「マツダがBMWを超える日 クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略へ」山崎明

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
品質はいいのに「安くていいもの」しか作れない日本の企業を嘆き、BMWやロレックスなどを例に、ブランドの育て方を語っている。

高級なブランドを作ろうと思ったら何をすればいいだろう。高品質なものを高く売ることから始めたらいいだろうか。おそらく高級なブランドを作るために考えなければならないのは、品質と値段だけではないのだ。ブランドが確立されれば、品質によらず商品が高く売れる。本書は自動車ブランドを中心い多くの例を交えながら、ブランドを語っている。

序盤では、海外のブランドに焦点をあて、それらがどのようにブランドを確立していったかを説明している。例えば、BMWは50年ほど前までは高級と呼ばれるレベルではなかったが、「運転を楽しむ」という個性を追求した結果、今ではメルセデスと並ぶブランドに成長している。そのほかにもロレックスやポルシェ、フォルクスワーゲンのブランド戦略を説明している。

中盤以降は、日本のメーカーに目を向けて、なぜブランド価値が上がらないかを説明している。トヨタがレクサスブランドを別に作りながら、やっていることが変わらないため、結局レクサスはトヨタと同じ大衆車という認識を持たれてしまっている。ブランドの価値を理解して、買収してもブランドの名を残すフォルクスワーゲンなどの海外ブランドと比較して、買収するとともに自社名に変更してしまうソニーなど(コニカミノルタ買収の件)日本企業をブランドの理解が乏しいと嘆いているのである。

そんななか、最後にマツダについて、唯一日本で海外ブランドと渡り合えるポテンシャルを持っていると推している。最近多方面でマツダへの注目の高さを耳にするので、今後にぜひ期待したい。

本書を読んで、海外の有名な自動車ブランドの多くが、実はフォルクスワーゲンの傘下に入っていることに驚かされた。ベントレーもブガッティもランボルギーニも現在はフォルクスワーゲンなんだという。この驚きがまさに、フォルクスワーゲンのブランド戦略がうまくいっている証拠と言えるだろう。ブランドを作るために大切なことがたくさん詰まっている一冊。

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「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント」マーティ・ケーガン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
すぐれた製品の背後には必ず製品開発チームを率いて、顧客の抱える課題を解決する人間がいる、という著者の持つ信念をもとに、プロダクトマネジメントという役割について語る。

僕自身はデザイナーであるが、比較的プロダクトマネジメントという役割に近い位置におり、プロダクトマネジメントという役割を詳しく知ることはキャリアにおいてプラスになると考えて本書にたどりついた。

まず、序盤では、ロードマップを作って製品を開発する方法を「製品開発が失敗する方法」として否定しており、リーンやアジャイル型の開発を推奨している。しかし、多くの開発チームがリーンやアジャイルの考え方を十分に活かしきれていないとしている。

1.リスクには最後ではなく最初に取り組む。
2.製品の定義とデザインは、順を追ってではなく、協調させながら同時に実行される。
3.大切なのは機能を実装することではなく、問題解決をすることである。

ロードマップのデメリットは、開発チームの目を機能の実装に向けさせてしまう点がよくないのだという。本書では、ロードマップに変わるものとして、

製品のビジョンと戦略
ビジネスの目標

を挙げている。

本書を読んで知ったのは、プロダクトマネージャーが備えなければならない知識の多さ、そして注意しなければならない領域の広さである。本書ではプロダクトマネージャーが備えるべき資質・知識として

・顧客に関する深い知識
・データに関する深い知識
・自分のビジネスについての深い知識
・市場と業界についての深い知識
・頭が良く、創造的で、粘り強いこと

を挙げている。

中盤では、成功するためのプロセスとして、目標管理のためのOKRや、製品発見のための、プロトタイプやユーザーインタビューなどを説明している、それぞれが単独で一冊の本になりそうな分野を非常にコンパクトにまとまっていて、全体を網羅的に知りたい人にはちょうどいいのではないだろうか。

すぐに取り入れたいとおもった手法は、製品開発チームに顧客の利益に集中させる方法として書かれている。ワーキングバックワードプロセスと呼ばれるもので、架空のプレスリリースを考えるというものである。プレスリリースとして人々の注目を集めるためには、その製品がどのように顧客の生活を向上するかを簡潔に伝えなければならない。ワーキングバックワードプロセスとは、架空のプレスリリースを作って、製品開発チームに実現したいことを共通認識させるためのものである。同様の目的としてカスタマーレターという手法も紹介しているが、どちらも、目的が曖昧になったり、機能実装だけにフォーカスして、解決すべき課題を忘れがちな開発プロセスにおいて、明日からぜひとりいれたいと思った。

各章の間に挟まれているプロダクトマネージャーの物語として、AppleのiTunesやAdobeのCreative Cloudを率いた話も面白かった。

全体的に、翻訳がわかりにくくて読みにくい部分はあったが、プロダクトマネジメントについて包括的に説明している良書といえるだろう。機会があれば繰り返し読んでしっかり内容を理解したいと思った。

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「明るい夜に出かけて」佐藤多佳子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第30回(2017年)山本周五郎賞受賞作品。

大学を休学してコンビニのアルバイトに励んでいた富山(とみやま)の唯一の楽しみは、深夜のラジオ、オールナイトニッポンのアルコ&ピースの番組を聞くことだった。

富山(とみやま)は目的を失って深夜のコンビニアルバイトで生活をしているなか、コンビニに訪れた高校生の女子佐古田(さこだ)が、同じリスナーであることから少しずつ近づいていく。また、同じように毎晩顔をあわせるなかで、コンビニの先輩であった鹿沢(かざわ)にも少しずつ心を開いていく。

そして少しずつ、高校で居場所を探している佐古田(さこだ)、歌い手として自分を表現している鹿沢(かざわ)の物語も描かれていく。自分のやりたいことを探しながら、現実のなかで試行錯誤している若者の様子が描かれている。

オールナイトニッポンという名前だけは聞いたことにあるラジオ番組に興味を持った。僕自身も中学生の頃よくラジオを聞いたが、深夜のラジオが作り出す独特の雰囲気をまた味わいたくなった。ラジオ番組を中心とした友人との交流のなかで少しずつ自分のやりたいことを見つけていく様子が爽やかではないものの、なんとなく非常に現実味があって、懐かしく感じた。

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「ある男」平野啓一郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宮城に住む里枝(りえ)の再婚相手大佑(だいすけ)が亡くなった。家族と連絡をとって大佑(だいすけ)は別人であることがわかる。夫は一体誰だったのか、そんな悲しい境遇の里枝(りえ)のために、弁護士の城戸(きど)は、里枝(りえ)の元夫である「ある男」の身元を突き止めようとする。

実は別人だった、という物語はすでに世の中に有名な作品があり、代表的なのは宮部みゆきの名作「火車」だろう。そのようなすでに確立された分野にあえて挑戦する以上、なにか新しい要素がなければならない。本作品はその点に関して、主人公である弁護士城戸(きど)の在日二世という境遇や、結婚生活のなかで少しずつずれていく妻との価値観で個性を出している。その一方で、別人を語っていた「ある男」についての生き方はそこまで掘り下げずに、その生まれゆえの不幸な行き方、と片付けている。

弁護士の城戸(きど)の心情や生活の描写ゆえに深さを感じさせる作品。物語の深さは作家によるもので、平野啓一郎の他の作品にも触れてみたくなった。

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「人生が変わる「オンラインサロン」超活用術」中里桃子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
オンラインサロンを使いこなす方法を語る。

まずは、会社以外に自分が活躍できる場所を持っていることの人生における重要性と自分にあったオンラインサロンの探し方を説明しており、その後は、オンラインサロンの中で、嫌われないために、信頼を得るためには、影響力をあげるためには、と順々にサロンでの存在感をあげるための秘訣を語っている。

オンラインサロンを探すための方法として、

(1)やりたいことがわからない人
(2)やりたいことがあるが、スキルも自信がない人
(3)やりたいことがあり、スキルも自信もあるが、信頼がない人

と3つのパターンに対してアドバイスをしている。(2)の人は、一緒に学べるオンラインサロンを利用すべきだし、(3)の人は信頼を得るために自己開示やスキルの見える化をすべきだという。

また、影響力を上げるための行動として

発信する力
循環させる力
変化させる力

をあげている。発信というと、ブログやYouTubeやTwitterなどで自分の考え方などを発信することを意味するのかと考えがちだが、本書では、発信を受け取りコメントすることで発信力を上げることを説いている。また、循環させる力は、人からの影響を受けることだと言っている。変化をさせる力では自らが目標を設定しそこに行く過程に人を巻き込む力を説明している。

必ずしもオンラインサロンだけに通用する話ではなく、FacebookやTwitterなどオンラインでのやり取りで意識するといいことがあふれていた。人のコメントに対する反応として今日から意識したいと思った。

また、

信頼を得るための情報の開示
発信をするではなく、人の発信をしっかり受け止めコメントを返すこと
人の影響を受けて、それを実践し、報告する
目標を宣言し、サークルなどを企画する

こちらのことも今日から実践したいと感じた。本書はオンラインサロンを中心に語っているが、オンラインで存在感を上げるためのいい助言が詰まっている。

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「盤上の向日葵」柚月裕子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
埼玉で発見された男性の遺体は高価な将棋の駒とともに見つかった。かつて奨励会で棋士を目指していた刑事の佐野(さの)は将棋に詳しいが故に、石破(いしば)と組んで、将棋の駒の持ち主をたどることなる。

佐野と石破の将棋の駒の行方を追っていく様子と並行して、長野の諏訪湖のほとりで暮らす将棋の愛好家唐沢(からさわ)が、近所に住む少年上条桂介(かみじょうけいすけ)に将棋を教える様子が描かれる。恵まれない家庭に育った、上条桂介(かみじょうけいすけ)が、将棋を学びながら成長していく様子が描かれる。

貴重な将棋の駒が、なぜ遺体とともに発見されたのか、そして、上条桂介(かみじょうけいすけ)がどのように事件と関わっていたのかが、物語が進むにつれ明らかになっていく。

将棋の駒の魅力や、真剣師という生き方が描かれている。誰もが知っている日本の文化である将棋というものに、もう一度目を向けてみたくなる一冊。

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「40代ご無沙汰女子の、残念な婚活」浅見悦子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40代女性の著者が実際に婚活した経験を語る。

婚活が少しずつ習慣になっていき、最初は男性とデートすることすら億劫だった著者が何度となく繰り返すうちに、「とりあえずデートの練習」という姿勢で積極的に人と会おうとする様子は、今婚活に悩んでいる人々に元気を与えるのではないだろうか。やがて、婚活パーティだけでなく婚活アプリにまで活動を広げていき、それぞれのデートの様子や相手の人の振る舞いを細かく書いている。

婚活する多くの人が経験するであろう態度、つまり、「自分のことを棚に上げて相手の嫌なところばかりに目がいってしまう」は、本書でも同様で、反面教師としていろいろ学ぶ部分はあるだろう。

僕自身婚活経験があり、一般的には几帳面な男である。そんな一人の男性の視点で見ると、著者が婚活で出会う男性たちの振る舞いを知ると、こんなにも世の中の男性は時間を守らなかったり、捨て台詞と吐いたりするのか、と唖然としてしまう。確かに、お金とエネルギーをかけて婚活した結果、こんな男性ばっかりだったら婚活疲れもするだろうなと思った。

婚活しているということをオープンにしてから、様々な誘いが舞い込んできた、という著者の経験談は非常に参考になる。何かをしようと思ったら一人でもくもくとやるよりも、公言することでいろんないい波を呼び込めるのだろう。

著者の理想の結婚像なども触れており、もっと薄っぺらな婚活本を想像していたが、予想以上に深かった。最後に著者が箇条書きでまとめている「婚活をやってわかったこと」だけでもぜひ婚活に悩んでいる人たちに読んでもらいたい。

うまくいかなくても自分を責めない。相手とご縁がなかったと思うこと
いろんな男性とデートをしたり会ったりすると、本当に好みな男性のタイプが明確になる
NGばかり並べちゃダメ。相手のいいところを見つければ、NGを凌駕することもある

結婚している人も、自分には無関係と思わないでほしい。本書の考えが適用できるのは婚活だけではなく、転職や引っ越しなど自分にあった場所や人を見つけるときにすべてに言えることである。

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「淳子のてっぺん」唯川恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

子供の頃山登りが好きだった少女淳子(じゅんこ)が、やがて大学生、社会人となって思うようにいかない人生に嫌気がさしていたとき、ふたたび山登りに心身ともに救われる。それからというもの登山が生きがいになり、少しずつ登る山も高くなっていく。そんな淳子の挑戦を描く。

どうやら本書の主人公である淳子は、実在する人物田部井淳子をモデルにしているらしい。唯川恵というと、どちらかというと女性向けの恋愛小説というイメージがあったが、今回はそんなイメージを覆すような、実話に基づいた女性のすばらしい生き方をを描いている。

社会人になったあとの淳子は、それまで男性ばかりだった登山という文化の中で、女性だけの登山隊の実現をしようとして、女性だけの登山隊を組んでアンナプルナやエベレストといった世界最高峰へと挑戦していくのである。今更ではあるが、そもそもエベレストのような高い山にどのように挑戦するかを本書を読むまで知らなかった。ただ一直線に頂上を目指して登るのではなく、集団で、途中となんども行き来して荷物や食料をはこびながら少しずつキャンプの位置を上げていくのである。そして、最後の頂上アタックは、そのとき体調のいい人だけが決行する。という流れをとるのである。

海外に行くだけで膨大な費用が必要だった1970年代ゆえに、現地までいきながら頂上へ挑戦できなかった女性たちの憤慨は理解できるし、女性ゆえにその感情を表に出さないわけにはいかず、その結果、集団としては頭頂という目的を達成しながらも、やるせない気持ちで帰国せざるを得ないことは、本書を読まなければわからなかっただろう。

ただ単に、山登りの良い面だけでなく、人間同士の葛藤なども読み取れるのがいいところだろう。決して、命をかけて登山をしたいとは思わないが、エベレストやアンナプルナ、アイガー、マッターホルンといった有名な山々についてもっと知りたくなった。

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「この世の春」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宝永7年(1710年)の初夏、各務多紀(かがみたき)と父各務で暮らしている家のもとに、ある晩、御用人となった伊藤成孝(いとうなりたか)の嫡男をかかえた女が駆け込んできた。自分の家が御用人である伊藤成孝(いとうなりたか)とどのようなつながりを持っているのか。そんな疑問を持つた多紀は少しずつ藩内の権力争いの秘密に関わることになる。

北見藩というのは架空の名前で下野内にある架空の藩を舞台としている。江戸時代を描いた多くの物語は、徳川家や江戸を扱ったものばかりのため、このように地方を舞台としたものは珍しく、当時の人々の様子を知ることができる。

やがて父の死を機に、多紀は北見家の別邸である五香苑へと連れられていく。そこには自害したはずの伊藤成孝(いとうなりたか)と元藩主である北見重興(きたみしげおき)が匿われていたのである。北見重興(きたみしげおき)は藩主の座を追われたのは、複数の人格を持っていたためである。多紀たちは重興(しげおき)のその病気の謎を解明を試み、やがて北見家にまつわるおおきな影と向き合うこととなる。

江戸の時代を扱ったものではあるが、人々の悩みや葛藤、立場の違いによる考え方の違いなど宮部みゆきらしい描写力で、現代の人々のようなリアルさを感じる。歴史の物語のなかでしか触れることのないような過去の話でも、人はいつも一生懸命悩みながら生きているのだと伝わってくる。

【楽天ブックス】「この世の春(上)」「この世の春(中)」「この世の春(下)」

「The Huntress」Kate Quinn

オススメ度 ★★★☆☆ 4/5
第二次世界大戦後、多くのドイツ人将校たちがニュルンベルク裁判で有罪判決を受けたが、小規模な戦争犯罪者たちは名前を変え、国外で普通の暮らしに戻っていた。そんな戦争犯罪者に弟を殺された戦争ジャーナリストのIanと仲間たちは世界中に逃亡した戦争犯罪者たちを正義のもとに引き出そうとしていた。

物語は三つの物語が織り混ざって進む。IanとTonyは戦争犯罪者を追い詰める組織を維持しながら、Ianの弟を殺したLorelei Vogtの足取りを探していく。一方、時代を遡ってソビエト連邦の東の果て、バイカル湖の近くの田舎町で育ったNinaは、やがてパイロットとを目指して西へと向かう。アメリカのボストンに父とクラス女性Jordanは父の再婚相手に不信を感じながらも少しずつ新しい生活に馴染んでいく。

まず何よりも戦争犯罪というと、ナチスのヒトラーや映画にもなったアドルフアイヒマンという大量殺戮に関わった人物しか考えたことがなく、本書で扱っている数人程度を殺害した戦争犯罪者という存在事態を考えたこともなかった。そんな小さな戦争犯罪者たちをIanとTonyは探し出し裁判を受けさせるようと活動しているのである。本書ではやがて、Lorelei Vogtという女性一人に絞って、Ianの妻Ninaと3人でアメリカに渡るのである。

一方で、ソビエト連邦のパイロットのNinaの物語が、この物語だけで一冊できそうなほどの濃密なのも驚きである。Ninaの物語は、バイカル湖周辺という首都モスクワから遠く離れた田舎で始まり、不時着した飛行機のパイロットに遭遇したNinaはパイロットになることを夢にみて西へ西へといくのである。日本から見たらどんな文化があるのかまったく想像できない地の描写も魅力的だが、戦時中のソビエト連邦の女性パイロットの物語としても秀逸である。Kate Quinnにはこの物語に絞ってぜひもう一冊描いて欲しいところである。

最初はなぜIanの書類上の妻でしかないNinaをここまで詳細に描くのかわからなかったが、物語が終盤に進み、Lorelei Vogtを追い詰める中で少しずつNinaの存在感が高まっていく。Kate Quinnの作品を全部読んでみたいと思わせてくれた一冊である。

和訳版はこちら。

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第156回直木三十五賞、2017年本屋大賞受賞作品。

ピアノコンクールに集まったピアニストたちの様子を描いている。

マラソン大会だけを描いて1冊を終える「夜のピクニック」も驚きだったが、本作品も、数日間にわたって行われるピアノコンクールのみを扱っており、その前後の物語はほとんどない。参加者の視点、審査員の視点、参加者の妻や友達の視点に切り替わりながら、文庫本にして2冊の量を読者を飽きさせずに読ませ続ける。それぐらいピアノコンクールという多くの人にとって未知なイベントを、ドラマチックに仕上げているのである。

物語は、ピアノに情熱を注ぐ4人の人を中心に描いている。かつては天才少女として活躍したにもかかわらずピアノをやめていた栄伝亜夜(えいでんあや)20歳、サラリーマンの高島明石(たかしまあかし)28歳、優勝候補のマサル19歳、自宅にピアノを持っていないという異色の環境の風間塵(かざまじん)16歳である。

1次予選、2次予選、3次予選とコンクールは進み、少しずつ調子をあげていく人もいれば、緊張で実力を発揮できない人もいる。間違いなくシビアな世界で、多くの人が報われずに終わるとわかっていても、そんな舞台に出て戦うことを選んだ人生を羨ましくも感じてしまう。

音楽を奏でるということをやってこなかった読者にも、音楽を奏でることの魅力が十分に伝わってくる。きっと多くの人が本書を読んだ後に、その音楽を聴こうとYouTubeを彷徨うだろう。直木賞、本屋大賞のダブル受賞も納得の一冊。

【楽天ブックス】「蜜蜂と遠雷(上)」「蜜蜂と遠雷(下)」

「みかづき」森絵都

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
昭和36年、小学校の用務員室で勉強についていけない子供達に勉強を教えていた大島吾郎(おおしまごろう)の元へ、生徒の母、赤坂千明(あかさかちあき)がやってくる。学習塾を一緒に作るためであった。戦後から平成まで、千葉で始まった学習塾の物語である。

物語は、大島吾郎(おおしまごろう)が赤坂千明(あかさかちあき)立ち上げた八千代塾が、時代の波に乗って大きくなる様子。そして、大島家の
家族の様子が描かれている。教え方や、補習塾と進学塾の方針の争い、学習塾の生き残りをかけたいやがらせ工作や合併など、今まで漠然としか知らなかった塾業界の様子がよくわかるだろう。

今でこそ学習塾の存在は当たり前で、むしろ塾に行ってない人のほうが珍しい時代だが、昭和30年代40年代は、塾に行っている生徒は白い目で見られたという、それが少しずつ変化し、平成に入ると塾に通ってない生徒の方が珍しい存在となっていく。また一方で、企業としての塾と、行政としての教育委員会の関係も少しずつ変化していくのである。

本書では、教育は常にどこかが足りないと感じながらも、それを補おうと努力するぐらいがちょうどいいと言っている。

欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むものかもしれない

描かれている時代も長く、登場人物も多く読み応えがある。教育に関心がある人にはぜひ読んでほしい一冊である。

【楽天ブックス】「みかづき」

「The Alice Network」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
子供を身ごもって母とフランスに旅行中のCharlieは、戦時中に行方不明になった従姉妹のRoseを探して、手がかりとして手に入れた一人の女性Eveを訪ねる。その女性は戦時中に女性の諜報活動として大きな役割をになったAlice Networkの一員だった。

それまで保守的な母の言う通りに生きてきて、子供を身ごもってしまったが故に、遠くのスイスで秘密裏に子を産んで元の生活に戻ろうと母と旅行していた際に、CharlieはRoseを訪ねて母の元から逃げ出して、唯一の手がかりとし浮上したEveという女性を訪ねる。EveとEveと行動をともにしていたFinnとの3人で心当たりとなった場所を訪ね回る中で、それぞれが少しずつ心を開き始め、お互いの過去を語りはじめる。

物語は 1915年の第一次大戦中にEveが諜報活動の採用を受けてAliceと出会い少しずつ諜報活動の重要な役割を担っていく場面を交互に展開していく。現在と過去の間が少しずつ埋まっていくのである。Eveの醜い手には一体何があったのか、その美しいAliceは今どうしているのか。読者は、多くの部分に興味をそそられて先へ先へとページをめくっていくだろう。

3人がフランスの様々な場所を移動するのが興味深い。パリなどいくつかの有名な都市しか知らない僕にとっては、聞いたこともない都市が実は戦時中は戦況を分ける重要な場所だったと知って驚かされた。また、戦時中の女性たちの行き場のない怒りややるせなさも、EveやLilyの行動を通じて知ることができた。そしてなにより、この物語は、実際に存在した女性Louise de Bettignies(コードネームをAlice Dubois)を題材としているという点も、本書を通じて初めて知った。機会があったらもっと調べてみたいと思った。

この本の著者Kate Quinnの書籍に触れるのは今回が初めてであるが、他の作品もきっと深い内容だろうと思わせてくれた。ぜひ、有名な作品から順によんでみたい。

和訳版はこちら

「ノースライト」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
建築家の青瀬稔(あおせみのる)は自らが設計し、高い評価を受けた吉野邸に、現在誰も住んでいないことを知る。自らが建築家としての思いを込めて設計した家の持ち主はどこへ行ったのか、青瀬(あおせ)は調査を始める。

主人公の青瀬(あおせ)がバブル期に建築家になったといことで、建築家の生き方が見えてくる。どちらかというと華やかに見える建築家という職業であるが、バブル時代の絶頂の後にやってきた不況のなかで多くの人間が離脱していき、建築家として生き残った人たちも小さな設計事務所で多くない旧雨量をもらいながら続けるしかないのだという。

そんな人生の浮き沈みを経験した青瀬(あおせ)は、自らの渾身の家を長野に建てるのだが、その家が本書の中心となる。建築家はクライアントに家を引き渡してからは不必要な干渉は避ける一方、「いい家は住んで初めてわかる」という言葉が示すように、自分の家の出来がどうだったのか、住んだ人間の感想を聞きたいと思うのだという。そういう流れ渾身の家が無人であることに気づいた青瀬(あおせ)は失踪した吉野家族を探し始めるのである。

一方で、離婚して数年経った妻ゆかりと娘日向子(ひなこ)との関係も40を過ぎた建築家の人生に深みを与えている。無人になった吉野邸で唯一の手がかりはそこに置かれていた椅子であり、ブルーノ・タウトという建築家によって作られたものと酷似しているという同僚の証言からその手がかりを追っていく。

その過程で、日本に長く滞在したブルーノ・タウトという建築家についても多く書かれており、その建築物や設計したものを見てみたいと感じた。ブルーノ・タウトの生涯については時間をとって別に調べてみたい。

そして、やがて青瀬(あおせ)は真相に迫っていく、最後は家族の感動の結末。これまでの横山秀夫作品ほど、一気に読ませる感じはないが、それでも最後はさすがといった印象。建築家、仕事と家族、いろんなテーマが詰まった一冊。

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「たゆたえども沈まず」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の美術を世界に広めるべくパリに渡った2人の日本人、林忠正(はやしただまさ)、重吉(じゅうきち)が、同じくパリで美術を生業とする2人のオランダ人と出会う。

2人のオランダ人とは、テオとフィンセント・ファン・ゴッホである。弟のテオは当時のフランスの主流派な絵画を扱う仕事をしながらも、浮世絵や印象派などの新しい芸術の流れに惹かれていく。一方で兄のフィンセントはテオの収入に頼って安定しない生活をしながらも、少しずつ絵描きとして生きることを目指していく。

今でこそ、印象派や浮世絵は絵画の一つの流れとして認知されているが、それまでの宗教画などの世界では当時異端として扱われ、よのなかに認められるまでに時間がかかったことがわかる。また1800年代には3回の万国博覧会が開かれるなど、パリが世界の文化の中心だったことが伝わってくる。本書に登場する林忠正(はやしただまさ)は実在の人物で、日本の文化や美術の普及に努めたことがわかった。本書の物語を通じて、世界的でもっとも有名な画家の一人であるゴッホの人生に、日本人や日本の文化が大きく影響を与えたことがわかる。日本人として誇らしさを感じさせてくれる。

ゴッホの狂気の人生は絵画に詳しくなくても知っている人は多いだろう。しかし、本書のように弟のテオとの関係のなかでその人生に触れるとまた違った面が見えてくる気がする。同じように、これまで美術の一派に過ぎなかった、印象派、浮世絵というものについても新たな視点を与えてくれる。

【楽天ブックス】「たゆたえども沈まず」

「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」 森岡毅、今西聖貴

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ユニバーサルスタジオジャパン(以下USJ)躍動のきっかけとなったハリーポッターのオープンを決定づけた戦略的確率論について、2人の著者がそれぞれの手法を語る。

著者はどちらもP&G出身ということで、他にもストーリーを重視する文化などの本や戦略に関する本などP&G出身者による本をこれまでにも何度か読んでおりP&Gが優れた企業なんだと改めて感じた。

本書では、ハリーポッターをオープンしたことによる収益の増加の考え方を、丁寧に解説している。詳細な数学な計算方法はわからなくても、予測値の出し方の概要はつかめるだろう。一つ一つの考え方自体は特に複雑なことではないが、著者2人のすごいところは、それを突き詰めに精度をあげることに努めている点だろう。数学的に知りたい人用も、巻末に詳細の数式が書かれているので楽しめるのではないだろうか。

売り上げを規定する7つの基本的要素

認知率
配下率
過去購入率
エボークトセットに入る率
1年間に購入する率
平均購入金額

はぜひ覚えておきたい。

関東に住んでいるとUSJのことをほとんど知らないが、本書を読んで初めて興味を持った。ぜひ機会があれば行ってみたいと思った。

【楽天ブックス】「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」

「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」越前敏弥

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
学習塾や予備校の講師などの経歴を持ち「ダヴィンチコード」などを訳した経歴を持つ翻訳家としても活躍する著者が、日本人が間違いがちの英語を集めてそれを解説する。

英語の勉強も英検1級を取得したあたりでひと段落した感じだが、学べば学ぶほどネイティブとの語彙力の差は感じるばかり。定期的に英語力のさらなる向上に努めているなかで本書に出会った。

結構な英語上級者でも序盤のいくつかの例文を見ただけで自信が吹き飛ぶだろう。まったく意味がとれなかったり、完全に意味を真逆にとらえてしまう例文がいくつも含まれているのである。著者の詳細な解説によって、本書を一回じっくり読むだけでも英語力は一段階レベルアップすることだろう。

章と章の間に含まれている著者の対談の様子も面白い。印象的だったのは著者が日本語訳の重要性を強調している点だろう。昨今、英語教育は文法や日本語訳から、よりコミュニケーションという方向にシフトしているが、それによって「なんとなくわかった」気になってしまうのが危険だという。自分の理解したことが本当に正しかったかは日本語訳にして確認することで初めてわかるというのである。

続編があるならえひそれも読んでみたい。この著者の英語の書籍を全部読んでみたいと感じた。

【楽天ブックス】「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」

「慈雨」柚月裕子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
警察を引退したことをきっかけに妻と四国遍路の旅に出た神馬(じんば)。しかし、時を同じくして発生し世間を騒がせた少女誘拐事件は、16年前に神馬(じんば)が関わった少女誘拐事件に酷似していた。

なによりもまず、引退した警察官を主人公にした作品というのは事件解決の物語ではかなり珍しいのではないだろうか。そして、四国遍路の旅を警察物語でありながらここまで詳細に描写している点も印象的で、著者の緻密な調査を感じる。

さて、すでに警察官を引退しながらも、発生した事件が気になって、現職で娘の恋人でもある警察官緒方(おがた)と逐一連絡をとり、捜査状況を知るという流れで物語は進む。過去の事件を悔やみながら現在の捜査状況が常に気になり、同時に引退したということで妻と一緒の時間を大事にしたいという思いと、大人になった娘とその交際関係も気になるという、年配の男の葛藤の描き方がすばらしい。

後半は、娘との複雑な関係も明らかになっていく。

派手ではなく、警察の事件解決物語という使い古された手法でありながらも、描き方に今までにない新鮮さを持たせ、非常に深みを感じさせる作品。評価が高いことも納得である。何よりもお遍路巡りの旅に興味を持った。いつか体験してみたいと思った。警察物語など読み飽きたという読者に薦めたい。一読の価値ありの一冊である。

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「朝が来る」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
40を過ぎて一人の子供を育てる栗原清和(くりはらきよかず)、佐都子(さとこ)夫妻はときには近所づきあいでトラブルをかかえながらも幸せな生活を送っていた。そこにある日「子供を返して欲しい」と連絡が入る。

序盤は子育てと近所づきあいで悩む一般的な家庭の夫婦の物語だったが、一本の電話によって、実は子供の朝斗(あさと)は特別養子縁組によって授かった子供だと言うことが明らかになる。中盤以降は、栗原清和(くりはらきよかず)と佐都子(さとこ)が子供を切望して、朝斗(あさと)を授かるまでを描いいる。

そして、後半は、朝斗(あさと)をお腹に宿して、養子に出すと言う決断をするまでの母ひかりの様子が描かれている。子供のためを思いながらも、無力なひかりにできることは限られていて、少しずつ子供に誇りを持って向き合うことのできない大人になっていくひかりの様子がもっとも印象的である。一方で、そのような一般的には世の中から軽蔑されがちな立場にいる女性の
描写の仕方に、著者のやさしさを感じる。

あまり似た作品を思いつかない、一読の価値ありの一冊である。

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「転職の思考法」北野唯我

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
30歳になって転職に悩む男性を主人公は、キャリアコンサルタントとの出会いによって転職の考え方を学んでいく。そんな物語形式で転職のポイントを学べる作品。

印象的だったのは自分のマーケットバリューを測る三つの軸である。技術資産、人的資産、業界の生産性である。多くの人がキャリアを考えるとき、技術資産または人的資産のどちらかばかりを見ているような気がする。単純に収入をあげたいだけななら業界の生産性の方がその2つよりも何倍も重要なのである。さらに本書ではその三つの軸をさらに年齢という異なる視点で述べている。

キャリアとは20代は専門性、30代は経験、40代は人脈が重要なんだ

その他にも、「会社に行きたくない」と思いながらも転職に踏み切れない多くの人に響きそうな言葉がいくつかあったので抜粋しておく。

いつでも転職できるような人間が、それでも転職しない会社。それが最強だ。
君が乗っている船はそもそも社長や先代がゼロから作った船なんだ。他の誰かが作った船に後から乗り込んでおきながら、文句を言うのは筋違いなんだよ

これまでの転職のなかで悩み抜いて選んできたことが、本書によると大部分が正解だったことを知った。僕自身が転職で悩んでいる人がいたら伝えるであろうことを見事に言語化してるすぐれた作品。そして、このような本のなかでは珍しく物語形式で書いている点も評価したい。転職を考えている人にはぜひおすすめしたい。

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