。
【楽天ブックス】「桶川ストーカー殺人事件 遺言」
「数学ガール フェルマーの最終定理」結城浩
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
数学な好きな「僕」は従姉妹の女の子ユーリ、学校の後輩のテトラ、そして数学がずば抜けて得意な才女ミルカさんと、数学の先生の村木先生が出してくれる問題をもとに数学の話を繰り広げる。
過去フェルマーの最終定理に関する本を何度かトライしてみたが、どれも残念ながら大して理解することもできずに諦めてしまった。しかし本書は「フェルマーの最終定理」とサブタイトルを持ちながらも序盤は、本当に簡単な数学の知識だけで楽しめる内容で構成されている。
例えば
などである。それぞれの証明をしっかり理解しながらついていくのはやや根気がいるし、時間もかかるが、最初はまったく違う証明だと思っていたものが、実は本質的に同じ問題だったと気づく瞬間の、その驚きは伝わってくるかもしれない。きっとそんな驚きが多くの数学者たちを数学の世界にひきこんでいったのだろう。
終盤ではついにフェルマーの最終定理に話が及ぶ。とはいっても、本書で触れているのは本当にそのさわりの部分だけ。フェルマーの最終定理の証明の鍵となる谷山・志村予想やモジュラー。結局本書を読んだ後もやはりそれらの詳細は分からないままだが、読む前よりもその感覚的な部分がつかめた気がする。
【楽天ブックス】「数学ガール フェルマーの最終定理」
「スターバックス再生物語 つながりを育む経営」ハワード・シュルツ/ジョアンヌ・ゴードン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リーマンショックなどの不況の影響でスターバックスも徐々に当初の勢いを失っていった。そして2008年1月、ハワード・シュルツはスターバックス再生のためにCEOに復帰する。本書はその過程と、スターバックスが再生されるまでの物語である。
Google、Facebook、マクドナルド過去「成功物語」と呼べるようなものは何冊か読んだし、世の中にも溢れているが、「再生物語」となると非常に限られている。その1点だけ考えても本書は面白く読む価値があるだろう。まず序盤は少しずつ歯車の狂ったスターバックスの様子を描いている。徐々に店舗で犯罪するものを増やし、徐々にコーヒー以外の別の分野にも手を広げ始める。しかし、売り上げが伸び続けているために誰もその影響に気づかない。それでも確実にスターバックスのネジは狂い始めていたのだ。
そんな中で、ハワード・シュルツはCEOに復帰してから再生への道を模索して、多くの改善策にとりくむのだが、その内容からは、企業がその質を維持したまま大きくなることがどれほど難しいかが見えてくる。最終的に、ハワード・シュルツは短期的な利益を諦めて長期的な利益を優先する中で、不採算な店舗の多くを閉鎖することを決断するのだが、その際に各地から届く「この街のスターバックスを閉店しないで欲しい」という声は、これまでスターバックスが築いてきたものの大きさを示しているようだ。
失敗もありつつ結果としてスターバックスは再生を果たすのだが、そのためにしなければいけない辛い決断をハワード・シュルツがするにあたって、そんな彼を勇気づけるように、社員から送られる温かいメールの内容が印象的である。
「スターバックス成功物語」を読んだときも感じたのだが、信念を持った会社で自らの時間を費して働くことのなんと羨ましいことだろう。まったく専門は違うがスターバックスで働いてみたくなる。
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「砂のクロニクル」船戸与一
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第5回山本周五郎賞受賞、1993年このミステリーがすごい!国内編1位作品。
独立国家の建設を求めて放棄しようとするクルド人。イランはホメイニ体制の下でそれを抑えようとする。そんな混乱のなかの中東に2人の「ハジ」と名乗る日本人がいた。
イランイラク戦争。まだ政治に関心を持つような年齢でもなかった僕は、その名前しか知らない。しかし、戦争というのは、他の国で豊かな暮らしを送っている人にとっては他人事でも、当人にとっては人生を左右するもの、人に寄っては人生そのものでもあったりする。本書が描いているのはまさにそんな人達である。
本書は「ハジ」と名乗る2人の日本人のほかに、イランの共和国軍である革命防衛隊に属するサミル・セイフ、クルド人でクルド国家の樹立を目指すハッサン・ヘルムートの視点からも語られる。サミル・セイフは国を守るためにそのすべてを注いでいるが、革命防衛隊内の腐敗に葛藤を続ける。また、ハッサン・ヘルムートもクルドの聖地マハバードの奪還を目指す中で、イランクルドとイラククルドの諍いなどの不和にも頭を悩まされる。
そんな状況のなか、「ハジ」と名乗る日本人の一人駒井雄仁によって2万梃のカラシニコフがカスピ海をわたってクルド人に届けられようとしている。そしてその後武器を得たクルド人たちはマハバードへ向かうこととなる。
かなりの部分が史実に基づいているのだろう。これほど大きな混乱を知らずに今まで生きていた自分がなんとも恥ずかしくも感じた。
本書はハッピーエンドとは言えないだろう。そもそも戦争とは悲しみしか生まないのなのかもしれない。それでも、そんな時代だからこそすべてをかけて人生を全うする登場人物たちが羨ましく思えてしまう。
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