オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズの第9弾。今回の犯人は電気を自由自在に操る。
電気を使って感電させたりすることで殺害するという今回の犯人。読み進めていくうちに感じるのは、ものすごい効率的な殺人兵器と化すにも関わらず、人々の生活にあふれている「電気」という存在に対する違和感である。極悪非道で進出機没な犯人だが、Rhymeはいつものごとく現場に残されたわずかな手がかりから犯人を追跡していく。AmeliaやPulunskiが失敗を重ねながら悪戦苦闘する姿も毎度のことながら面白い。
さて、そんな電気使いの犯人の追跡とあわせて、メキシコでは「The Cold Moon」以来、逃亡し続けている通称「Watch Maker」の追跡も逐一連絡がRhymeの元に入ってくる。遂にWatch Makerは捕らえられるのか?そんな楽しみも味わえるだろう。
パターン化している部分も感じないことはないが、相変わらずテンポよく読めるのが辞められない一因だろう。
カテゴリー: 評価
「無理」奥田英朗
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
市町村合併によって生まれたとある地方都市。多くの男女が悶々とした日々を送っている。そんな人々を描く。
物語は同じ地方都市で生きる男女を行き来する。女子高生。市の政治家。生活保護を担当する役員。宗教にはまりこむ主婦。暴走族あがりのセールスマン。いずれも現状に不満を抱きながら、すこしでもよりよい未来を求めて日々悪戦苦闘しているのだがなかなか思うように進まない。
そして次第に5人の悲惨な人生はひとつの出来事へと向かっていく。生活保護や老人を狙った詐欺など、現代の話題を適度に盛り込み意図せず悪循環へと陥っていく不幸な人々をテンポよく描いている。いずれもどこか他人事として見れないリアルさを感じてしまうから面白い。まさに一気読みの一冊。
【楽天ブックス】「無理(上)」、「無理(下)」
「宇宙創生」サイモン・シン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宇宙はいつどのように始まったのか。この永遠の謎とも思えるこの問いに、人類は長い間かけて挑んできた。その奇跡をサイモン・シンが描く。
「フェルマーの最終定理」「暗号解読」で人々の知性が過去繰り広げてきた挑戦をわかりやすく、そして面白く見事に描いてきたサイモン・シン。そんな彼が今回選んだのが宇宙の物語である。
僕らは義務教育ゆえに地球は自転しながら太陽の周りを廻っていることを知っている。夜空の星が信じられないほど遠くにあることを知っている。しかし、人類がそれを常識として認識するまでには、何千年もの時が必要で、時には間違った方向に進んだりしたのである。
コペルニクスやガリレオ、誰でも知っている有名な物語からほとんど知られていないレアな物語まで、人類が地球の大きさ、月の大きさ、太陽の大きさ、夜空に見える星までの距離。最初は永遠に明らかになるはずがないと思われていた謎が、科学の発展と、天体に心を奪われた人々の執念深い観察と突飛な発想によって少しずつ明らかになっていく過程が描かれている。真実が真実として人々の中に定着するのに必要なのは論理的な推論と、観測によって裏付けられた事実だけでなく、政治的な問題や宗教的な問題も多くを占めることがわかるだろう。そのような問題をドラマチックに描いてくれるから本書は面白いのだ。
前半はどこかで聞いたような古代の人々の物語が中心で、しっかりと理解しながら読み進められるが、後半は次第に理解を超えた話になる点が面白い。僕が初めて宇宙の物語を知ったときから「ビッグバン」というものが常識のように語られていたので、僕が生まれる数年前まで宇宙創生に関して、ビッグバン理論だけでなく、定常宇宙理論も多くの科学者によって支持されていた事実には驚かされた。
登場人物の多さで混乱してしまう部分もあるが、人類が長年かけて明らかにした宇宙の仕組みを非常に面白く描いているお勧めの一冊。
「「なぜ?から始める現代アート」長谷川祐子
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京現代美術館のチーフ・キュレーターである著者が現代アートについてわかりやすく語る。
現代アートというと、西洋絵画や日本画と比べるとどうしても「わかりにくい」というイメージがあるが、著者は多くの現代アートを例にとって、それが制作された考え方などをわかりやすく語ってくれるので初心者にとっても非常にわかりやすい。現代アートというと「アートとは何か?」という定義への挑戦、的なイメージを僕は持っているのだが、そんなアートの定義として本書で著者が書いている次の言葉が印象に残った。
いろんなアートやその考え方を説明する過程で出てくる作品やそのアーティストの考え方に魅了されてしまうだろう。「政治性」を持ったアートを説明している章では、「ゲルニカ」や「お腹が痛くなった原発くん」を例に挙げている。
アートを見る目を少し肥えさせてくれる一冊
【楽天ブックス】「「なぜ?」から始める現代アート」
「ブレイズメス1990」海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1990年、天才心臓外科医天城雪彦(あまぎゆきひこ)が東城医大へ赴任する。新しい天城(あまぎ)の医療スタイルや考え方は東城医大の医師たちに衝撃を与える。
同じく数十年前を扱った「ブラックペアン1988」の3年後の物語。その中では古くからいる医師を追い出す結果となった高階(たかしな)が、今回は天城(あまぎ)の日本医療と相容れない考え方に猛然と反発する。簡単に言えば、天城(あまぎ)は医療を進歩させて医療を維持するためには、お金を缶から受け取る必要があり、医師の数は限られているのだから、多くの金を払える人から治療すべき、というのに大して、高階(たかしな)は医療にカネの話を持ち出すべきではないというのである。
真実は、腕があってもカネがなければ命は救えない。だから医療は独自の経済原則を確立しておかないと、社会の流れが変わった時、干からびてしまう。
著者はもちろん、この作品を社会の流れが変わって、「医療崩壊」という言葉が広まったあとに本作品を書いているのである。つまり、天城(あまぎ)の本作品中で見せる態度は、医療界が本来20年前にやるべきだったこと、として描かれているのだろう。高階(たかしな)と天城(あまぎ)の議論が非常に深みを感じさせるのは、今の状況があるがゆえである。
そして天城(あまぎ)は自らの言葉を実践すべく公開手術へと向かっていく。
「天城先生は、医療現場においては命とお金と、どちらが大切だとお考えですか?」
「カネよりも命のほうが大切だ、という青臭い戯言には同意しますが、カネがなければ命も助けられないという現実から目を逸らすわけにもいきません。
東城医大の物語の歴史をさらに深くする一冊である。
【楽天ブックス】「ブレイズメス1990」
「ルワンダの大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記」レヴェリアン・ルラングァ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1994年の4月から7月にかけて総計100万人のツチ族が同じルワンダに住むフツ族によって殺された。幸運にもその虐殺のなかで生き残った青年ルラングァがその様子とその後を語る。
ルワンダの虐殺といえば、アウシュビッツなどと並び世界史において「ジェノサイド」という言葉を用いられる数少ない例の一つ。「ルワンダの涙」「ホテル・ルワンダ」などでもそのエピソードは知られている。
本書ではそんな1994年の大虐殺のまさにその「迫りくる死」を描いている。目の前で多くの知り合いが殺され、そして妹や母までもが無残に殺されていくのである。信じ難いのは当時公共のラジオ放送が人々にツチ族を殺すように呼びかけていたことである。
最初は、生き残ったのはどこかに隠れていて運良く見つからなかったからだろう、と思っていたのだが、実際には、肩を砕かれ、鼻を削ぎ落とされ、左手を失ってその苦しさのあまり「殺してくれ」と叫んでいたから、逆に殺されなかったのである。「殺さないでくれ」と叫んでいたらきっと殺されていただろう。
そして、その虐殺の後についても描かれている。スイスの慈善団体の助けで生き延びた彼は、その後またルワンダに戻って、自らの腕を切り落とした男と再会するのである。自らを生死のふちに追い込み、親や妹達を殺した殺人鬼が普通に日常を送っていることに耐えられないルラングァ。終盤はその心のうちを描いている。読んでいて感じるのは、僕とほとんど変わらない年齢にも関わらず人生の苦難の多くを経験してしまった彼の荒んだ心のうちである。
全体的に文章から強い怒りを感じ、冷静に分析されて描かれた内容とはいえないが、その狂気の様子を知るひとつの手がかりにはなるだろう。
【楽天ブックス】「ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記」
「リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ」四方啓暉
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
リッツ・カールトン大阪の開業に携わり、開業後は副総支配人としてその運営に関わった著者がそのホスピタリティについて語る。
実際僕自身リッツ・カールトンは足を踏み入れたこともないのだが、「クレド」というものについて語るとき必ず挙がるのがリッツ・カールトンであり、その徹底されたサービスはよく知られているところである。
しかし、世の中に多くのサービスがあって、そのどれもが顧客目線でサービスの質を向上しようとしているにも関わらず、そんな中でもリッツ・カールトンが際立って高い評価を受ける理由はなんなのか。そんな疑問に本書はわずかではあるが答えてくれることだろう。
なかにはもちろん高いお金をかけるからこそ実現するものもあるが、いくつかは異なる業種にも適用できるようなものであり、それだけでなく、単純に人と人とのコミュニケーションの際にも利用できそうな考え方まで示されている。
以前読んだ、オリエンタルワールドのサービスについて書かれた本の内容と類似点がある印象を受けた。どちらもあらゆる過程で根本となるポリシーをもとに判断を下しているのである。こんなことが実現できるならぜひそんな会社で働いてみたい、と思わせる一冊である。
【楽天ブックス】「リッツ・カ-ルトンの究極のホスピタリティ」
「On the Island」Tracey Garvis-Graves
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生T.J.とその家庭教師のAnnaがモルジブに向かう途中、航空機が墜落し、やがて2人は小さな島に流れ着く。
過去いくつもの物語が作られている、無人島漂流記という題材。本作品は先生と生徒という男女でその物語が展開していく。飲み水の確保や、火をおこすことに悪戦苦闘する姿は比較的予想されているもの。その土地特有の病気もまたその一つであって、男女であればやがて恋愛関係になるのも予想通りかもしれない。
本作品で予想外のことと言えば、過去、無人島漂流記という物語は島から脱出して物語を終えるのにもかかわらず、本作品ではその後の2人の様子も描かれている点だろう。島での生活と、都会の最先端の文化での生活のギャップや、飛行機事故の生存者として有名になってしまったが故の2人の苦悩するさまなどが新しい。
すべてがフィクションではなくて、9.11やスマトラ沖地震を物語に絡めている点も面白い。
「暗号解読」サイモン・シン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人には秘密があり、誰かにそれを伝える際にその秘密を守るために暗号がある。人は暗号を考案してはそれを破ってきた。暗号の進化の歴史をそれに関連するエピソードを交えて描く。
著者の代表作でもある「フェルマーの最終定理」。こんな難しい題材をどうやって読者に面白く伝えるのだろう?という疑問を見事に吹き飛ばしてくれたサイモン・シンが暗号について書いたのだからおのずと期待は増してしまう。実際その内容はその期待を裏切らないものであった。
多くの暗号エピソード同様、初期のアルファベットをずらした暗号から、第二次大戦中のドイツの暗号機エニグマ。いずれもその仕組みとそれを解読した人々の努力を非常に面白く描かれている。いずれのエピソードもその暗号の歴史的重要性を示しながら展開するので物語性も十分である。
また、暗号だけでなく、古代のヒエログリフの解読についても触れている。ヒエログリフは文字であって暗号ではないのだが、その解読の手順は非常に似通っている。現代の人間が誰もその当時の声を聞いたことがないにもかかわらず、ヒエログリフがどのような音で発音されていたかまで明らかになっているという話は、本書を読むまで信じられなかったのだが、解読者たちのその思考の流れを本書とともに追うことで納得することができた。
そして、中盤を過ぎると暗号の伝達方法も手紙からメールとなり、公開鍵、RSA非対称暗号へと移っていく。一方向関数を利用したRSA暗号のエピソードはいろいろな書籍で目にするが、何度読んでも面白いしそれを作り上げた人々に感心してしまう。
終盤では、現代の暗号もいつか破られることがあるのか?という考えで、量子コンピュータに触れるとともに、犯罪をも助ける暗号技術を国が規制すべきか否か、という点についても語っている。
理系の人間にとっては大満足の一冊となるだろう。
「クラウド化する世界 ビジネスモデル構築の大転換」ニコラス・G・カー
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Googleのサービスに見られるように、世の中はクラウドというスタイルへと移行しつつある。本書の序盤はそんな「クラウド」について、過去にクラウド化された物を例にとって初心者にもわかりやすく説明している。
その例に使用されているのが、「電力」である。発電機が発明されて、電気にガスよりも多くの利点があると世の中が認識すると、すぐにお金のある企業は発電機を買って電気を利用し始めるが、やがて「電力」はおのおのの企業や家庭がその敷地内で発電するものではなく、現在の「発電所」と呼ばれるような、ひとつの場所で多くの電力を発電し必要とされる場所に送られることが一般的になっていった。
この電力の進化の流れは、現在の「クラウド」と呼ばれるものと同じ流れであり、そう考えると「クラウド」という言葉こそインターネット向けに使われ始めたものではあるが、その進化の流れは決して特別新しいものではないことがわかる。遠距離に送ることができて、その送るインフラが整備されていれば、それはひとつの場所で大量に生産するほうが効率的で、利用者にとっても余計な知識や維持費が不要になるのである。
そんなクラウドの流れを説明するとともに、中盤以降ではセールスフォースなど現在あるクラウドサービスについて解説し、終盤にかけてはクラウド化が人に及ぼす影響に対して疑問を投げかけている。
翻訳のせいか若干読みにくく、また全体的に著者が言いたいことや本全体としての焦点が「Google」なのか「インターネット」なのか「クラウド」なのか、はっきりしないと感じる部分もあるが今のインターネットの流れを把握するには非常にわかりやすい内容である。
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「グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた」辻野晃一郎
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ソニーでVAIO、スゴ録などを生み出し、その後グーグル日本代表取締役を務めた著者がソニーと、グーグルについて語る。
タイトルにグーグルの名前があるが、内容の大部分は著者のソニー時代のエピソードで占められている。入社当時、すでに立派な企業であったソニーはすでに大企業病に陥っており、過去の人々が築き上げた栄光にすがって努力をしない人々がいた。本書のなかで語られるエピソードからは、そんな組織のなかで著者が悪戦苦闘する様子が伝わってくる。
第七章では「ウォークマンがiPodに負けた日」としてAppleのiPodとiTunesについても語っている。著者が言うにはインターネットで最初に音楽配信をやったのはソニーだったということ。にもかかわらず、人々の音楽の楽しみ方の変化についていけなかったゆえにアップルとの差は開く一方。すでにいろんなメディアで語られたアップルの成功物語であるが、それをソニーの内部という違った目線から語られるので新鮮である。
最後に、自らの体験を振り返って、これから日本の企業がどうあるべきかを語る部分が非常に印象的である。異なるタイプの世界的な企業に勤めた経験がある著者が語るからこそ非常に重みを持って響いてくる。
今のこの変化の激しい時代を生きることを大変と思う人もいるだろうが、むしろ、様々な生活を楽しむことのできる貴重な時代に生きている、と前向きに受け取ることもできる。著者が締めくくったそんな内容のエピローグにはなんか元気をもらえた気がした。
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「プラナリア」山本文緒
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第124回直木賞受賞作品。
無職の人々を扱った5つの物語。それぞれ無職になった理由はさまざまである。乳がんと診断された人や、社内結婚のすえに離婚して社内にいずらくなった人、単純に主婦だったり、学生だったり。
直木賞という賞を取るにはやや地味な印象もあるが、むしろこういう内容の本が共感され、評価されるのは、世の中の多くの人が実際には、テレビのドラマのなかに出てくるように、実際にはばりばり仕事をしているわけでもなく、青春を謳歌している訳でもなく、思うようにならない現実に悶々としているからだろう。
僕自身が共感できたかというと首を捻らざるをえないのだが、共感を集める理由も判る気がする。もっと人生経験を積む必要がきっとあるのだろう。
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「1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター」五十嵐貴久
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
真面目に生きていた主婦美恵子(みえこ)は、息子が高校受験に失敗したのを機にアルバイトを始める。そこでの出会いからやがてバンドをやることになる。
「青春に年齢制限はない」的な、陽気な青春小説で、物語の持つメッセージ性はある意味、すでに使い古されたもの。それでもいろいろ心に訴えかけてくるものがある。本作品の特長はその舞台を1995年に設定している点だろう。オウム真理教や阪神大震災が起こったのがまさに1995年なのである。
親友であるかおりの離婚を繰り返す自由奔放の生き方と、美恵子(みえこ)の堅実な生き方を対照的に描きながら、幸せの形に絶対的なものはなく、どんな人でも人を羨みながら生きていることを訴えてくる。
そして、そこに万引きして美恵子(みえこ)に見つかった雪見(ゆきみ)と元プロの新子(しんこ)が加わってディープパープルを演奏することになる。少しずつ本音をさらけ出すなかでそれぞれの人生観が見えてくるのが面白い。
特に、堅実に生きてきた美恵子(みえこ)がバンドの練習に打ち込むうちに、過去の自分の行き方に思いを馳せるシーンが印象的である。高校のころ、バンドを組んでいた先輩に憧れながらも、当時は女子がバンドを組むなんて考えられなかった、と。
きっと、誰もが今の自分と違う自分に憧れながらも、自分という殻を敗れずに退屈した日々に埋もれていくのだろう。それでも失敗を恐れずに動き出せば、そこにはきっと新しい何かが待っている。そんなメッセージが感じられる一冊である。
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「Howl’s Moving Castle」Diana Wynne Jones
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
帽子屋の姉妹3人は、父親の突然の死によってそれぞれの道を歩むこととなる。2人の妹が家をでたあとに、帽子屋を受け継いだ長女のSophieは、突然やってきた西の魔女の魔法で年老いた女性となってしまう。
ハウルの動く城の原作である。映画のなかでSophieの見た目が若くなったり年老いたりする理由を知りたくて手に取った。そんな動機なのでどうしても映画と比較しながら読み進めてしまったが、後半はかなり内容が異なっていて十分に楽しむことができた。
物語はハウルの城で過ごすことにしたSophieとHowlに弟子入りした少年Michael、そしてHowlと火の悪魔Calciferうを中心に繰り広げられていく。とはいえそんななかにも不思議な因果関係がある。CalciferとHowlは契約を交わしており、その契約によってCalciferは城の暖炉から動くことができない。そして、Calciferは自分のHowlとの契約を解除してくれれば、西の魔女がSophieにかけた魔法を取り除くことを約束する。しかし、その契約を解除する方法はCalciferもHowlも契約によって口にすることはできないのである。
城のなかで過ごしながらSophieはなんとか、その契約を解く方法を探る。その一方で、Howlは西の魔女との一騎打ちを避けようといろいろ思考を凝らす。Sophieの2人の妹も物語に大きくかかわってくる点が印象的である。
原作を読めばいろいろなぞは解けるだろうと思っていたが、解けた部分もあれば一段と深まった部分もあり、思ったのは、もう一度映画を見なければならない、ということ。
「ふちなしのかがみ」辻村深月
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
5つの少し不思議で少し怖い物語。
個人的に好きなのは最初の「踊り場の花子」。どんな学校にでもある七不思議。それは「七不思議」と呼ばれてはいるけれど実際には七つ誰も言えなかったり、人によって微妙に異なるように覚えていたりする。そもそも七不思議は誰が言い始めたのか、実際に起こった出来事に由来しているのか。そんな疑問をうまく物語に仕上げている。
また、2話目の「ブランコをこぐ足」で生徒たちがやったとされる「キューピッド様」もなんか懐かしさを感じさせる。
ややわかりにくい物語もあるが、「学校の怪談」的な程よい怖さ、程よい不気味さが夏に向かうこの時期にマッチしている気がする。残念なのはあまり辻村深月らしい鋭い描写がなかった点だろうか。
【楽天ブックス】「ふちなしのかがみ」
「生きながら火に焼かれて」スアド
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ヨルダン川西岸のある村で生まれ育ったスアドが、その村の慣習ゆえに家族の恥として、火あぶりにされた経験を描く。
前半はスアドの火あぶりにされるまでの生活を中心に進む。そこに描かれているのは血のつながった家族でありながらも、女性の扱いは家畜以下の奴隷同然といった慣習である。世の中にはまだまだ女性軽視の考え方の強い国があることは理解しているつもりでいたが、描かれる内容はそんな僕らが想像できる非道さをさらに上回るものであった。それは「虐待」という程度のものではなく、家畜以下、奴隷同然の扱いなのである。そして、家族を殺しても大して罪に問われることがないというのだから驚くばかりである。実際スアドは妹が兄によって電話のコードで首を絞められる様子を見ているという。
幼い頃からそういう社会で育ったスアドは、学校にいくこともないため学ぶことも、そういう考え方以外を知ることもなかった。そんな何一つ安らぐ瞬間のない生活の中で、やがて一人の男性と恋をして妊娠してしまうのだ。お腹が大きくなってきて妊娠を隠せなくなったスアドを、家族は「家族の恥」として殺す決断をするのである。
後半は、そんな大やけどを負ったスアドがひとりの女性、ジャックリーニと出会ったことで別の国へ移り済み、そこで過去と向き合って幸せをつかむまでを描く。印象的なのは、大人になってからもスアドはユダヤ人の店を避ける点だろう。彼女は頭ではユダヤ人に何一つひどいことをされた覚えがないと理解していながらも、幼い頃から「ユダヤ人はブタだ」と刷り込まれたせいで論理的に行動できないのである。ほかにもいくつか同様のことがスアドの行動の記述から見て取れる、成長過程の考え方、教育がはその人の一生に大きく影響を与えてしまうのである。
本書のなかでも書かれているが、スアド自身が本書を書くのに強い意志が必要だったのもわかるし、内容からもそんな強い思いが伝わってくる、いろんな人に読んで欲しい作品である。
【楽天ブックス】「生きながら火に焼かれて」
「桐島、部活やめるってよ」朝井リョウ
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
バレー部のキャプテン桐島が部活を辞めた。同じときに同じ高校で生活を送っている生徒達の物語。
男子生徒、女子生徒だけでなく、クラスの中心人物、誰からも相手にされないような目立たない生徒など、さまざまな生徒の視点から物語を展開する点が面白い。
クラスでの上下を意識して、自分は「下」だと考える映画部の生徒の視点がある一方で、「上」に位置付けられるサッカー部でクラスの目立つ存在である生徒が、映画部が映画について語る時の生き生きした表情にあこがれるシーンが印象的だ。
他人から見たらどんなにうらやましがられるような、例えばスポーツ万能、容姿端麗な存在であったとしても、悩みを抱え、自分以外の境遇をうらやみながら生きているのだということを認識させられる。
【楽天ブックス】「桐島、部活やめるってよ」
「War Horse」Michael Morpurgo
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
イギリスの牧場でその牧場主の息子、Archureと共に畑を耕していた馬Joey。幸せな生活を送っていたJoeyだが、国が戦争へと向かう中でやがて、騎兵隊の一員として戦争に参加することとなる。第一次世界大戦の混乱を駆け抜けた一匹の馬の物語。
物語が馬Joeyの目線で進む点が面白い。戦争によって飼い主の思いも関係なく戦争に参加することを強いられる。戦争という混乱の中ゆえにJoey自身にも多くの出会いと別れがある。尊敬できる馬との出会い。嫌いな馬との出会い。頑張り屋のポニーとの出会い。馬の気持ちを理解してくれる将校や、若い兵士、やさしい少女との出会い。
もちろんJoey自身は動物なのでいななくことしかできないが、その周囲で同じように戦争に参加する人々がひとり言のようにJoeyに向かって語る言葉が、戦時中の人々の本音を表しているようだ。
動物という純粋さのせいだろうか、人間同士の物語であれば見慣れた出会いや別れの物語が、動物目線にするとこんなにも感動的な物語になるのだ。
「V.T.R.」辻村深月
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
マーダーライセンス。つまり人を殺すことを許された男、ティーの物語。恋人であり同じくマーダーライセンスを持つR(アール)の行方を探して情報を集め始める。
最近、辻村深月(つじむらみづき)作品を読み漁っているのだが、本作品はやや雰囲気が異なる。というのも辻村作品でありながらも、著者チヨダコーキのデビュー作品という設定なのだ。チヨダコーキというのは、辻村作品の「スロウハイツの神さま」で登場するカリスマ作家である。その書かれた著作が青少年に影響を与えて大きな殺人事件が起きる、という設定だったと思うが、その作品が、本作品なのかどうかは定かではない。
したがって、残念ながら他の辻村作品に共通した、羨望と嫉妬など複雑な感情の入り交じった人々の心の描写は全くといっていいほどないのある。物語の展開がゆっくりなため、途中ややストレスを感じたのだが、終わってみると、「悪くない」と思ってしまった。続編かもしくは僕自身が気づかなかった背景があってもおかしくない。
【楽天ブックス】「V.T.R.」
「非選抜アイドル」仲谷明香
「非選抜アイドル」
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
AKB48の仲谷明香(なかやさやか)がAKB48とその夢を語る。
世の中をにぎわすAKB48のシステムについて少し興味があったので本書を取ったのだが、AKB48のファンというほどのものでもないので、この著者の名前すら知らなかったのだが、どうやらかなり初期の頃からAKBに参加している女性のようだ。
本書では仲谷明香(なかやさやか)の幼い頃の生活、夢、AKB48のオーディションを受けるための経緯と、その後のAKB48の活動が描かれている。声優になるのが夢、と公言しながら、AKB48での活動を通じてチャンスを待ち、やがてその夢が実現に近づいていく様子が面白い。
生まれてからようやく20年経過したばかりの女性の言葉にどれほど学ぶところがあるのだろう、などという気持ちもなかったわけでもなかったのだが、いろいろ考え試行錯誤しながら夢に近づいていくその姿勢は、見習うべき部分も大きい。組織で生き残る必要がある社会人にとっても多少刺激になるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「非選抜アイドル」