オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
スピーチライターについてその仕事の内容と進め方について書いている。
スピーチライターという言葉が有名になったのは、やはりオバマ大統領の「Yes, we can.」に代表される魅力的なスピーチの数々による功績が大きいだろう。序盤はスピーチが歴史の重要な局面で重要な役割を果たしたいくつかの例を語り、スピーチライターが世の中に認められるまでの過程や、日本とアメリカのスピーチライターに関する意識の違い等を語っている。
中盤以降は実際のその仕事の流れを語っているが、その内容は必ずしも大それたスピーチやプレゼンの場だけでなく、日常の会話で役に立ちそうなものも含まれている。特に「共感を積み上げる」「反感は共感に変えることができる」というのは非常に興味深く、すぐにでも実行したいと思った。
終盤は実際に著者がプロジェクトでスピーチしている様子を詳細に描いている。もちろん、実際の企業などがわからないように多少言葉等は変えられているが、クライアントの気持ちや話し方にあわせて言葉を決めて行く過程や、実際に話す人と、スピーチ決定の担当者との意見の違いによって、内容を変えなければ行けないその過程は興味深い。言葉が持つ華やかさよりもずっと地味で根気を求められる仕事なのだとわかるだろう。
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カテゴリー: 評価
「人脈につながるマナーの常識」櫻井秀勲
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人脈に繋がるマナーについて著者の経験から語る。
著者の体験のなかからすぐれたマナーを紹介している、日本の文化の深みや、すぐれたマナーの深さを知る事ができるだろう。著者自身はすでに80歳を超えているということだが、Facebookなどのツールも人脈構築の手段として取り入れている点に驚かされる。また、様々なマナーについて説明するなかで、単純に世の中で「これが正しい礼儀」と言われている方法を実行するだけでなく、それを基礎としてどのように相手を気遣って修正するかが大切、と語っているのが印象的だった。
結局「マナー」とは相手、周囲の人を不快にさせない行為、楽しい気分にさせる行為なのである。一般的に知られたマナーに固執するあまり、相手を不快にさせては本末転倒なのである。
今日から行動を少しずつ変えて行こう、と思える一冊である。
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「過食にさようなら 止まらない食欲をコントロールする」デイヴィッド・A・ケスラー
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
世の中ではなぜこれほどまでに過食がはびこるのか。過食から抜ける事のできない原因を探る。
前半と後半は、過食に悩む人の研究を描く。僕自身は過食に悩む事はないが、本書で描かれる彼らの様子からは、「意思の弱さ」と一言では片付けられない深い心理的な理由があるようだ。また、過食から抜けるためには、食べ物が近くにあったりするなど環境の問題や、周囲の人間のサポートが重要であることがわかる。
しかし、個人的に本書でもっとも印象的だったのは中盤の「食品業界の手口」という章である。世の中の人気のレストラン等で出されるメニューが、視覚的かつ触覚的に可能な限りの享楽を詰め込んだ結果であることを説明するのだ。ある人気メニューは野菜の色で健康的に見えるように意図しながらも、大量のカロリーを含んでいるのである。砂糖、脂肪、塩をどれだけ見事に組み合わせ、食べる時の障害を可能な限り取り除いて消費者を惹き付けようとする試行錯誤に驚かされる。また、同時にここまで考え抜かれた食べ物の芸術に、抗う事のできない人たちがいるのも仕方がないとさえ思ってしまう。
本書のメインテーマである食欲のコントロールよりも、食品業界のメニュー作成の方法に興味を喚起させてくれた。
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「チューブ生姜適量ではなくて1cmがいい人の理系の料理」五藤隆介
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
理系の目線で書かれた料理の本。
結婚するまで料理をしなかった理系の著者が、妻の妊娠を機に料理に取り組み、上達して行く中で出会った障害を理系の男性にもわかりやすく書いている。著者も書いているように、僕ら理系の人間が料理をしようと思ってレシピを見て困るのは、「適量」とか「少々」という微妙な表現である。また「いちょう切りにする」「下味をつける」などの多くのレシピ本で一言で済まされてしまっている言葉も毎回頭を悩ませる。本書はまさにそんな理系の男性にとって、かゆいところに手が届く一冊である。
とはいえ、作っているものは基本以下のレベルのものなので、料理のレシピとしてはあまり有益とは言い難い。むしろ料理の道具の揃え方、基本的な調味料の役割などについて多くのページを割いて書いている。そのおかげでいくつか今までに疑問に思っていたことが解消された。例えば今までよくわからずに使っていたコショウについて本書ではこう書いている。
また、買った食材の保存方法や、冷蔵庫での冷凍、解凍の方法についても書いている。冷蔵庫の使い方なんて今まで深く考えてこなかったので、新たな視点を与えられたような気分になる。冷蔵庫の冷凍室は以前は上にあったのに最近は下にある、というのはちょっとした小ネタとして使えるかもしれない。
全体的に、書き方が非常に理系的なので、巷(ちまた)にあふれる感覚的な料理本にうんざりしている方にはおすすめしたい。
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「迷いながら、強くなる」羽生善治
将棋界で前代未聞の偉業を成し遂げた羽生善治が、その考え方を語る。
羽生善治の言葉は他の本などで耳にした事があり、それなりの深みを感じていたので、本書も楽しみにしていたのだが、読み始めてすぐ、文字の大きさとページのスペースの広さにがっかりした。実際、軽く読み終えることができて、印象的な言葉はほとんどなかった。あまり将棋に関わった話というわけでもないし、この内容であれば羽生善治(はぶよしはる)が書く必要はなかった気がする。軽いビジネス書として通勤時間の暇つぶし程度であれば役に立つかもしれない。一番魅力的な文章は本書のタイトルのような気がする。
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「Irene」Pierre Lemaitre
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
パリで2人の女性が惨殺される事件が起こった。Camilleはチームのメンバーと協力してその事件解決に務める。
日本でも「その女アレックス」で有名になったシリーズの第1弾である。ある猟奇殺人を発端としてやがてCamilleは過去に起こった奇妙な殺人事件のいくつかも含めて、ある小説にある殺害シーンと酷似していることに気付くのである。殺人者は何を基準にそのシーンを選んでいるのか、そしてどんな欲望を満たすためにそのような行為を繰り返しているのか、大学の教授や、本屋の店主などの協力を得て、殺人の現場に共通するシーンを描写している本がないか突き止めて行く。
やはり、小説に描かれた殺人シーンに似せて殺人が行われる、というのが本書の際立つ点だろう。見方を変えれば、すでに残酷な殺人シーンは世界中で書き尽くされている、と言う事もできる。本書で触れられているその殺人シーンを描いた小説が実在するものなのか非常に興味がある。
さて、物語の全体像は猟奇殺人鬼を追いつめて行く刑事の物語、とまとめることができるかもしれないが、実際には刑事Camilleの幼少期や恋人との時間や心の内を多く描写されている点も面白い。特に、興味深いのがCamilleは女性も見下ろさなければならないほど背の低い人間であるということだ。小説のような見た目を重視しない媒体で、なぜ主人公をそのような設定にしたのか不思議である。また、Camilleの母親が画家だったため、Camilleは一時期本気で画家になるために絵画の勉強に打ち込んだという、そんな経歴が事件解決にどのように関連して行くのか考えながら読み進めるのも面白いだろう。
またCamilleと妻Ireneとの関係も細かく描かれており、Ireneが妊娠した事によって2人の関係は少しずつ変わって行く。そんな恋愛模様も楽しめる。若干、結末が予想できるかもしれないが、パリを舞台にした警察物語に触れる機会があまりないので、全体的に新鮮に感じた。
「情熱教室のふたり 学力格差とたたかう学校「KIPP」の物語」ジェイ・マシューズ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「ナレッジ・イズ・パワー・プログラム(KIPP)」はマイケル・ファインバーグとデヴィッド・レヴィンによって1994年に設立された教育プログラムである。低所得者層の子供達が中心でありながらも目覚ましい成果をあげているKIPPができるまでの様子を、情熱的な2人の教師に焦点をあてて描いている。
最初は、教育への強い情熱を持ちながらも教室の生徒達を静かにさせることさえできなかったファインバーグとレヴィンだったが、やがてボールというカリスマ教師に出会ってその手法を学び、少しずつ自分達の教育スタイルを確立して行く。そしてやがて2人は「KIPP」という教育プログラムを立ち上げる事を決意するのである。
KIPPの特長として印象的だったのが、「教師の誓い」「保護者の誓い」「生徒の誓い」である。そこには教師、保護者、生徒たちが守るべきことが箇条書きに書かれており、3者が協力することが優れた教育を行うためには必要なのだろう。また、勉強しようとする他の生徒達を守るために、授業中に他の生徒を妨害するような生徒に対しては断固とした姿勢で対応する姿も印象的である。この姿勢は授業という場に限らず、共通の目的を持ったすべての組織に有効なように感じた。
ファインバーグとレヴィンは、KIPPを大きくする過程で、多くの障害を乗り越えて行く。時には周囲から非難されるような強引な手法を用いながらも、理想の教育のために突き進んでいくのである。その強引さは、保守的な教育界を変えるためには正攻法では難しいことを教えてくれる。様々な種類の人々が住むアメリカの教育を帰ることは日本よりはるかに難しそうに見えるが、彼らが様々な困難を克服しながらKIPPを軌道に乗せて行く様子は教育にはまだまだ可能性があると感じさせてくれるだろう。
母親や生徒達の視点で描かれている場面もいくつか挟まれており、最初は手に負えないかった生徒が、優秀な卒業生になる姿は涙を誘う。教育にもまだまだ改善の可能性があるのだと感じさせてくれる。
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「武士道ジェネレーション」誉田哲也
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「武士道シックスティーン」に始まるシリーズの第4作目。剣道に青春を捧げた香織と早苗の大学以降の物語である。
序盤は早苗の結婚式に始まり、大学時代の回想シーンで2人の高校後の様子が描かれるが、物語が主に早苗(さなえ)の結婚後、香織(かおり)の大学卒業後である。香織は毎日桐谷道場で子供達の稽古を任されるようになる。
相変わらず剣道に関してだけはおそろしくストイックな香織と、のんびりした早苗のやり取りはほのぼのしていてのんびり読み進めることができる。その一方で、「武士道セブンティーン」から続く、香織(かおり)と黒岩レナの因縁の対決も健在である。2人の関係が友情に変わって行く様子が暖かい。また、香織(かおり)が道場で子供達を指導する中で、自らの剣道に対する情熱を、子供達に伝えようとする様子も素敵である。
そんな中、特に香織(かおり)が道場の少年の1人に伝えた言葉が強烈である。
どこかに書いてとっておきたいような素敵な言葉である。
そんな時、師範である桐谷玄明(きりたにげんめい)が体調の衰えを理由に道場を閉じる事を示唆するのである。香織(かおり)が自ら跡継ぎになろうと名乗り出てもかたくなに道場の閉鎖を取り返さない玄明。やがて香織(かおり)は桐谷道場の剣道秘密に迫って行くのだ。
厳しい鍛錬を通じて、香織は身をもってその信念を体現しようとする。
また、同じ時期に桐谷道場にやってきたアメリカ人、ジェフも物語に彩りを与えている。議論の好きなジェフとの会話からアメリカと日本の考え方の違いが見えてくる。戦争に対する考え方、力に対する考え方。武士道の考え方の価値を改めて感じられるだろう。
信念を持って生きる事のすばらしさを感じられる1冊。改めてシリーズまとめて読み直したくなった。
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「働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。」戸田 智弘
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著者自身大学卒業と同時に会社で働き始めて3年後に会社を辞めている。その後本当に面白いと思える仕事を探しつづけるなかで出会った人や言葉や彼自身が至った考えを紹介している。
まず印象的だったのは、好きなことを仕事にしようと考えるとき、自分の好きな事が「趣味」なのか「娯楽」なのかをはっきりさせる、ということ。「趣味」ならばそれがやがて「特技」になる可能性があるが、「娯楽」は発展性のないただの息抜き、というのである。確かにこの考え方は「好きな事を仕事にすべき」と「好きな事は仕事にしないほうがいい」という2つのよく聞く意見があり、どちらの意見もそれなりに理解できる部分がある中で、「娯楽」という考え方を取り入れる事によって考えやすくなるのではないだろうか。
また、「いい我慢」と「悪い我慢」の話も悩める人にとっては有益な考え方だと感じた。
僕自身今好きな仕事ができているので、人生を変えるような言葉に出会えた訳ではないが、今も悩んでいる人にアドバイスに使えそうな表現や、これから悩んだときに手がかりにできそうな言葉に出会う事ができた。
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「リーン顧客開発 「売れないリスク」を極小化する技術」シンディ・アルバレス
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本当に顧客が求めているものは何なのか知るための、顧客インタビューの方法について語る。
本書ではまずこう語る。僕らが「いい製品」だと思っているのが顧客にとって「いい製品」とは限らない。本当の「いい製品」は顧客にしかわからないのだ。インタビューに数週間費やしたとしても、エンジニア達が開発に費やす数ヶ月が本当に意味のあるものなのか判断する事が非常に重要なのである。恐らく誰もがこれを事実だと認めることだろう。しかしどのようにそれを調べればいいかがわからない、というのが多くの人が感じている事ではないだろうか。
本書ではそれを実現するためのインタビューの技術や進め方について理由や著者の経験を交えて語っている。ユーザビリティテストなどを扱った他の書籍でも説明されている内容などと重なる部分もあるが、インタビューで起こりがちな失敗や、回答から学べる事、などインタビューに対して深い洞察を示してくれる。
印象的だったのは次の質問。
2つめの質問で、制作者側の考えているターゲットと異なる場合、なぜそのギャップが生まれるのかを理解する事が重要になるという。また、顧客が別の人に説明する言葉こそ、顧客への宣伝の言葉になるのだそうだ。
役に立ちそうなインタビューの質問が多く含まれていたが、アメリカの製品開発を基に書かれていたものなので、海外の製品を例にとって説明している場面が多く、日本人の僕に取ってはやや理解しにくいと感じる部分もあった。同じように、インタビュー用のスクリプトも英語から翻訳されたもののためか、若干不自然に感じたり、日本の文化にはあわないのではないかという感じる部分もあった。
それでも、全体的には顧客インタビューの重要性とその進め方が見えてくるだろう。
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「僕は自分が見たことしか信じない文庫改訂版」内田篤人

オススメ度 ★★★★☆
サッカー日本代表に19歳で定着し、鹿島アントラーズでもJリーグ3連覇に貢献し、現在ではドイツのシャルケ04で活躍する内田篤人がそのサッカー人生を語る。
サッカー選手の本というのは、中澤裕二や中田英寿の本のように本当に深く物事を追求し続けてサッカー選手にたどり着いた人がその心情を濃い内容のものと、逆にただ好きでひたすらサッカーをやっていたらプロになれた人のあまり言語化できない人が感覚的に書いたものとで大きく2つに分かれる気がする。内田に関しても、あまり挫折等を繰り返している感がなかったので、どちらかといえば軽い本を予想していたのだが、なかなか読み応えがあって面白かった。
印象的だったのは吐き気に悩ませられながらも周囲に黙ってプレーを続けていたというところである。本書でも書かれているように、ポーカーフェイスであまり周囲に感情を出さないように見えるが、いろんな悩みを抱えていないわけではないのである。
もちろんまだ若いのでその未熟さが感じられる部分はあるのだが、それでも海外を中心に普通と異なる生活を送っている人の強く割り切った考え方が見えてくる。
ヨーロッパの人たちは、怒るとすぐに人のせいにしてきます。おもしろいもので、人のせいにする人は伸びないんです。常に反省がないから。僕のせいじゃないのでは? と疑問に思うことも多々あります。そういうときに僕は「はい、僕が悪かったです。その代わり、今あなたが捨てた"伸びる"分を僕にください」って思うようにしています。
ノイアーやラウルなど、海外の有名選手とのエピソードにも楽しませてもらった。
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「Logo Design Love: A guide to creating iconic brand identities」David Airey

オススメ度 ★★★★☆
ロゴデザインの本というと多くのロゴを集めたものが多い。それはそれで見ていて楽しいが実際に仕事としてロゴデザインをする人にとっては物足りないだろう。なぜなら素晴らしいロゴは、見た目だけでなく、クライアントの求めるものを満たすからこそ素晴らしいのだから。
本書はロゴを紹介しながらも、クライアントのロゴデザインをする上での仕事の進め方や注意点を多くの事例を交えながら説明する。どのようにして相手の担当者をプロジェクトに巻き込むか。プロジェクトとして良く起こりうる事は失敗はどのようなことから始まり、それを避けるにはどうするべきなのか、など。
もちろん、ロゴデザインにおいて基本的に抑えておかなければ行けない点も一通り網羅している。
また、技術的な話だけでなく、見積もりについても描いてある。印象的だったのは、ピカソが描いたスケッチの話を用いて、経験による金額の上乗せを説明している点である。
成功事例だけでなくTropicanaなどの失敗事例も掲載している点が面白い。本書を通じて多くの素晴らしいロゴに出会う事ができたし、またロゴデザインがしたくなった。
「ハケンアニメ」辻村深月

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
その時期にもっともDVDを売り上げる「ハケンアニメ」を目指すプロデューサーやアニメーター達の様子を描く。
最近はあまりアニメを見る機会がないが、別に興味がない訳ではなく時間が取れないだけ。僕らが子供の頃とは違って今はアニメは深夜に放映されることが多く、またそこに割かれるお金や人も大きくなっているようだ。本書はそんなアニメ制作の様子を3人の登場人物に焦点をあてて描く。
1人目はプロデューサーである有科香屋子(ありしなかやこ)。才能を認めている監督に存分に力を発揮してもらうために振り回されながらも奮闘するのである。アニメーション制作の現場を描く様子には、アニメと小説という風に形は違うけれども、同じようにクリエイティブな仕事をする著者辻村深月が、普段感じているだろうことがにじみ出てくるのが面白い。例えば、香屋子(かやこ)に対してアニメーターがこんなことを言うのだ。
勝てると思いますよ。あの人、人の顔覚えないから。そこが弱点。
きっと辻村深月自身が人の顔を覚える人に対して特別な思いを抱くのだろう。こういう部分がフィクションを単純に「作り話」として済ませられない理由である。フィクションでありながらも現実に適応できる考え方が多く埋め込まれている作品こそ僕にとっての「いい作品」である。
ちなみに、2人目の登場人物は法律を学んだ後にアニメ業界に転身した映画監督斉藤瞳(さいとうひとみ)である。女性でありながらもドライな正確な瞳(ひとみ)は、声優やプロデューサーやアニメーターなど現場のいろんな人との関係に悩みながらも、自分の理想とする作品を作り上げて行くのである。
3人目はアニメーターで驚くほど上手い絵を描く並澤和奈(なみさわかずな)。絵を描くのが好きで仕事をしているが、自らオタク女子と認識しており、リア充にコンプレックスを持っている。もっとの多くのページが割かれているこの和奈(かずな)の章は、アニメの世界に没頭する「オタク女子」と呼ばれる女性の複雑な心を爽やかに描く。
和奈(かずな)が制作に関わったアニメの舞台となった地方の街が「聖地巡礼」によって観光を盛り上げようとしているなか、和奈(かずな)自身もその活動の担当を任され、熱血公務員宗森(むねもり)と協力することとなるのである。地方公務員の「リア充」宗森(むねもり)の地域を盛り上げようとする努力を目の当たりにするなかで、少しずつ和奈(かずな)の心が変化して行く様子が面白い。
理解できない相手のことが怖いから、仰ぎ見るふりをして、この人を突き放して、下に見ていた。自分は非リアで、充実した青春にも恋愛にも恵まれてないんだから、これくらいのことを思う権利があると、勝手に思っていた。人より欠けたところが多い分、自分の方が深く物を見てるんだからと自惚れていた。
そしてそれぞれがすばらしいアニメを制作することを目指しやがてハケンアニメが決まるのである。時間を確保して良いアニメが見たくなる爽やかな1冊。
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「成功する子失敗する子」ポール・タフ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中には成功する子と失敗する子がいる。自分の子供を成功させたくて、お金をかけて教育を施したり、厳しくしつけたりする親がいるが、果たしてそれは正しいのだろうか。
まず誤解しないで頂きたいのは、本書で言う「成功」とは、いい大学に入ったり、いい成績を取ったり、という「短期的な成功」ではないという点である。逆境のもくじけず、物事に挑戦するこころを常に持ち、それによって人生を幸せに生きることが本書の言う「成功」なのである。
まず本書が紹介しているのが、子供時代の逆境によるストレスと成人してからの人生のネガティブな結果には明らかな相関関係である。ストレスが発達段階の体や脳にダメージを与えるのというのである。しかし、一方で親の愛情によってそのストレスは軽減することもできるのだという。つまり、不幸な境遇や貧しい家庭に育っても、親が愛情を注いで育てることで将来成功をする心を持った子供は育てることができるのである。
そしていくつかの教育機関と人に焦点を当てている。そのうちの一つがKIPPアカデミーである。KIPPアカデミーは革命的な教育で低所得層の子供達の成績を向上させ多くのメディアにも取り上げられたにもかかわらず、卒業生のうち大学を卒業した者はわずか21%だった。「一体卒業生達が大学を卒業するために何が必要だったのか」KIPPの創立者であるレヴィンは成績以外の生徒達に必要な者を探し始めるのである。
後半ではチェスの強豪であるIS318の生徒達とチェスの指導者スピーゲルのやり取りを紹介している。スピーゲルが試合に負けた生徒達に必ず試合の後、自分の駒の動かし方と向き合わせて検証させているシーンが印象的である。負けと向き合い、困難と向き合うことの一つの答えだろう。また同時に、チェスだけに打ち込むことが本当に子供達にとって幸せかどうかはわからないとしているスピーゲルの態度も興味深い。
結局本書はどんな育て方が正しいとか、どんな人生が幸せであるとか書いてはいない。貧困問題など現在アメリカ社会が抱える問題を指摘して締めくくっている。
多くのことを考えさせる1冊。機会があれば定期的に読み返したい。
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「ジョコビッチの生まれ変わる食事」ノバク・ジョコビッチ
オススメ度 ★★★★☆ 4/5
度重なる体調不良によって敗退することの多かったジョコビッチは医師のアドバイスで食事を買えてから劇的なる変化を果たし、ついに世界ランキング1位に上りつめた。そんなジョコビッチが食事の重要性について語る。
子供時代やこれまでの成功の過程を挟みながら、食事に対する考え方を書いている。ジョコビッチの食事の改善はひと言で言ってしまえばグルテンフリーである。グルテン不耐性という小麦製品に対して過敏な体だったために試合中に不調を起こしていたのである。グルテンとは大麦や穀物に含まれるタンパク質でパンに柔らかさを出すために使われるが、一部の人間はグルテンを消化できないために深刻な肉体反応を引き起こすのだと言う。
本書はこのようにグルテンというものの存在を意識を向けてくれるが、すべての人にグルテンフリーを勧めているわけではない。人には、乳製品、カフェインなどそれぞれ体に合わない製品があり、それを知ることによってもっと健康な生活を送れるというのである。本書はそんな自分にあわない食べ物を見つける方法として、14日間一部の食物を食べない期間を設け、体調の変化を見ることを勧めている。実際、ジョコビッチはグルテンフリーを最初に14日間試したとき、1週間で毎日悩まされていた鼻づまりが消えたのだそうだ。確かに14日だけなら我慢できるものもたくさんあるだろう。実際体に合うか合わないかわからないのに怪しい食べ物をすべて辞めるよりも手軽に始められる。
また、ジョコビッチの食事に対する真摯な向き合い方にも感心する。ジョコビッチはそれぞれの食べ物を口にするときに、筋肉になるように、エネルギーになるように、と意識しながらゆっくり食べるのだそうだ。部分的にでもぜひ見習いたいと思った。
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「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」松尾豊
オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
人工知能研究者で東京大学の准教授である著者が現在3回目のブームに差し掛かっているという人工知能について語る。
著者が書いているように、これまで人工知能はブームと誰の話題にも上らないような冬の時代を繰り返してきたという。確かに「人工知能」という言葉はかなり以前から耳にするが、現実に人工知能が生活のなかに浸透しているとは言い難い。本書ではまず、その理由の1つとして「人工知能」という言葉による世間の認識と専門家の考えのずれを指摘する。そして、第一次人工知能ブーム、第二次ブーム、第三次ブームをそれぞれの特長を交えて説明するのである。
著者が意識的に簡単な言葉を使おうとしているのは伝わってくるが、それでもなかなか説明を読んだだけで理解することは難しい。第1次ブームが「推論」と「探索」の時代、第2次ブームが「知識」の時代、第3次ブームが「機会学習」と、なんとなく過去の人工知能ブームの違いが感じられる程度である。
後半では人工知能の未来として、ターミネーターなどの映画で御馴染みの「特異点」についても触れている。この辺りの内容は、多くの人が興味ある内容かもしれない。
全体的にあまり上手く書かれているとは言い難い。初心者向けと言えるほどわかりやすく書かれているわけでもなく、かといってしっかり理解したい人向けに詳細に書かれている訳でもない。書きたいことを書いてそれぞれを無理に繋ぎ合わせたという印象である。
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「きのうの影踏み」辻村深月
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
17個の少し不思議で怖い話。どれもとても読みやすく、それでいて今までに聞いたことのある話と少し違う。
17もの話が含まれているということで、短い話は5ページに満たない。子供の頃やったかくれんぼや、小学生の頃のキューピッドさんなど、懐かしさを感じることを取り入れている話も多々ある。
個人的に好きなのは「ナマハゲと私」。小学校低学年の子供は怖がっているが、高学年になるとナマハゲが来てもテレビを見ることを優先するなど、地元の人にしかわからないナマハゲの現実が見える。もちろん、この物語の結末もただ単にナマハゲの現状を語るだけでは終わらない…。
その他にも短くて少し不思議で怖い物語がたくさん含まれている。夏に向かうこの季節にちょうどいいのではないだろうか。
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「ペテロの葬列」宮部みゆき
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
杉村三郎(すぎむらさぶろう)は同僚と取材した帰りにバスジャックに遭遇する。妙なことに犯人の老人は人質となった人々に事件解決後に慰謝料として大金を払うことを約束するのである。
物語の発端はバスジャックという形をとっているがバスジャック自体はすぐに解決し、物語は人質となった7名が、名前の知れない老人の正体を突き止める過程を描く。そして、その過程でネットワークビジネスや詐欺など、社会の問題に踏み込んで行くのだ。
そして、その流れとは別に、杉村三郎(すぎむらさぶろう)とその妻菜穂子(なおこ)の関係や会社での同僚との関係もシリーズ内の他の作品よりも多く描かれている。派閥争いに敗れた同僚との関係は、今の世の中どこにでも起こりうることで、やけに現実味を感じてしまった。
バスジャックという一見派手な物語展開を取り入れながらも、それぞれの登場人物の人生に焦点を当てていくあたりは、人の心を描き出すのが上手い宮部みゆきらしい。しかし、若干詰め込みすぎの印象も受けた。同じことを訴えるのに、ここまでたくさん詰め込みここまで物語全体を長くする必要はあったのだろうか、と。
最後は次回作へのつながりを予感させる終わり方。若干後味の悪さを感じさせるが、続編のための伏線なのかもしれない。
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「アジャイルサムライ 達人開発者への道」Jonathan Rasmusson
オススメ度 ★★★★☆ 4/5アジャイルという言葉をよく耳にするようになってすでに数年が経った。言葉としては何度もその説明を聞くことはあっても、なかなか実際の進め方がわからない。本書はそんな人がさらに深くアジャイルな開発を理解するのに役立つだろう。
アジャイル開発の手法がいくつかあるなかで、本書はエクストリーム・プログラミングに焦点をあてて書いている。正直、まだスクラムやリーンとの詳細な違いがわからないが、よく使用される言葉はスクラムでは次のように対応するということだ。
- イテレーション(スプリント)
- マスターストーリーリスト(プロダクトバックログ)
- 顧客(プロダクトオーナー)
全体を通じで感じるのは、結局臨機応変にプロジェクトを走らせることを突き詰めた結果がアジャイルという手法だということで、正確に定義された枠組みはないし、まだまだ発展の余地はあるということ。むしろアジャイル開発との比較で描かれる、アジャイルではない開発手法の無駄の多さに驚かされる。
また本書ではアジャイルなメンバーとしてゼネラリストが求められていると書いているが、デザイナーとプログラマーの垣根を維持している点が興味深い。デザイナーもプログラムを、プログラマーもデザインをできることこそゼネラリストの理想形だと思った。
後半では著者自身それぞれの項目だけで1冊の本が書けるというユニットテスト、リファクタリング、テスト駆動開発にも軽く説明している。その内容よりもそれに抵抗する人の考えや、それによって説得方法が見えてくる点の方がありがたい。
現在僕の会社ではアジャイルコーチを迎えてアジャイル開発を少しずつ取り入れているが、そこで話している内容をさらに理解するのに役立った。
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「自分を動かす言葉」中澤佑二

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本代表主将までのぼり詰めだ著者はその徹底した生き方の力の源の一つとして「言葉の力」を挙げている。イビチャ・オシム、岡田武史、貴重な出会いのなかで著者が授かった言葉を紹介している。
本書のなかではいくつも印象的な言葉が紹介されているが、なかでも印象的だったのはこの言葉。
人生において『成功』は約束されていない。しかし人生において『成長』は約束されている
田坂広志さんの「未来を拓く君たちへ」のなかで紹介されていた言葉だそうである。また、この言葉は以前も聞いたことがあるような気がするが、マジックジョンソンのこの言葉も印象的である。ちょっと長いのだが全文引用させていただく。
『お前には無理だよ』と言う人のことを聞いてはならない。
もし、自分で何かを成し遂げたかったら、できなかったときに
他人のせいにしないで、自分のせいにしなさい。
多くの人が、僕にも『お前には無理だよ』と言った。
彼らは、君に成功してほしくないんだ。
なぜなら、彼らは成功できなかったから。
途中であきらめてしまったから。
だから、君にもその夢をあきらめてほしいんだよ。
不幸な人は不幸な人を友達にしたいんだよ。
決してあきらめては駄目だ。
自分のまわりをエネルギーであふれたしっかりした
考え方を持っている人で固めなさい。
近くに誰か憧れる人がいたら、その人のアドバイスを求めなさい。
君の人生を帰ることができるのは君だけだ。
君の夢が何であれ、それにまっすぐ向かって行くんだ。
君は、幸せになるために生まれてきたんだから
一方で「この言葉のどこに動かされたんだろう?」と思うような言葉も紹介されている。きっと言葉の重さは、その言葉を構成する単語や文と同じくらい、その言葉を与える人や、その言葉を与えられる状況に影響されるのだろう。そして本書で言葉について語るなかで、中澤の支えになった人々との交流が描かれる。悔しさや悲しさや情けなさや優しさ、そういったものすべてを自分の力にしてきたことが伝わってくる。
【楽天ブックス】自分を動かす言葉