「A Mind for Numbers」Barbara Oakley

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
効果的に勉強するためにはどうすればいいのか。著者自身も学生時代は数学の能力をまったく伸ばす事が出来なかったが、軍隊に入ってロシア語を学び数学の必要性を感じてその方法に気付く。多くの例とともに効果的に学ぶ方法を語る。

数学や試験や言語だけでなく、学ぶというのは運動や楽器演奏などすべてに適応されるもので人生を生きていくうえで欠かせないもの。しかし、勉強しているけれども成績が上がらない、練習しているけれど上達しない、ということはたびたびある。誰もが1度は、●時間勉強したけどこの時間に意味があったのだろうか。と疑問に思うような時間を経験した事があるだろう。上達しない練習に時間をさくのであればその時間を他の事に費やした方がいいだろう。そういう意味では、人生を豊かに効率に過ごすために方法を本書は教えてくれると言える。

まず印象的なのは、Diffuse ModeFocus Modeの使い分けである。僕らは勉強するときに「集中する」ことを良いこととしているが、本書では、Diffuse Mode、つまり集中していない状態も同じように効果的に学ぶためには大切だと語る。もちろん集中していない状態が進歩を助けるのは、集中している時間に積み重ねたものがあってこそであるが、それによって集中していない時間にも脳が無意識下で情報を処理し続けるのだという。集中している時間と集中していない時間を適切に配置することで効率的に学ぶことができるのである。

また、「勉強した気になってしまう行動」や、「無駄な勉強」というのにも触れているので、知っておくと非常に役に立つだろう。例えば僕自身も過去やったことがあるのだが、蛍光ペンで教科書の重要な部分を塗っていくという方法。これは手を動かした事によって学んだ気になってしまうが実際にはほとんど効果がないのだそうだ。また、教科書を読んだだけでわかった気になるのもしばしば陥りがちな無駄な勉強法である。多くの教科書はそれぞれの章末に問題をつけているが、多くの人はこの重要性に気付いていない。本書では、必ず自分で問題を解いて自分の理解をテストすることの重要性を強調している。

その他にも、勉強を先延ばししてしまう人がとるべき対策方法や、多くの勉強に適用できそうな記憶方法についても触れている。向上心のある人には多いに役立つ内容と言える。

「ビジョナリー・カンパニー(2)飛躍の法則」ジェームズ・C・コリンズ

オススメ度 ★★★★☆
前作「ビジョナリー・カンパニー」で取り上げられた企業の多くは最初から偉大だった。偉大な経営者に恵まれた、初期の段階で偉大な企業としての形を作り上げた。しかし、今偉大ではない企業が偉大になるためにはどうすればいいのか、本書はそんな問いに答えようとする。
第一弾の「ビジョナリー・カンパニー」はなかなかタイミングが合わなくてまだ読んでいない。それでもいろいろな本を読んでいるとこの「ビジョナリー・カンパニー(2)」こそ良書との声をよく聞くため、本書を先に読む事になった。冒頭にも書いた通り、本書は第一弾とは視点を変えて企業を分析している。つまり、偉大な企業ではなく、偉大になった企業を選別しその本質を分析していったのだ。
本書のなかで取り上げられている内容はどれも印象的だったが、なかでも第三章の「だれをバスにのせるか」の章は印象的であった。この章で言っているのは、偉大な企業は最初に人を選び、目的地は後から決める、というのである。個人的には偉大な企業というのは常に明確な目的地、つまりビジョンや哲学を持っていると思っていた。偉大になりきれない多くの企業は、才能豊かな人間がいても会社の向かい目的地がはっきりしていないせいでその能力を最大限に活かしきれていないのだと思っていた。しかし、本書では人の選択こそが重要で目的地はその選択した人との間で決めていけばいい、というのである。
また、もう一つの驚きとしては、良い企業として連想しがちな顧客重視や、品質重視の考え方などが、必ずしも偉大な企業になるためには必要ないとしている点である。

これだけは必要不可欠だと思える価値観でも、永続する偉大な企業のなかにかならず、その価値観をもたない企業がある。たとえば、顧客に対する情熱をもっていなくてもいい(ソニーはもっていない)。個人を尊重する価値観はなくてもいい(ディズニーにはない)。品質重視の価値観はなくてもいい(ウォルマートにはない)。社会への責任という価値観はなくてもいい(フォードにはない)。これらがなくても、永続する偉大な企業への道で障害にはならない。

噂に違わぬ良書。もしこれから僕が起業に関わることがあるならぜひいろいろ参考にしたい。
【楽天ブックス】「ビジョナリー・カンパニー(2)飛躍の法則」

「アルゴリズムが世界を支配する」クリストファー・スタイナー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アルゴリズムについて世の中の実例を交えて紹介する。
25年前証券取引所はディーラーで溢れ返っていた。ところが今では人はほとんどいない。コンピューター・プログラマーのピーターフィーが、プログラムを使って取引をすることを始めてからその方法は世界に広まり、今では世の中の多くの取引がコンピューターによって行われているのだ。
こんな冒頭の今日深い話に一気に引き込まれてしまった。僕らは確かにコンピューターがいろいろな事を行うのを受け入れている。しかし、どの程度のことまでがコンピューターにできて、どの程度の事から先が人間にしかできないのか、それを正確に把握しているだろうか。本書を読むとコンピューターの能力、(つまりアルゴリズム)の可能性を過小評価していたことに気付くだろう。
中盤ではコンピューターがクラシック音楽を作曲する話について触れている。今ではベートーベンやモーツァルトの曲のように人々を感動させる曲をコンピューターが作る事ができるのだという。そんなコンピュータの能力はもちろん興味深いが、むしろ面白いのは、人間はコンピュータが作った曲に感動するが、それはそれが「コンピューターが作った曲」だということを知らない場合なのだという。「これはコンピューターが作った曲」ということを知った途端に「何か情熱が感じられない」と言い出すのが面白い。
本書を読んで感じたのは、アルゴリズムにできないことはなくなるだろうが、アルゴリズムの社会への普及を阻んでいるのは技術ではなく、人々の意識なのだということだ。アルゴリズムやプログラムを深く理解することの必要性を感じた。

参考サイト
http://www.ycombinator.com
アルゴリズムの背後にある高度な数学な世界を議論する世界でもっとも影響力のあるサイト

【楽天ブックス】「アルゴリズムが世界を支配する」

「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」ダニエル・ピンク

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
過去長い間、数学や物理などの左脳が得意とする技術が高く評価されてきた。しかしこれからは右脳の時代に向かっているという。そんな時代で生き抜くための方法やそのための能力を高める方法を著者が語る。
著者ダニエル・ピンクが言うには数学や物理や会計などの分野はコンピュータができるようになるか、またはインターネットの高速化も手伝って、インドや中国などの人件費が安い地域にアウトソースされ、先進国ではそれ以外の新たな能力が必要とされるという。今までのような左脳の能力に頼った生き方を抜け出さないと、新たな時代に適応できないというのである。
著者の言う、右脳が必要とされる能力とは、例えば、事実を印象的に伝える方法だったり、別分野の事柄を結びつけて新たなものを考え出す能力だったり、デザインだったりである。デザインに重みを置いている学校は成績が良いし、会社は業績がいい、などそれぞれその必要性を裏付ける物語とあわせて説明してくれるから興味深い。
新たな時代を生きるための「6つの慣性」を次のように表している。

「機能」だけでなく「デザイン」
「議論」よりは「物語」
「個別」よりも「全体の調和」
「論理」ではなく「共感」
「まじめ」だけでなく「遊び心」
「モノ」よりも「生きがい」

特に最後の「モノ」よりも「生きがい」という点に関しては、自分自身だけでなく社会全体が物質主義の先へ移行していることを僕自身も感じていたので、印象的であった。それぞれにその能力を鍛える方法として誰にでもできそうな方法が紹介されている。またそれぞれの知識を深めるための良書にも触れられている点がありがたい。世界の見方が変わる一冊と言えるだろう。

読みたくなった本
「Story-Substance, Structure, Style, and the Principles of Screen-writing」
「レトリックと人生」ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン
「マンガ学-マンガによるマンガのためのマンガ理論」スコット・マクラウド
「千の顔を持つ英雄」ジョーゼフ・キャンベル
「世界でひとつだけの幸せ:ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生」
「フロー体験:喜びの現象学」
「このつまらない仕事を辞めたら、僕の人生は変わるのだろうか?」
「心はマインド……「やわらかく」生きるために」
「ダライ・ラマ こころの育て方」

【楽天ブックス】「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」

「Fluent in 3 Months」Benny Lewis

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
多くの言語を話す著者が言語学習の方法や考え方を語る。
著者自身スペインにスペイン語を学びにいって半年以上経過しても何も話せなかったという経験を持つ。そんな著者が今では10言語以上を自在に操るというのだからその内容は言語学習者にとっては有益な物ばかりである。最近書かれた本なので、インターネットやスマートフォンを使って効果的に言語学習をするためのツールや方法がたくさん書かれている。
面白かったのは、インターネットのチャットを利用するという方法。もちろんそれぐらい誰でも思いつくのだが、著者が紹介するのはあえて女性の名前でログインするということ。そうすればいろんな男が話しかけてくる、というのである。これは学ぶ言語によらず世界共通なのだろう。
また、言語学習の方法だけでなく、言語学習者が陥りがちな考え方のワナについてもふれている。そもそも「流暢に話す」の定義は何か。母国語でできないことをその学習言語でやろうとしていないだろうか。「言語が話せる」とはどのレベルのことを言うのか。「訛り」がまったくなくなるのが理想なのか。
そして、多くの言語学習者がそれを諦める際に言う言い訳についても著者は一蹴している。「準備ができたらネイティブと話す」と言っていつまでも一人で勉強している人に対しては「準備ができる日など永遠に来ない」と。
言語学習や異文化交流など、改めてその意味を考えさせてくれる一冊。著者が引用しているいくつかの名言が印象的だった。

The best time to plant a tree is twenty years ago. The second best time is now.
The difference between a stumbling block and a stepping stone is how high you raise your foot.

「迷子の王様 君たちに明日はない5」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リストラを迫られた企業に対して、早期退職を促す会社で働く村上真介(むらかみしんすけ)の物語。
「君たちに明日はない」シリーズの第5弾で完結編である。今回もこれまでと同様に退職か会社に残るかを迫られた3人の男女の人生に迫る。化粧品メーカーでマネージャーを務める33歳の独身女性。電機メーカーで液晶テレビの製作に関わっていた42歳の男性。本が好きで書店に勤める33歳の女性の3人である。
いずれも一通りの社会人生活を送り、楽しむことも楽しみつくして生きる事意味を考え始める時期で、自分の好みや性格やコンプレックスなどを考えて、人生の岐路に立つ彼らの考えはどれも共感できる。特に2つめの親子2代にわたって電機メーカーで働いた男性が、退職を勧められて父親に助言を求めにいくシーンが印象的である。時代が変われば生き方も変わる。高度経済成長の真っただ中、「いい物が人を幸せにする」という時代に電機メーカーで働いていた人間と、すでに物が溢れ、すべての家庭に必要なものが行き渡った状態で、働いている人間とではいろいろ状況も異なるのだろう。結局人生の決断は本人にしかできないのだ。
三者それぞれに家族や友人、妻など周囲の人が大きく影響を与えているのが見える。

世の常識と今の自分に暫時寄り添いながらも自分の正しさを、そして自分の常識を常に疑い続けるものだけが、大人になってからも人間的に成長し続けることが出来るのではないか。

そして、終盤、真介は社長に会社をたたむ事を告げられる。新たな道を模索する真介は過去に自分が退職を勧めた人々に会ってその後の状況を聞くことにするのである。
終わってしまうのが悲しくなるほど、生き方の意味を考えさせてくれるシリーズ。もう一度全部読み直してみたくなった。
【楽天ブックス】「迷子の王様 君たちに明日はない5」

「Talent Code」Daniel Coyle

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ブラジルはなぜ多くの有名なサッカー選手を長年にわたって排出するのか。ロシアの一つしか室内コートを持たないテニスクラブはなぜ世界で20位以内の女子テニス選手をアメリカ全体よりも多く生み出すのか。そんな問いかけとともに、著者は才能の育成のための方法を語る。

最初に著者が説明するのはDeep Practiceというもの。現在の持っている技術の及ぶぎりぎりの場所で練習を繰り返す事により、技術はもっとも効果的に伸びるのだという。様々な実例や過去の事実を交えてその内容を説明する。そして最初の問いかけ、ブラジルが有名なサッカー選手を生み出す理由にも触れる。その答えは、ブラジルがずっと強かったわけではなく、ペレの出現以降急激に力をつけたことや、昨今のブラジルの世界の舞台での失速を見事に説明してくれる。

また、後半では幼少期にどのように子供に接することが才能を育むために効果的なのかについても、いろいろな実例から説明している。才能というのはDeep Practiceに長い時間を費やす事によってもっとも効果的に伸ばす事ができる。つまり、子供達は、結果よりも努力の量を評価されてこそ長い時間を練習に費やそうとするのである。

本書で語られているのはスポーツや音楽の発展に関するものばかりだったが、Deep Practiceはあらゆる面で有効に見える。僕らは日常生活を送る中で、いろいろな技術を改善しようと努めているが、果たしてしっかりとDeep Practiceできているだろうか。そんなことを考えさせられる。また、子育てをしている人は子供への接し方を考えさせられるだろう。

「Leading at a Higher Level」Ken Blanchard

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
いくつかの企業を紹介しながら、リーダーシップのあるべき姿を説明する。

一般的な組織はピラミッド型で上に行けばいくほど決断できる部分が大きくなるが、理想の組織は顧客に近い下の人間ほど決断できる部分を大きくすることで、それぞれの社員もモチベーション高く効果的な組織を作る事ができるという。

真のリーダーは、そんな組織のために顧客に接する部下達に奉仕(serve)することが理想なのだと言う。どうしても組織は、部下は上司に奉仕(serve)する形になりがちだが、それが顧客よりも上司を重視してサービスやモチベーションの低下に繋がるのである。また、後半では組織に「変化」を起こすために行うべき事についても触れている。常に組織のなかの多数派である「一般社員」目線で考えことの重要性を教えてくれる。

残念ながら僕が今従事している業務に適用するのは難しそうだが、理想の組織を作りたくさせてくれる一冊。

「志高く」井上篤夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ソフトバンクの孫正義(そんまさよし)の半生を描く。
孫正義(そんまさよし)を知ったのは、ソフトバンクが携帯のキャリアとして表舞台に出てきたころだろうからせいぜいここ10年以内である。しかし、本書では有名になる以前の孫正義(そんまさよし)の人生が描かれている。
必ずしも新しい技術は世の中のために使われるとは限らない、その技術を企業が世の中のためでなく、自分たちの企業の利益のためだけに使おうとする場合もある。本書で描かれているMSX戦争がまさにそれである。
こう考えてみると孫正義(そんまさよし)はビルゲイツやスティーブジョブスとともに世の中が一気にデジタル化するそのど真ん中にいたのだとわかる。また、ジョブスと同じように孫正義(そんまさよし)も一時期生死の境をさまよったことがあるという共通点は何か考えさせられるものがある。きっと死の淵に近づいたことによって人生の意味を一般の人よりも強く考えるようになるのだろう。
このような伝記を読むと毎回思う事ではあるが、今回も自分が世の中にほとんど何も貢献していないことを情けなく思ってしまう。孫正義(そんまさよし)に対してはまありいい印象を持っていたわけではないが、本書を読んで少し見方がかわった気がする。
【楽天ブックス】「志高く」

「Pardonable Lies」Jacqueline Winspear

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
戦時中ドイツ軍に撃ち落とされて死んだとされた息子。しかし妻は病気で死ぬ間際、息子は生きているはずだから探して欲しいと夫に依頼する。夫は妻との最後の約束を守るため、Maisieに息子が死んでいる事を確認するよう依頼する。
Maisie Dobbsシリーズの第3弾。終戦直後の混乱のヨーロッパを舞台に描く探偵物語で、いずれの物語も戦争中に人々が負った傷に深く関連して描かれる点が面白い。依頼によって戦争中に戦闘機のパイロットをしていた男の消息に迫る中、親友で兄3人を戦争で失ったPricillaからも長男のPeterがどこで死んだのか突き止めて欲しい、と依頼される。
僕らは普段、歴史上の事実からしか戦争というものを捉える事ができないが、本シリーズを読むと、戦争が終わって10年以上経過しても、人々の生活や心のなかに戦争の傷が残っている事を感じさせてくれる。
過去と向き合う親友を見て、Maisie自信も過去と向き合おうとする。戦争中に看護婦として働き、恋人を失った野戦病院の場所をもう一度訪れる事を決意するのだ。
ややできすぎな偶然と感じる部分もあったが、戦後の人々の苦しみを登場人物の感情や行動を通じて伝えてくれる一冊。

「十字軍物語(2)」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
聖都エルサレムを奪還した十字軍だが、イスラム側も徐々に反撃を始める。
エルサレム奪還から時を経て、十字軍側は防衛する側にまわるのだが、そのなかで重要な役割を担うのが聖堂(テンプル)騎士団と聖ヨハネ騎士団である。本書ではこの2つの騎士団について何度も触れられており、著者のこだわりが感じられる。実際その存在は非常に魅力的に見える。聖堂(テンプル)騎士団は「ムスリムは殺せ」という信念でその信念に賛同する物は誰でも受け入れていたのに対して、聖ヨハネ騎士団はもともとは病院騎士団と呼ばれ、人々の病や怪我の治療にも尽くし、教育を受けた貴族しか受け入れなかったという。聖ヨハネ騎士団のそんな自らを律した存在がとても魅力的に見えるのだ。彼らが使っていた城塞に書かれていた文章がその哲学を表している。

おまえが裕福な出であろうと、それはそれでよい。おまえが知力に恵まれていても、それはそれでけっこうだ。また、おまえが美貌に生まれたのならば、それもよし。だが、このうちの一つであろうとそれが原因になって、おまえが傲慢で尊大になるとしたら、問題は別になる。なぜなら、傲慢とはその表われである尊大は、おまえ一人に限らずおまえが関係を持つすべてを損い汚し卑俗化してしまうからである。

また、聖ヨハネ騎士団が十字軍防衛のために利用した城塞もとても印象的である。特にクラク・ド・シュヴァリエについては図入りで解説されており、いつか実際に見てみたいと思った。
本書のなかで印象的な著者の言葉として、優秀な人材は同じ場所に集まるというものだ。実際、第一回十字軍の際には多くの優秀な人材が十字軍から排出されて、それがエルサレムの奪還へと繋がったが、本書ではイスラム側にサラディンなどの多くの優秀な人材が輩出され、エルサレムを奪い返されるのである。
【楽天ブックス】「十字軍物語(2)」

「恋歌」朝井まかて

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第150回直木三十五賞受賞作品。

三宅花圃(みやけかほ)は入院した師である中島歌子(なかじまうたこ)の部屋を整理する際にある書物を見つける。それは中島歌子(なかじまうたこ)の激動の半生をつづったものだった。

中島歌子(なかじまうたこ)、樋口一葉(ひぐちいちよう)など、名前は聞いた事があっても彼女達がどのようにして何年も語り継がれる書物を書いたのかどれほどの人が知っているのだろう。本書では徳川幕府末期、尊王攘夷の気運の高まる混乱のなかで生き抜いた中島歌子(なかじまうたこ)を中心に、その弟子である三宅花圃(みやけかほ)などと絡めて、当時の混乱の様子を描いている。

残念ながら当時の政情について知識が乏しいために本書の面白さを十分に味わったとは言えないが、すぐれた作品なんだろう。

三宅花圃(みやけかほ)
明治時代の小説家、歌人。著書『藪の鶯』は、明治以降に女性によって書かれた初の小説。(Wikipedia「三宅花圃」)
中島歌子
明治時代の上流・中級階級の子女を多く集め、成功した。歌人としてより、樋口一葉、三宅花圃の師匠として名を残している。(Wikipedia「中島歌子」)
天狗党の乱
元治元年(1864年)に筑波山で挙兵した水戸藩内外の尊皇攘夷派(天狗党)によって起こされた一連の争乱。元治甲子の変ともいう。(Wikipedia「天狗党の乱」)

【楽天ブックス】「恋歌」

「ルポMOOC革命 無料オンライン授業の衝撃」金成隆一

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インターネットの発展と、スマートフォンの普及に伴い、Coursera、Udacity、Edxといったオンラインで大学の授業を受けられるMOOC(Massive Online Open Courses)プラットフォームが注目されるようになってきた。本書はそんなMOOCを含むオンラインエデュケーションの現状に様々な視点から迫る。
かなり前からオンラインエデュケーションには興味を持っていたが、どこか騒ぎすぎな印象も持っていた。一般の人にはどの程度認知されていて、実際にはどれほど人々の学習環境に根付く可能性があるのかいまいちつかめずにいたのだ。本書ではMOOCsで日常的に授業を受けている人々の感想や境遇を説明し、カーンアカデミーなどのMOOC以外のオンラインエデュケーションについても触れている。
序盤のMOOCで勉強をしている世界の人々のエピソードに触れると、自分が人生をさぼっているような気がしてくる。環境に恵まれない人こそ、オンラインエデュケーションの可能性に敏感なのだろう。環境に恵まれている日本人はいつになったら危機感を感じるのだろう。
後半は日本のオンラインエデュケーションの動きをいくつかのサイトと共に説明している。カーンアカデミーのことを知ったときにどうして日本でももっとこのように、学校の勉強についていけないような子供達を助けるための動きがないのだろうか、と思ったが、すでにそのような動きをしているサイトはいくつもあってそのことに驚かされた。
今後も引き続きオンラインエデュケーションの動向に注目していきたいと思った。
【楽天ブックス】「ルポMOOC革命 無料オンライン授業の衝撃」

「フラットデザインの基本ルール」佐藤好彦

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
Windows8やiOS6で採用されたフラットデザイン。言葉にすると単に、今までの立体的なデザインからシャドウやグラデーションの少ないデザインへの移行、と認識されてしまうだろう。しかし、本書は世の中がフラットデザインに向かった背景やその原因について説明している。
人々がパソコン上で何ができるか想像できなかった時代は、現実の世界に存在するそのデザインをパソコン上でも再現する事で人々の抵抗感をなくしてきたが、もはやその必要はなくなった、という説明は非常に腑に落ちる物がある。本書を読んで改めて周囲の物を眺めてみると、いろいろ違った点が見えてくる。例えばパソコン上で「保存」を意味するアイコンがいまでもフロッピーディスクだったりするのだが、すでにフロッピーディスクは世の中から消え去って何年も経過しているのだ。
また、本書はフラットデザインの問題点やフラットデザインをするにあたって困難な点についても語っている。デザイナーにとっては、単純にボタンを立体にしてすませることができないため、今まで以上にスペースや色の使い方に慎重になる必要があるだろう。

色の境目やグラデーションというのは、デザイン的な「情報」になってしまう。情報は、意味を背負ってしまうことになる。意味のないところには、情報を巻き散らかさないというのが、フラットデザインに限らず、デザインとして、とても重要なことだ。

フラットデザインについてだけなく、デザインというものについて改めて考えさせてくれる一冊。

参考サイト
Squarespace
Dribble
Behance

【楽天ブックス】「フラットデザインの基本ルール」

「残穢」小野不由美

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第26回(2013年)山本周五郎賞受賞作品。

知り合いの女性の部屋で起きる不思議な音。その原因を突き止めようとするうちに次々の異なる怪異と出会うことになる。
部屋で一人のときに変な物音が聞こえる、というのは誰でも体験したことがあるだろう。実際そのような音の多くは、単純に気温の変化やペットや隣人が引き起こしているもので、時とともに忘れてしまうものなのだろう。本書が読者に与える怖さは、そんな誰でも体験したことのあるできごとを、過去の怨念に結びつける点ではないだろうか。

著者は、友人の部屋で起こる音に興味を覚え、同じマンションでほかにも不思議な経験をしている人がいることに気づく。そしてまた向かいにある団地でも人が長く居着かない場所があるという。徐々に過去をたどり、そこに住んでいた人のその後を調べるとしだいに、自殺や殺人や火災に結びついていく。一体過去この場所で何が会ったのか、と。

世の中に多く溢れる「怖い話」。残念ながら多くの「怖い話」は現実味に欠ける。怖い目にあう人々の行動があまりにも軽率すぎたりするせいだと思っている。本書が怖いのは、登場人物が知性的に冷静に現実と向き合う点だろう。
【楽天ブックス】「残穢」

「あたらしい働き方」本田直之

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ハワイと日本を行き来しながら生活する著者が、新しい働き方を提供する企業を取材し、自分の意見を織り交ぜながら語る。
複数の新しい働き方を提供する企業を紹介している。本書を読むといろいろ共感する部分が多い。なぜいろんな価値観を持った人がいるのに、朝の9時から夕方の18時といったように、同じ時間を会社に拘束されなければならないのか。もちろん同じ会社で働いていれば同じプロジェクトに関わることもあるため、顔を合わせる必要はあるだろう。それでも月曜日から金曜日に毎日同じ時間に8時間以上会社にいる、という必要はないのである。また同時に、なぜ会社とは行きたくない場所なのか。人生の大部分を過ごす場所なのだから、もっと心地よい場所であるべきだろう。
本書では6時間労働を実現した会社や有休日数に制限のない会社など、多くの新しい試みを実現させている会社を紹介している。休暇に旅行に行く事を推奨している制度などは面白い。何よりも経験を重視するその会社の姿勢が見える。
しかし著者は繰り返し述べている。例えば6時間労働で十分な利益をあげるためには、通常以上に効率性を追求し、集中力が必要になるのだと。魅力的に見える労働環境で意思の弱い人が働けば、単にさぼってしまうだけで、何が理想の労働環境かは、本人次第なのである。
僕自身物事を集中して効率よく行って、人生のなかでできるかぎり多くの経験を積みたいと思っている。それでも会社によって拘束される多くの時間に、人生ってそんなものなのかな、とやや諦め気味だったが、本書を読んで元気が出てきた。まだまだ理想の生活を追求することはできるかもしれない。
【楽天ブックス】「あたらしい働き方」

「Think Simpke アップルを生み出す熱狂的哲学」ケン・シーガル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スティーブ・ジョブズと12年に渡って一緒に働いてきたクリエイティブディレクターの著者が、アップルやジョブズのエピソードを中心に、シンプルであることの重要性を語る。
スティーブ・ジョブズはいろんな話を聞く過程で、独裁的なイメージを持っていた。しかし、本書のなかで描かれる印象は必ずしもそんなことはなく、むしろ自分の気持ちに素直で、しっかりと人の話に耳を傾けることができる人間だったということがわかる。
印象的だったのは、著者が繰り返し、シンプルであることの難しさを説いている点だろう。今やだれもがアップルの偉業を認めており、そのシンプルを貫くポリシーをまねようとするが、ことごとく失敗している。著者は言うのだ、シンプルは0か100かなのだと。中途半端なシンプルさなら必要ない。実際、本書で著者は、シンプルさを中途半端に採用しようとした多くの企業の失敗例を挙げている。
また、これまでにアップルのやってきたことについて語っているので、いくつか新しいことなども発見できた。過去の有名なCMなどは本書を読んだ後につい見返してしまった。本書ではシンプルさを、アップルを支えている哲学として説明しているが、人生のさまざまな場面にも適用できるような気がした。
【楽天ブックス】「Think Simpke アップルを生み出す熱狂的哲学」

「光秀の定理」垣根涼介

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1560年。新九郎(しんくろう)は愚息(ぐそく)と名乗る坊主と出会い行動を共にすることとなる。そんな2人はある日、明智十兵衛光秀(あけちじゅうべえみつひで)と出会う。
本書を読むまであまり明智光秀(あけちみつひで)という人物についての知識を持っていなかった。織田信長(おだのぶなが)の最期となった本能寺の変の鍵となった人物という程度のものである。しかしどうやら明智光秀(あけちみつひで)については諸説あるようだ。本書はそんな1つの明智光秀像(あけちみつひで)を見せてくれる。
鍵と鳴るのは、剣士新九郎(しんくろう)と坊主愚息(ぐそく)である。新九郎(しんくろう)は最初ただひたすら剣を生業にしようとその腕を磨いていたが、愚息(ぐそく)との出会いによって物事を考える能力を身につけ、それが剣の技術にも活かされていく。また愚息(ぐそく)は世の中のルールには従わず自らの信念にしたがって生きている。そんな2人に魅了された光秀(みつひで)はその地位をあげていくなかでたびたび2人の元を訪れるのだ。
面白いのは愚息(ぐそく)がお金を稼ぐために行う博打の方法である。1見すると1対1の5分に思えるそれが物語を非常に面白くしている。
明智光秀(あけちみつひで)という人物についてもっと知りたくなった。また、新九郎(しんくろう)や愚息(ぐそく)の生き方にもなにか心地よさを感じた。
【楽天ブックス】「光秀の定理」

「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」梅田望夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
シリコンバレーで生活する著者がインターネットでおこっている大きな動きについて語る。
GoogleやWikipediaに代表されるインターネット上で起きている動きは一体どのようなものなのか。それは物や対面のサービスのなかで育ってきた人々にとってはなかなか理解しにくいものなのかもしれない。僕自身はむしろインターネットが十分に生活に根付いているのでそんなことは考えた事もなかったが、著者の意見から年配者が感じる困惑も少し理解できた気がする。
著者が持つ様々な人脈から得た意見などから現在のネット上の動きを説明してくれるため、もともと知識として持っていたことに対しても新たな視点を持つ事ができる。例えば、著者は「恐竜の首」と「ロングテール」という言葉を使ってamazonの強みを説明する。今まで、基本的に店舗は、多くの人に人気のある商品、つまり「恐竜の首」だけを扱ってきて利益を出してきたが、実際の店舗を持たないamazonは「ロングテール」から利益を出すことができる点が新しいというのだ。
また、同じようにGoogleについても触れている。Googleは世の中の本をすべてスキャンして無料で提供しようとしており、それが著作権の侵害とか出版社の利益を損ねるとか、多くの議論を呼んでいる。しかし、反対意見はいずれも「恐竜の首」部分の本を扱う人々の考えであって、「ロングテール」つまり非常にニッチな本の作者にとっては、無料とはいえ、まず人の目に触れてもらう機会があることこそ重要なのである。
本書自体が2006年に発売されたものであるがめ、例えばFacebookやTwitterに関する記述がないなど、現在のインターネットの流れからやや遅れている点は残念だが、それでもいくつか印象的な考え方を知る事ができた。同じ著者の続編、「ウェブ時代をゆく いかに働き、いかに学ぶか」と内容的にかぶる部分も多いので、そちらだけ読んでもいいのかもしれない。
【楽天ブックス】「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」

「The Pillars of the Earth」Ken Follett

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現代と違って何年もかかる建築の過程で周囲の政治も変われば建築家も財政状況も変わる。1つの大聖堂の建築に関わる人々の物語。
物語は大聖堂の建築に関わりたいと願う建築家のTomとその家族がとある修道院を訪れてそこでPhilipと出会う事から始まる。やがてPhilippは不幸なできごとによって焼け落ちてしまった教会をTomの力で再建する事を決意する。物語の序盤はそんなTomの恋愛や家族のことやPhilipの苦悩で占められる。
そして、中盤からは様々な登場人物が生き生きと躍動してくる。一人はTomの2番目の妻Ellenの息子Jackであり、彼は彫刻に非凡な才能を見せ、やがて大聖堂の建築を担うようになる。また領主の娘に生まれたAlienaはWilliamの策略によって、その地を弟Richardと追われるが、自分たちの地位を取り戻す事を決意し強く生きていく。
大きな建物も2,3年で、気がついたら出来上がってしまっている現代の感覚だとなかなか想像できないが、政治の不安定な当時は、大きな建物を建築するためには相当の月日が必要な事がこの物語から見えてくる。次回、海外旅行で建築物を見る際はまた違った視点でみることができるだろう。
壮大な物語で読み終わるのにかなり時間がかかった。続編もあるらしいのでぜひ読んでみたい。