「笑う警官」佐々木譲

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
女性警察官殺人の容疑者として挙げられた津久井(つくい)巡査部長。組織はその容疑を利用して津久井(つくい)の射殺許可を出す。かつて津久井(つくい)と苦難をともにした佐伯(さえき)警部補は独自に津久井(つくい)の潔白を証明しようと動き出す。
多くの人が理解しているとおり、警察というのは決して清廉潔白な組織ではない。単純に私腹を肥やしている警察官もいるだろうが、世の中の平和を維持するための行動ではあっても必ずしも規則に則っていることばかりではない。軽微な犯罪を見逃す見返りとして裏の情報を得ることで、より大きな犯罪を防いだりするのはその1例だろう。
そして時には大きな犯罪を防ぐために犯罪者に協力することもあるらしい。最終的に「平和を守る」という点では一致していても、どこまでが赦される行為か、という点ではそれぞれの警察職員によって異なる。
本作品では、公の場で、警察内部の真実を語ることを正義と信じて行動しようとする津久井(つくい)巡査部長と、その行為を「警察に対する裏切り」と受け止める派閥との争いである。個人の利益に直結するものではなくそれぞれの信念に委ねられるものだからこそ、どこに敵がいるかわからない。そんな環境の中で友人である津久井(つくい)を守ろうと行動する佐伯(さえき)の周到で機敏な判断と、その良きパートナーとを果たすことになる女性警察職員、小島百合(こじまゆり)の知性溢れる言葉の数々がなんとも魅力的である

もし、正義のためには警官がひとりふたり死んでもかまわないってのが世間の常識なら、おれはそんな世間のためには警官をやっている気はないね。

警察小説は、おそらく小説の中でももっとも多く書かれている小説だろうが、そんな警察小説の中でも際立って個性のある作品に仕上がっている。

「向日葵の咲かない夏」道尾秀介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ミチオは欠席した友人の家を訪れた際、首を吊って死んでいるその友人を見つける。しばらくしてその友人はミチオの元に、蜘蛛に姿を変えて現れる。蜘蛛になった友人の訴えを元にミチオは妹のミカとともに真相を知ろうとする。
幾ページも読まないうちに、その荒唐無稽さ、過去に読んだことのない不思議っぷりに戸惑った。自殺した友人が蜘蛛に生まれ変わってミチオの前に現れた時点で、かなりしんどくなったが、それでも読み続けたのは、物語をそこまで現実離れしたものにしてさえも訴えたい何かが最後にあるのではないか、そう思ったからだ。
最終的にその期待に応えてくれたかというと首をひねらざるを得ないが、まあ、こんな物語もありかな、と納得することはできた。
往々にして誰かの心に深く突き刺さる何かは、ほかの人から見ると逆にひどくくだらなく見えたりする。だから、僕がこういう評価をしたこの作品が、誰かの心を鷲掴みにする可能性もないとはいえないだろう。
【楽天ブックス】「向日葵の咲かない夏 」

「KAPPA」柴田哲孝

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
釣り人が上半身を引きちぎられた状態で発見された。目撃者は「河童を見た」という。ルポライターの有賀は真相を突き止めるために沼を訪れる。
前作「TENGU」が傑作だったゆえに、同じ未確認生物を題材とした本作品にも自然と手が伸びた。
本作品はそのタイトルが示すとおり沼にひそんだ謎の生物を追うことがメインであるが、大きな沼を舞台にしているため、その沼と長い間関わってきた地元の人々の生活の様子も描かれている。中でも放流されたブラックバスが与えた影響についてのくだりは印象深い。
内容については、やはりどうしても前作「TENGU」と比較してしまうのだが、「TENUG」ほど話の広がりは残念ながらないが、ルポライターで自由に生きている有賀(ありが)や、地元警察署の阿久沢(あくざわ)、沼でずっと生きてきた源三(げんぞう)の人間性に焦点を当てている。
そんな中、正反対の生き方を歩んできた、有賀(ありが)と阿久沢(あくざわ)が語りあうシーンはいろいろと考えさせてくれる。

おれも以前は、自由でいることは男の強さの証明だと考えていた時期もあった。つまり家庭とか、財産とか、社会的な信用とか、守るべきものがひとつずつ増すごとに男は少しずつ弱くなっていく。攻撃よりも守備に徹せざるを得なくなるからな。

タイトルこそ未確認生物として共通しているが前作「TENGU」とはかなり趣の異なる作品。期待値が高かっただけにやはり評価は厳しくなってしまう。


レッドテールキャット
体長は最大で約120cm。熱帯産大型ナマズの人気種であり、ペットショップでは5?程の幼魚が出回っている事が多い。(Wikipedia「レッドテールキャットフィッシュ」
キシラジン
麻酔前投与薬として使用される。牛、馬では鎮静薬や鎮痛薬としても用いられる。犬や猫ではケタミンと併用されることが多い。(Wikipedia「キシラジン」)
ケタミン
フェンサイクリジン系麻酔薬のひとつで、三共エール薬品[1]から塩酸塩としてケタラール®の名で販売されている医薬品。(Wikipedia「ケタミン」
参考サイト
熱川バナナワニ園ホームページ
Wikipedia「ミシシッピアカミミガメ」

【楽天ブックス】「KAPPA」

「ジウIII 新世界秩序」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ジウ」シリーズの完結編。「ジウII」でジウと出会い、黒幕のミヤジなる人物と出会った伊崎基子(いさきもとこ)はそれまでになかった言動を見せるようになる。一方門倉美咲(かどくらみさき)は引き続きジウの足取りを追う。そんな中、新宿の歌舞伎町が封鎖される。
「ジウ」シリーズは常に2人の女性警察職員に焦点を当てて展開される。人の気持ち、ときには凶悪犯罪を犯した犯罪者の気持ちさえも理解しようと努める門倉美咲(かどくらみさき)と、闘いと危険な状況を好む伊崎基子(いさきもとこ)である。
完結編である本作品では、世の中を裏で操るミヤジとの出会いによって、人を殺すことさえ躊躇わなくなった伊崎(いさき)の心の変化が描かれている。
前作を読んだときに予想したとおり、三部作というのは常に全作品を上回らなければ、読者は満足しない。物語を完結させるためとはいえ「ジウI」「ジウII」とじっくりと時間をかけて作り出したこの不穏な空気を、まんぞくさせるような形で完結させるには、「ジウIII」のわずか1冊は少なすぎたといえるだろう。
【楽天ブックス】「ジウIII 新世界秩序」

「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大学病院の小児科病棟での出来事を描く。美しい歌声を持つ看護師の浜田小夜(はまださよ)の担当は目を摘出しなければならない子供たち。
次の作であるがすでに読了した「ジェネラルルージュの凱旋」とほぼ同じ時間を描く。「ジェネラルルージュの凱旋」が1階の救急救命センターを舞台としているのに対して本作品は2階の小児科を舞台としている。海堂尊のウェブサイトや、「ジェネラルルージュの凱旋」の末尾に付属している病院のマップなどを見るとさらに楽しめるだろう。
小児科病棟を舞台としているゆえに、そこの患者達は若いというだけでさまざまな症状に悩む。そこで自分の病気やそれに対する姿勢のありかたに悩む少年達の言動は本作品でもっとも印象に残る部分である。特に、牧村瑞人(まきむらみずと)は中学三年生という微妙な年齢。自分のことは自分で決められると本人は思いながらも、親の承諾なしに手術を決定することはできない。そして多くのその年代の少年達同様、周囲に弱音をはかないためにその内側が見えにくい。
そのような患者に囲まれて、少しでも患者達の幸せを願って従事する看護師、浜田小夜(はまださよ)の姿からは医療現場の多くの深刻な問題が見て取れる。

小児科診療にはマンパワーが必要だ。子供は小さな獣で、注射一つにも力ずくで押さえつけることが必要な時もある。一般患者なら本人聴取で済むが、小児科は両親の話も聞き、その上本人の聴取に途方もない根気が要る。愛情が深い分だけ、両親に客観的事実を納得させるのに、手間がかかる。子供と医療を軽視する社会に未来なんてない…

小児科病棟の患者の人手である杉山由紀(すぎやまゆき)は白血病を患っていて、自分の未来が短いことを知っている。そんな由紀(ゆき)と生きるためには両目を摘出しなければならない瑞人(みずと)の会話がなんとも強く心に響いた。

「たぶん、もう駄目」
「そんなこと言わないで。がんばって。きっと大丈夫だよ」
「そんなありきたりの言葉を瑞人(みずと)くんからもらえるなんて、思ってもいなかった。何とかなるのにしようとしないひとに慰めてもらえるなんておかしな話ね」

物語はそんな小児科病棟と、その関係者の間で起こった殺人事件に焦点をあてて展開する。本作品では、多くの関係者達が、ルールを守ることを重視するばかりでなく、人間関係やその事象がその後長きに渡って及ぼすであろう影響まで、広い視野で考えて対応する姿に、好感が持てた。
そんな病院関係者たちの行動をあらわすかのような次の言葉を大切にしたい。

ルールは破られるためにあり、それが赦されるのは、未来によりよい状態を返せるという確信を、個人の責任で引き受ける時だ。

今まで読んだ海堂尊作品とはやや趣が異なり、少し現実離れした物語。そのため最初は少し嫌悪感を抱いたが、最終的には「こんな物語もありかな」と、納得することができた。


加稜頻伽(かりょうびんが)
極楽に住む架空の鳥の名前
網膜芽腫(もうまくがしゅ)
眼球内に発生する悪性腫瘍である。大部分は2〜3歳ころまでに見られる小児がんであり、胎生期網膜に見られる未分化な網膜芽細胞から発生する。(Wikipedia「網膜芽細胞腫」

【楽天ブックス】「ナイチンゲールの沈黙(上)」「ナイチンゲールの沈黙(下)」

「ジウII 警視庁特殊急襲部隊」誉田哲也

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
連続誘拐事件の主犯とされるジウなる男を追う警察。その中の2人の女性警察職員、門倉美咲(かどくらみさき)と伊崎基子(いさきもとこ)を中心にすえた物語。
タイトルから予想できるとおり本作は「ジウI」の続編である。門倉美咲(かどくらみさき)は前作「ジウI」の最後でSATを撃ち殺した元自衛隊員の取調べからジウへの足がかりにしようとする一方、SATでの活躍により昇進した伊崎基子(いさきもとこ)は昇進して異動となったが、そこで独自にジウを追うことになる。
基本的にはジウを追う警察の中で、二人の女性に焦点を当ててはいるが、その中でたびたび挟みこまれる、どこかの田舎町で育つ男のエピソードがなんとも興味深い。このエピソードは、いつの時代を描いているのか、どこなのか、この男は誰なのか、一体どこで本編とリンクするのか、そんな期待を読者に抱かせる。そして、その男の凄惨な生き方によって、僕らが世の中の大部分に適用されると思っている「常識」とか「世の中」という言葉が、実は一握りの小さな世界でしか通用しないのではないかという疑問を想起させられる。

ボコっという音がして、隣を見ると、私より小さかった女の子の頭に、鉈の柄が生えていた。でもまだ生きていた。私と目が合った。頭に刺さってるよ。私はそう、教えてやるべきだったのだろうか。

僕らが持っている社会通念や愛と思われるものが本当に人々の中から自然と発生したものなのか、それとも誰かが一部の特定の人間の利益のためだけに、人々の中に流布したものなのか、という問いかけは、ジウの共犯者たちが門倉(かどくら)たち刑事に強い違和感を与えた問いかけでもあり、僕らが本作品を読み進めるうちに考えさせられる一貫したテーマでもある。

”殺人を容認する社会”という、その言葉自体が破綻している。まるで、”黒い白””白い黒”というのと同じこと…

そんなテーマの中で、門倉(かどくら)が上司である東(ひがし)に思いをよせてぎくしゃくするシーンがなんとも微笑ましい。本シリーズ中で維持されるこの緊張と緩和のバランスが心地よく、著者誉田哲也(ほんだてつや)の作品の魅力といえるだろう。また、もう一人のヒロインで、闘いや危険な状態を好む伊崎基子(いさきもとこ)の活躍も見ごたえたっぷりである。
徐々にジウがどんな人間かみえては来るが、それでもとても本作品だけでは満足しきれない。そして最後は予想を上回る展開に。すぐにでも「ジウIII」を買って読みたい衝動に駆られるが、残念ながら「ジウIII」の文庫化は1ヶ月ほど先だろう。三部作は往々にして、最初か真ん中がもっとも面白いものだが、「ジウIII」を読む以前の現段階ですでに、本作品が一番面白いのではないかと思わせるほどの内容の濃さである。
【楽天ブックス】「ジウII 警視庁特殊急襲舞台」

「ネクロポリス」恩田陸

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アナザーヒルは、死者を迎える場所。人々はそこで故人との再会を楽しむ。ジュンはそんな不思議な場所に初めて訪れる。
タイトルからは壮大なファンタジーをイメージしたが、読み始めると予想以上に現実世界と陸続きな物語であることに気付く。もちろん、その舞台となっているアナザーヒルという場所は架空の場所であろうが、ジュンと同時期にアナザーヒルを訪れた人々は、いずれもヨーロッパやアメリカなどから来ている、というように現実世界とのつながりを感じさせてくれるため、その多くを想像力に頼らなければならない一般的なファンタジーよりもはるかに物語を受け入れやすい。
また、盟神探湯(くがたち)、鳥居、ヒガン、提灯行列、三位一体、ドルイドなど、日本を含む多くの国の風習が引用され、現実世界への興味を掻き立ててくれる点でも好感が持てる。
そして人の死を娯楽として楽しむアナザーヒルの人々の様子に触れるうちに、お墓を「幽霊の出る場所」として怖れ、葬式の場では歯を見せることを避ける僕らの感覚に違和感を感じるかもしれない。

死というものが残酷なのは、突然訪れ、別れを言う機会もなく全てが断ち切られてしまうからだ。せめて最後にひとこと言葉を交わせたら。きちんと挨拶ができたら。

死者を迎えるために窓や入り口を開けておくとか、アナザーヒルの家には窓の外側に死者が座れる椅子がついているとか、随所で著者の恩田陸が楽しみながら書いているのが伝わってくる。
ファンタジーでもありミステリーでもある。それでいて、多くの文化を取り入れた作品。ジャンルの枠を超えたほかに類を見ない作品である。


ベンガラ
赤色顔料のひとつ。(Wikipedia「弁柄」
盟神探湯(くかたち、くかだち、くがたち)
古代日本で行われていた神明裁判のこと。ある人の是非・正邪を判断するための呪術的な裁判法(神判)である。探湯・誓湯とも書く。(Wikipedia「盟神探湯」
三位一体
キリスト教で、父と子と聖霊が一体(唯一の神)であるとする教理。キリスト教の大多数教派における中心的教義の1つ。
Wikipedia「三位一体」
ルーン文字
ゲルマン語の表記に用いられた文字体系。ルーン(あるいはルーネ)とは、スカンジナビア語やゴート語が語源で「神秘」「秘儀」などを意味する。音素文字である。(Wikipedia「ルーン文字」
ドルイド
Wikipedia「ドルイド」

【楽天ブックス】「ネクロポリス(上)」「ネクロポリス(下)」

「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2004年このミステリーがすごい!大賞

元探偵の成瀬将虎(なるせまさとら)は、愛子(あいこ)からある悪徳商法の調査を依頼される。そして、同時期に、線路に飛び込んで自殺を図ろうとしていた麻宮さくらと出会う。
物語は蓬莱倶楽部(ほうらいくらぶ)という、老人へ高価なものを売りつけている悪質な業者を中心として展開している。その業者の悪事を暴くために奔走する成瀬将虎(なるせまさとら)と、借金のために悪事に加担するしかなくなった女性、節子(せつこ)の姿が、双方の視点から描かれ、途中、成瀬(なるせ)の過去の探偵時代など回想シーンも交えながら進む。
全体的にはコミカルなノリだが、ところどころ心に響く言葉がある。

われわれは子供の頃、決して嘘をついてはいけませんと、家庭や学校で耳に胼胝(たこ)ができるほど聞かされるわけだが、その教えを大人になっても律儀に守っている人間がいたとしたら、そいつは正直者とは呼ばれない。ただのバカである。
人生は皮肉だね。焼き鳥屋での何気ない一言が、人生の最後の部分を大きく書き換えてしまった。

歌野晶午作品は本作品でまだ2作目であるが、その作品の大部分で、どこかに読者の想像の上をいく展開があるようなイメージを持っている。本作品でもそんな期待を裏切ることは内。多くの読者は、読み進めるうちにすこしずつ頭の中に広がっていく違和感を感じることだろう。そして、その違和感が僕らの先入観から生じることに気付けば、僕ら自信の未来に対しても明るい展望が開けるに違いない。
いつまでも楽しんで生きていこう、と思わせてくれる作品である。
【楽天ブックス】「葉桜の季節に君を想うということ」

「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第135回直木賞受賞作品。
便利屋の多田(ただ)のもとに、高校時代の同級生行天(ぎょうてん)が転がり込んでくる。居候となった行天(ぎょうてん)とともに便利屋を続ける。
仕事を通じて多くの人と接し、出会う人々それぞれにある人間物語を描く、というのはよくある話題の構成だが、本作品がそれらの作品と一線を画すのは、多田(ただ)も行天(ぎょうてん)も、正義など貫く気はまったくないどころか、信念すら持っていないという点だろう。
自分の目の前や自分のせいで誰かが不幸になるのは嫌だが、知らないところで知らない人がどうなろうが知ったこっちゃない。そういう態度ゆえにむしろ抵抗なく彼らの考え方を受け入れられる。
そしてそんな中でも変人の行天(ぎょうてん)の言動はさらに際立つ。変人ゆえに常識にまどわされない真実を語る。

不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはないと思う。

そんな行天(ぎょうてん)と行動を共にするうちに、多田(ただ)も、忘れられない過去と向き合うようになる。軽快なテンポで進みながらも多田(ただ)が過去を語るシーンでは人間の複雑な心を見事に描き出す。読みやすさと内容の深さの両方をバランスよくそなえた作品である。
【楽天ブックス】「まほろ駅前多田便利軒 」

「遠くて浅い海」ヒキタクニオ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第8回大藪春彦賞受賞作品。
人を人知れず殺すことを仕事とする正将司は沖縄で、「天才」と称される一人の男を自殺させる依頼を受ける。
本作品で最初に読者の想像を超えるのは、自殺させる対象である天願(てんがん)に対して、将司(しょうじ)が、自らの素性と、目的を早々に明らかにする点だろう。また、「人を自殺させるためにはその人を誰よりも深く理解しなければならない」という将司(しょうじ)のスタンスゆえに、天才であるが故に孤独な天願(てんがん)の過去も見えてくる。
僕自身はそれほど大きな衝撃を受けたわけではないが、新鮮さを感じさせる場面は多々あった。きっとこういう物語が好きな人もいるのだろう。


アミノー
人々の行動を規制していた社会的規範が失われて、混乱が支配的となっている社会の状態。デュルケームが概念化した用語。(はてなキーワード「アミノー」
エミール・デュルケーム
フランスの社会学者。オーギュスト・コント後に登場した代表的な総合社会学の提唱者であり、その学問的立場は、方法論的集団主義と呼ばれる。(Wikipedia「エミール・デュルケーム」

【楽天ブックス】「遠くて浅い海」

「アクセス」誉田哲也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
親友の死を境に高校生の可南子(かなこ)の元に奇妙な電話がかかってくるようになる。可南子(かなこ)の従姉妹の雪乃(ゆきの)も不思議な出来事に悩んでいた。共通点は2人が契約したプロバイダだった。
最初は、友人と共通して思いを寄せる男子生徒との間に起こるありがちな女子高生の恋愛模様を描く物語のような印象を受けたのだが、中盤から一変。一気にホラーの様相を呈してくる。
冒頭の美男、美女でありながらも何か空虚さを感じている雪乃(ゆきの)と翔矢(しょうや)の描写によって、物語中に彼らの過去やその性格の生成過程が描かれることを期待したのだが、残念ながら深く掘り下げられることはなかった。
全体的に筋や著者の訴えたいテーマというのが感じられない物語ではあったが、あえてそのテーマを見出そうとするなら、匿名性の守られたネットの世界に吐き出される人々の悪意や残虐性と、現実との間のギャップを表現しているようにも感じられる。
【楽天ブックス】「アクセス」

「ジウI 警視庁特殊犯捜査係」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁特殊犯捜査係、通称SITに所属する二人の女性警察官、門倉美咲(かどくらみさき)と伊崎基子尾(いさきもとこ)。二人は都内で起きた人質篭城事件を期に、別々の道を歩むこととなる。
物語は2人の女性警察官の視点を交互に行き来する。2人は対象的な性格で、門倉(かどくら)は感受性豊かで犯人の気持ちにさえ共感できる優しい女性。そして、伊崎(いさき)は男顔負けの格闘センスで凶悪犯を何度も取り押さえてきたものの複雑な過去を抱える。
多くの読者はきっと、どこにでもいそうな優しい女性である門倉(かどくら)よりも、自分を追い込むように、闘いの場を求める伊崎(いさき)と、その性格の育まれた原因に興味を抱くのではないだろうか。
物語が進むにしたがって、未解決な誘拐事件の首謀者として、「ジウ」と呼ばれた国籍のない男の存在が浮かび上がる。共犯者がそのジウの不気味さを刑事に語って聴かせ場面がなんとも印象的である。
お金を払って物を買うという常識すら持たない人間が、お金を奪って一体何に使うのだろう。そう、法律を犯してお金を奪う強盗だって、「何かを手に入れるためにはそれ相応のお金を払う必要がある」という常識が根底にあるからこそお金を奪おうとするのだ。世の中のルールを犯す犯罪が人間らしさの表れであるという不思議な矛盾に気付かされた。
そして、「ジウ」にはその人間らしさがない・・・。語は本作品では完結せず次回作へと続く。お互い意識し合う門倉(かどくら)と伊崎(いさき)、そして「ジウ」。今後の展開を期待せずにはいられない。「ジウII」の文庫化が待ち遠しい。


黒孩子(ヘイハイズ)
中華人民共和国において、一人っ子政策に反して生まれたことを原因とする、戸籍を持たない子供達のこと。(Wikipedia「黒孩子」

【楽天ブックス】「ジウI 警視庁特殊犯捜査係」

「北緯四十三度の神話」浅倉卓弥

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学で研究を続ける姉の菜穂子(なおこ)とラジオのパーソナリティを勤める妹の和貴子(わきこ)。2人は中学生のときに両親を交通事故で失い、妹の和貴子(わきこ)は2年前に恋人を失った。そんな2人の姉妹愛を描く。
回想シーンを交えながら姉の菜穂子(なおこ)目線で物語は進む。和貴子(わきこ)の亡くなった恋人が、菜穂子(なおこ)の元クラスメイトであったことが、二人の間の溝を広げていく。
それぞれ、自分の嫉妬や怒りの原因を探し、時には相手が悪くはないとわかっていてもお互いに怒りをぶつけずにはいられない…。1まわり大きな「大人」になるための大事な葛藤や衝突を本作品は描いている。
印象的なのは、自分の本当にやりたいことを見つけるために、自分の名前の書いたおもちゃ箱の中からいらないものを一つずつ捨てていって最後に何が残るか考える、という行動だろう。僕の場合、一体何が残るだろうか…。
人に嫉妬したことのない人などいない、人に八つ当たりしたことの人などいない。嫌な感情で、出来ればしたくない振る舞いだけど、きっとそういう行動をして、そんな行動を後悔して受け入れて、他人のそんな行動を許せる、優しく諭せる大人になるのだろう。
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「オーデュポンの祈り」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
コンビニ強盗を試みて逃亡の身となった伊藤(いとう)は小さな島に辿り着いた。そこは少し変わった人々と言葉を喋るカカシがいた。帰ろうとしても逃亡生活が待っている伊藤(いとう)はしばらくこの島で生活することにした。
序盤から伊坂ワールド全快である。どこかで伊坂幸太郎を小説界のシュールレアリストと称していたがまさにその言葉のとおり現実感の薄い物語。前々から伊坂幸太郎の紡ぐ物語と僕の読書に対して求めているものとのギャップは感じていたのだが、先日たまたま手に取った「魔王」が思いのほか良く、再び彼の作品を読んでみようとおもっての本作品だったのだが、ページをめくる手は遅くなるばかり。
物語はその見知らぬ不思議な島で展開していく。1人(?)のカカシの言葉を信じて島から出ようとしない人々の言葉は、時に人々が忘れかけている幸せの形や、しばしばフィルターを通してみている真実を、端的にあらわしている。
個人的に印象的だったのは、生まれながらに足の不自由な人間を見ながら、島のペンキ塗りが言う言葉。

あいつを見るといつも思う。俺はまだマシだって。俺は普通に歩けている。あの男が、奇跡でも起きないかと祈っている願いが、俺にはすでにかなっている。

伊藤(いとう)が島に着てから少しずつ起こる変化。そして島に伝わる言い伝え。

ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ

多くのものが足りないように感じられるにもかかわらず、あえて一つ挙げようとするとその答えがわからない。その答えを島の人々は、島の外から来た伊藤(いとう)に期待する。

人に価値などないでしょう。ただ、たんぽぽの花が咲くのに価値はなくても、あの花の無邪気な可愛らしさに変わりはありません。

印象的な言葉をいくつか得ることができたものの、全体として評価すれば、この長い布石が最終的な結末に対して必要だったのか疑問を感じてしまう。このあたりが感覚の違いなのだろう。また機会があったら別の作品も手にとってみたい。

支倉常長
江戸時代初期の仙台藩士。伊達政宗の家臣。慶長遣欧使節団を率いてヨーロッパまで渡航し、ローマでは貴族に列せられた。(Wikipedia「支倉常長」
リョコウバト
北アメリカ大陸東岸に棲息していたハト科の渡り鳥。鳥類史上最も多くの数がいたと言われたが、人間の乱獲によって20世紀初頭に絶滅した。(Wikipedia「リョコウバト」
ジョン・ジェームズ・オーデュポン
アメリカ合衆国の画家・鳥類研究家。(Wikipedia「オーデュポン」

【楽天ブックス】「オーデュポンの祈り」

「白夜街道」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁公安部の倉島(くらしま)警部補は、元KGB所属のロシア人ヴィクトルが日本に入国したという情報を得る。
物語は「曙光の街」の5年後という設定である。「曙光の街」のエピソードの中で、ヴィクトルの強さを肌で感じ、平和に見える日本の中でも、裏では命をかけたやりとりがあり、だからこそ公安という仕事の必要性を肌で感じた倉島(くらしま)が、5年を経て成長した姿を本作品で見ることができる。
本作品でも物語の視点は主に、ヴィクトルと倉島(くらしま)で展開していく。前作では、日本を舞台にした闘いや本当の強さにあこがれる男達の人間物語であったが、本作品の半分近くがロシアでの物語りとなっていて、僕ら日本人にはあまりなじみのないロシアの文化や、その周辺国の歴史を中心に進められているため、ロシア、中央アジアの歴史、文化などに興味をかきたてられる作品に仕上がっている。
ヴィクトルと倉島(くらしま)、お互い多くの人間と同じように、自分の良心に背かないように生きていこうとしながらも、その生まれ育った国や文化が異なるために異なる考え方をするその人生の差と、その2人が合間見えて何かを感じ合う展開がこのシリーズの魅力なのだろう。
そしてロシアと日本を比較することで、日本にある安全がかならずしも永遠に続くものではない、言い換えるならいつ終わってもおかしくない貴重なものであることを訴えてくる。

すべての人々は平和で安全な日常の中で暮らす権利がある。だが、その日常は実に危ういバランスの上に成り立っていることを、倉島はすでに知ってしまった。

ただ、前作を読んでない読者にはやや理解しにくいのかもしれない。


バラ革命
2003年にグルジアで起こった、エドゥアルド・シェワルナゼを大統領辞任に追い込んだ暴力を伴わない革命。(Wikipedia「バラ革命」
オレンジ革命
2004年ウクライナ大統領選挙の結果に対しての抗議運動と、それに関する政治運動などの一連の事件の事。(Wikipedia「オレンジ革命」
ペチカ
ロシアで普通のスタイルの暖炉を想定しつつその全般を指す。日本では、特にロシア式暖炉のことをいう。(Wikipedia「ペチカ」

【楽天ブックス】「白夜街道」

「TENGU」柴田哲孝

オススメ度 ★★★★★ 5/5
第9回大藪春彦賞受賞作品。
死を目前にした元警察職員の依頼によって、ジャーナリストの道平(みちひら)は、26年前に群馬県沼田市の村で起きた連続殺人事件に再び向き合うこととなる。天狗の仕業とされたその事件の真犯人は誰だったのか、そして、何かを知っていたはずの目の見えない美しい女性はどこへいったのか。
舞台となる沼田市は、天狗の伝説が伝わる村。だからこそ常に天狗の影が背後にちらつく。
本作品中では26年の時を隔てた物語が交互に展開していく。事件当時、まだ新聞記者の駆け出しだった道平(みちひら)が取材の中で遭遇した出来事の回想シーンと、現代の再び事件の真相を突き止めようとするシーンである。回想シーンでは、現場に残された凄惨な死体と大きな手形。人間がたどり着くことのできない場所に放置された死体によって、何か未知の生物の存在を感じさせると共に、ベトナム戦争末期という時代背景も手伝って、大きな陰謀の気配さえも漂う。ゴリラやオランウータンのような獣の仕業なのか、アメリカがベトナム戦争のために遺伝子操作で作り出した兵器なのか。枯葉剤によって生まれた奇形児なのか。それとも本当にそれは天狗の仕業なのか…。
現代の真実に少しずつ近づいていく様子ももちろん面白いが、回想シーンの中の展開についても先が気になって仕方がない。そして、そんな凄惨な物語に彩りを添えているのは、その村に住んでいた目の見えない美しい女性、彩恵子(さえこ)の存在である。
マタギなどの日本の伝統的な習慣から、ベトナム戦争、遺伝子操作やDNAなどの最先端の生物学から人類学まで、物語の及ぶ範囲は実に広く、それでいてじれったさを感じさせない。そして極めつけのラストでは多くのものを改めて考えさせてくれる。人間の尊厳とは何なのか、社会の倫理とは、人権とは…。

もしこの世に神が存在するとするならば、なぜあれほどまでに過酷な運命を背負う者を作りたもうたのか。

そして僕らに問いかける。僕ら人間は世の中のすべてを知っているのか、多くの研究者達が説明した真実が、本当の真実なのか…。

イリオモテヤマネコは先進国日本のあれほど小さな島で、あの化石動物は1965年まで誰にも発見されることなく隠れ住んでいたんだ。

年末迫るこの時期。もう今年は鳥肌が立つような本には出会えないと思っていたが、このタイミングでいい読書をさせてもらった。


シャム双生児
体が結合している双生児のこと。(Wikipedia「結合双生児」
モルグ
死体置き場という意味。
参考サイト
Wikipedia「イリオモテヤマネコ」

【楽天ブックス】「TENGU」

「シャイロックの子供たち」池井戸潤

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
都内の銀行の支店で起こるできごとを描いた物語。
他の池井戸潤の作品と同様に本作品も銀行を舞台としている。本作品は短編集の形を取っているが、各章でそれぞれ別の行員の視点から眺めているだけで、全体として物語はつながっている。支店長になるために部下に檄を飛ばす副支店長、良心に従うために上司に反抗する若手行員。支店の稼ぎ頭など、銀行という閉鎖的な世界で生きる人々を描く。
10章で構成されているため10人の銀行員の視点で描かれる。それぞれが銀行というシステムの中、それぞれの価値観で生きている。他人から見ればそれは、「悪」だったり「見栄」だったり、「嘘」だったりしても、本人にはそこにしがみつかなければいけない理由があるのだ。それぞれの生き方について「こんな生き方、考え方もあるのか・・・」とその存在を肯定的に受け入れることができれば本作品を読む意味は大きいだろう。

銀行という職場では上司に逆らったら負けだ。

本作品と同様に「銀行を中心とした、多くの人間物語が作品を通じて感じられたらいい」そう思っていて、それ以上の期待をしていたわけではないのだが、本作品は少し予想を裏切ってくれた。物語を読み進めるうちに全体を包みこんでい不穏な空気に、次第に飲み込まれていってしまった。

君たちのおかげで、少なくともこの家にいるとき、ぼくはずっと幸せでした。

シャイロック
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に登場する人物。悪辣、非道、強欲なユダヤ人の金貸し。

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「ホームタウン」小路幸也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
親が殺人者という過去を背負って生きている行島柾人(ゆきしままさと)は、札幌の百貨店の特別室に勤務していた。そこへ、結婚をひかえた妹の木実(きみ)が失踪したという知らせを受ける。
失踪した木実(きみ)を、その特異な人間関係を活かして探そうとする様子は多少の個性は感じられるとはいえ、辛い過去を背負って生きているがゆえの展開や心情描写などはほとんど見られず、謎解きの物語として終始してしまう。
本人ではなく、肉親に殺人者がいるがゆえに、本人ではどうしようもない理不尽な社会の目や罪悪感に悩まされるという本作品の状況は、殺人事件の被害者の娘と加害者の娘が知り合うという設定の野沢尚の「深紅」を思い出させてくれたが、本作品の物語展開からは、主人公たちが背負ったそのような不幸な過去など必要ないのではないかと思えるほど、物語展開と過去の関連の薄さを感じてしまった。
それでもそんな中印象に残った言葉もある。

子供の頃は、自分が知らない世界のドアばかりが目の前にあるんだ。開いても開いてもどんどんそのドアは現われる。開けば開くほど楽しくて・・・どんどん走って進んでいくんだ。でも、大人になるってことは、そのドアを閉めることを覚えるってことだ。あるいは開けるを知っているのに、目の前にあるのに開けないで引き返すことを覚えるということ

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「脳内出血」霧村悠康

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
東京近郊のホテルで女性の変死体が発見される。同じころ有名科学誌に掲載された若手の研究者の論文に捏造疑惑が持ち上がっていた。
物語の多くは、論文の捏造疑惑を巡って、医師や教授たちのやりとりを中心とした部分と、身元不明の変死体の謎を追う刑事達を中心とした部分で構成されている。
刑事達が真相に迫っていく展開は、よくある刑事物語と比較して特に新しいなにかがあるわけではないが、その一方で、論文をめぐる展開の部分では、このまま生きていれば決して知ることのないはずの、科学の矛盾や、研究者達の葛藤などが新鮮である。

上質の研究、発明や発見は、質に相応した科学誌に掲載されるべきであった。しかし、同質の論文であれば、そこに人間の感情が働くことも現実で、審査員の個人的感情から論文が却下されることも少なからず発生している。

しかし、物語の結論は満足のいくものだったかというと残念ながらそうでもない。むしろ、事件の解決は、研究室内部の様子のおまけのような印象を受けるぐらい安っぽさと物足りなさを感じてしまった。
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「魔王」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
安藤(あんどう)はあるとき、自分が念じれば他人を自分の思ったとおりの台詞を喋らせることができることに気付く。そして、同じころ一人の政治家が世の中を騒がしていた。
物語は二部で構成されている。前半は安藤(あんどう)目線に立った展開で、後半はその5年後、安藤(あんどう)の弟の恋人である詩織(しおり)目線で描かれている。
今まで、「重力ピエロ」「グラスホッパー」という2作品に触れて、正直、この著者、伊坂幸太郎の作品は自分とは合わないのだと思っていた。「良い」とか「悪い」ではなく、多くの鍵穴にしっかり合致するマスターキーが自分の心の鍵穴にだけは合わないような、そんな感覚であった。しかし、今回は届いてきた。なんかじわじわ伝わってきた。
他の作品同様、本作品も、物語の本筋と関係あるんだかないんだかいまいちはっきりしないエピソードや台詞で構成されいている。憲法第九条や自衛隊など、少しだけ現実の社会問題を含んでいるように感じられるそれらのエピソードを読みすすめるうちに、なんかいろいろ考えてしまうだろう。

馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ。

だからつい僕もいろいろ考えてしまった。
人間が争うのはなんでだろう。
人間が物事を深く考えるからだろうか。
それとも、人間が物事を深く考えないからだろうか。
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