「The Rose Code」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第二次世界大戦中にドイツの暗号解読に関わった女性たちを描く。

物語はOsla,Mab,Bethという10代、20代の女性3人を中心に描いたている。彼女らは戦時中にそれぞれの人生を送っていたが、あるきっかけからBletchley Parkにおける暗号の解読に関わるようになるのである。

Bletchley Parkには暗号解読に関わる男女が多く集まって日夜仕事に励んでいた。第二次世界大戦中、彼らの業務は極秘事項であり、彼らは外では一切自分の仕事を明かすことができず、それゆえに多くの葛藤を抱えるのである。男は拘束されて暗号の解読のことを漏らす危険性から戦争に志願することができない。そのため、Bletchley Parkで働く男性たちは、頭脳を使って戦争に貢献しているにも関わらず世間からは白い目で見られる。また、女性たちも恋人や家族に毎日何をやっているのかを一切伝えることができないのである。しかし、だからこそBletchley Park内部では特別な連帯感が生まれていくのである。そんなか、戦争の終結が近づくにしたがって、Osla,Mab,Bethと他のBletchley Parkのメンバーたちは少しずつ異なる道を歩むこととなる。

物語は戦時中の1939年から1944年のBletchley Parkの様子と終戦後の1947年、Bethから裏切り者の存在の示唆によって3人が再び連絡を取り合う様子を交互に動きながら進んでいく。

戦争の様子と暗号解読に奮闘する様子以外にもいくつか見所がある。まずはBethの家庭の様子である。Bethの家は元々はBletchley Parkで働くOsla,Mabのための宿として提供されていたが、母親の厳しい管理下におかれているBethを心配したOsla,Mabが、その暗号解読向きの才能に気づいてBletchley ParkにBethを雇うように進言し、それによってBethは少しずつ母親の束縛から解放されて自由を手に入れていくのである。

また、Osla,Mabは自身の文学好きであることから、Bletchley Park内の文学好きを集めて会合を定期的に行うのである。そこでは「Gone with the Wind」など、過去の有名な文学作品が多々議論されている。知らない作品ばかりであるが、時間があったらぜひ触れてみたいと思った。

また、Oslaの恋人がのちのエリザベス女王の夫となるPhilipである点も面白い。イギリスやヨーロッパの皇族の関係やその葛藤についても触れることができるだろう。

最初はなかなか物語が進まない印象を受けた。過去のKate Quinnの「Alice Network」や「Huntress」に比べると物語展開よりも登場人物の心の動きに焦点が当てられているように感じる。ただ、BethによるBletchley Park内の裏切りのもの存在の示唆によって、Osla,Mabが行動を開始した後半は一気に動き出す。

戦時下という中で自分たちができることに尽くした人々の熱い生き方に何度も泣きそうになった。イギリスに行く機会があったらBletchley Parkも行ってみたいと思った。

「マネジャーの最も大切な仕事」テレサ・アマビール/スティーブン・クレイマー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インナーワークライフを向上するためにマネジャーができることはなんなのか。様々な企業のチームから7ヶ月にわたって日誌を提出してもらい分析した結果を説明する。

インナーワークライフとは個人的職務体験としており、次の3つの要素で構成される。

  • 認識・・・職場での出来事に対する状況認識
  • 感情・・・職場での出来事に対する反応
  • モチベーション・・・その仕事への熱意

なぜインナーワークライフが組織において重要かと言うと、それがパフォーマンスに大きな影響を与えるからである。そしてモチベーションのために重要な要素として、見過ごしがちな進捗の法則を含む次の3つの要素を説明している。

  • 進捗の法則
  • 触媒ファクター
  • 栄養ファクター

七大触媒ファクターと四大栄養源を次のように説明している。

  • 明確な目標を設定する
  • 自主性を与える
  • リソースを提供する
  • 十分な時間を与える(しかし与えすぎてはいけない)
  • 仕事をサポートする
  • 問題と成功から学ぶ
  • 自由活発な意見交換

四大栄養源

  • 尊重
  • 励まし
  • 感情的サポート
  • 友好関係

このようなマネジメント関連の本は、どうしても机上の空論のようで現実感に乏しく感じてしまうのだが、本書は実際の現場からあがってきた日誌とともに紹介している(もちろん個人が特定できないように名前や地名などは変えてある)ので説得力が感じられる。

僕自身、小さな進捗のサポートできているだろうか。良い触媒ファクター、栄養ファクターを与えられているだろうか。そんなことを考えさせられ、マネジメントにうまくいかない時などに、なんども戻ってきたいと思える内容である。

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「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
世界各国からの乗客が集まるオリエント急行で殺人が起こり、偶然乗り合わせた名探偵ポアロは真実の解明を依頼される。

アガサ・クリスティーの作品を読むのは大学生の時以来20年ぶりである。本作品はそもそも物語の展開自体がすでに知ってないと話が通じない人というぐらいまで多くの場所で引用されているのを眼にする。これは読んでおかなければ、と思いようやく今回読むに至った。

1933年に書かれた作品ということで、やはり稚拙さや心情描写の浅さを感じなくはない。小さな驚きではあるが、1930年代にすでにアメリカやイスタンブールという国を超えた行き来がここまで一般的だったことに驚かされた。海外旅行はここ20年ぐらいで一般的になってきたものという認識なのだ、それはあくまでも飛行機による旅の話で、電車や船による移動、特に大陸間ではもっとずっと前から一般的だったのだろう。

感想としては、確かに予想外といった印象で、当時としては新鮮だっただろうと感じた。他にも「アクロイド殺し」も名作とよく聞くのでどこかのタイミングで読んでみたいと思った。

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「ユダヤ人大富豪の教え」本田健

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1年間アメリカに滞在した著者はそこでユダヤ人の大富豪であるゲラー氏と出会う。その後の著者の人生に大きく影響を与えたゲラー氏の教えを描く。

さまざまな場所で本書の名前を耳にしながらも読んだことがなかったので今回手に取った。

ゲラー氏は著者に、世の中で生きる人を自由人と不自由人という2つの種類に分けて説明している。自由人になるためには、目の前にあることを好きになるべきで、好きであれば、どれだけ時間を費やしても楽しく、その楽しさは人に伝染すると語っている。

またお金の原則としてつぎの5つを語っている。

  • 1.たくさん稼ぐ
  • 2.賢く使う
  • 3.がっちり守る
  • 4.投資する
  • 5.分かち合う

好きなことに時間を費やすことの力や、投資の話に特に驚きはなかった。本書を読んで改めて思ったこととしては、僕自身人脈への意識が薄いということである。本書の「多くの人に気持ちよく助けてもらう」「人脈を使いこなす」に書かれていることは少しでも実践していきたいと思った。

偉い人には、あたかも彼がえらくないかのように接しなさい。そして、えらくない人には、あたかもその人が偉い人のように接しなさい。
もし自分でできたとしても、できるだけ多くの人を巻き込んで助けてもらうことだ。そしてその人たちに感謝して喜んでもらうことが君の成功のスピードを速めるのだよ。

人脈の大切さやお金の投資の重要性はそこら中で語られているので、本書で書かれていることは特に新鮮というわけではない。例えば「夢をかなえるゾウ」なども同じようなことを言っている。しかし、このような生きる上での大事なことは、繰り返し触れてなんども思い出し自分の人生の軌道修正をするのに必要であり、そういう意味では本書もまた有益なのだと感じた。

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「Atomic Habits」James Clear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
事故による怪我から習慣の力で復活し大きな成功を築いた著者が、習慣の力とそれを作り出す考え方や方法を語る。

僕自身もさまざまなことを習慣にしていて、比較的習慣の力や習慣を作り出す能力に長けているほうだと思うのだが、さらにそれを強化したいとおもっているなか、さまざまな人が本書を進めているのを知ってたどり着いた。

基本的に本書で語っているのは、習慣に対する機会、障害、心構えに対して、良い習慣は取り組みやすく、もしくは取り組まざるを得ない方向に変更し、悪い方向はその逆、つまり、取り組みにくく、もしくは取り組むのを不可能にする、という方法である。おそらく習慣化が得意な人はすでに大部分のことをやっていることだろうが、こうして改めて言語化してみてみると、習慣化の重要な部分がはっきり見えてくる。

印象的だったのが実際の行動であるActionと準備や下調べなどのMotionを分けて次のように語っている点である。

Motion makes you feel like you're getting things done. But really, you're just preparing to get something done.
下調べや準備は行動を起こしたように感じさせる。しかし実際には準備しているだけである。

何よりもまず行動することこそ大切で、常に意識しておきたいと思った。また、そのほかにも取り入れたいなと思ったのは次の定期的に行うセルフレビューである。。著者は自分のレビューを実践することを進めているのだ。

1.What went well this year?
2.What didn't go so well this year?
3.What did I learn?

また、自分自身の信念や理想からずれていかないために次のような問いかけも実践しているという。

1.What are the core values that derive my life and work?
2.How am I living and working with integrity right now?
3.How can I set a higher standard in the future.

たしかに、人間は自分の好き嫌いよりも周囲の視線を気にして、好きでもないことに時間を費やすことが起こりうることを考えると、このように自分の本当にやりたいことかをやっているかを問いかけることは人生において重要なのだろう。

昨今習慣の本は溢れているが、本書に比べたら内容の薄い本が多く、そのような本を読むことに時間を費やすよりも、本書を一冊読んでひたすら実践する方が何倍も効果があると感じた。また、それぞれの章に読者を納得させる興味深い物語を語っている点も面白い。どれも面白く、ぜひ覚えて人に聞かせたいと思った。長続きしない人には必読の一冊である。

和訳版はこちら。

「ベイズ推定入門」大関真之

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ベイズ推定について初心者にもわかりやすく説明している。

仕事で使用するABテストでベイズ推定の考え方が用いられていることを知り、よく聞くベイズ推定を深く知りたいと思ってその一歩目として本書にたどりついた。

かなり簡単に書かれているとは言え、簡単に書くために必要以上に省略していると思われる部分が多く、逆にわかりにくく感じた。また、本書は別冊の「機械学習入門」の続編と位置付けられているようで、あくまでも機械学習のためのベイズ推定という内容で、一般的なベイズ推定の範囲とは少し異なるようにも感じた。

とりあえず、本書で出会った最尤推定、最尤法などの詳細な方法、事前分布から事後確率分布の更新方法などはもう少ししっかりと理解したいと感じた。

【楽天ブックス】「ベイズ推定入門」

「21 Lessons」ユヴァル・ノア・ハラリ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
21のテーマについて今後の展望や考え方、問題について語る。

正直テーマによって僕自身関心が強いものと弱いものがあり、それは著者についても同じで、考え方が深いと感じられるテーマもあるが、表面をなぞっただけで新鮮さも内容なことしか書いてないこともあり、テーマによって面白いとつまらないが大きく分かれるだろう。

個人的に面白かったのは「自由」と「移民」の章である。

自由の章ではアルゴリズムの発展によって世界がどのように変わっていくかを語っている。特に医療の発展が想像を超えていたので新鮮だった。確かに医療のAIが発展するなら、簡単なスキャンで現在の不調の原因や将来に不調が起こりそうな箇所を指摘して改善に努めることができ、しかもそれが世界中の医療ネットワークに共有されたなら、世界中どこにいても格安でコンビニやスタバに行くような感覚で自分の健康チェックと食べるものやすべき運動習慣を確認できるようになることだろう。

移民については、日本は現在あまり移民を受け入れておらず、「日本ももっと移民を受け入れるべきだ」と言うのは簡単だが、政策以前に「移民を受け入れる」という行為の中にもいくつか考えるべきポイントがあることに気づかされた。

著者は次の議論ポイントを挙げている。

  • 移民の受け入れは義務なのか恩恵なのか。
  • 移民した人はどの程度までその国の文化に同化すべきなのか。
  • 移民した人がその国の正規の国民とみなされるまでどれくらいの時間の経過が必要なのか。

答えのない問題を突きつけられた気がする。今度ぜひ移民の話になったらこんな疑問をぶつけてみたいと思った。

著者はユダヤ人とのことだが、ユダヤ教の選民思想やイスラエルでの体験についても語っている点が面白い。ひょっとしたら他の作品でもっと多く語っているのかもしれない。

新たな視点をもたらしてくれることは間違いないのだが、すべての章が安定して面白いわけではなく、ついていきにくいと感じる箇所もいくつかあり、全体的に疲れる読書だった。この著者の他の作品も有名なので読んでみたいとは思うが、きっと同じように疲れる本で、エネルギーがないときに読むのはちょっとつらいかもしれない。時間をおいてまた挑戦したいと思った。

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「Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving In」Roger Fisher

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世の中には交渉が溢れている。そんな交渉をうまく進めるための考え方を語る。

交渉が重要だと気付いたのは30代になってからである。転職時の給料の交渉などはうまくいくかいかないかでその後の数年間の自分の人生に大きく影響を与えるし、毎日の同僚との会話で締め切りや誰が担当を決めるのも交渉である。以前、オンラインコースで交渉を学んでその重要性を知り、さらに深めたいと思い本書にたどり着いた。

本書の面白いところは、よくある交渉術のような、前もってポジションを決めて臨む交渉(例えば「私は5000円以上のお金を絶対払わない」のように)を否定しており、むしろ相手と自分自身の相互に利益をもたらす着地点を見つけることを推奨している。そして、そのために踏むべきステップと、そのために陥りやすい罠と回避方法を例を交えて細かく説明している。

本書の基本的な考えは次のものである。

Seperate the People from the Problem
人と問題を別に考える
Focus on Interests, Not Positions
自分の立ち位置に固執しないで利益を考える
Invent Options for Mutual Gain
相互の利益になる新たな選択肢を考える
Insist on Using Objective Criteria
客観的な指標を用いることを主張する

本書の核となる考え方は前半に詰まっており、後半は、交渉相手が相互利益に向かう交渉に乗ってこなかった場合などの進め方など、うまく進まない場合の対処方法について書いている。こちらは問題にぶつかったときにさらに読み返すべきだろう。

以前に受けた交渉術コースはどちらかというとポジションにこだわっており、人間関係を軽視しがちな印象を受けたので、本書の両者の利益を考える姿勢は新鮮で、取り組みやすいと感じた。僕自身すでにやっている部分も多いが、こうして言語化して整理して並べてもらうとさらに考えやすく受け入れやすい。なかでも、客観的な指標を用いるという考え方は考えたこともなかったので次回から心がけてみたいと思った。

「自転しながら公転する」山本文緒

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
茨城で実家暮らしをしながらモールのアパレルスタッフとして働く三十代の与野都(よのみやこ)の悩みながら生きていく様子を描く。

一時期は都内で最先端のアパレルショップで店長として働いていたものの、家庭の都合から実家に戻って、地元のモールで働く都(みやこ)は、家庭に縛られて結婚も独立もできない日々を送っている。

そんななか、物語は、都(みやこ)がモールの中の回転寿司で働く貫一と出会うことで動き出す。このままよくある恋愛小説家の流れになるかと思いきや、勘一の中卒という経歴や収入の少なさに結婚へ踏み切れない都(みやこ)は思い悩むのである。

恋愛だけではなく現実も考えなければならない、現実に起こりがちなリアルな恋愛模様を描いているように感じた。希望に満ちていた20代が終わり、人生の可能性が狭まっていく30代を描いている点で、共感する部分があるのではないだろうか。また、一方で全体的に自分のやりたいことや人生で重要なものを自分自身でわかっていない都(みやこ)にイライラしながら読み進める人が多いのではないかとも感じた。

一般の恋愛小説なら登場人物の感情の表面を軽くなぞって終わるところを、一歩踏み込んで、人間の嫌な感情や葛藤まで見せてくれる点が、本書を他の恋愛小説よりも際立たせている点だろう。個人的には久しぶりに恋愛小説で楽しませてもらったという印象である。

【楽天ブックス】「自転しながら公転する」

「瞬読」山中恵美子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
本を早く読む方法を語る。

僕自身本を一般の人よりは早く読む方ではあるが、最近この時間を少しでも内容の濃いものにしたいと考え、速読に関する本や、くだらない本を選ばないようにするなど試みている。そんななか本書に出会った。

悲しいことに、前半部分は本を読むことの大切さと、この本によってどれだけ本が早く読めるようなことを長々と書いており、なかなかその「瞬読」のないように入らない。よくある本の厚みを増やすためのページという印象であり、前半はまさに「瞬読」技術のない人でも「瞬読」すべきパートなのだろう。

本書のエッセンスは第2章の、わずか30ページほどに含まれていることが全てで次の3つに集約される。

  • 読むのではなく見る
  • 見たものをイメージに変換する
  • 手書きでアウトプットをする

本書の表紙に書いているように、「1冊3分で読めて99%忘れない」というのはかなり誇張な気がするが、記憶に止めるためには読むだけではなくアウトプットをすべきとい点や、一字一句すべてを読まなくても、(音読などしなくても)知っていることなら、何を言いたいかがわかる、という点もまさにその通りと感じた。

一般の人と比べて読む速度が遅いと感じている人にはヒントになるのかもしれない。僕自身もこのようなデジタルのアウトプットだけでなく手書きのアウトプットも考えるべきなのかもしれない。

【楽天ブックス】「瞬読」

「Project Hail Mary」Andy Weir

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
記憶を失った状態で、宇宙船のなかで目を覚ました彼は、少しずつ記憶を取り戻し、自分が地球を救うために宇宙を旅していることを思い出す。そんな宇宙飛行士の地球を救う物語を描く。

ビル・ゲイツやバラック・オバマなどの著名人が本書を2021年のおすすめとして挙げていたことから、「これは読まなくては」と手に取った。

物語は宇宙船のなかで記憶を取り戻しながら自らの使命を悟り奮闘する男Graceと、彼の回復した記憶による過去の様子が交互に描かれる。

過去では、太陽の光を弱める物質が認められ太陽の光が少しずつ弱まっているため、30年以内に人類の半分が死滅するだろうという予想が立てられる。そんななか、宇宙を調べると、その物質は太陽系以外も汚染しているが、唯一汚染されてない宇宙があり、その原因を調べて地球に汚染されないための情報を送るというのが、宇宙船のミッションなのである。

記憶を失った状態で物語が始まるという少々使い古された展開によって、期待値が最初はしぼんでしまったが、物語が進むごとに面白さが増しどんどん引き込まれていった。物語の展開自体はよくあるSFであることに変わりはないのだが、面白いのは、登場人物たちの試行錯誤や行動をかなり科学的に描いているという点である。もちろんどこまで信憑性があるかどうかは実際に宇宙について研究している人でもない限り明言できないが、少なくとも古臭い、重力や相対性理論や宇宙に空気がないことを無視したSFではないということだ。

そのため、宇宙船を作るために試行錯誤する様子や、言葉の通じない、未知の生物とコミュニケーションを図る様子など非常に興味深い。また、人工重力や相対性理論についても描かれており改めて勉強したくなった。

今までにないSF小説。マット・デイモン主演で映画になった「オデッセイ」も同じ著者の小説を基にしているということで、そちらもぜひ読んでみたいと思った。

和訳版はこちら。

「最高のランニングのための科学 ケガしない走り方、歩き方」マーク・ククゼラ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人生におけるランニングの重要性を説く著者が、長くランニングを続けるために必要なことを語る。

最近、改めて走るという行為を再確認しており、ランニング関連の書籍を読み漁るなか本書に出会った。

本書はマラソンのための本ではなく、ランニングのための本である。したがって、マラソンに役にたつことはあるが、マラソンのトレーニングに焦点を書いている本ではない。むしろ、人生において運動をすることの重要性を説いておりそのもっとも簡単な運動として、歩くこと、走ることを勧めているだけである。

なにより、昨今座ったまま仕事をすることが多くなったせいで、人間は体を動かすことが少なくなり、人間はかつてないほど老いていると主張する。言い換えるなら、平均寿命は伸びていても平均活動寿命は短くなっているのだというのである。そして、そんな平均活動時妙を伸ばすためにランニングを進めているのである。

長くランニングを続けるために、怪我の予防や回復など、さまざまな面で語っているが、なかでももっとも印象的だったのは食事についてだろう。砂糖が健康に良くない話はよく聞くはなしであるが、本書では炭水化物(精製炭水化物と呼んでいる)も糖尿病への発生につながるとして、炭水化物耐性、インスリン感受性の高い体づくりを推奨している。

本書を呼んで、長く健康な人生を楽しむためには食事を見直していかないとならないと感じた。若い時に大丈夫だったとはいえ、年齢を重ねるごとに大丈夫ではなくなっていくのである。

また、足本来の機能を活かして走ることを推奨しており、ベアフットラニンニングやミニマリストシューズに触れている。このあたりは「Born to Run」にも書かれていたことで、少しずつ考えてみたいと思った。

ランニングを中心として、運動や食事について新たな視点をもたらしてくれる一冊である

【楽天ブックス】「最高のランニングのための科学」

「1兆ドルコーチ」エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スティーブ・ジョブズやラリーペイジなど、AppleやGoogleの創業者や幹部にコーチングをすることで大きな影響を与えたビル・キャンベルのコーチングについて語る。

GoogleやFacebook、アップルなどシリコンバレーの成功物語を読んだことがある人ならビル・キャンベルという名前を耳にしたことがあるのではないだろうか。しかし、名前は聞いたことがあるが何をやっている人かどうかはわからない、というのが正直なところだろう。

そもそもAppleやGoogleの創業者や幹部たちといえば一般的には天才と呼ばれる人達。そのような人たちにコーチングが必要なのだろうか。そしてどのような人間ならばそこまで多くの人から感謝されるコーチとなれるのか。

本書でビルの周囲の人の言葉から、その率直な物言いと情熱的な振る舞いが見えてくる。また、ビル自身自分がコーチングする人の選別をしっかり行っていたことや、自分自身のなかに人生の達成したいものの尺度があったことが見えてくる。

ビル、肩書きがあれば誰でもマネジャーになれるけど、リーダーをつくるのは部下よ
利口ぶるやつはコーチできない

ビルはコーチャブルな資質として次の4つが挙げられている

  • 正直さ
  • 謙虚さ
  • あきらめずに努力を厭わない姿勢
  • つねに学ぼうとする意欲

僕自身人の役に立ちたいという思いを持ちながらも、1人の人間が影響を与えられる人の数というのは、妻や家族など、せいぜい10人程度だと考えていた。そのため、本書でビルが数百人という人たちに影響を与えたことを知って驚かされ、もっとできることがあるのではないかと考えるきっかけになった。

何よりも本書で感じたのは率直さの重要性である。結局、人を傷つけることを恐れて、遠回しな物言いばかり繰り返しても深い人間関係は築けないし、人の人生に影響を与えることもできないのだと改めて感じた。

いきなりすべてを真似することはできないが、少なくとも同じ会社の人々の家族構成ぐらいは覚えていこうと思った。

【楽天ブックス】「1兆ドルコーチ」

「昨日がなければ明日もない」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
探偵杉村三郎(すぎむらさぶろう)が行う3つの調査とそこで出会う人々を描く。

杉村三郎(すぎむらさぶろう)シリーズの第4弾である。本書では杉村三郎(すぎむらさぶろう)が探偵として扱った3つの物語を扱っている。結婚した娘に会うことを許されない母親、キャンセルされた結婚式、子供を理由にお金をむしりとろうとする母親など、そのどれもが世の中を騒がすほど大きな事件ではなく、どんな街にも起こりそうな出来事を扱っている点が面白い。

そして、物語全体の軽い展開の中に、人間の持つ本質的な醜さや強さを描いている点が宮部みゆきらしいと言えるだろう。

残念なのは他の著者の作品ほど深みを感じないため、続編を読む頃には前作の内容を忘れているということだ。それでも、深く考えすぎないで楽しめるところがこのシリーズのいいところかもしれない。

【楽天ブックス】「昨日がなければ明日もない」

「幸福の意外な正体」ダニエル・ネトル

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
幸福について研究した著者がその結果と結論を語る。

タイトルからもっと自己啓発的な本を想像していたが、思った以上に科学的なアプローチをしている。そのためやや小難しく読みにくい。

面白かったのは人間の6つの感情、恐れ、悲しみ、嫌悪、怒り驚き、喜びのうちプラスの感情は喜びの一つだけだという点である。著者の理解によると喜びの状態においては何も変える必要がないのに対して、その他の状態では現状を変えて改善する必要があるためだという。また、喜びは一瞬で飽きてしまうために幸せであり続けることが難しい、というのも興味深い指摘である。

結局のところ、幸せになるためのさまざまな要素を検証しているだけにすぎず、具体的に幸せになる方法をはっきりと語ってない点が残念である。唯一の幸せになるしさは次の言葉だろう。

あなた自身が何か、価値がある、挑戦しがいがある、大切である、と思えるものに意識を集中させていればいいのです。

間違えやすい幸せな方向についての指摘は知っているだけでも有用だが、もう少し面白く、もう少し人生に有用な形でかけたのではないだろうか、と感じてしまった。

【楽天ブックス】「幸福の意外な正体」

「手ぶらで生きる。見栄と財布を捨てて、自由になる50の方法」ミニマリストしぶ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ミニマリストの著者がその生き方や考え方を語る。

僕自身も、捨てられるものはさっさと捨てたいし、広いよりも最低限の広さがあればむしろ狭い部屋に住みたい、と考えるミニマリスト思考の持ち主である。今回、何かしら人生をさらに豊かにするヒントに出会えればと思い本書にたどり着いた。

すでにミニマリストという言葉が一般的に世の中で通じるようになって数年が経ち、また断捨離も流行っていることから、その考え方はそれほど目新しいものはないだろう。すでに少しでも実践したり、実践してないまでも興味を持って調べたことのある人にとっては、本書で書いてあることも、特に驚きを与えるようなことではないだろう。例えば次のような内容である。

  • 冷蔵庫は持たない
  • テレビは持たない
  • 狭い家に引っ越す
  • 毎日同じ服を着る
  • 財布は持たない
  • 「限定物」ではなく「定番物」を買う
  • 「レンタル」「シェア」を使いこなす
  • 「出口戦略」を考えて増やす
  • 時間を生み出すツールに投資する

僕にとっても、新しい考え方に出会うというよりも、もともと持っていた考えを改めて再確認する機会となった。唯一「こんな考え方もあるのか」と思った点を上げるなら次の2つだろう。

「一日一食」で生活する

たしかに、食事に関して、僕らは三食食べるべきという考え方に固執しすぎているのかもしれない。1人のときなど二食生活や一食生活を取り入れてみたいと思った。

物が人生を豊かにする、という思考から離れられない人にとっては何かしら本書から学ぶ部分があるだろう。

【楽天ブックス】「手ぶらで生きる。見栄と財布を捨てて、自由になる50の方法」

「熱源」川越宗一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第162回直木三十五賞受賞作品。樺太で生きるアイヌの人々と、その生活に魅了されたポーランド人を描く。

1800年代後半から日本やロシアなどの大国が戦争へと突き進む中、樺太で生きるアイヌの人々を描く。特に、アイヌの男性ヤヨマネクフとブロニスワフ・ピウスツキという、リトアニア生まれのロシア人を中心に物語が進む。 ヤヨマネクフは日本とロシアの領土問題で所属する国が変わる中、アイヌの文化や存在価値を認めてもらおうと苦悩する中で、ロシアや日本を行き来する。一方ブロニスワフは、リトアニアという地域に生まれ、自らの祖国をロシアという大国に取り込まれ、母国語を強制的に奪われたことで、まさに同じような境遇に向き合っているアイヌの人々に惹かれていくのである。

アイヌを題材に扱った作品だと、漫画の「ゴールデンカムイ」が最近では有名である。「ゴールデンカムイ」はどちらかというと、物語のなかの登場人物として、アイヌの優れた文化などを紹介しているが、本書はむしろ日本とロシアの領土問題に翻弄され、文明化が進む世界のなかでアイヌの文化をどのように存続させていくかの苦悩を中心に描かれている。

知識としてアイヌという民族の存在は知っていたが、北海道に住む民族という印象しかこれまで持ってなかった。もちろんロシアと日本という領土の問題と絡めてその存在を考えてみたことがなかったので、本書では初めてそのつらい歴史に目を向けさせてもらった、また、熊送りや女性が口に施す刺青など、これまで知らなかったアイヌの文化を知ることができた。

狩猟最終民族としてのアイヌの文化を維持することはつまり、文明化の流れにのらないこと、それは世界から孤立、民族の衰退である。そんな文化の維持と民族の存続という両立ならぬアイヌの葛藤が物語から感じられるのである。

しかし、その一方でこんなことも感じた。交通手段や情報の障壁が少しずつなか、人類の歴史において消えてった民族や言語、文化は数知れず、それに抵抗して自分たちの民族を残そうとすることはそこまで重要なのだろうか。もちろん今日明日、急に日本がなくなる、日本語を話すのは禁止と言われれば大きな抵抗はあるだろうが、100年200年単位で民族や文化が消滅したり他の民族と混ざり合ったりして個性が失われていくのは、人類の発展の中で避けられないことなのではないだろうか。

アイヌの歴史や苦悩だけでなく、文化や民族のありかたに目を向けさせてくれた。日本からロシアまで壮大なスケールと詳細に調べたであろう歴史を見事に融合したすばらしい物語。

【楽天ブックス】「熱源」

「A/B Testing:The Most Powerful Way to Turn Clicks Into Customers」Pete Koomen, Dan Siroker

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ABテストプラットフォームの先駆者であるOptimizelyのCEOである著者が、そのサービスやクライアントを通じて得られたABテストの知見を語る。

最近我が社でもまたABテスト熱が再燃しており、少しでも組織として意味のあるABテストができるようにと思い本書にたどり着いた。

ABテストを専門的に取り上げた書籍を読むのは本書で3冊目になるが、ABテストのプラットフォーマーとしての視点で書かれたものに触れたのは本書が初めてである。 序盤はオバマ大統領の大統領選におけるABテストの貢献の大きさなど、さまざまな形のABテストによる改善例を示している。

そんななか本書ではABテストの流れを次の5つのステップとしている。

1.Define Success
2.Identify bottlenecks
3.Construct a hypothesis
4.Prioritize
5.Test

1の成功の定義は必ず言われることで(とはいえ抜けがち)特に新しくはないが、2のIdentify bottlenecksという考え方は他のABテスト関連の書籍にはなかったので新鮮に感じた。向上などの生産効率を上げるためにはボトルネックという考え方は一般的だが、より良いサイト制作においても、目的のコンバージョンに対して、トラフィックがどこで止まっているのか、そんなボトルネックにもっと意識を向けるべきなのだろう。

またMicroconversionとMacroconversionというように、コンバージョンを二つに分けて考えている点も興味深い。3のConstruct a hypothesisでは、単純に思う仮説ではなく、ユザーインタビューやご意見フォーム、フォーカスグループなどを通じてより精度の高い仮説を挙げることを推奨している。この辺はかけられる工数によって実践していきたいと思った。

中盤以降では、実際に組織にABテストの文化を組織に浸透させる方法について、外部のサービスを利用する方法や新たにエンジニアを雇って組織内にテストチームを作る方法など、それぞれのメリットやデメリットを書いている。

全体のなかで特に印象的だったのは次の言葉。

A question worth asking about every test is, "Would you be happy showing the winning variation to all of your traffic" 
「勝ったテストパターンをすべてのユーザーに喜んで見せられますか?」と尋ねてみるべきです。

つまり、結果が良かったテストパターンが必ずしも正解というわけではなく、例えばユーザーがクリックするボタンが絶対的に正しければ、世の中のボタンはすべて女性の裸になってしまうということである。組織として、ブランドとして、そのテストパターンを世の中に自信をもって出せるのか。それを考えずに思いつくままテストをしてしまうと、ただ時間や労力の無駄になりかねないのである。

また次の冗談も、いきすぎたABテスト主義を抑制するために使えることだろう。

 There's a joke among A/B testing veterans that almost any variation of a button loses to a button that says "Free Beer." ABテスト業界にはこんな冗談があります。どんなボタンバリエーションも「無料ビール」というボタンには叶わないと。 

ABテストの方法にさらなる理解を与えてくれる内容である。本書の上の言葉に出会って、早速醜い見た目、誤解を招きかねないABテストパターンを実践している自社のABテストを改善したくなった。

「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年本屋大賞作品。過去から逃れてキナコは大分の田舎町で1人で生きていくことを決める。

キナコは1人で生きていくと決意しながらも、口のきけない男の子と出会い、その恵まれない家庭環境に過去の自分を重ね合わせ、その子を救おうと行動を始める。 そして、そんな現在の様子と並行して、キナコの過去が明らかになっていく。うまくいかない家族との関係、そしてアンさんと呼ぶ人との出会いよってそんな家族のしがらみから救われたことなどがわかる。

最近、日本で評価される本の多くが、家族や恋人など狭い人間関係と小さな地域のなかで起きる出来事を描いているような印象を持っており、本作品も似たような印象を受けた。もちろん、人の幸せは、身近な人との関係による部分が大きいし、人生で起きる大きな出来事よりも、それぞれの人間が物事をどう受け止めるかが重要で、そういう物語が評価されるのもわからなくもないが、最近はちょっと似通いすぎていて新鮮さをあまり感じなかった。

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「All That Remains」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4組の男女のカップルが失踪し白骨死体で発見された。そして五組目のカップルが失踪する。

FBIの検死官Kay Scarpettaの物語の第3弾である。白骨死体として発見されたこれまでの被害者はいずれも靴を履いていなかったこと、トランプのカードが現場に残されていたことから同一犯とされており、失踪した五組目のカップルの女性は、権力者の娘であったことから、大きく報じられてFBIやCIAの上層部が絡んだ政治的な局面を強くしていくのである。

そして、そんななか、ワシントンから報道記者でありかつてはKayの天敵でありながらも、妹の殺害を機に友人となったAbbyも事件を探りやってくる。Abbyの話によると、事件を調べ始めてから、Abbyの周囲でも少しずつ不穏な動きが感じられるという。CIAやFBIは何を隠しているのかも犯人追跡と並行して大きな謎となっていく。

今回は現場にトランプが残されていたことから、スペードのエースに関するベトナム戦争における意味などの興味深い話に触れることができた。

相変わらず物語が描かれたのがすでに20年以上前とは思えないほど色褪せない物語で、今読んでも十分にその緊迫感が感じられる。実際、検死官である人物がここまで現場に足を運ぶものなのだろうか、という疑問は感じなくもないが、その辺は物語の都合上多少脚色があるのかもしれない。アメリカという国の司法やCIA、FBIなどの権力の構造や、地域や州の管轄についても好奇心を刺激してくれる点もありがたく、存分に楽しませてもらった。