「三体III 死神永生」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
女性の科学者である程心(チュン・シン)は三体危機の勃発によって、類の存続のための計画に関わっていくこととなる。

三体シリーズの完結編である。「三体II」で三体文明との均衡状態に至った人類のその後を、女性の科学者である程心(チュン・シン)を中心に描いている。

序盤は、三体文明の脅威にさらされ人類が智子(ソフォン)に監視されるなか程心(チュン・シン)が、人間を三体文明に送るという階梯計画(ラダープロジェクト)に関わっていく様子と、並行して、程心(チュン・シン)の大学時代の同級生である雲天明(ユンティエン・ミン)が、余命わずかとなり、死の間際に程心(チュン・シン)に星をプレゼントする様子を描いている。やがてこの2人の関係が人類の存続の大きな鍵となっていくのである。

また、暗黒森林抑止によって、三体文明との緊張状態保っていた人類だったが、暗黒森林抑止を保つ執剣者(ソードホルダー)の交代の時を迎える。三体文明はその交代の瞬間を狙って大きな動きを仕掛けてくるのである。

後半では、人類の存続をかけた3つの計画を中心に描く。大量移民計画、全宇宙への安全通知、高速宇宙船の開発である。程心(チュン・シン)は最期まで人類の存続に関わる存在となっていくのである。

中盤以降は程心(チュン・シン)も冬眠を繰り返し、時代がこれまでと比較しても格段に早く未来へ進んでいくため、現代から考え方も含めての乖離が大きくなり、理解が追いつかず、あまり楽しめなかった。三体全体の総括としては、「三体II 暗黒森林」が一番面白かった。「三体」全体的に哲学的な考えを、SFのなかに取り入れているのが大きな魅力と入れるのかもしれない。

個人的には、種と種の対立が、まるで個と個の対立のように描かれていて、実際にはこうはならないだろうと思える箇所が多々あった。例えば環境破壊に代表されるように、1人1人の人間は常に人類という種族の数百年後の存続を考えて行動をしているわけではない。暗黒森林のような脅威によって2つの種族が均衡状態になることは実際には簡単ではないだろう。

現代には存在しない技術や文化を描かなければSFとはなり得ないにも関わらず、現代の技術や文化から離れすぎると理解されないという、SFというカテゴリの創作者が持つであろう葛藤を感じた。そういう意味では本作品と比較される「プロジェクト ヘイル・メアリー」の方が程よい点をついていると感じた。

【楽天ブックス】「三体III 死神永生(上)」「三体III 死神永生(下)」

「ヨハネス・イッテン 色彩論」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

僕自身デザイナーとして生きているので、色や形の感覚を深められる練習や知識はは徹底的に取り入れていこうと考えていて、そんななか本書に出会った。

世の中様々な色環が語られているが、本書の12色環は赤、青、黄の純色を基準にして分割していくもので、非常にわかりやすく、再現しやすいものである。また、レッド・オレンジとブルー・グリーンの第3次色をそれぞれ暖色と寒色の頂点とする点もわかりやすい。

7つの色彩対比について扱っている。色の多少の知識がある人なら色の対比が絵画やデザインにおいて重要なことはすでに知っていることだろう。しかし、7つもの対比を挙げることができるだろうか。本書では次の7つの対比について扱っており、それぞれに対して有名なアート作品も紹介している。

  • 色相対比 例)「聖母マリアの戴冠式」アンゲラン・シャロントン
  • 明暗対比 例)「レモン、オレンジとバラ」フランシスコ・デ・スルバラン、「黄金のヘルメットをかぶった人」レンブラント
  • 寒暖対比
  • 補色対比 例)「サン・ヴィクトワール山」ポール・セザンヌ
  • 同時対比 例)「衣服を剥ぎ取られるキリスト」エル・グレコ、「夜のカフェ」ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 彩度対比 例)「不思議な魚」パウル・クレー
  • 面積対比 例)「イカルスの堕落」ピーターブリューゲルI世

あまりいままで意識してこなかったのは同時対比である。参考に挙げられているアート作品を見て理解し、自分でも同時対比を利用した作品を作ってみにつけようと思った。

また、純度の明るさについての話も印象的だった。明るさを12段階に分けた時、純色の黄色は明るい方から4番目にくるが、青は9段目、赤は8段目にくるという。つまり、青、赤、黄を明るさで揃えるような場合には純色を使うことはできないのである。なんとなく体験から知っていることをこうして明確に言語化してもらうとさらに理解が深まる気がする。また、補食に対する調和のとれる比率についても紹介している。

  • イエローとヴァイオレットは1:3
  • オレンジとブルーは1:2
  • レッドとグリーンは1:1

もちろんこの辺は多少考案者の主観が入っていることは否めないが、スタート地点として知っておくことは役に立つだろう。

すでに出版から50年経っている本だが、いろいろ新たな視点をもたらしてくれた。

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「The Midnight Library」Matt Haig

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人生に失望し自殺を決意したNoraは生と死の間で不思議な図書館にたどり着く。

Noraがたどり着いた図書館で、学生時代の図書館の先生だったMrs Elmは案内する。そこの本はすべてNoraの人生の一つ一つの決断によってできる違う人生のパターンで、どれでも好きなだけ体験できると言う。

Noraはいくつかの人生を体験する。選んだ人生によって、元の人生と同じように悲しいことが起きることもある。一方、元の人生では死んだ父がある人生では健在だったり、元の人生では普通に生活している友人が、他の人生では交通事故で死んでいたりするのである。

印象的だったのは、元の人生で外で死んだ飼い猫Voltaireを外に出さない人生を体験したシーンである。

The year you had him was the best of his life… you don’t see yourself as a bad cat owner any more.
あなたが彼を飼っていた時間は、彼にとって最高の日々だったのです。…これであなたはもう自分を悪い飼い主だったとは思わないでしょう。

さまざまな自分の人生を体験する中で、Noraは人生について重要なことを学んでいく。

Every life she had tried so far had really been someone else’s dream… if she was to find a life truly worth living, she realised she would have to cast a wider net.
ここまで体験した人生はどれも他の誰かの夢だった。本当に自分自身に価値のある人生を見つけるためには、もっと広く体験しなければだめだと悟った。

他人の夢を生きないで自分の夢を生きる。当たり前のこととはいえ、世の中このように苦しんでいる人がたくさんいる。周囲の人の勧めたことを人生として選んで、「あの人のせいで自分はこんな不幸だ」と文句を言い続ける人である。今幸せではないと感じている人はもちろん、十分幸せな人生を送っている人もその幸せの密度を高めるために読んでほしいと思った。

「三体II 黒暗森林」劉慈欣

三体II 黒暗森林

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
400数年後に三体文明からの侵略艦隊が到達することが明らかになり、また、地球は智子(ソフォン)によって監視されている。そんななか地球の未来は4人の面壁者に託されることとなった。

三体の続編である。ようやく物語が大きく動き始める。地球の動きは、三体文明の解き放った智子(ソフォン)によって監視されているが故に、4人の面壁者は地球を守る計画を、頭のなかだけにとどめて公にすることはできないが、あらゆるリソースを理由を言わずに自由に使える権限を持つのである。そして、本作品は面壁者の1人である羅輯(ルオ・ジー)が主に中心となって描かれる。

序盤はそんな4人の面壁者の苦悩や、計画を描く。もちろん行動から簡単にその内容が明らかになってしまうようでは、三体文明にも筒抜けになってしまうので、計画の核となる部分は頭の中にだけながら、それぞれの面壁者は行動を開始していくのだが、大きなリソースを使う権力なだけに、政治的な駆け引きも絡んでいく。また、一方で地球の三体文明を支持するグループ、地球三体協会(ETO)はそれぞれの面壁者の計画を破壊する、破壁人(ウォールブレイカー)を割り当てるのである。

そして、後半は185年後の様子を描く。羅輯(ルオ・ジー)を含む何人かの面壁者は冬眠して時を飛び越え、一方で三体文明の解き放った探査機が太陽系に到達し、地球は三体文明と初めて向かい合うこととなるのである。

正直、前作「三体」は物語展開に乏しく、三体の前評判が高すぎたので若干がっかりしたのだが、本作品は一気に物語が動いて最後まで期待を裏切らない展開となった。本書で三体文明との決着はついたようにも見えるので、むしろ三体IIIではどのような物語が描かれるのか非常に気になってくる。

【楽天ブックス】「三体II 黒暗森林(上)」「三体II 黒暗森林(下)」

「The Push」Ashley Audrain

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
BlytheはFoxと結婚して娘が生まれるが、やがて娘と打ち解けられない自分に気づいていく。

Blytheの母としての苦悩を描く。興味深いのは、並行して時代を遡ってBlytheの母Ceciliaとその母Ettaの、親子の様子や、Blytheの子供時代、つまりBlytheとCeciliaの親子の様子も明らかになっていく点だろう。Ceciliaを愛することができないEttaはやがて別の人生を選ぶし、母から愛されなかったCeciliaもBlytheに対して良い母でいることができないのである。

そして現代に戻り、Violetとの仲がうまくいかないと感じるBlytheだったが、2人目のSamが生まれたことで人生が好転していくのである。

正直、なかなか受け取り方が難しい内容である。親から愛されなかった子供は、親になった時に子供をうまく愛することができない、とはたびたび聞く話ではあるが、必ずそう言う悪循環が続くわけでもないだろう。また、Blytheは娘のVioletとは難しい時期もあったが、息子のSamに対しては最初から愛情を持っており、性別によって感じる行動が異なることもあるのかもしれないと感じた。

むしろ母を経験した女性の意見を聞いてみたいと思った。男性にはなかなか面白さがわからないかもしれない。

「滅びの前のシャングリラ」凪良ゆう

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
1ヶ月後に地球に隕石が激突することが明らかになる。そんな滅亡の前の人々を描く。

小学生の江那友樹(えなゆうき)はクラスではいじめられっこという存在でありながらも、地球滅亡を前にクラスのヒロインである藤森さんに少しずつ近づいていく。また、目力信士(めぢからしんじ)は、40歳でヤクザとして生きてきたが、知り合いのヤクザか殺しの依頼されて実行に移そうとする。そんな2人を含む4人の視点から滅亡前の様子を描く。

地球滅亡を前にして、人々はずっと会いたかった人に会いに行ったり、好きな人に告白したり、略奪や欲望のままに行動したりする。そんな少しずつ混沌としていく世界の中で、藤森さんを守ろうとする友樹(ゆうき)や昔の恋人に会いにいく信士(しんじ)の前に様々な障害が立ちはだかるのである。

正直、地球滅亡前の人々の行動がなんとも現実感なく感じてしまうのは僕の想像力の欠如からなのだろうか。多くの人は残りの時間を考えると、使いきれないほどのお金を持っていることになるのし、食料も国としては余ることになるので、実際にはそこまで略奪する必要もなく、最後まで倫理的に行動する美学を持って普段通り行動する人が本書で描かれるよりも多いのではないかと感じてしまった。

著者の別の作品「流浪の月」が良かったので本書も読もうと思ったのだが、正直今回はあまり深みを感じなかった。ひょっとしたら、著者のなかにこの特殊な設定を通じてしか訴えられないものがあったのかもしれないが、残念ながら理解できなかった。

【楽天ブックス】「滅びの前のシャングリラ」

「税金を払うやつはバカ!」大村大次郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
国税局で10年間働いてきた著者が税金について語る。

昨今、自身の収入が少しずつではあるが増えてきたせいか、税金を意識する機会が多くなった。そんななか少しでも節税ができればと本書にたどり着いた。

面白いのは、国税局で働いてきた経歴を持ちながらも、税金をできるかぎり払わないことを推奨している点である。本書では個人事業主から会社員まで、支払う税金を少なくするための様々な方法を説明している。また、あわせて、日本の税金の制度のよくない点も説明している。

残念ながら会社員の僕がすぐに適用で起用できそうな方法は、せいぜい医療費控除に適用できる出費を知っただけで大きなものはなかった。むしろ節税の方法よりも、税金の制度について新たな視点をもたらしてくれた。例えば、消費税が公平な制度ではない、というのはよく耳にするが、消費税が格差社会を作るとまでは思っておらず、本書を読むまでしっかり理解していなかった。また、同様に消費税が非正規雇用を増やすことに貢献しているという視点も新鮮だった。

節税対策としてすぐに行動できる内容は少なかったが、税制度に対して新たな視点をもたらしてくれた。

【楽天ブックス】「税金を払うやつはバカ!」

「三体」劉慈欣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
各地で科学者たちの自殺が相次いでいる知った、ナノテク素材の研究者である汪森(ワン・ミャオ)だが、ある日自身も目の前にカウントダウンの数字が見えるようになる。

汪森(ワン・ミャオ)のカウントダウンから逃れようとする現代の様子に先んじて、文化大革命で科学者の父を亡くした葉文潔(イエ・ウェンジエ)が描かれ、時代を超えた大きな陰謀が陰謀が少しずつ形になっていくことを感じさせる。そんななか、汪森(ワン・ミャオ)は「三体」という仮想空間を舞台にしたゲームに魅せられていく。そこでは太陽が3つ存在し、その太陽の動きによって文明は何度も滅亡を繰り返すのである。

やがて、謎のカウントダウンから逃れようと奮闘する汪森(ワン・ミャオ)は、文潔(イエ・ウェンジエ)の存在を知り、そ少しずつ中国の田舎にある秘密の施設で過ごした文潔(ウェンジエ)の日々が明らかになっていく。

印象としては、本作品はまだ序章といった感じで、大きな展開はほとんどない。評価があまりにも高いためにちょっと拍子抜けした感じである。もちろん続編を読まなければ「三体」という作品自体の評価はできないが、長ければ良いと言うものでもなく、どの程度描きどの程度を読者に委ねるかと言うバランスが重要で、もう少しコンパクトに書けるのではないかと感じてしまった。

もし「三体」こそ最高のSFと思っているなら、個人的には鈴木光司の「ループ」をオススメしたい。「リング」「らせん」があまりにもホラーとして一人歩きしてしまったが、その完結編の「ループ」こそ日本の最高のSFである。

【楽天ブックス】「三体」

「みるみる理解できる相対性理論」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ホモ・サピエンス、つまり人類の進化の歴史を詳細に説明する。

先日「Project Hail Mary」という久しぶりに面白いSFに出会い、相対性理論を理解したいと思って、本書にたどり着いた。

光速に近い速度で宇宙旅行をした結果、2者の経験した時間が異なるというよくSFで使われる事象がある。その理由とどれぐらいの速度でどれぐらい時間が変わるのかを漠然としてでも理解することが目的の一つだったが、本書によって実は簡単な三平方の定理で計算することができると理解できた。難しいことを理解するには、それを発見した人の思考の過程を追うのが受け入れやすく、本書はそういう点でこれまでいくつか試した相対性理論関連の書籍のなかではもっとも理解しやすかった。

一方で、今更言うまでもないことかもしれないが、これを解明したアインシュタインの頭の構造に改めて驚かされた。

しかし、特殊相対性理論はまだしも、一般相対性理論はやはりまだ理解が難しく、特に

質量が空間を曲げ、空間の曲がりが重力を引き起こす

という点が、結果としては理解できても、どのようにしてその結論に至ったのかが受け入れがたく、引き続き機会を見つけて理解を試みたいと思った。

【楽天ブックス】「みるみる理解できる相対性理論改訂版」

「サピエンス全史」ユヴァル・ノア・ハラリ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ホモ・サピエンス、つまり人類の進化の歴史を詳細に説明する。

人類の進化の歴史を詳細に説明するなかで、ホモ・サピエンスが現代のように地球の支配者となった主な要因について説明している。

例えば初期の大きな変化は農業革命である。農業革命によって、狩猟から農耕へと移ったことにより、人々は定住化し、住居を持ち、その住居や土地に愛着を持つようになったという。著者は本当にそれが良かったかどうかについては疑問を投げかけているが、種としての進歩の過程で、その中の一個体、または特定の集団が、狩猟と農耕の生活の違いを比較して良い方を選択するということができないと結論づけている点が面白い。

もっとも興味深かったのは、ホモ・サピエンスの想像上の秩序によって一緒に行動することができるという特性であり、その特性によって、ホモ・サピエンスは他の種を圧倒することができたという主張である。例えば、チンパンジーやクジラなどの哺乳類も、どこに天敵がいるなどの簡単な会話はかわすことができるが、一般的なコミュニケーションで行動を共にできるのはせいぜい150個体程度の集団であり、それ以上の個体数、1万、10万という個体が共通の目的を持って行動するためには、宗教や神話など想像上の秩序を共通認識として持つ必要があるというのである。

キリスト教やアメリカの独立宣言など例をあげればきりがないほどさまざまな形でホモ・サピエンスはそれをこれまでにやってきて、今この時点でも様々な想像上の秩序に依存した関係のなかで生きていることは間違いのない事実である。

悲しいことに、多くの絶滅が、ホモ・サピエンスがその大陸に到達した時期と重なっているという。これはホモ・サピエンスの一個体として真実として受け入れるしか無いだろう。

学生時代に歴史の授業で学んだより時から、20年以上経って、現在はるかに多くのホモ・サピエンスの歴史が判明されていることに驚かされた。このような本でも読まない限りなかなか目を向ける機会のない分野なので、新たに知ったことがたくさんあった。ただ、前回読んだ「21Lesson」でも感じたことだが、若干冗長な語りが多く全体的に読みにくい。読もうと思った時にはある程度の覚悟が必要である。まだ未読の「ホモデウス」も名前はよく聞く作品なのでぜひ読みたいとは思っているが、しばらく間を置きたいと思った。

【楽天ブックス】「サピエンス全史(上)」「サピエンス全史(下)」

「ひと」小野寺史宣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学生の柏木聖輔(かしわぎせいすけ)は、親が急死したために、大学を辞めて、偶然立ち寄った惣菜屋で働き始める。そんな聖輔(せいすけ)を描く。

聖輔(せいすけ)は高校生のときに交通事故で父親を失い、大学生になって母を突然死で失ったことで人生を大きく考え直さなければならなくなる。正直僕自身、両親に早くに先立たれる人の苦労を知らずにいた。しかし、実際にはそれほど珍しくない話で今回はそんな人生に触れることができた。

やがて聖輔(せいすけ)は親切な惣菜屋の店主や店員の助けを借りて、独り立ちしていく。物語を通じて感じるのは、なによりも聖輔(せいすけ)自身の真面目さが、多くの人の信用を集めているということである。

この惣菜屋の店主などのように、困っている人に機会を差し出せる人間になりたいと思った。また、本書の聖輔(せいすけ)のような、若い人間目線としては、約束を守ること、誠実でいることで多くの人の優しさを引き寄せるのだと感じた。子供達にはそのことを伝えていきたいと思った。

物語を読み終わってもう一度タイトルを見ると、そこに深い意味が感じられる。

【楽天ブックス】「ひと」

「お探し物は図書室まで」青山美智子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
近所の図書館を訪れたことによって人生が動き出す5人の男女を描く。

本書は5人の男女を描いている。ちょっとしたきっかけから近所の公民館を訪れ、そこで出会った司書に本を勧められたことで、人生が少しずつ動き出すのである。どの人生にも印象的なシーンはあったが、個人的に好きなシーンは35歳の諒(りょう)の章、40歳なつみの章、30歳浩哉の章の次の箇所である。

もう動き出しているじゃないの、私が行けと言ったわけじゃない。あなたがあの店に気がついたんだよ。自分で決めて自分の足で…すでに始まってるよ

独身の人が結婚してる人をいいなあって思って、結婚してる人がこどものいる人をいいなあって思って。そして子供のいる人が、独身の人をいいなあって思うの。ぐるぐる回るメリーゴーランド。…それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの。つまり、幸せに優劣も完成形もないってことよ。

俺の小さなひとことを、そこまで大事にしてくれてたなんて。

人に影響を与えられる本書の司書小町さゆりのような生き方は素敵だと思った。また、どの話にも言えることだが気の持ち方で人生はいくらでも好転させることができると改めて感じた。そして、なによりそのことを物語にして広めることをしているこの本とこの作家が素晴らしいと思った。

【楽天ブックス】「お探し物は図書室まで」

「道具としてのベイズ統計」涌井良幸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ベイズ統計についてわかりやすく説明している。

本書でベイズ統計については3冊目である。概念的なところから入り少しずつ細かいことまで理解したいと考え、数式などを極力省略しないで実践的に説明している書籍をと思い本書にたどりついた。

これまでによんだベイズ統計の本のなかでもっともわかりやすかった。ベイズの定理の事前確立や事後確立を、事前分布、事後分布と確立分布という分布という考え方にも適用し、確立の総和が1であることを利用して、単純でかつ汎用性が高い考え方になることをわかりやすく説明している。

また、自然な共益分布を用いることによって計算が簡単になり、事象によって適した共益分布があるということも理解できた。二項分布ならベータ分布が適しているのということである。

一方で、分散が未知の場合の考え方あたりから、着いていくのが難しくなった。この辺はまたモチベーションの高い時にさらに繰り返し読んでしっかり身に付けたいと思った。以降は様々な手法についてExcelによる実際の実行方法なども含めて触れている。

理系の人間には問題ないだろうが、若干省略されていると感じる部分もあった。とはいえベイズ統計についてわかりやすくまとまっていて、初めて不足なくベイズ統計について知りたい人には最適と言えるだろう。

【楽天ブックス】「道具としてのベイズ統計」

「世界一やさしい問題解決の授業」渡辺健介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
経営コンサルティング会社マッキンゼーで活用している問題解決の手法を子供向けに語る。

本書では、小学生や中学生の日常生活で起こりそうな問題を例にとってその解決の手順を一つ一つ説明している。具体的には次の方法である。

  • 目標を設置する
  • 目標と現状のギャップを明確にする
  • 仮説を立てる
  • 情報を集める
  • アイデアを出す
  • 最適な打ち手を選択する
  • 実行する

一方で、よくある3つのタイプをよくない例として出している

  • どうせどうせ子ちゃん
  • 評論家くん
  • 気合いでゴーくん

ここまで子供向けの内容とは思っていなかったが、たしかに、これが自然とできる人とそうでない人がいて、できない人にはこうやって教えて、人生の早い段階で学ぶことができれば大きく人生を好転させることができるだろう。子供のために一冊あってもいいのかもしれない。

【楽天ブックス】「世界一やさしい問題解決の授業」

「マーケット感覚を身につけよう」ちきりん

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
マーケット感覚の重要性を語る。

インターネットの発展によって距離や文化の垣根が少しずつ取り払われ、すべての物やサービスが自由に取引されるようになった。そんな時代だからこそ売れるものを見つけ、売れる値段で売る、というマーケット感覚が重要なのである。本書はそれをいくつかの章に分けて説明している。

本書では、そんなインターネットによる変化を、相対取引から市場取引と語り、物の販売だけでなく、就職活動や婚活も以前は相対取引だったが今では市場取引になってきているとしている。

そんな時代に生き残るためには、価値をみつけることがなにより重要である。そのためには人が何に価値を感じるのかに敏感になる必要がある。本を選ぶサービス、骨董品の目利きサービス、服を選ぶサービス、不満を買い取るサービスなど、本書では、今までは価値としてみなされなかったものが、最近になって価値として認識され始めた例、つまり非伝統的価値について例をあげている。

そして、見つけた価値を売るために、つぎの5つの能力の重要性を説いている。

  • 1 プライシング能力を身につける
  • 2 インセンティブシステムを理解する
  • 3 市場に評価される方法を学ぶ
  • 4 失敗と成功の関係を理解する
  • 5 市場性の高い環境に身を置く

コスト意識ではなく、マーケット意識で物事を考えることの重要性は、言われてみればもっともだが、僕も含めコスト意識が先行してしまう人は多いはず。この辺は少しずつマーケット意識で考える癖をつけていきたいと思った。

【楽天ブックス】「マーケット感覚を身につけよう」

「シン・ニホン」安宅和人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これから迎えるデータ×AI時代に日本はどのように備えるべきなのかを、経済、教育、医療などさまざまな視点から語る。

日本だけでなく、世界の様々な国の考え方や事情を知っているからこその考え方が詰まっている。

AIに対して、多くは「AIに仕事が奪われるという」と言うが、本書ではそんな「人間vsAI」という議論は意味がないと切り捨てている。実際には「AIを使わない人」と「AIを使える人」に分かれていくのだと言う、だからこそ、AI時代に対応できる知識を身につける必要があり、そのための教育の必要性を強調している。そんなAI時代に備えて次の3つのスキルの重要性を語っている。

  • ビジネス力
    課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し、解決する力
  • データエンジニアリング力
    データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力
  • データサイエンス力
    統計数理、分析的な素養の上、情報処理、人工知能などの情報科学系の知恵を理解し、使う力

教育について語っている章では、日本と海外の大学の(特にアメリカの)システムの違いについて触れている。日本ではどんどん予算が削られ、教員の給料が頭打ちになっているために、優秀な教員が海外に奪われる自体が起きているだけでなく、卒業生からの寄付も少ないのでどんどん海外の大学に置いていかれているという。

医療や高齢化社会という問題については、老人ではなく若い人に投資する社会にすべきと語り、また尊厳死の合法化にまで触れている点が面白い。

さまざまなデータから日本が進むべき未来を提言している。圧倒的なデータ量とその知識に驚かされるだろう。僕自身AI時代に備えるとともに、子供を持つ親として、どのような教育を子供に与えるべきかを考えさせられる内容である。

【楽天ブックス】「シン・ニホン」

「キネマの神様」原田マハ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
幼い頃から、父の影響で映画を愛する歩(あゆみ)は、40歳を目前に転職して伝統ある映画雑誌の会社に勤めることなる。

大企業のキャリアを捨てて、老舗だが潰れかけの映画雑誌の会社で働き始めた歩(あゆみ)は、やがて、同僚とともに父を巻き込んでインターネット上に映画のレビューサイトを立ち上げる。また、それを英語版でもリリースしたことから、ローズ・バッドという謎の外国人が書き込むことから国境を超えた映画愛好家同士の書評バトルが繰り広げられていくのである。

まずは、歩(あゆみ)の父とローズ・バッドの書く映画のレビューが本書の魅力の一つである。普段映画を見ない人にはどう感じるかわからないが、どれも有名作品ばかりなので映画好きにはたまらなく、みてない作品はみたくなるだろう。歩(あゆみ)の父とローズ・バッドの映画に対する向き合い方の違いから、レビューというものの奥深さを感じさせる。

「ここがいい」と言ってしまったら、作り手の思う壺だ、ってね。日の当たる部分を注意深く避けながら、自分の論拠で映画を包囲してしまう。それが私の手法だった。

やがて、物語はお互いあったことのない歩(あゆみ)の父とローズ・バッドという海を隔てた友情へと発展していく。

物語の軽快さのなかに、適度な深みを感じさせるとともに、物事の見方に新たな視点を与えてくれる作品。原田マハという作家はそのキュレーターとしての経歴からか、絵画に造詣が深いという印象があるが、言葉や文字の一つ一つの選び方について特別な感覚を持っているのだと感じた。「本日はお日柄もよく」ではスピーチを題材にして読者を楽しませてくれたが、今回は映画のレビューで楽しませてくれた。僕自身もこうして読んだ本について言葉にしている身としては、本書のなかに登場する映画レビューから感じられる熱量を少しでも取り入れたいと思った。

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「The Rose Code」Kate Quinn

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第二次世界大戦中にドイツの暗号解読に関わった女性たちを描く。

物語はOsla,Mab,Bethという10代、20代の女性3人を中心に描いたている。彼女らは戦時中にそれぞれの人生を送っていたが、あるきっかけからBletchley Parkにおける暗号の解読に関わるようになるのである。

Bletchley Parkには暗号解読に関わる男女が多く集まって日夜仕事に励んでいた。第二次世界大戦中、彼らの業務は極秘事項であり、彼らは外では一切自分の仕事を明かすことができず、それゆえに多くの葛藤を抱えるのである。男は拘束されて暗号の解読のことを漏らす危険性から戦争に志願することができない。そのため、Bletchley Parkで働く男性たちは、頭脳を使って戦争に貢献しているにも関わらず世間からは白い目で見られる。また、女性たちも恋人や家族に毎日何をやっているのかを一切伝えることができないのである。しかし、だからこそBletchley Park内部では特別な連帯感が生まれていくのである。そんなか、戦争の終結が近づくにしたがって、Osla,Mab,Bethと他のBletchley Parkのメンバーたちは少しずつ異なる道を歩むこととなる。

物語は戦時中の1939年から1944年のBletchley Parkの様子と終戦後の1947年、Bethから裏切り者の存在の示唆によって3人が再び連絡を取り合う様子を交互に動きながら進んでいく。

戦争の様子と暗号解読に奮闘する様子以外にもいくつか見所がある。まずはBethの家庭の様子である。Bethの家は元々はBletchley Parkで働くOsla,Mabのための宿として提供されていたが、母親の厳しい管理下におかれているBethを心配したOsla,Mabが、その暗号解読向きの才能に気づいてBletchley ParkにBethを雇うように進言し、それによってBethは少しずつ母親の束縛から解放されて自由を手に入れていくのである。

また、Osla,Mabは自身の文学好きであることから、Bletchley Park内の文学好きを集めて会合を定期的に行うのである。そこでは「Gone with the Wind」など、過去の有名な文学作品が多々議論されている。知らない作品ばかりであるが、時間があったらぜひ触れてみたいと思った。

また、Oslaの恋人がのちのエリザベス女王の夫となるPhilipである点も面白い。イギリスやヨーロッパの皇族の関係やその葛藤についても触れることができるだろう。

最初はなかなか物語が進まない印象を受けた。過去のKate Quinnの「Alice Network」や「Huntress」に比べると物語展開よりも登場人物の心の動きに焦点が当てられているように感じる。ただ、BethによるBletchley Park内の裏切りのもの存在の示唆によって、Osla,Mabが行動を開始した後半は一気に動き出す。

戦時下という中で自分たちができることに尽くした人々の熱い生き方に何度も泣きそうになった。イギリスに行く機会があったらBletchley Parkも行ってみたいと思った。

「マネジャーの最も大切な仕事」テレサ・アマビール/スティーブン・クレイマー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インナーワークライフを向上するためにマネジャーができることはなんなのか。様々な企業のチームから7ヶ月にわたって日誌を提出してもらい分析した結果を説明する。

インナーワークライフとは個人的職務体験としており、次の3つの要素で構成される。

認識・・・職場での出来事に対する状況認識
感情・・・職場での出来事に対する反応
モチベーション・・・その仕事への熱意

なぜインナーワークライフが組織において重要かと言うと、それがパフォーマンスに大きな影響を与えるからである。そしてモチベーションのために重要な要素として、見過ごしがちな進捗の法則を含む次の3つの要素を説明している。

進捗の法則
触媒ファクター
栄養ファクター

七大触媒ファクターと四大栄養源を次のように説明している。

  • 明確な目標を設定する
  • 自主性を与える
  • リソースを提供する
  • 十分な時間を与える(しかし与えすぎてはいけない)
  • 仕事をサポートする
  • 問題と成功から学ぶ
  • 自由活発な意見交換

四大栄養源

  • 尊重
  • 励まし
  • 感情的サポート
  • 友好関係

このようなマネジメント関連の本は、どうしても机上の空論のようで現実感に乏しく感じてしまうのだが、本書は実際の現場からあがってきた日誌とともに紹介している(もちろん個人が特定できないように名前や地名などは変えてある)ので説得力が感じられる。

僕自身、小さな進捗のサポートできているだろうか。良い触媒ファクター、栄養ファクターを与えられているだろうか。そんなことを考えさせられ、マネジメントにうまくいかない時などに、なんども戻ってきたいと思える内容である。

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「オリエント急行の殺人」アガサ・クリスティー

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
世界各国からの乗客が集まるオリエント急行で殺人が起こり、偶然乗り合わせた名探偵ポアロは真実の解明を依頼される。

アガサ・クリスティーの作品を読むのは大学生の時以来20年ぶりである。本作品はそもそも物語の展開自体がすでに知ってないと話が通じない人というぐらいまで多くの場所で引用されているのを眼にする。これは読んでおかなければ、と思いようやく今回読むに至った。

1933年に書かれた作品ということで、やはり稚拙さや心情描写の浅さを感じなくはない。小さな驚きではあるが、1930年代にすでにアメリカやイスタンブールという国を超えた行き来がここまで一般的だったことに驚かされた。海外旅行はここ20年ぐらいで一般的になってきたものという認識なのだ、それはあくまでも飛行機による旅の話で、電車や船による移動、特に大陸間ではもっとずっと前から一般的だったのだろう。

感想としては、確かに予想外といった印象で、当時としては新鮮だっただろうと感じた。他にも「アクロイド殺し」も名作とよく聞くのでどこかのタイミングで読んでみたいと思った。

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