「利休にたずねよ」山本兼一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第140回直木賞受賞作品。
千利休はその唯一にして確固たる美学ゆえにその地位を上りつめた。しかし、その美に対する信念ゆえに秀吉に疎まれ切腹を命じられる。

千利休の名前を聞いた事のない人など日本人でいるのだろうか。しかし、実際に彼が何をやっていたのか、そう考えると茶室に関わる何か、としか知らない。茶室や茶という文化が同時どのように人々に捉えられていたかすら普通は知らないだろう。本書は千利休の生活や行き方、そしてそこに関わる人たちの視点を通じてまさにそんな当時の様子を見せてくれる。

こういう風に書くと、ひどく退屈な歴史小説のように聞こえるかもしれないがそんなことはない。本書で何度も描かれる、利休の美しい物にたいする考え方は、永遠と受け継ぎたいと思わせる。むしろ日本人の物作りに対するこだわりの原点があるようにも感じられる。

本書を読むと世の中のすべてが違って見える。人の表情、仕草、歩き方、建物の形状、物の置き方…。すべてにおいてもっとも美しい方法というのがあるに違いない。きっと利休であれば最も美しい方法を選択しただろう。
【楽天ブックス】「利休にたずねよ」

「漂砂のうたう」木内昇

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第144回直木三十五賞受賞作品。

根津遊郭で働いている定九郎は大きな時代の流れに飲まれながらも、そこで働く花魁や遣手たちとともに生きていく。

そもそも遊郭とはどういう場所なのか。吉原という言葉やその話を聞いた事はあるけれど、実際にそれがどういったものでどうやって営業されるのか、そこで働く花魁たちはどのようにそこで働く事になったか、などわからないことばかりである。本書はまずそんな僕らには馴染みのない当時の遊郭の様子を見せてくれる。

そしてまた、本書の舞台は明治時代のはじめの頃。それまで武士として生きていた人々が他の生き方を探さなければいけないという大きな変革期。ちまたでは福沢諭吉の「学問のすすめ」が広まり学ぶことの重要性を世の中が意識し始める。そんな変化のなかで自らの生き方を考える人々の心のうちに、どこか現代の人々の悩みと共通したものを感じるだろう。

日本画のような非現実的な状態でしか知らない時代の人々の生活を、より現実味を帯びてみせてくれる作品。

学問のすすめ
福沢諭吉の著書のひとつ。原則的にそれぞれ独立した17つのテーマからなる、初編から十七編の17の分冊であった。最終的には300万部以上売れたとされ[1]、当時の日本の人口が3000万人程であったから実に10人に1人が読んだことになる。(Wikipedia「学問のすすめ」

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「光媒の花」道尾秀介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回山本周五郎賞受賞作品。
人々の人生を切り取った6つの短編から成る物語。
母と息子、兄と妹、先生と生徒。この世界にある様々な人間関係のなかの6つを描いている。想い通りにいかないやり切れなさや希望のない未来は、自然と人の心を過去に向かわせるのだろうか。どの物語も、楽しいわけでも悲しい訳でも、希望を与えてくれるわけでもないが、なにか染み入ってくるものがある。
特徴的なのは、どの物語も植物や昆虫が象徴的に登場する点だろう。笹の花、キタテハチョウ、シロツメクサ、カタツムリ。幼い頃は昆虫や植物と触れる機会も多かったのに大人に成るに連れてそんな時間もとれなくなる。だからこそ植物や昆虫は過去の思い出とリンクするのだろうか。
この物語全体に漂うしみじみとした雰囲気は、周五郎賞受賞を納得させてくれる。
【楽天ブックス】「光媒の花」

「ALONE TOGETHER」本多孝好

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
殺した女性の娘を守って欲しいという依頼を受けた「僕」はその中学生の女性、立花サクラに近づいく。
一度は医者を志しながらもその道を諦めて塾の講師として働く「僕」はその特殊な能力で人の心に踏み込んでいく。誰もが自分自身が一番大切でありながらも人との関係を求めるのはなぜなのだろう。人間関係というものについて考えさせられるかもしれない。
独特なリズムと雰囲気を持った本多孝好の世界。簡素な台詞や控えめの感情描写で、物語中の意味の多くを読み手に委ねてしまっている点は読者に寄って好みの別れる部分だろう。
【楽天ブックス】「ALONE TOGETHER」

「レヴォリューションNo.3」金城一紀

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
落ちこぼれ男子校の通称ゾンビーズの男たちの自由奔放な生活を描く。
爽快さはあるかもしれないが、残念ながらそれ以上ではない。大人社会の矛盾やストレスや矛盾を、若さと無鉄砲な若者の目線から描く。むしろ高校生や中学生に受けるないようなのかもしれないが、すでに社会に出た人間から見ると、現実感が薄くうつってしまう。
著者の作品は直木賞を受賞した「GO」以来であるが、「GO」のような内容の深みは感じられない。
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「将棋の子」大崎善生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
元将棋マガジン編集者の著者が何人かの棋士を目指す男たちを描いたノンフィクション。将棋界の厳しさを描く。
冒頭で一人の棋士の劇的な昇段の瞬間を描いている。奨励会というプロを目指す棋士たちのその厳しい現実に、一気にひきこまれてしまう。
将棋一筋に生きようとした彼らは、何をきっかけにこの道を進んだのか、そしてその道を進み続ける人はどうやってその後を生き、その道を諦めざるをえなかった人は今どうしているのか、何人かの奨励会にいた人たちに焦点をあてて、その子供時代、奨励会時代、そして今を描いている。どの人生も印象的で、そしてどの人生からも将棋界という世界の厳しさが感じられる。
同時に驚かされたのが、著者が本書のなかでなんども繰り返しているように、昭和57年組と呼ばれる、羽生善治のいる世代が将棋界にとってどれほど革命的だったかということである。また、コンピューターの発展によって、アマチュアからも強い人が育つようになり、将棋界は大きな変革期にあることも伺わせる。将棋界の現状を理解し、そこにさらに関心を持たせてくれる一冊である。
楽天ブックス】「将棋の子」

「Before I Go To Sleep」S J Watson

短期記憶しかもつことのできないChristineは一晩眠ると前の日の記憶を失ってしまう。だから毎日日記をつけることで前の日に起こった事がわかるようにした。彼女の毎日は、隣で眠る知らない男を夫と認識する事から始まる。
ここ数年短気記憶を扱った物語をたびたび目にする。「博士の愛した数学」「50回目のファーストキス」など、どちらかといえば、短期記憶しか持たないということを、毎日毎日を大切に生きる、ということにつなげる内容が多いように思うのだが、本書はもっとそれをミステリアスに使っている。
医者が言う事と、夫が言う事、そして自分が日記に書いている事に矛盾があるためにChrristineは悩む。そして同時に、今知った事を明日には忘れてしまうという恐怖も味わうのである。息子がいるのかいないのか、息子は生きているのか死んでいるのか、そもそも自分が記憶を失ったのは、交通事故なのか暴行をうけたからなのか。ときどき脳裏に浮かぶ記憶の断片が、少しずつChristineの過去を明らかにしていく。
もはや展開としてはどんな結末にもできる流れだったので驚きはなかったが、一つの物語の試みとしては面白い。

「ブルー・マーダー」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
池袋で暴力団などを狙った殺人事件が連続して起きる。やがてその殺人者は「ブルーマーダー」と呼ばれるようになる。
姫川玲子シリーズの第6弾にあたり長編となっている。シリーズ第4弾「インビジブルレイン」の出来事によって所轄書に移動になり、それまでの姫川班とも離れる事になった玲子(れいこ)。そこで発生した殺人事件、「ブルーマーダー」を追う事になる。
シリーズすべてに共通する事であるが、事件を解決しようとする玲子(れいこ)だけでなく、犯罪者の側からも物語が描かれている点が面白い。犯罪者には犯罪者の、そういう行動に走らなければならなかった理由があるのだ。

お前も肝を括れ。もう、法律はお前を守っちゃくれない。自分の身は自分で守るんだ。自分の力で守るんだ。その力は、俺が授けてやる。
でもさ、この憎しみや殺意は、実は、愛情の裏返しなんだって、そういうふうには、考えられないかな。自分を大切に思っているからこそ、傷つけられると、悔しいし、悲しい。誰かを大切に思ってるからこそ、その誰かが傷つけられたら、殺したいほど憎くなる。

そして事件だけでなく、警察内の人間関係も面白く描かれている。今回は特に、かつでの部下で玲子に想いを寄せていた菊田(きくた)とのやりとりにも焦点があてられている。
このシリーズは短編集と長編が交互にしばらく展開されているが、短編集の方が深みを感じる。もちろん、長編によって積み重ねられた人物設定があってこそ短編が生きるのかもしれないが。
【楽天ブックス】「ブルーマーダー」

「Sleeping Doll」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人の心を自在に操るカリスマ的犯罪者Daniel Pellが脱獄した。人間の所作や表情を読み解く「キネシクス」分析の天才でカリォルニア州捜査局捜査官のKathryn Danceがその行方を追う事となる。
Rincoln Rhymeシリーズで何度か登場したKathryn Danceを主人公に据えたシリーズの第一弾。会話する人のわずかな動作からその真偽を見抜く技術に長けているゆえに、聞き込みや取り調べでその技術が発揮される。目の動き、手足の動作など、人の感情は実はかなりの部分が表面に現れているのだ。
そうして次第にDanceはPellを追いつめていくのであるが、同時にDanceの夫を失って1人で2人の子供を育てる姿も描かれており、そんな人間らしさがRincoln Rhymeのシリーズとは違って共感できるかもしれない。
やや結末は予想のついた部分もあったが全体的に無難な出来である。ただ、Danceのもつ技術の特異性で読者を引きつけられるのはおそらく一作目だけで、2作目、3作目と続くなかでどのようにシリーズを魅力的なものにしていくのかというのが、個人的には気になるところである。

「検事の本懐」柚月裕子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
検事佐方貞人(さかたさだと)。多くの検事と違って、人の話をしっかり聞いて人を人として接しようと努める。そんな検事佐方(さかた)を描いた物語。
本書は5つの物語から構成される短編集。いずれも視点こそ違えど、佐方貞人(さかたさだと)という検事が関わる事になる。刑事の視点、佐方(さかた)の上司の視点、佐方(さかた)の学生時代の友人の視点など、多数の視点から一人の人間を見つめる事で、その人間性が見えてくる。
それは、一見ぶっきらぼうで身だしなみに気を使わない粗野な印象であるが、非常に強い正義感を持っている。物語終盤は弁護士でありながら横領をしてその資格を剥奪された佐方(さかた)の父親について明らかになっていく。佐方(さかた)のその正義感の源が見えてくるだろう。男の行き方、信念が見えてくる作品。
本書によって著者柚月裕子は一気に僕自身の要チェック作家の一人になった。その作品をすべて読んでみたいと思わせる一冊。
【楽天ブックス】「検事の本懐」

「数学ガール」 結城浩

数学の好きな「僕」と同じクラスの数学を得意とする才女ミルカさん。そして一学年下で数学を学ぶテトラちゃんの3人が数学に取り組む物語。
なぜかシリーズ第二弾の「数学ガール フェルマーの最終定理」を先に読んでしまったので、若干人間関係が前に戻っているが、タイトルから想像できるようにそれはあまり重要ではない。本作品でも、同様に数学の面白さを読者に教えてくれる。
面白かったのは、フィボナッチ数列の一般項の話。1,1,2,3,5・・・と誰もがフィボナッチ数列というのは学生時代に見聞きしたことがあるだろうが、本書ではその一般項を導きだす。そもそもフィボナッチ数列の一般項を求めるなどという発想自体なかったので楽しく読ませてもらった。
すべて完璧に理解したとは言いがたいが、複素平面なども含めて数学の楽しさを思い出させてもらった気がする。ノートを微分や積分などの式で一心不乱に埋めたい気持ちにさせてくれるが残念ながら今のところその時間がとれない。いつかしっかり本書のすべての問題を鉛筆とノートで書きながらもう一度読んでみたい。
【楽天ブックス】「数学ガール」

「家族狩り オリジナル版」天童荒太

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第9回山本周五郎賞受賞作品。
都内で起こる一課殺人事件。非行に走った少年が起こしたものと考えられていたが、同様の事件が続く事となる。刑事馬見原(まみはら)、教師巣藤俊介(すどうしゅんすけ)、児童カウンセラーの氷崎游子(ひざきゆうこ)などそれぞれの悩みを抱えた人々が事件に関わる事になる。
物語の主な登場人物たちはいずれも家族に問題を抱えている。馬見原(まみはら)は息子を失い、それによって妻は精神を病み、娘は馬見原(まみはら)を憎む事となった。俊介(しゅんすけ)は美術教師であるために問題を抱えた生徒たちの対応しなければならない。游子(ゆうこ)は過去の経験から、子供たちを救う事を使命として仕事に打ち込んでいる。そんなそれぞれの思いを順々に描きながら、物語は進んでいく。
家族のあり方、子供の育て方、年老いた両親への接し方。いずれも正解のないものだが、結果だけで周囲には判断されかねないもの。そして、家族というつながりがあるゆえに、決して逃げ出す事のできないものである。本書はまさにそんな現実に改めて目を向けさせてくれる。
そういう意味では物語の発端として起こっている残虐な事件は、人々に家族のありかたに目をむけさせるための一つの要素に過ぎない。
【楽天ブックス】「家族狩り オリジナル版」

「舟を編む」三浦しをん

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第9回本屋大賞受賞作品。
出版社につとめる馬締光也(まじめみつなり)はその名の通り真面目で、変人として通っていたが、ある日辞書編集部へと配属される。馬締(まじめ)はそこで辞書の編集に取り組む事となる。
最近でこそ調べ物はインターネットで片付いてしまうが、小学生の頃には母がプレゼントしてくれた辞書をよく使っていたのを覚えている。本書が描くのは、そんな辞書を作る側の物語である。
辞書編纂メンバーの言葉に対する取り組みに触れると、言葉についていろいろ考えさせられる。そもそも言葉は辞書によって定義されるものではなく、僕らの生活やその言葉を繰り返し使う中で人々の心のなかに共通の意識として染み付いていくものなのだ。例えば本書で分かりやすくも印象深いのが、「愛」という言葉の説明に対して議論をする場面である。

「異性を慕う気持ち。性欲を伴うこともある。恋」となっています。
なんで異性に限定するんですか。じゃあ、同性愛のひとたちが、ときに性欲を伴いつつ相手を慕い、大切だと思う気持ちは、愛ではないと言うんですか。

言葉とは時間によっても変化していくものなのだろう。編纂メンバーはそうやって一つ一つの言葉を、哲学を持って定義していく。
そして、彼らは言葉だけでなく、辞書の素材についても気を配るのである。本書の中では、紙の選び方についても触れている。辞書はページ数が多いから一枚一枚の紙は薄くなくてはならないが、薄いことによって裏の文字が見えてしまったも行けない、もちろん手触りも非常に大切なのである。
こうやって見てみると、辞書を作るというのはなんとやりがいのある仕事なのだろうか。本書を読むと、今まで考えてこなかった、一つ一つの言葉の意味、重さを改めて考えさせられる。辞書というものの見方を変えてくれる一冊。

有限の時間しか持たない人間が、広く深い言葉の海に力を合わせて漕ぎだしていく。こわいけれど、楽しい。やめたくないと思う。真理に迫るために、いつまでだってこの舟に乗りつづけていたい。

【楽天ブックス】「舟を編む」

「「アラブの春」の正体」重信メイ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2010年にチュニジアから起こったデモがアラブ諸国に大きな動きをもたらした。そんな「アラブの春」と呼ばれる出来事の実態をアラブ社会で育った著者が語る。
「アラブの春」という言葉は知りながらもその実情はほとんどの日本人は知らないだろう。もともと日本と交流の多い欧米の国々のメディアはアラブ社会での出来事についてあまり多くを報道しようとはしないし、なんといっても日本は時を同じくして東北大震災に見舞われていたのだから。
本書を読むと、そんなアラブ社会に対する偏見が見えてくる。アメリカやヨーロッパのメディアは常にアラブ諸国での出来事を、視聴者に意図した形でねじ曲げて伝えようとする。アルジャジーラでさえも物事を完全に客観的に報道してはいないのである。それはスポンサーなくしては存在し得ないメディアにおいては避けられない事なのだろう。
さて、本書ではアラブ諸国について、チュニジア、エジプト、リビアだけでなく、カタール、サウジアラビア、シリアなど多くのアラブ諸国についてその実情を語っている。本当に表面的な部分だけなので、本書だけで理解できるとは言えないだろう。それでもアラブ諸国の実情や、イスラム教などの宗派など興味を喚起させてくれる内容である。
印象的だったのは、革命後の国々の多くの人々が革命前よりも不幸になるだろうという著者の見解である。

政府を倒すまでは民衆蜂起でできるのです。リーダーが必要になるのは、政権を倒し、新しい政権を作るときです。

革命後のアラブ諸国にもしっかり目を向けていきたいと思った。

パンナム機爆破事件
パンアメリカン航空103便爆破事件(パンアメリカンこうくうひゃくさんびんばくはじけん、通称:ロッカビー事件〔ロッカビーじけん〕、パンナム機爆破事件〔パンナムきばくはじけん〕)は、1988年12月21日に発生した航空機爆破事件。(Wikipedia「パンアメリカン航空103便爆破事件」
GCC
中東・アラビア湾岸地域における地域協力機構。(Wikipedia「湾岸協力会議」

【楽天ブックス】「「アラブの春」の正体」

「さよなら渓谷」吉田修一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
幼児の殺害の容疑をかけられていた実の母親立花里美(たちばなさとみ)は隣に住む尾崎俊介(おざきしゅんすけ)との関係を示唆した。別の女性と同棲している俊介(しゅんすけ)は過去に強姦事件を起こしていたのである。
幼児殺人事件という体裁をとって物語は始まるが、その焦点は過去にその殺害事件そのものではなく、関係者の過去を洗っていたマスコミに寄って明らかになった、隣人尾崎俊介(おざきしゅんすけ)の起こした過去の集団強姦事件と、その関係者のその後の様子である。
同じ強姦事件の場にいながらも、そのことを忘れたように成功している人も入れば、それを機にその苦しみから逃れられない人もいる。同じ出来事でもそれを受け止める人に寄って、その記憶はよくもわるくも、長くも短くもなるのだろう。

ああ、この人もずっとあの夜から逃れられずにいたんだなぁって。あの夜から逃れて、自分だけが幸せになっていくことを、心のどこかで許せずにいたんだなぁって。

幸せになるというのが怖い、という行き方があることはなんとなく分かっているがなかなか、それを描いてくれる物語は少ないように思う。そういう意味では貴重で印象に残る内容である。

一緒に不幸になるって約束したんです。そう約束したから、一緒にいられたんです

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「それがぼくには楽しかったから 全世界を巻き込んだリナックス革命の真実」リーナス・トーバルズ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
リーナス・トーパルズはヘルシンキ大学在学中にOSを作り始めた。インターネット上でソースコードを公開し、ネット経由でたくさんのプログラマーの強力を得てLinuxを作り上げていった。その過程やリーナス・トーパルズの考え方などをまとめている。
そもそも「オープンソース」とは何なのか、単純に「ソースを公開する」とはいうけれど、それをどうやって管理するのか、そんな点の興味から本書に入った。残念ながらオープンソースの管理という面では、どうやら本書を読むと結構行き当たりばったりな部分が多かったようで、期待にそう内容とは言えない。しかし、本書で触れられているリーナスのプログラムに対する情熱にはとても刺激を受けた。何よりお金に執着しないで楽しみを求めるリーナスの行き方に感銘をうけるだろう。

多少なりとも生存が保証された世界では、お金は最大の原動力にはならない。人は情熱に駆り立てられたとき、最高の仕事をするものだ。

専門用語も多く残念ながらとてもすべてを理解できたとは言いがたいが、読み終わった後、久しぶりにプログラミングがしたくなる。寝る間も惜しんでパソコンの前にへばりつき、プラグラムに明け暮れる。そんな時間が恋しくなる一冊。

MINIX
1987年にオランダ・アムステルダム自由大学(蘭: Vrije Universiteit Amsterdam)の教授であるアンドリュー・タネンバウムが、オペレーティングシステム (OS) の教育用に執筆した著書 Operating Systems: Design and Implementation の中で例として開発したUnix系のオペレーティングシステム (OS) 。(Wikipedia「MINIX」
Shell
ユーザの操作を受け付けて、与えられた指示をOSの中核部分に伝えるソフトウェア。キーボードから入力された文字や、マウスのクリックなどを解釈して、対応した機能を実行するようにOSに指示を伝える。(e-words「shell」

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「ザ・コピーライティング 心の琴線にふれる言葉の法則」ジョン・ケープルズ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
コピーを書いてその効果を検証し続けた経験を著者が語る。
過去の分析の結果からどのコピーが優れた結果を残し、どうしてそれが優れているのかを多くの事例とともに解説していく。どれも納得のいくものばかりで、コピーライティングに関わる人にとってはまさに「読むべき本」と言える。

たとえ少人数でも信じてもらえるほうが、大勢から半信半疑に思われるより大事なのだ!

本書を読み進めていくと、世の中にあふれるコピーの多くが実際にはその目的を果たしていない事がわかる。例えば、商品のコピーであれば、その商品を売る事が目的であり、「このコピーはうまい!!」と言われることではないのである。
また同時に、そのような意味のないコピーが世の中にあふれる理由として、理解のないクライアントやそもそもその効果を測定すら使用としない一般的な姿勢についても語っている。後半は複数のコピーの効果の測定方法についても書かれている。
広告の主体が紙からインターネットへと移る昨今、本書で書かれている事をすべて鵜呑みにしていいというわけではないが、基本的な考えは適用できるだろう。

コピーライターがコピーを書くときには「文学性」を捨てなければならないのと同じように、アートディレクターも広告をデザインするときには「芸術性」を捨てなければならない。

本来手元に置いて繰り返し読むべき本なのだろう。
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「Shallow Graves」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
映画のロケ地を探してPellamがMartyとたどり着いたのはClearyという田舎町。しかしその街に滞在している最中に、Martyが不可解な死を遂げる。PellamはMartyの死の真相を暴こうと決意する。
田舎町で退屈な生活を送っていた人々が、都会からやってきた映画関係者のPellamが来た事で、警戒したり、期待したりする様子が描かれている。きっと、若い頃は都会に出て、何かのきっかけで田舎に戻ってきて、現状に不満をいいながらも年を取っていく。そんな流れは日本もアメリカも同じなのだろう。アメリカの文化のある一面を知るという意味では悪くないかもしれない。
Jeffery Deaverの初期の作品で、現在のRincoln Rhymeシリーズにあるようなスピード感は読者を引き込むような魅力は残念ながら感じられない。

「虹の谷の五月」船戸与一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第123回直木賞受賞作品。
フィリピン、セブ島のガルソボンガ地区に祖父と住むトシオ・マナハン13歳。ある日、日本人と結婚したクイーンと呼ばれる女性が、故郷であるガルソボンガ地区に戻ってきた。それをきっかけにトシオは内紛に巻き込まれていく。
その描写からはずいぶん昔を舞台とした物語のようにも感じるが、実際には1998年の現代を描いている。祖父とともに強い軍鶏(しゃも)を育てることに夢中になっているトシオ・マナハンが少しずつ大人になっていく様子が描かれる。
日本人とフィリピン人の間に生まれたがゆえに「ジャピーノ」と呼ばれるトシオ。そんなトシオの生活の様子から、フィリピンの田舎町での生活が見えてくるだろう。電気もなく、警察や役人は汚職に手を染め、貧富の格差によって生活が大きく異なる。そんななかで信念を持って生きる事はきっと大変な事なのだろう。
本書のタイトルにもなっている「虹の谷」はガルソボンガ地区でトシオのみが行き方を知っているという不思議な虹のできる谷のこと。しかし、トシオはそれゆえに悲劇に巻き込まれていくのである。
フィリピンの歴史についてもっと知りたくさせてくれる一冊。

浮塵子
イネの害虫となる体長5mmほどの昆虫を指す。(Wikipedia「ウンカ」
タイタン・アルム
インドネシア、スマトラ島の熱帯雨林に自生する。7年に一度2日間しか咲かない、世界最大の花。(Wikipedia「スマトラオオコンニャク」

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「一冊でわかる名画と聖書」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
旧約聖書、新約聖書に沿って、その場面場面を表した名画を紹介していく。
「最後の晩餐」「受胎告知」など、多くの絵画は宗教の一場面を描いていて、絵画を深く理解する上で、宗教への理解は避けて通れないもの。そんなニーズに応えてくれる一冊。そして同時に改めて聖書への理解も深まるだろう。
個人的には子供の頃からピーテル・ブリューゲルの「バベルの塔」には強く惹かれるものがあり、本書にもその2作品が選ばれていて改めてその絵画の背景にある物語を理解する事が出来た。
それにしても聖書がなぜこんなにも理解しにくいかというと、それはきっと同じ名前の登場人物の多さのせいなのかもしれない。ユダ、ヨハネ、マリア…。きっと長く繰り返し物語に触れる事に寄って理解していくものなのだろう。
【楽天ブックス】「一冊でわかる名画と聖書」