オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新聞記者の弓成亮太(ゆみなりりょうた)は昭和46年沖縄返還交渉の取材中に日米間の密約に気づく…。
以前より何人かから薦められていながらも機会がなかったため今回が初山崎豊子作品となった。物語冒頭で舞台となっているのは昭和46年であり、その題材は沖縄返還交渉という、僕にとっては生まれる前の出来事である。正直、あまり深く考えたことがなかったのだが、冷静に考えてみると、間違いなく沖縄返還というのは歴史的事実だったのだろう。そんな大きな出来事にいままでほとんど関心を持っていなかったことに少し驚かされた。
さて、物語は弓成亮太(ゆみなりりょうた)という、正義感あふれる敏腕新聞記者を中心に進む。沖縄返還交渉に関わるひとつのスクープが、やがて、「知る権利とは?」「外交とは?」という大きな問いかけになり、物語中で描かれる裁判のシーンを通じて、日常よく耳にする言葉の意味まで考えさせられるだろう。
本書を読了後に沖縄返還について調べてみると、本書の内容はかなり事実に近いことが描かれているらしい。きっと年配の人にとっては常識とも言える事件なのかもしれない。教科書には載っていないほど新しく、しかし自分が生まれる以前というほどの古い、この期間に起こった出来事はもっとも無関心にすごしてきてしまったようで、もう少し関心を向けるべきなのだと感じた。
とはいえ、このような内容では仕方がないことなのか、若干登場人物が多すぎて、物語に入り込みにくく、お世辞にも読みやすいとは言えない。また、後半部分はむしろ物語のそれまでの本筋とは外れて沖縄の悲劇の歴史に焦点があたっているように感じ、作者の訴えたいことが不明瞭な印象を受けた。一つの物語としてみるのか、それとも読みやすい現代史として本書を見るのかで評価は変わってくるのかもしれない。
本作品が山崎豊子の他の作品、たとえば「沈まぬ太陽」「白い巨塔」と比較するとどの程度の出来なのかが気になるところである。
カテゴリー: 評価
「武士道セブンティーン」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
剣道を通じて知り合った親友、香織(かおり)と早苗(さなえ)という2人の女子高生を描いた物語。
前作「武士道シックスティーン」でほぼ正反対な性格ながらもやがてわかりあった二人。残念ながら早苗(さなえ)は親の都合で福岡に引っ越して、2人は離れ離れになる。本作品はその後の2人を描いている。
前作同様本作品も2人の視点から交互に描かれる。福岡の強豪校福岡南の剣道部に入部した早苗(さなえ)はそこで黒岩レナと出会い、新しい環境での剣道に戸惑いながらも、順応していく。また、一方の香織(かおり)は早苗(さなえ)の去った後の東松高校で、部長かつ魔性の女である河合(かわい)とともに後輩を育てようとする。
全作品は香織と早苗が均等に描かれているように感じたが、本作品で物語性が強いのは早苗(さなえ)の方だろう。結果を重視する福岡南高校の剣道のスタイルに疑問を持ち、武道とスポーツの違い、自分の求める剣道のスタイルとの間で葛藤をし始める。
剣道の経験などまったくない僕でもその緊張感の伝わってくる内容。なんとも剣道がやりたくさせてくれるすがすがしい作品である。すでに単行本としては発刊されている「エイティーン」の文庫化も楽しみである。
【楽天ブックス】「武士道セブンティーン」
「シンメトリー」誉田哲也
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁捜査一課刑事、姫川玲子(ひめかわれいこ)が関わる7つの事件を描いた物語。
もはやドラマ化もされてしまったゆえに人気シリーズとしての地位を固めつつあるのだろう。「ストロベリーナイト」「ソウルケイジ」に続く姫川玲子(ひめかわれいこ)の物語。
本来短編集は避けようとするのだが、読み進めてみるとむしろ、いままでは面白くはあっても二作品、二つの事件にしか僕ら読者の前で関わらなかった玲子(れいこ)が、本書では7つの物語に登場することもあり、その7つの物語を通じて、より彼女の個性に触れられることだろう。
前二作品と同じように、本作品でも犯人の気持ちに感情移入しやすい彼女の優れた感覚が、ほかの刑事が気づかない小さな手がかりを見つけ、真相に近づいていく。表題作の「シンメトリー」などはそんななかでも秀逸である。その物語のなかで玲子(れいこ)がつぶやいた言葉。この言葉がもっとも、心に残ったし、この言葉にこそ姫川玲子(ひめかわれいこ)の個性を凝縮されている気がする。
【楽天ブックス】「シンメトリー」
「中澤佑二 不屈」
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ドイツワールドカップ、南アフリカワールドカップなど、日本代表だけでなく、横浜マリノスでの出来事など、そのサッカー人生を通じて、日本打表DF中澤佑二の知られざる一面を描く。
僕が彼について知っているのは、テスト生からヴェルディのレギュラーをつかんだということと、ドイツワールドカップ後に代表引退を決意したにもかかわらずバスケット界のパイオニアである田伏勇太と出会って代表復帰をきめたことぐらいだろう。本書はその認識を補いながらも、そのストイックで孤独な生き様を存分に見せてくれる。
本書は3つの章に別れていて、2,3章はそれぞれドイツ、南アフリカワールドカップを中心に描かれている。個人的には1章の「プロへの挑戦」が印象的である。特に高校時代のひとり「プロになる」というモチベーションのもとでサッカーに接するうちに、周囲から孤立していき、それでも目的のために信念を曲げない姿にはなんか共感できるものがある。
文中で中澤が影響を受けたとして引用されている言葉にはどれも重みを感じる。
本書でもドイツワールドカップを大きな衝撃と語っている。中田英寿の「鼓動」でもそうだし、数多くの日本のワールドカップを描いた書籍でも同様に選手同士の内部崩壊が招いた悲劇と語られているドイツワールドカップは、本書でも中澤だけでなく、宮本恒靖の目線からも語られており、興味深いものとなっている。
そして最後は記憶に新しい南アフリカワールドカップ。その内容からは決してそれが外から観ているほど輝かしいものではなかったことが伝わってくるだろう。チーム崩壊寸前の状態にありながら、4年前のドイツワールドカップの経験者たちがその失敗を糧に、崖っぷちの状態からチームを結束させた結果だとわかる。
それでも最終的にカメルーン戦のゴールで波に乗って、デンマーク戦ですばらしい試合をしたあのチームのなかにいて、あのチームとしての一体感を味わえた中澤がうらやましくてたまらない。
中澤のサッカー選手としての成功を語るときに、「彼は努力だけで上り詰めた」という人が多いのかもしれないが、本書を読めばそうは思えない。人生の要所要所で彼は運命的な出会いによって救われている。見習うべきはそんな偶然が近づいてきたときに、それを掴み取る努力をいつの日も怠らなかったことだろう。
「日本代表」とか「ワールドカップ」とかそんな壮大なジャパニーズドリームだけでなく、何かを達成する上ではそれがどんな目標であれそんな意識は大事なんだと思えた。
余談だが、本書で中澤は自身のベストげーむとして、ドイツワールドカップ前のドイツ戦をあげている。中田英寿も「鼓動」のなかで、ドイツ戦での柳沢とのプレーが最高のプレーと語っている点が印象に残った。どうやらあの試合はサッカーファンにとっては見逃してはいけない試合だったらしい。
【楽天ブックス】「中澤佑二 不屈」
「The Last Child」John Hart
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2010年バリー賞長編賞受賞作品。2010年エドガー賞受賞作品。
双子の妹が誘拐されて行方不明になってから、13歳のJohnnyの世界は変わってしまった。父親は失踪し、母親は失意の日々を送っていた。それでもJohnnyは強くいき続けた。
「Down River」に続いて、John Hartは本作品で2冊目となる。彼の作品はどうやら家族のありかたを常に意識しているように見え、本作品にもそんな要素が詰まっているように感じた。母と子、父と子、Johnnyとその母Katherineだけでなく、彼らに対して親身になって接する刑事Huntとその子Allenや、Johnnyの親友であるJackとその父Cross。
いずれも家族として崩壊しているわけではないが、どこか歯車のかみ合わない関係を続けている。ところどころでお互いに対する不満がにじみ出てきて、その予想外の不満に戸惑い、それでも修復して「家族」であり続けようとする意思が根底に見えるあたりに、何か著者のうったえたいものがあるような気がする。
一気に物語に引き込むような力強さはないが、じわじわと読者の心を覆い尽くしていくような独特な世界観がある。そんな世界観に多くの人が涙するのではないだろうか。
「氷菓」米澤穂信
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
折木奉太郎(おれきほうたろう)は成り行きで入部した高校の古典部で、千反田える(ちたんだえる)という女性と出会う。そして、古典部の日常のなかで起きる不思議な出来事に対して不思議な才能をみせることとなる。
ほのぼのとした学園物語で肩の力を抜いて読むことができる。なぜか閉まってしまったドアや、なくなってしまった文集など、他愛もない謎を、奉太郎(ほうたろう)が友人たちと協力して解いていくうちに物語は、30年前の学園祭での出来事に向かっていく。
冒頭の軽いノリとその魅力的な登場人物によって物語に引きずり込まれて読み進めているうちに、思った以上に深い内容にまで踏み込んでいた。
軽く読めるけど決して浅くはない。そんな絶妙なバランスが評価できる。ちょっと時間があるときに読書を楽しみたい。そんな人にはおすすめできる作品である。
【楽天ブックス】「氷菓」
「新世界より」貴志祐介
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第29回日本SF大賞受賞作品。1000年後の日本。そこはサイコキネシスを自在に操る超能力者たちの世界。厳しい規律によって秩序は保たれていた。
貴志祐介の久しぶりの作品は、上、中、下と三冊にわたる大作。物語は渡辺早紀(わたなべさき)が過去の悲しい記憶を振り返って書く手記という形をとっている。
最初はどこかのまったく現実と関係ない想像の世界を描いているようにも見えたが、次第にそれは、人類があるときを境に、超能力の存在を受け入れ、何人かがそれを自由に扱えるようになったがゆえに起こった混乱の後の世界であることが明らかになっていく。
サイコキネシスによって、つまり対象に一切触れたり、道具を使用することなく念じるだけで人を殺すことのできる人間の存在によって起こる混乱としては、なかなか納得できるものがある。
さて、物語はそんな世界のなかで自らの力をはぐくんでいく早紀(さき)とその友人たちを描いていく。その過程で、人間が住む場所の外には、多くの未知なる生物が潜んでいることがわかる。そして、鍵となるのは、人間同士が殺しう事をしないためにそれぞれの人間が心のなかに持つ攻撃抑制である。それゆえに、超能力を自在に操りながらも人間同士の殺し合いが起こることがない。そんな世界で生きている早紀(さき)が過去の歴史を知るにつれて、現代の核爆弾や殺人平気を知り、「古代人は狂っている」と感じるあたりには考えさせられるものがあるだろう。
やがて、物語は、ほかの生き物たちから「神」とあがめられる人間たちと、そんな「神」である人間の支配から逃れようとする動物たちの間の対立へと変わっていく。最終的に、何を訴えたいのかよくわからないが、なんにしても、不毛な殺し合いや逃走、追跡劇に非常に多くのページを費やしているため、全体のページ数に見合うだけの内容はないように個人的には感じたがほかの人はどう思うのだろう。
【楽天ブックス】「新世界より(上)」、「新世界より(中)」、「新世界より(下)」
「The Stone Monkey」Jeffery Deaver
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Lincoln RhymeとAmelia Sachsは中国からアメリカへの密入国を大規模に行う男、通称「Ghost」追跡の任務に就くこととなる。一方、Ghostはアメリカに到着直前に、多くの中国人を乗せたままの船を爆発させ沈没させ、自らは逃亡する。
RhymeとAmeliaの「Bone Collector」に続く物語の第4作目に当たる。現場に残されたわずかな証拠から、犯人に迫るシリーズではすでにおなじみとなっている捜査手法はもちろん大きな魅力の一つだが、本作品ではさらにいくつかの要素が加わって魅力的な作品になっている。
まずは、自ら密入国船に密入国を目論む男として潜入し、最終的にGhostに法の裁きを受けさせようとする中国人刑事、Sonny Liの存在だろう。互いに協力してGhostを捕まえようとする過程で、RhymeとLiは少しずつその実力を認めるようになり、やがて、RhymeはそのLiの人と常にまっすぐ向き合おうとする姿勢から、ほかの人にはいだかなかった親密さを感じるようになる。その2人の会話のなかからは、中国とアメリカという2つの国の文化や裕福さの違いが伝わってくるだろう。
そしてもうひとつの面白さは、中国で反体制派としての活動に従事し、アメリカへ亡命をしようとするなかで密入国船に乗り込んだSam Changとその家族の存在である。なんの基盤もない新しい国で、自らが持っている技術だけを元手に家族を養っていこうとするChang。彼が見せる葛藤や、自らの家族の命を脅かそうとするGhostに対する計画など、どれも非常にスリリングである。
そしてラストは悲しくもあり、うれしくもあり、そして予想をさらに超えてくれるだろう。まだ本シリーズは3作目だが、個人的にもっとも好きな作品である。一読の価値ありの一冊。
「悼む人」天童荒太
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第140回直木賞受賞作品。
その場所で亡くなった人が、誰に愛され、誰を愛していたかを尋ねて、記憶にとどおめておくために旅をしている男、「悼む人」を描いた物語。
「悼む」という行為を行いながら日本を旅する坂築静人(さかつきしずと)の行動はなんとも奇異に映る。無意味なのか自己満足なのか、偽善なのか、とにかく近づいてはいけないもののように感じる。そして、「その行動にどんな意味があるのか・・・」そんな読者が当然のように抱く疑問を、静人(しずと)が旅先で出会う人は問いかける。
そして、また静人(しずと)の母、巡子(じゅんこ)は娘の妊娠を機に、静人(しずと)の生き方の理由を家族に知ってもらおうとする。巡子(じゅんこ)の語りによって、過去の静人(しずと)の経験してきた、親しい人の死など、「悼む」という行為に駆り立てたできごとが明らかになっていく。きっと、読者もその行為自体に、なにか意味を感じることができるようになるのではないだろうか。
よく言われることだが、たとえどんなに印象的な凶悪な事件さえも、一週間ほどワイドショーや新聞の紙面をにぎわせればすぐに人々の記憶から薄れていく。凶悪犯だろうが、殺人犯だろうが、区別なく記憶にとどめようとしていきていく静人(しずと)「悼む人」の行動とその動機を描くことで、逆に、人の死がどれほど簡単に忘れ去られていくかを際立たせて訴えかけているようだ。「人の存在」というものについて考えさせられる何かが本作品に感じられる。
【楽天ブックス】「悼む人」
「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」中村安希
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者中村安希(なかむらあき)が2年かけて行った、ユーラシア大陸とアフリカ大陸の一人旅を描く。
女性の旅行記は今回が初挑戦である。旅行記というとどうしても、「自分は勇敢な挑戦者」的な自己陶酔や、「無謀」を「勇気」と勘違いしたような内容のものが少なくないのだが、(単純に僕が読んできたものがそうだっただけかもしれないが)、本書は、読み始めてすぐにその客観的表現と豊富で的確な表現力、そして綺麗な文体に好感を抱いた。旅に描写からは、著者の鋭い観察力と知性を感じる。
多くを旅行記を同様、訪れる国々で受けた異文化による衝撃や、出会った予想外の親切などのほか、その国の問題やそれを生じさせている原因やそこで起こっている矛盾、そういったものを文章を通じてしっかり読者に伝えてくるその視点と表現力に感心しっぱなしだった。
著者の心に響いたであろう言葉の一つ一つが、読者である僕の心も揺さぶった。例えば、インドのマザーズハウスで出会ったボランティアの嘆き。
旅の途中で出会った人たちとも、単純に表面的にいい関係を築いて「出会ってよかった」と旅を美化するのではなく、ときには「だからアフリカはいつまで経っても貧困から抜け出せないのだ」と批判たりと、奮闘する様子からは、今まで見えなかったいろんなものが見えてくる。
正直、読み終えて、何がこんなに僕のなかでヒットしたのだろう、と考えてしまった。僕自身と物事を見る視点が似ているというだけではないだろう。
旅行記を手にとる人というのは、今回の僕のように、きっとその人自身がそういう体験をしたいからなのだろう。そして、にもかかわらず時間と費用など、そのために犠牲にしなければいけないものと、その先で得られるものの不確実性を考えて踏み切れないでいるのだろう。踏み切れないながらも、その体験を間接的にでも味わいたいのだ。
そしてきっと、そんな人たちの何人かは、すでにその旅の果ての失望みたいなものを予期しているのかもしれない。海外でボランティアに従事してみたい、とかそこに住んでいる人と同じような生活をして文化を感じてみたい、という先にある「旅行で訪れただけでは結局表面的にしかわからない」というどうにもならないことに対する失望である。
本書のほかの旅行記をと異なっている点はきっとそこなのだ。よくある旅行記のように「辛いこともあったけど行ってよかった」というように著者が費やした時間を「間違いなくそれだけの価値のあったもの」と誇らしげに自慢するのではなく、むしろ「辛いこともいいこともあったけど、結局この旅は求めていたものに答えてくれたのだろうか?」なのである。「一読の価値あり」と思わせるには充分の内容だった。
【楽天ブックス】「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」
「サッカー日本代表システム進化論」西部謙司
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本代表の進化の過程をその戦術に焦点をあて、当時の中心選手やコーチなどの意見を交えながら描く。
期間でいうと1984年から南アフリカワールドカップ直前の2010年という30年弱である。僕にとっての日本代表はオフトジャパンから始まっているので、それ以前の日本代表は想像するしかないが、それでも本書で描かれている内容から、当時の日本代表のレベルや選手層の薄さが見て取れる。
内容がオフトジャパン以降に及ぶと、どの試合も選手も記憶にあるものばかりで、懐かしさとともに涙腺が緩んでしまう。ブラウン管を通して観た試合の様子やその結果だけでは伝わってこないような内容にも触れているので、すでに忘れ去られようとしている重要な一戦を(いまさらだが)さらに理解するのに役立つだろう。
そしていままで、ただ「日本代表」と単一の存在として観ていたもの(もちろんサッカーファンの多くはその戦術の違いはおおよそ理解しているだろうが)が、それぞれの監督の持つ個性や意図を本書を通じて理解することでより個性を持っていた。見えてくるとともに、サッカーを見る目も養われることだろう。
「ゾーンプレス」や「フラットスリー」という言葉を聞いただけでサッカーファンには過去の日本代表の試合が頭のなかに蘇るのかもしれない。日本代表の戦術の軌跡を通じて、ここ20年の間にどれほど日本のサッカーが人も戦術も進化したのかわかるだろう。そして、日本に限らずサッカーが戦術はいまなお進化しつづけているのだ。
サッカーファンには間違いなくオススメの一冊。この一冊で間違いなくさらに一枚も二枚も上手なサッカーにうるさい人になれるだろう。
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「怖い絵」中島京子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
タイトルのとおり、西洋絵画を「怖い絵」という視点で見つめなおす。「怖い絵」と言っても「怖い」の種類にはいくつかあり、単純に絵自体がグロテスクだったり残虐なシーンを描いたものを語ることもあれば、その時代の背景を知って初めてその絵が怖くなる場合や、その絵の描かれた前後に起こったことを含めて恐ろしかったりと、読者を飽きさせない。
確かに僕らはどうしても今の時代の常識をもって絵を鑑賞してしまう。たとえばドガはバレリーナを数多く描いたことで有名だが、現代のバレリーナと当時のバレリーナの持つ地位はまったく異なるもので、それを理解することで初めてこの絵の持つ意味が理解できる、と著者は書いている。
そうやって著者は多くの絵画のその背景に潜む意味を解説していくのだが、好感がもてるのは、いずれも断定せずに「?をあらわしているのではないだろうか」「?はなぜだろう」という表現を使用している点だろう。結局その絵が何を示そうとして描かれたのかは画家本人にしかわからない。鑑賞者はあくまでもそれを推測することで楽しむ、それが絵画の楽しみ方なのだろう。
本書を読んでまた少し絵画の見かたが変わった気がする。またいくつかの歴史的事実や神話のエピソードを知るきっかけになった。
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「誘拐の誤差」戸梶圭太
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
10歳の礼乎(れお)は学校からの帰り道に近所の男に殺される。捜査を開始する警察と事故を隠そうとする犯人。事件の周囲の人々を描く。
新しいのは、殺された少年礼乎(れお)が魂となって浮遊し、自分の殺された事件を解決する様子を見ようとする、その目線で物語が展開する点だろう。多くの人の心の声が聞こえるから、物語の目線がいろんな関係者に移っているように感じられるが、実際は一貫して魂となった礼乎(れお)目線なのである。
内容はというと、悲しいほど自分勝手で醜い人間たちのオンパレード。犯人はもちろん、警察や被害者の家族たちや街の人たちまで。誰一人感心できる登場人物など出てこない。読んでいるうちに疲れてくるような内容である。最近、こういう人間の醜さだけを見せる物語が増えた気がするが気のせいだろうか。
ひょっとしたら最後に何か面白い展開が待っているかもしれない、と最後までがんばって読んだが残念ながら期待に沿うものは最後までなかった。ひらがなと擬音の多い文章のせいで、ページ数ほどに時間がかからないが、中身も濃いとはいえないだろう。
とはいえ、本作品を評価する人もいるらしいので、人によっては絶賛するようなものなのかもしれない。
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「オレたち花のバブル組」池井戸潤
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京銀行の半沢直樹(はんざわなおき)は、多額の損失を出した融資先ホテルの担当を引き継ぐこととなる。
本書は同じく半沢(はんざわ)を主人公とする物語「オレたちバブル入行組」の続編である。バブルの好景気に沸く1988年に入行した半沢(はんざわ)とその同期の銀行員たちを描いている。本作品でも前作同様、利益をあげるために、優良な融資先を見つけ、その業績を審査する、という一連の銀行業務の中で、ここの銀行員たちの出世争いや派閥間の駆け引きが中心となっている。
すでに本書で、著者池井戸潤(いけいどじゅん)の銀行を舞台とする物語も5冊目となっているため、銀行業務の流れがわかってきた気がする。そして、同時にその物語のなかで見えてくる銀行員同士の意地の張り合い、足の引っ張り合い、効率の悪く古臭い業務の流れなどを見ると、本当に銀行員になどならなくてよかったと思うのである。しかし、こんな醜い銀行内部の様子を描きながらも、こうも物語を面白く魅力的に仕上げているのは、やはり、半沢(はんざわ)という、正義感あふれ、立場のちがいにも恐れることなく信念を貫き通す人間の存在なのだろう。
本作はバブル入社組のキレ者、半沢(はんざわ)だけでなく、一度は神経的な病によって出世レースから脱落した、半沢(はんざわ)の同期である近藤(こんどう)の物語も並行してすすむ。取引先の会社に出向というかたちで部長におさまり、居心地の悪さを感じながらも、次第に銀行員としてのプライドを取り戻していく姿はなんとも頼もしい。
そして、近藤(こんどう)にも焦点をあてることで、信念を貫き通せない人間の存在を許しているようだ。実際、物語中で弱さを見せる近藤(こんどう)に対して半沢(はんざわ)が語る言葉が印象に残った。
現実の世界でもこういう人間が銀行を支えていると信じたいものだ。
【楽天ブックス】「オレたち花のバブル組」
「モウリーニョの流儀 勝利をもたらす知将の哲学と戦略」片野道郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
今やサッカー界でもっとも有名な人間の一人と言っていいだろう。ポルトガルのポルトとイングランドのチェルシーで国内タイトルを獲得しただけでなく、チャンピオンズリーグでもポルトでは優勝、チェルシーでも常に優勝を狙えるチームを作り上げた監督。ジョゼ・モウリーニョ。
本書は、すでに監督としての手腕を認められ国内タイトルだけでなくヨーロッパナンバー1を勝ち取ることを目標として、イタリアのインテルの監督に就任したモウリーニョが、1年目のシーズンでスクデット(イタリア国内タイトルをタイトルの通称)を獲得するまでを描いている。
モウリーニョはもちろんサッカーの監督だが、本書の内容はフォーメーションなどの戦術よりもむしろ、どちらかといえば保守的で外から入ってくる文化を嫌うイタリアサッカー界のなかでの、モウリーニョの適応の過程を示してくれる。僕自身の持っている印象では、彼の考え方は、常に筋が通っていて、すべてが物事の目的とその手段を冷静に分析した結果の決断というような印象があるが、就任当初の記述からは、新しい環境と文化ゆえに肩に力が入っている様子が伝わってくる。
そんな中でも印象的なのは、シーズン途中で、スクデットを獲得するためにこだわっていた3トップから2トップにフォーメーションを変えたところだろうか。どんな環境でも信念を貫き通す強い心とともに、環境に適応してスタイルを変える重要性。その2つのバランスの重要性が見て取れる。
個人的には本書のなかでモウリーニョの考え方にはかなり共感できる部分があり、また、もともと持っている考えを改めて考えるきっかけにもなったように思う。なにもサッカーファンには限らず、仕事やスポーツなどのリーダー的立場にいる人や、常に発展、進歩を求めて生きている人にとっては、なにか刺激を受ける要素が見出せるのではないだろうか。
本書は1年目のスクデットを獲得した時点で終了しているが、サッカーファンならご存知のとおり、モウリーニョはその翌年にはインテルでチャンピオンズリーグを制覇し、見事任務を果たしたこととなる。同じ著者がその過程までも書いてくれるならぜひまた読みたいところだ。
【楽天ブックス】「モウリーニョの流儀 勝利をもたらす知将の哲学と戦略」
「The Judas Child」Carol O’Connel
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
小さな町で2人の少女が行方不明になった。幼い頃双子の妹を殺害されるという経験を持つRouge Kedallは、2人の少女の失踪という類似性によって再び過去の事件と向き合うことになる。
物語は2つの側面から展開する。誘拐を解決するために動いているFBIなどの捜査側の視点と、監禁されている建物の中で、必死で生き抜こうとする2人の10歳の症状、GwenとSadieの視点である。
少女達の視点で展開される側では、それぞれの少女の個性が際立っている点が物語を興味深いものにしている。Gwenは副知事の娘で大人しく控えめである一方で、Sadieはいたずら好きで行動力があり、常にGwenをリードしていくのである、まだ10歳という年齢でありながらも固い友情で結ばれているゆえの2人の言動が見所だろう。
そんな一方で、Rouge KendallはFBIの人間と協力しながら、幼い頃に殺された妹、Susan Kendallの事件の真相を解明しようとする。一卵性双生児で常に一緒に行動し、ほかに友達を持たなかったことによって、幼い頃にRougeとSusanが見せた非科学的な行動には好奇心をかきたててくれるだろう。
物語の舞台となっているのが非常に小さな田舎町なのだろう。それぞれの立場や職業が相互に依存しあっており、その結果として登場する多くの人物名のせいで、途中、やや話についていけない感も抱いたが、最後の数ページでそんな鬱憤のすべてを吹き飛ばされてしまった。正直、もう犯人なんてどうでもよくて、公共の場所で呼んでいたために涙をこらえるのに必死になってしまった。
挑戦するひとにはぜひ、途中の中だるみで諦めずに最後まで読み切って欲しい。記憶に残る本は、読後に喜びや悲しみよりもなにか喪失感のようなものを与えてくれる気がするが本作品もそんななかの一つと言っていいだろう。
「イニシエーション・ラブ」乾くるみ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女性にあまり縁のない生活にを送っていた鈴木(すずき)は、友人に誘われた合コンの席で、一人の女性に繭子(まゆこ)と出会い、付き合うことになる・・・。
友人から薦められて読むことになった。結構賛否両論別れる内容だということで、大ハズレもあり得るかと構えたりもしていた。
軽く内容にふれると、鈴木(すずき)は繭子(まゆこ)と付き合っていたが社会人になったことを機に、状況し、そこで洗練された美女、美弥子(みやこ)と出会うのである。
タイトルである「イニシエーション・ラブ」というのがまさに本作のテーマ。人は常に変化するもの。過去自分が信じていたものさえも、その後自分が成長し、いろんなものを学ぶにしたがって、間違っていることに気づいて改めることもあり、むしろ改めることによってひとは成長していくと語っていて、それは恋愛についてもそれは同様で、今は好きになったひとを今後もずっと好きになるとは限らない、という考えである。
この考えはむしろ結婚などの広く日本人は広まっている慣習とは相反するものなのかもしれないが、常に周囲のものごとから学んで自分を発展させようと考えるひとにとっては、こちらの方が自然なのかもしれない。
そうやってこの本を受け止めたのだが、どうやらその裏には結構なトリックが隠されているらしく、読み終えてほかの人の書評を見るにいたって、ようやくそれに気づくことになった。
読みながらちょっとした違和感を感じたような気はするが、一読してそれを理解できる人がどれほどいるのだろうか?そういう意味では、なるほど、確かに賛否別れるかもしれない。
【楽天ブックス】「イニシエーション・ラブ」
「パーフェクト・ブルー」宮部みゆき
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校野球界のスターがガソリンをかけられて焼き殺されるという事件が起こった。元警察犬のマサは飼い主である探偵事務所の調査員たちとともに事件に関わることになる。
宮部みゆきの現代小説の長編はすべて読み終えたつもりでいたのだが、実は本作品だけ抜けていた。ふとそれを思い出して読んでみた。物語は高校野球のスターの諸岡克彦(もろおかかつひこ)が殺されたことによって、その弟の進也(しんや)とともに、真相を突き止めようとする探偵事務所の調査員、加代子(かよこ)やその父であり所長の行動を犬のマサ目線で描く。
宮部みゆきのデビュー作品ということで、やや荒削りな話の展開を感じなくもないが、新聞沙汰になるような事件に関わったら、たとえ被害者だろうと選手たちは甲子園出場をあきらめなければならない、という高校野球の不条理な「連帯責任」を物語に巧みに取り入れているあたりは「らしい」と言える。
そして物語が進むにつれ明らかになっていく、諸岡(もろおか)兄弟とその家族の本当の関係に、きっと何か感じるところがあるだろう。
【楽天ブックス】「パーフェクト・ブルー」
「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」ロバート・キヨサキ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
あの有名な「金持ち父さん貧乏父さん」の続編にあたり、そのタイトルにある「キャッシュフロー・クワドラント」とは、世の名の人を大きく4つにカテゴライズしていることに由来する。その4つとは、従業員(E)、自営業者(S)、ビジネスオーナー(B)、投資家(I)である。そして、この4つのなかでEとSの2つと、BとIの2つの間には大きな違いがると語る。それはEもSもお金を稼ぐためには相応に自分が動かなければならないのにたいして、BとIは準備さえ整えれば自分が何もしなくてもお金が生み出されるというのである。
そして、本書ではそんな、EおよびSからBおよびIへ移るためにやるべきこととして多くを語っている。書かれている内容はどれも当然のこと、と思えなくもないのだが、その書き方がいずれもシンプルで非常にわかりやすい。
世の中の多くが所属するであろうEのカテゴリの人たちを、「リスクをおそれてなにもやろうとしない」とか「勉強することを諦めた人」のように言っているので
ひょっとしたら本書を読んで不快に思う人もいるのかもしれないが、個人的には楽しむことが出来た。
【楽天ブックス】「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」
「カタコンベ」神山裕右
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第50回江戸川乱歩賞受賞作品。
新たに発見された鍾乳洞の調査に参加することになった水無月弥生(みなづきやよい)は、悪天候のための落石によって、アタック班の数名とともに洞窟内に閉じ込められることとなる。
まずケイビングという今まで聞いたことも無かったスポーツに興味を惹かれた。ダイビングの地上版、と例えるのがわかりやすいのだろうか。序盤はそんなめずらしいスポーツについての記述から始まる。
そして、鍾乳洞調査が始まり、調査隊のなかで最初に洞窟に入るアタック班の数名が閉じ込められることによって物語が動き出すのだが、それまでの過程で、アタック班および、その周辺の人の背景や性格がしっかり描かれている点が、物語を面白くさせているのだろう。権力者同士の駆け引きなどを含むそれぞれの思惑と背景、例えば、それは数年前にダイビング中の事故で父親を亡くしている弥生(やよい)や、その事故のときに同じ場所にいたケイブダイバーの東馬(とうま)にもあてはまる。そして、参加者の誰かが犯罪にかかわっているという情報も浮かび上がる。また、雨天のために洞窟が水没するまでに数時間、というタイムリミットもまたスピード感を増すのに一役買っている。
著者の別の作品「サスツルギの亡霊」は南極を舞台にした物語だったが、本作品も洞窟、ということで、今回もまた僕等が普段触れることのない世界を題材にスリリングな物語に仕上げている。
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