「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」渡辺奈都子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人間関係をどのように良好に維持するか、と調べているうちに「選択理論」という言葉に出会った。本書は真理カウンセラーの著者がその「選択理論」について語る。
基本となるのは、「変えられるのは自分だけ」という考え方であり、「外的コントロール」つまり他者のコントロールをしないように勧めている。他人の行いに対してひたすら我慢をすることを理想とするように聞こえるかもしれないが、実際には希望を伝えることも勧めている。こちらの希望に沿わなかった場合に罰を与えたり、非難をしなければそれは「外的コントロール」にあたらないのだ。
また、人の感情や行動をいくつかのたとえを用いて興味深く説明している。1つは、車の4輪を用いて前輪を「思考」と「行為」、後輪を「感情」「生理反応」と例えている。つまり車の前輪と同じように「思考」と「行為」は自らの意思で操作できるが、後輪の「感情」「生理反応」はその前輪の結果についてくるものということである。
人の性格についての考え方もわかりやすい。人間は5つの基本的欲求「生存」「楽しみ」「自由」「力/価値」「愛/所属」のグラスを持っているが、それぞれのグラスの大きさは人によって異なるため、そのグラスを満たす量もことなるのだという。
全体を通じたのは、ここ数年自分が人間関係において意識していることとそれほど乖離してはいないということ。見方を変えれば、人によっては「他人に対する諦め」と否定的に受け取ることもあるのかもしれないが、個人的には、本書が推奨する「コントロールしない/されない関係」はもっとも相手を尊重した関係のように思える。人の見方に新たな視点を与えてくれる一冊。
【楽天ブックス】「「人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」

「「書」を書く愉しみ」武田双雲

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
書道家である著者が「書」について語る。
コンピューターが世の中に浸透し、文字を書く機会は本当に少なくなった。そのせいか、文字を書く事が嫌いな人は多い。実際、自分の書く文字が嫌いな人も多いという。僕自身もそんな一人で、特に字が汚いわけでもなく、むしろ「字がキレイ」と言われる事のほうが多いのだが、どうしても自分の書く字が好きになれない。本書はそんな人に、字に対して新しい考え方を与えてくれるだろう。
字がうまくなる方法として「下手な字競争」を紹介している。その名のとおり下手な字を書こうと努めるのだが、どうやったら下手に見えるか、という視点に立って字を眺める事に良って、より深い考察をすることができるという。また、お手本通りに書くという学校での書道の授業に異を唱えている。なぜなら同じ人物が書いたとしても二度と同じ文字は書けないのだそうだ。
その他にも中国や日本の歴史的な書を紹介している。有名な書のなかにも読みやすいものもあれば読みにくいものもあり、そこから伝わってくるのは、文字に正解はないということ。服装や姿勢や髪型などと同じように、文字もその人の個性を表すものなのだろう。
改めて文字というものと向き合ってみたくさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「「書」を書く愉しみ」

「光圀伝」沖方丁

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中が徳川幕府によって安定に向かうなか、水戸徳川家の次男として生を受けた水戸光圀(みとみつくに)の生涯を描く。
日本の歴史に疎い僕にとって水戸光圀と言えば水戸黄門、本当にそれぐらいしか知識がなかった。本書が描くのはそんな一人の男の物語である。
すでに戦国時代は過去の話で世の中は一気に生活を向上する方向に動いている。人々が学べる環境を作り税の制度を整備していくなど、それは戦後の日本の復興と似ているような印象を受けた。
光圀は次男として生まれたのに理由も知らされずに水戸徳川家を引き継ぐとされた。序盤はなぜ自分が選ばれたのかわからないというなかで成長する光圀の苦悩が中心と成る。本来水戸家を背負うはずだった優しい兄に対する罪悪感や、それでも良き理解者として接してくれることに対する感謝の気持ち、それが初期の光圀の人間性を形作ったように見える。
若いうちは、よくある良家の跡継ぎと同様、父から何度も厳しい試練を与えられ、外ではそれなりの粗暴な行為を行いながらも学び成長していく。そんななか書物を重視し、常に学ぶ事を怠らないその姿勢には感銘を受ける。どこまでが事実に基づいているのかわからないが、宮本武蔵との出会いも本書の読みどころの1つである。「書で天下をとる」という光圀の野望は武蔵との出会いから生まれた物だろう。
そのようにして、光圀は、妻の死や将軍との不和など、徳川水戸家を背負って密度の濃い人生を送っていくのだ。
もっとも印象に残ったのは、決断をするときに「これは義か?」と自らに問い続ける生き方である。僕らに現代人にとっては「大義」の方が聞き慣れているのかもしれないが、「義」とは「人の踏み行う正しい道筋」のことで、光圀は常に世のため人のためになることを優先して決断をするのだ。
争乱の時代の後のあの時代に、水戸光圀が果たした役割の大きさが見えてくるだろう。そして、現代に生きる僕らも光圀と同じように、日々信念を持って決断しているか、つまり「義」を行えているかと、改めて考えさせられる。時代は違えど、現代にもそれぞれが果たせる「大義」はきっとあるはず。
【楽天ブックス】「光圀伝」

「富士見高原Iターン物語」村上方子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
横浜で編集者として働いていた著者が、結婚11年目の37歳のときに夫と長野県の富士見高原に移り住む。そのきっかけや苦労、新しい土地での生活を描く。
偶然にも著者がその決断をしたのは現在の僕と同じ年齢。多くの人にとって「どう生きるべきか」「幸せとは何か」自らに問いかけ、行動を起こそうと思う年齢なのかもしれない。それでも実際に行動が起こせる人はわずかなのだろう。本書はそんな迷っている人の背中を押してくれるかもしれない。

ここが終わり、ここからが始まり。毎日の暮らしの中でそんなふうに感じられる場面は滅多にない。でも、あの日の町の原っぱでのワンシーンは私たちのとって、確かに終わりであり、始まりであったと思う。

序盤では、著者と夫もが、2人の子供を抱えながらもその人生の一大決心をする過程が描かれている。もちろんそこには、仕事、住居、友達、両親、子供の学校など様々な問題が発生する。そんな問題をひとつづつ乗り越えていくのだ。その様子から、行動を起こすには、ある程度の決意と覚悟とある程度の無鉄砲さが必要だと思えてくる。

今の仕事は仮の姿と思いながら仕事をするのはもう嫌なんだ

印象的なのは、著者が何度も繰り返し言っているように、どこにいっても人間関係にわずらわされずに生きる事などできないということ。
後半はまさにそんな地域の人間関係に入り込んで地域に貢献しようと生き生きと毎日を送る著者の様子が描かれる。「こんな生き方もあるのだ」と改めて自分の生き方を見つめ直
す機会になるだろう。
【楽天ブックス】「富士見高原Iターン物語」

「本田式サバイバルキャリア術」本田直之

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ハワイと日本の二重生活を送る著者がその経験を基に今の時代を生き抜く考え方を語る。
成功した人は、その成功の多くが偶然的要素に左右された結果であるにも関わらず、本を出してあたかも自分の視点が正しく世間一般的な視点が間違っているように語ることが多い。そういう意味で本書にもあまり期待していなかったのだが、むしろ予想外にまともなことを語っている点が驚いた。
実は、著者の経歴から「思い切って行動すればなんとかなる」的な内容を想像していた。しかし実際には、社内や社外の人脈の作り方や、転職エージェントの利用のすすめなど、今の時代を生き抜くために、リスクを最小限に抑えて、利用できる物はなんでも利用すべき、という考え方が本書のなかで一貫としている。
著者が繰り返し使うのが「サバイバビリティ」という言葉である。何が起きるかわからない今、1つの会社や1つのキャリアに依存する事こそリスクが高く、「シングルキャリア」から「マルチキャリア」へ、「雇われ型」から「スキル提供型」への移行こそ、生き抜くために必要なのだろう。
【楽天ブックス】「本田式サバイバル・キャリア術」

「Fahrenheit 451」Ray Bradbury

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本を燃やす事を仕事とするMontagはある日近所の少女Clarisseと出会う。Clarisseの自由な言動によって、Montagは自らの行いを振り返り悩み始める。
日本語タイトルは「華氏451度」であり、本を燃やすための温度を示している。舞台となっているのは未来の世界で本来なら消防士として火災にあった家を消化する人にあてられるべき「fireman」という言葉が、本を燃やすことを職業にする人に使われている。そして本書はそんなfiremanであるMontagの様子を描いている。
知識や思想を根絶するために本を燃やす、という思想は何年も前からあったもので、映画や物語のなかでもそんなシーンをたまに目にする。おそらく宗教的な対立や独裁政権下で多く起こったできごとなのではないだろうか。本作品が未来を舞台にして、見せててくれるのは、本を燃やすということの意味とその危険や重要性である。
firemanとしての職業を放棄したMontagはやがて社会から逃れて生活している人々に出会う。彼らは多くの本が失われる中で、知識や思想を守り、それを次の世代に受け継ごうとするのである。
本書が言おうとしていることの崇高さはしっかり伝わってくるが、書かれた時代の古さが安っぽさのように感じられてしまう点が残念である。情景描写ばかりで心情描写がほとんどない点も原因なのだろう。同じ意図で現代のすぐれた作家が描いたらどうなるだろう、と考えてしまった。

「宮本武蔵(四)」吉川英治

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)との勝負に勝った武蔵に、その弟伝七郎(でんしちろう)が再び試合を申し込む。後がなくなった吉岡道場がなりふり構わない行動に走り出す。
宮本武蔵の第4弾である。本書の見所はやはり武蔵と吉岡道場ということになるが、個人的には再開を果たした武蔵とお通(つう)の場面が特に印象に残った。武蔵はお通(つう)の武蔵に対する想いを受け入れつつも自らの剣に対する想いを吐露する。

わしはお通さんに囚われていた。無性に恋していた。けれどそんな時でも人知れず剣を抜いてみると、狂おしい血も水のように澄んでしまい、お通さんの影も、霧のようにわしの脳裏から薄れてしまう・・・・

1つの道を極めようとしながらも、その過程で思い悩み葛藤する武蔵の姿は、長い時を隔てた現代の人でも共感できることだろう。読者は何か忘れていた情熱を思い出すかもしれない。
そして、吉岡道場との対決は佳境に入っていく。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(四)」

「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」北健一郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ガンバ大阪の遠藤保仁(えんどうやすひと)、FCバルセロナのシャビ。強いシュートを打つわけでもなく、驚くような鋭いパスを放つわけでもない彼らだがそれぞれのチームの中心人物と評価されている。彼らのどんなプレーがすごいのかを、彼らがときどき出す弱いパスを中心に解説する。
正直サッカーを何年もプレーした事がある人にとってはそんなに新しい内容ではないだろう。遠藤やシャビほど計算し尽くしてはいなくても無意識にやっていることかもしれない。それでもこうやって言葉にしていくつかの例とともに説明されると改めていろいろ戦術というものについて考えるだろう。
また、本書では遠藤(えんどう)のプレーに対して、一緒にプレーした事のある他のプレーヤーの意見も書かれている。そこで語られるのは意図を感じさせるパス。パスカットされる可能性があれば出さないという相手ゴール付近であっても出さないという選択、サイドチェンジの効果などである。いずれも賛否両論あるとはいえ、何事もそうだがパス一本とっても極めようとすればいくらでも上がある、ということを再認識させられる。
サッカーを知らない人にとっても、これからサッカーをテレビなどで観戦する際の助けとなるだろう。
【楽天ブックス】「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」

「島はぼくらと」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
冴島という瀬戸内海にある架空の島で生活する4人の高校生、朱里(あかり)、衣香(きぬか)、源樹(げんき)、新(あらた)を描いた物語。
冒頭では登場人物達の様子から、日本で島に住むということがどういうことかがわかるだろう。朱里(あかり)、衣香(きぬか)、源樹(げんき)、新(あらた)は毎日島の外の高校へ通い、フェリーの時間のせいで部活に所属する事が難しくなる。子供達は、大学になる島の外へ出て行くので島の大人達は「一緒にいられるのは18年」という思いで子供を育てる。また、小さな子供を持つ母親にとっては医者が島にいるかいないかが非常に重要なのである。
本作品では単純に島の人々の文化や生活だけでなく、そこに移住してくるIターンの人々を物語に取り入れている。どこからかやってきたウェブデザイナーや、かつでのオリンピック水泳選手などが島に住んでいて、彼らの様子も物語を面白くしている。
離島とはいえ技術などの変化の波には逆らえず、それゆえにさまざまな問題が起こる。本書はそんななかで島の人々の様子を高校生の4人を中心に描くのである。
印象的だったのが地域の活性化の仕事の一部として島に訪れる若い女性ヨシノの存在である。自らの利益を度外視して人に尽くすように見えるヨシノの振る舞いに朱里(あかり)、衣香(きぬか)には理解できないのである。

朱里のことを、ヨシノはたくさんたくさん、知っているだろう。だけど朱里は、この人のことを何も知らない。愚痴も不満も、聞いたことが何もない。ヨシノはいつだって、朱里たちを受け止めてくれたけど、彼女の方から話してくれたことは一度だってない。

辻村作品からは特に新しい情報が得られる訳でもないが、いろんな立場の人の気持ちが見えてくる気がする。悩みを持たない人はいないし、人をうらやまない人もいない。本書もそんな人の心が見えてくる温かい作品に仕上がっている。
【楽天ブックス】「島はぼくらと」

「初ものがたり」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
江戸の本所深川の岡っ引き茂七(もしち)が地域で起きる事件や諍いを解決していく。
物語自体は、時代こそ違えど殺人、失踪、イカサマなど、現代の探偵物語でも出てきそうなことを扱っている。舞台が現代であればそこら中にありそうな物語であるが、それを江戸という時代で描くところが宮部みゆきらしさなのだろう。宮部みゆきの時代小説はどれに対しても言える事だが、本書も物語を楽しむ中で、江戸の時代の人々の生活が見えてくる。
僕自身「岡っ引き」という言葉の意味さえ知らないほどこの時代に対して無知なのだが、読んでいるうちに日本の人々の生活が、江戸やそれ以前から現在に至るまでどのように発展し変化してきたのか興味を抱いた。日本の過去の人々の生活にももっと目を向けていきたいと思った。
やや解決していない事案もあるような気がするが、ひょっとしたら続編があるのかもしれない。

岡っ引き
江戸時代の町奉行所や火付盗賊改方等の警察機能の末端を担った非公認の協力者。正式には江戸では御用聞き(ごようきき)、関八州では目明かし(めあかし)、関西では手先(てさき)あるいは口問い(くちとい)と呼び、各地方で呼び方は異なっていた。(Wikipedia「岡っ引き」

【楽天ブックス】「初ものがたり」

「ガウディの伝言」外尾悦郎

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スペインのサグラダファミリアの建築に関わる日本人外尾悦郎(そとおえつろう)がサグラダファミリアやガウディ、そしてその仕事の内容について語る。
未だ建築中のサグラダファミリア。最近になって2026年に完成するとされているが、その長い間どのようにその建築は進められているのだろうか。もともとガウディは設計図を書いたりせずに建築を進めることが多かったという。サグラダファミリアも例外ではなく、建築家や彫刻家たちはガウディの思いを汲み取って建築を進めなければならない。序盤では著者がそのような過程を経てガウディの思いを形にするまでのエピソードが綴られている。
その中で著者が繰り返し語っているのが、機能と装飾が互いに補い合うガウディの建築の理念である。サグラダファミリアの装飾は単純に装飾としての意味だけでなく、建物の弱い構造を補う意味ももっているのだという。この考え方は建築だけでなく、機能と美しさを同時に考えなければならないデザインのすべてにおいて重視すべき事なのだろう。
また、ガウディの生涯が語られる中で思ったのは、大富豪エウセビオ・グエルとの出会いがどれほど大きかったかということ。天才は努力だけでなく多くの運に恵まれているのだと改めて思い知った。グエルとの出会いがなければガウディは誰の記憶にも残らずに歴史に埋もれていった事だろう。
さて、これだけ長い間建築が続けられていくと、なかには建築開始当初の理念から逸脱する部分もあるようで、後半ではそのいくつかが語られている。本来石で作られるはずだったものが途中からコンクリートになってしまったのもその1つである。確かに実際僕が訪れた際にどこか期待した重厚さが感じられずハリボテのような印象を受けてしまったのもそのせいかもしれない。
今や世界でもっとも有名な建物の1つ、サグラダファミリアについて理解するのに最適な一冊。

今日、一人の若者に建築家としての資格を与えた。彼の中に宿っているのは天才だろうか、狂気だろうか。それはまだわからない。しかし、時間が答えを出すだろう。

【楽天ブックス】「ガウディの伝言」

「Wolves of Calla」Stephan King

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Dark Towerシリーズの第5弾。Roland達一行はCallaという町の人々に救いを求められる。その町には何年かに一度仮面を被った「Wolves」と呼ばれるグループがやってきて、町に多くいる双子のうちの一人をさらっていくのだというのだ。
シリーズ中最長の本書。Roland、Eddie、Sussanna、Jake、Oyeは助けを求められてCallaという町に赴き、町の人々から情報を集めながら、約1ヶ月後に迫ったWolvesの来襲に備える始める。そこでは双子の一人がさらわれても残る物もいるのだからそれで甘んじようと言う人々と、これ以上今の状態を続けないために命の危険を承知で立ち上がろうとする人々がいる。
町の老人が昔のWolvesの来襲と一緒に戦って命を失った友人達について語るシーンが個人的にはもっとも印象に残った。

モリーは砕け散った夫の血と脳を浴びながらも、なお動かず。そして叫んで皿を放った。

さて、物語はWolvesの襲撃に備える一行だけでなく、夜になると不穏な行動を始めるSussannaや、Eddie達と同じようにニューヨークからやってきたCallaの町の神父Callahanにも及ぶ。Callahanの語る物語はどうやらStephan Kingの別の作品と繋がっているようで、そちらも読みたくなるだろう。
前作「Wizard and Glass」でも赤い水晶が物語の重要な役割を担っていたが、今回もCallahanが保持しているという水晶が鍵となる。今後この玉の存在が物語にどのように影響を与えていくのか、ようやく近づいてきたシリーズの終盤に対して期待感が高まる。
スピード感溢れる描写に著者の才能を感じた。早くシリーズを最後まで読みたくさせてくれる一冊。

「宮本武蔵(三)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の第三巻。宍戸梅軒(ししどばいけん)や吉岡清十郎(よしかわせいじゅうろう)との対決を描く。
結末はすでに多くの人が知っているように、武蔵が吉岡清十郎に勝つのであるが、その描き方は、数ある宮本武蔵を描いた物語のなかでもさまざまで面白い。本書では、吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)とその弟、伝七郎(でんしちろう)のやり取りが印象的である。長男であるがゆえに重すぎる責任を背負わされて苦悩する清十郎(せいじゅうろう)、そして次男であるがゆえに身勝手に生きる伝七郎(でんしちろう)。本書では清十郎(せいじゅうろう)のつらい境遇が際立つ描き方をされているように感じた。
また、一方で佐々木小次郎(ささきこじろう)の存在感も高まっていく。そして武蔵の幼なじみの本位田又八(ほんいでんまたはち)は日増しに高まる武蔵の噂に嫉妬し、佐々木小次郎(ささきこじろう)の名前を語るようになる。
そんななかで印象的だったのは、吉岡清十郎(よしおかせいじゅうろう)との勝負を終えた武蔵が辺鄙な場所に母親と一緒に住む光悦(こうえつ)という人物と出会う場面である。剣のことしか知らない武蔵は、光悦(こうえつ)の焼いた陶器の奥深さに驚くのである。

彼が自負している剣の理から、この人物の底を計ろうとしても、持ちあわせの尺度では寸法が足らないような尊敬を正直に持ってしまった。

第二巻で柳生石舟斎(やぎゅうせきしゅうさい)の切った木の枝のエピソードも印象的だったが、わずかな違いにその技術を感じる武蔵の強い感性はなにか刺激を受ける部分がある。
【楽天ブックス】「宮本武蔵(三)」

「ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず」塩野七生

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
古代ローマの物語。
ずっと読みたかったがその長さになかなか最初の一歩を踏み出せずにいたが、必ずしも一気読みする必要もなく気長に読み進めていければと思った。文庫版の最初の2冊で「ローマは一日にして成らず」という副題を持つこの2冊は、紀元前753年のローマの建国から紀元前270年前後のイタリア半島の統一までを描く。
グループや会社やチームなどの団体をうまく機能させようとするのは難しいことだがとてもやりがいのあることで、国というのはもっとも大きい団体と考えれるかもしれない。そして国をうまく機能するように作り上げることは興味深いことだが、それは人間の一生の数十年の間にできることではないのだ。だからこそ、本書が見せてくれる、ローマ人が国として試行錯誤をしてその機能をつくりあげていく様子は面白い。
歴史的事実はもちろん著者がスパルタやギリシャなど周辺国と比較してローマを語りその形態をわかりやすく解説してくれる。王政や共和制についての理解が深まるだけでなく、団体や組織が陥りがちな混乱や困難が見えてくるだろう。
まだ始まったばかりだが続きが楽しみだ。
【楽天ブックス】「ローマ人の物語(1) ローマは一日にして成らず(上)」「ローマ人の物語(2) ローマは一日にして成らず(下)」

「まち文字 日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?」小林章

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
フォントデザイナーの小林章が各国のフォントについて語る。
タイトルでは丸ゴシックをテーマに扱っているように聞こえるが、実際読んでみると丸ゴシックの話題は冒頭だけで、あとは著者が世界の各地で見るロゴで気づいた事をひたすら写真を織り交ぜて語っている。同じ著者の前作「フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?」と流れもあまり変わらない。むしろ同じ記事が使い回しされているような気さえする。
これだけ世の中に溢れているにも関わらず、普段フォントというものを意識することのない人にとっては、町を歩く際に新たな視点をもたらす内容だろう。一方で、普段からフォントに触れている人にとっては若干物足りないかもしれない。それでもさらっと気軽に読めて、周囲にあるいろんな文字を凝視したくなる気楽な空気感がいい。
【楽天ブックス】「まちモジ 日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?」

「Holes」Louis Sachar

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
靴を盗んだ罪で更生施設に送られたStanleyはそこで毎日穴を掘る事を命じられる。その生活に慣れていくなかで少しずつその目的が見えてくる。
灼熱の大地で毎日穴を掘る、という情景になんか惹かれてしまうのは僕だけだろうか。物語にはその他にもなんだか魅力的な要素が詰まっている。主人公のStanleyの名前が、Stanley Yelnatsと逆から読んでも同じだったり、穴を掘っている近くには猛毒のトカゲが生息していたり、細かい設定がやけに印象的である。
さて、Stanleyが毎日の穴掘りに慣れ施設の生活にも慣れていく様子を描く中で、何度も過去の物語が展開される。どうやらそれはStanleyの曾祖父や祖父の物語のようである。アメリカに渡って財産を築いた曾祖父。強盗に襲われて財産を奪われた祖父。またその地域に長く伝わる伝説も描かれている。禁断の恋をした女性教師とタマネギ売りの物語である。
実は最後にはそんなすべての断片が1つに繋がるのである。正直1度読んだだけではなかなか細かい相関関係がわからない。すぐに読み返したくなる1冊。

「ニーベルンゲンの歌」石川栄作 訳

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ジークフリートという英雄の名前はずいぶん前からよく耳にしていた。名前が一人歩きするぐらい有名な物語なのに読んだ事がないものというのは結構あって、ハムレットやロミオとジュリエットなんかも同じであるが、今回はこの「ニーベルンゲンの歌」を選んだ。
おそらく翻訳者の技術や哲学によって、読みやすさは変わってくることもあるだろうが、現代の若い著者によって書かれているような読者を引き込む面白さを求める物ではないのだろう。ある程度は平坦な物語を我慢する覚悟が必要である。
本書は上巻、下巻それぞれに「ジークフリートの暗殺」「クリームヒルトの復讐」という副題がついているとおり、上巻は英雄ジークフリートの活躍と、暗殺されるまでの物語。そして後半はジークフリートの妻クリームヒルトが復讐を遂げるまでの物語である。
本書を読んでようやく一人歩きしていたジークフリートという名前が人格を持った英雄になった気がする。強く本書をオススメするということはないが、読み損ねた名作は誰にでもきっとあることだろう。
【楽天ブックス】「ニーベルンゲンの歌 前編」「ニーベルンゲンの歌 後編」

「宮本武蔵(二)」吉川英治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
宮本武蔵の第二巻。宝蔵院を後にした武蔵は柳生へ向かう。そこには宮本村で別れたお通がいるのだ。
マンガ「バガボンド」との比較ばかりになってしまうが、本書では残念ながら宝蔵院胤舜(いんしゅん)との試合は行われない。お互いを認め合って言葉を交わすのみである。本書の見所は、柳生石舟斎(せきしゅうさい)と一本の木の枝の切り口を通じて心を伝え合う場面だろう。達人であるからこそわずかな細い切り口にその技を見いだす。剣の世界に限らずそんな世界があるなら到達してみたいと思わせる。
もちろん柳生でのお通との再会の場面も印象的である。お通に会いたいという思いを持ちながらも、剣の道を歩み続けるためにはそれをすべきではない、という武蔵の葛藤が描かれる。
そして後半では佐々木小次郎が登場する。武蔵と絡むのはまだまだ先の話だと思うが今後の展開を楽しみにさせてくれる。
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「検事の死命」柚月裕子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
米崎地検の検察官、佐方貞人(さかたさだひと)の物語。電車内での痴漢事件を扱う事になる。女性は素行が悪い一方で、容疑をかけられた男性はその地域の有権者の家の息子だった。
4編から成る短編集として構成されているが、後半2編はどちらも痴漢事件を扱った1つの物語である。また2編目の「業をおろす」は同じく佐方貞人(さかたさだと)を扱った作品「検事の本懐」の続編となっているので、本書2編目を読む前にそちらを読んでおくべきだろう。佐方(さかた)の父親の生き方を通じて、彼の信念の原点が見えてくる。
さて、本書のメインは痴漢事件の裁判であるが、女性の言動にやや素行の悪さが冤罪の印象を与える。その一方で、容疑を受けた男性の方も権力者の息子ということで真実に関係なく、裁判関係者に圧力がかかってくる。
そんななか佐方(さかた)は真実に導いていくのだが、本書でもそのぶっきらぼうな態度の裏にある信念は一貫している。本書を通じて感じたのは、正義はたった一人の無鉄砲な意思で貫き通せるものではなく、良き理解者や上司はもちろん、そのための根回しや巧妙な政治的駆け引きも必要だと言うことだ。そういう意味では佐方(さかた)の上司である筒井(つつい)の存在が大きいだろう。
最終的な結末はややあっけない印象もあるが、そこにいたる過程では期待に応えてくれた。

母さんは言ってた。自分のための嘘は絶対ついちゃいけないけど、人を助けるためなら許されるって。母さんはそうやって生きてきたんだ。

楽天ブックス】「検事の死命」

「恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか?」イビチャ・オシム

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元日本代表監督のイビチャ・オシムが南アフリカワールドカップの日本代表を振り返る。
日本は南アフリカワールドカップの予選リーグでカメルーン、オランダ、デンマークと戦い、最終的に決勝トーナメント1回戦でパラグアイに破れて大会を後にした。今まで多くの雑誌やメディア、テレビ番組でこの4試合について語られてきたが、やはり経験豊かな監督の目線は異なる。負けた試合はもちろん、勝った試合についても良くなかった点や改善方法を示してくれる。
オシムに言わせると、パラグアイは決勝トーナメントに残った16チームのなかでもっとも勝ちやすい相手だったという。前回大会のトルコと動揺、相手にめぐまれたにも関わらずベスト8に進めなかった事を嘆く。孤立してしまった本田をどうすれば機能させることができたのか。選手の間に「引き分けでもいい」という考えがあったのではないか、などである。
そして日本代表だけでなくその他の印象に残ったチームや選手についても語っている。スペイン、オランダはもちろん、予想外に終わったブラジルやイタリア。すばらしい活躍をしたウルグアイのフォルランなどである。本書を読むと改めて、オシムの視点で試合を見直したくなる。
また、サッカー界の流れについても語る。スペインの優勝がサッカー界にもたらすもの。モウリーニョ主義への懸念、日本サッカーの向かうべき方向など、本書によってまたサッカーが1つ深く見れるようになるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「恐れるな! なぜ日本はベスト16で終わったのか?」