「The Alice Network」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
子供を身ごもって母とフランスに旅行中のCharlieは、戦時中に行方不明になった従姉妹のRoseを探して、手がかりとして手に入れた一人の女性Eveを訪ねる。その女性は戦時中に女性の諜報活動として大きな役割をになったAlice Networkの一員だった。

それまで保守的な母の言う通りに生きてきて、子供を身ごもってしまったが故に、遠くのスイスで秘密裏に子を産んで元の生活に戻ろうと母と旅行していた際に、CharlieはRoseを訪ねて母の元から逃げ出して、唯一の手がかりとし浮上したEveという女性を訪ねる。EveとEveと行動をともにしていたFinnとの3人で心当たりとなった場所を訪ね回る中で、それぞれが少しずつ心を開き始め、お互いの過去を語りはじめる。

物語は 1915年の第一次大戦中にEveが諜報活動の採用を受けてAliceと出会い少しずつ諜報活動の重要な役割を担っていく場面を交互に展開していく。現在と過去の間が少しずつ埋まっていくのである。Eveの醜い手には一体何があったのか、その美しいAliceは今どうしているのか。読者は、多くの部分に興味をそそられて先へ先へとページをめくっていくだろう。

3人がフランスの様々な場所を移動するのが興味深い。パリなどいくつかの有名な都市しか知らない僕にとっては、聞いたこともない都市が実は戦時中は戦況を分ける重要な場所だったと知って驚かされた。また、戦時中の女性たちの行き場のない怒りややるせなさも、EveやLilyの行動を通じて知ることができた。そしてなにより、この物語は、実際に存在した女性Louise de Bettignies(コードネームをAlice Dubois)を題材としているという点も、本書を通じて初めて知った。機会があったらもっと調べてみたいと思った。

この本の著者Kate Quinnの書籍に触れるのは今回が初めてであるが、他の作品もきっと深い内容だろうと思わせてくれた。ぜひ、有名な作品から順によんでみたい。

和訳版はこちら

「ノースライト」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
建築家の青瀬稔(あおせみのる)は自らが設計し、高い評価を受けた吉野邸に、現在誰も住んでいないことを知る。自らが建築家としての思いを込めて設計した家の持ち主はどこへ行ったのか、青瀬(あおせ)は調査を始める。

主人公の青瀬(あおせ)がバブル期に建築家になったといことで、建築家の生き方が見えてくる。どちらかというと華やかに見える建築家という職業であるが、バブル時代の絶頂の後にやってきた不況のなかで多くの人間が離脱していき、建築家として生き残った人たちも小さな設計事務所で多くない旧雨量をもらいながら続けるしかないのだという。

そんな人生の浮き沈みを経験した青瀬(あおせ)は、自らの渾身の家を長野に建てるのだが、その家が本書の中心となる。建築家はクライアントに家を引き渡してからは不必要な干渉は避ける一方、「いい家は住んで初めてわかる」という言葉が示すように、自分の家の出来がどうだったのか、住んだ人間の感想を聞きたいと思うのだという。そういう流れ渾身の家が無人であることに気づいた青瀬(あおせ)は失踪した吉野家族を探し始めるのである。

一方で、離婚して数年経った妻ゆかりと娘日向子(ひなこ)との関係も40を過ぎた建築家の人生に深みを与えている。無人になった吉野邸で唯一の手がかりはそこに置かれていた椅子であり、ブルーノ・タウトという建築家によって作られたものと酷似しているという同僚の証言からその手がかりを追っていく。

その過程で、日本に長く滞在したブルーノ・タウトという建築家についても多く書かれており、その建築物や設計したものを見てみたいと感じた。ブルーノ・タウトの生涯については時間をとって別に調べてみたい。

そして、やがて青瀬(あおせ)は真相に迫っていく、最後は家族の感動の結末。これまでの横山秀夫作品ほど、一気に読ませる感じはないが、それでも最後はさすがといった印象。建築家、仕事と家族、いろんなテーマが詰まった一冊。

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「たゆたえども沈まず」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の美術を世界に広めるべくパリに渡った2人の日本人、林忠正(はやしただまさ)、重吉(じゅうきち)が、同じくパリで美術を生業とする2人のオランダ人と出会う。

2人のオランダ人とは、テオとフィンセント・ファン・ゴッホである。弟のテオは当時のフランスの主流派な絵画を扱う仕事をしながらも、浮世絵や印象派などの新しい芸術の流れに惹かれていく。一方で兄のフィンセントはテオの収入に頼って安定しない生活をしながらも、少しずつ絵描きとして生きることを目指していく。

今でこそ、印象派や浮世絵は絵画の一つの流れとして認知されているが、それまでの宗教画などの世界では当時異端として扱われ、よのなかに認められるまでに時間がかかったことがわかる。また1800年代には3回の万国博覧会が開かれるなど、パリが世界の文化の中心だったことが伝わってくる。本書に登場する林忠正(はやしただまさ)は実在の人物で、日本の文化や美術の普及に努めたことがわかった。本書の物語を通じて、世界的でもっとも有名な画家の一人であるゴッホの人生に、日本人や日本の文化が大きく影響を与えたことがわかる。日本人として誇らしさを感じさせてくれる。

ゴッホの狂気の人生は絵画に詳しくなくても知っている人は多いだろう。しかし、本書のように弟のテオとの関係のなかでその人生に触れるとまた違った面が見えてくる気がする。同じように、これまで美術の一派に過ぎなかった、印象派、浮世絵というものについても新たな視点を与えてくれる。

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「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」 森岡毅、今西聖貴

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ユニバーサルスタジオジャパン(以下USJ)躍動のきっかけとなったハリーポッターのオープンを決定づけた戦略的確率論について、2人の著者がそれぞれの手法を語る。

著者はどちらもP&G出身ということで、他にもストーリーを重視する文化などの本や戦略に関する本などP&G出身者による本をこれまでにも何度か読んでおりP&Gが優れた企業なんだと改めて感じた。

本書では、ハリーポッターをオープンしたことによる収益の増加の考え方を、丁寧に解説している。詳細な数学な計算方法はわからなくても、予測値の出し方の概要はつかめるだろう。一つ一つの考え方自体は特に複雑なことではないが、著者2人のすごいところは、それを突き詰めに精度をあげることに努めている点だろう。数学的に知りたい人用も、巻末に詳細の数式が書かれているので楽しめるのではないだろうか。

売り上げを規定する7つの基本的要素

認知率
配下率
過去購入率
エボークトセットに入る率
1年間に購入する率
平均購入金額

はぜひ覚えておきたい。

関東に住んでいるとUSJのことをほとんど知らないが、本書を読んで初めて興味を持った。ぜひ機会があれば行ってみたいと思った。

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「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」越前敏弥

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
学習塾や予備校の講師などの経歴を持ち「ダヴィンチコード」などを訳した経歴を持つ翻訳家としても活躍する著者が、日本人が間違いがちの英語を集めてそれを解説する。

英語の勉強も英検1級を取得したあたりでひと段落した感じだが、学べば学ぶほどネイティブとの語彙力の差は感じるばかり。定期的に英語力のさらなる向上に努めているなかで本書に出会った。

結構な英語上級者でも序盤のいくつかの例文を見ただけで自信が吹き飛ぶだろう。まったく意味がとれなかったり、完全に意味を真逆にとらえてしまう例文がいくつも含まれているのである。著者の詳細な解説によって、本書を一回じっくり読むだけでも英語力は一段階レベルアップすることだろう。

章と章の間に含まれている著者の対談の様子も面白い。印象的だったのは著者が日本語訳の重要性を強調している点だろう。昨今、英語教育は文法や日本語訳から、よりコミュニケーションという方向にシフトしているが、それによって「なんとなくわかった」気になってしまうのが危険だという。自分の理解したことが本当に正しかったかは日本語訳にして確認することで初めてわかるというのである。

続編があるならえひそれも読んでみたい。この著者の英語の書籍を全部読んでみたいと感じた。

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「慈雨」柚月裕子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
警察を引退したことをきっかけに妻と四国遍路の旅に出た神馬(じんば)。しかし、時を同じくして発生し世間を騒がせた少女誘拐事件は、16年前に神馬(じんば)が関わった少女誘拐事件に酷似していた。

なによりもまず、引退した警察官を主人公にした作品というのは事件解決の物語ではかなり珍しいのではないだろうか。そして、四国遍路の旅を警察物語でありながらここまで詳細に描写している点も印象的で、著者の緻密な調査を感じる。

さて、すでに警察官を引退しながらも、発生した事件が気になって、現職で娘の恋人でもある警察官緒方(おがた)と逐一連絡をとり、捜査状況を知るという流れで物語は進む。過去の事件を悔やみながら現在の捜査状況が常に気になり、同時に引退したということで妻と一緒の時間を大事にしたいという思いと、大人になった娘とその交際関係も気になるという、年配の男の葛藤の描き方がすばらしい。

後半は、娘との複雑な関係も明らかになっていく。

派手ではなく、警察の事件解決物語という使い古された手法でありながらも、描き方に今までにない新鮮さを持たせ、非常に深みを感じさせる作品。評価が高いことも納得である。何よりもお遍路巡りの旅に興味を持った。いつか体験してみたいと思った。警察物語など読み飽きたという読者に薦めたい。一読の価値ありの一冊である。

【楽天ブックス】「慈雨」

「朝が来る」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40を過ぎて一人の子供を育てる栗原清和(くりはらきよかず)、佐都子(さとこ)夫妻はときには近所づきあいでトラブルをかかえながらも幸せな生活を送っていた。そこにある日「子供を返して欲しい」と連絡が入る。

序盤は子育てと近所づきあいで悩む一般的な家庭の夫婦の物語だったが、一本の電話によって、実は子供の朝斗(あさと)は特別養子縁組によって授かった子供だと言うことが明らかになる。中盤以降は、栗原清和(くりはらきよかず)と佐都子(さとこ)が子供を切望して、朝斗(あさと)を授かるまでを描いいる。

そして、後半は、朝斗(あさと)をお腹に宿して、養子に出すと言う決断をするまでの母ひかりの様子が描かれている。子供のためを思いながらも、無力なひかりにできることは限られていて、少しずつ子供に誇りを持って向き合うことのできない大人になっていくひかりの様子がもっとも印象的である。一方で、そのような一般的には世の中から軽蔑されがちな立場にいる女性の
描写の仕方に、著者のやさしさを感じる。

あまり似た作品を思いつかない、一読の価値ありの一冊である。

【楽天ブックス】「朝が来る」

「転職の思考法」北野唯我

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
30歳になって転職に悩む男性を主人公は、キャリアコンサルタントとの出会いによって転職の考え方を学んでいく。そんな物語形式で転職のポイントを学べる作品。

印象的だったのは自分のマーケットバリューを測る三つの軸である。技術資産、人的資産、業界の生産性である。多くの人がキャリアを考えるとき、技術資産または人的資産のどちらかばかりを見ているような気がする。単純に収入をあげたいだけななら業界の生産性の方がその2つよりも何倍も重要なのである。さらに本書ではその三つの軸をさらに年齢という異なる視点で述べている。

キャリアとは20代は専門性、30代は経験、40代は人脈が重要なんだ

その他にも、「会社に行きたくない」と思いながらも転職に踏み切れない多くの人に響きそうな言葉がいくつかあったので抜粋しておく。

いつでも転職できるような人間が、それでも転職しない会社。それが最強だ。
君が乗っている船はそもそも社長や先代がゼロから作った船なんだ。他の誰かが作った船に後から乗り込んでおきながら、文句を言うのは筋違いなんだよ

これまでの転職のなかで悩み抜いて選んできたことが、本書によると大部分が正解だったことを知った。僕自身が転職で悩んでいる人がいたら伝えるであろうことを見事に言語化してるすぐれた作品。そして、このような本のなかでは珍しく物語形式で書いている点も評価したい。転職を考えている人にはぜひおすすめしたい。

【楽天ブックス】「転職の思考法」

「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」リーアンダー・ケイニー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2011年にスティーブ・ジョブスがなくなって、多くの人がアップルは衰退していくと思ったことだろう。しかし実際にはその後CEOの座に就いたティム・クックによってアップルは世界初の一兆ドルの企業となった。ジョブスとは多くの面で異なるCEOはどのようにしてアップルを進化させたのかに迫る。

正直この本に出会うまで、ジョブスの後のアップルのCEOを知らなかった。もちろん、名前を聞いたことはあったのしてもすぐに思い出せるほど認識していなかった。しかし、実際にはジョブスの死後アップルはさらに発展したと知って、どのようにティム・クックがアップルを導いたのかを知りたくなって本書を手に取った。

本書でもっとも興味深いのは、ティム・クックのものの考え方である。

世界を我々が発見したときよりも良い場所にして後に残す

これはティム・クックが繰り返し引き合いに出し、今やアップルという企業自体のものの考え方にもなっている言葉である。実際、アップルはジョブスの死後、一気に環境や自分たちの関係会社のケアや、慈善団体への寄付など、世の中に良い行いをする方向へ大きく舵をきったのである。また、ティム・クックは同性愛者であることを公開しており、それゆえにジェンダーマイノリティでや、アジア系、メキシコ系などの少数派に対する理解が強い。それも企業としての強みになっているのだろう。

本書のクライマックスは、サンバーナーディーノで14人の死者を出した狙撃事件の容疑者のiPhoneのロックの解除を巡ってFBIと争った場面である。悲劇的な事件を起こした容疑者の捜査という正義を理由に、iPhoneのロック解除の権限を求めたFBIに対して、それによって引き起こされるユーザー情報の危険性を懸念してアップルは拒否するのである。

必ずしも正しいことは、多くの人の支持を集めるわけではない。それでもアップルの決断は、やがて理解され多くの人の支持を集めるのである。

ティム・クックによって、すばらしい製品を生み出していたアップルが、さらに人格的にも優れた企業となったのだと感じた。

【楽天ブックス】「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」

「Becoming」Michelle Obama

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ミッシェル・オバマが、ピアノの先生の上の階に家族で間借りしていた幼少期から、バラック・オバマとの出会い、そしてバラックが大統領としての任期を終えるまでを描いている。

序盤はミッシェルの子供時代を描いている。ファーストレディとなった人だから黒人とはいえ裕福な家庭に育ったのだろうと想像していたが、まったくそんなことはない。それでも両親の考え方がミッシェルのその後の生き方に大きく影響を与えたことは伝わってくる。また、足の病気に悩んだ父の生き方も間違いなく大きな影響を与えたことだろう。

そして、中盤ではバラック・オバマとの出会いが書かれている。やはりバラックは出会った時から異彩を放っていたということだが、この点はひょっとしたら運命の人と出会ったミッシェルの目線だからなのかもしれない。何よりも印象的なのは、バラック・オバマは心のそこから世の中がよくなることを願って行動しているという点である。

そして、その後の夫婦生活も面白い。州知事から大統領、と少しずつ政治家としてのキャリアを積み重ねるバラックを見ながら、「家族の時間が十分に取れていないのにまだやるのか」というミッシェルのバラックに対する非難と、それと同時に自分自身が夫の夢を邪魔する障害でありたくないという葛藤が印象的であった。それは、対象が大統領という特別なものである以外は、仕事や趣味に打ち込みすぎる夫を非難する、どこにでもいる夫婦のようだ。

ホワイトハウスの生活も驚きである。ホワイトハウスでは窓を開けることすら、許可なしにはできないのだそうだ。また、2人の女の子は常にシークレットサービスが身近にいなければいけないということで、ミッシェルが思春期の子供たちにどのような影響を与えるのかを懸念している点も興味深い。

全体的にもっとも刺激的だったのは、バラックとミッシェルの、自分の人生を少しでも自分の理想の近づけようとする努力である。バラックは世の中を少しでもよくしたいという思いを常に持っており法律家から政治家の道へ進み、それを間近で見ていたミッシェルも、やがて大きな収入源となっている法律家の道から、慈善事業の方向へ少しずつシフトしていくのである。「お金より大切なものがある。」と誰もがいいながらも、やりたい仕事をそれまでの半分の給料で受け入れることは簡単なことではないだろう。

全体的には、ミッシェルの視点を通じて、アメリカの黒人に対する現状がよくわかったし、バラックが本当に純粋に世の中のためを思っていることも伝わってきた。またこのような大統領が出ればいいと感じた。

「お金は寝かせて増やしなさい」水瀬ケンイチ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インデックス投資家である著者が、インデックス投資の賢い方法を説明している。

基本的に必要な情報は前半部分に詰まっていて、まずは、アクティブファンドの多くがインデックスファンドに勝てないということと、過去、リーマンショックや東日本大震災などの大きな出来事があっても、結局長い目で見れば世界の株価は右肩あがりだという事実である。この2つの事実によって、結局インデックス投資がもっとも手間なくリスクが少なく資産を増やせる方法と結論づけている。

本書で進めているインデックス投資は

・毎月一定額を買い足す
・世界市場のポートフォリオに従う

ということである。

まず、積立投資(毎月一定額を買い足す)ことによって、安いときに多く買い高い時に少なく買うという流れが自然に出来上がる。また、世界市場のポートフォリオ(国内株式:先進国株式:新興国株式=1:8:1)に従うことによって、一部分の国の経済に依存しないことができる。

本書ではあわせて、自分のリスクの許容度を知るということもページを割いて説明している。なんとなく「大丈夫だろう」から一つ上の視点を身につけるためにいいかもしれない。最後の章では、切り崩しについても触れている。斬り崩しは一定額ではなく、一定の率で売っていくことにより、高い時に多く売って、安い時に少なく売るという流れが出来上がる。

投資の本は世の中にあふれているが、そんななかではかなりの良書と感じた。本書の中で繰り返し触れている本「ウォール街のランダムウォーカー」もぜひ読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「お金は寝かせて増やしなさい」

「Show Dog 靴にすべてを。」フィル・ナイト

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ナイキの共同創業者である著者がナイキの創業から現在に至るまでの発展を描く。

ナイキといえば今やスポーツブランドの頂点なので、信念やミッションを持った勢いのある創業をイメージしていた。しかし本書を読んで、その創業は日本の靴メーカーの販売代理店でしかなく、創業者たちも片手間に仕事をしていたに過ぎなかったとわかる。多くの人が今のブランドイメージとずいぶんギャップを感じるのではないだろうか。

しかし、やがて日本の靴メーカーと決別をして独自の靴を作り始めると、その勢いは一気に加速する。本書の一番のクライマックスは、Nikeというブランド名が決まり、少しずつ、オリンピックの代表やスポーツ選手のなかにNikeを履く選手が増えくるところではないだろうか。ブランド名の他の案は今となっては笑えるものばかりだが、ブランド名のかっこよさはその音の響きだけでなく、そのブランドのかっこよさと結びつくもの。どの案になったとしてもかっこよい印象と結びついていたのではないだろうか。

本書のタイトルである「Shoe Dog」とは、靴に人生を捧げる人たちのこと。著者をはじめ、本書には「Shoe Dog」が多数登場する。Shoe Dogであるバウワーマンなどの人との恵まれた出会いによってNikeは大きくなったのは間違いない。悲しいのは、著者の息子の2人、トラヴィスとマシューが最後までスポーツに入れ込むことはなかったということだ。仕事と家族のどちらにも人生を捧げることは、なんと難しいことだろう。

本書でもっとも印象に残った言葉は、著者が経済学の教授から聞いたという言葉である。

商品が国境を越えれば、兵士が国境を越えることはない

驚いたことのもう一つは、タイガーウッズやマイケル・ジョーダンと深い交流があったこと。考えてみれば当たり前かもしれないが、著名なスポーツ選手にとって著者は単に靴のメーカーの社長ではなく、自分たちが有名になるためのチャンスをくれた人なのだ。だから、彼らは一生感謝を表現し続けるのだろう。そういう点を考えると、靴メーカーというのも偉大な仕事なんだと感じた。

企業の成功物語は世の中に溢れているが、その中でもかなり面白い部類に入る一冊。

【楽天ブックス】「Show Dog 靴にすべてを。」

「デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す」前田育男

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マツダのデザインを変えた著者が、デザイン本部へのリーダー就任から、優れたデザインの車を世の中に送り出すまでを語る。

本書を読むまで知らなかったことだが、1996年よりマツダの株式保有率をフォードがあげたことによって事実上フォードの傘下に入っていた。しかし、そんな時代が、現在のマツダの発展の大きなきっかけとなるのである。なぜなら、「マツダとはどんな会社であるべきか?」を問い直すことになったからである。2009年にフォードの統治が終わりを告げ、著者がデザインリーダーとなってからは自分たちの会社のオリジナリティの追求の熱は一気に加速することとなる。「魂動」というコンセプトはそんななかから生まれたのである。

興味深いのは、やはり著者の悩みや葛藤の過程が描かれていることだろう。おそらく僕と同じように、一般の人は、すごいデザイナーとはいいデザインを颯爽と生み出す、というような印象を持っているのだろう。しかし、本書で著者が吐露している当時の心境は、責任の大きさや、社員からの期待や諦めに苦しみながら試行錯誤する様子である。

また、デザインという感覚的なものでありながらも、「魂動」というコンセプトの2文字をひねり出すまでに多くの時間をかけている点も興味深い点ではないだろうか。本書で著者も述べているように、デザインはもちろん見た目や感覚を重視するものである。しかし、その方向性を共有するための言葉も非常に重視しているのだ。

それまで言われるがままに自分のタスクだけをこなしていたモデラーや、効率ばかりを考えていた開発部門や生産部門が、「魂動」を形にするためのデザイナーの熱意を共有する場を設けることで、少しずつ自ら「魂動」の実現へと動くように変わっていくのである。いいものを作るためには文化がなによりも重要なんだと感じた。

【楽天ブックス】「デザインが日本を変える 日本人の美意識を取り戻す」

「ノーマンズランド」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ストロベリーナイト」シリーズである。硝子の太陽ルージュ、ノワールの後の物語である。

物語は、姫川玲子(ひめかわれいこ)を中心とした殺人事件の捜査と、バレー部の高校生の男女2人を描いた甘い恋の物語が並行して進み、やがて、2つの物語が交わる形式をとっている。

自分のまわりですでに2人の刑事が殉職して自らの行動を振り返る一方で、女子大生の殺害事件の捜査を進めるのだが、容疑者として上がっている人物の周辺に不審な匂いを嗅ぎ取る。高校生の物語は、隣の中学校の女子バレーのエースの庄野初海(しょうのはつみ)に憧れた江川利嗣(えがわとしつぐ)が、高校で初海(はつみ)と同じバレー部になり少しずつ近づいていく。

そして、物語は北朝鮮による日本人拉致と絡んで進んでいく。犯人との対面によって、日本人拉致による北朝鮮側の工作員の視点が描かれているところがもっとも印象的だった。確かに僕らは、一方的に日本人拉致で北朝鮮を非難しているが、国のために、拉致を実行しなければならなかった北朝鮮工作員の心情はどのようなものだったのだろう。

「硝子の太陽 ルージュ」、「ノワール」のような一気読み感はないが、やるせなさや深みを感じさせる作品。どちらかとこちらのテイストの方が好きである。

【楽天ブックス】「ノーマンズランド」

「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」二宮敦人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
妻の奇妙な行動によって藝大に興味を持った著者が、藝大生のインタビューをしながらその実態を描く。

もっとも興味深かったのは、音校と美校の文化の違いである。美術は、作った作品はそのまま自分の作品として存在し続けるのに対して、音楽はその音の流れている一瞬一瞬が作品である。また、美術では、作ったもの自体が評価されるのに対して、音楽では演奏するその人自身も舞台に上がる作品の一部だという認識の違いがあるのだそうだ。そのため、美校の生徒は時間にルーズだが音校の生徒は非常に時間に厳格で、美校の生徒は制作の為の作業着なのに対して、音校の生徒は常にハイヒールを履くなど、見た目に非常に気を使うのだそうだ。そんな、まったく異なる人種が共存する場所が藝大なのだという。

また、インタビューに答えた藝大生のこだわりも面白かった。口笛を極める学生や、からくり人形を歯車から作る学生など、どれも「なんのためにそんなことのために時間を費やすのだろう」と思ってしまうよう内容だが、その考え自体が、頭が凝り固まっている証拠なのだろう。そして、世の中の人がそうやって常識の範囲で物事を考えるからこそ、藝術という枠にはまらない分野が必要なのだろう。

どうやってそれまでの枠を壊すか。藝術とはそんな分野なのかもしれない。僕自身デザイナーという仕事をしており、どちらかというと頭が柔らかいほうのつもりではいるが、それでも多くの刺激をくれる一冊であった。

【楽天ブックス】「最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常」

「エアビーアンドビー ストーリー」リー・キャラガー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
創業者の3人が出会い、エアビーアンドビーを作り成長させていく様子が描かれている。

序盤は、チェスキー、ゲビア、ブレチャージクの出会いと、少しずつコンセプトを変えながらエアビーアンドビーが大きくなっていく様子が描かれている。その過程で、3人の創業者がそれぞれの担当分野において少しずつ成長していく様子が興味深い。

エアビーアンドビーというサービスを知っていて、それゆえに興味を持って本書を手に取ったのだが、本書を読むといろいろ想像もしていなかった困難があったことを知る。

例えば、エアビーアンドビーは、自分の部屋に見知らぬ人を宿泊させるというサービスの形態ゆえ、犯罪まがいのことが全く起こらないということはありえない。本書では、エアビーアンドビーで起こった幾つかの犯罪や悲劇と、それに対応するエアビーアンドビーの様子も描かれている。そんななか最初は投資家などのアドバイスを聞いて責任逃れや結論の先延ばしをするような対応をしていた創業者のチェスキーが、それでは騒動が治らないと見るとすぐに自分たちの信念に立ち返るところに舵を切るところは、組織としてユーザーに向き合うすべての人にとって学ぶ部分があるだろう。

また、考えてみればありそうな話だが、エアビーアンドビーはそのプラットフォームを通じて行われる人種差別とも戦っているのだという。例えば、白人のプロフィール画像の人にしか部屋を貸さないホストや、アジア系のユーザーを差別するホストがいるのだそうだ。しかし、これは改めて考えてみると、ユーザーの属性によって部屋を貸すか貸さないかを選択するのは、許されてもいいと感じるぶぶもある。例えば、静かな住宅であれば子供を連れた家族の宿泊には貸したくないなどはホストが選べていいはずで、この辺の線引きが非常に難しいと感じた。

ホテルチェーンなどの既存の勢力から受ける攻撃についても触れている。エアビーアンドビーの拡大に影響を受けてか、ホテルチェーンのいくつかも民泊事業へのシフトする様子をみると、エアビーアンドビーはまさに「世界を変えている」のだと感じる。

印象的だったのは、創業者の3人が困難に出会うたびに、繰り返していた偉人たちの言葉で、本書の中でも効果的に使われている。一つはガンジーの言葉で、見事にエアビーアンドビーの状況にも当てはまる。

はじめに彼らは無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろうーーだが勝つのは我々だ
悲観主義者はだいたい正しい。だが世界を変えるのは楽観主義者だ。

【楽天ブックス】「ザッポス伝説」

「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」山口周

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
グローバル企業が幹部にアートの勉強をさせる動きが活発になってきた。なぜアートを学ぶ必要があるのか。本書はその理由を世の中の動きとあわせて説明する。

本書では意思決定のクオリティを左右する要素として「アート」「サイエンス」「クラフト」という言葉を使っている。これまでの世の中では「サイエンス」と「クラフト」が主流だった。なぜなら、組織においては説明責任が求められことが多く、それゆえに、「説明できる」「サイエンス」「クラフト」が主流になりがちなのだ。しかし、「説明できる」ゆえに伝えやすく、他の多くの組織に取っても導入しやすいため、結局「サイエンス」「クラフト」という2つの要素だけに頼る組織は、他の組織と差別化がしにくく、レッドオーシャンから抜け出せないのだという。

そして、だからこそ「アート」の要素が今後組織の生き残りを左右していくと説明しており、その過程でいろんな実例を挙げている。そんななかでも面白かったのは、高学歴者を幹部に連ねながらも反社会的行為に走ったオウム真理教や、DeNAの不祥事、ホリエモンやナチスの下でユダヤ人を大量虐殺するシステムを作り上げたアイヒマンを例に上げて、「偏差値は高いが美意識が低い」と言っている点である。おそらく多くの読者が、学歴が「人の良さ」を決めるものではないという点には同意するのではないだろうか。本書ではそれを「美意識」「誠実性」という言葉で説明している。

なぜ人間に美学とモラルが必要かといえば、一つには意外かもしれませんが、最終的に大変効率がいいからです。「効率がいい」というと語弊があるかもしれませんが、より大局を見て、一本筋が通っていると、大きな意味で大変効率がいいのです。

なぜ、効率的かというと、本書では、変化の早い今の世の中において、法律は変わる可能性があり、法律だけを基準に組織の良し悪しを判断していると、組織全体が法律の変化に大きく影響を受けてしまうのだ。一方、「美意識」「誠実性」に基づいた善悪の判断の方が長く有効なのである。

その他に興味深かった話は、日本のクルマのデザインを変えた、前田育夫氏の話である。彼の書籍がいくつか出ているようなのでこれを機に読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」

「新版 ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」W・チャン・キム

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
QBハウス、セブン銀行、オフィスグリコのようなブルーオーシャンを切り開いた企業たちのように、競合のいないブルーオーシャンを開拓するにはどのような戦略をとるべきなのか。本書では、そんなブルー・オーシャンを切り開こうと考える組織の経営者たちに向けて、その戦略を考える上で有効な手法がいくつか紹介されている。

戦略キャンバス
6つのパス アクションマトリクス

ブルー・オーシャンを切り開いた企業として豊富な実例を挙げている。サーカスを一大エンターテイメントへと変えたシルク・ド・ソレイユ、近づきがたいワインを一般に広めたイエローテイルの話は面白く、上に挙げた戦略キャンバスに照らし合わせると、これらの会社がまさにそれまでの既成概念を打ち破った戦略で成功したことがわかる。

また、企業ではないものの、組織を大きく変えた例としてNYPD(ニューヨーク市警察)を例にとり、ティッピングポイントリーダーシップという手法を説明している。ティッピングポイントリーダーシップとは、組織に大きく影響を与えうる、人、出来事、行動を見極めてそれを活かすことである。つまり、組織や人や街全体を対象にするよりも鍵となる部分に努力を集中させることが効果につながるということで、当時のニューヨークが本部長ビル・ブラットンのそのような取り組みによって徐々に改善されていく様子を説明している。

また、組織を変える上で、公正なプロセスの重要性を説いている。公正なプロセスとは3つのEで説明される、関与(Envolvement)、説明(Explanation)、明快な機体内容(Clarity of Expectation)であり、本書では、変化に成功した企業と失敗した企業を例にとってその重要性を説明している。

最も印象的だったのは、最後の章の「レッド・オーシャンの罠を避ける」である。ここには、企業が陥りがちな間違った戦略の多くが書かれている。特に「「ブルー・オーシャンを創造するには、他者に先駆けるほかない」という誤解」は耳の痛い話で、かつて所属していた企業でもこのような考え方が蔓延していた気がする。

iMac以前にもパソコンは存在したし、iPod以前にもMP3プレーヤーは存在した。
スピードは重要ではあるが、それだけでブルー・オーシャンを開拓できるわけではない。市場に一番乗りしたものの、イノベーションから価値を引き出さないまま製品やサービスを販売してしまい、退場を余儀なくされた企業群の墓標が、産業界には溢れている。

全体的にはうわさどおり非常に読み応えのある良書だと感じた。ぜひまた時間をおいて読み返したいと思った。

【楽天ブックス】「新版 ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」

「Intuitive Design Eight Steps to an Intuitive UI」Everett McKay


オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「直感的なUIが良い」と、多くの人は言うが、そもそも「直感的なUI」とはなんなのか。これまで曖昧に語られてきたデザイン要素を定義し、すぐれたUIを作るための手法を説明している。

まず、本書では直感的なUIのための指標として次の8つの要素を挙げている。

Discoverability
ターゲットユーザーが目的を達成するためのUIを発見できるか
Affordance
ターゲットユーザーに操作可能なUIであり、どのように操作するかが伝わるか
Comprehensibility
ターゲットユーザーがそのUIの意味を理解できるか
Feedback
ターゲットユーザーの現在の状況や操作の結果を正確、明確かつ即座に示せているか
Predictability
ターゲットユーザーが操作する前にその操作の結果を予測できるか
Efficiency
ターゲットユーザーが不要な動作や繰り返しをせずに最優先事項を完了できるか
Forgiveness
ターゲットユーザーの誤操作を防げるか、誤操作による打撃を最小限に抑えているか、誤操作から簡単に復旧できるか
Explorability
ターゲットユーザーがミスをすることや迷うことを恐れずに使えるか

ちなみに、この8つの要素では、これまでに多く語られていた、一貫性(Consistency), 学習可能(Learnability)は次の理由によって除外されている。

一貫性(Consistency)
世の中には良い一貫性と悪い一貫性があることを認識しなければならない。もしあるUIに対して「この一貫性が何かいいことがあるの?」という問いに「一貫していること」としか答えられないなら、それは悪い一貫性である。

学習可能(Learnable)
直感的なUIの目的は、学ぶ必要性さえもなくすことである。

以上の8つの要素はこれからUIを評価する際に常に意識しておきたいと思った。しかし、次のような例外があることも忘れてはならないだろう。

すべてのUIのDiscoverabilityを向上しようとすると、乱雑なUIになる。Discoverabilityはもっとも重要な要素に絞るべき。
過度のComprehensibility, Predictabilityは多くの説明を必要とする。他のUIの8要素を犠牲にしない程度にする。
削除、入力項目のキャンセルなど不可逆な結果をもたらすUIは、Forgivenessを過度に重視する必要はない。
MVPでは、Discoverability, Affordance, Comprehensibility, Predictability以外の項目は除外してリリースし、以降の項目は次のリリースにまわしてもよい。

以上が本書のもっとも焦点をあてて説明している箇所であるが、他にも役に立ちそうな考え方がいくつか含まれていた。

まずは、直感的UIの段階的指標で、

  • Fully Intuitive
  • Sensible
  • Learnable
  • Guessable
  • Trainable
  • Beyond Hope

その他にもUX達成のための7階層

  • 7.Beauty, visual design, emotion, delight, brand
  • 6.Scenarios, personas, usergoals, value, satisfaction
  • 5.Usability, real user data, conversion, other metrics
  • 4.Design principles, guidelines, patterns, consistency
  • 3.Mechanical usability, business goals
  • 2.Technology, code, UI frameworks
  • 1.Personal opinion, “gut” instinct, “Trust me I’m designer”

というものがあり、こちらは組織の現在のUX達成の立ち位置を測る基準となるだろう。

後半では、Streamlined Cognitive WalkthroughsというUIを評価するための考え方が紹介されている。

  • 1.ユーザーはどのようにしてここですべきことを理解するか?
  • 2.ユーザーが正しい行動をしたら、どのようにそれがわかるか?
  • 3.ユーザーが間違ったことをしたら、どのようにしてそれがわかるか?
  • 4.ユーザーが間違ったことをしたら、どのようにそれを修正できるか

これらは上に挙げた8要素を言い換えたものであるが、組織に広めるためにはこちらの考え方のほうがわかりやすいようにも見える。状況に応じて使い分けていきたい。

全体的に非常に面白く、どの考え方もぜひ組織に取り入れてみたいと思った。取り入れる過程でまた該当部分を読み直したいと思った。

「良い戦略、悪い戦略」リチャード・P・ルメント

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
本書は、世の中に溢れる、悪い戦略の多さを嘆き、良い戦略を立てるための手助けのために、良い戦略と悪い戦略の違いを、豊富な実例を交えながら説明している。

戦略の基本は、最も弱いところにこちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするなら、最も効果の上がりそうなところに最強の武器を投じることである。

言葉にすると当たり前のことに聞こえるが、実際多くの組織の戦略はこれができていないのである。以降、順を追って、悪い戦略と良い戦略を説明している。まず、悪い戦略の4つの特徴として次の4項目を挙げている。

空疎である
重大な問題に取り組まない
目標を戦略ととりちがえている
まちがった戦略目標を掲げている

3番目の「目標を戦略ととりちがえている」は、これまで所属してきた組織の中で何度も経験してきたことなのだが、こうはっきりと説明されるまでその「間違った戦略」具合に気づかなかった。

本書では、良い戦略にはしっかりとした論理構造があり、カーネル(核)とよばれる次の三つの要素が存在するとしている。

診断
診断では、少なくとも悪い箇所を特定し、病名をはっきりさせなければならない。断片的な兆候や症状からパターンを割り出し、どこに注意を払い、どれはあまり気にしなくてよいかを選別する。すぐれた診断は、ときに状況に対する見方を変え、まったく新しい見通しを示してくれる。

基本方針
診断によって判明した障害物を乗り越えるために、どのようなアプローチで臨むかを示す。

行動
多くの人が基本方針を戦略と名づけて、そこで終わってしまう。戦略は行動につながるべきものであり、何かを動き出せるものでなければならない。

そして、上のようなカーネルの元で、強みを生み出し、活用する方法を、続く章で次の項目を詳細に説明している。個人的に本書のなかでもっとも印象的な部分である。

テコ入れ効果
近い目標
鎖構造
設計
フォーカス
健全な成長
優位性
ダイナミクス
慣性
エントロピー

これからも折を見て読み返して、より深く理解したいと思った。

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