「耳をふさいで夜を走る」石持浅海

「耳をふさいで夜を走る」石持浅海
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
自らが信じる正義のために並木直俊(なみきなおとし)は3人の女性を殺すことを決意した。しかしそこにはいくつかの傷害が立ちふさがる。
他の石持浅海作品のような、わずかな出来事から導き出される推理の連続を期待したのだが残念ながら中途半端な作品になってしまった印象を受けた。1晩で3人の女性の殺害しようとする殺人者目線で展開し、もちろん殺人者並木直俊(なみきなおとし)がその目的を達成するためにいろいろな事実から推理を働かせながら行動をするのだが、他の石持浅海作品と比較するとその推理は表面的なものでしかなく、その一方で、登場人物それぞれの行動の動機も説得力を持つほど詳細に練られているとは言えない。
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「志高く」井上篤夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ソフトバンクの孫正義(そんまさよし)の半生を描く。
孫正義(そんまさよし)を知ったのは、ソフトバンクが携帯のキャリアとして表舞台に出てきたころだろうからせいぜいここ10年以内である。しかし、本書では有名になる以前の孫正義(そんまさよし)の人生が描かれている。
必ずしも新しい技術は世の中のために使われるとは限らない、その技術を企業が世の中のためでなく、自分たちの企業の利益のためだけに使おうとする場合もある。本書で描かれているMSX戦争がまさにそれである。
こう考えてみると孫正義(そんまさよし)はビルゲイツやスティーブジョブスとともに世の中が一気にデジタル化するそのど真ん中にいたのだとわかる。また、ジョブスと同じように孫正義(そんまさよし)も一時期生死の境をさまよったことがあるという共通点は何か考えさせられるものがある。きっと死の淵に近づいたことによって人生の意味を一般の人よりも強く考えるようになるのだろう。
このような伝記を読むと毎回思う事ではあるが、今回も自分が世の中にほとんど何も貢献していないことを情けなく思ってしまう。孫正義(そんまさよし)に対してはまありいい印象を持っていたわけではないが、本書を読んで少し見方がかわった気がする。
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「Pardonable Lies」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦時中ドイツ軍に撃ち落とされて死んだとされた息子。しかし妻は病気で死ぬ間際、息子は生きているはずだから探して欲しいと夫に依頼する。夫は妻との最後の約束を守るため、Maisieに息子が死んでいる事を確認するよう依頼する。
Maisie Dobbsシリーズの第3弾。終戦直後の混乱のヨーロッパを舞台に描く探偵物語で、いずれの物語も戦争中に人々が負った傷に深く関連して描かれる点が面白い。依頼によって戦争中に戦闘機のパイロットをしていた男の消息に迫る中、親友で兄3人を戦争で失ったPricillaからも長男のPeterがどこで死んだのか突き止めて欲しい、と依頼される。
僕らは普段、歴史上の事実からしか戦争というものを捉える事ができないが、本シリーズを読むと、戦争が終わって10年以上経過しても、人々の生活や心のなかに戦争の傷が残っている事を感じさせてくれる。
過去と向き合う親友を見て、Maisie自信も過去と向き合おうとする。戦争中に看護婦として働き、恋人を失った野戦病院の場所をもう一度訪れる事を決意するのだ。
ややできすぎな偶然と感じる部分もあったが、戦後の人々の苦しみを登場人物の感情や行動を通じて伝えてくれる一冊。

「届け物はまた手の中に」石持浅海

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
恩師である益子(ましこ)先生を殺害した犯人を殺して復讐を果たした楡井和樹(にれいかずき)は、同じく復讐を誓いながらも、起業家としての幸せな家庭を築くことを選んだ友人設楽宏一(したらこういち)にその報告に向かう。
この奇抜な設定がすでに石持ワールドへの入り口である。この設定に抵抗がある人は石持浅海の世界はあまり楽しめないのかもしれない。さて、友人設楽(したら)の家に復讐の報告に向かった楡井(にれい)は設楽の妻、妹、秘書の女性3人と設楽(したら)の子供の4人の歓迎を受ける。設楽(したら)は急な仕事で部屋から出てこないのだと。不自然な女性3人の行動と、友人が久しぶりに訪れているにも関わらず部屋から出てこない設楽(したら)。そんなか、楡井(にれい)は訪問の目的を果たそうと試行錯誤するのである。
ほとんど設楽(したら)邸で物語が進むという石持らしい作品。女性3人のわずかな不自然な動作を元に真実に近づいていく楡井(にれい)の思考を楽しめるだろう。
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「深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海」沢木耕太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
トルコで著者は友人から託されたこの旅唯一の目的を果たすこととなる。
旅の最終目的地が近づいてきたことによる著者の喪失感がにじみ出てくるところが興味深い。

旅は人生に似ている。どちらも何かを失うことなしに前に進むことはできない・・・・・・。

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「成功の法則92ヶ条」三木谷浩史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
楽天を大きくした三木谷浩史氏がその成功の法則について語る。
若干前作の「成功のコンセプト」と重なる部分もあるが、個人的には本書の方が印象的だった。タイトルの通り本書は92の細かい内容に別れているが、そのなかでも印象的だったのは35の「WIN-WIN関係を創造せよ」との83の「ロングテールを理解せよ」である。「WIN-WIN関係の創造」というのは長く生き残るビジネスを行ううえでは必須の考えだが、どうしても忘れてしまいがち、また「ロングテール」というのは今の時代の変化である「多様化」を言い変えた言葉でもあり、あらゆる面において、ロングテールの考えを適用していかないと企業は生き残れないというのである。
毎朝英語を勉強していたことや、海外から情報を取得することの重要性を説くところなど含め、なんか僕とやっていることに共通点があるな、と思った。
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「宰領 隠蔽捜査5」今野敏

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
管内で国会議員が失踪した。署長の竜崎伸也(りゅうざきしんや)は極秘の捜査によって誘拐殺人事件であることが明らかになる。
例によって、地位の上下や私欲に縛られずに正義を全うしようとする竜崎(りゅうざき)の姿勢に触れられる本シリーズは面白い。今回の事件は神奈川県警も巻き込んでいることから、神奈川県警、警視庁、双方の立場を考慮して行動していく。また、事件のほかに、息子の大学受験という家族の問題も同時に抱えている。様々な業務を洗い出してそれぞれを優先順位をつけて的確な解決方法を見つけ出して処理していく様子はなんとも爽快である。
毎回、自分自身の行動についても見つめ直させてくれる一冊。
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「One for the Money」Janet Evanovich

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
お金がなくて困ったStephanie Plumは法廷に現れない犯罪者を捕まえる仕事、Bounty Hunterをすることを決意する。最初のターゲットは殺人を犯して逃亡したもと警察官で、なんとStephanieの学生時代の知り合いの男Morelliだった。
ターゲットであるMorelliを追ううちに、逆にStephanieは窮地を救われることとなる。そして次第にMorelliとStephanieの間に妙な協力関係が生まれていく。
Stephanieが失敗を繰り返しながらも、少しずつBounty Hunterという仕事に慣れていく様子が面白い。Stephanieが住んでいる町が非常に狭くて、そこら中に知り合いや元同級生がいて、みんなが結婚相手を世話しようとしている点が、懐かしい温かさを感じさせる。Bounty Hunterという職業自体が日本では馴染みが薄いので、文化の違いが反映されているような気がする。そもそもなぜ日本にはBounty Hunterという職業が存在しないのだろう、と考えてしまう。
続編もあるようだが、Stephanieが成長する様子が見れるかもしれない。

「十字軍物語(2)」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
聖都エルサレムを奪還した十字軍だが、イスラム側も徐々に反撃を始める。
エルサレム奪還から時を経て、十字軍側は防衛する側にまわるのだが、そのなかで重要な役割を担うのが聖堂(テンプル)騎士団と聖ヨハネ騎士団である。本書ではこの2つの騎士団について何度も触れられており、著者のこだわりが感じられる。実際その存在は非常に魅力的に見える。聖堂(テンプル)騎士団は「ムスリムは殺せ」という信念でその信念に賛同する物は誰でも受け入れていたのに対して、聖ヨハネ騎士団はもともとは病院騎士団と呼ばれ、人々の病や怪我の治療にも尽くし、教育を受けた貴族しか受け入れなかったという。聖ヨハネ騎士団のそんな自らを律した存在がとても魅力的に見えるのだ。彼らが使っていた城塞に書かれていた文章がその哲学を表している。

おまえが裕福な出であろうと、それはそれでよい。おまえが知力に恵まれていても、それはそれでけっこうだ。また、おまえが美貌に生まれたのならば、それもよし。だが、このうちの一つであろうとそれが原因になって、おまえが傲慢で尊大になるとしたら、問題は別になる。なぜなら、傲慢とはその表われである尊大は、おまえ一人に限らずおまえが関係を持つすべてを損い汚し卑俗化してしまうからである。

また、聖ヨハネ騎士団が十字軍防衛のために利用した城塞もとても印象的である。特にクラク・ド・シュヴァリエについては図入りで解説されており、いつか実際に見てみたいと思った。
本書のなかで印象的な著者の言葉として、優秀な人材は同じ場所に集まるというものだ。実際、第一回十字軍の際には多くの優秀な人材が十字軍から排出されて、それがエルサレムの奪還へと繋がったが、本書ではイスラム側にサラディンなどの多くの優秀な人材が輩出され、エルサレムを奪い返されるのである。
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「TEDトーク世界最高のプレゼン術」ジェレミー・ドノバン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
TEDのプレゼンはなぜあれほど人々を魅了するのか。著者は過去のさまざまなTEDトークを例に出しながら、効果的にプレゼンをするための方法を語っている。
「ストーリー」とか「ユーモア」といった、いいプレゼンを語る上で誰もが盛り込む内容だけでなく、「キャッチフレーズ」や「紹介の仕方」などについても語る。TEDトークはどれもインターネットで公開されているから、本書の説明だけでわからないものはすぐにチェックすることができるだろう。
本書で語られているなかでもっとも印象的だったのは、プレゼンのなかで自分を主人公にしてはいけないということだ。見習うべき行動について語るのであれば、自分ではなく第三者にするべきで、自分を主人公にするとただの自慢話になって聴衆を遠ざけてしまうのだと言う。
その人自身の持っているキャラクターもあるから、本書で紹介されている方法をすべてプレゼンの中に取り入れるのは難しいかもしれない。TEDではその日初めて会う人に語るが、実際には上司や仲間など、すでに知っている人にプレゼンをすることもあるだろう。鵜呑みにすべきではないと警戒しながらも取り入れられる部分は取り入れたいと思った。
また、本書はプレゼンの技術を教えてくれる本というだけでなく見るべきTEDトークをたくさん紹介してくれる本としても役に立った。
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「Mobile First」Luke Wroblewski

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
スマートフォンの普及によってWebの作り方は大きく変わった。著者はMobile Firstというコンセプトでその考え方を語る。
その考え方は、Mobileという限られたスペースに情報を入れようとするために、不要な情報や要素はすべて削ぎ落とす必要がある。その上で出来上がったMobile用のWebからPC用のWebを作成する際に、本当に役立つものだけを付け加える、という、まさにMobileサイトを中心とした考え方である。
面白いのは、冒頭で著者は言っている。

今までは日本人でもない限り誰もモバイルでWebを閲覧しようなどとはしなかった。

つまり、数年前まで日本はモバイルでのWeb閲覧という分野においては世界でも進んでいたのだ。にもかかわらず、海外のWeb情報サイトではそこらじゅうで目にする「Mobile First」という言葉、日本ではまったく聞かない。すでに世界から遅れをとっているということなのか、それとも単に文化の違いなのか。

「成功のコンセプト」三木谷浩史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
楽天市場を立ち上げた三木谷浩史がその成功のコンセプトを語る。
成功者というのは、その成功はすべて自分の決断によって達成されたと語りがちだが、実際には幸運にも恵まれているのだ。そういう意味では本書のような成功者の本を読む際には多少傲慢な物言いも覚悟しているのだが、それほど悪い内容ではなかった。
本書で語られている5つのコンセプトのうち、最初の4つはいろんなところで語られることでそれほど新しい物ではないが、5つめのコンセプトとして「スピード!スピード!スピード!」というのは面白い。最近だらだらした会議が多くなってきた僕の会社の重役たちもぜひ本書を読んでスピードの重要性を理解して欲しいと思った。
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「恋歌」朝井まかて

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第150回直木三十五賞受賞作品。

三宅花圃(みやけかほ)は入院した師である中島歌子(なかじまうたこ)の部屋を整理する際にある書物を見つける。それは中島歌子(なかじまうたこ)の激動の半生をつづったものだった。

中島歌子(なかじまうたこ)、樋口一葉(ひぐちいちよう)など、名前は聞いた事があっても彼女達がどのようにして何年も語り継がれる書物を書いたのかどれほどの人が知っているのだろう。本書では徳川幕府末期、尊王攘夷の気運の高まる混乱のなかで生き抜いた中島歌子(なかじまうたこ)を中心に、その弟子である三宅花圃(みやけかほ)などと絡めて、当時の混乱の様子を描いている。

残念ながら当時の政情について知識が乏しいために本書の面白さを十分に味わったとは言えないが、すぐれた作品なんだろう。

三宅花圃(みやけかほ)
明治時代の小説家、歌人。著書『藪の鶯』は、明治以降に女性によって書かれた初の小説。(Wikipedia「三宅花圃」)
中島歌子
明治時代の上流・中級階級の子女を多く集め、成功した。歌人としてより、樋口一葉、三宅花圃の師匠として名を残している。(Wikipedia「中島歌子」)
天狗党の乱
元治元年(1864年)に筑波山で挙兵した水戸藩内外の尊皇攘夷派(天狗党)によって起こされた一連の争乱。元治甲子の変ともいう。(Wikipedia「天狗党の乱」)

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「深夜特急(4) シルクロード」沢木耕太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
インドを後にした著者は、パキスタン、アフガニスタンを経由してイランへ向かう。
毎回のごとくそれぞれの国の個性が面白い。特にパキスタンの長距離バスの運転手のその運転の様子が著者の興味をひいたようだ。旅が進むにしたがって、著者の視点が文化やその土地の人よりも、旅や自分と同じ旅人に向かっている気がする。

1日早く帰ったからといってそれが何になるだろう。むしろ、早ければ早いほど、青春そのものといった日々から足早に遠ざかってしまいそうな気がする。それらの日々は必ずしも自由で甘美なばかりではなく、多くは過酷ですらあったろうが、いざ失う日が近づいてくるとなると、たまらなく貴重なものに思えてくる。

4冊目を読み終わって思うのは、あまり沢木耕太郎という著者は観察力にすぐれた人間ではないということ。もちろん、「自ら経験しないとわからない」として、あえて細かい部分を書かないようにしているということも考えられるし、日本に帰ってきてから記憶をたよりに書いたため本当に印象に残ったことしか欠けなかったのかもしれないが、これだけの国を旅したらもっとたくさん書くことがあるのではないかと感じてしまう。
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「Qrosの女」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人気ブランドQrosのCMに登場した美しい女性は名前も年齢も国籍も明かされなかった。やがて彼女は「Qrosの女」と呼ばれてさまざまな憶測を呼ぶ事となる。ジャーナリストの矢口慶太(やぐちけいた)や栗山孝治(くりやまこうじ)も「Qrosの女」の情報も探ろうとする。
ジャーナリストや女優の視点で物語は展開する。興味深いのは女優や俳優として成功したいという人間と、容姿に恵まれながらも人から注目されるような生き方をしたくない人間がいることだ。また、一般の人にとっては人の秘密を暴くことを仕事にしているように見えるジャーナリストも、それぞれ独自の信念や良心を持っているのだ。
非常に多才な誉田哲也であるが、本作品のなかで長く印象に残る部分は少なそうだ。気楽に読める作品ではある。
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「ルポMOOC革命 無料オンライン授業の衝撃」金成隆一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インターネットの発展と、スマートフォンの普及に伴い、Coursera、Udacity、Edxといったオンラインで大学の授業を受けられるMOOC(Massive Online Open Courses)プラットフォームが注目されるようになってきた。本書はそんなMOOCを含むオンラインエデュケーションの現状に様々な視点から迫る。
かなり前からオンラインエデュケーションには興味を持っていたが、どこか騒ぎすぎな印象も持っていた。一般の人にはどの程度認知されていて、実際にはどれほど人々の学習環境に根付く可能性があるのかいまいちつかめずにいたのだ。本書ではMOOCsで日常的に授業を受けている人々の感想や境遇を説明し、カーンアカデミーなどのMOOC以外のオンラインエデュケーションについても触れている。
序盤のMOOCで勉強をしている世界の人々のエピソードに触れると、自分が人生をさぼっているような気がしてくる。環境に恵まれない人こそ、オンラインエデュケーションの可能性に敏感なのだろう。環境に恵まれている日本人はいつになったら危機感を感じるのだろう。
後半は日本のオンラインエデュケーションの動きをいくつかのサイトと共に説明している。カーンアカデミーのことを知ったときにどうして日本でももっとこのように、学校の勉強についていけないような子供達を助けるための動きがないのだろうか、と思ったが、すでにそのような動きをしているサイトはいくつもあってそのことに驚かされた。
今後も引き続きオンラインエデュケーションの動向に注目していきたいと思った。
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「Beautiful Lies」Lisa Unger

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
車にひかれそうになった子供を助けたところを報道され、世間からの注目を浴びたRidleyだが、それを機にいろいろなことが起きるようになった。やがてそれは彼女自身の出生の秘密にまでおよんでいく。
本書は兄Aceと父と母の家庭に育った女性Ridleyの物語。自分の姿が報道されたあと、本当の父と名乗る人から手紙を受け取るのである。自らの出生に疑問をもつRidleyは少しずつ大きな陰謀に巻き込まれていく。実は自分は過去・・・とか、疾走したあの人が実は・・・、という流れの本が多くて読み終わってあまり時間が経たないうちに記憶から薄れてしまっている。
さて、本物語りでは、Ridleyの叔父が何年も前に行っていた福祉制度が物語の鍵となるのだが、昨今日本で議論になったことと非常に似ているため、いろいろ考えさせられる物があるだろう。子供を育てることができない母親に、「それが母親の責任」とその義務を強いて不幸な子供達を増やすのか、それとも子供を手放す自由を社会が受け入れ、子供達を育てる施設を整えるのか。
本書ではRidleyと同じように自分の出生に悩んで家を飛び出したAceもたびたび登場する。ドラッグから抜け出せなくなったAceの存在が日本とアメリカの文化の違いを際立たせているような気がする。
一度両親を、自分の本当の親じゃないかも、と思い始めたRidleyには過去のすべてのできごとが嘘っぽく見え始める。考えてみると、人は他の家庭がどのように子供に接するか、ほかの家庭の親と子供接し方が自分の家庭のそれとどのように異なるかというのは、本当に知る機会がないんだな、と考えさせられた。

「フラットデザインの基本ルール」佐藤好彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Windows8やiOS6で採用されたフラットデザイン。言葉にすると単に、今までの立体的なデザインからシャドウやグラデーションの少ないデザインへの移行、と認識されてしまうだろう。しかし、本書は世の中がフラットデザインに向かった背景やその原因について説明している。
人々がパソコン上で何ができるか想像できなかった時代は、現実の世界に存在するそのデザインをパソコン上でも再現する事で人々の抵抗感をなくしてきたが、もはやその必要はなくなった、という説明は非常に腑に落ちる物がある。本書を読んで改めて周囲の物を眺めてみると、いろいろ違った点が見えてくる。例えばパソコン上で「保存」を意味するアイコンがいまでもフロッピーディスクだったりするのだが、すでにフロッピーディスクは世の中から消え去って何年も経過しているのだ。
また、本書はフラットデザインの問題点やフラットデザインをするにあたって困難な点についても語っている。デザイナーにとっては、単純にボタンを立体にしてすませることができないため、今まで以上にスペースや色の使い方に慎重になる必要があるだろう。

色の境目やグラデーションというのは、デザイン的な「情報」になってしまう。情報は、意味を背負ってしまうことになる。意味のないところには、情報を巻き散らかさないというのが、フラットデザインに限らず、デザインとして、とても重要なことだ。

フラットデザインについてだけなく、デザインというものについて改めて考えさせてくれる一冊。

参考サイト
Squarespace
Dribble
Behance

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「パーソナルプロジェクトマネジメント」冨永章

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
プロジェクトマネジメントの内容を個人の目標の達成に活かす、というテーマで書かれている。プライベートな予定に対して、重要度や他人への影響度を考えて取り組むことはあまりないが、仕事で行っているプロジェクトと同様に期日やリスクを考えて取り組むことはできるのだろう。著者はまさにそんな人生を送っているようで、そのストイックな生き方は大いに刺激になった。
しかし、本書の内容が、常に仕事におけるプロジェクトマネジメントの話と、プレイベートにおけるそれとを行ったり来たりして非常に読みにくかった。その点が残念である。
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「残穢」小野不由美

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第26回(2013年)山本周五郎賞受賞作品。

知り合いの女性の部屋で起きる不思議な音。その原因を突き止めようとするうちに次々の異なる怪異と出会うことになる。
部屋で一人のときに変な物音が聞こえる、というのは誰でも体験したことがあるだろう。実際そのような音の多くは、単純に気温の変化やペットや隣人が引き起こしているもので、時とともに忘れてしまうものなのだろう。本書が読者に与える怖さは、そんな誰でも体験したことのあるできごとを、過去の怨念に結びつける点ではないだろうか。

著者は、友人の部屋で起こる音に興味を覚え、同じマンションでほかにも不思議な経験をしている人がいることに気づく。そしてまた向かいにある団地でも人が長く居着かない場所があるという。徐々に過去をたどり、そこに住んでいた人のその後を調べるとしだいに、自殺や殺人や火災に結びついていく。一体過去この場所で何が会ったのか、と。

世の中に多く溢れる「怖い話」。残念ながら多くの「怖い話」は現実味に欠ける。怖い目にあう人々の行動があまりにも軽率すぎたりするせいだと思っている。本書が怖いのは、登場人物が知性的に冷静に現実と向き合う点だろう。
【楽天ブックス】「残穢」