オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現代を生き抜くためのキャリアの築き方を著者が語る。
グローバルキャリアというだけあって、やはり日本だけにとらわれないキャリアの築き方をあげている。なかでも面白かったのは、著者の知り合いのなかで第一線で活躍している7人のキャリアとそのキャリア構築のなかでの考え方を語っている部分である。必ずしも高校生や大学生の頃から明確なビジョンを持っていたわけではなく、僕らが思っている以上に、行き当たりばったりで決めている人が多い事に驚いた。著者も本書で語っているように、重要なのは同じ場所にとどまらずに行動を起こす強い意思なのだろう。
30代でも40代でも行動を起こす事はできる。世界を狭めているのは強い意志の欠如なのだと、勇気をくれる一冊。
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カテゴリー: 評価
「奇跡の職場 新幹線清掃チームの”働く誇り”」矢部輝夫
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
駅のホームに到着してから折り返しで発射するまでのわずか7分間に新幹線の全車両の清掃を終える。そんな清掃会社テッセイの取締経営企画部長である著者が、一般的には敬遠されがちな清掃という仕事を、どのようにして「新幹線劇場」として人々から賞賛されるまでにしたかを語る。
本書のなかで著者が書いているひとつひとつが、実際に他の業種にあてはまるか、読んだ人に役に立つかはわからないが、結局現場で働く人々のモチベーションがもっとも大事なのだと再認識させられる。この例では、それは制服を変更する事だったり、新幹線の入線時にお辞儀をすることだったりするが、モチベーションを上げるための有効な方法は、職場や働く人によって様々なのだろう。
本の内容が濃いかどうかは疑問だが、著者がその仕事に誇りをもっていることが伝わってくる作品。
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「世界から猫が消えたなら」川村元気
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
末期がんを宣告された「僕」の目の前に悪魔が現れた。世界から1つづつ何かを消す代わりに寿命を一日延ばしてくれるという。
主人公の「僕」が死と向き合う物語ではあるが、軽い気持ちで読む事ができる。目の前に現れた悪魔によって「僕」は1つづつ何かが世界から消えていくことを目にすることで、何が本当に大切かを改めて考える事になる。
わかりやすいところだと、第二章の「世界から電話が消えたらなら」である。僕らが学生の頃はまだ携帯電話は出回っていなくて、待ち合わせの場所で電話をして連絡をするということができなかったし、そのせいで結局会えなかったなんて事もあったように思う。それが携帯電話の普及から15年ほどが経過した今、多くの人にとってないと不安になるような存在になってしまった。携帯電話は人を幸せにしたのだろうか。
もう1つ印象的だったのは時計を消す章。そもそも時間とは人間が勝手に決めた感覚に過ぎず、時間がなくなれば1日もなくなるし、時間をつぶす必要もなくなるのだ。時間の概念を考え出した事で人間は幸せになったのだろうか。
「僕」はそうやって世界からいくつかの物を消す決断をしながら自らの過去と向き合っていく。ほのぼのとしたちょっと考えさせられる一冊。
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「プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント」後藤年成
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
著者の長年にわたるプロジェクトマネジメントの経験から、プロジェクトの成功のために注意すべき点を100個にわけて解説している。
プロジェクトマネージャーだけでなく、PMO、つまりプロジェクトマネジメントオフィスの役割についても語っている。どの内容も言われてみればもっともなものばかりだが、実際の現場ではできていないものばかりで、プロジェクトマネジメントというものの深さや面白さを感じた。著者はPMBOKの重要性を認めながらも、世の中のほとんどすべてのプロジェクトはプロジェクトに応じて管理方法を変えなければならないと説明する。
本書で語られているのは本当に柔軟性を求められるないようばかり。例えば、プロジェクトメンバーの発言からモチベーションの低下を読み取る方法や、プロジェクトリーダーがやりがちでプロジェクトの悪循環を招く行動など、プロジェクトリーダーという視点ではなく、ただの後輩を持つ立場の人間としても良好な人間関係を築く上でのヒントがたくさん見つかった。
プロジェクトマネジメントは真剣にやればきっと面白い。そう思わせてくれる一冊。
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「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前」塩野七生
ローマ人の物語。この3冊はユリウス・カエサルが主な登場人物となり、ローマ帝国を一気に拡大させる。カエサルは40代になるまで大した偉業を成し遂げなかった遅咲きの英雄であり、序盤は政治的な内容や多くの人名が登場するためなかなかわかりにくいかもしれない。しかし、後半はカエサルの著書「ガリア戦記」の内容を交えながら、ガリア地方へローマ帝国が拡大していく様子が面白く描かれている。
カエサルだけでなく、ガリア地方の多くの部族を束ねてカエサルに挑んだヴェルチンチェトリックスの勇敢な生き方も印象的である。
実は「ガリア戦記」というタイトルは聞いた事があったのだが、それがユリウス・カエサルによる2000年も前に書かれたものだったとは、本書を読んで初めて知った。読まなければいけない本がまた増えた気がする。
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「トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」」スチュワート・D・フリードマン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ペンシルベニア大学ウォートンビジネススクールの内容を書籍化したもの。仕事だけではなく、家庭や自分やコミュニティも含めて人生を充実させるための方法について語っている。
仕事、家庭、自分自身、コミュニティという4つの分野に対する自分の重要度を出し、実際にそれに費やしている時間を出して比較すると多くの人が、その違いに驚くという。必ずしもそれぞれの分野に費やしている時間の比率が、それぞれの分野の重要度の比率と同じになる必要はないが、必然的に近くなるものだろう。冒頭部分ですでに自分の人生は改善が必要だと思い知らされる。
後半では、それぞれの分野におけるステークホルダーを洗い出してそれぞれの人が自分に求めているものと、自分がそれらの人に求めているものを整理していく、本書では何人かの経験談を載せているが、多くの場合、自分が求められていると思っているものと、実際に求められているものの間にはギャップがある事が多く、それを知ることで楽になれる部分もあり、そうして余った時間を別の分野に割り当てる事ができるのだ。
また、本書では分野をうまく統合していくことも勧めている。例えば家族と一緒に運動すれば、家庭と自分自身の2つの分野に同時に貢献できるのである。僕自身はどちらかというと仕事とプライベートの生活を完全に分けてしまっているので、色々自分の生き方について考え直す必要があると感じた。
【楽天ブックス】「トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」」
「初陣 隠蔽捜査3.5」今野敏
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
警視庁の刑事部長である伊丹俊太郎(いたみしゅんたろう)の仕事の様子を描く。
「隠蔽捜査」シリーズは本来竜崎伸也(りゅうざきしんや)を主人公にしており、本作品は番外編となる。伊丹俊太郎(いたみしゅんたろう)は竜崎(りゅうざき)の友人で本書の短編はいずれも伊丹(いたみ)目線で描かれているが、伊丹(いたみ)が警察組織のしがらみや、捜査の進め方に迷ったときに竜崎(りゅうざき)に助言を求めるという形で竜崎(りゅうざき)が登場する。
本書に含まれる8編とも、伊丹(いたみ)が悩み、最終的に竜崎(りゅうざき)に助言を求めることで解決に向かう、というワンパターンな展開であるにもかかわらず、竜崎(りゅうざき)の論理的で真摯に正義を全うしようとする姿勢はとてもいずれも読んでて爽快な気分にさせてくれる。
それぞれの短編は、これまでのシリーズ1,2,3の竜崎(りゅうざき)の物語を伊丹(いたみ)の目線から見たものを寄せ集めてきたような構成になっており、これまでのシリーズ作品を読んでいないと消化不良な部分もあるので、本書だけを読むのはお勧めしない。シリーズの最初から読み進めて欲しい。
【楽天ブックス】「初陣 隠蔽捜査3.5」
「転迷 隠蔽捜査4」今野敏
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
降格人事によって大森署の所長となった竜崎伸也(りゅうざきしんや)。その担当の区域で複数の事件が立て続けに起きる。外務省や厚生労働省など事件解決とともに政治的な駆け引きに竜崎(りゅうざき)は関わっていく事となる。
「初陣 隠蔽捜査3.5」を間に挟んだので隠蔽捜査シリーズの第5弾となる。このシリーズは毎回、キャリアというイメージにそぐわず、つまらない縄張り争いや、階級意識などをもとともせずに正義を全うしようとする竜崎(りゅうざき)の率直かつ合理的な判断が読者に爽快感を与えてくれる。本書もそんな読者の期待に応えてくれるだろう。
シリーズのこれまでの作品はいずれも警察内部の出来事を描いた多かったように記憶しているが、今回は麻薬犯罪に絡んで、外務省や厚生労働署、そしてこちらは警察内部ということになるが公安が絡んでくる点が新しい。
例によって小学校時代の同級生であり現在は警視庁の刑事部長である伊丹俊太郎(いたみしゅんたろう)の存在が物語を面白くしている。伊丹(いたみ)も正義を全うする必要性を感じながらも、組織や権力のしがらみに右往左往することもあるため、竜崎(りゅうざき)の合理的なものの考え方を際立たせる事に鳴る。
一介の警察署長として大森署に捜査本部の場所を提供するだけだった竜崎(りゅうざき)がやがて事件の真相に近づいていくこととなる。シリーズ物といのはだいたい4作目、5作目と続いていくと飽きてくるもおだが、本シリーズは続編が楽しみである。合理的にものを考える男性向けのシリーズなのかもしれない。
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「桜ほうさら」宮部みゆき
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
父親の死の謎を解くため江戸へ出てきた笙之介(しょうのすけ)はそこで書を生業として生活を始める。
笙之介(しょうのすけ)の父、宗左右衛門(そうざえもん)は身に覚えのないにも関わらず自らの筆跡と思われる文書によって罪を被り、それによって自殺した。人の筆跡をそっくりまねて書くことなど可能なのだろうか。笙之介(しょうのすけ)は江戸で普通の生活を送りながら、そんな技術を持った人を探そうとする。そんななかで笙之介(しょうのすけ)の出会い人々があたたかい。
また書を生業とするゆえに、笙之介(しょうのすけ)の書に対する強い思いも見えてくる。笙之介(しょうのすけ)曰く、書とは人を映すもので、人の筆跡を寸分違わずまねる事ができる人間がいるとしたら、その人間は心までその人間になりきれる人間だと言うのだ。文字を書くことが少しずつ廃れていく現代だからこそ、この笙之介(しょうのすけ)の考え方は印象的で、もう一度文字を書く事と向き合いたくさせてくれる。
そして、笙之介(しょうのすけ)は温かい人々の助けを借りながら真実に近づいていくのだが、結末は人間の欲望や弱さや信念を感じさせてくれる。著者宮部みゆきは現代を舞台にした物語と同じぐらい、江戸を舞台とした物語を書くが、舞台が江戸で時代が100年以上前でも、人の心のありかたは現代と変わらない気がする。本書を読んで、むしろ宮部みゆきがなぜ江戸という舞台設定にここまでこだわるのか知りたくなった。きっと何か信念があるに違いない。
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「優良企業の人事・労務管理 「10の仕組み」で組織は強くなる!」下田直人
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本来は会社の総務などに勤める人が読む本だとは思うが、最近組織のありかたについて興味があるので読む事にした。
基本的には会社目線で、社員とのトラブルを避けるためにすべきこと、気をつける事として例を交えて説明している。例えば、秘密保持などの誓約書の作成や就業規則や休日の制度などの整備の必要性などである。どれも会社目線ではあるが、一起業の一社員にとっても、会社のルールや規則、いろんな手続きが何のためにあるかを理解するための助けになるだろう。
また、悪い見方にはなるが、本書に書かれていたような事をしっかりやってない会社は、その部分が弱点であり、トラブルが会った際に、従業員にとってつけ込む事のできる場所でもある。
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「デザインの授業 目で見て学ぶデザインの構成術」佐藤好彦
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインの発展の歴史に沿って、デザインの考え方について語る。すでに普段から心がけていることもあるが、一方で新たに気付かされる考え方もあり、非常に面白い。個人的に印象的だったのは「神はサイコロを振らない」というもので、本来は自然界に対してアインシュタインが言った言葉だそうだが、その言葉をデザインに対して使用している。つまり、デザイナーはデザインにおける神であり、そのデザインのなかで適当に配置されていたり適当に選択されたりする色があってはならない、ということである。
また、デザインの発展において、過去には欠点とされていたものが、その欠点がなくなったあとで「らしさ」としてデザインに取り入れられるという考えも印象的だった。たとえば、本来文字を印刷するための活版印刷がその技術の未発達ゆえに紙面にへこみをつくってしまうことがあった。それが技術の発展した今では、あえてへこみをデザインすることで「らしさ」を表現できるのである。
デザインに対するモチベーションをあげてくれる1冊。アレックス・スタインワイスやアール・ランドといった歴史的なデザイナーについて知ることもできた。同じ著者に「デザインの教室」というのもあるようなのでそちらも読んでみたい。
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「スタンフォードの自分を変える教室」ケニー・マクゴニカル
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
心理学者である著者が「意思力」について語る。
読み終わって思うのは、本書のタイトルの「スタンフォード」と「教室」がかなり売り上げに貢献しているだろうということ、英語のタイトルの「The Willpower Instinct」が示すように、本書にはスタンフォードも教室もほとんどでてこない。単に意思力の話だと思って問題ない。ただ、タイトルがそうだから内容が読む価値がないというわけではない。
本書では人が何かを決意し、その決意がやがて失敗に終わりやすい理由を示してくれる。そして、それを回避する方法の例も教えてくれる。意思力を必要とする際の例として喫煙やダイエットを取り上げているが、その力はさまざまな場所で応用できるだろう。
僕自身はタバコも吸わないし、ダイエットも必要としないのだが、それでも意思力の弱さを感じる部分はあり、本書を読み終わってから早速いくつかの方法を実践させてもらっている。まだ大して日が経ってないから、成功しているのか失敗しているのかを現段階で判断する事はできないが、本書を読む前よりかは成功に近いような気がする。
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「伝説なき地」船戸与一
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ベネズエラの荒れ果てた地でレアアースが見つかった。その採掘権で儲けようとするエリゾンド家。一方で、丹波春明(たんばはるあき)と鍛冶司郎(かじしろう)は二千万ドルを求めて危険な旅を続ける。
コロンビア、ベネズエラという麻薬や過激派などがはびこる、政府の支配の及ばない国を舞台にした物語。南米という社会としてはいまだ発展途上の地域の文化や人についての理解には役立つだろう。物語中で触れられている出来事のいくつかは実話に基づくものなのだろう。そのいくつかはとても印象的にも関わらず、聞いたこともないことなので、そのような記述に出会うたびに南米が僕らに日本人にとって地理的にも心理的にも遠い場所なのだと思い知らされる。
残念ながら主要な登場人物はみんな人の死をなんとも思わないような行動を繰り返すので、その行動やふるまいにいい刺激を受ける部分はない。著者船戸与一はどうしてもイランイラク戦争を扱った「砂のクロニクル」の印象が強く、あの世界観に再び触れたくて読み続けている気がする。その点で本作品は期待に応えてくれたとは言えない。もし南米の物語をもっと読みたいという人がいたのなら垣根涼介の「ワイルド・ソウル」をお勧めするだろう。
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「Maisie Dobbs」Jacqueline Winspear
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
終戦からまだまもないなか、Maisie Dobbsはロンドンで探偵事務所を始める。浮気調査の過程で、戦争で体に傷を負った人々が集団生活をしている施設に行き当たる。
体裁としては私立探偵が依頼された内容を解決する、というよくある形をとっているがシリーズ第一弾となる本作品では、Maisiの幼い頃の経験と、その後の従軍看護師として戦地に赴き、恋愛や友人達の悲劇と出会う様子が描かれている。むしろ謎を解明していく流れよりも、Maisieの過去の物語の方が本書においては重要な役割を担っているような気がする。
また、依頼された内容も、ある男性の妻の浮気調査でありながら、最終的に行き着いた先は戦争によって体に傷を負った元兵士達が集団生活を送る施設、というように戦争の悲劇に関することが多くを占めている。そのため、ただの現代を舞台とした事件解決物語とは違った雰囲気を持っている。
Maisieの考えのなかで重要なのは、MaisieのメンターであるMauriceからの教えである。Maisieは迷ったとき常にその考え方に戻って考え直すのである。そんなMauriceの言葉はどれも深く印象的である。
そしてラストはMaisieの過去の一部が明らかになる。シリーズ作品なのでぜひ続編も読んでみたい。
「ソロモンの偽証」宮部みゆき
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
クリスマスイブの夜に不登校になっていた中学生の柏木卓也(かしわぎたくや)は学校の屋上から落ちて死んだ。自殺なのか、他殺なのか。そして不登校になる直前にクラスメイトと起こした諍いは関係あるのか。
宮部みゆきには珍しい中学校を舞台とした物語。1人の生徒の死をきっかけとしてその周囲の人々、特に同じクラスの生徒たちを中心に、その心の動きを描く。その過程で生徒達がお互いに抱いている、恐れや怒り、嫉妬や無関心といった、それぞれの悩みが見えてくる。
印象的だったのは、病弱だった弟の柏木卓也(かしわぎたくや)と比べて、健康だったために、あまり親に相手にされなかった兄宏之(ひろゆき)が明かす心の内である。親の愛を勝ち取ろうして関係を悪くする兄弟の存在も決してありえないものではないと感じさせる。
生徒達はクラスメイトの死に加え、先生達の対応、マスコミによって報じられる学校の姿に傷つき、やがて警察官の父親を持つ藤野涼子(ふじのりょうこ)を中心に、真実を知るために裁判を開く事を決意するのである。
人々の心の内はその裁判によってさらに深く見えてくる。もっとも印象的なのは死亡した生徒、柏木卓也(かしわぎたくや)の人間性だろう。柏木卓也(かしわぎたくや)は運動の苦手なただのイジメの対象としてではなく、むしろ物事をその世代の中ではずっと達観して見つめている存在として描かれている。だからこその死は多くのことを周囲の人々や生徒に考えさせる事となるのだ。そして、そんな柏木卓也(かしわぎたくや)ついて、先生や生徒が語る言葉もまたいろいろ考えさせてくれる。
ブリューゲルの絵について一緒に語ったという先生はこんな風に語るのだ。
柏木卓也(かしわぎたくや)殺害の容疑をかけられたクラスの問題児大出俊次(おおいでしゅんじ)の弁護を担当した柏木和彦(かしわぎかずひこ)が、弁護をしながらもその大出俊次(おおいでしゅんじ)のこれまでの行いを批判するシーンは個人的にはこの物語の最高の場面である。
そして最後は悲しい真実につながっていく。2000ページを超える大作なだけに躊躇してしまう人もいるだろうが、読んで損をする事はない。
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「古本屋開業入門 古本商売ウラオモテ」喜田村拓
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長年古本屋を営む著者が古本屋の開業について語る。
別に古本屋になろうとしているわけではないが最近流行の「ビブリア古書堂の事件手帖」のシリーズを繰り返し読むうちに、古本屋の内情について知りたくなって本書に出会った。
もちろん本書の主な内容は、古本屋を営む上での心構えや店の構造やインターネットの利用方法などであって、単純に古本業への興味を持って読む人にとっては必要ない内容ばかりではあるが、それでもいろいろ今まで知らなかった事が見えてくる。
例えば、古本屋というのは、普通の本屋とは違って、扱っている本と出て行く本が巧くまわって初めてうまく機能するのだそうだ。そのためには、売る事よりも買い取りなど、本を巧く手に入れる事の方がはるかに重要だと言う。そして、人気のあった本ほど世の中に溢れてしまって古本としては価値が下がるのも当たり前のことではあるが面白い。
本書からはっきりと伝わってくるのは、本当に古本屋というのは本が好きでなければ勤まらない職業だと言う事である。
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「シヴェルニーの食卓」原田マハ
印象派の画家たちを扱った4つの物語。
「楽園のカンヴァス」と同様に、著者原田マハのキュレーターとしての知識を活かした作品。4つの物語はいずれも印象派の画家達を扱っている。クロード・モネ、メアリー・カサット、エドガー・ドガ、ポール・セザンヌ、ゴッホなどである。(この画家達を「印象派」とひとくくりにしてしまうことには議論があるだろうが)。ある程度西洋絵画に興味を持っている人なら誰でも名前ぐらいは聞いた事があるだろうし、どんな絵画なのかすぐに頭に浮かぶかもしれない。
本書が描く4つの物語はいずれもそんな画家達の日常を描いている。そこには絵を見ただけではわからないいろいろなものが見えてくる。ドガの踊り子に対する執着。セザンヌの貧乏生活。女性でありながらもすべてを捨てて画家を目ざしたメアリー・カサット。
今まで絵画に親しんできた人はさらに興味をかきたてられるだろうし、そうじゃない人は美術館に行きたくなるかもしれない。
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「楽園のカンヴァス」原田マハ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第25回(2012年)山本周五郎賞受賞作品。早川織絵とニューヨークのアシスタントキュレーターのティムブラウンは伝説の富豪の基に招かれる。まだ世に出ていないルソーの絵画を鑑定するためである。
ルソーの絵画の真偽を判定するために、ルソーの研究家として著名な早川織絵(はやかわおりえ)とティム・ブラウンはスイスに招かれる。絵の真偽の判定と平行して、2人はある古い本を読むことも支持される。その本は作者はわからないがルソーの当時の様子を描いているのである。
早川織絵(はやかわおりえ)とティム・ブラウンは絵画の真偽判定の敵としてその場にいながらも、同じルソーの作品を愛する人間んとしてやがて打ち解けていく。その一方で、2人は世に出ていないルソーの作品を守るためになんとしてでも勝負に勝とうとするのである。
著者原田マハの作品に触れるのは本書で2冊目となるが、どうやらフリーのキュレーターでもあるらしく、本作品はそんな著者の持っている知識を見事に活かした作品となっている。ルソーの作品についてはもちろん多く触れているが、特に2人が読む事になった本の描写からは、ルソーの当時の生活が見て取れる。絵を描き始めるのが遅かったことや、ピカソとの交流など、また違った目でルソー作品を見れるようになるだろう。また当時の芸術家達がどのような姿勢で絵画に向かっていたかも感じる事が出来るだろう。
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「蒼穹の昴」浅田次郎
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
西太后(シータイホウ)の支配する清。貧しい少年春児(チュンル)は幼なじみの文秀(ウェンシウ)とともに都へ向かう。
清朝の末期を描く。偉くなるためには科挙の試験を受けなければならない中国という国で、文秀(ウェンシウ)はそんな過酷な試験に挑もうとする。その一方で文秀(ウェンシウ)の幼なじみの春児(チュンル)は自ら性器を切り取って宦官(かんがん)となり、貧しい生活から脱しようとする。
同じアジアの国の出来事にも関わらず、あまりにも知らない事が多い事に驚かされた。冒頭では、文秀(ウェンシウ)が挑んだ科挙というし試験の過酷さと、虚勢を施す刀子匠(タオズチャン)という職業とその処置の方法に驚かされる。どちらも同じ東アジアの国に長い間文化として根付いていたものなのである。
やがて、文秀(ウェンシウ)は科挙の試験で素晴らしい成績をおさめて地位を向上させていく。また一方で、春児(チュンル)も方法こそ違えど、自らの力で少しずつ都への道を切り開いていくのである。文秀(ウェンシウ)と春児(チュンル)を中心に物語は展開していくが、その過程で西太后(シータイホウ)や、中国を守ろうとする人々の苦悩や駆け引きが見て取れる。また、中国国内だけでなく、中国という大きな土地を巡るイギリスやフランス、日本の利権争いも興味深い。
登場人物が多いので、なかなか本書だけでこの当時中国で起こった事の全体像を理解するのは難しい。どこまでが歴史上実際に存在した人物で、どこまでが物語中の架空の人物や出来事なのかをしっかり理解してもう一度読んでみたいと思った。
「ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔」三上延
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ビブリア古書堂シリーズの第4弾。毎回本を絡めた興味深い物語を展開してくれる。今回は江戸川乱歩のコレクターが遺した謎に栞子(しおりこ)と五浦(ごうら)は挑む。
本シリーズは今まで多くの有名な本を扱ってきたが、今回扱う江戸川乱歩シリーズはまさに僕自身が小学生の頃親しんできたシリーズで、物語中で触れられるタイトルの数々に懐かしさを感じてしまった。
また、そんな本に絡めた謎やそれぞれの本や作家が持つ深い歴史だけでなく、栞子(しおりこ)への五浦(ごうら)の想いもまたほのぼのと描かれている。そして、本書で何よりも注目すべきなのは失踪していた栞子(しおりこ)の母、篠川智恵子(しのかわちえこ)が登場する点だろう。栞子(しおりこ)よりもさらに深い本に対する知識と行動力のある智恵子(ちえこ)に対して、栞子(しおりこ)と五浦(ごうら)は謎解きで挑むのである。
まだまだこの先一波乱ありそうな流れである。
【楽天ブックス】「ビブリア古書堂の事件手帖4 栞子さんと二つの顔」