「対岸の彼女」角田光代

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第132回直木賞受賞作品。
3歳の娘あかりを育てる主婦小夜子(さよこ)は同い年の女性が経営する会社で働くことになった。人と関わる事を避けていた小夜子(さよこ)の生活が少しずつ変わっていく。
本書では2つの物語が平行して進む。娘を育てながらも働くことにした主婦小夜子(さよこ)の物語と、高校生葵(あおい)とナナコの物語である。小夜子(さよこ)は、過去の経験から、常に仲間はずれを作り仲間はずれにされないために必死で笑顔を取り繕うわなければならない女性社会に疲れ果てて、人との関わり合いを避けて生きてきた。しかし、面接で意気投合した女社長の経営する会社で働く事となる。また、女子高生の葵(あおい)はイジメが原因で横浜から田舎に引っ越してそこでナナコという風変わりな生徒と出会い次第に仲良くなっていく。
小夜子(さよこ)の勤める会社の社長が葵(あおい)という名前である事から、おそらくこの高校生と同一人物なのだろう、と予想し、どうやって繋がるのか、と期待しながら読み進めることになるだろう。
全体から伝わってくるのは、年をとって大人になっても、逃げているだけでは何一つ変わらない人生である。高校のときはいじめられるのを恐れて笑顔を取り繕い、大人になって子供を持っても、公園で出会う主婦たちから仲間はずれにされないように必死で話を合わせる。小夜子はときどき自らに問いかけるのだ。

私たちはなんのために歳を重ねるんだろう。

それでも、葵(あおい)にとってはナナコが、そして小夜子にとっては大人になった葵(あおい)が世の中の新たな見つめ方を示してくれているようだ。

ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね。

個人的に心に残ったのは、高校時代のナナコとの思い出を胸に、いつかまたそんな瞬間を、と求めながら孤独に生きていく葵(あおい)の姿である。

信じるんだ。そう決めたんだ。だからもうこわくない。

じわっと染み込んでくる作品。若い頃には理解できない何かが描かれている気がする。
【楽天ブックス】「対岸の彼女」

「Dead Zone」Stephen King

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校の教師のJohn Smithは幼いころの出来事によって未来が見える事がある。それでも恋人と普通の生活を送っていたが、交通事故によって4年半もの間昏睡状態に陥る。
予知能力を持った青年の物語。超能力を持つ人間の物語というのは決して珍しくない。人にはない力を持った故に起きるJohnnyの心の中の葛藤も他の多くの超能力者を扱った作品と共通する部分がある。「人には知られたくない」「普通の人間として生きたい」と思いながらも、予知能力ゆえ、知人が不幸にあうことを黙っていることはできないのだ。
本書ではそんな超能力者に対する大衆の行動も面白く描かれている。その力を利用して自らの知人や家族を捜してほしいと願うもの。スターとしてビジネスに利用しようとするもの。そのタネを見破ろうとするもの。それでも世間はすぐに忘れていくのである。
本作品で重要な役となるのは、恋人SarahとJohnnyの母Veraだろう。SarahはJohnnyが昏睡状態の間に新しいパートナーを見つけて家族を築いていたが、その後はJohnnyの良き友人となる。心身深いVeraはJohnnyのその力を見て、「神が目的を持って与えたもの」という。その言葉を強く意識するJohnnyは、最後までその力を使ってどうやって生きるべきか考え続けるのである。
そしてJohnny自身が政治に強く関心を持っていることもあり、物語は次第に大統領選へと移っていく。アメリカ国民の未来を左右しかねない大統領選。そこでJohnnyは何を見たのか。超能力者を扱った作品のなかでも傑作と言えるだろう。

Kent State Shooting
ケント州立大学で1970年5月4日起こった事件。ガードマンが67発の弾丸を放ち、4人の生徒が亡くなった。(Wikipedia「Kent State shootings」
IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)
アメリカ合衆国内国歳入庁(アメリカがっしゅうこくないこくさいにゅうちょう) またはIRS (The Internal Revenue Service)は、アメリカ合衆国の連邦政府機関の一つで、連邦税に関する執行、徴収を司る。日本でも、そのままIRS(アイアールエス)と呼称されることもあるが、内国歳入庁や米国国税庁などと翻訳される。連邦政府の機構上は財務省の外局であり、日本の省庁になぞらえれば財務省の外局である国税庁に相当する。ワシントンD.C.に本部を置く。(Wikipedia「アメリカ合衆国内国歳入庁」

「僕には数字が風景に見える」 ダニエル・タメット

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
サヴァン症候群の著者ダニエルには、数字が色や雰囲気を伴って見える。そんな不思議な能力を持った彼がその人生を語る。
本書では幼い頃の彼の生活の様子から描かれている。世の中から受け取る感覚が一般の人とは異なるゆえに、人とのコミュニケーションが苦手で、また数字や文字から必要以上の感覚を受け取ってしまう。その感覚ゆえに彼が行う遊びなどのエピソードはいずれも面白い。序盤はそんな変わった少年時代と、それでも普通の生活を送ることに対する両親への感謝である。
そして中盤以降は、その努力の結果社会に適応し、自らの能力を生かして多くのことに挑戦する様子が描かれる。その特異な言語感ゆえの記述はいずれも脅威深い。本書のなかで彼は、彼のような言語共感覚は誰もがもっているものだという。例えばまるみのある滑らかな形と鋭く尖った形を魅せて、「ブーバ」と「キキ」という名前をそのうちどちらかに割り当てさせると多くの人が尖った方に「キキ」、まるみのあるほうを「ブーバ」とするというのである。
そんな彼の特殊な言語感ゆえに、彼はその能力で円周率を暗唱したり、一週間でもっとも難しい言語と言われるアイスランド語をマスターする事に挑戦するのだ、エスペラント語や手話についての話も興味深い。言語学習に興味のある僕としても非常に楽しめる内容だった。
人と違っていることで障害者にされる必要はない、だれのからだも違っているのだから。

エスペラント語
ルドヴィコ・ザメンホフが考案した人工言語。エスペラントを話す者は「エスペランティスト」と呼ばれ、世界中に100万人程度存在すると推定されている。(Wikipedia「エスペラント」
キム・ピーク
恐らく先天性脳障害による発育障害で、小脳に障害があり、また脳梁を欠損している。そのため、生活には父親の介護を必要とする。その一方で写真または直感像による記憶能力を持ち、9000冊以上にも上る本の内容を暗記している。また、人が生年月日を言えばそれが何曜日であるか即座に答えることができる。映画「レインマン」で、ダスティン・ホフマン演じるレイモンド・バビットのモデルとなった。(Wikipedia「キム・ピーク」

【楽天ブックス】「僕には数字が風景に見える」

「リストラされた100人の貧困の証言」門倉貴史+雇用クライシス取材班

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2008年のリーマン・ショック以降、世界同時不況の波が押し寄せ、日本の経済・社会が混乱に陥った。その結果、非正規雇用者の人員カットだけでなく正社員のリストラ、そして新卒社会人の内定取り消しなどが起こっている。本書はそんな不況の流れの中の犠牲となった低所得者層の証言をまとめている。
派遣切りにあった人々。内定取り消しになった学生、リストラにあった正社員の証言を複数まとめて掲載している。最終的にそのような過程を経て、ワーキングプアと呼ばれる生活に陥った人々は、多くの人が言うように、貯金できない、ギャンブルが好き、同じ仕事が長続きしない、などの負の条件を備えてはいたりもするが、必ずしもそれだけが原因ではないのがわかるだろう。証言の合間に筆者が語るその問題点の一つとして、国のセーフティネットの整備不足をあげている。(もちろんそれも簡単なものではないが)。おそらくすでに会社や国が生活を守ってくれる時代は終わったことを知るべきなのだろう。そしてそれは、解雇されたらどうなるか、会社が倒産したらどうするか、などを常に念頭に置いておかなければいけないということだ。
終盤では、そんなワーキングプアの人々を狙った悪質なビジネスについても触れている。組織的な犯罪だけでなく、低所得者層が生きるためにする万引き、置き引きなどの小さな犯罪が世間で増えていることが伝わってくる。例えば、そんな人々が出入りするネットカフェの席にパソコンをおいたまま席を立つなどというのは論外なのだろう。決して読むことで楽しくなるような内容ではない、むしろ引用されている人々の生活は、読んでて不快な思いさえさせる。しかし、電車で隣に座った人が、図書館ですれ違った人が、本書で登場する人間である可能性は決して低くないのである。
【楽天ブックス】「リストラされた100人の貧困の証言」

「To Kill a Mockingbird」Harper Lee

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1961年ピューリッツァー賞受賞作品。
アメリカ南部アラバマ州。未だ黒人差別が色濃く残る町で生活する一家を描く。弁護士のAtticusは息子Jemと娘のScoutを信念を持って育てていく。そんなある日、彼は白人女性に対する暴行の容疑を受けた黒人男性の弁護を担当することになった。
「アラバマ物語」で知られている物語で日本でも知られており、おそらくアメリカでは知らない人はいないのではないかというぐらい有名な物語。実際、先日読んだ「The Help」の物語のなかでも取り上げられている。信念を持って弁護士を務める父、いつも一緒に遊ぶJemを、娘のScoutの目線で語る。序盤は自然の豊かで毎日外で面白いことを探して過ごす兄弟と近所のDillの様子が描かれていてほのぼのと進むが、やがて物語は黒人差別へと焦点を移していく。同時に外でいつも一緒に遊んでいたJemとScoutも年齢があがるに従って、次第に異なる生活を送るようになる。そんな多感な兄弟に、黒人の弁護を引き受け町の人々から「黒人の味方」として蔑まれる父親はどう映るのか。揺れ動きながらも成長していく様子が見て取れる。
現代から見ると、その黒人蔑視の社会はいいものとは言えないが、家族を愛する父親の信念がしっかりとその子供たちに根付いていく様子が伝わってくる。

でも、これだけは言わせてくれ、そして決して忘れないでくれ。どんな時であろうと白人がそういうことを黒人に対してするとき、それが誰であれ、どんな裕福な人だろうが、どんな権威ある家系の出身だろうが、そんな白人はクズだ。

毎日家族と過ごす時間を持てる古き良き時代の理想の父親像としても本作品を楽しむことができるのではないだろうか。

「下町ロケット」池井戸潤

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第145回直木賞受賞作品。
かつてロケット開発に情熱を注いだ佃(つくだ)は、父の跡を継いでエンジン開発の工場を経営する。しかし数々の試練が訪れる。
元銀行員という経歴を持つ著者池井戸潤(いけいどじゅん)らしい視点が他の作品と同様、本作品でも見られる。会社を維持し、従業員の生活を守るためには、ただいい製品をつくるだけでなく、訴訟や特許、資金繰りなどあらゆる面にしっかりと取り組まなければならないのである。
本作品では佃(つくだ)の経営する、佃製作所が大型取引を打ち切られるところから始まり、その後、競合他社から特許を侵害したとして訴えられるなど試練が続いていく。しかし、そんな苦難のなか信頼できる弁護士やベンチャーキャピタルの助けを借りて、さらに成長していく姿が描かれている。
会社の生き残りに四苦八苦していた前半から、後半は、現実的である従業員の現在の生活かそれとも会社としての夢か、といったことが佃(つくだ)の懸念事項となる。
佃(つくだ)が仕事に情熱を注ぐ姿は本当に輝かしく、仕事とはどうあるべきか、人生とはどう生きるべきか。そんなことを考えさせてくれる。
【楽天ブックス】「下町ロケット」

「いちばんやさしいオブジェクト指向の本」井上樹

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現代のプログラミングで頻繁に聞く「オブジェクト指向」という言葉。その意味はあらゆるところで解説されており、その名のとおり「オブジェクトを中心とした考え」なのだが、ではそれで実際その意味を理解できたかというとおそらく違うのだろう。
そんな考えで本書を手にとったのだが、まさに痒いところに手が届く内容だった。過去のプログラム言語を例に挙げてその不都合な部分を明確にし、その不都合さゆえに次第に「オブジェクト指向」という考えが根付いていく過程を示してくれる。プログラム言語の進化の過程を含めて理解することで、より説得力のある形で「オブジェクト指向」という考えを受け入れることが出来る。
おそらくプログラムを仕事にしている人にとっては当たり前の話ばかりなのだろうが、BASICやCなど昔プログラムをちょっとかじったけど最近のプログラムはなんだかよくわからない。という人にはぴったりかもしれない。

Smalltalk
Simulaのオブジェクト(およびクラス)、Lispの機能、LOGOのエッセンスを組み合わせて作られたクラスベースの純粋オブジェクト指向プログラミング言語、および、それによって記述構築された統合化プログラミング環境の呼称。(Wikipedia「Smalltalk」
Simula
最初期のオブジェクト指向言語の一つである。(Wikipedia「Simula」)

【楽天ブックス】「いちばんやさしいオブジェクト指向の本」

「ふたりの距離の概算」米澤穂信

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
毎年5月に行われる神山高校長距離走大会。これから走る20キロを前にして、折木奉太郎(おれきほうたろう)は、仮入部届けを出したにも関わらず、古典部に入部しないことを決めた新入生大日向友子(おおひなたともこ)のその理由に思いを巡らす。
本作品は著者米澤穂信(よねざわほのぶ)の古典部シリーズの第5作目であり、折木奉太郎(おれきほうたろう)や千反田える(ちたんだ)は2年生になって新入生を勧誘するという立場になっている。物語の舞台としては、長距離走大会の20キロのなかで主に、奉太郎(ほうたろう)の回想シーンで展開するというもの。恩田陸の「夜のピクニック」を思い出す人も多いのではないだろうか。
各所に散りばめられた伏線を奉太郎(ほうたろう)が真実に結びつけていくのが面白い。例によってその対象の出来事が、殺人事件などではなく、友人同士の仲違い、といったものであるから気楽に読み進められるのだろう。シリーズの他の作品と同じく、主要な登場人物のなかで繰り広げられるテンポのいい会話もまた魅力の一つである。

「折木さんって真夜中の赤信号は無視するタイプですか」
「真夜中には出歩かないタイプだ」
「お前は守りそうだな」
「わたしは、真夜中に出歩く範囲に信号がないタイプです」

物語の場面の少なさから石持浅海(いしもちあさみ)の「扉は閉ざされたまま」にどこか共通するものを感じた。この本から多くを学べる、というような内容ではないが、著者の技術やこだわりを感じさせる内容である。

ずいぶん楽をしたし、寄り道もした。けれどもいつかはゴールまで行かなくてはいけない。

【楽天ブックス】「ふたりの距離の概算」

「ロード&ゴー」日明恩

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
恵比寿出張所の救急隊員生田温志(いくたあつし)が運転する救急車は搬送していた一人の負傷者によってハイジャックされる。
著者日明恩(たちもりめぐみ)は「鎮火報」「埋み火」で消防隊隊の様子を克明に描いていて、本作品も非常に共通する部分を感じる。周辺の道路事情に詳しい様子や、負傷者を搬送し、搬送中に治療を行うがゆえにその救急車の運転には非常に気を使わなければならないことなどが、運転手目線で描かれている。

一分一秒を争う重症外傷の現場において、生命にかかわる損傷の観察と処置のみを行い、その他は省略して5分以内に現場を出発し病院に搬送する。それがロード&ゴー──救急における非常事態宣言だ。

序盤はそんな救急隊員の日常に始まり、やがてその日常の秒無のなかで搬送した、負傷していると思われた男によって救急車は乗っ取られることになる。言うことに従わなければ爆弾を爆発させるという犯人。そんな犯人自身も家族を人質にとられているゆえに犯行に及んでいるという。
その目的はなんなのか。物語が進むにつれ次第に見えてくる犯人の意図や、現在の救急医療の矛盾、社会制度の歪み。さすがに日明恩(たちもりめぐみ)、ただの犯罪小説には終わらない。

救急救命士の資格を持っていても、傷病者がどれだけ状態が悪くて危険な状態だとしても、何も出来ないんです。それが今の法律です。
救急隊員は重篤度の高い傷病者を優先する。その次に優先する、いやせざるを得ないのは、痛みを強く訴える傷病者だ。もっとも後回しとなってしまうのは、痛みを訴えない人となる。我慢強く、謙虚な人であるほど、ときに搬送で後回しになったり、場合によっては搬送を辞退してしまうことも、珍しくない。

物語を面白くしているのは女性の救命救急士の森栄利子(もりえりこ)である。震災で身内を亡くしたために救急士を志し、自分だけでなく他人にも厳しいゆえに周囲と軋轢を抱える。男性が大部分を占める救急というなかで生きていくゆえの難しさや、人を救うことが仕事にもかかわらず、その容姿ゆえに広報役を担わなければならないために、複雑な思いを抱えている。
また、すでに著者日明恩(たちもりめぐみ)の本を読んでいるひとには嬉しいことに、途中、「鎮火報」や「埋み火」の登場人物も活躍する。一気に読める内容と言えるだろう。
【楽天ブックス】「ロード&ゴー」

「空想オルガン」初野晴

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
穂村千夏(ほむらちか)は吹奏楽部の高校2年生。吹奏楽に青春を注ぎ込む過程で彼女の周囲に起こるできごとを描く。
読み始めてすぐに気づいたのだが、どうやら本作品は主人公である穂村千夏(ほむらちか)とその幼馴染である上条ハルタが繰り広げる「ハルチカシリーズ」の第3弾ということで、最初の2作品をすっ飛ばしていきなり第3弾から読み始めるということになってしまった。もちろん内容は本作品から読み始めた読者にもわかるように登場人物の紹介などがされているのだが、おそらく順番どおりに読んだほうが楽しめたのだろう。
物語は高校の吹奏楽部を中心としてコミカルに描かれるドタバタ劇。同じ吹奏楽に情熱を注ぐ他校の生徒との出来事や、部員のトラブルの解決、練習場所の確保などのエピソードである。パっと読んでパっと忘れる、的な物語かとも思ったいて、それは基本的に間違ってはいないのだが、終盤に差し掛かるにしたがって少しずつ考えさせる文章がちりばめられている。
シリーズのほかの作品も読んでみようと思える内容である。

手回しオルガン
ピンの出た円筒に接続されたハンドルを手で回し、円筒に隣接した鍵盤をピンで押さえる仕組みの自動オルガン。
紙腔琴
手回し式の小型オルガンの一種。1890年(明治23年)、戸田欽堂が発明し、栗本鋤雲が命名した[1]。西川オルガン製作所で製作し、東京銀座の十字屋楽器店で売り出した。
駿府城
静岡県静岡市葵区(駿河国安倍郡)にあった城。別名は府中城や静岡城など。江戸時代には駿府藩や駿府城代が、明治維新期には再び駿府藩(間もなく静岡藩に改称)が置かれた。
チベタン・マスティフ
チベット高原を原産地とする超大型犬。俗にチベット犬とも呼ばれ、希少種である。

【楽天ブックス】「空想オルガン」

「安藤忠雄仕事をつくる 私の履歴書」安藤忠雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
建築家安藤忠雄(あんどうただお)がその半生を描く。
安藤忠雄(あんどうただお)と言えば、丹下健三(たんげけんぞう)、黒川記章(くろかわきしょう)と並んで、建築など素人である僕にも知っている建築家の一人。そんな有名な建築家でありながら彼のその知識は独学によって身につけられたものだというから興味深い。
本作品は、そんな安藤(あんどう)の学生時代から、建築家になり、現代に至るまでの仕事や生活を描く。安藤の今までの作品とその制作秘話だけでなく、安藤が勉強のために訪れたという日本の建造物もいくつか紹介されているから面白い。
安藤(あんどう)もまた、パソコン、携帯電話という大きな変化のなかで生きている。昭和の経済の絶頂期を知りながら今の不況を生きている。そんな安藤(あんどう)の語るところによるとやはり現代の若い人間が元気がないとか。この世代の人は、自分達の若かったころを美化し、今を嘆く傾向が強い。実際にどうなのかがわからないが、東北大震災後に描かれたらしく、今を嘆く記述が随所に見られた。建築だけでなくいろいろな面で考えさせられる部分はあった。

東大寺南大門
国宝。平安時代の応和2年(962年)8月に台風で倒壊後、鎌倉時代の正治元年(1199年)に復興されたもの。東大寺中興の祖である俊乗坊重源が中国・宋から伝えた建築様式といわれる大仏様(だいぶつよう、天竺様・てんじくようともいう)を採用した建築として著名である。(Wikipedia「東大寺」
倉俣史朗
日本のインテリアデザイナーである。空間デザイン、家具デザインの分野で60年代初めから90年代にかけて世界的に傑出した仕事をしたデザイナー。(Wikipedia「倉俣史朗」
田中一光
昭和期を代表するグラフィックデザイナーとして活躍した。グラフィックデザイン、広告の他、デザイナーとして日本のデザイン界、デザイナーたちに大きな影響を与えた。作風は琳派に大きな影響を受けている。(Wikipedia「田中一光」

【楽天ブックス】「安藤忠雄仕事をつくる 私の履歴書」

「英雄の書」宮部みゆき

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
中学二年生の兄がクラスメートを殺傷し、姿を消したため、小学生の妹の友里子(ゆりこ)は兄の行方を探そうとする。兄の部屋の書物たちが言うには、兄は「英雄に魅入られた」のだという。
普段の宮部作品のような、平和に見える現代社会に生まれる人々の摩擦を描いた作品を期待したのだが、実際には「ブレイブストーリー」に続くファンタジーということだった。上下巻にわたる物語ではありながらも、ファンタジーとしては短めに類するだろう。残念ながら非現実的なその世界観がなかなかしみ込んでこないで、そのファンタジーゆえの非現実感がそのまま違和感として受け取れてしまった。
別にファンタジーが嫌いなわけではなく、「ロードオブザリング」や「獣の奏者」などは比較的楽しめたと思っている。思ったのは現代社会とリンクしたような、中途半端なファンタジーは書くのが難しいということ。また、ファンタジーはその世界観を読者の心のなかで構築するためにある程度の長さが必要になるということ。
そんなわけで残念がらあまり楽しむことができなかったが、その辺も読者の気分に左右される部分もあると思うので、ぜひ挑戦してみていただきたい。
【楽天ブックス】「英雄の書(上)」「英雄の書(下)」

「The Help」Kathryn Stockett

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1960年代のミシシッピ州。そこでは黒人差別が未だに色濃く残っていた。黒人女性たちが家政婦として白人に仕えるなかで、ジャーナリストになる夢を持つ白人女性Skeeterは、黒人女性たちの声をまとめた本を作ろうと思い立つ。

物語は2人の黒人家政婦の生活から始まる。子供を愛するAibileenと、口は悪いがケーキを作らせたら右に出るもののいないMinnyである。

Aibileenは子供が好きで、仕えた過程の元で世話した子供たちの人数を誇りに思っていて、2人の幼い子供のいる家庭に勤めている。Minnyはとある出来事によってそれまでの雇い主から解雇され、白人のコミュニティのなかで孤立した風変わりな女性Celiaの元で働くことになる。Aibileenとその勤め先の子供達の関係も面白いが、MinnyとCeliaのおかしな関係も心を和ませる。

それほど遠い昔ではない1960年代にまだこれほどの差別が残っていたということに驚かされる。白人と黒人は、食事を同じテーブルですることもなければ、トイレやバスタブまで別のものを使うべきと信じられていたのだ。途中想起したのはルワンダのツチ族とフツ族のこと。彼らの差別は結果として大虐殺という事態に発展してしまったが、1960年代のミシシッピの黒人と白人もきっかけがあれば大きな混乱になっていたであろう。

こう書くと、当時の白人達はみんなが黒人を害虫のように扱っていたように思うかもしれないが、白人のなかにも差別を悪として親身になって黒人の家政婦たちに接していた人がいたということは知っておくべきだ。

さて、若い白人女性Skeeterは何か今までにない読み物を書こうと思い立ち、白人家庭に勤める家政婦達の声を本にすることを思いつき提案するのだが、思うように進まない。なぜなら、白人のSkeeterには簡単な決断に思えるものが、MinnyやAibileenにとっては大きな危険に自分の家族をさらすものなのである。その温度差が物語が進むにつれてひとつの目的の達成へと向かっていくのが面白い

私は周囲を見回した。私達は誰にでも見えるひらけた場所にいる。彼女にはこれがどれだけ危険なことかわからないのか...。公衆の面前でこんなことを話すということが。

本が出版されたら白人女性たちは誰のことが書かれているかわかるだろうか。黒人の家政婦たちを解雇するだろうか。そんな不安を抱えながらもSkeeter、Minny、Aibileenは秘密裏に出版に向けて奔走する。

日本は差別という現実にあまり向き合うことのない平和な国。それゆえに自分の無知さを改めて思い知らされた。物語中で引用されている人物名や組織名にも改めて関心を持ちたい。多くの人に読んで欲しい素敵な物語である。

公民権運動
1950年代から1960年代にかけてアメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)が、公民権の適用と人種差別の解消を求めて行った大衆運動である。(Wikipedia「公民権運動」
モンゴメリー・バス・ボイコット事件
1955年にアメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリーで始まった人種差別への抗議運動である。事件の原因は、モンゴメリーの公共交通機関での人種隔離政策にあり、公民権運動のきっかけの一つとなった。(Wikipedia「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」

「6TEEN」石田衣良

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
月島を舞台にした、4人の16才の少年の物語。
直木賞を受賞した「4TEEN」の2年後を描く。正直「4TEEN」を読んだのはもう10年以上前だから、前作のエピソードと絡めて本作品を楽しむことはできなかったが、本作品も同じ4人の少年、テツロー、ナオト、ダイ、ジュンがその日々の生活のなかでお金もなく限られた範囲で与えられた自由のなかで、楽しいことを探してすごしていく中で、いろいろなことを経験し成長する姿が描かれている。
当然といえば当然だが、それぞれのエピソードがかなり作られた感じが出てしまったが、清々しい読了感を与えてくれる。

「今日はいい天気だね」とか「涼しくなったね」とかいう会話が、なによりも一番贅沢な世界というのは、案外悪くないんじゃないだろうか。豊かさとか生涯賃金とか経済成長率なんかに、いつまでもこだわっていても意味などないのだ。
クラインフェルター症候群
男性の性染色体にX染色体が一つ以上多いことで生じる一連の症候群。(Wikipedia「クラインフェルター症候群」

【楽天ブックス】「6TEEN」

「ホーキング、宇宙のすべてを語る」スティーヴン・ホーキング

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
イギリスの車椅子の物理学者、スティーヴン・ホーキングが宇宙についてわかりやすく語る。
サイモン・シンの「宇宙創生」を読んで、人々が永遠にたどり着くことができない宇宙についてその仕組みを何年もかけて明らかにする過程に魅了され、もう少し深く掘り下げたわかりやすい本はないか、と思い本書を選んだ。
本書はホーキングが最初に宇宙について書いた「ホーキング、宇宙を語る」をより読みやすく面白くした。と序文にあるのだが、とても「誰にでも理解できる」とは言いがたい内容である。その読みにくさは内容だけでなく、翻訳にも問題があるのかもしれないが、どちらにせよ消化不良な印象はぬぐえない。
数学関連の本もそうだが、その分野の最先端の話を理解するのに一冊の本を読んだだけで足りることなどないのである。1つのステップとして、少しずつでも本書に出てきた意味のわからない単語を理解するよう努めたい。

グルーオン
ハドロン内部で強い相互作用を伝播する、スピン1のボース粒子である。質量は0で、電荷は中性。また、「色荷(カラー)」と呼ばれる量子数を持ち、その違いによって全部で8種類のグルーオンが存在する。膠着子(こうちゃくし)、糊粒子ともいう。(Wikipedia「グルーオン」
弦理論
弦理論(げんりろん、英: string theory)は、粒子を0次元の点ではなく1次元の弦として扱う理論、仮説のこと。ひも理論、ストリング理論とも呼ばれる。(Wikipedia「弦理論」

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「女の子のための現代アート入門」長谷川祐子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
20年間展覧会やプロジェクトで現代アートを紹介してきた著者が現代アートについて語る。
同じ著者の別の作品「「なぜ?から始める現代アート」がいろいろな側面から現代アートの楽しみ方を語っているのに比べると、こちらはひたすら現代アートを紹介している。重なる部分も多く、どちらか迷っtている人がいるなら僕は、「「なぜ?から始める現代アート」の方をお勧めする。
もちろん、本作品からもいろいろな興味深いアーティストを知ることができた。黄色の顔を描くオスジェメオスなどはまさにその一つである。

登場人物たちの顔が黄色いのは黒人でもアジア人でも白人でもない、人種が特定できない顔にしたかったからだ。

終わりに著者が書いたこんな言葉が印象に残った。

考えることは、見聞きしたものをフレームに入れてあなたの体のなかにしまっておくプロセスです。起きている間に見たものの97パーセントは、眠っている間に記憶をつかさどる脳の海馬という場所で選別され、捨てられます。

アンテナを常に張って、感性を刺激し続けたいものである。
【楽天ブックス】「女の子のための現代アート入門」

「時をかける少女」筒井康隆

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
すでに原作より、ドラマやアニメの方が有名になってしまったこの物語。考えてみれば原作を読んでなかったなと思って手に取った。
驚いたのは「時をかける少女」はこの本に含まれる3つの物語のうちひとつということで、予想外に短い物語なのだ。アニメではなんどもタイムリープする主人公だが本作品では和子(かずこ)は自らの意思でタイムリープするのはわずか一回だけなのである。
読み終えてから感じたのは、本作品が何度も何度も繰り返し映画やドラマやアニメになる理由は、その内容ゆえではなくそのタイトル「時をかける少女」というどこかミステリアスでわくわくさせるネーミングにあるのだろうということである。
【楽天ブックス】「時をかける少女」

「The Burning Wire」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Lincoln Rhymeシリーズの第9弾。今回の犯人は電気を自由自在に操る。
電気を使って感電させたりすることで殺害するという今回の犯人。読み進めていくうちに感じるのは、ものすごい効率的な殺人兵器と化すにも関わらず、人々の生活にあふれている「電気」という存在に対する違和感である。極悪非道で進出機没な犯人だが、Rhymeはいつものごとく現場に残されたわずかな手がかりから犯人を追跡していく。AmeliaやPulunskiが失敗を重ねながら悪戦苦闘する姿も毎度のことながら面白い。
さて、そんな電気使いの犯人の追跡とあわせて、メキシコでは「The Cold Moon」以来、逃亡し続けている通称「Watch Maker」の追跡も逐一連絡がRhymeの元に入ってくる。遂にWatch Makerは捕らえられるのか?そんな楽しみも味わえるだろう。
パターン化している部分も感じないことはないが、相変わらずテンポよく読めるのが辞められない一因だろう。

「無理」奥田英朗

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
市町村合併によって生まれたとある地方都市。多くの男女が悶々とした日々を送っている。そんな人々を描く。
物語は同じ地方都市で生きる男女を行き来する。女子高生。市の政治家。生活保護を担当する役員。宗教にはまりこむ主婦。暴走族あがりのセールスマン。いずれも現状に不満を抱きながら、すこしでもよりよい未来を求めて日々悪戦苦闘しているのだがなかなか思うように進まない。
そして次第に5人の悲惨な人生はひとつの出来事へと向かっていく。生活保護や老人を狙った詐欺など、現代の話題を適度に盛り込み意図せず悪循環へと陥っていく不幸な人々をテンポよく描いている。いずれもどこか他人事として見れないリアルさを感じてしまうから面白い。まさに一気読みの一冊。
【楽天ブックス】「無理(上)」「無理(下)」

「宇宙創生」サイモン・シン

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宇宙はいつどのように始まったのか。この永遠の謎とも思えるこの問いに、人類は長い間かけて挑んできた。その奇跡をサイモン・シンが描く。
「フェルマーの最終定理」「暗号解読」で人々の知性が過去繰り広げてきた挑戦をわかりやすく、そして面白く見事に描いてきたサイモン・シン。そんな彼が今回選んだのが宇宙の物語である。
僕らは義務教育ゆえに地球は自転しながら太陽の周りを廻っていることを知っている。夜空の星が信じられないほど遠くにあることを知っている。しかし、人類がそれを常識として認識するまでには、何千年もの時が必要で、時には間違った方向に進んだりしたのである。
コペルニクスやガリレオ、誰でも知っている有名な物語からほとんど知られていないレアな物語まで、人類が地球の大きさ、月の大きさ、太陽の大きさ、夜空に見える星までの距離。最初は永遠に明らかになるはずがないと思われていた謎が、科学の発展と、天体に心を奪われた人々の執念深い観察と突飛な発想によって少しずつ明らかになっていく過程が描かれている。真実が真実として人々の中に定着するのに必要なのは論理的な推論と、観測によって裏付けられた事実だけでなく、政治的な問題や宗教的な問題も多くを占めることがわかるだろう。そのような問題をドラマチックに描いてくれるから本書は面白いのだ。

死は、科学が進歩する大きな要因のひとつなのだ。なぜなら死は、古くて間違った理論を捨てて、新しい正確な理論を取ることをしぶる保守的な科学者たちを片づけてくれるからだ。

前半はどこかで聞いたような古代の人々の物語が中心で、しっかりと理解しながら読み進められるが、後半は次第に理解を超えた話になる点が面白い。僕が初めて宇宙の物語を知ったときから「ビッグバン」というものが常識のように語られていたので、僕が生まれる数年前まで宇宙創生に関して、ビッグバン理論だけでなく、定常宇宙理論も多くの科学者によって支持されていた事実には驚かされた。

ビッグバンは、空間の中で何かが爆発したのではなく、空間が爆発したのである。同様に、ビッグバンは時間の中で何かが爆発したのでなく、時間が爆発したのである。空間と時間はどちらも、ビッグバンの瞬間に作られたのだ。

登場人物の多さで混乱してしまう部分もあるが、人類が長年かけて明らかにした宇宙の仕組みを非常に面白く描いているお勧めの一冊。

クエーサー
非常に離れた距離において極めて明るく輝いているために、光学望遠鏡では内部構造が見えず、恒星のような点光源に見える天体(Wikipedia「クエーサー」
CMB放射(宇宙マイクロ波背景放射)
天球上の全方向からほぼ等方的に観測されるマイクロ波である。そのスペクトルは2.725Kの黒体放射に極めてよく一致している。(Wikipedia「宇宙マイクロ波背景放射」
定常宇宙論
1948年にフレッド・ホイル、トーマス・ゴールド、ヘルマン・ボンディらによって提唱された宇宙論のモデルであり、(宇宙は膨張しているが)無からの物質の創生により、任意の空間の質量(大雑把に言えば宇宙空間に分布する銀河の数)は常に一定に保たれ、宇宙の基本的な構造は時間によって変化する事はない、とするもの。(Wikipedia「定常宇宙論」

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