「盤上に散る」塩田武士

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
なくなった母の持ち物を整理していた明日香(あすか)は母から林鋭生(はやしえいせい)という男に宛てられた手紙と林鋭生(はやしえいせい)に関する新聞記事を見つける。母の手紙をを届けるために林鋭生(はやしえいせい)という男を探すことにし、やがて林鋭生(はやしえいせい)は賭け将棋で生きる真剣師であることを知る。

明日香はやがて、同じく林鋭生(はやしえいせい)を探すリーゼントの男性達也(たつや)と行動を共にすることとなる。いろんな将棋関係者に話を聞きながら、林鋭生(はやしえいせい)に近づいていく。そして、達也を使って鋭生(えいせい)を探す刑事の市松(いちまつ)もまた、鋭生(えいせい)を見つけなければならない深い理由を抱えており、少しずつ真実の明らかになっていく。

真剣師という生き方や、将棋の駒も作りがすごければ芸術となることを本書を読んで初めて知った。登場人物が多くて途中やや中だるみするが、謎が溶けていく後半は一気に読ませてくれる。真剣師という、プロの世界とはまた違った世界で将棋に命をかける人々を描いた作品。将棋がやりたくなっただけでなく、将棋の駒という芸術に関心を関心を抱かせてくれた。

著者塩田武士は本作品で初めて触れたが、どうやらほかにも将棋を題材とした作品を書いているようだ。ぜひ他の作品も呼んてみたいと思った。

【楽天ブックス】「盤上に散る」

「淳子のてっぺん」唯川恵

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

子供の頃山登りが好きだった少女淳子(じゅんこ)が、やがて大学生、社会人となって思うようにいかない人生に嫌気がさしていたとき、ふたたび山登りに心身ともに救われる。それからというもの登山が生きがいになり、少しずつ登る山も高くなっていく。そんな淳子の挑戦を描く。

どうやら本書の主人公である淳子は、実在する人物田部井淳子をモデルにしているらしい。唯川恵というと、どちらかというと女性向けの恋愛小説というイメージがあったが、今回はそんなイメージを覆すような、実話に基づいた女性のすばらしい生き方をを描いている。

社会人になったあとの淳子は、それまで男性ばかりだった登山という文化の中で、女性だけの登山隊の実現をしようとして、女性だけの登山隊を組んでアンナプルナやエベレストといった世界最高峰へと挑戦していくのである。今更ではあるが、そもそもエベレストのような高い山にどのように挑戦するかを本書を読むまで知らなかった。ただ一直線に頂上を目指して登るのではなく、集団で、途中となんども行き来して荷物や食料をはこびながら少しずつキャンプの位置を上げていくのである。そして、最後の頂上アタックは、そのとき体調のいい人だけが決行する。という流れをとるのである。

海外に行くだけで膨大な費用が必要だった1970年代ゆえに、現地までいきながら頂上へ挑戦できなかった女性たちの憤慨は理解できるし、女性ゆえにその感情を表に出さないわけにはいかず、その結果、集団としては頭頂という目的を達成しながらも、やるせない気持ちで帰国せざるを得ないことは、本書を読まなければわからなかっただろう。

ただ単に、山登りの良い面だけでなく、人間同士の葛藤なども読み取れるのがいいところだろう。決して、命をかけて登山をしたいとは思わないが、エベレストやアンナプルナ、アイガー、マッターホルンといった有名な山々についてもっと知りたくなった。

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「この世の春」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宝永7年(1710年)の初夏、各務多紀(かがみたき)と父各務で暮らしている家のもとに、ある晩、御用人となった伊藤成孝(いとうなりたか)の嫡男をかかえた女が駆け込んできた。自分の家が御用人である伊藤成孝(いとうなりたか)とどのようなつながりを持っているのか。そんな疑問を持つた多紀は少しずつ藩内の権力争いの秘密に関わることになる。

北見藩というのは架空の名前で下野内にある架空の藩を舞台としている。江戸時代を描いた多くの物語は、徳川家や江戸を扱ったものばかりのため、このように地方を舞台としたものは珍しく、当時の人々の様子を知ることができる。

やがて父の死を機に、多紀は北見家の別邸である五香苑へと連れられていく。そこには自害したはずの伊藤成孝(いとうなりたか)と元藩主である北見重興(きたみしげおき)が匿われていたのである。北見重興(きたみしげおき)は藩主の座を追われたのは、複数の人格を持っていたためである。多紀たちは重興(しげおき)のその病気の謎を解明を試み、やがて北見家にまつわるおおきな影と向き合うこととなる。

江戸の時代を扱ったものではあるが、人々の悩みや葛藤、立場の違いによる考え方の違いなど宮部みゆきらしい描写力で、現代の人々のようなリアルさを感じる。歴史の物語のなかでしか触れることのないような過去の話でも、人はいつも一生懸命悩みながら生きているのだと伝わってくる。

【楽天ブックス】「この世の春(上)」「この世の春(中)」「この世の春(下)」

「The Huntress」Kate Quinn

オススメ度 ★★★☆☆ 4/5
第二次世界大戦後、多くのドイツ人将校たちがニュルンベルク裁判で有罪判決を受けたが、小規模な戦争犯罪者たちは名前を変え、国外で普通の暮らしに戻っていた。そんな戦争犯罪者に弟を殺された戦争ジャーナリストのIanと仲間たちは世界中に逃亡した戦争犯罪者たちを正義のもとに引き出そうとしていた。

物語は三つの物語が織り混ざって進む。IanとTonyは戦争犯罪者を追い詰める組織を維持しながら、Ianの弟を殺したLorelei Vogtの足取りを探していく。一方、時代を遡ってソビエト連邦の東の果て、バイカル湖の近くの田舎町で育ったNinaは、やがてパイロットとを目指して西へと向かう。アメリカのボストンに父とクラス女性Jordanは父の再婚相手に不信を感じながらも少しずつ新しい生活に馴染んでいく。

まず何よりも戦争犯罪というと、ナチスのヒトラーや映画にもなったアドルフアイヒマンという大量殺戮に関わった人物しか考えたことがなく、本書で扱っている数人程度を殺害した戦争犯罪者という存在事態を考えたこともなかった。そんな小さな戦争犯罪者たちをIanとTonyは探し出し裁判を受けさせるようと活動しているのである。本書ではやがて、Lorelei Vogtという女性一人に絞って、Ianの妻Ninaと3人でアメリカに渡るのである。

一方で、ソビエト連邦のパイロットのNinaの物語が、この物語だけで一冊できそうなほどの濃密なのも驚きである。Ninaの物語は、バイカル湖周辺という首都モスクワから遠く離れた田舎で始まり、不時着した飛行機のパイロットに遭遇したNinaはパイロットになることを夢にみて西へ西へといくのである。日本から見たらどんな文化があるのかまったく想像できない地の描写も魅力的だが、戦時中のソビエト連邦の女性パイロットの物語としても秀逸である。Kate Quinnにはこの物語に絞ってぜひもう一冊描いて欲しいところである。

最初はなぜIanの書類上の妻でしかないNinaをここまで詳細に描くのかわからなかったが、物語が終盤に進み、Lorelei Vogtを追い詰める中で少しずつNinaの存在感が高まっていく。Kate Quinnの作品を全部読んでみたいと思わせてくれた一冊である。

和訳版はこちら。

「Where the Crawdads Sing」Delia Owens

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年本屋大賞翻訳小説部門受賞作品。ノースカロライナ州の湿地帯に暮らすKyaの家族は、父のアルコール依存症と暴力の前に一人、また一人と家を出て行って、最後にはKyaと父の二人だけになった。やがて父も家に戻らなくなり、Kyaは一人で野生の生き物とともに生きていくこととなった。

狼少年など、幼い子供が文明と離れて生きていく物語はあるが、この物語のKyaの場合、幼い頃は両親がいたために言葉を話すこともでき、また、人間の文化から遠く離れて生きているわけではないので、ボートの燃料を買うためにとった貝を近所のお店で売ったりして生ききているのである。両親がいないために、学校のなじむこともできずに、やがて人々から「Marsh Girl」と蔑んで呼ばれ、様々なうわさが飛び交うこととなる。

前半は、Kyaの家族がいなくなったあとに一人で生きる様子を描いている。Kyaの様子だけでなく、その近隣で見られる、鳥や植物の描写が非常に細かく、物語の展開以外にも新たな視点を与えてくれるだろう。

十代後半になると、そんな不思議な存在に魅力を感じる男性たちと恋愛関係に陥る。教育や街の生活と離れて生きていくKyaの物語。後半はそんなときに起こった一つの事件を描いている。

一人の女性を中心として自然を描いたあまり類を見ない作品。物語の展開として面白いとは言えないかもしれないが一読の価値はありである。

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第156回直木三十五賞、2017年本屋大賞受賞作品。

ピアノコンクールに集まったピアニストたちの様子を描いている。

マラソン大会だけを描いて1冊を終える「夜のピクニック」も驚きだったが、本作品も、数日間にわたって行われるピアノコンクールのみを扱っており、その前後の物語はほとんどない。参加者の視点、審査員の視点、参加者の妻や友達の視点に切り替わりながら、文庫本にして2冊の量を読者を飽きさせずに読ませ続ける。それぐらいピアノコンクールという多くの人にとって未知なイベントを、ドラマチックに仕上げているのである。

物語は、ピアノに情熱を注ぐ4人の人を中心に描いている。かつては天才少女として活躍したにもかかわらずピアノをやめていた栄伝亜夜(えいでんあや)20歳、サラリーマンの高島明石(たかしまあかし)28歳、優勝候補のマサル19歳、自宅にピアノを持っていないという異色の環境の風間塵(かざまじん)16歳である。

1次予選、2次予選、3次予選とコンクールは進み、少しずつ調子をあげていく人もいれば、緊張で実力を発揮できない人もいる。間違いなくシビアな世界で、多くの人が報われずに終わるとわかっていても、そんな舞台に出て戦うことを選んだ人生を羨ましくも感じてしまう。

音楽を奏でるということをやってこなかった読者にも、音楽を奏でることの魅力が十分に伝わってくる。きっと多くの人が本書を読んだ後に、その音楽を聴こうとYouTubeを彷徨うだろう。直木賞、本屋大賞のダブル受賞も納得の一冊。

【楽天ブックス】「蜜蜂と遠雷(上)」「蜜蜂と遠雷(下)」

「みかづき」森絵都

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
昭和36年、小学校の用務員室で勉強についていけない子供達に勉強を教えていた大島吾郎(おおしまごろう)の元へ、生徒の母、赤坂千明(あかさかちあき)がやってくる。学習塾を一緒に作るためであった。戦後から平成まで、千葉で始まった学習塾の物語である。

物語は、大島吾郎(おおしまごろう)が赤坂千明(あかさかちあき)立ち上げた八千代塾が、時代の波に乗って大きくなる様子。そして、大島家の
家族の様子が描かれている。教え方や、補習塾と進学塾の方針の争い、学習塾の生き残りをかけたいやがらせ工作や合併など、今まで漠然としか知らなかった塾業界の様子がよくわかるだろう。

今でこそ学習塾の存在は当たり前で、むしろ塾に行ってない人のほうが珍しい時代だが、昭和30年代40年代は、塾に行っている生徒は白い目で見られたという、それが少しずつ変化し、平成に入ると塾に通ってない生徒の方が珍しい存在となっていく。また一方で、企業としての塾と、行政としての教育委員会の関係も少しずつ変化していくのである。

本書では、教育は常にどこかが足りないと感じながらも、それを補おうと努力するぐらいがちょうどいいと言っている。

欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むものかもしれない

描かれている時代も長く、登場人物も多く読み応えがある。教育に関心がある人にはぜひ読んでほしい一冊である。

【楽天ブックス】「みかづき」

「風の海 迷宮の岸」小野不由美

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
十二国記の戴(たい)の国の麒麟として生まれながらも、天変地異に巻き込まれ、日本で普通の男の子として生活していた泰麒(たいき)が、十二国に帰還し、すこしずつ麒麟としての生活に慣れ、力を発揮していく様子を描いている。

ここまで「魔性の子」「月の影 影の海」を読んでいる中で、少しずつ見えてきた十二国の仕組みが、今回は、麒麟という種族の目線で明らかになっていく。十二国における麒麟の役割とは、それぞれの国の王を選ぶことである。泰麒(たいき)は戴の国の麒麟なので戴王を決めることがその役割である。自らの能力に疑問を持ちながらも、王を選ぶという大きな役割の前に葛藤する様子が描かれる。

少しずつ十二国のドラマが本編に入っていく感じを受けるが、まだまだ、「十二国記」全体の感想を語るには早すぎるようだ。続けて読み進めていきたい。

【楽天ブックス】「風の海 迷宮の岸」

「The Alice Network」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
子供を身ごもって母とフランスに旅行中のCharlieは、戦時中に行方不明になった従姉妹のRoseを探して、手がかりとして手に入れた一人の女性Eveを訪ねる。その女性は戦時中に女性の諜報活動として大きな役割をになったAlice Networkの一員だった。

それまで保守的な母の言う通りに生きてきて、子供を身ごもってしまったが故に、遠くのスイスで秘密裏に子を産んで元の生活に戻ろうと母と旅行していた際に、CharlieはRoseを訪ねて母の元から逃げ出して、唯一の手がかりとし浮上したEveという女性を訪ねる。EveとEveと行動をともにしていたFinnとの3人で心当たりとなった場所を訪ね回る中で、それぞれが少しずつ心を開き始め、お互いの過去を語りはじめる。

物語は 1915年の第一次大戦中にEveが諜報活動の採用を受けてAliceと出会い少しずつ諜報活動の重要な役割を担っていく場面を交互に展開していく。現在と過去の間が少しずつ埋まっていくのである。Eveの醜い手には一体何があったのか、その美しいAliceは今どうしているのか。読者は、多くの部分に興味をそそられて先へ先へとページをめくっていくだろう。

3人がフランスの様々な場所を移動するのが興味深い。パリなどいくつかの有名な都市しか知らない僕にとっては、聞いたこともない都市が実は戦時中は戦況を分ける重要な場所だったと知って驚かされた。また、戦時中の女性たちの行き場のない怒りややるせなさも、EveやLilyの行動を通じて知ることができた。そしてなにより、この物語は、実際に存在した女性Louise de Bettignies(コードネームをAlice Dubois)を題材としているという点も、本書を通じて初めて知った。機会があったらもっと調べてみたいと思った。

この本の著者Kate Quinnの書籍に触れるのは今回が初めてであるが、他の作品もきっと深い内容だろうと思わせてくれた。ぜひ、有名な作品から順によんでみたい。

和訳版はこちら

「簡単だけど、すごく良くなる77のルール デザイン力の基本」ウジトモコ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

デザイナーの著者がいいデザインをするためのルールを説明する。

僕自身も20年以上デザイナーとして生きている人間なので、本書に書いてあることの多くが、毎日取り組んでいる考え方ばかりである。しあし、それでも改めて「この考え方は重要だ」と再認識したことや、今まで考えてもいなかったこと、無意識に実践していたことを言語化した表現に出会うことができた。

「良い」「悪い」≠「好き」「嫌い」
共感するから心が動く

デザイナー向けというよりも、いいプレゼン資料を作りたいビジネスマンや、デザイナーと関わる非デザイナーのための本であるが、デザイナーが読んでも、新たな気づきがあるだろう。

【楽天ブックス】「簡単だけど、すごく良くなる77のルール デザイン力の基本」

「サードドア 精神的資産の増やし方」アレックス・バナヤン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ビル・ゲイツやスピルバーグ、レディ・ガガはどのようにしてその偉大なるキャリアの最初の一歩を踏み出したのか、そんな成功者の最初の一歩を本としてまとめることを思い立った著者は行動を始める。そんな著者の悪戦苦闘しながらインタビューを繰り返す様子を描いている。

ウォーレンバフェットやビル・ゲイツに話を聞くためになんども断られながらも少しずつ、著名人の間で人脈を築いていく様子が描かれており、何事もくじけずに分析し戦略を練って行えば少しずつ実現できるのだと伝わってくる。その過程で、ビル・ゲイツやレディ・ガガ、ジェシカ・アルバやウォーレン・バフェットなどの人柄も見えてくる点も面白い。

なかなか本書のどこが役に立つとは言えないが、諦めずにしつこくメールを送り続けて失敗した話もあるので、よく言われがちな「なにごとも諦めなければ達成できる」という形ではない。人脈をつくるために戦略を練ることも重要だし、一つの方法に固執することもなく考え付く限り多くの場所に種をまき、芽が出たところを攻めるという方法も効果的だということがわかる。

企業や組織だと「広報」という仕事があるが、個人で人脈を広げることに今まで意識をしてこなかったので、これを機会にできることをやってみたいと思った。

【楽天ブックス】「サードドア 精神的資産の増やし方」

「Grid Systems」Kimberly Elam

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
グリッドシステムについて知りたくて、グリッドシステムの世界的に有名な著書の一つである本書にたどりついた。

多くのデザイナーが無意識のうちに綺麗にレイアウトするために身につけていることだろう。しかし、デザイナーには美しいものをデザインするだけでなく、周囲の関係者たちを納得させることも必要なのである。本書は良いデザインを言語化する手がかりにあふれている。

The Law of Thirds
3×3のグリッドシステムでは、4つのグリッドが交差するポイントが視覚的な焦点となる。
The Circle and Composition
ワイルドカード要素として、円はレイアウト上のどこにでもおくことができる。テキストの近くにおけばそのテキストへ注意をひきつけられる。テキストの間に配置すれば、その情報を分けることができる。テキストから遠くに配置すれば、注意をひきつけ、視線のフローを操作できるし、全体のバランスを整えることにも使える。

最近ではあまりグリッドシステムを用いたデザインというのは少ないのかもしれないが、知識として知っておくとデザイン作業よりむしろデザインの意図を伝えるに当たって大いに役に立つと感じた。

「人は見た目が9割「超」実践編」竹内一郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「人は見た目が9割」の著者が、「人は見た目が9割」に書けなかったことなどをまとめている。

実はあの有名な「人は見た目が9割」を読んだことがなく、ふとした機械から読んでみようと思い立って探したところ、同じ著者の本書にたどり着いた。

「人は中身の方がずっと大切でしょう?」という反論をさせるための若干挑戦的なタイトルではあるが、多くの人は見た目の重要性を知っていることだろう。美しい人に魅力を感じたり、第一印象で人を判断しているからだ。したがって、本書の内容もそのような見た目の重要性を語る内容だと予想していたのだが、実際はそこからさらにもう一歩深い内容だった。

とりとめもなく著者が考えていることを小さな章に分けて書いているので、読みやすくはないかもしれないが、印象的だったのは

「整形手術と痛々しい中年」「共働きと子供の表情」の章である。

「整形手術と痛々しい中年」では、若いころに美人だったりイケメンだったがゆえに、中年になってもそんな表面的な美しさにしがみついている人々を嘆き、むしろ生き方や表情、立ち振る舞いといった見た目を人生をかけて磨いていくべきだと説いている。

私は自分の“見た目”を30年かけて磨こうではないか、といいたいのである。

「共働きと子供の表情」では、共働きで母親も仕事に忙しくなり、子供にたくさんの表情を見せる機会が少なくなることで、少しずつ子供の表情も失われているのだと、警告している。

「子供によい表情を見せる」という心がけは、つまるところ“余裕”のなせる業である。

ぜひ、今後常に意識していきたいと思った。

【楽天ブックス】「人は見た目が9割「超」実践編」

「A/BTesting:Practical Insights and Common Pitfalls」Divakar Gupta

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ABテストの手法、ツールについて語っている。

序盤は簡単なABテストの説明をしており、中盤からはABテストで起こりがちな落とし穴、またABテストのためのツールなどを紹介している。大部分はABテストの15の落とし穴にページを割いており、いくつか興味深いものがあった。いつでも言及できるように覚えておきたい。

Running an A/B test without thinking about statistical confidence is worse than not running a test at all — it gives you false confidence that you know what works for your site when the truth is that you don’t know any better than if you hadn’t run the test

平均値のみを気にする


例えば新しいUIをリリースして、次の一週間のアクセス数が大きく伸びたとしても、日別に伸びているかを確認すべき。一日だけ極端に伸びた結果全体の数値を上げているのだとしたらそれは別の要因によるものだからだ。

「なぜ」を知ろうとしない

例えばABテストが失敗した場合、機能が良いものであるにも関わらず、デザインがよくなかったり説明が悪かったりする。単純に失敗した、だけでなく、「なぜ」失敗したかを知ることは、さらなる成功へ近づくのである。

正直、あまり順序立てた書き方をしておらず、よくあるABテストの落とし穴を思いつくまま羅列しているような内容なので退屈で頭に入りにくいが、もう一度じっくり読み直してみたいと感じた

「遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 改題:美学としてのグリッドシステム」ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第二次世界大戦後のグラフィックデザインをリードした著者がその生涯を語る。

グリッドシステムを学びたくてグリッドシステムの提唱者である著者の名前で検索したところ本書に出会った。デザインに情熱を注いた人の人生は、自分のデザイナーとしての考え方になにかしらプラスな部分があるだろうと考えて手に取った。

1914年に生まれた著者は、授業中にノートに描いていた落書きを褒められたことによって、少しずつデザインの世界に傾倒していく。少しずつ仕事を手にして有名になっていった著者は、1960年には日本でもデザインの教育に関わる。20年間連れ添った妻を交通事故で亡くした後、日本人の吉川静子(よしかわしずこ)と結婚する。

戦時中にすでに海外のデザイン教育はここまで進んでいたことに驚く。タイポグラフィの行間をひたすら研究する著者のこだわりに触れると、現在のデザイナーたちが簡単に行なっているグラフィックデザインが、ずいぶん表面的だけのことのように思えてくる。また、日本での教育や、妻が日本人であるこということで、グリッドシステムの著者が日本と大きなつながりを持っていることにも驚かされた。

その後著者はIBMのデザイン顧問に任命され、グリッドシステムを確立する。

グリッドシステムは完璧な秩序をもたらすシステムとして価値があるばかりでなく、与えられた仕事を計画し構成するために必要な情報や指示を、あらかじめすべて含んでいる。

終盤では軽くグリッドシステムについて触れているが、とても満足の行く内容ではなかったので、改めて「グリッドシステム」を読んでみたい。

著者のグラフィックデザインにかけた人生はデザイナーとして大きな刺激となった。

【楽天ブックス】「遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 改題:美学としてのグリッドシステム」

「Google Analyticsで集客・売上をアップする方法」玉井昇

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Google Analyticsで取得できる数値からどのようにWebサイトを改善するかを説明している。

Google Analyticsを導入するとそのたくさんの数値に驚くが、結局その数値をどのようにWebサイトの改善につなげたらいいかわからない人も多いだろう。今回は僕自身が久しぶりに仕事でGoogle Analyticsの数値からアクションプランを考えることになったので、本書を手に取った。

一番わかりやすく使えそうなアクションの方法は、たどり着いた検索キーワードによって、滞在時間、直帰率を見る方法である。もし、あるキーワードから一定数のアクセスがあるにも関わらず、滞在時間が短い、または直帰率が高いというような現象が観察できたなら、そのキーワードの記事をもっと増やすべき、ということである。

ほかにも知らなかったGoogle Analyticsの機能についていくつか触れられているが、実際に動かしながらやらないと身につかないだろう。また、GoogleAnalyticsの現状のバージョンとの違いからか、すでにない機能について語られている部分もあったので注意が必要である。

もう一度分析をしながら読みすすめてみたい。

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「ノースライト」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
建築家の青瀬稔(あおせみのる)は自らが設計し、高い評価を受けた吉野邸に、現在誰も住んでいないことを知る。自らが建築家としての思いを込めて設計した家の持ち主はどこへ行ったのか、青瀬(あおせ)は調査を始める。

主人公の青瀬(あおせ)がバブル期に建築家になったといことで、建築家の生き方が見えてくる。どちらかというと華やかに見える建築家という職業であるが、バブル時代の絶頂の後にやってきた不況のなかで多くの人間が離脱していき、建築家として生き残った人たちも小さな設計事務所で多くない旧雨量をもらいながら続けるしかないのだという。

そんな人生の浮き沈みを経験した青瀬(あおせ)は、自らの渾身の家を長野に建てるのだが、その家が本書の中心となる。建築家はクライアントに家を引き渡してからは不必要な干渉は避ける一方、「いい家は住んで初めてわかる」という言葉が示すように、自分の家の出来がどうだったのか、住んだ人間の感想を聞きたいと思うのだという。そういう流れ渾身の家が無人であることに気づいた青瀬(あおせ)は失踪した吉野家族を探し始めるのである。

一方で、離婚して数年経った妻ゆかりと娘日向子(ひなこ)との関係も40を過ぎた建築家の人生に深みを与えている。無人になった吉野邸で唯一の手がかりはそこに置かれていた椅子であり、ブルーノ・タウトという建築家によって作られたものと酷似しているという同僚の証言からその手がかりを追っていく。

その過程で、日本に長く滞在したブルーノ・タウトという建築家についても多く書かれており、その建築物や設計したものを見てみたいと感じた。ブルーノ・タウトの生涯については時間をとって別に調べてみたい。

そして、やがて青瀬(あおせ)は真相に迫っていく、最後は家族の感動の結末。これまでの横山秀夫作品ほど、一気に読ませる感じはないが、それでも最後はさすがといった印象。建築家、仕事と家族、いろんなテーマが詰まった一冊。

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「たゆたえども沈まず」原田マハ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本の美術を世界に広めるべくパリに渡った2人の日本人、林忠正(はやしただまさ)、重吉(じゅうきち)が、同じくパリで美術を生業とする2人のオランダ人と出会う。

2人のオランダ人とは、テオとフィンセント・ファン・ゴッホである。弟のテオは当時のフランスの主流派な絵画を扱う仕事をしながらも、浮世絵や印象派などの新しい芸術の流れに惹かれていく。一方で兄のフィンセントはテオの収入に頼って安定しない生活をしながらも、少しずつ絵描きとして生きることを目指していく。

今でこそ、印象派や浮世絵は絵画の一つの流れとして認知されているが、それまでの宗教画などの世界では当時異端として扱われ、よのなかに認められるまでに時間がかかったことがわかる。また1800年代には3回の万国博覧会が開かれるなど、パリが世界の文化の中心だったことが伝わってくる。本書に登場する林忠正(はやしただまさ)は実在の人物で、日本の文化や美術の普及に努めたことがわかった。本書の物語を通じて、世界的でもっとも有名な画家の一人であるゴッホの人生に、日本人や日本の文化が大きく影響を与えたことがわかる。日本人として誇らしさを感じさせてくれる。

ゴッホの狂気の人生は絵画に詳しくなくても知っている人は多いだろう。しかし、本書のように弟のテオとの関係のなかでその人生に触れるとまた違った面が見えてくる気がする。同じように、これまで美術の一派に過ぎなかった、印象派、浮世絵というものについても新たな視点を与えてくれる。

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「月の影 影の海」小野不由美

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
女子高生の陽子の元に突然不思議な男が現れ、陽子を別の世界へと連れさった。

十二国記の始まりの物語。すでに「魔性の子」という章を読み終えて本書にたどり着いたが、物語的な繋がりはほとんどない。高校生陽子が十二国に連れて行かれ、十二国の東にある巧(こう)、雁(えん)、慶(けい)の3つの国で繰り広げられる物語を描いている。全体としては、それほど大きな動きはなく、陽子が旅する中で、少しずつ十二国の仕組みが明らかになっていく。麒麟と王の関係や陽子(ようこ)がなぜ十二国に連れてこられたか、などである。

僕自身は物書きではないが、ファンタジーをもっとも安っぽく感じさせる瞬間は、著者自身の想像力が読者よりも劣っていることが明らかになるときである。空想世界なのだからそこの生き物は、現実世界とは異なる考え方や行動をするはずなのに、著者が現実世界の常識から離れることができず、異世界の生き物に現実世界の生き物のような行動をさせてしまう。それが繰り返されると、読者は物語に入り込む前に違和感ばかりが気になってしまうのだ。

本書に関してはいまのところそこまでの違和感は感じなかった。設定を複雑にすれば複雑にするほど、(つまり現実世界と違うものにすれば違うものにするほど)その違和感は露呈しやすいだろう。例えば十二国では人間は母親からではなく木の実から生まれるのだという。それによって親子の関係はどのように現実世界と異なるかを考えると面白いが、著者が描くそれがあまりにも想像力なく現実世界のままであればきっと違和感を感じることだろう。

おそらく今後、他の十二国にも物語が広がっていくことだろう。少しずつ世界が広がる中で、違和感を感じさせずに面白さが優って世界を作り上げられるなら優れたファンタジーになるだろう。2冊を読み終えた現段階ではまだ面白いともありきたりとも判断ができないので引き続き読み進めていきたい。

【楽天ブックス】「月の影 影の海(上)」「月の影 影の海(下)」

「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」 森岡毅、今西聖貴

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ユニバーサルスタジオジャパン(以下USJ)躍動のきっかけとなったハリーポッターのオープンを決定づけた戦略的確率論について、2人の著者がそれぞれの手法を語る。

著者はどちらもP&G出身ということで、他にもストーリーを重視する文化などの本や戦略に関する本などP&G出身者による本をこれまでにも何度か読んでおりP&Gが優れた企業なんだと改めて感じた。

本書では、ハリーポッターをオープンしたことによる収益の増加の考え方を、丁寧に解説している。詳細な数学な計算方法はわからなくても、予測値の出し方の概要はつかめるだろう。一つ一つの考え方自体は特に複雑なことではないが、著者2人のすごいところは、それを突き詰めに精度をあげることに努めている点だろう。数学的に知りたい人用も、巻末に詳細の数式が書かれているので楽しめるのではないだろうか。

売り上げを規定する7つの基本的要素

認知率
配下率
過去購入率
エボークトセットに入る率
1年間に購入する率
平均購入金額

はぜひ覚えておきたい。

関東に住んでいるとUSJのことをほとんど知らないが、本書を読んで初めて興味を持った。ぜひ機会があれば行ってみたいと思った。

【楽天ブックス】「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」