オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ペンシルベニア大学ウォートンビジネススクールの内容を書籍化したもの。仕事だけではなく、家庭や自分やコミュニティも含めて人生を充実させるための方法について語っている。
仕事、家庭、自分自身、コミュニティという4つの分野に対する自分の重要度を出し、実際にそれに費やしている時間を出して比較すると多くの人が、その違いに驚くという。必ずしもそれぞれの分野に費やしている時間の比率が、それぞれの分野の重要度の比率と同じになる必要はないが、必然的に近くなるものだろう。冒頭部分ですでに自分の人生は改善が必要だと思い知らされる。
後半では、それぞれの分野におけるステークホルダーを洗い出してそれぞれの人が自分に求めているものと、自分がそれらの人に求めているものを整理していく、本書では何人かの経験談を載せているが、多くの場合、自分が求められていると思っているものと、実際に求められているものの間にはギャップがある事が多く、それを知ることで楽になれる部分もあり、そうして余った時間を別の分野に割り当てる事ができるのだ。
また、本書では分野をうまく統合していくことも勧めている。例えば家族と一緒に運動すれば、家庭と自分自身の2つの分野に同時に貢献できるのである。僕自身はどちらかというと仕事とプライベートの生活を完全に分けてしまっているので、色々自分の生き方について考え直す必要があると感じた。
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カテゴリー: ★4つ
「初陣 隠蔽捜査3.5」今野敏
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
警視庁の刑事部長である伊丹俊太郎(いたみしゅんたろう)の仕事の様子を描く。
「隠蔽捜査」シリーズは本来竜崎伸也(りゅうざきしんや)を主人公にしており、本作品は番外編となる。伊丹俊太郎(いたみしゅんたろう)は竜崎(りゅうざき)の友人で本書の短編はいずれも伊丹(いたみ)目線で描かれているが、伊丹(いたみ)が警察組織のしがらみや、捜査の進め方に迷ったときに竜崎(りゅうざき)に助言を求めるという形で竜崎(りゅうざき)が登場する。
本書に含まれる8編とも、伊丹(いたみ)が悩み、最終的に竜崎(りゅうざき)に助言を求めることで解決に向かう、というワンパターンな展開であるにもかかわらず、竜崎(りゅうざき)の論理的で真摯に正義を全うしようとする姿勢はとてもいずれも読んでて爽快な気分にさせてくれる。
それぞれの短編は、これまでのシリーズ1,2,3の竜崎(りゅうざき)の物語を伊丹(いたみ)の目線から見たものを寄せ集めてきたような構成になっており、これまでのシリーズ作品を読んでいないと消化不良な部分もあるので、本書だけを読むのはお勧めしない。シリーズの最初から読み進めて欲しい。
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「転迷 隠蔽捜査4」今野敏
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
降格人事によって大森署の所長となった竜崎伸也(りゅうざきしんや)。その担当の区域で複数の事件が立て続けに起きる。外務省や厚生労働省など事件解決とともに政治的な駆け引きに竜崎(りゅうざき)は関わっていく事となる。
「初陣 隠蔽捜査3.5」を間に挟んだので隠蔽捜査シリーズの第5弾となる。このシリーズは毎回、キャリアというイメージにそぐわず、つまらない縄張り争いや、階級意識などをもとともせずに正義を全うしようとする竜崎(りゅうざき)の率直かつ合理的な判断が読者に爽快感を与えてくれる。本書もそんな読者の期待に応えてくれるだろう。
シリーズのこれまでの作品はいずれも警察内部の出来事を描いた多かったように記憶しているが、今回は麻薬犯罪に絡んで、外務省や厚生労働署、そしてこちらは警察内部ということになるが公安が絡んでくる点が新しい。
例によって小学校時代の同級生であり現在は警視庁の刑事部長である伊丹俊太郎(いたみしゅんたろう)の存在が物語を面白くしている。伊丹(いたみ)も正義を全うする必要性を感じながらも、組織や権力のしがらみに右往左往することもあるため、竜崎(りゅうざき)の合理的なものの考え方を際立たせる事に鳴る。
一介の警察署長として大森署に捜査本部の場所を提供するだけだった竜崎(りゅうざき)がやがて事件の真相に近づいていくこととなる。シリーズ物といのはだいたい4作目、5作目と続いていくと飽きてくるもおだが、本シリーズは続編が楽しみである。合理的にものを考える男性向けのシリーズなのかもしれない。
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「桜ほうさら」宮部みゆき
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父親の死の謎を解くため江戸へ出てきた笙之介(しょうのすけ)はそこで書を生業として生活を始める。
笙之介(しょうのすけ)の父、宗左右衛門(そうざえもん)は身に覚えのないにも関わらず自らの筆跡と思われる文書によって罪を被り、それによって自殺した。人の筆跡をそっくりまねて書くことなど可能なのだろうか。笙之介(しょうのすけ)は江戸で普通の生活を送りながら、そんな技術を持った人を探そうとする。そんななかで笙之介(しょうのすけ)の出会い人々があたたかい。
また書を生業とするゆえに、笙之介(しょうのすけ)の書に対する強い思いも見えてくる。笙之介(しょうのすけ)曰く、書とは人を映すもので、人の筆跡を寸分違わずまねる事ができる人間がいるとしたら、その人間は心までその人間になりきれる人間だと言うのだ。文字を書くことが少しずつ廃れていく現代だからこそ、この笙之介(しょうのすけ)の考え方は印象的で、もう一度文字を書く事と向き合いたくさせてくれる。
そして、笙之介(しょうのすけ)は温かい人々の助けを借りながら真実に近づいていくのだが、結末は人間の欲望や弱さや信念を感じさせてくれる。著者宮部みゆきは現代を舞台にした物語と同じぐらい、江戸を舞台とした物語を書くが、舞台が江戸で時代が100年以上前でも、人の心のありかたは現代と変わらない気がする。本書を読んで、むしろ宮部みゆきがなぜ江戸という舞台設定にここまでこだわるのか知りたくなった。きっと何か信念があるに違いない。
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「デザインの授業 目で見て学ぶデザインの構成術」佐藤好彦
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインの発展の歴史に沿って、デザインの考え方について語る。すでに普段から心がけていることもあるが、一方で新たに気付かされる考え方もあり、非常に面白い。個人的に印象的だったのは「神はサイコロを振らない」というもので、本来は自然界に対してアインシュタインが言った言葉だそうだが、その言葉をデザインに対して使用している。つまり、デザイナーはデザインにおける神であり、そのデザインのなかで適当に配置されていたり適当に選択されたりする色があってはならない、ということである。
また、デザインの発展において、過去には欠点とされていたものが、その欠点がなくなったあとで「らしさ」としてデザインに取り入れられるという考えも印象的だった。たとえば、本来文字を印刷するための活版印刷がその技術の未発達ゆえに紙面にへこみをつくってしまうことがあった。それが技術の発展した今では、あえてへこみをデザインすることで「らしさ」を表現できるのである。
デザインに対するモチベーションをあげてくれる1冊。アレックス・スタインワイスやアール・ランドといった歴史的なデザイナーについて知ることもできた。同じ著者に「デザインの教室」というのもあるようなのでそちらも読んでみたい。
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「Maisie Dobbs」Jacqueline Winspear
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
終戦からまだまもないなか、Maisie Dobbsはロンドンで探偵事務所を始める。浮気調査の過程で、戦争で体に傷を負った人々が集団生活をしている施設に行き当たる。
体裁としては私立探偵が依頼された内容を解決する、というよくある形をとっているがシリーズ第一弾となる本作品では、Maisiの幼い頃の経験と、その後の従軍看護師として戦地に赴き、恋愛や友人達の悲劇と出会う様子が描かれている。むしろ謎を解明していく流れよりも、Maisieの過去の物語の方が本書においては重要な役割を担っているような気がする。
また、依頼された内容も、ある男性の妻の浮気調査でありながら、最終的に行き着いた先は戦争によって体に傷を負った元兵士達が集団生活を送る施設、というように戦争の悲劇に関することが多くを占めている。そのため、ただの現代を舞台とした事件解決物語とは違った雰囲気を持っている。
Maisieの考えのなかで重要なのは、MaisieのメンターであるMauriceからの教えである。Maisieは迷ったとき常にその考え方に戻って考え直すのである。そんなMauriceの言葉はどれも深く印象的である。
そしてラストはMaisieの過去の一部が明らかになる。シリーズ作品なのでぜひ続編も読んでみたい。
「ソロモンの偽証」宮部みゆき
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
クリスマスイブの夜に不登校になっていた中学生の柏木卓也(かしわぎたくや)は学校の屋上から落ちて死んだ。自殺なのか、他殺なのか。そして不登校になる直前にクラスメイトと起こした諍いは関係あるのか。
宮部みゆきには珍しい中学校を舞台とした物語。1人の生徒の死をきっかけとしてその周囲の人々、特に同じクラスの生徒たちを中心に、その心の動きを描く。その過程で生徒達がお互いに抱いている、恐れや怒り、嫉妬や無関心といった、それぞれの悩みが見えてくる。
印象的だったのは、病弱だった弟の柏木卓也(かしわぎたくや)と比べて、健康だったために、あまり親に相手にされなかった兄宏之(ひろゆき)が明かす心の内である。親の愛を勝ち取ろうして関係を悪くする兄弟の存在も決してありえないものではないと感じさせる。
生徒達はクラスメイトの死に加え、先生達の対応、マスコミによって報じられる学校の姿に傷つき、やがて警察官の父親を持つ藤野涼子(ふじのりょうこ)を中心に、真実を知るために裁判を開く事を決意するのである。
人々の心の内はその裁判によってさらに深く見えてくる。もっとも印象的なのは死亡した生徒、柏木卓也(かしわぎたくや)の人間性だろう。柏木卓也(かしわぎたくや)は運動の苦手なただのイジメの対象としてではなく、むしろ物事をその世代の中ではずっと達観して見つめている存在として描かれている。だからこその死は多くのことを周囲の人々や生徒に考えさせる事となるのだ。そして、そんな柏木卓也(かしわぎたくや)ついて、先生や生徒が語る言葉もまたいろいろ考えさせてくれる。
ブリューゲルの絵について一緒に語ったという先生はこんな風に語るのだ。
柏木卓也(かしわぎたくや)殺害の容疑をかけられたクラスの問題児大出俊次(おおいでしゅんじ)の弁護を担当した柏木和彦(かしわぎかずひこ)が、弁護をしながらもその大出俊次(おおいでしゅんじ)のこれまでの行いを批判するシーンは個人的にはこの物語の最高の場面である。
そして最後は悲しい真実につながっていく。2000ページを超える大作なだけに躊躇してしまう人もいるだろうが、読んで損をする事はない。
【楽天ブックス】「ソロモンの偽証 第1部」、「ソロモンの偽証 第2部」、「ソロモンの偽証 第3部」
「楽園のカンヴァス」原田マハ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第25回(2012年)山本周五郎賞受賞作品。早川織絵とニューヨークのアシスタントキュレーターのティムブラウンは伝説の富豪の基に招かれる。まだ世に出ていないルソーの絵画を鑑定するためである。
ルソーの絵画の真偽を判定するために、ルソーの研究家として著名な早川織絵(はやかわおりえ)とティム・ブラウンはスイスに招かれる。絵の真偽の判定と平行して、2人はある古い本を読むことも支持される。その本は作者はわからないがルソーの当時の様子を描いているのである。
早川織絵(はやかわおりえ)とティム・ブラウンは絵画の真偽判定の敵としてその場にいながらも、同じルソーの作品を愛する人間んとしてやがて打ち解けていく。その一方で、2人は世に出ていないルソーの作品を守るためになんとしてでも勝負に勝とうとするのである。
著者原田マハの作品に触れるのは本書で2冊目となるが、どうやらフリーのキュレーターでもあるらしく、本作品はそんな著者の持っている知識を見事に活かした作品となっている。ルソーの作品についてはもちろん多く触れているが、特に2人が読む事になった本の描写からは、ルソーの当時の生活が見て取れる。絵を描き始めるのが遅かったことや、ピカソとの交流など、また違った目でルソー作品を見れるようになるだろう。また当時の芸術家達がどのような姿勢で絵画に向かっていたかも感じる事が出来るだろう。
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「ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家」ムハマド・ユヌス/アラン・ジョリ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グラミン銀行の創始者ムハマド・ユヌスの自伝。バングラディシュという国の成り立ちやその貧しさ。そしてそこ育ったムハマド・ユヌスの成長の過程などとともに、グラミン銀行を語る。序盤は著者自身の家庭環境や成長の過程で起こった印象的な出来事などとともに、バングラディシュの悲惨な状況について触れている。そもそも今の僕らの世代の一体どれほどの人が東パキスタンという国の名前を知っているのだろうか。その独立の過程を知るにつれて、まだまだ知らなければならないことが多い事に気づかされる。
そしてそんな不安定な国の状況のせいで、人々は教育の機会に恵まれないため貧困から脱出することができない。また宗教的理由もその貧困をなくすことの弊害となっており、そんななかで育ったユヌスはやがてそれを解決する1つの方法にたどりつくのである。
そんな中、本書のなかで印象的だったのは、技術はすでに持っているのだから教える必要がない、という考え方である。確かに本書で書かれているように、世の中では貧しい人を助けるために、職業訓練などで技術や知識を与える傾向があるだろう。しかし、ユヌスの考え方は、誰もがその人生のなかで人に役立てる技術や知識を手に入れているはずで、必要なのはそれを実現する資金だというものなのだ。また、貧困の解決方法として職業訓練という手法が世にはびこる理由として、訓練ならその後に何が起こっても教える側に被るデメリットはなく、教える側は教えて終わりにすることができる、としている。
イスラム教を信じる人たちの間で、女性にお金を持たせて仕事をさせることの難しさが伝わってくる。またそんな幾多もの問題を乗り越えながら貧困をなくそうと努める著者の姿を知るにつれ、日本や先進国で同じ事ができないわけがないと思えてくる。
あまり文章に強弱がないため、読み進めるのは若干大変かもしれないが、世の中にはびこる貧困の問題点や貧困への向き合い方や信念を持って仕事や人生を送ることのすばらしさを感じる。
【楽天ブックス】「ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家」
「ドンナビアンカ」誉田哲也
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40歳目前で独身の村瀬は配送の仕事で出入りのある店で若い中国人女性と知り合いになる。また警視庁練馬警察署の魚住久江(うおずみひさえ)は誘拐事件に関わる事になる。
魚住久江(うおずみひさえ)が登場する事なのでおそらく同じ著者の別作品「ドルチェ」の続編になるのであろう。「ドルチェ」では、その仕事のなかで扱う様々な細かい事件を通して、いろんな人々の生活や心の内を描いていたが、本作品では基本的に1つの誘拐事件に焦点をあてている。久江(ひさえ)目線から少しずつ犯人や真実に迫っていく様子と、村瀬(むらせ)目線で若い女性と知り合ってそれまでの人生が少し明るくなっていく様子が交互に描かれる。
村瀬(むらせ)目線で物語を見ることによって、社会的には下位にいるであろう人々の考え方や生き方、そして社会の問題点が見えてくる。世の中の犯罪の多くは、人が起こしているのではなく、社会のシステムが創り出しているのではないだろうか。
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「A Prisoner of Birth」Jeffrey Archer
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
結婚目前だったDannyは親友のBernieを殺した罪を着せられて終身刑を言い渡される。Dannyの刑務所生活と真犯人への復讐の計画が始まる。
もともと読み書きのできないDannyは刑務所で同じ部屋になったNickによって多方面の教育を受けてその才能を開花させていく。そして、偶然の出来事によって刑務所の外へ出る機会を得たDannyは、真犯人グループへの復讐を始めるのだ。
やや出来過ぎの感もあるが、全体的には目覚ましく動き続ける物語は読者を飽きさせる事はないだろう。また、物語自体が、ロンドンからスコットランド、スイスのジュネーブなど、いろんな場所へ展開される点も面白い。イギリス人でもスコットランドの発音に戸惑う場面など、日本にいてはわからない現地の人々の感覚が見えてくる。
Jeffrey Archerの物語は法廷の場面が多いという印象があるが、本書も同様に緊張感あふれる法廷シーンを見せてくれる。
個人的には物語の終わり方が好きだ。もちろんここで詳しく書く事ができないのが読んでもらえればこの余韻に浸れる終わり方をわかってもらえるかもしれない。
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「宮本武蔵(六)」吉川英治
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宮本武蔵の第六巻。武蔵は旅の途中で一人で暮らしている少年と出会う。彼に請われて武蔵はその少年を弟子にして一緒に過ごしはじめる。
決闘の場面こそ少ないが、伊織(いおり)という少年とともに生活を始める武蔵を描く本書は違った意味で印象的な場面が多い。特に強盗集団に教われている村の人々を助け、村人に武器をとらせて戦わせる場面は爽快である。
そして、伊織を育てる上で、剣の技術だけでなく礼儀作法についても厳しく教えようとする。かつでは城太郎という少年と旅をともにしながらも自由奔放にさせたがゆえに何も遺せなかったという武蔵の後悔がそうさせるのだ。
そんな武蔵の新たな視点は、読者にも何か考えさせるものがある。
また、現在おそらく日本人で知らない人はないないだろいうというぐらい有名な武蔵ですら当時「生まれたのが20年遅かった」と思っているところが印象的だ。17歳で時代の節目と成る関ヶ原の合戦を経験し、それい以降、武蔵のような野生の人間を世の中が必要としなくなっていったのである。きっといつの時代も人は前の時代の人々に憧れを抱くのだろう。賞賛すべきはそれをそうぞうして描いた著者吉川英治の方かもしれない。
また、一方で佐々木小次郎もその強さを見せ始める。物語の終わりを期待とともに予感させる一冊。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(六)」
「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」塩野七生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ローマ人の物語の第二章である。紀元前264年から紀元前133年までの130年間を描く。
ハンニバル戦記と名付けられたこの章は、その名の通りカルタゴの名将ハンニバルによって大きな変化を強いられたローマを描いている。アフリカ大陸で栄えたカルタゴのハンニバルはスペインへ侵攻し、やがてローマへと向かうのである。
著者も冒頭で書いているが、学校の教科書ではこの時代をわずか5行程度で済ませてしまうという。しかし、それではわずかな事実が伝わるのみで、過程を知らずに、その時代に生きた人々は見えてこない。本書を読むと、祖国から遠くは慣れて孤立していくハンニバル。ハンニバルへの対抗手段をめぐって対立するローマ国内など、2000年以上も前に生きていた人々が信じられないほど現実感を伴って見えてくる。
実は僕自身本書を読むまで、カルタゴという国の場所や名前や、ハンニバルがどこの国の人物かすら知らなかった。当時の人々の崇高な生き方に触れるほどに、知るべき歴史を知らない自分の無知を感じてしまうのである。
さて、何度も戦いに勝利しながらもやがてハンニバルはローマを後にせざるを得なくなる。一方で、ハンニバルの引き起こしたポエニ戦役によってローマは一段と力を増し、一層帝国主義の傾向を強めていく。
なにより印象的なのは、700年も栄えたカルタゴの滅亡だろう。過去の歴史だけを見ると、それが必然だったように見えるが、歴史的事実のいくつかは偶然の重なりによって覆ったこと。著者はカルタゴの滅亡をまさにそんな一例と捉えている。栄枯盛衰を感じずにはいられない。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語(3) ハンニバル戦記(上)」、「ローマ人の物語(4) ハンニバル戦記(中)」、「ローマ人の物語(5) ハンニバル戦記(下)」
「光圀伝」沖方丁
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中が徳川幕府によって安定に向かうなか、水戸徳川家の次男として生を受けた水戸光圀(みとみつくに)の生涯を描く。
日本の歴史に疎い僕にとって水戸光圀と言えば水戸黄門、本当にそれぐらいしか知識がなかった。本書が描くのはそんな一人の男の物語である。
すでに戦国時代は過去の話で世の中は一気に生活を向上する方向に動いている。人々が学べる環境を作り税の制度を整備していくなど、それは戦後の日本の復興と似ているような印象を受けた。
光圀は次男として生まれたのに理由も知らされずに水戸徳川家を引き継ぐとされた。序盤はなぜ自分が選ばれたのかわからないというなかで成長する光圀の苦悩が中心と成る。本来水戸家を背負うはずだった優しい兄に対する罪悪感や、それでも良き理解者として接してくれることに対する感謝の気持ち、それが初期の光圀の人間性を形作ったように見える。
若いうちは、よくある良家の跡継ぎと同様、父から何度も厳しい試練を与えられ、外ではそれなりの粗暴な行為を行いながらも学び成長していく。そんななか書物を重視し、常に学ぶ事を怠らないその姿勢には感銘を受ける。どこまでが事実に基づいているのかわからないが、宮本武蔵との出会いも本書の読みどころの1つである。「書で天下をとる」という光圀の野望は武蔵との出会いから生まれた物だろう。
そのようにして、光圀は、妻の死や将軍との不和など、徳川水戸家を背負って密度の濃い人生を送っていくのだ。
もっとも印象に残ったのは、決断をするときに「これは義か?」と自らに問い続ける生き方である。僕らに現代人にとっては「大義」の方が聞き慣れているのかもしれないが、「義」とは「人の踏み行う正しい道筋」のことで、光圀は常に世のため人のためになることを優先して決断をするのだ。
争乱の時代の後のあの時代に、水戸光圀が果たした役割の大きさが見えてくるだろう。そして、現代に生きる僕らも光圀と同じように、日々信念を持って決断しているか、つまり「義」を行えているかと、改めて考えさせられる。時代は違えど、現代にもそれぞれが果たせる「大義」はきっとあるはず。
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「富士見高原Iターン物語」村上方子
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
横浜で編集者として働いていた著者が、結婚11年目の37歳のときに夫と長野県の富士見高原に移り住む。そのきっかけや苦労、新しい土地での生活を描く。
偶然にも著者がその決断をしたのは現在の僕と同じ年齢。多くの人にとって「どう生きるべきか」「幸せとは何か」自らに問いかけ、行動を起こそうと思う年齢なのかもしれない。それでも実際に行動が起こせる人はわずかなのだろう。本書はそんな迷っている人の背中を押してくれるかもしれない。
序盤では、著者と夫もが、2人の子供を抱えながらもその人生の一大決心をする過程が描かれている。もちろんそこには、仕事、住居、友達、両親、子供の学校など様々な問題が発生する。そんな問題をひとつづつ乗り越えていくのだ。その様子から、行動を起こすには、ある程度の決意と覚悟とある程度の無鉄砲さが必要だと思えてくる。
印象的なのは、著者が何度も繰り返し言っているように、どこにいっても人間関係にわずらわされずに生きる事などできないということ。
後半はまさにそんな地域の人間関係に入り込んで地域に貢献しようと生き生きと毎日を送る著者の様子が描かれる。「こんな生き方もあるのだ」と改めて自分の生き方を見つめ直
す機会になるだろう。
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「宮本武蔵(四)」吉川英治
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)との勝負に勝った武蔵に、その弟伝七郎(でんしちろう)が再び試合を申し込む。後がなくなった吉岡道場がなりふり構わない行動に走り出す。
宮本武蔵の第4弾である。本書の見所はやはり武蔵と吉岡道場ということになるが、個人的には再開を果たした武蔵とお通(つう)の場面が特に印象に残った。武蔵はお通(つう)の武蔵に対する想いを受け入れつつも自らの剣に対する想いを吐露する。
1つの道を極めようとしながらも、その過程で思い悩み葛藤する武蔵の姿は、長い時を隔てた現代の人でも共感できることだろう。読者は何か忘れていた情熱を思い出すかもしれない。
そして、吉岡道場との対決は佳境に入っていく。
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「島はぼくらと」辻村深月
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
冴島という瀬戸内海にある架空の島で生活する4人の高校生、朱里(あかり)、衣香(きぬか)、源樹(げんき)、新(あらた)を描いた物語。
冒頭では登場人物達の様子から、日本で島に住むということがどういうことかがわかるだろう。朱里(あかり)、衣香(きぬか)、源樹(げんき)、新(あらた)は毎日島の外の高校へ通い、フェリーの時間のせいで部活に所属する事が難しくなる。子供達は、大学になる島の外へ出て行くので島の大人達は「一緒にいられるのは18年」という思いで子供を育てる。また、小さな子供を持つ母親にとっては医者が島にいるかいないかが非常に重要なのである。
本作品では単純に島の人々の文化や生活だけでなく、そこに移住してくるIターンの人々を物語に取り入れている。どこからかやってきたウェブデザイナーや、かつでのオリンピック水泳選手などが島に住んでいて、彼らの様子も物語を面白くしている。
離島とはいえ技術などの変化の波には逆らえず、それゆえにさまざまな問題が起こる。本書はそんななかで島の人々の様子を高校生の4人を中心に描くのである。
印象的だったのが地域の活性化の仕事の一部として島に訪れる若い女性ヨシノの存在である。自らの利益を度外視して人に尽くすように見えるヨシノの振る舞いに朱里(あかり)、衣香(きぬか)には理解できないのである。
辻村作品からは特に新しい情報が得られる訳でもないが、いろんな立場の人の気持ちが見えてくる気がする。悩みを持たない人はいないし、人をうらやまない人もいない。本書もそんな人の心が見えてくる温かい作品に仕上がっている。
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「ガウディの伝言」外尾悦郎
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スペインのサグラダファミリアの建築に関わる日本人外尾悦郎(そとおえつろう)がサグラダファミリアやガウディ、そしてその仕事の内容について語る。
未だ建築中のサグラダファミリア。最近になって2026年に完成するとされているが、その長い間どのようにその建築は進められているのだろうか。もともとガウディは設計図を書いたりせずに建築を進めることが多かったという。サグラダファミリアも例外ではなく、建築家や彫刻家たちはガウディの思いを汲み取って建築を進めなければならない。序盤では著者がそのような過程を経てガウディの思いを形にするまでのエピソードが綴られている。
その中で著者が繰り返し語っているのが、機能と装飾が互いに補い合うガウディの建築の理念である。サグラダファミリアの装飾は単純に装飾としての意味だけでなく、建物の弱い構造を補う意味ももっているのだという。この考え方は建築だけでなく、機能と美しさを同時に考えなければならないデザインのすべてにおいて重視すべき事なのだろう。
また、ガウディの生涯が語られる中で思ったのは、大富豪エウセビオ・グエルとの出会いがどれほど大きかったかということ。天才は努力だけでなく多くの運に恵まれているのだと改めて思い知った。グエルとの出会いがなければガウディは誰の記憶にも残らずに歴史に埋もれていった事だろう。
さて、これだけ長い間建築が続けられていくと、なかには建築開始当初の理念から逸脱する部分もあるようで、後半ではそのいくつかが語られている。本来石で作られるはずだったものが途中からコンクリートになってしまったのもその1つである。確かに実際僕が訪れた際にどこか期待した重厚さが感じられずハリボテのような印象を受けてしまったのもそのせいかもしれない。
今や世界でもっとも有名な建物の1つ、サグラダファミリアについて理解するのに最適な一冊。
【楽天ブックス】「ガウディの伝言」
「ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず」塩野七生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
古代ローマの物語。
ずっと読みたかったがその長さになかなか最初の一歩を踏み出せずにいたが、必ずしも一気読みする必要もなく気長に読み進めていければと思った。文庫版の最初の2冊で「ローマは一日にして成らず」という副題を持つこの2冊は、紀元前753年のローマの建国から紀元前270年前後のイタリア半島の統一までを描く。
グループや会社やチームなどの団体をうまく機能させようとするのは難しいことだがとてもやりがいのあることで、国というのはもっとも大きい団体と考えれるかもしれない。そして国をうまく機能するように作り上げることは興味深いことだが、それは人間の一生の数十年の間にできることではないのだ。だからこそ、本書が見せてくれる、ローマ人が国として試行錯誤をしてその機能をつくりあげていく様子は面白い。
歴史的事実はもちろん著者がスパルタやギリシャなど周辺国と比較してローマを語りその形態をわかりやすく解説してくれる。王政や共和制についての理解が深まるだけでなく、団体や組織が陥りがちな混乱や困難が見えてくるだろう。
まだ始まったばかりだが続きが楽しみだ。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語(1) ローマは一日にして成らず(上)」、「ローマ人の物語(2) ローマは一日にして成らず(下)」
「世界はひとつの教室」サイマル・カーン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ここ数年話題になっているカーン・アカデミーの創始者である著者サイマル・カーン氏がその設立までの経緯と現在の教育に関する考え方を語る。
カーン・アカデミーは、著者がいとこの教育のためにアップしたYouTubeの動画が多くの人に視聴されことから始まる。そのエピソードについてはいろんな雑誌やメディアで取り上げられているから聞いた事がある人も多いだろう。本書ではそんなきっかけを経て大きくなっていく過程でカーン・アカデミーに起こったことや著者が感じたことを書いている。
カーン氏によると、どうやら教育というのはもう100年以上も現在のスタイルで続いているのだそうだ。それは1人の教師が語り、数十名の生徒が聞くというスタイルである。カーン氏が主張するのは、世の中の変化にあわせて、いろいろなものが改善され進歩していく中で、教育も同様に発展していくべきだということである。
今の教育スタイルでは早く理解した人は先に進む事を許されずただ退屈な時間を過ごし、理解が遅い人は授業のスピードについていけずに落伍者となるのである。また、カーン氏は現在の理解度をはかるテストについても疑問を投げかけている。例えば80点や90点で合格とするテストがあるが、それはつまり1割、2割を理解していないということで、そのまま次に進んでしまうのは大きな問題だという。
そして後半では、若い生徒たちだけでなく、社会人となってからの教育についても触れている。一生学び続けることの重要性かそのための環境づくりなど、いろいろ考えさせられることが多いだろう。
授業料が払えない学生やいじめ問題など、教育が注目を集める中、カーン氏の世の中の教育を少しでも良くしようという気持ちが伝わってくる。自分でも何か世の中に役立つことを始めたくさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「世界はひとつの教室」