「Hotel on the Corner of Bitter and Sweet」Jamie Ford

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1986年、シアトルにあるホテルのオーナーが変わって長い間地下室に眠っていた物が発見される。年老いてすでに妻を亡くしたHenryの過去の辛い思い出を呼び起こす。
太平洋戦争中にシアトルに住んでいた中国人Henryと日系2世のKeikoの物語。2人は白人が多数を占める小学校に通っていたため、他の生徒からいじめられ、孤立していたために次第に仲良くなっていく。
Henryの父は中国からアメリカに渡ってきたため、Henryには中国語を話す事を禁じ、アメリカ人として育つ事を求める。同時に戦争によって日本人を忌み嫌うのである。Keikoは日本人の容姿を持ちながらもアメリカで生まれ育ったために国籍はアメリカ人で英語しか話す事ができない。そんな2人の社会と自らの個性の間で悩む姿が物語のなかから感じられる。
やがて太平洋戦争は激化し、迫害やスパイとしての活動を懸念したアメリカ政府は、日本人街から日本人は内陸部の場所へ移動を命じ、KeikoとHenryは合う事さえ困難になっていく。

Henry!君は希望をくれたんだ。希望さえあればどんな困難でも乗り越えられる。

本作品はフィクションであるが、あの戦時中の混乱のなか、おそらく似たような出来事はあったのだろう。歴史の本では決して語られないが、戦争という人間の起こす愚行によってもたらされる不幸な側面に目を向けさせてくれる。

「64」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
2012年このミステリーがすごい!国内編第1位作品。

未解決に終わった少女誘拐殺人事件。警察庁長官の遺族への訪問を前に刑事部、警務部に不穏な動きが起こり始める。

三上義信(みかみよしのぶ)は広報官という役職で、それは警察の花形である刑事とは異なりむしろ刑事から忌み嫌われる存在。元々は刑事として誘拐事件に関わった事もあり、刑事に戻りたいという想いを抱えながら広報官という仕事を努めている。そして、さらに娘のあゆみが行方をくらましているという家庭事情も抱えているのである。そんな厚い人物設定がすでに横山秀夫らしく期待させてくれる。

物語は警察庁長官がすでに14年もの間未解決状態にある少女誘拐殺人事件の遺族のもとを訪れるという、世間向けの警察アピールを意図する事から動き出す。どうやらその誘拐事件の影には隠蔽された警察の不手際があったらしいという事実が浮かんでくる。

隠蔽された事実を巡って、組織内の権力争いが激化する。刑事部と警務部、地方と東京、あらゆる側面で対立が起こり、利害を一致する者同士が一時的に協力し、そしてまた敵対する。また、広報官役割である故にマスコミ対策についても描かれる。報道協定や、各メディアのあり方についても考えさせられるだろう。
深く分厚い印象的な物語。世界のどこを切り取ってもその場所にはその場所の人の深いドラマがある。そう感じさせてくれる作品。
【楽天ブックス】「64」

「ホテルローヤル」桜木紫乃

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第149回直木賞受賞作品。
田舎町の寂れたラブホテル「ホテルローヤル」を描いた物語。ホテルの利用者や従業員、そこに出入りする業者など、時代を前後しながら人々の様子を描く。
最近こういう青春時代を過ぎてすでに生き甲斐もなくただ時を重ねるだけの疲れきった人々を描いた作品によく出会う気がする。残念ながら僕にはとくに印象に残る物はなかったが、直木賞受賞作品という事なので、ひょっとしたらもっと上の世代に読者には何か強く訴えるものがあるのかもしれない。
【楽天ブックス】「ホテルローヤル」

「ケルベロスの肖像」海堂尊

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
東城大学病院に脅迫状が送られてきた。AIセンターのセンター長となった田口(たぐち)はその犯人を突き止める任務を与えられる。
「チーム・バチスタの栄光」に始まるシリーズの完結編である。「ブラックペアン1988」などの過去の物語や「螺鈿迷宮」などの東城大学病院以外の物語が絡み合って物語が完結に向かう。
シリーズの他の作品と同じように、本作品も物語のなかに現代の日本の医療の問題点が描かれている。司法解剖と遺体を傷つけないAIの有用性はシリーズを通して著者が訴え続けている事の1つであるが、本作品ではエピソード自体へ重みがかかっているように感じる。
過去の登場人物やエピソードが何度も言及されるので、残念ながら過去の作品に馴染みのない方にはあまり楽しめそうにない内容である。本作品がシリーズの完結編という事で、シリーズ通じて活躍した厚生労働省の役人白鳥(しらとり)やロジカルモンスター彦根(ひこね)の爽快な展開が見られなくなるのが残念である。
【楽天ブックス】「ケルベロスの肖像」

「続・翻訳の基本 素直な訳文の作り方」 宮脇孝雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
前作「翻訳の基本」に続いて、本書でも翻訳家である著者の過去の経験から、興味深い誤訳や翻訳者の注意すべき事について語る。
本書を読んだからといって翻訳の技術があがるというものでもなく、むしろ翻訳という物の難しさを感じる事だろう。
すべての言語について言える事だが、1つの言葉が複数の意味を持っている物があり、それは前後の文脈から判断するしかないのだ。また、各国の文化に精通している事も必要で、海外の生活を描いた原書を、日本の感覚で翻訳して誤訳となった例も紹介している。
翻訳の奥深さを感じさせてくれる一冊である。
【楽天ブックス】「続・翻訳の基本 素直な訳文の作り方」

「Best Kept Secret」Jeffrey Archer

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
世間の注目を集めた相続争いが一段落して、と妻Emmaそしてその兄のGilesは元の生活に戻る。
「Time Will Tell」に始まるHarry Cliftonシリーズの第3弾。それぞれの登場人物のその後が様子が描かれる。結婚したGilesは結婚し選挙運動に努める。EmmaとHarryは息子のSebastianを育てながらEmmaはビジネスを、Harryは作家として成功しようとする。Gilesの夫婦間の問題や、HarryとEmmaの養子縁組などそれぞれ悩み事が尽きない。
それでも本作品ではむしろ息子のSebastianの成長が中心となっているようだ。物語の後半は、まさにそSebastianが中心となっていく。不自由なく育ったせいか次第にその破天荒な振る舞いが問題になり、やがて犯罪へと巻き込まれていく。
それぞれの主要な登場人物たちは相変わらず魅力的ではあるが、残念ながら物語が分岐しすぎてしまったせいか、小さな諍いなど日常的な問題の寄せ集めになってしまって、「Time Will Tell」や「Sins of Father」で見られたような感動するようなエピソードに乏しい印象を受けた。

「スリジエセンター1991」 海堂尊

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東城医大へ赴任した天才外科医天城雪彦(あまぎゆきひこ)は常識はずれな行動で注目を浴びる。それに対抗しようとする未来の病院長高階(たかしな)や佐伯(さえき)病院長など病院内の権力争いは熾烈をきわめていく。
「ブラックペアン1988」「ブレイズメス1990」に続くチームバチスタの10年以上前を描いた物語。「チームバチスタの栄光」など現代のシリーズの方を読んでいる読者は、高階(たかしな)は病院長になるはずだし、本書では生意気な新人の速水(はやみ)は天才外科医になるということを知っているから、きっと物語とあわせてその関連性を楽しむ事ができるだろう。
本書では高階(たかしな)、佐伯(さえき)、天城(あまぎ)など、それぞれの思惑で病院内の主導権を握ろうとする。ただ単純に多くの支持を集めるために医療のあるべき姿を語るだけでなく、それぞれが状況に応じて手を組んだり裏切ったりしながら地位を固めようとする様子が面白い。
医療はすべての人に平等であるべき、という高階(たかしな)や看護婦たちの語る内容も正しいと思うが、一方で天城(あまぎ)の主張するように、お金がなければ高い技術の医療は提供できないという意見にもうなずける。そこに正しい答えはないのだ。その時の世間の意識が医療の形を変えていくのだろう。

患者を治すため、力を発揮できる環境を整えようとしただけなのに関係ない連中が罵り、謗り、私を舞台から引きずり下ろそうとする。

【楽天ブックス】「スリジエセンター1991」

「プロジェクトマネジメント 実践編」中憲治

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
仕事で関わるプロジェクトが少しずつ大きくなってきたために、どうすればプロジェクトというのは巧く進められるのかを考えるようになった。そんな中、PMBOKという言葉に出会った。
本作品はPMBOKの考え方の基本的な部分を説明している。PMBOKの考え方をすべて説明しようとすると何冊もの本になるというが、本書はそのほんのさわりの部分だけである。しかし普段プロジェクト管理について考える事が少ない人にとっては十分の内容である。クリティカル・パス、ガントチャート、マイルストーンなど普段何気なく使っていてわかったようになっている言葉も、本書によってより深くその背景と重要性が理解できるだろう。
年齢を重ねるに従って人は作業者から管理者へと変わっていく。そんな過程で常に手元に置いておきたい一冊。
【楽天ブックス】「プロジェクトマネジメント 実践編」

「Web文章上達ハンドブック」森屋義男

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
Webコンテンツの文章をよりよくしていくための方法を語る。
「てにをは」や「である調」「ですます調」など基本的なライティングの考え方は特に新しくもなかったが、むしろライティングという全体の作業を、ディレクター、ライター、エディターという3つの視点から捉えている点が新しい。つまり、通常では少なくとも3人の人間が文章を作成するうえで必要で、世の中の人が思っているほどライティングも簡単な作業ではないという事なのだ。
全体として視点としては悪くないものの、ページ数が少ないため浅い内容で終わってしまっている。値段を考慮するとあまり満足できるものではないだろう。
【楽天ブックス】「Web文章上達ハンドブック」

「あなたが愛した記憶」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
幼い子供を殺害した曽根崎(そねざき)は周囲からの信頼も厚い男だった。彼の動機はなんだったのか。
実はこういう物語の始まり方には何度かであった事がある気がする。有名なところだと横山秀夫の「半落ち」もそのような内容ではなかっただろうか。本作品もきっと人には理解されない正義を物語を通じて描いていくのだろう、と思ったし、多くの読者もそう思うのではないだろうか。しかし、その予想は意外な方向に外れていく。
物語は最初の弁護士と曽根崎(そねざき)とのやり取りから一転、その後は曽根崎(そねざき)目線のおそらく数ヶ月前の物語になる。探偵業を営む曽根崎(そねざき)のもとに、自らを曽根崎の娘と名乗る女子高生民代(たみよ)が訪れるのだ。
同じ時期に女性を狙った連続強姦殺人事件が起きているが、どうやら民代(たみよ)はその犯人に心当たりがあるらしい。一体どうしてそれを知っているのか、そもそも女子高生のわりにやけに大人びた民代(たみよ)はどんな秘密を抱えているのか。
相変わらず誉田哲也の物語は読者を一気に引き込む力がある。久しぶりの一気読みの一冊。
【楽天ブックス】「あなたが愛した記憶」

「だから御社のWebは二度と読む気がしない」戸田覚

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インターネットというものが人々の生活に入り込んですでに10年以上が経過している。印刷物と異なるのは企業が頻繁にサイト上の情報を更新できるというものだ。いつでも変更できるという意識があるからだろうか、多くの企業はウェブサイト上に書かれる文言には、印刷物に書かれる文言ほどコストも時間もかけていないのである。
本書は企業がサイト上の文言を考える上で注意するべきことを、大手企業サイトの悪例を参考にしながら語る。

世の中は、読んでも内容のわからないWebページであふれ返っている。まともな感覚で読めない文章をどういう考えで公開しているのか、理解に苦しむ。

個人的に現在のインターネット事情に感じることと著者の言う事がぴったりだったので興味深く読む事ができた。また、現場での作業に活かせそうな内容にもいくつか出会うことができた。

原則的に見出しは16文字程度に収めるのがベストなのだ。

本書が発行されたのがすでに6年が経っているが、世の中にあふれるサイトは相変わらず読みにくいものばかりである。制作に関わる企業はもっとライティングの重要性を理解するべきなのだろう。
ライティングの重要性を語りながらも本書中にかなりの脱字があったことはやや気になったが特に内容に影響する物でもない。著者が行っているというライティングのセミナーも参加してみたくなった。
【楽天ブックス】「だから御社のWebは二度と読む気がしない」

「あかんべえ」宮部みゆき 

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
生死の境を乗り得たおりんにはなぜか幽霊が見えるようになる。両親が開いた料理屋「ふね屋」に住み着く5人の幽霊。同い年の女の子お梅、美男子の玄之介(げんのすけ)、色っぽいおみつなど、彼らはなぜこの家に住み着いているのか、そしてなぜおりんにだけ5人全員が見えるのか。
江戸の時代を描きながら幽霊という存在を巧みに使って面白おかしく当時の人々の人間関係を描く。なんとも宮部みゆきらしい作品。本作品を面白くさせているのはそんな5人の幽霊たちだけじゃなく、純粋で真っすぐなおりんの言動だろう。

なによ、あの言いっぷりは!あんな意地悪なこと言うのなら、さっさと出ていってくれればいいのに!そうよ、あたしたちがこんなに苦労しているのは、みんなお化けさんたちのせいじゃないの!

きっと本当は誰もが心のうちを素直に表に出して、心の赴くままに行動したいのだろう。しかし、実際には大人になるに従ってそれは難しくなっていく。だからこそおりんに魅力を感じるのである。
そして次第に幽霊たちがその家に住み着いている理由が明らかになっていく。

どうしてあなたはお父とお母に大事にされて、どうしてあたしはお父に殺められて、井戸にいなくちゃならなかった?

産まれた場所や両親など、人にはどんなに強い意志を持とうと選べない物があり、それに翻弄されてしまう人生もまたあることを改めて認識させられる。
【楽天ブックス】「あかんべえ(上)」「あかんべえ(下)」

「海賊とよばれた男」百田尚樹

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は社員は家族という信念を持って戦後の混乱期を乗り越えていく。
読み始めるまで知らなかったのだが、この物語は出光興産の創業者・出光佐三をモデルにして書かれている。石炭から石油へとエネルギーが移行していく時代にいち早く石油に目をつけて自ら会社を起こし、時代の流れにのって大きくなっていくのだ。
本書で描かれている出来事はフィクションの体裁をとってはいるが、いずれも実際に起こった出来事を描いている。そんな数ある出来事のなかでも、なんといってもイギリスの脅威のなかイランに向かった大型タンカー日章丸のエピソードは、単に「面白い」という言葉では説明しきれない。信念と誇りをもって物事に立ち向かうことの素晴らしさと尊さを改めて感じるだろう。

辛かった日々は、すべて、この日の喜びのためにあったのだ。

「信念」とか「誇り」という言葉は、戦争などの争乱の時代にしか語られないような印象があるが、そんなことはない、日々の仕事に大してもそんな心を忘れずに常に全力で立ち向かった人がいるのである。
僕らはなぜこんな偉大な出来事をもっと語りついでいかないのだろうか。本書を読めばきっとみんなそう感じるだろう。著者百田尚樹がこの物語を書かなければいけないと思った理由は読者には間違いなく伝わるだろう。

【楽天ブックス】「海賊とよばれた男(上)」「海賊とよばれた男(下)」

「Catching Fire」Suzanne Collins

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハンガーゲームを勝利したKatinissとPeetaは勝利のパレードに忙殺される。しかし二人がハンガーゲームでとった行動はハンガーゲームの主催者である「首都」の反感を買っており、またその行動は各地にすこしずつ支配下におかれた12の地域に反乱の空気をもたらしていく。
映画化もされた「Hunger Game」の続編である。前作は残念ながらバトルロワイヤルの焼き直しのような、陳腐な物語に過ぎないが、本作品はむしろ体制に対する人々の団結と戦いの物語になっている。前作では存在感のなかった脇役にすぎなかった登場人物たちが、本作品ではハンガーゲームという残酷なイベントによって若い人々の命を玩ぶ「首都」に対して少しずつ疑問を感じ、それを行動に移していくのである。しかしそれでも「首都」の持つ力は絶対で、KatnissとPeetaは再びハンガーゲームに導かれていくのである。
前半はやや物語はゆっくりと進む。個人的にはむしろ、後半のハンガーゲームのシーンよりもそれ以前のハンガーゲームが決まってからの人々の勇敢な行動が印象的だった。
そして物語は続編へと委ねられる。続きも読まなければならないようだ。

「小暮写真館」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校生の花菱英一(はなびしえいいち)の父親が引っ越し先として選んだのは、元写真屋さん「小暮写真館」の建物。ある女子高生が「小暮写真館」で撮ったとされる心霊写真を持ち込んでくる。
「小暮写真館」という看板のかかったままの家に住む事になったため、英一(えいいち)のもとには、心霊写真が持ち込まれ、それを基にいろんな形の人間関係やそれぞれの心のうちを描かれる。高校生ゆえに、同じ高校の登場人物たちも個性豊かで気楽に読み勧められるなかに、心に刺さる内容があるのが非常に巧い。

人は語りたがる。秘密を。重荷を。
いつでもいいというわけではない。誰でもいいというわけではない。時と相手を選ばない秘密は秘密ではないからだ。
僕を責めたりなんかしない。まず第一に自分の浅はかさを責めるだろう。そういう人なんだ。僕はよく知ってた。知りすぎるくらい知ってた
泣かせようなんて、これっぽっちも思わないんだよ。幸せにしようって、いつも本気で思ってるんだよ。だけどね、何でか泣かせちゃうことがあるんだ。

そして花菱(はなびし)家も複雑な事情を抱えている。現在は英一(えいいち)とその8歳年下の光(ひかる)との2人兄弟だが、7年前に妹の風子(ふうこ)が亡くなっているのである。そして常に家族の頭にはその亡くなった妹の存在が残っているのだ。物語が終盤に差し掛かるに連れて英一(えいいち)の向き合うものは、亡くなった妹を含めた自分自身の家族や友人との人間関係になっていく。
手に取った瞬間に挫けそうになるような分厚い本だが、読む価値ありである。
【楽天ブックス】「小暮写眞館」

「ヤバい経済学」スティーブン・D・レヴィット/スティーブン・J・ダブナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1990年代の後半のアメリカ。誰もが犯罪の増加を予想する中、殺人率は5年間で50%以上も減少した。多くの人がその理由を語り始めたという。銃規制、好景気、取り締まりなど、しかしどれも直接的な理由ではない。犯罪が激減した理由はその20年以上前のあるできごとにあったのだ。
わずか数ページで心を引きつけられた。経済学と聞くと、どこか退屈な数学と経済の話のように感じるかもしれないが本書で書かれているのはいずれも身近で興味深い話ばかりである。大相撲の八百長はなぜ起こるのか。なぜギャングは麻薬を売るのか。子供の名前はどうやって決まるのか。こんな興味深い内容を、数値やインセンティブの考え方を用いて、今までになかった視点で説明する。
個人的には冒頭のアメリカの犯罪率の話だけでなく、お金を渡したら献血が減った話や、保育園で迎えにくる母親の遅刻に罰金を与えたらなぜか遅刻が増えた話などが印象的だった。お金を使って物事を重い通りに運びたいならそこで与えるお金の量は常に意識しなければならないのだろう。
なんだか世の中の仕組みが今まで以上に見えてくるような気にさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「ヤバい経済学」

「Angel’s Game」Carlos Ruiz Zafon

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
20世紀初頭のスペイン、バルセロナ。David Martínは作家になるための道を歩んでいく。そんなある日、宗教を作って欲しいという依頼を受ける。
前半はMartínの作家になっていくなかで、友人であり保護者であるPedro、Martínが想いを寄せるCristina、Martínに憧れて作家を目指すIsabellaなど、読み進めていくうちにMartínの周囲にある温かい人間関係が見えてくる。そんななかMartínは宗教を創って欲しいという依頼を破格の値段で受けるとともに、周囲に不思議な出来事が起きるようになるのである。そして時期を同じくしてMartínが住んでいる古い家の部屋の中で、前の住人の持ち物にその依頼人の名前を発見するのである。
依頼人の目的は何なのか。この家には誰が住んでいたのか、そして彼には一体何が起こったのか。そんな彼の行動はさらに多くの困難を招く事にになるのである。
何よりも物語全体がつくりあげるバルセロナの当時の雰囲気がすばらしい。また、同著者の別の作品「Shadow of the Wind」にも登場した「忘れられた本の墓場」も登場し、Martínの友人として本屋の店主とその息子が描かれており、本という物の存在に対する著者の愛情がひしひしと伝わってくる。
しかし、残念ながら多くの謎を残したまま本書は終了し、今後続くであろう続編にその解決を委ねる事となっている。本書だけですべてを評価する事はできないが、ややミステリアスで超自然的な内容を含んでいるため「Shadow of the Wind」のような心地よい読後感や雰囲気を味わおうとしていると裏切られるだろう。
とはいえ次回作は読まなければならないだろう。

「心を動かすリーダーシップ」鈴木義幸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
一親から会社を引き継いだ社長を例にとって、社長のあるべき姿を描く。
大きな組織を動かそうとするとき、そこには様々な障害が予想される。企業にとってもっとも厄介なのは、社員が社長の意図した通りに動いてくれない事なのだろう。
本書では、これからの時代は社員一人一人の想像力を生かす経営を行う必要があるという。そして、そんな社員それぞれが自ら考えて行動するような企業を創るために、社長がするべきこと、とるべき態度を対話形式で説明している。必ずしも企業の社長だけでなく、部下に指示を出す立場の人にとっては役に立つであろう内容ばかりである。

チーダーといえども、時にはミスを犯す。
そのとき率直に謝ることで、かえって部下やメンバーの信頼とやる気を獲得することができる

タイトルを読むと何か古くさいリーダー像を押し付けられるのではないか、といった不安とともに読み始めたが、いい方向に裏切ってくれた。
【楽天ブックス】「心を動かすリーダーシップ」

「奇跡の脳」ジル・ボルト・テイラー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
脳解剖学者である著者が、脳卒中を経験しそこから回復する過程を、その脳解剖学者という視点で振り返る。
脳卒中というと、どちらかというと不幸な病気と言う印象を持っていたが、本書で著者が描くその体験はむしろ恍惚とした幸福な体験として描かれている。母親のジジと辛抱強く協力して、脳卒中によって失った脳の機能を回復していく様子に、脳の未知の力を感じてしまう。また、合わせて思うように話したり行動できない脳卒中患者に対する考え方も改めてくれる。
後半はやや宗教的とも聞こえるような、著者の脳卒中体験が基になった感覚的な説明だったため理解しにくいと感じたが、全体としては脳卒中や脳に対して興味を抱かせてくれた。
【楽天ブックス】「奇跡の脳」

「ウェブで学ぶ オープンエデュケーションと知の革命」梅田望夫/飯吉透 

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現在アメリカを中心に教育機関がインターネット上で高品質な授業を無料で受けられる仕組みが整いつつある。その背景と現状、問題点を語る
1年ほど前にカーンアカデミーの取り組みを知ってオープンエデュケーションに非常に興味を持った。本書は手にとったのもそんな理由からだ。
面白いのはその発端となった出来事である。最初、アメリカの各大学は、利益を見込んでオンライン上で授業を公開しようとしたのだが、あまり収益があがらないと気付き各大学が撤退するなか、マサチューセッツ工科大学が「であればいっその事無料で公開しよう」となったというのだ。これはまさに日本では起こりえない発想なのだろう。そして、そんな流れは、iTunesやYoutubeなどさまざまなインターネットやIT技術の発展によって加速する事になったのだ。
CourseraやEdX、Udacityといった様々なオープンエデュケーションフォーマットについて語るとともに今後の課題についても語っている。
そんな中でも興味ひいたのは大学などの教育機関が持つ「強制力」の話。誰もが無料で勉強できるようになったかといってすべてが解決する訳ではないというのだ。つまり、宿題をやってこなければ怒る先生がいて、落ちこぼれになったら馬鹿にする嫌な生徒がいて、ある程度の点を試験でとらなければ落第するシステムがある。そういうシステムがあって初めて勉強を全う出来る人が世の中の大部分だと言うのである。オープンエデュケーションの今後の課題は、無料であるなかでどうやってその強制力をつけるか、ということなのだ。
とても勉強したくさせてくれる一冊。そして、改めて今後のオープンエデュケーションの流れを考えると、英語ができない日本人のハンデは世界との知識の格差を広げていくだろうと実感させられた。
【楽天ブックス】「ウェブで学ぶ オープンエデュケーションと知の革命」