オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
現在では「人の才能を見抜く天才」と呼ばれ、日本の名古屋グランパスの指揮をとったのち、イングランドプレミアリーグの名門アーセナルで偉業を成し遂げたベンゲルであるが、そんな彼がアーセナルへの発ったのちに日本のサッカーについて語った内容をまとめている。
序盤からその物事を分析する観察力の鋭さに驚かされる。才能のある人間が陥りやすい罠と、監督がするべき役割が非常に説得力のある形で描かれている。大人になって、若手を指導する立場へと変わっていく人々にとって参考になるのではないだろうか。
そして後半では、グランパスでの出来事や、日本のサッカーの将来についても語っている。残念ながら、本書が出版されたのがすでに15年以上前という事で、その空白による違和感は拭えないが、ベンゲルが本書で述べている日本サッカーへの提言はいくつかはすでにJリーグの中に反映されているように見える。
むしろ、アーセナルで何人もの若手選手を世界的選手に育て上げた現在の彼の考えに触れてみたいと思った。
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カテゴリー: 評価
「ボーダー」垣根涼介
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生になったカオルはある日友人からファイトパーティの話を聞く。それはかつてカオル自身が仕切っていたパーティでしかも主催者たちは自分たちの名前を語っているという。カオルはかつてのリーダー、アキに連絡を取る事を決める。
「ヒートアイランド」シリーズの第4弾だが、同時に同著者の作品「午前3時のルースター」の内容も絡んでくるため、本作品から読んで楽しむにはややハードルが高いかもしれない。逆に、今までの4作品を読んでいる人にとっては間違いなく読み逃せない内容である。
その後のアキ、その後のカオルの生活を描きながら、過去の出来事についてもハイライトのように触れているので、必ずしも過去の物語をすべて憶えている必要はない。
物語の主な展開のほかに印象的なのは、カオルとカオルの大学の友人である慎一郎(しんいちろう)の心の内面だろう。どこかその年齢以上に達観した雰囲気を持つ2人は次第に近づいていく。終盤にはその理由と、それぞれのその複雑な思いが見えてくる。
個人的にはこのシリーズで出てくる柿沢(かきざわ)という男の常に冷酷までに最善の行動を選択する部分に魅力を感じているのだが、本作品でもそれは健在である。ぜひいままでの4作すべて読んでから読んで欲しい。
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「Twilight (The Twilight Saga)」Stephenie Meyer
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
家庭の都合からワシントン州のForksに引っ越した高校生のBellaはそこで父親との新たな生活を始める事となる。しかし、新しい高校でBellaは他からは距離を置いているグループと出会い、次第にそのなかの一人Edwardに惹かれていく。
映画にもなった有名な物語。すでに映画を第3作まで見てしまったため、どうしても映画の印象が拭いきれないが、聞くところによると、小説が非常に美しくまとめられているということだったので読む事にした。
今更説明するまでもないが、本作品は人間と吸血鬼との恋愛物語。第1弾の本作品は基本的にはBellaとEdwardが惹かれ合い、お互いの生き方考え方の理解を深めていく様子が主に描かれているため、あまり大きな展開はない。続編に対する下準備という意味で読むべきだろう。
強いて言うなら吸血鬼という生き方に憧れるBellaの気持ちが巧く伝わってくるような描き方がされている気がする。BellaとEdwardの会話のシーンが多いので、若干退屈するかもしれない。
「オシムの言葉」木村元彦
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元日本代表監督でその前は降格寸前のジェフ千葉を再建させた手腕を持つオシム。しかし、彼もまたユーゴスラビア出身故に戦争に振り回された人間の一人。そんなオシムの人生を描く。
前半は日本に来る前のそのサッカー人生について書いているが、その人生からは何より日本とユーゴスラビアの環境の違いが見えてくる。サッカー以外にできることがなかったからサッカーを始めた、というそのコメントには、サッカーに対する日本人と貧しい国の人々の考え方の違いを表しているように思う。
やはり90年のイタリアワールドカップの内容が非常に印象深い。準々決勝のアルゼンチン対ユーゴスラビア。あの当時、僕自身はようやく世界のサッカーに興味を持ち出して、正直アルゼンチンのマラドーナを含む一握りの選手しか知らなかったので、ユーゴスラビアなどというチームがこのようなドラマを抱えていたとは知るはずもない。実際には彼らは崩壊しつつある国のユニフォームをまとって戦っていて、その試合はPK戦にもつれこんだのだ。
当時の状況を知ると、PKを蹴る事が文字通り命がけ、どころか家族までも危険に晒す事になったかもしれないのである。
後半は日本に来てからの様子が描かれている。最初は不可解だったオシムの振る舞いが、少しずつジェフの選手の理解を得て、チームや個々の強さへと変わっていく様子がうかがえる。リーダーという役割を持つ人間のあるべき姿が見えてくる。むしろリーダーシップを学びたい人はオシムの言葉をしっかり受け止めるべきだろう。また、海外から来て日本の文化にとけ込もうとする人のみ見える日本の文化の問題点も見えてくる。
ユーゴスラビア代表でそのたぐいまれなる才能にもかかわらずオシムによってベンチに退けられながらも、サビチェビッチは数年後チャンピオンズリーグを制して、観客として感染していたオシムとその息子のもとに駆け寄って感謝を伝えたという。
試合に出させてもらえなかった選手が、その監督にこれほど感謝の念を抱くという状況が信じられない。そんな指導者に出会える幸運に恵まれた人間が本当に羨ましく思えてくる。
サッカー関連の本を漁っていて偶然にも今回、ストイコビッチを描いた「誇り」と2冊連続で、ユーゴスラビア出身のサッカー選手を描いた、同じ著者の作品を読む事になってしまったが、ユーゴ紛争についてもっと知らなければならない、とも思った。
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「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」木村元彦
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
フィールドの妖精ピクシー。Jリーグ史上最高の外国人選手と言われ、見る者を魅了したてドラガン・ストイコビッチ。そのサッカー人生は政治に翻弄されたといっていいだろう。そんな彼の人生の軌跡を描く。
僕はサッカーをずっとやっていたし、同時にサッカーファンでもあるからJリーグやワールドカップにはそれなりに関心を持っている。だから、一般の日本人がどれだけストイコビッチのことを知っているのかわからない。
簡単に説明するなら、ストイコビッチは90年のイタリア大会でユーゴスラビア代表の中心となってプレーするが、その後は国内紛争に起因する制裁措置によってユーゴスラビア代表は国際大会に出られなくなるのである。個人的にもっとも印象的なのは、1999年名古屋グランパス時代、ゴールを決めた後に、ユニフォームを脱いでそのうちがわに来ていたシャツに書いた文字を示したときである。「NATO STOP STRIKES」。
サッカーという分野に技術を極めたその心構えは多くのアスリートと同様に非常に刺激になるだろう。そのうえでそんな国が分裂するなかで生きるというその強い意志を感じたいと思ったのだ。
内容はピクシーのたどったサッカー人生の軌跡を丁寧に面白く描いている。僕は90年のワールドカップとその後1997年頃のJリーグのストイコビッチしか知らないが、その間を本書はしっかりと埋めてくれる。しかし残念ながら、その間を埋めるのはほとんど悲劇ばかりである。
思ったのは、ストイコビッチを襲った悲劇はとてもやるせないものだが、それがなければストイコビッチが日本でプレーすることもなかったということ。そしてストイコビッチが国民から愛されているという事だ。
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「決断できない日本」ケビン・メア
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
対日政策30年のキャリアを持つ著者が、日米関係や日本人について語る。
タイトルだけ読むと、その内容が日本人に批判的な内容で構成されているような、印象を与えてしまうかもしれないが、著者自身日本人の妻を持ち、日本を愛しているゆえに、決して日本人が読んで不愉快になるような内容ではない。僕は知らなかったのだが、著者自身は東北大震災前に、彼の発言が物議を醸し出したという事でひょっとしたら知っている人の方が多いのかもしれない。
さて、本書の内容は、普段あまり触れる事のできないような客観的な視点にたって日米関係を語っているように思える。なぜなら、著者は、日本人でないから日本の文化やメディアに過剰に毒される事もなく、かといってアメリカに住むアメリカ人のように日本に対して妙な偏見を抱いてもいないのだ。沖縄基地問題や、日本の政権交代による影響。そして東北大震災、政治に常に関心があるひとしかわからないような内容ではなく、むしろ僕のような政治に疎い人間にも分かりやすく、そして好奇心を刺激してくれる内容になっている。
特に沖縄基地問題についてはまた今までと違った視点から見つめる事ができるようになるだろう。
改めて言うが、本作品は決して日本人を非難している訳ではない。締めくくりとして著者は書いている。日本人という我慢強く規律のある国民はもっとよい指導力に恵まれるべきだ、と。
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「鍵のない夢を見る」辻村深月
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第147回直木賞受賞作品。
辻村深月がついに直木賞を受賞した作品ということで期待したのだが残念ながら短編集である。5編ともそれぞれの年代の女性を主人公とした物語で、それぞれの物語から見えてくる女性の視点、考え方は、いずれも新鮮で、世の中で女性が生きていくことの難しさまで伝わってくる気がする。
5編のなかで印象的だったのは最初の2編。1編目は社会人になって小学校時代の友人と再会する物語で、ほとんど女性だけで構成される物語でありながら、周囲に流されがちな小学生の残酷さや、若さゆえの甘酸っぱさが漂う。確かに小学校や中学校のころは学校が違えば世界はまったく違っていて、人によってはその世界の違いを切り捨て、また人によってはその世界の違いをうまく利用していたのだろう。
2編目は狭い町に住む故に合コンで知り合った男性と再会する社会人の女性の物語。どちらも30歳を過ぎているために結婚に焦り、周囲に蔑まれている事を薄々感じながら生きている。そんな2人の言動や考え方がどこか他人事ではなく心に残る。
やはり直木賞ということで期待しすぎてしまったせいか、普段の辻村深月の他の短編集とそう変わらない印象だったのが残念である。
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「Misery」Stephan King
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ベストセラー作家であるPaulはある日ドライブをしていて事故に遭う。目を覚ましたそこは、彼のファンである女性Annieの家だった。Paulはそこで監禁生活を強いられながら小説「Misery」の続編を書く事を強要されるのである。
Annieの狂気や、Paulに対する残酷な仕打ちがある一方で、小説を書くという事の難しさ、深さを感じる事ができる。例えば、Paulが書いている物語の面白さに、Annieがついに結末を教えるように迫るのだが、それに対して、Paulは、自分にも結末はわからない、と答える。いくつか候補として考えている結末はあるが、どのうちのどれを選ぶかは自分にもわからないと。また、Annieの小説に対する意見も面白い。彼女は最初にPaulが書いた内容を読んでどこか違和感を感じてそれをPaulに伝える。Paulもまた、監禁されているという環境にもかかわらず、一人の読者の意見としてそれを尊重し、物語をより矛盾のない形に修正していくのである。何かKingの物語に対する価値観が凝縮されているようにも感じる。
そして、小説云々は別にしてもその強烈な描写はやはりすごい。例えば、主人公がなにかの窮地に陥った時、僕らはどこかで、このひとは主人公だから、「きっとうまく逃れるんだ」的な考えを持っていると思うのだが、そんな楽観的な部分を見事に裏切ってくれる。日本の作家五十嵐貴久の「RICA」もまたそんな残酷な行為をする女性の物語であったがどこか似た部分を感じる。ひょっとしたら五十嵐貴久もKingの作品に影響を受けたのかもしれない。
「永遠の仔」天童荒太
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2000年このミステリーがすごい!国内編第1位。
幼い頃の経験ゆえにトラウマを抱えた3人の少年少女、優希(ゆうき)、笙一郎(しょういちろう)、梁平(りょうへい)は初年時代を四国の病院で過ごした。17年後、大人になった彼らは再び出会うことになる。
優希(ゆうき)は看護師、笙一郎(しょういちろう)は弁護士、そして梁平(りょうへい)は刑事として生活しているが、過去のトラウマゆえにそれぞれ社会の中で苦しみながら生きている。彼らは心を開いて人と付き合う事ができないゆえに、幼い頃その心の傷をさらけ出してつきあったお互いの存在を強く意識しているのである。
笙一郎(しょういちろう)も梁平(りょうへい)も優希(ゆうき)のことを想っているが、「自分にはその資格はない」と言って、一歩を踏み出せずにいる。物語が進むにしたがって、2人をそう思わせている理由は、四国の病院で3人が過ごした時期にその病院で行われていた登山中、優希(ゆうき)の父親が死亡した事件に関連しているらしいことがわかってくる。
病院での幼い3人の様子と、現代を交互に展開していき、いくつもの悲劇が次第に明らかになっていく。何が起こったのか。父親はどうして死んだのか。
物語を通じて見えてくるのが、すべての人が被害者であるということ、読み進めるにつれてタイトルの持つ「永遠の仔」の意味が見えてくる気がする。僕らは年齢を重ねるにつれて大人になる事を当然のように思っている。大人とはつまり、理性的に生きなければならない。強くなければならない、などであるが、世の中の多くの人は大人になっても弱さを抱えていて、ときにはそのはけ口を求めているのだ。そんな結果生まれた負の連鎖こそ、まさに本書が描いているものだろう。生きたいように生きる事ができず、生きている事で苦しみしか感じられず、そんな彼らはどうするのだろうか。
印象に残ったシーンはいくつかあるが、なかでも梁平(りょうへい)が久しぶりに叔父と再会するシーンが個人的に涙を誘ってくれた。父親に捨てられ、母親に幼い頃からタバコの火を何度も押し付けられてそだったゆえに、人を信用できない梁平(りょうへい)。そこに現れた叔父夫婦だったから最初は「何が目的なんだ」と思っていたのだが、大人になって再会してその本音を晒す。
もっと前に読んでおくべきだった作品。最近「歓喜の仔」というおそらく続編と思われるタイトルが書店に並んでいたのを見て、本書を手に取った。
「小さいおうち」中島京子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第143回直木三十五賞受賞作品。
昭和の初めに東京に出て、平井家という家庭で「女中」として過ごしたタキが、今、当時を振り返って綴る。
戦前から戦時にかけても物語は数多くあるが、本作品のタキのように戦争を「どこか他人事」として描いた物語は珍しいのではないだろうか。だからこそ、極端に当時を批判したり美化したりする事もなく、その当時の人々の自然な生活の雰囲気が伝わってくる。
一方で、そのタキが書いているものを、甥の息子である健史がときどき読んでしまってタキに対して意見を述べるのが面白い。その健史の視点こそ、僕ら現代に生きる人々の、当時に対する印象を代表しているように思う。
僕らは歴史的事実としてしか当時を知らない。例えば、その当時、東京でオリンピックが開催される事が決まって、人々がどこかわくわくしていたことを知らないのだ。なぜなら結果的にそのオリンピックは戦争によってなくなり、20年遅れて1960年に開催される事になったのだから。僕らが見る過去は、最終的な結果としてのこった過去であり、それが作られる過程はその時代を生きている人にしかわからないのだろう。
2.26時間や太平洋戦争など、まちがいなく激動の時代ではあったのだろうが、当時の人々は決して不幸ではなかったと、伝わってくる作品である。
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「ロードス島攻防記」塩野七生
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
イスラム世界に対してキリスト教世界の最前線にあたるロードス島。1522年オスマントルコのスレイマン1世は聖ヨハネ騎士団を相手にロードス島攻略を開始する。
先日観光にいってきたトルコという国に興味を持ったため本書を読み始めたのだが、読み始めてみると自分の無知さに驚かされる。十字軍、オスマントルコ、神聖ローマ帝国などなど、いずれも世界史で聞きかじったことなある内容ではあるものの、それがなんで、どういう理由で行われ、結果どうなったかをまったく知らないのである。
物語の焦点がトルコとロードス島の戦いであるから、当時の防衛の技術、地雷や大砲といった戦争の技術から、それぞれの軍隊の国民やそこで話される言語など、当時の生活の様子や人々の考え方も含めて、わずかではあるがいろいろなものが伝わってくる。
どうしても歴史について知識を得ようとして本を読み始めると退屈だったり、物語を読むと極端な展開に辟易したりするが、本書は知識を退屈しない程度に楽しみながら得たい、という読者にはぴったりである。著者「塩野七生」という名を実は何度か目にしたことがあって実際その作品を読んだのは今回が初めてだったのだが、こういうスタイルで多くの歴史的事実について書いているのであればぜひもっとたくさん読んでみたいと思った。
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「心臓と左手 座間味くんの推理」石持浅海
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
警視庁の大迫警視はあるハイジャック事件を機に知り合った沖縄を愛する青年、通称「座間味くん」とたびたび過去の事件について意見を交わす。そんな中で「座間味くん」はその推理力を見せる。
本物語は、石持浅海の別の作品「月の扉」と関連する部分が多く、「月の扉」を読んだ人のほうがより楽しめるだろう。僕自身、「月の扉」の物語を漠然としか覚えていなかったのだが、「座間味くん」の推理を楽しむ分にはまったく問題がなかった。
短編集の形をとっていて、最後の一編をのぞいてはいずれも大迫警視が事件の概要を話して、それに対して「座間味くん」が意見を述べる、という形をとっている。つまり、「座間味くん」は大迫警視が語った言葉だけで状況を分析し、警察が気づかなかった真実を推理してみせるのだ。物語が展開する場所の狭さはいかにも石持浅海らしい。
しかし、感想としてはやや「座間味くん」の推理は行き過ぎていて納得しかねると感じる部分も多々あった。また、最後の1編をのぞいた6編ともに事件の概要以外はほとんど同じ展開だったため、やや退屈を感じてしまった。
ちなみに石持作品ではすでに碓氷優香(うすいゆか)というヒロインがいるが、この本名の明らかになっていない「座間味くん」も今後何かほかの展開があるのだろうか。
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「彼女が追ってくる」石持浅海
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コテージ村で年に1度開催される親睦会。それを数少ないチャンスと捉えて、中条夏子(なかじょうなつこ)は死んだ恋人の復讐として黒羽姫乃(くろはひめの)を殺害する。そして罪の問われないために策を練るのだが、参加者の一人の碓氷優香(うすいゆか)が立ちはだかる。
石持浅海らしい作品と言えるだろう。世界を限定し、登場人物を限定し、その中で特に大きな行動を起こす訳ではなく、会話と推測、駆け引きだけで物語をすすめるのである。現実感がないと切り捨ててしまう事もできるが、どこか中毒性のあるミステリーである。
本作品でも殺人者となった夏子(なつこ)が自分の無実を示すためにいろいろな策を練り、姫乃(ひめの)の死体が発見されて親睦会の人たちと何が起こったかを論じている間も、自らの思い描く方向に状況をすすめるために、慎重に言葉を選んで行動するのだ。
何度か石持作品を読んだ事のある人には結末は見えているのだが、その過程に期待するのだ。碓氷優香(うすいゆか)はどうやって謎を解き、どういう結論へ導いていくのか、と。
好みは別れるだろうが、今回はこれを期待して本書を読み始めたのでしっかりと期待に応えてくれたと言える。
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「Language of Flowers」Vanessa Diffenbaugh
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
孤児として育ったVictoriaはいままでどんな里親の元でも一緒に暮らす事を拒んできた。10歳になったVictoriaはElizabethというワイン農場の元で生活するようになるが…。そして18歳の今。
18歳になって一人で生きていく事になったVictoriaと、10歳でElizabethと会ったときの様子が交互に展開していく。なぜ今も一人で生きているのか、一体10歳でElizabethと出会ってその後何が起こったのか、そんな間の8年間に対する疑問が、ページをめくるにしたがって少しずつ埋まっていく。
本作品の魅力は、そのタイトルからも分かる通り、Victoriaの花と花言葉に対する思い入れの強さである。しかし、彼女の花に対する情熱もまた、その10歳当時の彼女のElizabethとの生活から来ているのである。
花言葉は、辞書や時代によって意味が異なり、ときには一つの花が矛盾する2つ以上の意味を持つ事もあるのだという。Victoriaはたくさんの花言葉の辞書をつきあわせて、どれがもっともその花にふさわしいか議論し、自らの一冊の辞書を作っていくのである。
そして、そんな花に対する思い入れの強さが、彼女の周囲を少しずつ変えていく。住居、仕事、恋人、そして過去。孤児として育った故に、自らを無価値な人間と蔑むVictoriaが次第に自らの価値を見つけ生き方を見つけていくのが面白い。
本作品を読んだ人はきっと花言葉に興味を持つだろう。
「るり姉」椰月美智子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
さつき、みやこ、みのりの三姉妹が「るり姉」と呼んで慕う母親の妹るり子はエネルギッシュで自由奔放、周囲の人まで元気にさせる。しかし三姉妹はそんな彼女が入院し次第に衰弱する様子に愕然とする。
非常に近い関係の人々がそれぞれの視点で物語を語る、という最近よく出会う形式の物語。この形式の物語を読むと、「見る人によって善悪や常識・非常識が変わるのだと言う当たり前のことが改めて分かる気がする。
本物語を語る目線となるのは中学生のさつき、みやこ、小学生のみのりの三姉妹である。そのため、部活のことだったり飼い犬のことだったりと向き合う問題は非常にたわいもないものでそんなに深刻な事を考えたりはしないが、だからこそそれぞれが慕っている「るり姉」が入院したという事実が3人に大きな出来事として影響していくのだろう。
物語は3人のほかにも母親で看護師のけい子、そして「るり姉」の夫である開人(かいと)を含めた5人から語られる。周囲の人の目線ゆえなのか、「るり姉」という一人の女性が与える存在の大きさを感じる。きっと多くの人はこんなふうに身近な人にプラスの影響を与える人間になりたいのだろう。
自分の周囲の人間関係ついてちょっと考えてしまうかもしれない。
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「世界でいちばん長い写真」誉田哲也
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
仲の良かった友人が引っ越してしまった事で沈んでいた写真部は宏伸(ひろのぶ)はある日不思議なカメラに出会う。それは長い写真の撮れるカメラだった。
全体を見れば単純な青春小説というカテゴリに収まってしまうのかもしれないが、印象的だったのは、主人公である中学生宏伸(ひろのぶ)の心のうちの描写である。宏伸(ひろのぶ)はクラスの中心的存在でもなければいじめられっこでもない。当たり障りのない、というもっとも目立たないタイプの生徒。将来何をやりたいかがまだ見つからないのは、この年代であれば珍しい事でもないが、自分が何が楽しいかすらわかっていない。そんなことにある日気づくのである。
そんな宏伸(ひろのぶ)が不思議なカメラに出会ったことで少しずつそれに夢中になっていく様子が微笑ましい。宏伸(ひろのぶ)の従姉妹の美人でクールなあっちゃんや写真部の怖い女子部長の三好(みよし)が物語を面白くしている。
放課後の部活の喧噪、校庭の砂埃、そんな懐かしいものが漂ってくるような作品。読むと何か新しいことを始めたくなる。
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「永遠。」村山由佳
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
幼なじみの弥生の母が亡くなった。彼女は亡くなる前に別れた弥生の父親について語った。父親に固執する弥生を幼なじみの「俺」目線で描く。
なにしろ短い。まれに見る薄さの本でしかも作者のあとがきが後半のかなりを占めているので内容だけに限ればもっと薄い。実際に本物語は映画「卒業」(有名なダスティンホフマンのものではなく)との合同企画の一部ということらしいので、作者自身は小説だけでも楽しめるもの、という前提で書いたようだが、映画の存在が不可欠である事も事実なのだろう。
読んだ感想としても、物語的に短すぎて記憶からすぐに消えてしまいそうである。おそらく映画とセットで評価すべきものなのだろう。
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「試練が人を磨く 桑田真澄という生き方」桑田真澄
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本での活躍を経てメジャーリーグに挑戦したプロ野球選手、桑田真澄がその野球人生を振り返って心のうちをつづる。
派手さやみなぎるエネルギーはないが信念を感じさせる選手。人に寄っては周囲まで巻き込むようなエネルギッシュな熱い人を好む人もいるのだろうが、僕にとっては野球選手で言えば桑田のように感情をまき散らさず、冷静に自らと向き合って行動で自らの信念を示す人間が好みである。
本書では高校時代の話やメジャーリーグでの話はもちろんだが主に読売巨人軍での話が中心となる。当時はプロ野球には関心があったものの、黄金時代の西武ライオンズ中心で、セリーグの巨人という球団の一選手であった著者のことは名前ぐらいしか知らなかったのだが、本書を読むと、そういえばそんな話があったな、と思い出される事も多い。裏金疑惑や清原とのドラフト騒動、記憶にある人もきっといるだろう。野球の技術的な向上のための思いだけでなく、そんな騒動などを通じてメディアや周囲に対する態度についても語っている。
読んでて感じるのは、本当に著者は、自らが努力するのが好きで、人がどう自分を見るかよりも、自分自身が自分に対してどう感じるかを重視するという事。ひょっとしたら、物事を長く突き詰める上でそんな「自らと向き合う」的な考え方は必ず持っていなければいけないことなのかもしれないが、そんな考えを改めて再認識させてもらった。
内容的にそんなに面白かったり特別新しいことが書かれているわけではない。日本シリーズや中日とのペナントレース最終決戦についても書かれているので、きっと巨人ファンにはもっと楽しめるのだろうが、むしろ、「読者を楽しませる」というよりも「書く事で自らの過去を顧みる」的な、本書で書かれた本人の心のもちかたが、全体の雰囲気からも感じられる構成である。
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「Water for Elephants」Sara Gruen
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
失意のなか飛び乗った列車はサーカスの一団だった。Jacobは獣医という専門を生かしてそこで働く事となる。
サーカスで生きるという普段まず意識する事のない生き方。そんななかで同じサーカスの人々との人間関係に悩み、またサーカスという団体ゆえにそこで見せ物として活躍する動物たちとの関係も面白い。当時の上下関係や給料の支払いなどは、本物語で描かれているように、周囲が「サーカス」という言葉の華やかさに抱くほど煌びやかなものではなかったのだろう。給料の支払いが遅れる事や、支払いを諦めて団を去る者など当時のサーカス事情が伝わってくる。
あとがきを読むと、過去のいくつかの歴史的なエピソードを取り込んでいるようだ。一つの言語しか理解しないゆえに役立たづとレッテルを貼られた像。飼い主を殺してしまったゆえに電気で処刑される事になった像、など、むしろサーカスという歴史に興味をかきたてられる。
残念ながら物語自体はそれほど山あり谷ありというような面白いものではなく、もう少し読者を引き込むような展開にできなかったのかという点が残念である。
「The Shadow of the Wind」Carlos Ruiz Zafon
オススメ度 ★★★★★ 5/5
2005年バリー賞新人賞受賞作品。
1945年、10歳になったDanielは父に「本の墓場」と呼ばれる場所に連れて行かれて自分だけの一冊を選ぶように言われる。そこでであった本「The Shadow of the Wind」に取り憑かれたDanielはその著者Julián Caraxの他の本を探そうとするが、その著者の本はすべて燃やされてしまったと知る。いったい著者Julián Caraxに何があったのか。
一冊の本との出会いから始まる壮大な物語。Danielの心を「本の墓場」で出会った「The Shadow of the Wind」が掴んで話さなかったのと同じように、僕の心をこの「The Shadow of the Wind」は夢中にしてくれた。主人公Danielの友情、親子の絆、恋愛だけではなく、彼をとりこにした著者、Julián Caraxの恋愛や人間関係のもつれからうまれた壮絶な人生にまでが次第に明らかになっていく。地理的にもバルセロナからパリに広がり、当時の世界情勢も反映された見事な内容に仕上がっている。
一冊の本との出会いをきっかけに始まる物語であると同時に、Daniel自身も父とともに本屋を営む故に、読書というものの人生に与える大きさを考えさせてくれるだろう。終盤に書いてある言葉が重く響いてくる。
読む人に、その人自身の内側を見せてくれるような、全身全霊をもって取り組むような、読書の美学というのは次第に失われつつあるのだろう。すばらしい読者は月日とともに少なくなっていくのだろう。
読み終えた瞬間の喪失感のなんと大きな事か。読書の大好きな人にぜひ読んでほしい。出会えた事を感謝したくなる物語。
和訳版はこちら。