「見えない誰かと」瀬尾まいこ

「見えない誰かと」瀬尾まいこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
自身の教師の経験の中で出会ってきた人々を語る。

瀬尾まいこの本を読むのはこれが初めてではなく「そして、バトンは渡された」など、いくつか印象に残っている本があるが、本書「見えない誰かを」を読むまで中学校の教師であることを知らなかった。

興味深いのは、一見おかしな人、変な人に見える人々でも、時間の経過によってその人の異なる部分を知り、良い部分を見るようになっていく著者の視点だろう。女性ならではの共感力や、先生ならではの観察力を感じる。そして、その一方で、人の記憶に長く残る人というのは、どこか一癖ある人なのだと改めて感じる。

著者のその優しい視点からも、そして、著者が挙げている癖のある人々からもたくさん学ぶところを感じる。悪いところばかりに目がいってしまう僕自身は、人との接し方を少し改めないとならないと感じた。

周囲に合わせて個性を失っていると感じる人がいるなら、そんな人も本書を読んでみるといいのかもしれない。

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「完売画家」中島健太

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「絵描きは食えない」という常識を覆した完売画家と呼ばれる著者のこれまでの活動や考え方を語る。

僕自身、制作物や技術を売る人間なので、著者の考え方が、技術の上達やブランディングに活かせないかと考え、本書にたどりついた。

読み始めて気づいたのだが、著者はもともと体育会系の人間なのだという。また、論理的に物を考える傾向があり、それによって、行動や思考が筋道立って説明されていてでわかりやすかった。むしろ、だからこそ、このように一般的な美大出身の人とは異なる道を歩み始めたのかもしれない。

本書で繰り触れていることとして、美大の講師は、美術でお金を稼げなかった人がなっている場合が多く、その結果、美大ではお金の稼ぎ方を学べないという悪循環が起こっているというものがある。著者はそんななか周囲から白い目でみられながらも、自らの絵を売る方法を確立し、その過程や考え方を説明している。ギャラリーや美術団体の種類や傾向の話は印象的で、また、オンラインで販売することの画家としてのデメリットの話も興味深かった。

絵を描く技術については次の言葉が心に残った。

多くの人は、線を描き始める場所は決めていますが、描き終える場所は決めていない。そのため、終わるところを意識するためでも、速くなります。

本書では、美術業界において実践していることを描いているが、早く良質の作品を仕上げることの重要性や、人の求める要素を見極めたり、競争相手のいない領域で勝負することなどは、他のどんな業界においても言えることである。改めて今僕自身が毎日やっていることに取り入れられないか考えたみたい。

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「恋文」連城三紀彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第91回直木賞受賞作品。中年の男女を描いた5つの家族の物語である。

ドラマ化された最初の物語「恋文」なかなかいい話だったと聞き、本書を読みたくなった。

発行がすでに30年以上前なので、時代の古さは感じるが、その深さは今読んでも遜色ない。いずれの物語も30代、40代の男女を主人公に据えており、すでに若い頃の華やかな生き方を通り過ぎ、人によっては家族を持ち、もはや人生は流れに任せて少しずつ年齢を重ねていくだけ。そんな風に思えるなかで訪れた人生の決断を、成熟した人間の悩みや葛藤とともに描いている。

表題作「恋文」は、夫が、病気で余命わずかな元恋人である郷子(きょうこ)と最期の時間を一緒に過ごすために家を出る話である。妻の江津子(えつこ)は、夫の想いや、郷子(きょうこ)の最期の望みを叶えてあげたいという思いをもちながらも、また同時に、年上女房として弱みを見せない自分や、夫に戻ってきてほしいという素直な気持ちの間で揺れ動くのである。

表題作「恋文」だけでなく、どれも甲乙つけがたい魅力的な作品。一般的にはおじさん、おばさんと呼ばれる人たちが、それぞれのかっこよさを感じさせるところがまた印象的である。ぜひ、もはや人生にはなんのドラマも起きないと諦めている30代、40代の人に読んでほしい。

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「The Girl You Left Behind」Jojo Moyes

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦時のフランスで生きる姉妹SophieとHélène、それぞれ夫が出兵し不在の中、子供達の面倒を見ながらレストランを経営する。

1916年、第一次世界大戦のドイツの占領下のフランスで、SophieとHélèneはレストランを営み続ける。そして、そこにはSophieの夫であるÉdouardの描いたSophieの肖像画が飾ってあるのである。そして、かつては地元で有名なホテルだったこを聞きつけたドイツ人将校は、2人、食材を提供するのでドイツ兵のために夕食を用意することを依頼されるのである。

一方で、並行して描かれるのは、2006年のロンドンに住む30代女性Livであり、彼女は建築家の夫と死別したのち、1人で夫が遺したマンションの部屋に住み続けている。そしてそこには、人の手を渡り歩いてたどり着いたSophieの肖像画が飾ってあるのである。

物語は、Édouardの描いた作品の価値が高まり、Édouardの子孫がその作品を子孫の元へと返すように訴えることで大きく動き出すのである。彼らの主張は、戦時にドイツ軍によって略奪されたものだから元の持ち主に返すべきということである。一方、早くに亡くなった夫からのプレゼントであり、その肖像画に愛着を持つLivは、お金のためだけに絵を取り戻そうとするそのÉdouardの子孫たちに返すのを避けるために、略奪によって絵がうばされたわけではないという証拠を見つけ出そうとする。

戦時中と21世紀という大きくへだたる時代のなかで、ドイツ兵、フランス、どちらの内側にも、善と悪が描かれている点が印象的である。誰もが戦争という大きな流れのなかの犠牲者でしかなく、そんな過酷な状況ではどんな人も強くいられず、潔癖でもいられず、時には、弱さをさらけ出し、人を傷つける言動をせざるを得ない。その場を経験した人間にしかわからないようなその空気感を見事に表現し、それを物語のなかに組み込んでいる。

今年最高に涙した作品。

「amazon 世界最先端の戦略がわかる」成毛眞

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
さまざまな業界の勢力図を塗り替えて巨大な帝国を築きつつあるアマゾンのすごさとその戦略を語る。

GAFAとして、アップル、フェイスブック、グーグルと比較されることはあるが、そんななかでもアマゾンのすごいところは、業務の範囲を限定せずに手当たり次第に拡大している点だろう。そして不利と判断するとすぐに撤退し、有利と見ると資金力を活かして容赦無く拡大していくことが、本書を読むとよくわかる。

なかでも面白かったのは、楽天とアマゾンを比較する点である。企業の世界的なサイズは大きく違えと、日本では似た印象を持つこの二者であるが、著者はそのコンセプトには大きな違いがあるという。楽天のビジネスモデルは場所貸しなので、お客さんは出店してくれる企業だが、アマゾンにとってはお客さんはあくまでも消費者なのだという。そのため、初期は楽天が拡大しやすい一方、アマゾンは在庫管理や物流を整備しなければならない分時間がかかったというのである。言い換えれば、在庫管理と物流が整備されたら、楽天に勝ち目はないということだ。海外の本だとなかなか楽天とアマゾンを比較することはと思うだけに、この日本人目線の考察はありがたい。

知っていると思っている以上にアマゾンについて知ることができた。また、アマゾンの未来はそのまま世の中の未来になる点がおそろしくもあり、また楽しみである。全体的にアマゾンが今後つくっていく近い未来にさらに期待を抱かせる内容だった。特にAmazon Goの普及は楽しみである。

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「花まんま」朱川湊人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第133回直木賞受賞作品。大人になった人々が子供時代の不思議な体験を思い起こす。そんな6つの物語である。

ずっと心の奥にとどまっている、心残り、引っ掛かり、解決しないままの気がかりなど、すでに記憶に残るぐらいの年齢ではあるが、世の中のすべてを知っているとは言い切れない、そんな年代である小学生の頃の不思議な記憶を、それぞれの男女が吐き出していく。6つの物語に触れる中で、当時の情景が思い起こされ、当まだまだ貧富の差や、差別などがそこら中にあふれていたのだと感じるとともに、過去の生活の進歩を改めて感じる。

また、本書にふくまれる6つの物語のように、人の人生とは必ずしも、優しい人が幸せになるわけでもなく、悪い人が罰せられるわけでもなく、いつか完全にすべての謎が解けるような作られた映画のような物語でもなく、はっきりしないまま、何年経っても結末を知り得ない、やるせない部分を抱えているものなのだろう。

どれも同じ40代、50代の主人公が小学校の頃を思い起こす物語だから、どの物語からも昭和の懐かしい香りが漂ってくる。描ききらない微妙な空白が、40代の僕に当時の埃まみれの校庭や道端の匂いを感じさせてくれる。他の世代の人はどう思うかわかららないが、同年代の人には間違いなくおすすめできる作品。

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「55歳からのハローライフ」村上龍

55歳からのハローライフ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
50代のどこにでもいそうな男女を主人公にした5つの物語。50代になって人生の転機を迎え、新しい人生の物語である。

夫と離婚して婚活を始めた女性の話、定年後妻とキャンピングカーで全国を回ることを楽しみにしていた男性の話、本で出会った女性に恋をするトラックドライバーの話など、どれも魅力的な物語である。

個人的にはキャンピングカーの物語が印象的である。同じように喜んでくれると思った妻が、キャンピングカーの話に思っていたほど乗ってこないのである。そして少しずつ、妻や娘にもそれぞれ長い間育んできた楽しみの時間があることを知る。また、自分自身も仕事という時間の過ごし方がなくなった今、新たな生き方を改めて考え始め、多くのことに気付き始めるのである。

年齢を重ねて、人生が生きる価値のないものになっていく、などと考えている人がいるのなら本書はまさにおすすめである。何歳になっても人生は青春であり、ドラマであり、自分自身は主人公なのだ。どんな人の人生にもじっくり語ることのできる物語があることを再認識させてくれるだろう。

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「カラフル」森絵都

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
死んだ「ぼく」は天使によって人生の再挑戦の機会が与えられ、小林真(こばやしまこと)という中学3年生の人生を期間限定で引き受けることになる。

「ぼく」は小林真(こばやしまこと)を手探りをするように探りながら、その家族や友人とその関係を把握していく。そして、小林真(こばやしまこと)という人間が、絵は得意でありながらも、家族や友人との関係にいくつかの問題を抱えていることに気づいていく。

死んだ人間に再挑戦の機会が与えられる。この物語の流れはすでに多くの作家が使っている。すぐに思い浮かぶところだと「幽霊人命救助隊」「ミッドナイトライブラリー」で、どちらも自信を持って勧められる作品で、ある意味、この流れで描かれた物語にそうそうハズレはない。本書も例外ではない、他の作品にない点を挙げるなら、感受性豊かだが、人生思い通りに行動するほど時間もお金もない中学生を主人公に据えている点だろう。

それでも小林真(こばやしまこと)の人生を引受けることとなった「ぼく」は、できる範囲で友人や家族に自分の考えを伝えていく。知らないまま、伝えないままでいることよりも、事実と向き合うことを選んでいくのである。それによってこれまで見えてなかった、家族や友人たちの新たな側面が見えてくるのである。

ありがちな設定の物語とは読む意味がない物語という意味ではない。この手の物語は何度でも読むべきで、何度でも人生を前向きに補正してくれる作品である。

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「Building a storybrand」Donald Miller

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ブランディングの手法について語る。

映画に必要な要素とブランディングに必要な要素は基本的には同じで、次の7つの要素だという。

1.登場人物 Character
2.問題 Problem
3.案内役 Guide
4.計画 Plan
5.行動 Calls Them to Action
6.失敗 Failure
7.成功 Success

次の3つの質問に答えられるだろうか。

1.What does the hero want? ヒーローは何を求めているのか
2.Who or what is opposing the hero getting what she wants? 誰がまたは何がヒーローがそれを手にすることを妨げているのか
3.What will the hero's life look like if she does(or does not)get what she wants? ヒーローがそれを手にした時、ヒーローの人生はどうなるべきか

そしてユーザーが疑問に思うであろう、次の点が明確だろうか。

1.What do you offer? あなたは何を提供しているのか?
2.How will it make my life better? 私の人生をどのようによくするのか
3.What do I need to do to buy it. それを買うために私は何をする必要があるのか

改めて、本書に書いてあることを考えながら、僕が仕事で取り組んでいるサービスを考えた時に、ユーザーへのその成功をはっきりと見せられていないと感じた。

ヒーローの問題を外面的、内面的、哲学的と3つの領域に分けている点も印象的である。それぞれをよりわかりやすくすると次のようになる。

  • 外面的… 目の前にある問題を解決したい
  • 内面的… こんな人間になりたい
  • 哲学的… 世の中に貢献したい

僕自身が関わっている仕事やサービスなど、様々なものについて、改めてその価値をうまく見せられているか考え直すきっかけとなった。

「直感と論理をつなぐ思考」佐宗邦威

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
PDCAによる改善の流れは今後ますます自動化され、正解がないものに取り組む直感的な発想法がより必要になるという。本書では直感的な考え方の必要性とそれを生み出す手法を語る。

本書ではこれから社会が向き合う2つの危機をオートメーションの波とVUCAの霧としている。VUCAとはVolattility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)である。そしてそんななか、論理的、戦略的思考ではいずれ限界がくると説いている。つまり、ゲームに勝つことよりも、ゲームを作り出すことこそた重要なのだという。「自分モード」から「他人モード」、「1→∞」から「0→1」、「Vision-Driven」とから「Issue-Driven」など様々な言い回しを使っているが言っていることは基本的に同じである。

「いかに答えを探すか」ではなく、「そもそも答えなどない」という前提で動くことが、大半の人・組織に求められるようになったわけだ。

そして、後半では「0→1で発想する様々な手法を紹介している。プロトタイピングメソッドによって早く作って早めに失敗することの重要性や、広く全体を見る鳥の目と狭く集中して物事を見つめる虫の目を使い分ける方法や、「画像」と「言葉」を往復する思考法を紹介している。

なかでも手書きと絵の重要性を説いている点が印象的である。どんなにアプリなどのデジタルツールが進歩したとしてもアプリの立ち上げまでの時間を考えると、すぐに開けてかけるノートとペンにはかなわないと著者は主張するのである。

僕自身もすでにコンセプトが出来上がっているものを作り上げるよりも、コンセプト自体を創造することに価値があると考えているので、本書で行っていることには共感する。アイデアの出し方についても、僕自身デザイナーとして、デザイン案を構築する中で、言葉とイメージを往復しながらアイデアを少しずつ固めていく手法をよく使う。本書で書かれている内容は、その手法の効果を裏付ける形となった。

ツールについては、iPadのApplePencilの登場でかなりアナログの感覚をデジテルツールでも再現できるようになったと感じているが、確かにアクセスや、アプリを開くまでの時間を考えると、本書で言っているようなこともあるのかもしれないと感じた。ノートを一冊常に持ち歩くように習慣づけることは間違い無く良いことだろう。さっそく素敵なノートを一冊購入しようと思った。

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「The House in the Cerulean Sea」TJ Klune

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
孤児院の監査を仕事にしているLinusはその徹底した仕事からMarsyas島の孤児院の調査を依頼され、飼い猫CalliopeとともにMarsyas島に向かう。

Linusすぐにその孤児院には多くのいわくつきの子供たちがいることを知る。特に大きな問題は反キリストであるLucyである。しかし、やがて子供たちと触れ合う中で少しずつLinusの心は変わっていき、彼らも世の中のすべての子供達と同じように、守られるべき存在だと気づいていく。そして、それまで味気ない生活をしてきたLinus自身の人生も豊かな感覚が蘇ってくるのである。

一方、その孤児院を閉鎖しようとするExtremely Upper Managementは、Linusからその孤児院の問題を指摘する報告を待っている。やがてLinusは自らの仕事を守るために行動すべきか、それとも、暖かい孤児院の人や子供達を守るために行動すべきか葛藤するようになるのである。

なんといってもLucyを中心に、その孤児院にいる子供たちの様子がかわいい。彼らの異質な見た目が小説からだとなかなか伝わってこないのが残念だが、その振る舞いの愛らしさは伝わってくる。

見た目や生まれにかかわらず、人には生きる権利があり、特に、守られるべきだということを、このような形にすることで強く訴えてくるようだ。

「ペインティングレッスン」ジュリエット・アリスティデス

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
有名な絵画の解説とともに、著者がその生徒たちに実践させている練習方法を紹介する。

上手なアーティストと自分の絵を比べると、今更ながらに技術にかなりの差があるのと感じ、その差を埋めるためにどのようなことをすればいいのかを知りたくて本書にたどり着いた。

本書では、構図、明度、色について説明しながら、有名な美術作品を紹介している、また、それとあわせて7つの練習の手法と実際の生徒たちのその練習の様子を紹介している。

  • モノクロの模写
  • モノクロのキャストペインティング
  • 明度を基調にした静物画
  • 暖色と寒色によるキャストペインティング
  • カラーの模写
  • カラーの静物画
  • 人物画

1つの絵を白黒に変換するときに、明暗をどのように解釈するかにも何通りものパターンがある。そのパターンを検討した上でベストなものを選択するという考えを今まで持っていなかったことに気づかされた。美大等でデッサンにかける時間を考えると当たり前なことかもしれないが、改めて、実際のものを見てそれを白黒に変化するデッサンの重要さを知ったので早速毎日の習慣に取り入れたい。

また、拭き取り技法、キャストペインティング、サイトサイズ法など、わからない用語がいくつかあった。おそらく美術を専門的に学んだ人にとっては常識だと思うので、しっかり調べて理解したいと思った。同じ著者の作品に「ドローイングレッスン」というのもあるので本書に続いて読んでみたい。

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「三体III 死神永生」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
女性の科学者である程心(チュン・シン)は三体危機の勃発によって、類の存続のための計画に関わっていくこととなる。

三体シリーズの完結編である。「三体II」で三体文明との均衡状態に至った人類のその後を、女性の科学者である程心(チュン・シン)を中心に描いている。

序盤は、三体文明の脅威にさらされ人類が智子(ソフォン)に監視されるなか程心(チュン・シン)が、人間を三体文明に送るという階梯計画(ラダープロジェクト)に関わっていく様子と、並行して、程心(チュン・シン)の大学時代の同級生である雲天明(ユンティエン・ミン)が、余命わずかとなり、死の間際に程心(チュン・シン)に星をプレゼントする様子を描いている。やがてこの2人の関係が人類の存続の大きな鍵となっていくのである。

また、暗黒森林抑止によって、三体文明との緊張状態保っていた人類だったが、暗黒森林抑止を保つ執剣者(ソードホルダー)の交代の時を迎える。三体文明はその交代の瞬間を狙って大きな動きを仕掛けてくるのである。

後半では、人類の存続をかけた3つの計画を中心に描く。大量移民計画、全宇宙への安全通知、高速宇宙船の開発である。程心(チュン・シン)は最期まで人類の存続に関わる存在となっていくのである。

中盤以降は程心(チュン・シン)も冬眠を繰り返し、時代がこれまでと比較しても格段に早く未来へ進んでいくため、現代から考え方も含めての乖離が大きくなり、理解が追いつかず、あまり楽しめなかった。三体全体の総括としては、「三体II 暗黒森林」が一番面白かった。「三体」全体的に哲学的な考えを、SFのなかに取り入れているのが大きな魅力と入れるのかもしれない。

個人的には、種と種の対立が、まるで個と個の対立のように描かれていて、実際にはこうはならないだろうと思える箇所が多々あった。例えば環境破壊に代表されるように、1人1人の人間は常に人類という種族の数百年後の存続を考えて行動をしているわけではない。暗黒森林のような脅威によって2つの種族が均衡状態になることは実際には簡単ではないだろう。

現代には存在しない技術や文化を描かなければSFとはなり得ないにも関わらず、現代の技術や文化から離れすぎると理解されないという、SFというカテゴリの創作者が持つであろう葛藤を感じた。そういう意味では本作品と比較される「プロジェクト ヘイル・メアリー」の方が程よい点をついていると感じた。

【楽天ブックス】「三体III 死神永生(上)」「三体III 死神永生(下)」

「ヨハネス・イッテン 色彩論」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

僕自身デザイナーとして生きているので、色や形の感覚を深められる練習や知識はは徹底的に取り入れていこうと考えていて、そんななか本書に出会った。

世の中様々な色環が語られているが、本書の12色環は赤、青、黄の純色を基準にして分割していくもので、非常にわかりやすく、再現しやすいものである。また、レッド・オレンジとブルー・グリーンの第3次色をそれぞれ暖色と寒色の頂点とする点もわかりやすい。

7つの色彩対比について扱っている。色の多少の知識がある人なら色の対比が絵画やデザインにおいて重要なことはすでに知っていることだろう。しかし、7つもの対比を挙げることができるだろうか。本書では次の7つの対比について扱っており、それぞれに対して有名なアート作品も紹介している。

  • 色相対比 例)「聖母マリアの戴冠式」アンゲラン・シャロントン
  • 明暗対比 例)「レモン、オレンジとバラ」フランシスコ・デ・スルバラン、「黄金のヘルメットをかぶった人」レンブラント
  • 寒暖対比
  • 補色対比 例)「サン・ヴィクトワール山」ポール・セザンヌ
  • 同時対比 例)「衣服を剥ぎ取られるキリスト」エル・グレコ、「夜のカフェ」ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
  • 彩度対比 例)「不思議な魚」パウル・クレー
  • 面積対比 例)「イカルスの堕落」ピーターブリューゲルI世

あまりいままで意識してこなかったのは同時対比である。参考に挙げられているアート作品を見て理解し、自分でも同時対比を利用した作品を作ってみにつけようと思った。

また、純度の明るさについての話も印象的だった。明るさを12段階に分けた時、純色の黄色は明るい方から4番目にくるが、青は9段目、赤は8段目にくるという。つまり、青、赤、黄を明るさで揃えるような場合には純色を使うことはできないのである。なんとなく体験から知っていることをこうして明確に言語化してもらうとさらに理解が深まる気がする。また、補食に対する調和のとれる比率についても紹介している。

  • イエローとヴァイオレットは1:3
  • オレンジとブルーは1:2
  • レッドとグリーンは1:1

もちろんこの辺は多少考案者の主観が入っていることは否めないが、スタート地点として知っておくことは役に立つだろう。

すでに出版から50年経っている本だが、いろいろ新たな視点をもたらしてくれた。

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「The Midnight Library」Matt Haig

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
人生に失望し自殺を決意したNoraは生と死の間で不思議な図書館にたどり着く。

Noraがたどり着いた図書館で、学生時代の図書館の先生だったMrs Elmは案内する。そこの本はすべてNoraの人生の一つ一つの決断によってできる違う人生のパターンで、どれでも好きなだけ体験できると言う。

Noraはいくつかの人生を体験する。選んだ人生によって、元の人生と同じように悲しいことが起きることもある。一方、元の人生では死んだ父がある人生では健在だったり、元の人生では普通に生活している友人が、他の人生では交通事故で死んでいたりするのである。

印象的だったのは、元の人生で外で死んだ飼い猫Voltaireを外に出さない人生を体験したシーンである。

The year you had him was the best of his life… you don’t see yourself as a bad cat owner any more.
あなたが彼を飼っていた時間は、彼にとって最高の日々だったのです。…これであなたはもう自分を悪い飼い主だったとは思わないでしょう。

さまざまな自分の人生を体験する中で、Noraは人生について重要なことを学んでいく。

Every life she had tried so far had really been someone else’s dream… if she was to find a life truly worth living, she realised she would have to cast a wider net.
ここまで体験した人生はどれも他の誰かの夢だった。本当に自分自身に価値のある人生を見つけるためには、もっと広く体験しなければだめだと悟った。

他人の夢を生きないで自分の夢を生きる。当たり前のこととはいえ、世の中このように苦しんでいる人がたくさんいる。周囲の人の勧めたことを人生として選んで、「あの人のせいで自分はこんな不幸だ」と文句を言い続ける人である。今幸せではないと感じている人はもちろん、十分幸せな人生を送っている人もその幸せの密度を高めるために読んでほしいと思った。

「三体II 黒暗森林」劉慈欣

三体II 黒暗森林

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
400数年後に三体文明からの侵略艦隊が到達することが明らかになり、また、地球は智子(ソフォン)によって監視されている。そんななか地球の未来は4人の面壁者に託されることとなった。

三体の続編である。ようやく物語が大きく動き始める。地球の動きは、三体文明の解き放った智子(ソフォン)によって監視されているが故に、4人の面壁者は地球を守る計画を、頭のなかだけにとどめて公にすることはできないが、あらゆるリソースを理由を言わずに自由に使える権限を持つのである。そして、本作品は面壁者の1人である羅輯(ルオ・ジー)が主に中心となって描かれる。

序盤はそんな4人の面壁者の苦悩や、計画を描く。もちろん行動から簡単にその内容が明らかになってしまうようでは、三体文明にも筒抜けになってしまうので、計画の核となる部分は頭の中にだけながら、それぞれの面壁者は行動を開始していくのだが、大きなリソースを使う権力なだけに、政治的な駆け引きも絡んでいく。また、一方で地球の三体文明を支持するグループ、地球三体協会(ETO)はそれぞれの面壁者の計画を破壊する、破壁人(ウォールブレイカー)を割り当てるのである。

そして、後半は185年後の様子を描く。羅輯(ルオ・ジー)を含む何人かの面壁者は冬眠して時を飛び越え、一方で三体文明の解き放った探査機が太陽系に到達し、地球は三体文明と初めて向かい合うこととなるのである。

正直、前作「三体」は物語展開に乏しく、三体の前評判が高すぎたので若干がっかりしたのだが、本作品は一気に物語が動いて最後まで期待を裏切らない展開となった。本書で三体文明との決着はついたようにも見えるので、むしろ三体IIIではどのような物語が描かれるのか非常に気になってくる。

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「みるみる理解できる相対性理論」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ホモ・サピエンス、つまり人類の進化の歴史を詳細に説明する。

先日「Project Hail Mary」という久しぶりに面白いSFに出会い、相対性理論を理解したいと思って、本書にたどり着いた。

光速に近い速度で宇宙旅行をした結果、2者の経験した時間が異なるというよくSFで使われる事象がある。その理由とどれぐらいの速度でどれぐらい時間が変わるのかを漠然としてでも理解することが目的の一つだったが、本書によって実は簡単な三平方の定理で計算することができると理解できた。難しいことを理解するには、それを発見した人の思考の過程を追うのが受け入れやすく、本書はそういう点でこれまでいくつか試した相対性理論関連の書籍のなかではもっとも理解しやすかった。

一方で、今更言うまでもないことかもしれないが、これを解明したアインシュタインの頭の構造に改めて驚かされた。

しかし、特殊相対性理論はまだしも、一般相対性理論はやはりまだ理解が難しく、特に

質量が空間を曲げ、空間の曲がりが重力を引き起こす

という点が、結果としては理解できても、どのようにしてその結論に至ったのかが受け入れがたく、引き続き機会を見つけて理解を試みたいと思った。

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「お探し物は図書室まで」青山美智子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
近所の図書館を訪れたことによって人生が動き出す5人の男女を描く。

本書は5人の男女を描いている。ちょっとしたきっかけから近所の公民館を訪れ、そこで出会った司書に本を勧められたことで、人生が少しずつ動き出すのである。どの人生にも印象的なシーンはあったが、個人的に好きなシーンは35歳の諒(りょう)の章、40歳なつみの章、30歳浩哉の章の次の箇所である。

もう動き出しているじゃないの、私が行けと言ったわけじゃない。あなたがあの店に気がついたんだよ。自分で決めて自分の足で…すでに始まってるよ
独身の人が結婚してる人をいいなあって思って、結婚してる人がこどものいる人をいいなあって思って。そして子供のいる人が、独身の人をいいなあって思うの。ぐるぐる回るメリーゴーランド。…それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの。つまり、幸せに優劣も完成形もないってことよ。
俺の小さなひとことを、そこまで大事にしてくれてたなんて。

人に影響を与えられる本書の司書小町さゆりのような生き方は素敵だと思った。また、どの話にも言えることだが気の持ち方で人生はいくらでも好転させることができると改めて感じた。そして、なによりそのことを物語にして広めることをしているこの本とこの作家が素晴らしいと思った。

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「道具としてのベイズ統計」涌井良幸

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ベイズ統計についてわかりやすく説明している。

本書でベイズ統計については3冊目である。概念的なところから入り少しずつ細かいことまで理解したいと考え、数式などを極力省略しないで実践的に説明している書籍をと思い本書にたどりついた。

これまでによんだベイズ統計の本のなかでもっともわかりやすかった。ベイズの定理の事前確立や事後確立を、事前分布、事後分布と確立分布という分布という考え方にも適用し、確立の総和が1であることを利用して、単純でかつ汎用性が高い考え方になることをわかりやすく説明している。

また、自然な共益分布を用いることによって計算が簡単になり、事象によって適した共益分布があるということも理解できた。二項分布ならベータ分布が適しているのということである。

一方で、分散が未知の場合の考え方あたりから、着いていくのが難しくなった。この辺はまたモチベーションの高い時にさらに繰り返し読んでしっかり身に付けたいと思った。以降は様々な手法についてExcelによる実際の実行方法なども含めて触れている。

理系の人間には問題ないだろうが、若干省略されていると感じる部分もあった。とはいえベイズ統計についてわかりやすくまとまっていて、初めて不足なくベイズ統計について知りたい人には最適と言えるだろう。

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「シン・ニホン」安宅和人

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これから迎えるデータ×AI時代に日本はどのように備えるべきなのかを、経済、教育、医療などさまざまな視点から語る。

日本だけでなく、世界の様々な国の考え方や事情を知っているからこその考え方が詰まっている。

AIに対して、多くは「AIに仕事が奪われるという」と言うが、本書ではそんな「人間vsAI」という議論は意味がないと切り捨てている。実際には「AIを使わない人」と「AIを使える人」に分かれていくのだと言う、だからこそ、AI時代に対応できる知識を身につける必要があり、そのための教育の必要性を強調している。そんなAI時代に備えて次の3つのスキルの重要性を語っている。

  • ビジネス力
    課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し、解決する力
  • データエンジニアリング力
    データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力
  • データサイエンス力
    統計数理、分析的な素養の上、情報処理、人工知能などの情報科学系の知恵を理解し、使う力

教育について語っている章では、日本と海外の大学の(特にアメリカの)システムの違いについて触れている。日本ではどんどん予算が削られ、教員の給料が頭打ちになっているために、優秀な教員が海外に奪われる自体が起きているだけでなく、卒業生からの寄付も少ないのでどんどん海外の大学に置いていかれているという。

医療や高齢化社会という問題については、老人ではなく若い人に投資する社会にすべきと語り、また尊厳死の合法化にまで触れている点が面白い。

さまざまなデータから日本が進むべき未来を提言している。圧倒的なデータ量とその知識に驚かされるだろう。僕自身AI時代に備えるとともに、子供を持つ親として、どのような教育を子供に与えるべきかを考えさせられる内容である。

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