「Interviewing Users」Steve Portigal

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

ユーザーインタビューの方法について書いている。本書は

デザインにおけるインタビューの重要性
インタビューのフレームワーク
インタビューの準備
ただ質問するだけでなく
インタビューの段階
どのように質問するか
インタビューをまとめる
インタビューを最適化する
調査結果でインパクトを与える

の9章からなる。特に学びが多かったのが「How to Ask Questions」の章である。
まずは、沈黙の使い方について書いている。インタビュー中はどうしても沈黙を埋めたくなるが、沈黙を埋めたいというプレッシャーを感じるのはユーザーも同じこと。だからこそ、その沈黙をユーザーに破らせてこそ、貴重な情報が得られるのだという。
また、「相手を正さない」というのも非常にインタビューにおいてやってしまいがちな間違いである。相手の助けたいという高からきたとしても、インタビューが終わってから行うべきなのだという。
例えばユーザーが「こんな機能があったらいいのに」と、すでにある機能について言った時、プロダクトに常に関わっているインタビュアーとしては、「その機能は実はここにあります」と言いたくなるが、一度それをやってしまうと、ユーザーは「ではこんな機能ありますか?」「こうやるにはどうしたらいいんですか?」という流れになってしまい、本来ユーザーの状況を理解するためのインタビューが、出張サポートへと変わってしまうからだという。
結局、インタビュアーが教えるのではなく、ユーザーから彼らの状況や考え方を教わるのが、ユーザーインタビューの目的なのである。そのことを常に念頭においておかなければならないのだろう。
「How to Ask Questions」の章は、今後もインタビューのたびに読み直して、インタビューするメンバーがほかにもいるならぜひ共有したいと思った。

「25年目の「ただいま」5歳で迷子になった僕と家族の物語」サルー・ブライアリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
インドの田舎町で迷子になったサルーが、オーストラリアの夫妻に養子に迎えられてから自分の生まれ育ったインドの街を見つける物語。
「ライオン、25年目の「ただいま」」というタイトルで映画化もされた物語。街の名前と駅の名前、そしてその周囲の景色の記憶を頼りに、グーグルアースを使って生まれ故郷を見つけ出すのは、技術的にはそれほど難しくないように思える。それがここまで注目されるのは、25年という長い月日と、オーストラリアとインドの間の生活水準の差が原因なのではないだろうか。
物語の流れとしてはすでに知っていたのでそれほど大きな驚きはなかった。むしろ印象的だったのは、サルーを養子に迎えたオーストラリア人夫妻の養子に対する考え方と、サルーとブライアリー夫妻の養子縁組をしたミセス・ヌードの生き方である。サルーを養子に迎えた、ミセス・ブライアリーは12歳のときに、茶色い肌の子供が立っているビジョンを見たのだという。それ以来、いつかそれを実現しようと生きてきたのだという。
必ずしも血の繋がった子供を育てることだけが幸せではないと、改めて感じるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「25年目の「ただいま」5歳で迷子になった僕と家族の物語」

「ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現」野口悠紀雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
世間で騒がれているブロックチェーンについて、その仕組みと期待される実用例を説明している。
これまでブロックチェーンというと、ビットコインなどの仮想通貨とあわせて語られることが多かった。しかしその応用範囲は通貨だけでなく多岐にわたり、ブロックチェーンが広まるにつれて起こるであろう世の中の変化を把握したくて本書を手に取った。
序盤はブロックチェーンの仕組みについて説明しており、多くのブロックチェーン関連の書籍と重なる点が多かったが、中盤以降は、期待される実用例や、そこに至るまでの障害について触れている。
本書を読んで気づいたのは、金融業界へもたらす影響は、金融業界が長年古い体質であるからこそ、想像以上に大きいであろうということ。また、障害は技術的な部分よりも、法律、運用、人の先入観による部分が大きいだろうということである。それでも、本書で示されている、選挙制度へのブロックチェーンの利用や、シェアリングエコノミーへの利用は、さらなる便利で公平な社会へ希望が持てるものである。
全体的にブロックチェーンの仕組み、現状、問題点をわかりやすく解説していて非常によみやすく興味を持って読むことができた。今後もブロックチェーンの動向に注意を向けていたい。
【楽天ブックス】「ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現」

「沈みゆく大国アメリカ」堤未果

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
先日読了した、アメリカ合衆国大統領トランプの政権を扱った「炎と怒り トランプ政権の内幕」のなかで「オバマケア」という言葉が頻繁に出てきたため、その内容を知りたくて本書にたどり着いた。
オバマケアとはオバマ大統領が目指した国民皆保険制度を指す。医療費の高騰によって医療費によって破産する人があとをたたないなか、日本のように国民全員が医療保険に加入する世の中を目指した政策である。しかし、実際には意図したようには機能せず、むしろアメリカの医療崩壊を加速させることとなった。本書はそんなオバマケアの詳細と、それによって実際どのようなことが起こった、もしくはおきているかをわかりやすく説明している。
例えば、オバマケアには次のような項目がある。

フルタイム従業員50人以上の企業はオバマケアの条件を満たす保険提供義務。

しかし、大部分の企業が行ったのは、フルタイムの従業員をパートタイムに格下げして保険提供の義務を生じさせないことだったという。それによってフルタイム従業員として生活していた低所得者層は労働時間を減らされた結果、別の仕事を探さなければならなくなったという。
同様に保険会社に向けた次のような項目に対しては

保険会社が既往歴での加入拒否や、病気になってからの途中解約は違法。

保険会社は保険の損失リスクをカバーするために、薬代を大幅に引き上げたのだという。
本書が描くアメリカの医療とオバマケアの意図と結果からは学ぶ部分が多く含まれている気がする。どれほど理想を描いた政策であっても、先の予測を誤れば悲劇に発展するのである。そのほかにもアメリカの医療のさまざまな問題点を指摘しており、非常に興味深く読むことができた。また、同時に、僕らが当然のこととして受け入れている、国民保険制度も非常の貴重なものだと改めて感じた。
【楽天ブックス】「沈みゆく大国アメリカ」

「沈まぬ太陽」山崎豊子

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
日本の航空会社に務める恩地元(おんちはじめ)は入社後、労働組合の委員長として賃上げ交渉やストライキを指導したことから、パキスタン、エジプト、ケニアへと左遷されていく。
日本航空をモデルにして描かれた作品。10年にも及び海外に左遷された主人公恩地元(おんちはじめ)も実在の人物をモデルにしており、企業名、人物名こそフィクションであるが、1970年代、80年代の日本航空を描いている。
物語のクライマックスはやはり、日航機墜落事故を扱った「御巣鷹山編」だろう。経費削減、利益優先の追求や、社内政治の横行によって、安全管理を怠った結果がついに、500人以上の犠牲者へとつながるのである。日航機墜落事故を扱った物語としては横山秀夫の「クライマーズハイ」も名作ではあるが、本作品では物語全体5章のうちの1章を墜落事故と犠牲者の遺体回収等に割いており、当時の報道からは知ることのできなかった事実を知ることができる。
そして、後半は新たに会長として送り込まれた人物によって、少しずつ会社が改善していく様子が描かれている。汚職や脱税、社内政治の様子はなかなか複雑で理解するのも難しいが、余裕がある人は勉強して知識とするのもいいのではないだろうか。
30年という月日が経っているために現代とのギャップも楽しめるかもしれない。全体的に非常に読み応えがあり、今まで読んでいなかったのが不思議なほどである。著者の魂が感じられる貴重な物語と言えよう。
【楽天ブックス】「沈まぬ太陽(1)」「沈まぬ太陽(2)」「沈まぬ太陽(3)」「沈まぬ太陽(4)」「沈まぬ太陽(5)」

「Fifty Quick Ideas To Improve Your User Stories」Gojko Adzic, David Evans

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アジャイルにおける開発の速度は、ユーザーストーリーをどのように作り出すかによって大きく変わってくる。本書はそんなユーザーストーリーを効果的に作り出す50の方法を解説している。
それぞれの手法に対して「採用することによる主なメリット」と「どのように採用するか」を箇条書きにわかりやすくまとめていて非常に読みやすい。それぞれの手法は、組織の大きさや形態によって、適応できそうなものや難しそうなものもあるが、開発を効果的かつ効率的に発展させるための重要な考え方で溢れており、プロダクトオーナーやスクラムマスターだけでなく、開発にかかわる全ての人に役立つだろう。
個人的に印象的だったのがユーザーの行動を変えるフェーズとして頭文字をとったCREATEである。

Cue
Reaction
Evaluation
Ability
Timing

僕らがユーザーの行動を変えようとした時、上記のどの行動に変化をもたらそうとしてのかを明確にすると、より具体的な施策へとつながるだろう。
また、Storyの優先順位を決める上で指標となる考え方で、書籍「Stand Back And Deliver」のなかでNiel Nickolaisenが語っている考え方である。その考え方で重要なのは目の前のStoryに対して次の2つの問いかけをすることである。

それはミッションにとって不可欠か
(ビジネスはそれなしに進められるか?)
それはマーケットで差別化するものか
(ユーザーに大きな利益をもたらすか?)

そのあとの決断の仕方等は詳しくはぜひ本書を読んでいただきたい。
なかなか一度読んだだけで、実際の開発に適用することは難しいだろう。繰り返し読んで実践することで組織に浸透していく内容だと感じた。

「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」西野亮廣

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
絵本「えんとつ町のプペル」を絵本としては珍しい分業制で作成し、絵本としては記録的な発行部数を実現した、キングコングの西野亮廣が、その成功までの過程で行ったことやその考え方を書く。
具体的に言うと、クラウドファンディングでお金を集める方法や、自分に対するアンチの存在を利用する方法などであるが、どれも非常に的を得ていると感じた。
そんななかでも発売前の絵本をネット上で公開したことについては、多くのページを割いて説明している。著者は言う、「無料にすることは実力を可視化すること」と。インターネットでさまざまな人が発信できるようになた今、個人や企業の実力は可視化され、それを秘密にしていたり、「お金を払わないと何も使えません」では誰も利用してくれないでただただ機会を失っていくんだと感じた。
そのほかにも

お客さんはお金がないわけではなく、お金を払うきっかけがない。
本は本屋さんで売るよりも、スナックで売った方が売れる

などの話が面白かった。
言っていることはどれも非常に共感できる部分があるが、表現の仕方が、若干反感を買いそうな点も感じた。その一方で、その反感を買うような言い方も狙ってやっているのだろうとも思わせる。せっかくなのでこのスタイルを突き進んで欲しいと思った。
【楽天ブックス】「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」

「ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち」マーゴット・リーシェタリー

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
黒人に対する差別が根強く残っていた頃にNASAのために計算手として尽くした黒人女性たちについて語っている。
戦時中にNASAの前身となる組織で戦闘機の開発に貢献した黒人女性たちは、戦争の終了とともに宇宙開発に従事することなり、その貢献はやがてアポロ計画へとつながっていく。
ドキュメンタリー形式で描かれているため、登場人物が多く、なかなか一人一人をしっかり把握はできないが、数学を得意としていた女性たちの活躍は感じられる。また、その一方で、彼女たちの有能さだけでなく当時の黒人に対する差別の大きさも見えてくる。そしてそんな逆境のなか、黒人の評価をあげようと尽くした彼女たちがなんともかっこいいのだ。
女性は数学が苦手などという固定概念は一体誰が生み出したものなのだろう。本書を読めばそんな考えはなんの根拠もないことがわかるだろう。
映画化もされているのでぜひそれも見てみたいと思った。

「毎朝、服に迷わない」山本あきこ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
スタイリストの著者が服のコーディネートについて語る。
まず重要なのは、

センスのいいコーディネートにとっていちばん必要なのは、本当はセンスではなく、まずアイテムです。

ということだ。そのコンセプトにのっとって、本書ではさまざまな「使いまわしのきくアイテム」を紹介している。基本的に女性向けのコーディネートを扱っているが、男性にも採用できるアイテムや考え方が含まれている。個人的に「さっそく買ってこよう」と思ったのがストライプシャツ、ジージャン、白のトートバッグである。
毎日私服で働いている人にとってはファッションは印象を大きく左右するもの。不必要に労力やお金をかけたくはないが、考え方ひとつで大きく改善できるならぜひしたい。早速本書の考え方を取り入れていきたいと思った。
【楽天ブックス】「毎朝、服に迷わない」

「僕は君たちに武器を配りたいエッセンシャル版」瀧本哲史

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
これからの時代の生き方について語る。
どちらかというと、これから社会に出て行く若い人向けに書かれた内容だが、僕のような社会人10年以上の人間が読んでも学ぶ部分はある。
物と同じように、人も同じ能力を持った人間がたくさんいれば、価格競争になってしまう。つまりコモディティ化が進んでしまうのだ。賃金を下げたくなければコモディティにならない生き方をすることが重要なのである。
著者はコモディティ化しないための生き方として4つの生き方をあげている。

マーケター
イノベーター
リーダー
インベスター

である。今後の生き方を改めて考えさせられた。
【楽天ブックス】「僕は君たちに武器を配りたいエッセンシャル版」

「Webコピーライティングの新常識 ザ・マイクロコピー」山本琢磨

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
マイクロコピーの重要性を、過去の著者の経験と実例をもとに語る。

マイクロコピーとは、トップページにあるような大きな文言ではなく、Webサイトやアプリケーションの各所に散らばるコピーのことである。本書はマイクロコピーの重要性を謳う理由は次のように語っている。

トップページの修正ではひどい時には2週間以上かかり、いったんサイトの稼働を止めなければならないほどだったのに、奥のページにいけばいくほど修正箇所は小さくなる。修正にかかる時間も短くなり・・・なのに売り上げは大きく上がる。
興味深いのは、たくさんの例を本書で示しているにもかかわらず、結局のところどんなサイトでも通用するような正解のコピーの書き方はないということである。あるサイトで成功したコピーが他のサイトでは逆効果になることもあり、そのサイトのユーザー層によって傾向は変わるのだという。結局、何度もABテスト等を繰り返して探っていくしかないのだという。
実際にコピーを見直す時にもう一度読み直したいと思った。
【楽天ブックス】「Webコピーライティングの新常識 ザ・マイクロコピー」

「ファシリテーションの教科書 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」吉田素文

オススメ度 ★★★★☆ 3/5
組織の英知を結集するためにファシリテーションが重要だと感じ、本書を手に取った。

本書はファシリテーションを「仕込み」と「さばき」という大きな2つの部分に分けて構成している。「仕込み」の章で面白かったのが「出発点と到達点を明確にする」という点。ビジネスにおける議論は次の4段階から形成され、その出発点と到達点を意識する必要があるというのである。

  • 「議論の場の目的共有」
  • 「アクションの理由の共有・合意」
  • 「アクションの選択と合意」
  • 「実行プラン・コミットの確認・共有」

必ずしも議論の参加者全員が同じ段階にいるとは限らないため、参加者によっては個別にケアして納得感を持った状態で同じ出発点に立ったうえで議論を開始する必要があるだろう。

後半は、「さばき」であり、一般的にファシリテーターの求められる能力はこちらの方が大きいのではないだろうか。「さばき」の基本動作として本書では

  • 発言を引き出す
  • 発言を理解し、共有する
  • 議論を方向づける
  • 結論づける

という4つを挙げている。それぞれの動作について考えられる障害、それに対するアドバイスがたくさん書かれており、定期的にファシリテーターを務める人であれば手元に一冊おいておいて何度も見返したくなることだろう。個人的には「発言の理解」の部分が印象的で、論点(=問い)、主張、根拠、目的を考えて人の意見を聞くということの重要性気付かされた。ファシリテーションを学びたくてたまたま本書を手に取ったが非常に満足である。
【楽天ブックス】「ファシリテーションの教科書 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ」

「理科系の作文技術」木下是雄

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
読む人に伝わる作文技術についてわかりやすく解説している。
ブログなどで世の中に発信する機会は今後増えていくだろう。それによって今まで以上に伝わりやすい文章を書く必要があると考え本書を手に取った。
物語は、新入社員である新田文(にったあや)に先輩である梶山聡(かじやまさとし)が仕事のなかで文章の書き方を指導していく。どれも仕事でもブログでも文章を書くときに活かすために覚えておきたいことばかりである。
まずは

必要なことはもれなく記述し
必要でないことは一切書かない

当たり前ではあるが、どうしても不必要なことを書き込んでしまう。

目標規定文をまとめる

文章を書き始める前に、その文章を何を目標として書くのかをはっきりさせるということ。目標があることによって「必要なこと」と「必要でないこと」の判断がしやすくなる。

重点先行主義
概念から細部へ

どちらも文章を書く際によく言われることであるが常に意識していないと難しい。すべての人間が書いた文章をすべて読むとは限らないということを意識すべきなのだ。

逆茂木型を避ける

逆茂木型とは修飾句や修飾節の長い文章をのことである。日本語で何かを説明しようとするとどうしても修飾節が長くなりがちだが、意識して文章を分けたりすることで解決できる。
また、意見と言っても6つに分けられるというのはこれまで考えたこともなかった。

推論
判断
意見
確信
仮説
理論

書こうとしていることが、6つのうちのどれに当てはまるのか、これから意識して文章を書きたいと思った。
知識として持っていただけでいい文章が書けるわけではないが、今後意識していきたい。この本は「理科系の作文技術」という新書をベースとして書かれたということなので、そちらの本も近いうちに読もうと思った。
【楽天ブックス】「理科系の作文技術」

「GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」」リンダ・キャプライン・セイラー/ロビン・コヴィル

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

成功する人とそうでない人の差はなんなのか。それは社会的知性(SQ)でもなければ、知能指数(IQ)でもなくでも、GRITという呼ばれる力なのだという。本書はそんな成功するための力「GRIT」について語っている。
序盤ではこれまで考えられていたIQの重要性を否定してからGRITに語っていく。GRITとは度胸(Guts)、復元力(Resillience)、自発性(Initiative)、執念(Tenacity)という4つの力で、多くの実例を交えて説明している。
まず印象的だったのは「夢を捨てされ」の章である。僕らは「夢を持つこと」はいいことだと教わってきた。それは確かに目標に向かう原動力となり得るのだが、夢を語ってばかりで実際にその1歩を踏み出さない人も多くいるのだという。夢想している暇があったら「今日できることをする」という考え方が重要なのだという。
また、拒絶されても立ち直る力を身につけるために、ある男性が行なったリジェクションセラピーの話も面白かった。投資家からの資金提要を断られたことがショックだった彼は立ち直る力を身につけるために、100日間連続で人に断られることを目標にしたのだ。断られるための無茶な要望にもかかわらず、受け入れてくれた人がいたことから、男性は自分の望みを叶えるためには拒絶を恐れずに、頼んでみることが重要なのだと知るのである。拒絶は人間の否定ではなく、ただ単にあなたの要求が相手の求めているものにマッチしなかったというだけなのだ。
終盤の「期限は無限」の章で紹介されていた、92歳の時にアルファベットを学び始め、98歳のときにベストセラーを書いた男性の話は、多くの読者へ、将来への希望を与えてくれるだろう。
多くの例は触れられているものの、実際にどのような方法をとればGRITが身に付けられるのかはわかりにくい。それでも「忍耐力」、「楽観主義」、「固定思考」よりも「成長思考」と、いくつかの鍵となる考え方を知れば今後の生き方のヒントとなるのではないだろうか。何よりもいい話に溢れているので一読の価値ありである。
【楽天ブックス】「GRIT(グリット) 平凡でも一流になれる「やり抜く力」」

「The Design Method: A Philosophy and Process for Functional Visual Communication」Eric Karjaluoto

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
目的を達するためのデザインを作成する手法について説明している。

僕自身もデザイナーであり15年以上デザインの仕事に関わってきた。現在でこそ作業フローは確立されてきているが、最初の頃はただただ美しくかっこいいものを作ることに大量の時間を費やしていた。きっと現在も多くのデザイナーがそんな美しいだけのデザインを作ることに大量に時間を費やしているのだろう。

しかし、本書の冒頭でも語られているように、デザインとアートは違うのである。アートであれば美しくかっこいいものを作ればそれでよかったかもしれないが、デザインは常に目的がありその目的を達成してこそ「いいデザイン」なのである。

本書はそんなデザインの流れを体系化して説明している。読者によっては反論したくなるようなこともあるだろうが、個人的には納得のいくことばかりで、僕自身が辿り着いた手法とかなり近いと思った。

まず、良くあるデザインの勘違いと、デザイナーが心がけるべきことにいくつかの例を挙げながら触れた後に、著者が辿り着いたDesign Methodの説明へと入っていく。それは次の4つのステージから構成される。

1.Discovery
データを収集し、観察と分析から状況を知る

2.Planning
問題とニーズを突き止め戦略と実行可能な計画を作る

3.Creative
考えうる案を検討しデザインの方向性を決める

4.Application
試験と分析を繰り返しながらデザインを適用する

デザイナーによってその作業範囲はそれぞれであるが、実際に多くの人が「デザイン」という言葉からイメージするのは「Creative Stage」以降なのではないだろうか。残念ながら今でも多くのデザイナーや制作プロダクションが1のDiscoveryステージと2のPlanningステージにほとんど時間をかけていないのが実情である。

4つのステージを順を追って細かい進め方、陥りやすい間違いなどについて詳細に説明している。部分的にでも参考にできそうな部分はたくさんあるだろう。

個人的には4のApplicationステージの進め方が印象に残った。本書ではデザインの作成段階でも常に、適応しつつ結果を見て調整していくとしている。つまり、少しデザインを適応しては結果を確認し、その結果によってその先のデザインの適用を調整していくというのである。

確実に機能するデザインを作るという点で非常に納得ではあるが、そのようなテストをしながらデザインを適用するためには、クライアントとの信頼関係づくりがかなり重要となるだろう。実際本書では何度もクライアントとの関係づくりの重要性に触れている。クライアント側の担当者目線でデザインがどのように見えるか語っている部分も印象的だった。確かに、ほとんどデザインのことを知らないなかで、デザイナーと打ち合わせて決めていかなければならない、クライアント側の担当者の立場に立つと、今までとは違った部分が見えてくる。

デザイナーだけでなく、デザインプロジェクトの担当者としてこれからデザイナーを探さなきゃいけない人など、デザイナーに関わる全ての人にとって学べる内容がたくさん含まれている。

関連書籍
「The 80/20 principle」Richard Koch
「The Dip」Seth Godin
「The Elements of Typographic Style」Robert Bringhurt
「Good to Great」Jim Collins
「How to Be a Graphic Designer without Losing Your Soul」Adrian Shaughnessy
「Positioning」Al Ries and Jack Trout
「Whatever You Think the Opposite」Paul Arden
「Zag」Marty Neumeier

「The Da Vinci Code」Dan Brown

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ルーブル美術館のキュレーターJacques Saunièreが技術館の館内で殺された。その死ぬ間際に書き残したメッセージによって、警察から殺人の疑いをかけられた言語学者のLangdonはJacques Saunièreの孫娘Sophieとともに真実を探ることとなる。
映画化もされた有名作品ではあるが、すでに映画を見たかどうかも忘れており、新鮮な気持ちで読むことができた。本書でもっとも興味深いのはやはり、物語中でも最大のテーマになっている、イエス・キリストの新しい真実だろう。
なんとローマ帝国のコンスタンティヌス以前は、キリスト教およびユダヤ教は女性を神聖化していたのだという。ローマ帝国が国教として取り入れるにあたって、それまでの考え方を政治に都合のいい方向に変えていった結果、今の女性の地位が男性より低い世の中になっているというのである。
物語としてはキュレーターJacques Saunièreの残したメッセージの謎を少しずつ解きながら非常に価値のある宝物に近づいていくという使い古された形式ではあるが、その過程で描かれる真実が印象的なので物語全体を面白いものにしている。
本より映画のほうがいいこともたくさんあるので、映画を否定するわけではないのだが、映画を見てしまうと深い物語が2時間のひどく陳腐で大衆受けする物語になってしまうこともよくあり、この物語は映画が有名だっただけになおさらそんな印象を持っていたが、実際こうして原作を読んでみるととても素敵な物語だということを知った。
映画しか見ないでこの物語を評価した人に、おそらく物語の内容を忘れてしまったであろう今、改めて本書を読んで欲しいと思った。

「悲劇的なデザイン」ジョナサン・シャリアート、シンシア・サヴァール・ソシエ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
デザインがおかしいせいで、人の死につながったり、大きな事故を起こしたケースを紹介しながらデザインの重要性を説く。
序盤は、医療機器の操作方法がおかしくて大量の放射線を浴びて死に至った患者の話や、操縦席の計器の表示がわかりにくくて墜落した飛行機の話などデザインが生み出した悲劇を紹介している。
「医療機器や飛行機のデザインは僕らが扱っているデザインとは違う」などと他人事と思ってはいけない。中盤以降ではFacebookやLinkedInなどのUI /UXによって一生忘れないようなひどい体験をした人のエピソードを紹介している。
本書を読めば、デザイナーは自分の仕事の大切さと責任を再確認することだろう。そして、デザイナーでない人でも、クリエイティブな世界で生きる人間は自分の作り出すものがどのような結果をユーザーにもたらす可能性があるのか、その責任の大きさを改めて認識することだろう。
インターネットが普及したせいで、実際に傷ついている人を目にする機会は少なくなったが、それでも確実に、自分たちの作ったものはユーザーに使いにくく感じさせたり、疎外感を与えたりしているのである。迷った時は僕らは、実際にそのような対応を店のスタッフにされたら自分がどう感じるのか考えるべきだ。そう考えることによってエラーメッセージひとつとってもたくさん改善すべき箇所が見えてくるにちがいない。
デザイナーだけでなく、多くの人に読んで欲しいと思った。終盤で著者も語っているが「人はみなデザイナー」であり、声をあげ、行動することで世の中は使いやすいもので溢れ、過ごしやすくなっていくのである。

関連書籍
「Thinking Objects:Contemporary Approaches to Product Design」ティム・パーソンズ
「Articulating Design Decisions」キャロル・リギ
「User-Centered Design Stories」トムグリーバー

【楽天ブックス】「悲劇的なデザイン」

「ルパンの消息」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

15年前に自殺した女性高校教師は、実は他殺だったというタレコミがあった。その死は高校生3人によって行われた「ルパン作戦」と呼ばれる行動に関係があるという。時効を目前に警察はその3人を呼び出し当時のことを語らせる。そうして少しずつ当時の出来事が明らかになっていく。
12年ぶりの2回目の読了である。すでに内容を忘れていたが、とても素敵な物語だったことを覚えていて、今回再度読みたくなった。
15年前に起こった事件の解明を機に呼び出されたのは当時高校生の橘、喜多(きた)、竜見(たつみ)である毎日のようにつるんでいたにもかかわらず、今はそれぞれがまったく異なる人生を送っているのが感慨深い。特に当時冷静な男であった橘(たちばな)が現在はホームレスとして生活をしている点が人生の不思議さを感じさせる。そして、3人の取り調べが進む中、徐々にルパン作戦の全貌が明らかになっていくのである。
もっとも印象に残ったのは同級生の死を、当時の供述をするなかで喜多(きた)が思い出すシーンである。

いつ相馬の死を忘れてしまったのだろう。あれほど嘆き、悔やみ、取り返しのつかない心の傷に思えたのに・・・。

どれほどつらい記憶でも時と忘れたり、乗り越えたりして、その記憶は風化し、それぞれが新しい人生を歩んでいくのだろう。
事件が3億円事件の時効直前、1975年を舞台にしているのも面白い。アポロ11号の月面着陸など、当時の高校生たちがどのように何を考えて生きていたかが伝わって来る。これはまさに著者横山秀夫が見てきた人生なんだと知り、もう一度その時代に起こった大きな出来事に目を向けてみたくなった。
12年前に読んだときとはまた異なる部分が印象に残るのが面白い。2回目に読んだ今回も良い作品を読んだときのみ感じられる読後の爽快感に溢れていた。あまり知られていない作品ではあるがぜひ多くの人に読んでもらいたいと思った。
【楽天ブックス】「ルパンの消息」

「ブロックチェーン入門」森川夢佑斗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近よくきく「ブロックチェーン」とはなんなのか、そこを理解したくて本書を手に取った。
正直本書を読むまでの僕の知識は乏しいもので話題の仮想通貨ビットコインとブロックチェーンの関連性も知らなかった。どうやらビットコインはブロックチェーンの技術を利用して発展した技術の一つで、ブロックチェーン自体は今後さまざまな分野に応用できる技術で、それによって今後世の中のいろんな取引の形態が変わる可能性があるのだという。
本書は、タイトルでは「ブロックチェーン」を謳っているが、半分ほどをビットコインに代表される仮想通貨の説明にも割いている。投資対象としてビットコインがどの程度信頼がおけるものなのかを理解したい僕にとってはおおいに役に立った。
本書を読んで理解したことは、まだまだ仮想通貨の技術は始まったばかりに過ぎず、ビットコインがこのまま不動の仮想通貨の地位を確立するのか、それともビットコインの弱点を改良されて次々に考え出されていく第2、第3の仮想通貨が世の中のスタンダードとなるのかはもう少し様子を見る必要があるということである。
正直本書だけではブロックチェーンやビットコインなどの仮想通貨についてしっかり理解することはできないが、現在の世の中の流れを漠然と理解するには非常に役に立つ本である。
【楽天ブックス】「ブロックチェーン入門」

「美術館で働くということ」オノユウリ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京都現代美術館の仕事の様子を描いた漫画である。
先日読んだ原田マハの「弾幕のゲルニカ」が以前か気になっていた学芸員という仕事に再び
目を向けた。
本書を読み始めて知ったのだが、どうやら展覧会などで美術館に訪れたときに、部屋の隅に座っている黒い服を着た女性は学芸員ではないらしい。学芸員という職業の名前を最初に知ったのが、美術館で座っている人を指してのことだっただけにこれには驚かされた。実際には、美術館にのんびり座っている暇もないほど、毎日忙しく、好きな画家や好きな美術に本当に深く関われる仕事だとわかった。
前半は展覧会などを企画する学芸員の仕事の様子が描かれており、美術館に所属する学芸員たちは自分のすすめる作家の展覧会を提案し、企画し、作家と一緒になって展覧会を開催するのだという。だから、ときには学芸員の意見が作家の作品に影響を与えることもあるのだという。そう考えると、決してただ美術を展示するだけの受け身な仕事でないことがわかる。人生で経験できる仕事はわずかだけど、こんな生き方もしてみたかったと思わせてくれるだろう。
後半のコレクション担当もとても面白かった。コレクション担当とは美術館の所蔵する作品を決定、管理する仕事で美術館が所蔵する作品を決める際には、何を後世に伝えるべきかを職員の間で議論して決めていくのだそうだ。そうやって議論のすでに決定された所蔵された作品が貸し出されたりする際には我が子を送り出す親のような気持ちになるのだという。
学芸員という仕事について知りたくて手に取った本ではあるが、むしろ美術の奥深さ、展覧会、美術館など、美術に対する考え方もさらに深めてくれた気がする。
【楽天ブックス】「美術館で働くということ」