「人生がときめく片付けの魔法」近藤麻理恵

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
一度習えば、二度と散らからないという整理収納法について語る。

こんまりとして日本だけでなく海外でも有名な著者であるが、その著書に触れたことがなかったのでこれを機に読んでみようと思った。

端的に言えば本書を通じて著者が言っているのは

ときめかないものは捨てる

である。僕自身比較的ものはさっさと捨てるほうではあるが、それでも捨てるのが難しいと感じるのは、人からもらったものである。特にその人の手書きのメッセージなど書いてあると、どんなに小さな紙切れだろうと捨てるのが難しい。しかし、それについても本書のこんなアドバイスが効きそうである。

プレゼントはそのものより、気持ちを届けるモノです。
だから、「受け取った瞬間のときめきをくれて、ありがとう」といって捨ててあげればよいのです。

また、僕自身は服をたたむことは無駄な時間だと考える人間だが、本書では感謝の言葉をかけながらたたんで重ねるのではなくたてることを推奨している。正直、感謝の言葉をかけることの意味はよくわからないが、服をたてることの意味はわかったので、さっそく実践していこうと思った。

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「自分探しと楽しさについて」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
作家であり工学博士である著者が自分探しについて思うところを語る。

著者森博嗣は「すべてがFになる」や「スカイ・クロラ」など、むしろ理系作家としての印象が強かったのだが、そんな人がどんなことを書いているのだろうと気になって本書を読むに至った。

著者自身数時間で本書を書き上げた、と言っているように、特に計画もなく独り言を書き連ねたような印象である。

印象的だったのは、抽象化の重要性を説いている点である。人生を楽しめない人は、誰かがあるものを楽しんでいるのを見るとそれとまったく同じことをしようとする。その結果、その対象は競争率が上がり、他人を蹴落とさないと手に入れることのできないものになる。一方で抽象化が得意な人は、何かが楽しかった時に、どの要素を自分が楽しんでいるのかを見極めて、その要素を備えていて自分にアクセスがしやすいもので楽しみを感じることができるというのである。

内容が濃いとは言えないが、もし人生が退屈で悩んでいるなら読んでみるといいかもしれない。僕自身はむしろ合間合間で触れる著者自身の趣味が楽しそうだなと思った。

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「Bebel」R. F. Kuang

オススメ度 ★★★★☆ 4/5中国で両親を失った少年はイギリスに連れて行かれRobin Swiftと名乗り語学を学ぶこととなった。やがてRobinはOxford大学のBabelと呼ばれる場所でその語学力を活かしていくこととなる。

時代は1800年代、読み始めは、空想世界なのか現実の歴史小説なのかわからなかったが、異なる言語のなかに存在し、意味は異なるが由来を同じくする言葉を刻むと力を持つSilverという物質の存在が空想世界のようである。

Robinはオックスフォード大学で、Remy、Letty、Victoirという同じように言語に情熱を注ぐ友人たちと出会い学問に熱中していく。Letty以外の3人は、Robinは中国、Remyはインド、Victoirはハイチの出身と、いずれも海外からその語学力ゆえにイギリスにやってきた生徒である。しかし、それぞれ自らの能力が結局イギリスの植民地支配への繁栄をもたらすことを知るにつけて、思い悩むこととなる。そんななか、Robinはイギリスの支配に抵抗するHermes Societyという秘密団体の窃盗を手伝うこととなるのである。

なにより面白いのは、そのSilverにうまく力を発揮させるために、言語間の類似語が大量に紹介されている点である。ラテン語やフランス語だけでなく中国語や日本語まで出てくるので、言語学習が好きな人にはたまらないだろう。また、Hilary Termなどオックスフォード大学独自の文化と思えるものに触れられる点も面白い。調べてみると、名門大学のいくつかは季節に独特の名前をつけているようだ。

「なぜ日本からGAFAは生まれないのか」山根節、牟田陽子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
GAFAつまりGoogle, Facebook, Apple, Amazonを日本の企業と比較し、その違いを分析している。

海外にはYコンビネーターを代表とする、スタートアップに積極的に投資する仕組みがある。もし日本にもそのような仕組みを作ったら、メルカリのような企業がたくさん日本からも生まれるようになるのだろうか。実際には文化の違いなど、別の問題もあると感じており、他の人はどのように考えているのか知りたくなって本書にたどり着いた。

本書ではGoogle, Facebook, Apple, Amazonの現状やその発展の中のターニングポイントを説明した上で、日本の類似企業、Appleはソニーと、GoogleをNTTドコモと、Facebookを任天堂と、Amazonを楽天と比較している。

GAFAのいずれの企業についても過去何冊か本を読んだことがあったので、どの物語もまったく新しく知ったというわけではなかったが、改めて各企業を見直す機会となった。驚いたのはマークザッカーバーグの考え方である。映画ソーシャルネットワークによってどちらかというといたずら好きな男性というイメージが強かったのだが、本書を読んでそのイメージが少し変わった。Facebookという大企業の中で世界の動きや抵抗や世論と向き合いながらも、悩みながら成長している様子が伝わってくる。

19歳でフェイスブックを始め、社会人経験もなかった自分にとって、会社を経営する中で起こってきた色々な問題を全て咀嚼することは不可能でした。私にとってのこの15年間は、そういう問題1つ1つに対して、もっと責任を取れるように努力してきた歴史だと言えます。

毎回感じるのは創業者の持ち続けている強い信念である。GAFAの各企業はその成長の過程で、何度も莫大な金額で売却できる機会がありながらも、走業社たちは、自らの手で、その信念に則って成長させることを選んだのである。日本で同じようなことがあったら、その創業者はそのお金に目がくらまずに、自ら苦難の道を選ぶことができるだろうか。そう考えると日本とアメリカの違いはシステムだけでなく、信念の違いなのかもしれないと感じた。

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「Velvet was the Night」Silvia Moreno-Garcia

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1971年のメキシコでHawksの一員として働くElvisと秘書として週刊誌を読むことだけが楽しみの女性Maiteの2人の男女の人生を描く。

ElvisはEl Magoという男に拾われ、Hawksの一員として学生運動を鎮圧することを仕事としている。しかし、仲のいい同僚のGazpachoが銃弾に倒れて組織から抜けたことでグループのリーダーとなり今まで知らなかった様々な事柄に触れ、少しずつ自分の行動や立場を考えるようになる。そんななかある女性の張り込みを任される。

一方Maiteは秘書として働きながら、政治情勢の話題で盛り上がる同僚たちをは距離を起きながら、過去の恋愛を引きずって週刊誌の恋愛漫画だけを楽しみに生きている。Maiteは小遣い稼ぎのために週末ペットシッターをしていたが、客の一人が猫の餌やりとMaiteに任せたまま失踪してしまってから、その退屈な人生が少しずつ変化が起きる。

そんなメキシコの学生運動が盛んな時代に、異なる世界で生きていたElvisとMaiteの世界は少しずつ近づいていくのである。やがてElvisは話したこともないMaiteにどこか親近感を覚えていく。

物語展開としてものすごい斬新というわけではなかったが、やはりメキシコの学生運動、特にDirty War(汚い戦争)など、その動乱の時代を描写している点が新鮮である。メキシコの歴史などほとんど触れたことがなかったので、キューバ革命の後にこのような動乱の時代があったことを初めて知った。手の届く範囲でもう少し調べてみたいと思った。また、ElvisもMaiteも音楽が好きなため、当時のメキシコの音楽が何度も登場するのが面白い。こちらもいくつかさっそく聞いて当時の雰囲気を味わってみたいと思った。

メキシコにも学生運動の発端は、アメリカの共産主義運動を封じ込める動きから起こっていたことを知った。やはり日本にいて普通に生活していると、アメリカの悪い歴史部分が見えにくいのかもしれないと感じた。英語はどちらかというと欧米文化を伝える一方、南米文化には弱いので、もっとスペイン語の本なども読むべきかもしれないと感じた。

「1分で話せ」伊藤洋一

1分で話せ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
短くシンプルに伝える方法を語る。

人は人の80%の話を聞いていないとして、意思を伝え、人を動かすために1分で話すことの重要性を説いている。そんななか話が伝わらなくなる4つのパターンが印象的である。

「プロセス」を話す
気を遣いすぎる
自分の意見とは違うことを言う
笑いを入れる

確かに僕自身の周囲でよく見るのは、「気を遣いすぎる」である。人を傷つけまいと一生懸命オブラートに包むから何を欲しいのだかわからなくなるのである。また、人を動かすのは「頭の中に生まれたイメージ」であり、そのために2つの手法があると言う。

ビジュアルなイメージを直接的に描いてもらう
聞き手をそこにあてはめていく、聞き手にそのイメージの中にはいっていってもらう

自分はどちらかというと直接的に物を言いすぎる傾向があって、よく「言い方が悪い」と言われる。しかし、むしろ人に思いをしっかり伝え、動かすためにはその方向で正しいと思えるようになった。ビジュアルのイメージを喚起する方法は心がけていきたいと思った。

伝え方でヒントになる箇所はあったが、全体としては内容の薄さを感じてしまった。後半に進むにしたがって前の章で語ったことの繰り返しで、最後の章はほとんど時間の無駄だった。

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「The Monk Who Sold His Ferrari」Robin Sharma

The Monk Who Sold His Ferrari

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
心筋梗塞をきっかけに輝かしい法律家の経歴と私財を捨ててインドに旅立った友人が、若返って帰ってきてヒマラヤで得た豊かな人生のための教訓を語る。

すべてを捨ててヒマラヤに行った友人という話が印象的だったため序盤から興味津々である。ヒマラヤでしあわせにに長生きをする人々の秘訣を教わって帰ってきたJulianは話し始める。灯台のある美しい庭に関取がいる、不思議な逸話から、徐々にその奇妙な話が意図するところを説明していく。

まとめてしまうと、本書で語っている豊かな人生を生きる鍵はは次の7つである。

Master Your Mind
Follow The Purpose
Practice Kaizen
Live With Discipline
Respect Your Time
Selflessly Serve Others
Embrace the Present

つい先日「アファメーション」を読んだばかりであるが、それだけでなく「嫌われる勇気」など、本書で語られていることは、形や順番は異なれど、どれも多くの場所で語られることばかりである。それでも、語り方が異なればまた伝わり方や感じ方が違うもので、今回も改めて自分の生き方の純度をあげるきっかけとなった。

言葉の重要性、周囲で起きたことに対する自分の反応のコントロール、そして人や社会に尽くすこと、この3点は常に忘れないようにしたい。また、そのほかにも、人に伝えたい言葉であふれていた。

There are no mistakes in life, only lessons. There is no such thing as a negative experience, only opportunities to grow, learn and advance along the road of self-mastery. From struggle comes strength. Even pain can be a wonderful teacher.
No matter what happens to you in your life, you alone have the capacity to choose your response to it.
Your I can is more important than your IQ.
Don't pick up the phone every time it rings. It is there for your convenience, not the convenience of others.

世の中にはすでに本書で書かれていることができている人も多いだろう。しかし、そんな人でも何度もその考え方を忘れないために同じ考えに触れ、その純度を上げていくべきなのだろう。

「アファメーション」ルー・タイス

アファメーション

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人生を好転させる5つの法則を語る。

たびたび良書として名前が挙がってくるため、「アファメーション」という言葉から、おおよその内容の想像はできるのもかかわらず、自分の人生の密度をさらにあげるために本書を読むに至った。

本書は次の5つのステップを順番に語っている。

ステップ1 ビジョン、使命、価値観、動機、態度を明らかにする。
ステップ2 創造的な思考、ポジティブなセルフトークを取り入れる。
ステップ3 ターゲットを定義し、目標の刷り込みを行う。
ステップ4 行動を起こし、方向を正す。
ステップ5 人を育て、組織を改善する。

人生のすべては自分の選択であり、行きたい場所を明確にして、それを言葉にすることで実現に近づく、これは間違いない。また、この考えは、昨年読んだおすすめの本「自動的に夢がかなっていくブレインプログラミング」と非常に似ており、結局、豊かな理想の人生を達成するための誰もが認める方法ということだろう。

そういう意味では、考え方としてはすでに何度か触れたものだったので、大きな驚きはなかったが、表現の仕方、説明の仕方のなかに、いくつか新しいと思えるものがあり、この考え方の重要性を改めて再認識できた気がする。なかでも、自分のネガティブな考え方によって束縛され、不幸になっている人を端的に表した次の言葉が印象的だった。

見てごらん、鍵は君のポケットの中にあるよ。君はただ鍵を開けて、自由になればいいんだ。

後半は目標設定の必要性やそれに関わる逸話を多く書いており、また個人だけではなくグループへの適用などにも触れており、必要以上に長く感じた。個人的に人生を好転させたくて本書を読もうと考えているなら、上にも書いたように「自動的に夢がかなっていくブレインプログラミング」の方が端的でわかりやすく、また楽しく読めるだろう。

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「解きたくなる数学」佐藤雅彦/大島遼/廣瀬隼也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
いくつかの数学の問題を写真とともに提示し、解説していく。

数学の問題を興味深い写真とともに解説している。それぞれが特別難しい問題ということはないが、普通の数学の問題を解くのと、実際の場面を見せられて数学を応用して答えを導き出さなければならないのとでは、少し考え方が異なると感じた。「数学的帰納法」など久しぶりに触れる考え方もあれば、「鳩の巣原理」など、新しい発見もあった。

面白いのは著者が末尾でも語っているように、同じ問題でも写真とともに示すと興味深く見えるということである。興味をそそる見せ方をするという考え方は他のことにも応用できそうだと思った。

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「白い巨塔」山崎豊子

白い巨塔

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
国立大学医学部助教授の財前五郎(ざいぜんごろう)が、医者としてのキャリアを築いていく様子を描く。

前半は大学内の教授選、後半は財前五郎(ざいぜんごろう)が巻き込まれた医療訴訟を中心に展開する。

自身が教授に選ばれるため、またその周囲の人間は財前(ざいぜん)を教授にするために、それぞれが様々な人脈を駆使して票を集める様子は、醜くもあるが、学ぶところもあると感じた。どんな人でも、お金や地位や家族の豊かな人生を約束されれば小さな信念など簡単に譲ってしまうのだ。

後半の医療訴訟では、一人の医師が証言している言葉が印象的だった。医師に厳しすぎる判決は、逆に医療の発展を損ねる結果となり、どこまでを誤診と定義するかは、医療の発展に影響する判決なだけに、常に難しさがあると感じた。

全体的に、貧しい家庭に生まれた財前(ざいぜん)が、助教授から教授へと少しずつ医者としての地位を登っていく過程で忙しさも増す中で、傲慢になっていくところが痛々しい。その一方で、自らの信念を全うしたことで医者としての立場を追われた里見(さとみ)教授や、立場に関係なく事実しか証言しない大河内(おおかわうち)教授など、尊敬できる生き方にも触れることができた。

本書の舞台となっているのは昭和30年代とかなり昔だが、技術的にはもちろん、本書で描かれているような、医療の発展を阻みかねない封建制も改善されていると期待したい。

「白い巨塔」といえば過去豪華キャストでドラマ化されており、山崎豊子の最高傑作という印象を持っていたが、おうして実際に読んでみると、一人の傲慢な医者の周囲で起こった出来事に閉じており、「大地の子」「二つの祖国」「沈まぬ太陽」に比べると、登場人物の浮き沈みや、世界の大きな変化など、物語の壮大さはあまり感じなかった。

【楽天ブックス】「白い巨塔(一)」「白い巨塔(二)」「白い巨塔(三)」「白い巨塔(四)」「白い巨塔(五)」

「In the Dream House」Carmen Maria Machado

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女性同性愛者である著者の、恋人との出会いとその後の同棲の様子を語る。

著者自身が、ある女性と恋に落ち、ともに生活を始め、やがてその女性から振り回されるまでの様子や心のうちをを描いている。その過程で恋人に対する感情たけでなく、社会や家族のレズビアンに対する考え方も吐露していく。同時に、女性の同性愛者間で起きた数々の事件などに触れ、思うことを語っていく。

回想録ということで、物語の展開自体が面白いということは特にないし、有名人の伝記のように、自らの生き方に対して、良い刺激になることもない。

おそらく、この本がベストセラーとなった理由は、内容の面白さよりも、そのレズビアン視点のカップル間の暴力という、斬新さゆえなのだろう。今までに考えたこともなかった、同性愛者視点の社会の見方を知ることができた。世の中が同性愛者を理解していないことに対する、著者のストレスを行間から感じた。そして、さまざまな映画やMVなどのシーンが語られるので、アメリカの文化を知る上では面白いだろう。

一方で、日本ではあまり有名ではない出来事やアーティストや映画の話題にもたびたび触れられているので、アメリカの文化にかなり詳しくないと楽しめないだろう。徹底的に引用される出来事を調べるつもりで読むぐらいが面白いかもしれない。また、スラングがかなり多く登場する。こちらも普通に読んでいくよりも、アメリカ英語を徹底的に学ぶつもりで調べながら読むと面白いかもしれない。

面白かったとか刺激になったとかではないが、間違いなく新しい世界観や視点をもたらしてくれる。

「Fluent forever」Gabriel Wyner

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多言語話者であり音楽家でもある著者が、語学学習の効率的な方法を語る。

著者の学習方法は

発音→単語→文法→その他

という優先順位で行われ、発音が最初に来る点が面白い。音楽家であることから音から入るのかもしれないが、五感を多く使った方が記憶に刻まれるという点で、読み方を先に知っておかないと記憶するのに時間がかかるという点には間違いないだろう。

そして、本書で何よりもページ数を割いて説明しているのがフラッシュカードの使い方である。誰もが学生時代に単語帳は使った経験があるだろう。フラッシュカードとは単語帳のことでインターネットやアルゴリズムによって現在はさらに効率的に利用できるのである。

何よりもページ数を割いて説明しているのがフラッシュカードの使い方である。誰もが学生時代に単語帳は使った経験があるだろう。フラッシュカードとは単語帳のことでインターネットやアルゴリズムによって現在はさらに効率的に利用できるのである。

本書ではそんなフラッシュカードを利用して、効果的に学ぶコツをいくつも説明している。興味深かったのは、言語によって必要な、男性名詞、女性名詞、中性名詞をどのように覚えていくかということである。著者の方法は新しい言葉を、自分の言語に変換して覚えるのではなく、常にイメージと結びつけることと重視しており、男性名詞はそれが爆発している状態で記憶し、女性名詞は燃えている状態で覚える、など印象的なシーンにして記憶に刻み込ませるためのさまざまな工夫が見られる。必ずしも著者の進める方法に従う必要はないが、効率的に記憶するためのさまざまなヒントが詰まっている。

僕自身もう10年ほど前になるが、フラッシュカードでかつ少しずつ間隔を開けて繰り返す機能を備えたAnkiというアプリを以前使っていた。結局、単語や表現は文脈とともに覚えていかないと使えるようにはならないと悟ってやめたのだが、本書によって考え直すきっかけになった。

「魍魎の匣」京極夏彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校生の加奈子(かなこ)が線路に飛び込んで自殺未遂を起こし、警察の木場(きば)は捜査に動き出すこととなる。目撃者の友人の頼子(よりこ)によると、犯人は黒い服の男だという。

木場は加奈子(かなこ)の母が、かつての憧れの女優であるとわかったことで真実を解明するために誰よりも熱が入る。一方、編集者の持ち込んだ占い師の調査によって、作家の関口(せきぐち)、その友人の京極堂、探偵の榎木津(えのきづ)が事件に関わっていくことになる。少女の自殺未遂事件、バラバラ殺人事件、不思議な占い師、など複数の事件が同時に起こる中で、箱と魍魎の影が見えてくる。

このシリーズは毎回そうだと思うが、京極堂の事件解決やそのために語る逸話やうんちくが面白い。なかでも本作品のタイトルにもなっている魍魎に対する説明や由来は興味深かった。正直とても理解できる範疇ではなかったが、伝説や民話など長く多くの地方をめぐって伝えられる物語は様々な変化をするのだと感じた。語り継がれるのには理由があり、「ただの昔話」と軽く扱っていいものではないのである。

本作で著者京極夏彦の作品に触れるのは「姑獲鳥の夏」に続いて2作品目だが、久しぶりに味わうその世界観は共通したものがあり、常に京極作品の根底には「世の中の常識を疑え」というようなメッセージを感じる。他の有名作品もまた読みたくなった。

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「点と線」松本清張

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松本清張作品はこれまで読んだことがなかったが、本作「点と線」や「ゼロの焦点」など、タイトルだけは知っているほどの名作が多々あり、もはや知っておかなければならない常識なのかもしれない、と感じ今回読むことにした。

松本清張作品はこれまで読んだことがなかったが、本作「点と線」や「ゼロの焦点」など、タイトルだけは知っているほどの名作が多々あり、もはや知っておかなければならない常識なのかもしれない、と感じ今回読むことにした。

昭和33年初版ということで、携帯電話どころか普通の電話も普及していないようで、電報が出てくる点や、旅行に飛行機を使うことに対する認識の違いや、搭乗のシステムの違いなどから、残念ながら初版当時の時代感覚で楽しむことはできない。むしろ、本書を読んで考えるのは、なぜこの作品がここまで長く読まれる有名作品となったかということである。

改めて思うのは、作品を有名にするのに、「点と線」というタイトルが大きく貢献しているということである。本書の内容の濃さは、50年以上経った今としては評価できないが、「点と線」というタイトルが適切かと聞かれると疑問である。「〇〇殺人事件」というようなタイトルをつけることもできたなかで、多少の違和感を感じながらも「点と線」というタイトルをつけた点が50年経った今でも読まれる大きな要因と言えよう。

考えてみると確かに、「世界の中心で愛を叫ぶ」や「君の膵臓を食べたい」など、内容がありきたりでもタイトルの印象深さから有名になったであろう作品がこれまでにも多々あるなと思い至り、タイトルの重要性を改めて感じた。

【楽天ブックス】「点と線」

「A Man Called Ove」Fredrik Backman

「A Man Called Ove」Fredrik Backman

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
子供もなく妻に先立たれたOveは死ぬことを考える。しかし、Oveは近所のルールが守られているかを見回るという日課があった。そんなOveの様子を描く。

Oveは常に、自らの命を絶って妻のところに行こうと考えているにも関わらず、頑固なOveに惹かれていく周囲の人々の様子をコミカルに描いていく。死にたいという人生の一大事を滑稽に描くところが面白い。

物語が進むに従って、少しずつ過去のOveの人生が描かれていく。父親の教え、妻との出会い、そして、コミュニティの友人たちとのやりなどである。どちらかというとOveの生き方は、古き頑固な生き方で現代に合わないようにも見えるが、その人生に触れる過程で、現代に生きる人たちが忘れがちな大切なことが見えてくる。

But we are always optimists when it comes to time, we think there will be time to do things with other people. And time to say things to them.
しかし時間に対しては人は楽観的である。周囲の人との時間や、伝えるべきことを伝える時間がかならず来ると思っている。
It is difficult to admit that one is wrong. Particularly when one has been wrong for a very long time.
間違っていることを認めるのは難しい。特に、間違っていた時間が長いほど難しい。

僕のの未来に対する大きな不安として、妻に先立たれたらどうやって生きていこうか、というのがある。本書はそんな、人生に希望を失いがちな晩年でも、愛しき人との思い出とともに、周囲の人と関わりながら幸せに生きる生き方を示してくれる。常に、世のため人のため、そう考えて生きていればつながりは自然と生まれていくのだろう。

和訳版はこちら。

「八月の銀の雪」伊与原新

八月の銀の雪

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
5つの物語。

どれも人間関係の悩みと気づきの物語である。同時に、そのなかで内核、伝書鳩、珪藻、風船爆弾など普段の生活ではなかなか触れることのない世界を見せてくれる。

5つの物語のなかで印象的だったのは最初の「八月の銀の雪」と最後の「十万年の西風」である。「八月の銀の雪」は昨今増え続ける東南アジアからの留学生に対する世の中の視点を浮き彫りにするとともに、彼らが、日本に希望を持ってやってきて一生懸命生きているということを優しく伝えてくれる。そして、最後の「十万年の西風」では原発とそれに関わる人の苦悩を描きつつ、戦時中の日本の兵器、風船爆弾についても触れる。

どれも人間関係に関する苦悩を描いているが、つらいだけでなく気づきを得て前向きに進むことで清々しい読後感を与えてくれる。風船爆弾や珪藻については早速追加で巻末の参考文献等読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「八月の銀の雪」

「最後の家族」村上龍

最後の家族

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
引きこもりの長男秀樹(ひでき)を抱える内山家を父、母、秀樹、妹4人の視点から語る。

55歳からのハローライフ」が思っていたよりもずっと深かったので、村上龍の代表作として本作品「最後の家族」にたどりついた。

母の昭子(あきこ)、父秀吉(ひでよし)、妹の知美(ともみ)、そして、秀樹(ひでき)のそれぞれの視点から家族の様子が描かれる。秀樹(ひでき)が引きこもりであることと、父秀吉(ひでよし)の考え方が、家族それぞれの人生に大きく影響を与えていることがわかる。

そんななか、それぞれが少しずつ会社や周囲の出来事の変化によって、変化していかなければならなくなる。その過程で人生がうまくいかない人にありがちな考え方が見えてくるのが面白い。

例えば妹の知美は、知り合いからの旅行の誘いを断るときに次のように感じる。

わたしは、これで自分で決定しなくても済むと思ってほっとしたんだ。自分で決めるというのは苦しいことなんだ。せっかく楽しみにしてたんだからもう一度考え直してよ。せっかく誘ったのにどうして断るんだよ。そう言うのを期待していた。

何一つ自分では決めたくない、周囲に流されれば自分の選択や行動に責任をとらずに、それが正当化される。そんな自分の決断に向き合うことのない人の生き方を教えてくれる。

また、母の昭子(あきこ)も、秀樹(ひでき)の引きこもりの問題と少しずつ向き合う中で変化しはじめる。

このわたしだって自分の考えを人に言うんだから、きっと他の人も言うだろう。言わないのは何か理由があるからだ。自然にそう思うようになったのかも知れない。自分の考えを人に言う。たったそれだけのことだが…それがどういうことなのか知らなかった。

そして秀樹(ひでき)も、隣人の家の女性に惹かれて少しずつ行動を起こし始める。そんなときに出会う考え方が印象的である。

救いたいという思いは、案外簡単に暴力につながります。それは、相手を、対等な人間としてみていないからです。…そういう欲求がですね、ぼくがいなければ生きていけないくせに、あいつのあの態度はなんだ、という風に変わるのは時間の問題なんですよ。

それぞれが特に珍しい生き方をしているわけでもない。それでも、ふとしたきっかけで内面的な、人生の転機を迎え、人間的に成長していくのを感じられる物語。「最後の家族」と呼ぶほど未来が暗いわけではなく、むしろ前向きになれる作品。僕自身あまりこのような受け身な生き方をしてこなかったが、受け身な人の心理が少し理解できるようになった気がする。

【楽天ブックス】「最後の家族」

「見えない誰かと」瀬尾まいこ

「見えない誰かと」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
自身の教師の経験の中で出会ってきた人々を語る。

瀬尾まいこの本を読むのはこれが初めてではなく「そして、バトンは渡された」など、いくつか印象に残っている本があるが、本書「見えない誰かを」を読むまで中学校の教師であることを知らなかった。

興味深いのは、一見おかしな人、変な人に見える人々でも、時間の経過によってその人の異なる部分を知り、良い部分を見るようになっていく著者の視点だろう。女性ならではの共感力や、先生ならではの観察力を感じる。そして、その一方で、人の記憶に長く残る人というのは、どこか一癖ある人なのだと改めて感じる。

著者のその優しい視点からも、そして、著者が挙げている癖のある人々からもたくさん学ぶところを感じる。悪いところばかりに目がいってしまう僕自身は、人との接し方を少し改めないとならないと感じた。

周囲に合わせて個性を失っていると感じる人がいるなら、そんな人も本書を読んでみるといいのかもしれない。

【楽天ブックス】「見えない誰かと」

「Design is Storytelling」Ellen Lupton

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインは「問題解決」と言われてきたが、現代のデザインはすでにそれだけに止まらない。本書は「問題解決」であると同時にStorytellingとしてのデザインを語る。

次の3つの章に分けてStorytellingとしてのデザインの考え方を語る。

  • Action
  • Emotion
  • Sensation

つまり問題解決だけではなく、行動、感情、感動に働きかせてこそStorytellingなデザインと言えるだろう。そして、それぞれの章では、それを実現するための細かい手法を説明している。例えば、Actionの章では次の手法に触れている。

  • Narrative Arc
  • Hero’s Journey
  • Storyboard
  • Rule of Threes
  • Scenario
  • Planning
  • Design Fiction

同様にEmotionの章では次の手法を説明している。

  • Experience Economy
  • Emotional Journey
  • Co-creation
  • Persona
  • Emoji
  • Color and Emotion

ペルソナやCo-creationはすでにデザインスプリントやリーンスタートアップの考え方にも取り入れられており、どれもすでに一般的で特に驚きはなかったが、Emotional Jorneyで説明されている、ピーク・エンドの法則はデザインにも適用できると感じた。特に、全体のUXを改善しようとすると時間もコストもかかりすぎる場合はピーク・エンドの法則と照らし合わせて優先順位を決めるという考えは有効だと感じた。

後半は一般的なデザインに含まれる内容が多かった。むしろ、おまけとして書かれていた最後の、文章ライティングの考え方は参考になった。

As you write, focus on being clear, not clever.

比較的他のデザイン書籍にも書かれている内容ばかりだったのでものすごいおすすめの書籍ではないが、同じような内容でも定期的に触れることに意味があるのだろう。

「完売画家」中島健太

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「絵描きは食えない」という常識を覆した完売画家と呼ばれる著者のこれまでの活動や考え方を語る。

僕自身、制作物や技術を売る人間なので、著者の考え方が、技術の上達やブランディングに活かせないかと考え、本書にたどりついた。

読み始めて気づいたのだが、著者はもともと体育会系の人間なのだという。また、論理的に物を考える傾向があり、それによって、行動や思考が筋道立って説明されていてでわかりやすかった。むしろ、だからこそ、このように一般的な美大出身の人とは異なる道を歩み始めたのかもしれない。

本書で繰り触れていることとして、美大の講師は、美術でお金を稼げなかった人がなっている場合が多く、その結果、美大ではお金の稼ぎ方を学べないという悪循環が起こっているというものがある。著者はそんななか周囲から白い目でみられながらも、自らの絵を売る方法を確立し、その過程や考え方を説明している。ギャラリーや美術団体の種類や傾向の話は印象的で、また、オンラインで販売することの画家としてのデメリットの話も興味深かった。

絵を描く技術については次の言葉が心に残った。

多くの人は、線を描き始める場所は決めていますが、描き終える場所は決めていない。そのため、終わるところを意識するためでも、速くなります。

本書では、美術業界において実践していることを描いているが、早く良質の作品を仕上げることの重要性や、人の求める要素を見極めたり、競争相手のいない領域で勝負することなどは、他のどんな業界においても言えることである。改めて今僕自身が毎日やっていることに取り入れられないか考えたみたい。

【楽天ブックス】「完売画家」