「An Incomplete Revenge」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ある田舎町の不動産の購入を考えているJames Comptonはその周辺で起きている不審火を懸念して、Maisieにその物件の調査を依頼する。そこは毎年都会から多くの人がHopの栽培に訪れ、ジプシー達も住む、地元民とそれ以外の人との不和を抱えた町だった。
Maisie Dobbsシリーズの第5弾である。ロンドンに拠点をすえて活動する女性探偵Maisieを描いており、毎回物語のなかで戦争の悲惨さを訴える点が本シリーズの特徴である。今回は田舎町を舞台としており、この町も多くの若者を戦争で失った悲しい町である。この町で、毎年同じ時期に発生する不審火をMaisieが調査することによって、少しずつ町の抱える秘密が明らかになっていくのである。
興味深いのは、Maisieが町のはずれに住んでいるジプシーたちと関わりを持つ点である。やがてMaisieの祖母も同じジプシーの出であることが明らかになる。ジプシー達から「救世主」とされたMaisie。1人のジプシーの奏でる美しい音色に触れて、Maisie自身も新たな方向に感覚を育んでいくのである。
また、植物人間となってしまったかつての恋人で死期が迫っていることを知り、ずっと避けていたその母親との再会を決意する事になる。5作目となる本作品だが、いまだに物語が力は健在である。本書が第1弾以外、日本語化されていないのが本当に残念である。

「小さなチーム、大きな仕事完全版 37シグナルズ成功の法則」ジェイソン・フリード/デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン

「小さなチーム、大きな仕事完全版 37シグナルズ成功の法則」ジェイソン・フリード/デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
小さなチームで大きな成果を上げる方法や利点について解説する。
インターネットが普及し、便利なインターネットツールが広まった今、それを利用すればもっと効率よく働けるはずなのに、多くの企業は同じ場所に集まって朝から晩まで仕事をすることを続けている。会社にいる時間が長いことが、会社に貢献している、とみなされる。そんな考え方に違和感を感じている人にとっては本書はぴったりだろう。
いくつか今の職場の人に聞かせたい内容もあったので印象的な言葉をあげると、

仕事依存症はバカげている
無用な人は雇わない
履歴書はばかばかしい
従業員はガキではない

などである。
僕自身も先日面接に行った企業には履歴書を持っていってしまったので、意味のない習慣にとらわれてしまっているのかもしれない。また、人数が多いほど優良企業という考えに縛られて、むやみに人を増やし、人がいるからしなくてもいい仕事を増やす、という悪循環も非常に思い当たることが多い。人を増やすより減らす方が大変だから、ベストな人数を常に意識すべき、と本書は語る。
いつかそんな会社を作ってみたい、と思わせてくれる。
【楽天ブックス】「小さなチーム、大きな仕事完全版 37シグナルズ成功の法則」

「ダライ・ラマ こころの育て方」ハワード・C・カトラー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
精神科医であるカトラー博士が、ダライラマと対談を繰り返すなかで「人間の幸せ」について語り合う。
「あなたは幸福ですか?」という質問に迷う事なく「ええ、間違いなく」と答えるダライ・ラマに、カトラー博士は人間が幸福を求めて生きていくなかで遭遇するさまざまな障害について質問をぶつけていき、それぞれの質問に真剣にわかりやすくこたえようと努めるダライ・ラマの言葉から、読者自身も幸福になるための多くを学ぶ事ができるだろう。

例えば、誰かに対して怒りを感じた時、その人は100パーセント否定的な性質の人物だと考えがちです。それは、誰かに強くひかれた時、その人を100パーセント肯定的な性質をもつ人物だと考えたがるのと同じです。しかし、こういう認識のしかたは現実に即したものではないのです。
敵は忍耐を実践するために必要な条件です。敵の行動がなければ、忍耐や寛容が育まれる可能性もないことになります。

また、本書のなかでダライ・ラマとカトラー博士の話し合いの様子を知るなかでダライ・ラマ自身の人間性も見えてくる。その場にいるだけで人を引き寄せ、言葉をかわした人間に涙させるようなダライ・ラマという人間やその成長の過程にも興味を持った。
あまり読みやすい本ではなかったが、本書を読んだ後、きっと読者は少し幸福に近づくことだろう。
【楽天ブックス】「ダライ・ラマ こころの育て方」

「究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる」ジョフ・コルヴァン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
タイガーウッズもモーツァルトのように、世の中に「天才」として語られる人たちは決して生まれながらにして天才だった訳ではなく、それに見合う努力をしてきた。それではそんな「天才」を作りあげる方法、つまり「究極の鍛錬」はどのようにして成し遂げられるのだろうか。

生まれつきの才能というのが過大評価されるなかで、本書では「天才」と呼ばれるまでに一つの分野でたぐいまれなる能力を伸ばす方法についていくつかの例を交えながら説明する。その方法「究極の鍛錬」に必要な要素として以下の要素を挙げている。

(1)しばしば教師の手を借り、実績向上のため特別に考案されている。 
(2)何度も繰り返すことができる。
(3)結果に関し継続的にフィードバックを受けることができる。
(4)精神的にはとてもつらい。
(5)あまりおもしろくもない。

基本的には「天才」は努力によって作られるという内容なので、「自分には才能がない」と諦めていた人も希望を持てる内容と言えるだろう。また、身体能力に依存するスポーツや音楽の分野ではかなり若い時期に始める必要があるとはいえ、ビジネスなどの分野では年齢に関わらず一生能力を伸ばすことができるという点も僕らの将来を明るくしてくれる。

しかし、本書は興味深いことにこんな警告も与えている。「究極の鍛錬」によって「天才」と言われるほどの技術を身につけるためには、人間関係などの人生における多くのものを犠牲にし、しばしば周囲の怒りを買う事も多いのだという。そこまでしてそれほどの能力を身につける事が果たして幸せな人生と呼べるのだろうか。

また、忘れてはならないのが、本書は決して「生まれつきの才能」の存在を完全否定しているわけではないということ。例えば体格のように「究極の鍛錬」においてもどうしようもない要素が技術を左右することは往々にしてあるのだという。「究極の鍛錬」によってある分野における能力を伸ばすために多くの時間を費やそうとしても、その分野で「天才」になるために必要な「生まれつきの才能」が欠けているかもしれないという可能性は考慮する必要があり、もしかしたら、成し遂げる事のできないことのための「究極の鍛錬」によって人生を無駄に費やす事になるかもしれないのだ。そのリスクを冒してでも自分をひたすら信じて「究極の鍛錬」をすることができるのだろうか。

自分自身の仕事の時間や趣味の時間の過ごし方を改めて考えさせてくれる1冊。僕は常に「究極の鍛錬」ができる環境に身を置いているだろうか。
【楽天ブックス】「究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる」

「日本人のここがカッコイイ!」加藤恭子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本に滞在する36人の外国人に日本が日本について語る。
日本が賞賛されるようになったのはいつからだろう。本書では日本の文化や人や教育について日本に長く済む外国人が語る。日本の個性として僕らが簡単に思いつくものもあれば、考えもしなかったものまで外国人目線ゆえの驚きを与えてくれる。世界の常識を知るのにも、日本の文化を知るのにも役立つことだろう。
本書を通じて多くの外国人が語っているのが東日本大震災の後の日本人の様子である。混乱のなか暴動や略奪を起こす事もなく列を作って秩序を持って行動するところが外国の人にとっては驚きなのだという。また、日本人のおもてなしの心や物事に対するこだわりを賞賛する人も多い。
一方で、働き過ぎや、家族で過ごす時間の少なさ、妻が財布のひもを握っている点についての違和感についても語っており、生き方や家族との触れ合いかたを考え直すきっかけになるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「日本人のここがカッコイイ!」

「「やればできる!」の研究」キャロル・S・ドゥエック

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
すべての人間の能力は持っている信念に大きく依存する。本書はそんな前提に立って能力を伸ばすための心の持ち方を語る。
子供たちを教室に集めてまずは易しい問題を解かせる。続いて難しい問題を解かせようとすると子供によってその反応は異なるのだと言う。すぐには解けない難しい問題を楽しむ子供もいれば、難しいとわかった瞬間に取り組む事をやめる子供もいる。本書では前者の子供が持っているような考えを「しなやかマインドセット」と呼び、「人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができるという信念」とする一方で、後者の子供たちの持つ信念を「こちこちマインドセット」と呼び、「自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらない」と信じているのだと言う。基本的には本書はその2つのタイプの信念の利点と欠点を実例を交えながら説明していく。
もちろん本書は「しなやかマインドセット」こそ成長するために必要な信念であるという立場をとっているが、本書が興味深いのは、どのような成長環境が「こちこちマインドセット」や「しなやかマインドセット」の信念を人の中に育むかという部分を示している点である。自分自身の生き方を向上させるだけでなく、部下や娘や息子たちの人生にも、本書の内容を知っているという事でいい影響を与えられるようになることだことだろう。
僕自身はどちらかといえば「しなやかマインドセット」の側にいると思っているが、本書では同じ人間の中にも分野によって、「しなやかマインドセット」と「こちこちマインドセット」が共存している事が多いという話は非常に面白く、夫婦関係も双方「しなやかマインドセット」を持っていてこそ長続きするという部分はぜひしっかり覚えておきたいと思った。
普段からプラス思考で、「しなやかマインドセット」の人にとってもいい刺激になる一冊。今自分自身をチャレンジしなければならない環境に置けているだろうか、本書を読めばきっと自分の人生を見直すことだろう。

今日は、私にとって、周囲の人たちにとって、どんな学習と成長のチャンスがあるだろうか。

【楽天ブックス】「「やればできる!」の研究」

「ロングテール 「売れない商品」を宝の山に変える新戦略」クリス・アンダーソン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インターネットの普及によって、ニッチ商品の集積が、メガヒットに匹敵する利益を上げる時代がやってきた。本書はそんな「ロングテール」について語る。
ロングテールという言葉を説明するときに必ずといっていいほど一緒に語られるのはオンラインショップamazonだろう。amazonは実際の店舗を持たないからこそ、限られたスペースに何の本を置くべきか、という一般の書店が常に考えなければならない問題に悩まされることがない。その結果amazonでしか販売されないニッチな商品は、それぞれは小さな売り上げでしかないが、全体ではヒット商品に匹敵するほどの利益になるのだ。
これは単にオンラインショップによって販売スペースを考える必要がなくなったからできることではなく、購入者側にもニッチな商品についての情報を得られる手段があってこそ実現できる。過去そのような情報は専門誌や知人からの紹介で得るしかなかったが、専門誌もある程度の専門性までしか扱わないし、ニッチな共通趣味を持つ知人を見つけるのも難しかった。しかし、この点でも、インターネットがSNSやブログなどを通じてその手段を提供してくれるのだ。
この「ロングテール」の減少はもちろん本の販売だけでなく様々な分野で起きているという。働き方や、時間の使い方、服装や住む場所など。ここ数年のCDの販売量やテレビの視聴率を過去と比較すればわかるように、インターネットが実現した多様化によって、「ヒットを狙う」という考え方がすでに機能しない世の中になっているのだ。
僕らは多様化を受け入れる方向に生き方を改めるべきなのだろう。世の中の多くの人や企業がロングテールに適応できていないことを毎日感じている僕の考えをより明確にしてくれる内容だった。
【楽天ブックス】「ロングテール 「売れない商品」を宝の山に変える新戦略」

「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ポンペイウスと敵対したユリウス・カエサルがルビコン川を越える紀元前49年から、カエサルの暗殺の後の紀元前30年までを描く。
「ブルータス、お前もか」というセリフでカエサルがブルータスによって殺されるということを一般的な知識として持っている人は多いだろう。しかしカエサルやブルータスがどのような人物で、どのような経緯でそこに至ったかを知る人は少ないのではないだろうか。
本書を読み終わった時の率直な感想は、「カエサルは偉大な人間だった」ということである。先の時代を見る能力と、人を操る能力を見事に備えていて、それ故に戦いにも政治の能力にも長けていたのである。同時期の他の権力者と比較して抜きん出ているだけでなく、現代においてもこれほど能力のある人にはそうそう出会えるとは思えない。
本書で扱っているのはすべて紀元前の出来事である。僕らはなぜか、「紀元前」と聞くと大昔の印象を持つが、本書で描かれているローマの実情を見ると、すでに社会がある程度出来上がっていたことがわかる。「社会」という言葉は非常に曖昧だが、政治や裁判やコミュニティとするとわかりやすいかもしれない。ちなみに、現在の前の暦であるユリウス暦もカエサルの命によって作られ、その時代ですでに11分程度の誤差しかなく、ユリウス歴は1582年にグレゴリウス暦にとって変わられるまで1500年以上も使われたというから驚きである。
また、もう一人の誰もが聞いた事のある有名な人物としてクレオパトラも登場する。美人としては有名だが、彼女がどのような存在だったのか本書を読むまでまったく知らなかった。
このカエサルの時代はローマのもっとも面白い部分なのではないだろうか。カエサル自身が書いたという「ガリア戦記」もぜひ読んだみたい。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後(上)」「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後(中)」「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後(下)」

「A Mind for Numbers」Barbara Oakley

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
効果的に勉強するためにはどうすればいいのか。著者自身も学生時代は数学の能力をまったく伸ばす事が出来なかったが、軍隊に入ってロシア語を学び数学の必要性を感じてその方法に気付く。多くの例とともに効果的に学ぶ方法を語る。

数学や試験や言語だけでなく、学ぶというのは運動や楽器演奏などすべてに適応されるもので人生を生きていくうえで欠かせないもの。しかし、勉強しているけれども成績が上がらない、練習しているけれど上達しない、ということはたびたびある。誰もが1度は、●時間勉強したけどこの時間に意味があったのだろうか。と疑問に思うような時間を経験した事があるだろう。上達しない練習に時間をさくのであればその時間を他の事に費やした方がいいだろう。そういう意味では、人生を豊かに効率に過ごすために方法を本書は教えてくれると言える。

まず印象的なのは、Diffuse ModeFocus Modeの使い分けである。僕らは勉強するときに「集中する」ことを良いこととしているが、本書では、Diffuse Mode、つまり集中していない状態も同じように効果的に学ぶためには大切だと語る。もちろん集中していない状態が進歩を助けるのは、集中している時間に積み重ねたものがあってこそであるが、それによって集中していない時間にも脳が無意識下で情報を処理し続けるのだという。集中している時間と集中していない時間を適切に配置することで効率的に学ぶことができるのである。

また、「勉強した気になってしまう行動」や、「無駄な勉強」というのにも触れているので、知っておくと非常に役に立つだろう。例えば僕自身も過去やったことがあるのだが、蛍光ペンで教科書の重要な部分を塗っていくという方法。これは手を動かした事によって学んだ気になってしまうが実際にはほとんど効果がないのだそうだ。また、教科書を読んだだけでわかった気になるのもしばしば陥りがちな無駄な勉強法である。多くの教科書はそれぞれの章末に問題をつけているが、多くの人はこの重要性に気付いていない。本書では、必ず自分で問題を解いて自分の理解をテストすることの重要性を強調している。

その他にも、勉強を先延ばししてしまう人がとるべき対策方法や、多くの勉強に適用できそうな記憶方法についても触れている。向上心のある人には多いに役立つ内容と言える。

「ビジョナリー・カンパニー(2)飛躍の法則」ジェームズ・C・コリンズ

オススメ度 ★★★★☆
前作「ビジョナリー・カンパニー」で取り上げられた企業の多くは最初から偉大だった。偉大な経営者に恵まれた、初期の段階で偉大な企業としての形を作り上げた。しかし、今偉大ではない企業が偉大になるためにはどうすればいいのか、本書はそんな問いに答えようとする。
第一弾の「ビジョナリー・カンパニー」はなかなかタイミングが合わなくてまだ読んでいない。それでもいろいろな本を読んでいるとこの「ビジョナリー・カンパニー(2)」こそ良書との声をよく聞くため、本書を先に読む事になった。冒頭にも書いた通り、本書は第一弾とは視点を変えて企業を分析している。つまり、偉大な企業ではなく、偉大になった企業を選別しその本質を分析していったのだ。
本書のなかで取り上げられている内容はどれも印象的だったが、なかでも第三章の「だれをバスにのせるか」の章は印象的であった。この章で言っているのは、偉大な企業は最初に人を選び、目的地は後から決める、というのである。個人的には偉大な企業というのは常に明確な目的地、つまりビジョンや哲学を持っていると思っていた。偉大になりきれない多くの企業は、才能豊かな人間がいても会社の向かい目的地がはっきりしていないせいでその能力を最大限に活かしきれていないのだと思っていた。しかし、本書では人の選択こそが重要で目的地はその選択した人との間で決めていけばいい、というのである。
また、もう一つの驚きとしては、良い企業として連想しがちな顧客重視や、品質重視の考え方などが、必ずしも偉大な企業になるためには必要ないとしている点である。

これだけは必要不可欠だと思える価値観でも、永続する偉大な企業のなかにかならず、その価値観をもたない企業がある。たとえば、顧客に対する情熱をもっていなくてもいい(ソニーはもっていない)。個人を尊重する価値観はなくてもいい(ディズニーにはない)。品質重視の価値観はなくてもいい(ウォルマートにはない)。社会への責任という価値観はなくてもいい(フォードにはない)。これらがなくても、永続する偉大な企業への道で障害にはならない。

噂に違わぬ良書。もしこれから僕が起業に関わることがあるならぜひいろいろ参考にしたい。
【楽天ブックス】「ビジョナリー・カンパニー(2)飛躍の法則」

「アルゴリズムが世界を支配する」クリストファー・スタイナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アルゴリズムについて世の中の実例を交えて紹介する。
25年前証券取引所はディーラーで溢れ返っていた。ところが今では人はほとんどいない。コンピューター・プログラマーのピーターフィーが、プログラムを使って取引をすることを始めてからその方法は世界に広まり、今では世の中の多くの取引がコンピューターによって行われているのだ。
こんな冒頭の今日深い話に一気に引き込まれてしまった。僕らは確かにコンピューターがいろいろな事を行うのを受け入れている。しかし、どの程度のことまでがコンピューターにできて、どの程度の事から先が人間にしかできないのか、それを正確に把握しているだろうか。本書を読むとコンピューターの能力、(つまりアルゴリズム)の可能性を過小評価していたことに気付くだろう。
中盤ではコンピューターがクラシック音楽を作曲する話について触れている。今ではベートーベンやモーツァルトの曲のように人々を感動させる曲をコンピューターが作る事ができるのだという。そんなコンピュータの能力はもちろん興味深いが、むしろ面白いのは、人間はコンピュータが作った曲に感動するが、それはそれが「コンピューターが作った曲」だということを知らない場合なのだという。「これはコンピューターが作った曲」ということを知った途端に「何か情熱が感じられない」と言い出すのが面白い。
本書を読んで感じたのは、アルゴリズムにできないことはなくなるだろうが、アルゴリズムの社会への普及を阻んでいるのは技術ではなく、人々の意識なのだということだ。アルゴリズムやプログラムを深く理解することの必要性を感じた。

参考サイト
http://www.ycombinator.com
アルゴリズムの背後にある高度な数学な世界を議論する世界でもっとも影響力のあるサイト

【楽天ブックス】「アルゴリズムが世界を支配する」

「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」ダニエル・ピンク

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
過去長い間、数学や物理などの左脳が得意とする技術が高く評価されてきた。しかしこれからは右脳の時代に向かっているという。そんな時代で生き抜くための方法やそのための能力を高める方法を著者が語る。
著者ダニエル・ピンクが言うには数学や物理や会計などの分野はコンピュータができるようになるか、またはインターネットの高速化も手伝って、インドや中国などの人件費が安い地域にアウトソースされ、先進国ではそれ以外の新たな能力が必要とされるという。今までのような左脳の能力に頼った生き方を抜け出さないと、新たな時代に適応できないというのである。
著者の言う、右脳が必要とされる能力とは、例えば、事実を印象的に伝える方法だったり、別分野の事柄を結びつけて新たなものを考え出す能力だったり、デザインだったりである。デザインに重みを置いている学校は成績が良いし、会社は業績がいい、などそれぞれその必要性を裏付ける物語とあわせて説明してくれるから興味深い。
新たな時代を生きるための「6つの慣性」を次のように表している。

「機能」だけでなく「デザイン」
「議論」よりは「物語」
「個別」よりも「全体の調和」
「論理」ではなく「共感」
「まじめ」だけでなく「遊び心」
「モノ」よりも「生きがい」

特に最後の「モノ」よりも「生きがい」という点に関しては、自分自身だけでなく社会全体が物質主義の先へ移行していることを僕自身も感じていたので、印象的であった。それぞれにその能力を鍛える方法として誰にでもできそうな方法が紹介されている。またそれぞれの知識を深めるための良書にも触れられている点がありがたい。世界の見方が変わる一冊と言えるだろう。

読みたくなった本
「Story-Substance, Structure, Style, and the Principles of Screen-writing」
「レトリックと人生」ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン
「マンガ学-マンガによるマンガのためのマンガ理論」スコット・マクラウド
「千の顔を持つ英雄」ジョーゼフ・キャンベル
「世界でひとつだけの幸せ:ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生」
「フロー体験:喜びの現象学」
「このつまらない仕事を辞めたら、僕の人生は変わるのだろうか?」
「心はマインド……「やわらかく」生きるために」
「ダライ・ラマ こころの育て方」

【楽天ブックス】「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」

「Fluent in 3 Months」Benny Lewis

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多くの言語を話す著者が言語学習の方法や考え方を語る。
著者自身スペインにスペイン語を学びにいって半年以上経過しても何も話せなかったという経験を持つ。そんな著者が今では10言語以上を自在に操るというのだからその内容は言語学習者にとっては有益な物ばかりである。最近書かれた本なので、インターネットやスマートフォンを使って効果的に言語学習をするためのツールや方法がたくさん書かれている。
面白かったのは、インターネットのチャットを利用するという方法。もちろんそれぐらい誰でも思いつくのだが、著者が紹介するのはあえて女性の名前でログインするということ。そうすればいろんな男が話しかけてくる、というのである。これは学ぶ言語によらず世界共通なのだろう。
また、言語学習の方法だけでなく、言語学習者が陥りがちな考え方のワナについてもふれている。そもそも「流暢に話す」の定義は何か。母国語でできないことをその学習言語でやろうとしていないだろうか。「言語が話せる」とはどのレベルのことを言うのか。「訛り」がまったくなくなるのが理想なのか。
そして、多くの言語学習者がそれを諦める際に言う言い訳についても著者は一蹴している。「準備ができたらネイティブと話す」と言っていつまでも一人で勉強している人に対しては「準備ができる日など永遠に来ない」と。
言語学習や異文化交流など、改めてその意味を考えさせてくれる一冊。著者が引用しているいくつかの名言が印象的だった。

The best time to plant a tree is twenty years ago. The second best time is now.
The difference between a stumbling block and a stepping stone is how high you raise your foot.

「迷子の王様 君たちに明日はない5」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リストラを迫られた企業に対して、早期退職を促す会社で働く村上真介(むらかみしんすけ)の物語。
「君たちに明日はない」シリーズの第5弾で完結編である。今回もこれまでと同様に退職か会社に残るかを迫られた3人の男女の人生に迫る。化粧品メーカーでマネージャーを務める33歳の独身女性。電機メーカーで液晶テレビの製作に関わっていた42歳の男性。本が好きで書店に勤める33歳の女性の3人である。
いずれも一通りの社会人生活を送り、楽しむことも楽しみつくして生きる事意味を考え始める時期で、自分の好みや性格やコンプレックスなどを考えて、人生の岐路に立つ彼らの考えはどれも共感できる。特に2つめの親子2代にわたって電機メーカーで働いた男性が、退職を勧められて父親に助言を求めにいくシーンが印象的である。時代が変われば生き方も変わる。高度経済成長の真っただ中、「いい物が人を幸せにする」という時代に電機メーカーで働いていた人間と、すでに物が溢れ、すべての家庭に必要なものが行き渡った状態で、働いている人間とではいろいろ状況も異なるのだろう。結局人生の決断は本人にしかできないのだ。
三者それぞれに家族や友人、妻など周囲の人が大きく影響を与えているのが見える。

世の常識と今の自分に暫時寄り添いながらも自分の正しさを、そして自分の常識を常に疑い続けるものだけが、大人になってからも人間的に成長し続けることが出来るのではないか。

そして、終盤、真介は社長に会社をたたむ事を告げられる。新たな道を模索する真介は過去に自分が退職を勧めた人々に会ってその後の状況を聞くことにするのである。
終わってしまうのが悲しくなるほど、生き方の意味を考えさせてくれるシリーズ。もう一度全部読み直してみたくなった。
【楽天ブックス】「迷子の王様 君たちに明日はない5」

「Talent Code」Daniel Coyle

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ブラジルはなぜ多くの有名なサッカー選手を長年にわたって排出するのか。ロシアの一つしか室内コートを持たないテニスクラブはなぜ世界で20位以内の女子テニス選手をアメリカ全体よりも多く生み出すのか。そんな問いかけとともに、著者は才能の育成のための方法を語る。

最初に著者が説明するのはDeep Practiceというもの。現在の持っている技術の及ぶぎりぎりの場所で練習を繰り返す事により、技術はもっとも効果的に伸びるのだという。様々な実例や過去の事実を交えてその内容を説明する。そして最初の問いかけ、ブラジルが有名なサッカー選手を生み出す理由にも触れる。その答えは、ブラジルがずっと強かったわけではなく、ペレの出現以降急激に力をつけたことや、昨今のブラジルの世界の舞台での失速を見事に説明してくれる

また、後半では幼少期にどのように子供に接することが才能を育むために効果的なのかについても、いろいろな実例から説明している。才能というのはDeep Practiceに長い時間を費やす事によってもっとも効果的に伸ばす事ができる。つまり、子供達は、結果よりも努力の量を評価されてこそ長い時間を練習に費やそうとするのである。

本書で語られているのはスポーツや音楽の発展に関するものばかりだったが、Deep Practiceはあらゆる面で有効に見える。僕らは日常生活を送る中で、いろいろな技術を改善しようと努めているが、果たしてしっかりとDeep Practiceできているだろうか。そんなことを考えさせられる。また、子育てをしている人は子供への接し方を考えさせられるだろう。

「Leading at a Higher Level」Ken Blanchard

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
いくつかの企業を紹介しながら、リーダーシップのあるべき姿を説明する。

一般的な組織はピラミッド型で上に行けばいくほど決断できる部分が大きくなるが、理想の組織は顧客に近い下の人間ほど決断できる部分を大きくすることで、それぞれの社員もモチベーション高く効果的な組織を作る事ができるという。

真のリーダーは、そんな組織のために顧客に接する部下達に奉仕(serve)することが理想なのだと言う。どうしても組織は、部下は上司に奉仕(serve)する形になりがちだが、それが顧客よりも上司を重視してサービスやモチベーションの低下に繋がるのである。また、後半では組織に「変化」を起こすために行うべき事についても触れている。常に組織のなかの多数派である「一般社員」目線で考えことの重要性を教えてくれる。

残念ながら僕が今従事している業務に適用するのは難しそうだが、理想の組織を作りたくさせてくれる一冊。

「志高く」井上篤夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ソフトバンクの孫正義(そんまさよし)の半生を描く。
孫正義(そんまさよし)を知ったのは、ソフトバンクが携帯のキャリアとして表舞台に出てきたころだろうからせいぜいここ10年以内である。しかし、本書では有名になる以前の孫正義(そんまさよし)の人生が描かれている。
必ずしも新しい技術は世の中のために使われるとは限らない、その技術を企業が世の中のためでなく、自分たちの企業の利益のためだけに使おうとする場合もある。本書で描かれているMSX戦争がまさにそれである。
こう考えてみると孫正義(そんまさよし)はビルゲイツやスティーブジョブスとともに世の中が一気にデジタル化するそのど真ん中にいたのだとわかる。また、ジョブスと同じように孫正義(そんまさよし)も一時期生死の境をさまよったことがあるという共通点は何か考えさせられるものがある。きっと死の淵に近づいたことによって人生の意味を一般の人よりも強く考えるようになるのだろう。
このような伝記を読むと毎回思う事ではあるが、今回も自分が世の中にほとんど何も貢献していないことを情けなく思ってしまう。孫正義(そんまさよし)に対してはまありいい印象を持っていたわけではないが、本書を読んで少し見方がかわった気がする。
【楽天ブックス】「志高く」

「Pardonable Lies」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦時中ドイツ軍に撃ち落とされて死んだとされた息子。しかし妻は病気で死ぬ間際、息子は生きているはずだから探して欲しいと夫に依頼する。夫は妻との最後の約束を守るため、Maisieに息子が死んでいる事を確認するよう依頼する。
Maisie Dobbsシリーズの第3弾。終戦直後の混乱のヨーロッパを舞台に描く探偵物語で、いずれの物語も戦争中に人々が負った傷に深く関連して描かれる点が面白い。依頼によって戦争中に戦闘機のパイロットをしていた男の消息に迫る中、親友で兄3人を戦争で失ったPricillaからも長男のPeterがどこで死んだのか突き止めて欲しい、と依頼される。
僕らは普段、歴史上の事実からしか戦争というものを捉える事ができないが、本シリーズを読むと、戦争が終わって10年以上経過しても、人々の生活や心のなかに戦争の傷が残っている事を感じさせてくれる。
過去と向き合う親友を見て、Maisie自信も過去と向き合おうとする。戦争中に看護婦として働き、恋人を失った野戦病院の場所をもう一度訪れる事を決意するのだ。
ややできすぎな偶然と感じる部分もあったが、戦後の人々の苦しみを登場人物の感情や行動を通じて伝えてくれる一冊。

「十字軍物語(2)」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
聖都エルサレムを奪還した十字軍だが、イスラム側も徐々に反撃を始める。
エルサレム奪還から時を経て、十字軍側は防衛する側にまわるのだが、そのなかで重要な役割を担うのが聖堂(テンプル)騎士団と聖ヨハネ騎士団である。本書ではこの2つの騎士団について何度も触れられており、著者のこだわりが感じられる。実際その存在は非常に魅力的に見える。聖堂(テンプル)騎士団は「ムスリムは殺せ」という信念でその信念に賛同する物は誰でも受け入れていたのに対して、聖ヨハネ騎士団はもともとは病院騎士団と呼ばれ、人々の病や怪我の治療にも尽くし、教育を受けた貴族しか受け入れなかったという。聖ヨハネ騎士団のそんな自らを律した存在がとても魅力的に見えるのだ。彼らが使っていた城塞に書かれていた文章がその哲学を表している。

おまえが裕福な出であろうと、それはそれでよい。おまえが知力に恵まれていても、それはそれでけっこうだ。また、おまえが美貌に生まれたのならば、それもよし。だが、このうちの一つであろうとそれが原因になって、おまえが傲慢で尊大になるとしたら、問題は別になる。なぜなら、傲慢とはその表われである尊大は、おまえ一人に限らずおまえが関係を持つすべてを損い汚し卑俗化してしまうからである。

また、聖ヨハネ騎士団が十字軍防衛のために利用した城塞もとても印象的である。特にクラク・ド・シュヴァリエについては図入りで解説されており、いつか実際に見てみたいと思った。
本書のなかで印象的な著者の言葉として、優秀な人材は同じ場所に集まるというものだ。実際、第一回十字軍の際には多くの優秀な人材が十字軍から排出されて、それがエルサレムの奪還へと繋がったが、本書ではイスラム側にサラディンなどの多くの優秀な人材が輩出され、エルサレムを奪い返されるのである。
【楽天ブックス】「十字軍物語(2)」

「恋歌」朝井まかて

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第150回直木三十五賞受賞作品。

三宅花圃(みやけかほ)は入院した師である中島歌子(なかじまうたこ)の部屋を整理する際にある書物を見つける。それは中島歌子(なかじまうたこ)の激動の半生をつづったものだった。

中島歌子(なかじまうたこ)、樋口一葉(ひぐちいちよう)など、名前は聞いた事があっても彼女達がどのようにして何年も語り継がれる書物を書いたのかどれほどの人が知っているのだろう。本書では徳川幕府末期、尊王攘夷の気運の高まる混乱のなかで生き抜いた中島歌子(なかじまうたこ)を中心に、その弟子である三宅花圃(みやけかほ)などと絡めて、当時の混乱の様子を描いている。

残念ながら当時の政情について知識が乏しいために本書の面白さを十分に味わったとは言えないが、すぐれた作品なんだろう。

三宅花圃(みやけかほ)
明治時代の小説家、歌人。著書『藪の鶯』は、明治以降に女性によって書かれた初の小説。(Wikipedia「三宅花圃」)
中島歌子
明治時代の上流・中級階級の子女を多く集め、成功した。歌人としてより、樋口一葉、三宅花圃の師匠として名を残している。(Wikipedia「中島歌子」)
天狗党の乱
元治元年(1864年)に筑波山で挙兵した水戸藩内外の尊皇攘夷派(天狗党)によって起こされた一連の争乱。元治甲子の変ともいう。(Wikipedia「天狗党の乱」)

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