オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
東北の山村に怪物が現れ、村を一夜にして壊滅状態する。命からがら逃げ延びた蓑吉(みのきち)は敵対する永津野藩の人々によって助けられる。永津野(ながつの)藩、香山(こうやま)藩という過去の因縁によって敵対しながらも、それぞれが怪物退治に動き始める。
過去には何度も超能力者を扱った物語を書いている宮部みゆきだが、本書の怪物ほど非現実的な描写をしたものは記憶にない。だからこそ、そんな非現実的な存在を取り入れてまで訴えたい何かがあるのだろう、と思いながら読んだ。
物語は永津野(ながつの)藩、香山(こうやま)藩という2つの憎しみあう藩の間で起こる。永津野(ながつの)の曽谷弾正(そやだんじょう)は技術を盗むためにさまざまな口実を設けて香山(こうやま)の人をさらうために、香山(こうやま)の人々から憎まれ、恐れられていたのだ。
曽谷弾正(そやだんじょう)の妹である朱音(あかね)によって、怪物から逃げ延びた蓑吉(みのきち)が救われることから始まる。兄のやり方を嫌って朱音(あかね)は蓑吉(みのきち)を秘密裏に保護し、怪物の存在を知るのである。
また一方で、小日向直弥(こびなたなおや)は香山(こうやま)の政治に巻き込まれ、化け物の正体を見極めるために山を登るのである。永津野(ながつの)藩、香山(こうやま)藩のそれぞれの方向から、怪物に迫るうちに、2つの藩の過去の歴史が明らかになって行く。
物語はもちろんフィクションであるが、関ヶ原の戦いによって憎み合うようになった2つの藩の歴史を読むと、実際の日本にも、歴史の表にはほとんど出てこないような土地に生きた人々は、多くの葛藤や細かいいざこざのなかを生きてきたのだと理解できるかもしれない。教科書からはわからない、過去の日本の一部が見えるような気がする。全体的には最後まで飽きる事なく楽しむ事ができたが、宮部みゆきというだけで最近は期待値が非常に高いので、その期待に応えてくれたとは言い難い。
【楽天ブックス】「荒神」
カテゴリー: 評価
「インターフェースデザインの心理学 ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針」スーザン・ワインチェンク
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
後半はアプリにあまり関係ないような心理的な話も多かったが、それをどう応用するかはデザイナー次第なのだろう。
クリック数はあまり重要ではないということは本書で初めて知った。これからのUIデザインにおいては、「ユーザーを悩ませないこと」こそ優先し、むしろ選択肢を減らして決断しやすくして、選択の回数を増やす(つまりクリック数を増やす)という方向へ進むのが正しいと思った。
「データより物語」とか「目標に近づくほどやる気が出る」とか、いろんな書籍で触れられているような内容や、以前に聞いたことがあるような内容ばかりではあったし、必ずしもインターフェースデザインに関係がなく、むしろ心理学に近いような内容も多く含まれていたが、新鮮でなくても同じ考えに繰り返し注意を向けるという意味では、本書は悪くないと感じた。
【楽天ブックス】「インターフェースデザインの心理学 ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針」
「Wicked: Life and Times of the Wicked Witch of the West」Gregory Maguire
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
劇団四季の「ウィキッド」を観劇してから、オズの物語のファンである。本書は言うまでもなく「ウィキッド」の原作。後に「ウィキッド」としてオズの魔法使いでは悪の化身「西の魔女」とされる生まれながら緑の肌を持つElphabaの生涯を描く。
序盤はGlindaとElphabaの嫉妬や恋愛や意地など、どこにでもありそうな女性の成長の様子を微笑ましく描かれている。緑の肌をして社交的ではないElphabaだったが、Glindaと同じ部屋になったことで、次第にGlindaと仲良くなって行くのだ。しかし、月日が経つに従って、2人は人生の選択を迫られて行く。
おそらく本書で描かれているのは、多くの人が「オズ」という言葉から想像するよりもはるかに政治的な世界だろう。エメラルドシティを中心としたオズの国では動物たちが人間と同じように、話し、多くの職業に就き社会を構成する一部となっていたが、やがて、動物達は言葉を喋らず家畜として暮らすべき、という政策が広まる事になる。そんな政策に反対するElphabaは心を同じくするたちとともに抵抗しようとする。Elphabaの妹NessaroseもやがてともにGlindaやElphabaと過ごす事になる。物に執着しないElphabaだが、父が、妹のNessaroseだけに与えた靴にこだわりを持つ。
そして月日とともに、Glinda、Nessarose、Elphabaは別の道へ進むこととなる。父からの愛を求めたElphabaが混乱するオズの世界に翻弄されながら、やがて西の魔女になっていくのだ。やがてDrothyという名の女性がやってくる。一緒に飛んできた家でNessaroseを押しつぶすして殺す事になったDrothyはElphabaがこだわりつづけた靴をはいてエメラルドシティに向かうのである。
残念ながらハッピーエンドとは言えないが、オズの物語に深みを増してくれるだろう。
「The Girl in the Spider’s Web」David Lagercrantz
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ドラゴンタトゥーの女」という印象的なタイトルで、映画にもなったこのミレニアム3部作は、「面白い本」と聞かれたら必ずタイトルである。不幸にも著者のスティーグ・ラーションが亡くなったことで、続編を諦めていたのだが、本書によって別の著者による4作目がつくられたのである。
正直、著者が変わったことで本書は懐疑的に見ていた。実際序盤は描写がややしつこく、シリーズ三部作までに感じられたテンポの良さが失われてしまった印象を受けたが、中盤から物語が大きく動き出すとそんなことも気にならなくなり十分に楽しむ事ができた。
物語は、人工知能の第一人者であるBalderが殺害されることから始まる。しかし、幸か不幸かBalderの自閉症の息子Augustがその現場を目撃していたのである。それに気付いた犯人だが、その不自然な行動から自閉症と判断し、自閉症の子供であればわざわざ目撃者として殺す必要はないとその場を去る。実はAugustは自閉症でもサヴァン症候群という見た物を強烈に記憶し、写真のような絵を描く事のできる能力を持っていたのである。それを知ってAugustを殺そうとする犯罪集団とAugustを守ろうとするBlomkvistやSalanderを描く。
得意のハッキングで誰よりも早くAugustの危険を察知して救出するSalanderは、これまでの4作品のなかではもっともSalanderが優しくかっこいい人間として描かれている気がする。それはAugustという少年と行動することになったこの物語のせいなのか、著者が変わったせいなのかはわからないが、Salanderに対する見方が変わるかもしれない。
また、Augustの救出劇だけでなく、雑誌社ミレニアムの社員達も重要な活躍をする。特に若い優秀なAndrei Zanderは重要な役割を担う鵜。若く優秀でジャーナリズムを愛するAndrei Zanderの好きな映画、好きな小説が本書で触れられていたので挙げておく。
そして、やがて現れるSalanderの双子の姉妹Camilla Salanderの影。里親の証言からCamillaの歪んだ考え方が明らかになって行く。
今後も続編があることを感じさせる終わり方で、次回作品が楽しみである。
「遠い太鼓」村上春樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1986年から1987年までギリシャ、イタリアで過ごした村上春樹がその日々を語る。
3年の間、村上春樹はスペッツェス島、ミコノス、イタリアのシシリー、ローマと住む場所を変え、その場所で生活をしながら執筆活動を行った。そんななか書き続けた日々の記録が本書である。特に何か目的があって書いていたわけではないだろうが、ただの旅行者としてではなく、それぞれの国で生活していたからこそわかる、その国の事情が伝わってくる。
面白かったのは駐車場が作れない構造ゆえに解消しないローマの車事情や、選挙の旅に生まれた土地に戻らなければならないギリシアの選挙事情などである。また本書を通じで、村上春樹はイタリア人の仕事に対する熱意のなさを嘆いている。公務員がしっかり働かないから、イタリア市民は税金を納めないのか、それとも税金が回収できないから給料が安くてみんな働かないのか、最後までわからなかったが、日本のシステムは非常に微妙なバランスの上に成り立っているのだと感じた。
村上春樹はこの3年の間に「ノルウェーの森」「ダンス・ダンス・ダンス」を書き上げている。海外での生活が小説にどのように影響を与えたのか、あまり好きな作家ではないが、本書を読んだことで、ぜひその2作品を読んでみたいと思った。
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「黒い羽」誉田哲也
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
幼い頃から右肩に瑕(きず)のある君島典子(きみじまのりこ)は遺伝子治療を受けることを決意し、軽井沢にある研究施設に向かう。しかしその途中で車が横転し、生き残った4人の患者とスタッフで施設にたどり着くが、そこではさらなる悲劇が待っていた。
瀕死の状態でたどり着いた研究施設では、多くのスタッフ達がすでに惨殺されており、そんななか恐怖と向き合いながら4人で生きようとするという物語。
遺伝子治療という考えも特に新しい概念ではなく、それであれば皮膚の病気に悩む人々の心情描写をリアルに行っているというわけでもなく、全体的にあまり深みを感じられる部分がなく、誉田哲也の最近の本なのが信じられないほどである。
いい作品を書くことができる著者であるだけに、お金儲けのためだけに小説を書くというような著者にはなって欲しくないと思った。
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「フォルトゥナの瞳」百田尚樹
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
自動車塗装工として働く木山慎一郎(きやましんいちろう)はある日人の体が透けて見えることに気付く。それはその人が近いうちに死ぬ事を示すものだった。人の死が見えることで慎一郎(しんいちろう)の生活は変わって行く。
形こそ、近いうちに死ぬ人がわかる、というものだが、慎一郎(しんいちろう)の苦しみは、世の中に数多くあるタイムトラベルを用いた物語と共通している。未来が見えるゆえに近いうちに死ぬ人がわかり、その人を救いたいのだが、どのように説明すればいいかわからない、というものである。そういう意味では慎一郎(しんいちろう)のその能力ゆえの葛藤は、普段SF物語に触れている人には見慣れたものなのかもしれない。
一方で、家族を幼い頃になくし、天涯孤独で生きていながらも、目の前の仕事に誠実に取り組み、やがて恋に落ちる慎一郎(しんいちろう)の普通の人間としての生き方は尊敬できる。
物語は終盤に向かうにつれて、慎一郎(しんいちろう)は多くの人の死を知り、自らの行動を決断することとなる。
多少は形を変えているものの、よくあるSF物語の焼き直しという印象で、全体的には大きく予想を裏切ることも超える事もなかった。肩の力を抜いて読むにはいいかもしれない。
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「組織戦略の考え方 企業経営の健全性のために」沼上幹
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
組織というのは大きくなるに従って昨日しなくなって行く。無駄なミーティングに費やす時間が多くなり、忙殺される人がいる一方で、暇な人もいる。本書は組織が陥りがちなこととその改善方法や予防を著者の経験から説明する。
「組織戦略」という言葉からは、むしろ企業などの組織を競合とどのように渡り合って行くか、を描いたような印象を受けたが、本書で描かれているのは、むしろ組織内部が機能するための方法である。
まずは組織を単純なヒエラルキーと捕らえる事から説明する。組織とは、業務をプログラム化し、そのプログラムで対応できない状況のみを管理者・経営者が判断するという形を基本としているのだ。この状況が機能しなくなるのは、例外処理が増えすぎて管理者・経営者が忙殺されてしまうことから起こるのだそうだ。本書はこんな状況に対して5つの解決策を挙げて説明している。
中盤では、事業部制、職能性、マトリクス組織という3つの代表的な組織構造についてメリットとデメリットを説明している。
また、マズローの欲求階層説を挙げて、日本の多くの企業が「自己実現欲求」を過信していると語る。
本書の多くは僕自身が過去企業に属していて感じた事を再確認させてくれた。今後組織作りに携わる事が会ったら繰り返し読み直したいと思えるほど内容の濃さを感じた。
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「何を話せばいいのかわからない人のための雑談のルール」松橋良紀
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
雑談が苦手な人というのは意外にも多いようで、本書はそんな人のために雑談を巧くこなすための方法を語っている。
僕自身もどちらかというと合理的な生き方をしている人間なので、「会話は「情報交換」」という意識が強い。そのせいか、共通の趣味を持っている人には聞きたい事が山ほど溢れてくるのだが、初対面の相手には「あまりプライバシーに踏み込んでは失礼」という思いも手伝って、すぐに話す事が尽きる。そんな僕みたいな人間にとって、本書は耳の痛くなるような内容のオンパレードである。
後半は、よく言われるオープンクエスチョンや、話し相手を4つのタイプ(視覚タイプ、聴覚タイプ、体感覚タイプ、理論タイプ)に分類して会話を組み立てる方法など、実践してみたいと思う内容がいくつか含まれていた。話を掘り下げるチャンクダウンや漠然とした方向へ展開するチャンクアップなども、意識して会話に臨んでみると面白いかもしれない。
【楽天ブックス】「何を話せばいいのかわからない人のための雑談のルール」
「まっすぐ進め」石持浅海
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
川端直幸(かわばたなおゆき)が書店で遭遇した美しい女性は腕にふたつの腕時計をしていた。
本書は、直幸(なおゆき)が書店で出会った女性の謎を解く事から始まる。腕時計を2つしていたその女性、高野秋(たかのあき)は過去の辛い出来事ゆえにそのような行動をとっていたのである。そんな過去の重荷を背負った高野秋(たかのあき)はその複雑な心に気付いた直幸(なおゆき)とともに人生を歩もうと考え始める。
共に行動することが多くなった直幸(なおゆき)と高野秋(たかのあき)であるが、物語は終盤に進むにつれ、秋(あき)に起こった悲しい出来事の真実が明らかになって行く。心を開き始めた秋(あき)とそれに答えようとする直幸(なおゆき)の関係が温かい。
日常的なことのなかに、登場人物たちが推理を繰り返す石持浅海の世界観が今回も全快である。どちらかというと殺人絡みなのだが、本書は直幸(なおゆき)と秋(あき)の恋愛を中心に展開される点が新鮮である。
小さな謎と深い推理を楽しみ、読後は温かい気持ちに慣れるのではないだろうか。
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「蘇る教室」菊池省三/吉崎エイジーニョ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「学級方向立て直し請負人」という異名を持つ菊池省三の教育方針を、元生徒である著者が描く。
学級崩壊はなぜ起きるのか。序盤は現状の教育の現場と、菊池が立ち直らせた生徒達、立て直したクラスについてのエピソードとその方法について描いている。
まず印象的なのは本書のなかで「ほめ言葉のシャワー」と呼ばれる取り組みである。「ほめ言葉のシャワー」とは毎日帰りのホームルームで、その日の日直がみんなの前に立ち、生徒がそれぞれその人のいいところを褒めるのだ。いい行動を褒められる事で、引っ込み思案な生徒も、自分の存在価値を認識するのである。そして、普段素行の悪い生徒も、自分にもいいことができるということを学ぶのだそうだ。
その描写を見て思ったのは、両親に褒められることのない生徒というのが決して少なくないという点だろう。「ほめ言葉のシャワー」という取り組みによって変われる生徒がたくさんいるのは、その裏返しなのだ。
僕自身が比較的いい育てられ方をしたために、そのような状況で育てられる環境というのが想像しにくいのだが、教育というものを突き詰めるためには、多くの子供達がどのような環境で育てられているかを理解するのは大切だと思った。
菊池が生徒たちに教えようとするものの多くは、一生通じるような考え方ばかりである。
本書は教育に関する内容について書かれているが、大人になって誰もが一人前と認めて、自分を叱ってくれないと思う人は、菊池が生徒達に教えようとしていることに感じるものがあるだろう。
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「42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」」NHKスペシャル取材班
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
年々高速化が進むマラソンについて語る。本書では特にエチオピアのゲブレシラシエ、ケニアのパトリック・マカウを取り上げている。日本人と比較した際のこの2人のマラソン体質(乳酸の量や赤血球の形)も興味深いが、後半に触れいている2人の走り方の違いも興味深い。
また、タイトルにもなっているように、本書では、「つま先で着地」するマカウとゲブレシラシエの走り方が、日本人に多い「かかと着地」よりも有効であると説明する。しかし、それではなぜ日本人ランナーも「つま先着地」をしないのか。実は「つま先着地」の走り方を身につけるためには、幼い頃から「つま先着地」を繰り返し、それに必要な筋肉やアキレス腱を身につける必要があるのだそうだ。
また、なぜアフリカの選手がマラソンで強いのか、彼らの生活を説明する事で、その勝利に対するハングリー精神を示してくれる。また、マラソンで成功して裕福になった例だけでなく、裕福になったが故に酒に溺れて堕落した例もあり、自らを律することがどれほど重要なことかを改めて感じるだろう。
本書では、近いうちに20年以内に2時間を切るという予想についても触れている。正直、趣味でマラソンをする人に役立つような内容ではなかったが、繰り返し繰り返しトレーニングすることで伸ばす事のできる、人間の無限の可能性を感じられるのではないだろうか。
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「ウツボカズラの甘い息」柚木裕子
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2人の小学生の子供を持つ文絵(ふみえ)はお洒落に気を使う事もなくなっていた。しかしある日中学生時代の同級生加奈子(かなこ)に出会い、化粧品販売の仕事をすることになる。
また、鎌倉の別荘で起きた殺人事件を解決するため、神奈川県警の秦(はた)は若い女性刑事菜月(なつき)とコンビを組んで捜査をする。女性とコンビを組むことに対する秦(はた)の懸念や未だ男性社会である警察組織の描き方が興味深い。菜月(なつき)が能力の高い刑事として描かれているので、このコンビはむしろ別の物語で見てみたいと思った。
殺人現場で目撃されたサングラスの女は、文絵(ふみえ)に化粧品販売の仕事を持ちかけた加奈子(かなこ)と見られ、この女性の足取りを追う事が捜査の方針となる。
最後は予想を裏切る部分はあったものの、それでも全体的には、読み終わったら数日で記憶から消えてしまうようなよくある警察小説の1つに終わってしまっている点が残念である。
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「品のある人、品のない人 紙一重だけと決定的に違う些細なこと」中谷彰宏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人と会ったり共に行動したりするときにふと「この人は上品だな」と感じる事がある。それは一体どこから来るのか。著者が考える「品のある」「品のない」の行動やふるまいについて語る。
本書があまり好意的に受け取られていないのは想像に難くないが、個人的には比較的好意的に受け取った。少なくとも本書に書かれている内容はそれなりに僕自身の行動を見直させるものである。
さて「上品さ」と言うと、なんだか曖昧な感じがするが、結局それは、周囲の人間にどれだけ不愉快な思いをさせないように、さらにいえばどれほど周囲の人を快適な思いをさせるように、普段から行動できるか、ということなのだろう。例えば、雨の日に傘の先端を人に向けて持っている人の近くにいれば不快だし、カフェのカウンター席で、大きな音を立てて物を置く人がいればやはり不快である。ドアの閉じ方や歩く音など、誰もがそんな人の不快な行動がすぐいくつか思い浮かぶのではないだろうか。
では果たして自分自身はどうなのか、大人になるとなかなか人は自分の悪い振る舞いをただしてはくれない、だからこそ自分自身が常に自分の行動を意識することが大切なのだ。
みんな「自分は周囲の人間より上品」と思っているようで、僕自身も同様に、比較的上品な部類の人間だと思っているが、それでも本書には普段の行動を改めてたいと思う内容がいくつか含まれていた。例えば次のようなこと。
ぼろぼろになっても服や靴、ハンカチがあることに気付いた。もちろんこれは「もったいない」という考えとのバランスを取らなければならないことではあるが、「まだ使えるけど捨てる」という意識をもっと持とうと思った。
書かれている順番やその粒度がばらばらであるため、著者がただ周囲の人に文句を言っているように見えなくもない点が、不評を買っているのかもしれないが、書かれている内容から何かを学ぼうという姿勢で読めば得るものはあるだろう。人の意見に耳を傾けようとするか、それとも悪い部分をあげつらって頭ごなしに否定するか、それも「品のある、なし」なのかもしれない。
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「快挙」白石一文
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
高校を中退して東京に出て、離婚歴のあるみすみと、写真家を目指しながらも満足に生活費を稼ぐ事のできない俊彦(としひこ)の2人が、人生の数々の障害を乗り越えながらも共に生きて行く様子を描いている。
数年前に読んで、今でも好きな本である同じ著者の「私という運命について」は女性を主人公としているが、本作品は俊彦(としひこ)という男性目線で展開する。
写真家として大成しなかった俊彦(としひこ)はやがて小説家を志すようになる。成功間近で不幸が重なりつらい日々が続き、さらに病気に悩まされたりする中、妻のみすみが俊彦(としひこ)を支える。また一方で、みすみも流産を繰り返し失意の日々を送るときは俊彦(としひこ)がその支えとなる。
決して幸せとは言えない人生をお互いに支え合う様子がなんとも心に染みる。人生にはいい時もあれば悪い時もあり、そんななかの平穏が人生にとてもっとも幸せな瞬間だったいるするのだ。自らの人生を振り返る俊彦(としひこ)はみすみと過ごしたいくつかの時期に対してこんな風に語るのだ。
幸せは、過ぎ去って初めて気付くものなのだと、改めて気付かせてくれる。
安定した人生を相手に提供するのではなく、不安定な人生を共に乗り越えて行くという生き方こそ素敵で、2人の間に強い絆を作るものだと教えてくれる。
【楽天ブックス】「快挙」
「イーロン・マスク 未来を創る男」アシュリー・バンス
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカの起業家であり、スペースXのCEOであるイーロン・マスクについて語る。
スティーブ・ジョブスの次に世界を変えるのはこの男、と言われるイーロン・マスク。正直、最近になって初めてイーロン・マスクという名前を知って興味を持ったのだが、本書はそんな興味をさらに大きくしてくれる。
彼のやってきたことのなかで最も印象的なのはスペースXの取り組みだろう。彼は、人類が宇宙を旅する事を本気で実現しようとしているのだ。宇宙に行く事は可能だとしても、それが一般の人間が楽しむレベルになることはないし、そもそもそこまで宇宙に行くことに魅力もメリットもない、と多くの人は考え、だからこそ、世の中の企業は宇宙という分野に注力する事はなかったのだろう。しかし、マスクはそんな常識を覆し、古い権力や考え方に振り回されないようにロケットに必要なすべてをスペースXで作ることを実現して行くのだ。
AppleのiPhoneなどのかつてのイノベーションは、今ある物を改善したり、今はある物の隙間に新たなチャンスを見い出すようなものだったが、スペースXの取り組みは、これまでのイノベーションとはまったく違った印象を与えてくれる。それは誰も目を向けていなかった先へ人類を導く取り組みなのだ。
また、マスクはスペースXだけでなくテスラという企業で今までにない車を作る事にも取り組む。こちらについても本書を読むまで知らなかったが、多くの失敗を経て完成したテスラのモデルSにとても興味をかき立てられてしまった。
マスクのように、何事に対しても情熱的に生きてみたいと思わせてくれる。
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「旅のラゴス」筒井康隆
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
旅を続ける男ラゴスを描く。
ラゴスが旅しているのはどこだろう。アジアのどこか、モンゴルや中央アジアのあたりだろうか。しかし、ある民族と行動するラゴスは集団転移を日常的に自然な行動として行うのである。どうやらこれは、僕らがいる世界とは異なる世の中を描いているようだ…。
そんな不思議な世界観を本書を見せてくれる。そして、いくつか非現実的なことが起きながらも、ラゴスの旅は、人と出会い、別れを惜しみながらも再び旅に出る、の繰り返しで、時には恋をしたり、トラブルに巻き込まれたりと、どんな世界にも、時代にも共通する旅の魅力であふれているのだ。
本書でラゴスと旅をする中で、それはいつのまにか、場所を移動する旅と時間を超える人生という旅が重なって感じられるから不思議である。恋愛、労働、教育、学習、子育て、確執、そんな連続で人生は進んで行くのだ。短くもはかない人生の一つ一つの出来事を一生懸命生きるラゴスの姿に、心に染み入るような何かを感じるだろう。
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「ラファエル・ナダル自伝」ラファエル・ナダル/ジョン・カーリン
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
プロテニス選手のラファエル・ナダルがその人生を綴る。
ナダルと言えば、僕の中ではフェデラーに次ぐ存在で、どちらかというと華麗さや美しさよりも、力強さや泥臭さを印象として持っていた。その印象は本書を読んでも大きく変わることはなく、むしろ意外だったのは、控えめなその性格である。5歳年下の妹マリベルとは頻繁に連絡を取り合い、両親の住むマヨルカ意外では落ち着いて過ごす事もできないのだという。
2008年のウィンブルドンのフェデラー対ナダルの決勝はもはや伝説であるが、本人にとってもそうだったようで、本書では大部分をその試合の重要な場面とそれに関連する出来事を描くことによって占められている。ナダルが語るその試合の様子からは、世界のトップの選手がどれだけ多くのことを考えているかが窺い知れる。1つの試合のなかでも、重要な場面、諦めるべき場面、ひたすら我慢して好機を待つ場面、など、僕らが思っている以上に多くのことを考えながらプレーしているのだ。
また、本書からは、ナダルの成功は家族や周囲の人間達に支えられたものだとわかる。プロサッカー選手を叔父に持つナダルや家族は、トップ選手がどんな生活を送るかを前もって知っていたのである。また、叔父のトニーはナダルのコーチとして、自ら考えて行動する事とつらい練習や試合の厳しい状況に耐える忍耐力を植え付けた。時に理不尽と思えるトニーの言動がナダルの成功の大きな要因となっていることは間違いないだろう。
周囲の人間が、うぬぼれを恥ずかしいこととして行動する様子も印象的である。ナダルの母も、ナダルのガールフレンドもナダルの成功によって華やかな舞台に出たりは決してしないのである。
スポーツに限らず、自分が日々取り組んでいる事に対して、さらに深く考えようと思わせる一冊。
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「少年たちの終わらない夜」鷺沢萌
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
10代の少年達を扱った4つの物語。
今の生き方のままではいけないと思いながら、それでもやりたいことも見つからず、毎日過ごす少年達。
何か結論があるわけではないが、もう感じる事のできない、10代の日々、とりとめもない時間がまだまだ続きそうな空気感が漂っている。今でもこのように毎晩クラブに通うような文化が高校生にあるのかわからないが、そんな時間に青春の時間を注ぎ込んだ少年達のこころが見えてくる。
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「蛇行する川のほとり」恩田陸
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
美術部の先輩、香澄(かすみ)と芳野(よしの)に一緒に夏休みを香澄(かすみ)の家で過ごして作品を仕上げようと誘われた鞠子(まりこ)。その家は10年前に事件があった家だった。
久しぶりの恩田陸作品。相変わらず放課後の匂いが漂ってくるような、懐かしい雰囲気を醸し出している。毎回周囲を魅了するような美人が出てくるのも一つの特徴かもしれない。実際に目でみることのできるドラマや映画でなく小説だからこそ存在する事のできる「美人」である。
夏休みに憧れの先輩である香澄(かすみ)の家で過ごすことになった鞠子(まりこ)だが、周囲の人々から、気をつけるように言われる。一体香澄(かすみ)はなぜ鞠子(まりこ)を誘ったのか。やがてそれは10年前の事件につながっていく。
若干の非現実的さは感じさせるが、懐かしい夏休みの思い出が蘇ってくる。何でもできると思ったいた夏休みの始まり。1日の時間を持て余していた夏休みの日々。そして、たくさんあったはずの時間を巧く使ってこなかった事に気付く8月の終わり。もう味わう事のない懐かしい感覚を本書は提供してくれるような気がする。
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