「ゆえに、警官は見護る」日明恩

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
都内で自動車のタイヤの中で死体を焼く事件が連続して起こる。新宿署の留置管理課の武本(たけもと)と、警視庁の潮崎(しおざき)警視はそれぞれの立場から事件解決に関わる。

それでも、警官は微笑う」に始まるシリーズ第四弾である。今回は潮崎警視と武本の直接の絡みは少ない。連続殺人事件の捜査本部に潮崎警視が参加し、その捜査本部のできた新宿署の留置管理課に武本が勤務しており、そのわずかな接点が物語解決の糸口となっていくのである。

潮崎警視の監視役として抜擢された、正木星里花(まさきせりか)巡査と同じく監視役として選ばれた宇佐見(うさみ)巡査部長の存在が物語を面白くしている。警察という指揮系統を重んじる組織の中で自由に行動する潮崎と宇佐見(うさみ)の言動に振り回され辟易しながらも、正義感と事件解決に貢献したいという情熱を持って行動する様子が面白い。

また、武本が終始、留置管理課勤務ということから、留置場の勤務の様子や規則が描かれる。自殺防止の観点から、ふとんのかけかたや使うボールペンまで決められているというのは本書を読んで初めて知った。

潮崎(しおざき)、正木(まさき)、宇佐見(うさみ)が、監視カメラのチェックという退屈な作業に取り組む中で少しずつ真相に近づいていく。そしてその過程で3人の間で繰り返し様々な様々な会話がされる。それぞれの異なる視点からの警察や事件や人生に対する意見が興味深い。もっとも印象的だったのは、潮崎と宇佐見(うさみ)の言葉である。

「武本先輩も宇佐見くんと同じで、物差しが一つなんです。だからぶれない。まあ、二人とも、さぞかし生きづらいなだろうと思いますが」
「同じ物なのに、そのつど違う物差しで測っていたら、正確な長さがわかるはずもない。」

今回も自由な潮崎の自由な発想と、武本(たけもと)の職務に実直な姿勢が詰まっていて、改めてぶれない生き方の格好よさを感じさせてくれる。

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「すべては「前向き質問」でうまくいく」マリリーG・アダムス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
クエスチョンシンキングという考え方について、仕事に行き詰まったベンの体験を元に説明する。

会社を辞めようと思っていたベンは上司のアレクサの助言で、クエスチョンシンキングのコーチであるジョセフと出会う。ジョセフとの会話のなかで少しずつベンがクエスチョンシンキングを理解する様子が描かれる。

クエスチョンシンキングでは「批判する人」と「学ぶ人」の2つに分けていて、批判する人の典型的な問いかけを次のように挙げている。

  • だれのせいだろう?
  • 私のなにがいけないのだろう?
  • どうしてこんなに失敗ばかりするのだろう?
  • どうして負けてしまうのだろう?
  • どうすれば自分が正しいと証明できるだろう?
  • どうすれば主導権を握れるだろう?
  • どうして彼らはあんなん無知で人をいらいらさせるのだろう?
  • どうしてこんな最悪のチームから逃れられないのだろう?
  • どうしてくよくよするのだろう?

それに対して、「学ぶ人」の問いかけは次の12の質問である。

  • 私はなにを望んでいるのだろう?
  • 私はどんな選択ができるのだろう?
  • 私はどんな思い込みをしているのだろう?
  • 私はなにに対して責任をもてばいい?
  • ほかにどんな考え方ができるだろう?
  • 相手はなにを考え、なにを感じ、なにを必要とし、なにを望んでいるのだろう?
  • 私はなにを見落としているのか、あるいは避けているのだろう?
  • 私はこの人(状況、失敗、成功)からなにを学べるだろう?
  • (私自身に・相手に)どんな質問をすればいい?
  • どんな行動をとることがもっとも論理歴だろうか?
  • これをどうすればWin-Winに変えられるだろうか?
  • なにが可能だろうか?

物語視点で伝えてくれるのでわかりやすい。また人間なら「批判する人」に陥ってしまうのは自然なのことだと言っている点も面白い。重要なのは「批判のする人」になっていることに気づくことで、気づくことさえできれば「学ぶ人」になることは難しくないという。

内容自体は、選択理論7つの習慣の「主体的である」Four AgreementsのDont’t Take Anything Personalとそれほど変わらない。しかし、表現を変えると響き方も変わるもので、2つに分けるというシンプルな構図がわかりやすい。マイナスな方向に向かってしまう人にはこんな説明の仕方もいいな、と感じた。

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「Moonflower Murders」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Crete島でホテルを経営していたSusan Ryelandの元に夫婦が訪れ、失踪した娘の搜索を依頼する。編集者時代にSusanが担当していた作家Alan Conwayが遺した物語にその真実のヒントが隠されているという。

前作「Magpie Murders」に引き続き、亡くなった悪戯好きの作家Alan Conwayに振り回されるSusanの様子を描いている。8年前に起こったホテルでの殺人事件の後、Alan Conwayはホテルを訪れ、関係者に話を聞いた後「やつらは間違った男を捕まえた」と言っていたという。そして、その後の著作「Atticus Pund Takee the Case」のなかでは、明らかにホテルの従業員をモデルにしたという登場人物が多数登場するのである。そして、今回ホテル経営者の娘Cecilyが「犯人はここに書いてあった」という言葉を遺して失踪したのである。Susanは夫のAndreaとの関係や、Crete島でのホテル営業に疲れたこともあって、巨額の報酬を約束された依頼に飛びつくのである。

今回もSusanの解決するCecilyの失踪事件と、Alan Conway著書のAtticus Pundの事件解決が含まれており2重に物語を楽しめる。さすがに、二作品目となると「Magpie Murder」ほどのインパクトは感じなかったが、このシリーズは毎回この、Susanが亡くなったAlan Conwayの遺した本に振り回されるというスタイルをとっていくのだろうか、と続編の展開が楽しみになった。

「歪んだ波紋」塩田武士

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第40回吉川英治文学新人賞受賞作品。報道にかかわる5つの物語。

短編集となっているが、いずれも報道で長く働く人物の視点で描く。5つの物語はいずれも世界としてはつながっており、また登場人物も視点が異なるだけで共通している。新聞や報道番組などの古いメディアが、インターネットの発展に伴い少しずつ存在意義を失いつつあるなか、生き残りをかけようとする様子が見えてくる。そして、そんな生き残りをかけようとするなかで、報道としての視聴率、発行部数、ページビューなどの数字を稼ごうとする人々と、人間としての良心、報道としての社会的存在意義やモラルとの間で揺れ動く人々を描いている。

本書はそんななか虚報と呼ばれるフェイクニュースが大きなてーまとなっていく。本来フェイクニュースと誤った情報を報道する誤報とは分けて考えられるが、話題性や視聴率を求める報道の人間のモラルや考え方によって、その境界に踏み込んでいく様子が描かれ、その一方で、視聴者の側も、物語の信憑性や真実ではなく、表面的な面白さを求めるゆえに、表面的な報道に振り回されるという問題も見えてくる。

最新のニュースに振り回されることの無意味さを改めて感じた。もちろん自分の人生にどれだけ緊急性を伴って影響するかによるが、新しい出来事について知るなら、誇張や虚偽や不確かな情報が混じる最新のニュースよりも、真偽や背景や善悪を考慮してまとめ、責任の所在も明らかな発生から数週間から数ヶ月後の書籍に触れるのが一番なのではないかと感じた。改めて報道の存在意義、そしてそれに触れる一般の視聴者としての姿勢を考えさせられる一冊である。

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「鴨川ホルモー」万城目学

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
京都大学に入学した安倍(あべ)は新歓コンパで同じ新入生の女性に惹かれて京大青龍会という怪しいサークルに入会する。2年に1度しか新入生を受け入れないという不思議なサークルの秘密が少しずつ明らかになっていく。

鹿男あをによし」から連続して著者万城目学の世界に浸ることとなった。今回も舞台は関西で京都である。日本の歴史に深く関連づけられた物語のように見えながらも、破天荒な世界に引き摺り込む、というのが万城目学の世界の共通点らしい。

サークルの真実の姿を知った安倍(あべ)はやがて好奇心から鴨川ホルモーへと参加することとなる。新歓コンパで一目惚れした早良京子(さわらきょうこ)との恋愛や、同じ京大青龍会の1年生でありながら中の相容れない芦屋(あしや)との諍いなどもありながら決戦へと向かうのである。

面白くないこともないことはないし、どこかほっこりしたりにやけてしまうというのも否定できない。しかし、僕自身は読書という行為に、物語の面白さだけではなく知的好奇心も期待しているのである。そういう意味では、万城目学作品は日本の歴史に基づいているような気配を漂わせながら実はほとんど関係ない、という展開になることが多いようで、微妙にがっかりさせられるという印象である。

少なくとも万城目学作品は連続して読むものではないなと感じた。

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「ヘヴン」川上未映子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
毎日のいじめに悩んでいた14歳の「僕」の元に、女子生徒の中でいじめられていたコジマから手紙が届き、互いの思いを話すようになる。

クラスのなかでいじめの対象となっていた女子のコジマと男子の「僕」が少しずつ近づいて行く様子を描く。

正直物語の大部分は、「僕」のいじめられる様子と、コジマと「僕」の会話や手紙によるやり取りで進むため、明るい部分はほとんどない。

印象に残ったのは、後半の「僕」が勇気を出していじめの集団の一人の百瀬(ももせ)に話しかけるシーンである。自分をいじめることの無意味さを伝えていじめを止めるように訴えるのだが、百瀬もそれに対して自らの考えを伝える。

自分がされたらいやなことからは、自分で身を守ればいいんじゃないか。単純なことじゃないか。ほんとはわかってるんだろうけどさ、『自分がされたらいやなことは、他人にしてはいけません』、っていうのはあれ、インチキだよ。

本来悪者という扱いを受けるであろういじめっ子の一人、百瀬(ももせ)に多くを語らせているのは、いじめに対しての社会の姿勢に疑問を投げかけのように感じた。

実際、「いじめは正しくない」「自分が嫌なことは人にするな」といくら諭し続けてもいじめがなくならないのが現実である。すべて正しいとは思わないし、もちろんいじめられている側が悪いと断ずるつもりもないが、一つの考えとしては理解できると感じた。本書が注目を集めたのも、いじめる側の意見をしっかり描くことが少ないからだろう。

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「The Seven Moons of Maali Almeida」Shehan Karunatilaka

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2022年ブッカー賞受賞作品。生死の間の世界にいたフリーの写真家のMaali Almeidaは限られた時間で、重要な写真のありかを生きている友人たちに託そうとする。

スリランカを舞台としている点が新鮮である。死の直前の一部の記憶を失って、生死の世界を彷徨うMaali Almeidaは、生きている人間に言葉を伝える手段があると知る。その力を使って、同じアパートに住んでいたJakiとDDに、写真家として撮り溜めて、スリランカ政府や軍隊に大きな衝撃を与える可能性のある写真のありかを伝えようとするのである。

そんな生死に間を彷徨うAlmeidaの視点や、世の中の不公平や無慈悲に嘆く人々の心から内戦の続くスリランカの実情が見えてくる。

All religions keeps the poor docile and the rich in the their castles. Even American slaves knelt before a God that looked away from lynchings.
宗教はみんな貧しいものを従順に、金持ちを仲間にする。アメリカの奴隷たちだって、リンチからは目を逸らす神の前にひざまづくんだ。

諦めて自ら死を選んだり、違う国に新しい人生を見つけに旅立つ人もいる一方で、希望を持ち続け不正と闘おうとするひともいるのである。

The universe does have a self-correcting mechanism. But it's not God of Shiva or karma. It's us.
世界には自ら修正する機能が備わっている。でもそれは神でもシヴァでもカルマでもなく私たち人間なのです。
'Laws are written by men.' you say. 'Who don't mind bad things happening to people who aren't them.'
法律ってのは男によって作られたんだ、つまり自分以外の人間に何があろうと気にしない人間によって作られたということさ。

スリランカの地名が多数登場するだけでなく、Almeida自身が、生と死の間を生きているために、宗教上の生き物と思われる名前が多数登場する。

26年間で7万人以上の犠牲者を出したシンハラ人とタミル人の対立という内戦の実情を本書を読んで初めて知り、スリランカという国に興味を持った。また、スリランカと同じ時期に独立した、フィリピンなどこの時期に独立した国々はどこも、イギリスやアメリカなどの大きな国々の利益や思惑に大きく影響を受けており、複雑な利害関係のなかで翻弄されているのだと感じた。

物語自体にそこまで面白さを感じないが、普段目を向けない宗教と国に目を向けてくれる作品である。

  • LTTE
    「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE:Liberation Tigers of Tamil Eelam)
  • Mahakali
    ヒンズー教の女神。
  • Moratuwa
    スリランカの南西海岸の都市。
  • Jaffina
    スリランカの12番目に大きな都市。
  • Richard de Zoysa
    スリランカの著名なジャーナリストで1990年に拉致されて殺害された。スリランカ政府に繋がりのある殺人部隊に殺害されたとRichard de Zoysa信じられている。
  • Borella Kanatte
    スリランカの都市コロンボにある埋葬地。
  • Malvinas
    英語でフォークアイランド諸島のことで、スペイン語ではマルビナス諸島と呼ぶ。

「錨を上げよ」百田尚樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大阪に生まれ育った又三(またぞう)の破天荒な人生を描く。

物語は小学生時代から順を追って、高校生、社会人、大学生、また社会人とその定まらない又三(またぞう)の人生を描いていく。女性に出会えば、必ずと言っていいほど恋に落ち、執拗なまでにアプローチを続ける点や、女性の影響を受けて進路や仕事を選んでいく感情に任せた生き方が面白い。

そして、そんな破天荒の生き方のなかで、たびたび気づく、学歴による社会の仕組み、世の中の矛盾や心理についての視点が面白い。

そうした知識群の多くは、秀才たちが学校の勉強の延長線上に自然に身につけたものではない、積極的に知識の森に分入らないと手に入れられないものだった。

後半はよりグレーに近い領域の仕事に取り組み始める。そのうちの一つは根室でのウニの密猟である。北方領土という国籍の曖昧な地域に対する、ロシア、日本の難しい立場も見えてくる。

最初は著者自身の体験を別の主人公を据えて描いているのかと思ったが、あまりも破天荒するぎるので違うのだろう。「海賊と呼ばれた男」や「永遠の0」など、深いテーマを持った作品が多い印象に対して、本作品は行き当たりばったりに感じ、本書を書いた理由を知りたいと思った。

とはいえ、又三(またぞう)がさまざまな生き方を体験する中で改めてに、世の中に対してこれまでと異なる視点をモテた気がする。確かに学歴や生まれた環境がその人生に影響を与える部分は多いが、それでもどんな生き方をしても生きていけるのが日本という国なのである。

テーマがはっきりしないので人に勧めることはしないと思うが、人それぞれ得るものはあるだろうと思える作品。

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「鹿男あをによし」万城目学

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
突然奈良の女子校で先生をすることになった小川(おがわ)の不思議な体験を描く。

女子校で期間限定で先生をやるという羨ましいのかつらいの判断し難い設定で物語は始まる。赴任初日から堀田(ほった)という生徒を中心に思春期の女生徒たちに翻弄されるとともに、奈良公園のシカとの不思議な交流によって、小川(おがわ)は人類を救う重要な役目にも関わることになる。

中盤からは、顧問となった剣道部の活動と、大阪と京都にもある姉妹校との対抗戦である大和杯によって、小川(おがわ)がシカから託された使命は少しずつ複雑になっていく。

本書の魅力は、個性豊かな登場人物だろう。特に際立つのは女生徒の堀田(ほった)の存在である。初日に遅刻の言い訳をしたことから小川(おがわ)は常にその動向を意識をしてしまう。

本書はドラマ化されており、多部未華子が堀田(ほった)の役を演じていたが、あらためて原作を読むとハマり役だと感じた。

奈良にはなぜ鹿がたくさん住んでいるのか。また、先生の一人が考古学を趣味としていることから、卑弥呼の墓の話が登場し、卑弥呼とはどこまで存在が確認されているのかなど、日本の神話や歴史にあらためて興味をむけてくれた。また、物語としては何よりもシカが話すという設定が新鮮で、著者の他の作品も何冊が読んでみたいと思った。

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「テスカトリポカ」佐藤究

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第165回直木賞受賞、第34回山本周五郎賞受賞作品。メキシコから逃れたカルテルのリーダーや日本の医療界から追放された医師などが手を組んで新たな犯罪組織を作っていく。

子供の臓器を販売して利益を稼ぐ等犯罪組織を作っていく様子を描く。本書の特徴は、元麻薬カルテルを支配していた一家で、対立する麻薬カルテルへの復讐を誓うバルミロが、アステカの文化の影響の元に育ったことだろう。バルミロの過去が描かれる際、その祖母であるリベルタのアステカのしきたりへの傾倒が細かく描かれる。

少しずつ犯罪組織が構築される中で、多くのはみ出しものたちが登場し、また裏切りによる処刑などが行われる。

どの人物も麻薬や覚醒剤に溺れ、権力や復讐を欲するなどしており、残念ながら、誰一人として共感できる登場人物はいなかった。むしろ、アステカのしきたりや言葉が繰り返し登場し、またアステカが人間を生贄にする文化のように描かれており、どこまでが史実でどこまでが、噂の域を出ないものなのか、とアステカという国や文化に対する好奇心を植え付けられた。

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「What She Found」Robert Dugoni

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Tracyの元に、25年前に失踪した母親を探して欲しいという依頼が舞い込む。

失踪した女性は当時新聞社のレポーターであり、その調査が失踪に関連があるとみて当時の事件を洗ううちに、Last Lineという過去の麻薬取り締まり部隊の汚職の可能性に近づいていく。なぜLast Lineは解体されたのか、なぜLast Lineの構成員は秘密にされているのか。そして、その過程でTracyの前の部署の仲間であるFazとDelのルーキー時代の経験が明らかになっていく。仲間の過去の過ちを明らかにするべきか悩むながらも、少しずつ真相に近づいていく。

また、警察の予算のためにメディア受けを求める所長Weberとの衝突も面白い。今回は20年以上前の出来事を扱っているために告発できないという法律、Statute of limitations(出訴期限法)という法律が何度も登場し、日本とアメリカの法律の違いなども知ることができた。

どうやら、Last Lineという麻薬取締部隊を描いた物語もあるようなので、そちらも機会があったら読んでみたい。

「A Promised Land」Barack Obama

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第44代アメリカ合衆国大統領のバラク・オバマがその大統領としての出来事を描く。

前半では、オバマ氏が政治に関わり大統領に就任するまでを描き、中盤以降は大統領としての苦悩を描く。

前半の山場は、大統領になる理由を妻のミッチェルに説明した言葉である。

I know that that day I raise my right hand and take the oath to be president of the United States, the world will start looking at America differently. I know that kids all around this country-- Black kids, Hispanic kids, kids who don't fit in -- they'll see themselves differently, too, their horizons lifted, their possibilities expanded. And that alone… that should be worth it.
私が右手を上げて米国大統領になる宣誓をしたその日、世界の米国を見る目は変わるだろう。この国中の子供たち、黒人の子供たち、ヒスパニック系の子供たち、社会に馴染めない子供たちも、自分自身を違って見るようになり、視野が広がり、可能性が広がることを私は知っています。それだけで.価値があるはずだ。

リーマンショック、医療保険、ロシアとの国交、移民問題、原油流出、ビンラディンの殺害などさまざまなことに取り組んでいることがわかる。一つ一つの決断に多くの人の人生が関わるだけではなく、それを同時に抱えていることに責任の重さが読んでいるだけで伝わってくる。特にアルカイダの最高指導者であるオサマ・ビンラディンを確保するミッションを進行中に公式の場に出て何も平静を装うというのはとてつもないプレッシャーだっただろう。

全体的に移民を受け入れるアメリカという国の政治の難しさを感じただけでなく、アメリカという国の政治の構造も知ることができた。特に日本と同様にアメリカも共和党と民主党が制作の正しさに関係なく、足を引っ張りあっていることを知って、残念に思った。

ただ、全体的にかなり長い。政策やそれに関する苦悩だけではなく、それに関わる人々の経歴や印象的なエピソードまで書くから長くなるのだろう。共に仕事をしてきた人間のエピソードを省くわけにはいかないし、編集者も削除を勧めることはできないなど、事情はわかるが、もう少しコンパクトにまとめられるのではないかと感じてしまった。

本書がオバマ氏が大統領を退いた後に出版されたものだったので、大統領の8年をすべて描いていると期待したが、2011年のオサマ・ビンラディンの殺害が本書の最後のエピソードとなっていた。機会とエネルギーがあったら以降の4年間を描いた書籍も読んでみたいと思った。

「線は、僕を描く」砥上裕將

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
両親を失って親戚の家に身を寄せながら大学生活を送っていた青山霜介(あおやまそうすけ)は、アルバイトをきっかけに水墨画家篠田湖山(しのだこざん)に出会い、水墨画を学ぶこととなる。

霜介(そうすけ)の水墨画との出会いと学びを通じて、水墨画の魅力が伝わってくる。水墨画には4つの基本となる画題、蘭、竹、梅、菊があり、それらの習得に悪戦苦闘する霜介(そうすけ)の様子とその周囲の人間模様を描いている。

特に同じように水墨画に情熱を注ぐほかの登場人物の存在も物語をひきたてている。そのうち一人は、水墨画家の孫であり、霜介(そうすけ)と同じ年齢の千瑛(ちあき)であり、技術に優れている一方で、師である篠田湖山(しのだこざん)に認めらたいという思いを持ちながら、試行錯誤を続けるのである。元々は1年後の霜介(そうすけ)と千瑛(ちあき)の勝負という形で始まったが、水墨画に真剣い向かう中で少しずつお互いに心を開いていくのである。

全体的に物語を通じて、水墨画について興味を掻き立てらるだろう。他のアートと水墨画の大きな違いとして、水墨画におちては線をひくことと、塗ることは同時に行なわれるということである。また、本書では余白で表現をすることの重要性も語っており、水墨画に限らず、絵画やデザインでも通じる考え方だと感じた。

本書は水墨画がテーマだが、一つのことに情熱を注ぐことの魅力を改めて感じた。

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「火のないところに煙は」芦沢央

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者は自分の一つの不思議な体験をベースにホラー体験を集めて本にすることにした。そんな体験を綴った物語である。

第一話の「染み」のみが著者自身が体験した出来事で、以降は少しずつ関係者や読者から集まってきた奇妙な体験を語っている。どれも怖い話ではあるが、同じぐらいその周囲の登場人物のふるまいが興味深い。どれも身近な人は過去の知り合いを思い浮かべてしまう。それぐらいそれぞれの人物描写に説得力があった。

個人的に印象的だったのが第四話で拝み屋が語る言葉である。

その霊との縁を作りたくなければ、寄り添うように語りかけてはいけません。

本書がどこまで実話なのかはわからないが、著者自身の体験が他の体験を呼び寄せているかのように感じる。霊やホラー体験に限らず、あるものに意識を向けるとそれに関連する人や情報が集まってくるというのはよくあることだろう。呼び寄せたくないものは普段はできる限り考えないようにするべきだと感じた。

個人的に印象に残っているホラー系小説は小野不由美の「残穢」なのだが、本書も現代のホラーという印象で面白くて一気に読んでしまった。

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「The Diamond Eye」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父親のいない息子に射撃を教えるために、射撃のコースを受けていたMila Pavlichenkoは、ドイツがソ連に侵攻したことで歴史家になる夢を保留して祖国を守るために兵士に志願する。

若くしてシングルマザーとなったMilaが狙撃手としてドイツ兵と戦う物語である。物語は若くして子を持ち夫との離婚手続きを進めながらも歴史家を目指すMilaが、ドイツがソ連への侵攻を開始したことによって大きく人生を狂わされ、やがて多くの仲間と共に狙撃手として活躍する様子と、一方でその数年後、Milaを含むソ連の兵士たちがアメリカのホワイトハウスを訪れる様子を並行して描いている。

ドイツ兵と戦う戦場での物語では、少しずつ信頼できる仲間と出会い、女性ながらも確固たる地位を築いていく様子が描かれる。一方、ホワイトハウスででは、女性が戦場で狙撃手として戦うことに理解のないアメリカ人を相手に、ヨーロッパ戦線にアメリカも加わってもらうことの必要性を各地で訴えるMilaと、それを理解しようとするルーズベルト夫人の様子が描かれ、また、Milaを大統領殺人の犯人に仕立て上げようとするる悪意ある視線が描かれていく。

序盤はオデッサが美しい。本書はロシアのウクライナ侵攻以前に執筆されたということであるが、Milaがウクライナ出身でありながらもロシア人として埃を持って戦っている点が、現在の状況を考えるとなんとも悲しく感じる。

全体を通じて、Milaはどこにでもいる普通の母親だったことがわかる。普通の母親が、息子、友人、家族のためにできることをしようとした結果、狙撃手となったのである。最初はフィクションだと思って読み進めていたが、あとがきによると実はかなり実話に近く、実際にMilaはエレノア・ルーズベルトと親しくしていたことがわかる。エレノア・ルーズベルトという人物に対してももっと知りたくなった。

また、The HuntressのNinaもそうだが、ソ連は女性を兵士として戦場に送り出していた数少ない国だったのだと知った。今回の物語のなかでまたMilaの友人たちで魅力的な登場人物が出ており、著者もあとがきでそのうちその女性たちを主人公に物語を書きたいと書いてあったので楽しみである。

「本と鍵の季節」米沢穂信

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
図書委員となった堀川(ほりかわ)は、同じく図書委員の松倉詩門(まつくらしもん)とさまざまな出来事に関わることとなる。

堀川(ほりかわ)と松倉(まつくら)は図書委員として少しずつ仲良くなっていく。先輩の家にある金庫の番号を解明したり、ヘアサロンに髪を切りに行ったりするなかで、2人の知識と鋭い観察眼が活きる様子が描かれる。

現代の新鮮なミステリーという印象である。軽い気持ちで楽しむのにちょうど良いだろう。

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「お金に困らない人が学んでいること」岡崎かつひろ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
学びを続けることの重要性を説明している。

全体的に学ぶ習慣のない人向けの内容である。毎日学ぶことが日常の中に構築できている人にとってはそれほど目新しいことはないだろう。

全体的によく言われていることの寄せ集めという感じで、とくに著者自身が新しく調べた事実などはない。煽ったタイトルだったので、期待していたわけではなかったが、予想通り、人の役に立つための本ではなく、著者のの販促のための本という印象である。著者がClubhouse(iOSアプリ)が好きなのが伝わってきた。

タイトルでは何を学ぶべきかを語っているように見せて、中身では学び続けることの重要性や学び方を語っている、という点も煽って売ろうと意図が見えすぎて残念である。こういう手法が著者の信頼を落としていることに業界全体として気づいてほしい。

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「星落ちて、なお」澤田瞳子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第165回直木賞受賞作品。明治時代、日本画家の娘として生まれたとよの画家としての人生を描く。

明治から大正にかけての6つの時期のとよの人生を描く。画鬼とよばれた父暁斎(きょうさい)の元で育ち、絵を学んでそだったとよは、暁斎(きょうさい)が亡くなったことで、自分の絵のスタイルや、その生き方を悩む様子を描いている。

また、とよだけでなく同じように父の影響を受けて、自らのスタイルに固執する兄周三郎(しゅうさぶろう)や、逆に絵の才能を開花させられなくて早々に居場所を失った弟の記六(きろく)など、画家の家に生まれたさまざな人生が見える。

日本画家として知っているのはせいぜい、狩野家、歌川家程度だったが、本書を読むと、歴史に名を残せなかった多くの画家たちがいたことがわかる。そして、現代の多くの芸術家と同じように、流行りや廃りのなかで自らのスタイルと求められるスタイルのなかで葛藤していたことがわかる。

後半には、関東大震災の場面があり、東北大震災と同じように、当時の家族を心配し、家まで歩いて行く様子が描かれている。物語の中で関東大震災に触れるのは初めてなので新鮮である。随分昔の話のように感じるが実際にはすでに電車が走っていたという事実に気付かされた。

全体的に、芸術家としての生き方の難しさを改めて感じさせられた。

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「エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する」グレッグ・マキューン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
努力をしないで成果を出す方法を語る。

序盤で、むやみに努力することの危険性を語り、その後、楽して成果を出すための考え方を順を追って意説明している。ポイントは、

  • 楽しく進めること
  • 十分な休息をとること
  • まず始めること
  • 失敗を積み重ねること
  • ゆっくり進めること
  • 大事なものにフォーカスすること
  • シンプルにすること

である。どれも言われてみれば当たり前なことばかりだが、例を交えて説明しているから面白い。

多大な犠牲を払って成功した人々と同じくらい、簡単に成功した人々もいる。ただ、苦労の少ない成功は、物語になりづらいだけなのだ。

努力をするのは悪いことではないが、努力したとしても報われるとは限らない。努力を盲信している人にとっては良いきっかけになるのではないだろうか。

僕自身は楽しいことじゃないと身につかない、という考えで、著者の考え方に近いが、それでも改めてその考えに触れると、自分の考えの純度が上がる気がする。

昨今リモートワーク化が進んでいるが、一方でコロナ禍が収束してオフィスワークに戻して行っている企業もある。しかし、本書を読んで改めて、電車のなかで毎日2,3時間を過ごすオフィスワークスタイルは無駄な努力で決して戻るべきではないと感じた。

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「宝島」真藤順丈

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第160回直木賞受賞作品。戦後のアメリカの占領下の沖縄で生きるグスク、レイ、ヤマコの3人の若者たちを描く。

物語の舞台は1950年代の沖縄から始まる。戦後の混乱の続くなかで、若者たちは戦果アギヤーとよばれる活動に励む。戦果アギヤーとは米軍基地からの窃盗を働く行為であり、食料品などを盗んで地元の人に配ることなどもあったことから、むしろ英雄視されていたというのである。

序盤から、自分がどれほど沖縄の歴史に疎かったかを思い知らされる。1970年以降に生まれた自分には、沖縄とは一時期アメリカの領土となっていたものがのちに変換された土地という程度の認識しかない。しかし、その混乱のなかで育ってきた若者たちにとっては、まさに人生を左右する出来事だったのである。この物語はそんな混乱の沖縄で思春期を迎えた3人の幼馴染、グスク、レイ、ヤマコの目を通じて一気に物語に引き込んでいく。

3人は、戦果アギヤーの際に行方不明になった3人の英雄のオンちゃんの影を探しながら、自分たち自身もオンちゃんのような沖縄の英雄になりたいという思いを抱いて生きていく。グスクは警察官になり、ヤマコは先生になり、レイは反乱分子となりながらそれぞれの答えを見つけようとする。

やがて、沖縄返還の話が持ち上がる中で、島民も軍の存在に依存する人たちと、軍の圧政に苦しい返還を待ち望むものなど異なる考え方が生まれる中、アメリカ軍の傲慢なふるまいに怒りが積み重なっていく。

さてはアメリカーがやったか、また島民を轢いたな。
基地から吹き荒れる人災に公正な裁きがくだされないことに、住民たちはとっくに忍耐の限界を迎えている。

そんななか3人は英雄オンちゃんの消息に近づいていくのである。

オンちゃんは、帰ってきてたんだなあ

今まで、同じ日本にありながらもほとんど知らなかった沖縄の辿ってきた歴史を、3人の若者の感情と共に、生々しいほどに感じることができた。情けないことにゴサの動乱もVXガス放出事件も、軍用機墜落事故についてもこの物語を読んで初めて知った。

27年間のアメリカ統治がそこで暮らす人々に大きな爪痕を残したことやその時代を生きた人々の強さを感じられる作品。

戦果アギヤー
アメリカ統治下時代の沖縄において、米軍基地からの窃盗行為を行う者たちを意味する言葉。「戦果を挙げる者」という意味である。(Wikipedia「戦果アギヤー」)

宮森小学校米軍機墜落事故
1959年6月30日にアメリカ合衆国統治下の沖縄・石川市(現:うるま市)で発生したアメリカ空軍機による航空事故。(Wikipedia「宮森小学校米軍機墜落事故」)

レッドハット作戦
沖縄本島の米軍基地知花弾薬庫に極秘裏に毒ガスが貯蔵されていることが明るみに出たのをきっかけに、これを島外に移送するため1971年に実施されたアメリカ軍の一連の作業である。(Wikipedia「レッドハット作戦」)

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