「ライオンのおやつ」小川糸

オススメ度 ★★★☆☆ 4/5
余命を宣告された33歳の海野雫(うみのしずく)は、瀬戸内海の島にあるホスピス「ライオンの家」で人生の最期を過ごすことを決める。そんな人生の最期を描いた物語。

ライオンの家ではいくつか興味深いイベントがある。そのうちの一つがおやつの習慣である。ライオンの家で過ごす人々は、その思い出深い食べ物をリクエストすることができるのである。雫(しずく)も毎回おやつの時間にその味とそレに対して深い思い出を持つ人の気持ちを知ることとなるのである。

またライオンの家にいる犬六花(ろっか)との関係もほほえましい。幼い頃から犬を飼いたいと思っていた雫(しずく)だったので、六花(ろっか)の散歩をすることが日課になっていく。やがて、同じようにライオンの家にいる人々の死を見届けた後、雫(しずく)も少しずつ最期の日に近づいていく。

小川糸さんといえば鎌倉の街並みを美しく描いた「ツバキ文具店」が有名だが、本書も同じように瀬戸内海の穏やかな様子を描いたやさしい物語。最近人生の最期を描いた作品が多いように感じる。

【楽天ブックス】「ライオンのおやつ」

「「山奥ニート」やってます。」石井あらた

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
和歌山の山奥で15人のニートが集まって共同生活をしているという。特にそれぞれ何をするわけでもなく1万8,000円の生活費で自由に暮らしている。そんな山奥ニートの創業時メンバーの著者がその暮らしぶりを語る。

序盤は現在の山奥ニートの生活の様子、中盤では、現在の状態に到るまでの過程と、そして最後に現在の山奥ニートそれぞれへのインタビューと今後の展望を語っている。印象的だっったのは、山奥ニートという共同生活が出来上がるにあたってのきっかけとなった「共生舎」というNPOとその代表である山本さんという存在である。彼らは、過疎集落の古民家にニートやひきこもりを集めるという計画をしたいたのである。

残念ながら山本さんは著者と知り合ってすぐに亡くなってしまったが、社会をよくしようと損得も関係なく活動している人がいることが知れていい刺激になった。

また、最後の限界集落について語った考え方も印象的だった。「便利な場所」というのは時代によって変わるんだという。今は駅や国道に近い場所が便利な場所とされているが、100年も遡れば、たくさんの作物が獲れる場所が便利だったのだろう。そうやって考えると、コロナ禍でリモートワークが常識となり、通勤が必要と亡くなったら、どこが便利になるのだろう。

いろいろ幸せな生き方というものについて考えさせてくれる一冊。

【楽天ブックス】「「山奥ニート」やってます。」

「ひとつむぎの手」知念実希人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
過酷な労働環境と低賃金の大学病院という環境で心臓外科医を目指す平良祐介(たいらゆうすけ)は、先進的な病院への出向の口約束をもとに、3人の研修医を担当することとなる。そんな平良祐介(たいらゆうすけ)の大学病院の様子を描く。

教授の甥や、そのほかにも医局内で権力を握ろうとする動きが多くある中で、祐介(ゆうすけ)は迷いながらも患者に真摯に向き合って決断をしていく。祐介(ゆうすけ)のもとについて3人の研修医、牧(まき)、郷野(ごうの)、宇佐美(うさみ)はそれぞれ異なる個性と目標をもちながらも、やがて少しずつ祐介(ゆうすけ)の患者の気持ちを最優先にした考え方に惹かれていく。特に宇佐美(うさみ)は過去に家族を亡くした経験をしているせいで、患者に特別に共感してしまう部分があり、やがて、残りの人生の短い中学生の女性を担当することなるのである。

やがて、病院内は権力争いが熾烈化していく。祐介(ゆうすけ)は患者の気持ちと、自分の出世と、そして3人の研修医の未来を考えながら毎日悩みながら医師としての職務を全うしていくのである。医局を舞台にした暖かい病院物語である。

著者知念実希人の作品は本書で2作品目となったが、どちらも病院の描写が細かく、医学への深い知識を感じた。むしろ病院を舞台としていない物語も読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「ひとつむぎの手」

「ローマ人の物語 賢帝の世紀」塩野七生

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ローマ帝国の黄金時代であるトライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスを描く。

トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスとタイプの異なる肯定でありながらも、いずれもローマ帝国の黄金時代を支えることに貢献したことがわかる。今回はそう言う意味では、ダキア戦役を除いて、戦いの描写はほどんどない。その一方で国を整備するための、建築や法律などの描写が多くあり、読めば読むほど、東方の日本では金印を受け取っていた時代に、ローマではここまでの建築技術と、法律が整備されていたことに驚かされる。

また、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスともに、肯定でありながらも非常に慎ましい生活を送っていたことに驚かされる。今から2000年以上前にできあがった優れたリーダー像が、今とまったく変わらないのである。むしろ、そのような肯定しか認めない風潮がローマ帝国にあったことが大きいのだろう。

皇帝もローマ市民も、肯定の統治権が市民のすべての利益を守ることに行使されることを当然のこととして受け入れていたのだろう。本書で2回にわたって紹介される次のエピソードがそれを如実に表している。

…ハドリアヌスが1人の女性に呼び止められた。女は肯定に何かの陳情をしようと、途中で待ちかまえていたのである。だが、それにハドリアヌスは、「今は時間がない」と答えて通り過ぎようとした。その背に向かって女は叫んだ。「ならばあなたには統治をする権利はない!」振り返ったハドリアヌス帝は、戻ってきて女の話を聴いたのである。

今の日本の政治家に読ませたい内容があふれていた。

【楽天ブックス】「ローマ人の物語 賢帝の世紀(上)」「ローマ人の物語 賢帝の世紀(中)」「ローマ人の物語 賢帝の世紀(下)」

「Silent Patient」Alex Michaelides

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
著名な殺人犯で画家であるAlicia Berensonの殺人の真実を知るためTheoはAliciaに近づいていく。

自らも幼い頃の父親との関係に深い傷を抱えていきているTheoは、自らの夫を殺して精神病院に入院してからは、一言も喋らない話題の画家Aliciaが、同じように父親との関係から心を病んでいるのだと考え、その病院The Groveに入所し、Aliciaを担当することとなる。すでに施設自体が閉鎖間近とされるなかで、職員たちとの駆け引きをしながら少しずつAliciaの信用を勝ち取り真実を語らせようとする。

そんなAliciaをかたらせようと少しずつ努力するのと並行して、妻のKathyとの関係にも悩み続ける様子も描かれる。役者をしているKathyは公演間近になると遅くまで練習に明け暮れるが、あるとき妻のパソコンにある一件のメールに気づき、すこしずつ浮気の疑いを濃くしていくのである。

やがてAliciaの子供時代の事実が明らかになり、夫を殺した理由が見えてくる。また、それと同時に、TheoとKathyとの関係に対しても、Theoの決意とともに大きく動いていく。

特に大きな目新しさは感じなかったが、退屈しない程度には楽しめるだろう。

「Big Little Lies」Liane Moriarty

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
オーストラリアで、20代後半でシングルマザーとして息子のZiggyを育てるJaneはPirriweeという浜辺近くの地域に移り住み、幼稚園でMadelineやCelesteなど年上の母親たちと出会う。

事の起こりは幼稚園の初日にJaneの息子のZiggyが幼稚園への多額の寄付をするRenataの娘の首を絞めた、という報告から始まる。それ以来、RenataとRenataと仲の良い母親たちはJaneに敵対し、一方でMadelineやCelesteたちは証拠のないなかでJaneを攻めることを不当として対立していくのである。

幼稚園での人間関係が少しずつ悪化する一方で、JaneのZiggyを産むまでのの経緯が明らかになっていく。どのようにその男と出会い、どのようにしてZiggyを授かったかが明らかになっていくのである。

シングルマザーとして子育てと新しい環境に溶け込む為に苦労するJaneだが、その友人のMadeline、Celesteもまたそれぞれ悩みを抱えている。Madelineは元夫とその間に生まれた最初の娘と、現在の夫とその間に生まれた2人の子供の間で複雑な人間関係のなかで生活している。元夫とその再婚相手であるBonnieの子供も同じ幼稚園に通っているというから人間関係はさらに複雑である。Celesteは誰もが憧れるような美しく裕福な夫婦で2人の双子の息子にも恵まれているが、ときどき発生する夫Perryの暴力に悩まされている。

やがて、物語はある大きな事件が起きるtrivia nightへと進んでいく。

日本だろうとオーストラリアだろうと国に関係なく、世の中の子供を大事に思う母親たちによって、必要もない諍いが起き、また幼稚園の先生はそれに振り回されるのだということがわかった。失敗をしながら人間関係を学んでいくということをしっかり覚えておきたいとと燃える内容だった。

「Between the World and Me」Ta-Nehisi Coates

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
黒人の父が黒人の息子に対して白人社会のアメリカで生きる心構えを説く。

リビングで子供達が楽しくカードゲームをする、テレビでよく放送される幸せな家庭をDreamと呼び、同じ国に住みながらそんなものはテレビの中だけの世界で、現実にあると思っていなかったと言う。

興味深いのは、本書で、著者の知り合いで将来を期待された黒人の若者が警察に間違って殺されたシーンを嘆くところだろう。間違ったその若者を殺した警察自体も黒人だったことから、黒人がアメリカで生きる中で、常に怯え、疑心暗鬼でなっていることを感じさせる。著者はそんな疑心暗鬼の生き方に対して、息子に警鐘を促しているのである。

そして、また、その中で、不条理に殺された黒人の名前や事件などにも触れており、機会があったらぜひしっかり一つ一つ調べてみたいと思った。そんななかでも特に印象に残ったのは、南北戦争の部隊であるゲティスバーグを観光した時に、著者が感じたことが印象的である。多くの人々がその戦場で亡くなった人を英雄視する点に違和感を覚えたと言う。黒人を殴ったりレイプしても許される、そんな生まれた時から持っていた非人道的な特権を守るために多くの若者が死んでいったことに呆然としたのだ。

本書を読んで、改めて黒人にアメリカの社会がどのように写っているか、自分には理解できていなかったことをを知った。奴隷解放が行われてからまだ100年と少し、公民権運動が行われてからまだ50年程度、まだまだ多くの黒人差別が残っているのだ。もちろん、黒人差別がまだまだ残っていることは知識としては知っていたが、結局僕らが目にするアメリカはニュースもドラマも白人が作ったもので、本書が触れているような世界はほとんんど見せていないと言えるだろう。

しかし明るい点としては、本書が多くの注目を浴びたということである。人々が平等に向かって進んでいると言う証拠とも言えるかもしれない。

「コンビニ人間」村田沙耶香

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第155回芥川賞受賞作品。コンビニの開店から18年間務める古倉(ふるくら)はコンビニで働くことが生き甲斐であり、そのほかの仕事は一切できない。家族に心配されながらも今日もそのコンビニ人生は始まる。

コンビニで18年働いてきただけあってコンビニの様子が細かく描かれている。一度は普通に就職しようとした古倉(ふるくら)だが、今は諦めてコンビニ生活を送っており、コンビニで働くために体調を整えることまでやっている。親や妹に心配されながらもコンビニ店員として生きていく古倉(ふるくら)だが白羽(しらは)という世の中を卑下する社会人がアルバイトに入ったことから少しずつ人生は変わり始める。

世の中は、普通に働いて普通に結婚しないと奇異の目でみられる。そんな思いをなんども経験した古倉(ふるくら)だが、コンビニのアルバイトという人間関係の中でさえも、適応できない人間ははじき出されることを目にする。社会の縮図としてコンビニを描いているようだ。

芥川賞受賞作品ということで、そこまで作家の技術や、内容の濃さは感じないが、それなりに楽しくよませてもらった。なによりもコンパクトにまとまっている点がいい。

【楽天ブックス】「コンビニ人間」

「愛なき世界」三浦しをん

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大学近くの定食屋で働く藤丸(ふじまる)は、配達を始めたことで大学の研究者たちと仲良くなっていく。そこには植物に情熱を注ぐ研究者たちの世界があった。

研究室へのランチの宅配を繰り返すうちに、藤丸(藤丸)はそこでの研究内容と、それをやさしく説明する女性研究員本村(もとむら)に恋心を抱いていく。最初こそ、定食屋の藤丸(藤丸)目線で描かれるが、中盤以降は物語の目線はT大研究者達、特にシロイヌナズナを研究する女性本村(もとむら)を中心に進んでいくのである。本村(もとむら)のほかにも、サボテンを愛する加藤や隣の研究室の先生である諸岡(もろおか)や、机の上が汚くて今にも崩れそうな松田先生など、個性豊かな研究員達がたくさん登場する。物語だから個性豊かなわけではなくて、実際植物の研究にハマる人というのはこんな人たちなのだろう。

本村(もとむら)のシロイヌナズナの研究内容が詳細に書かれていて、それについては正直ほとんど理解できなかった。しかし、植物の研究に没頭する人たちが何に楽しみを見出し、どんな悩みを抱いているかが伝わってきた。植物研究者という、あまり普段光の当たることのない世界を垣間見ることができた。

【楽天ブックス】「愛なき世界」

「騙し絵の牙」塩田武士

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
雑誌「トリニティ」の編集長である速水(はやみ)が電子化の流れで雑誌の廃刊が相次ぐ中、同じチームのメンバーや作家と協力して雑誌を守り抜こうとする様子を描く。

編集者というと、ただの出版の担当者という印象を持っていたが、本書を読むと、作家の資料集めの手助けもするし、作家のモチベーションを上げるためにいろんな助言を与えたりすることもわかり、思っていた以上に本を出版するにあたって重要な仕事をしていることがわかった。

本書では雑誌「トリニティ」の編集長である速水(はやみ)は、会社で各雑誌が相次いで廃刊が進む中、上司から廃刊を免れるための厳しい目標を課せられる。様々な人で構成されたチームを編集長として率いていく。電子化は止められないいという書籍の現実の中で、編集者という仕事に向き合っていく姿が印象的である。

特に大きな山場などないにもかかわらず、編集長としての仕事の大変さや、面白さを見せてくれる点が面白い。なんか続編もできそうな印象である。

【楽天ブックス】「騙し絵の牙」

「自分のことは話すな」吉原珠央

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
イメージコンサルタントを職業とする著者が人との会話の仕方について語る。

昨今雑談力の本をよく目にするようになった。それだけ雑談というのは良好な人間関係を構築する上で重要だとみなされるようになったのだろう。しかし、著者はそんなただ単に沈黙を埋めるためだけの雑談をまっこうから否定している。著者は次の3つを不必要な雑談として切り捨てている。

  • 相手から求められていない話
  • 〇〇であろう話
  • 得のないムダ話

結局、どんなに会話を繰り返しても、相手の求めているもの、相手の欲することを考えずに話続けても信頼は築けないということなのだろう。このような本にありがちな、著者が思うことをひたすら書き綴るスタイルなので、全体に特に流れがなく読みにくいが、それでもいくつか、今後意識したいな思える内容に出会うことができた。

「質問に答えるだけの人」になるな

これはもはや説明するまでもないことだが、無口な人はムダな雑談もない代わりに、このように最小限の答えで終わりがちである。僕自身も含め男性陣はむしろここに気をつけるべきだろう。

「会って10秒・3ステップ挨拶セット」を実行せよ

ここで言う3ステップとは

  • 1.相手より先に相手の名前を呼ぶ。
  • 2.相手より先にポジティブなことを言う。
  • 3.相手より先に相手を気にかけていることがわかることを言う。

である。これぐらいならば今日から実行できそうなのでぜひやってみたい。

たかが会話かもしれないが、たかが会話で信頼を築けるなら安いもの。そんな考えで少しずつ実行していきたいと思った。

【楽天ブックス】「自分のことは話すな」

「桜風堂ものがたり」村山早紀

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本を愛する書店員、月原一整(つきはらいっせい)が星野百貨店内の銀河堂書店で仲間たちを務める様子を描く。

一整(いっせい)は無口な書店員でありながらも、銀河堂書店で優しい仲間に囲まれて働く。卯佐美苑絵(うさみそのえ)や三神渚砂(みかみなぎさ)など同年代の書店員また個性があり、書店の仕事という物を身近に感じられるかもしれない。

そんななか、一整(いっせい)の書店員人生は、銀河堂書店で起こった少年の万引き事件により大きく動くことになり、やがて一整(いっせい)はネット上でやりとりしていた桜風堂(おうふうどう)という書店の店主に会いに行くこととなる。

ただ書店に行って本を買うだけではわからない本屋の業務がわかるだろう。例えば、本の棚にはその担当者の個性が現れ、また同じように書店の棚にはその店の個性が出るのだという。書店員同士の横のつながりも新鮮だったし、地域と繋がりのある書店の役割の重要性も本書を読んで初めて知った。

星野百貨店は同じ著者の「百貨の魔法」の舞台となった百貨店であり、「百貨の魔法」との共通の登場人物が出てくるので、そんな視点で楽しむこともできるだろう。本書で描かれているような本屋さんの紙の書籍に対する愛情や、良い本を人々に届けたいという思いはしっかりおきたいと思った。本屋で本を買うことにまた新しい価値観を与えてくれる優しい物語。

【楽天ブックス】「桜風堂ものがたり」

「ベルリンは晴れているか」深緑野分

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アウグステはベルリンに駐在するロシア軍の人物から、殺人容疑のかかったある人物エーリヒを探すことを依頼される。自らもエーリヒに伝えたいことがあることから、荒地となったベルリンでエーリヒを探し始めるのである。

時々挟み込まれる対戦中のアウグステとまだ健在だった父と母の様子が痛ましい。そんな過去の描写の中では少しずつナチスが力をつけていき、ユダヤ人や反政府を叫ぶ人への弾圧が強まっていくのである。

また、旅の共となったユダヤ人のカフカとアウグステがエーリヒを探す中で少しずつ打ち解けていき、お互いの過去を語るようになる。カフカだけでなく、ロシア人、ユダヤ人、イギリス人が行き交う戦後の混乱のなかで、辛い過去を抱えた人々と出会い時に助け合いながらエーリヒを見つけようとするのである。

第二次世界大戦中、そして大戦後のドイツの様子を丹念に調べてあることは、物語の中から感じるが、物語自体に展開の遅さやながながしさを感じてしまった。もう少しコンパクトに話を展開したら綺麗にまとまったのではないかと感じてしまった。

【楽天ブックス】「ベルリンは晴れているか」

「Body of Evidence」Patricia Cornwell

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ストーカーの恐怖に怯えていた女性作家がBerylが帰宅直後に何者かによって惨殺された。なぜ怯えていた被害者は犯人を部屋に入れたのか。検死官のKay CarpetaはMarinoとともに真実に迫っていく。

物語の序盤で昔の恋人だったMarkが突然Kayの前に現れる。Berylの事件についてMarkは警告を与えるが、KayはMarkの狙いはなんなのか、その突然の訪問の意図を疑う一方で、昔のように恋人同士に戻りたいと思う欲求の間で揺れ動くのである。

そして、捜査開始して間も無く、Berylの師匠であり長く一緒に過ごしたCary Parperも殺害され、その直後にHarperの妻も自ら命を絶った。この死の連鎖はどこから始まったのか。大きな陰謀の気配を感じながらも捜査を続けていく。そんな捜査の過程で印象的だったのが、Berylの車を洗浄した作業員Al Huntの証言である。Huntは人の声の色が見えるのだという。Berylの声を色で表現したHuntはやがて事件の解決につながる証言をするのである。90年代にすでに物語の中に色を見ることのできる、超感覚者を扱っていることに驚かされた。

真実に迫るにつれ、少しずつものを書くことにしか楽しみを見出せないBerylの悲しい生き方が見えてくる。やがて犯人はKay自身にも少しずつ迫っていく。フロリダ州観光地であるKeyWestが物語の重要な場所になるため、その南国の豊かな香りによって、事件による残虐さが際立った気がした。

まだまだシリーズの2作品目ということで長い旅が始まったばかりだが、少しずつ読み進めていきたいと思った。

「崩れる脳を抱きしめて」知念実希人

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
研修医として配属された神奈川の病院で、碓氷蒼馬(うすいそうま)は豪華な個室で過ごし、残りの命の短い弓狩環(ゆがりたまき)と出会う。

碓氷蒼馬(うすいそうま)は幼い頃に父親が借金を作って失踪したために、お金に強い執着があり必死で勉強し優秀な医者になろうとしている。一方、弓狩(ゆがり)は莫大な遺産を相続したために豪華な個室で過ごすことはできるが、残りの人生に限りがあり、またある不安から外にでることもできないという。やがて蒼馬(そうま)は弓狩(ゆがり)の過ごす病室を勉強部屋として使わせてもらうこととなり、少しずつ胸の内を明かしていくうちに、惹かれていくのである。

物語展開として病気の女性を暑かった物語は多数あり(最近でいうと「君の膵臓を食べたい」、一昔前なら「世界の中心で愛を叫ぶ」)、そういう意味では特別新鮮さは感じなかったが、横浜港のシーンが印象的で弓狩(ゆがり)自身も病室でたくさんの絵を描いていたために、その美しい印象が残った。みなとみらいに久しぶりに行きたくなるだろう。

知念実希人という著者名は最近よく聞くが、本書がその作品に初めて触れる機会となった。もう少し読んでみたいと思った。

【楽天ブックス】「崩れる脳を抱きしめて」

「正しいものを正しくつくる」市谷聡啓

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アジャイルで発生しがちな問題を、どのように解決していくかを書いている。

序盤はアジャイル以前のウォーターフォール型の開発手法についての説明とその限界について説明し、アジャイルの一般的な考え方と流れを説明している。本書を手に取る人の多くはおそらくアジャイル経験者であることを考えると最初の三分の一はほとんど読む必要がないのではないかと思える。

中盤以降はアジャイル開発で起こりがちな課題と、その解消方法について書いている。また、その過程でいくつかのフレームワークを紹介している。ユーザーストーリーマッピングサービスブループリントなどの説明は他にも詳しい書籍があるので特に新鮮さはなかったが、リーンキャンバスを改善したという仮説キャンバス検証キャンバスという筆者オリジナルの手法を紹介しており、機会があれば使ってみたいと思った。リーンキャンバスには目的やビジョンがないので内容がぶれてしまうのだという。

また、仮説検証をわからないことをわかるようにする活動として、3つの種類に分ける考え方は本書で初めて出会った。

  • 課題仮説(本質)
  • ソリューション仮説(実体)
  • インターフェース仮説(形態)

別の言い方をすると、課題仮説とはどんなユーザーストーリーを実現すべきか、ということであり、ソリューション仮説はどんな機能を実装すべきか、そしてインターフェース仮説はどんな見た目にすべきか、ということなのだろう。自分たちがどこまでわかっていてどこまでわかっていないかを明確にするためにこの3種を分けて考え、チーム全体の現在地を共有することは意味があるだろう。

最後に、アジャイル開発をうまく行うためには参加メンバーの視野視座を動かして物事を見ることが重要と説明している。視野を動かすとは、自分、チーム、顧客、ユーザーといった人を軸に自分以外の視野で物事を見ることで、視座を動かすとはプロジェクト、プロダクト、事業、組織、などのように規模を大きくして物事を見つめることである。面白いのは、必ずしも大きな視点で物事をみることが重要と言っているのではなく、様々な視点で物事を見る能力をもっていてそれを状況に応じて使い分けることが重要だとしている。

おそらく著者も同じような書籍を読んできたのだろう。前半はだらだらと別の書籍や記事で詳しく触れられていてすでに一般的になったといえる考え方や手法について書いており、普段からさまざまな情報に触れている人にとっては特にあたらしさはない。

ページを増やすための戦略なのかもしれないが、たくさん書けばたくさん伝わるという考え方はエンジニア出身の著者っぽいなと感じた。言いたいことを絞ればもっと読みやすくわかりやすい本になったのではないか。後半はアジャイルを実践しながらなんども悩み解決策を考えてきた経験からくる内容の濃さを感じた。本書の前半で挫折しそうになった人には、後半だけ読むように教えてあげたい。

【楽天ブックス】「正しいものを正しくつくる」

「許されようとは思いません」芦沢央

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
現代の人々を描いた5つの物語。

家族や社会の中で悩みながら生きていく5人を扱っている。特に全体に共通するようなテーマは感じられないし、登場人物もそれぞればらばらである。個人的には最初の「目撃者はいなかった」が一番印象的だった。営業成績がなかなかあがらない若手社員が、自分のミスをかくそうとするなかで少しずつ嘘を重ねていく物語である。

短編集というのはなかなか評価が難しいと感じた。本書のタイトルを耳にしていたから、手に取ったのだが、物語として長く記憶に残るものがあったかというと疑問である。どちらかというとその個性的なタイトルで成功した例のようにも思える。

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「つまをめとらば」青山文平

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第154回直木三十五賞受賞作品。江戸時代の人々を扱った6編の物語。

江戸時代とは言えすでに戦国の世が遠い昔となり、人々は自分の持っている技術で生きていかなければならない。釣り針や釣竿をつくる釣術師(ちょうじゅつし)や俳諧師(はいかいし)など、現代とは人々から求められる技術も考え方も異なるが、、人として生きていく中で根本となる部分は変わらないのだ。6人の男女の、嫉妬や葛藤や自分のあるべき姿などを考え、悩み生きていく様子が描かれている。いつの時代も人の考えは変わらないのだと気づかされる。

【楽天ブックス】「つまをめとらば」

「A Fatal Grace」Louise Penny

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
カナダのモントリオールから数時間の田舎町スリーパインズでカーリング観戦中の女性が感電死した。Gamacheは捜査に乗り出す。

Armand Gamacheシリーズの第2弾である。第1弾の「Still Life」でスリーパインズという美しい街を舞台にして魅力的な登場人物が多数出てきて、今回は別の街を舞台に事件が起きるのかと思っていたら、今回も同じ場所で、同じ登場人物にまた出会えたことが嬉しい。GamacheとBeauvoirは、スリーパインズのなかで嫌われていたCCという名の女性がカーリング観戦中に感電死したことで現場に行き、再び前回の事件で知り合った人々の話を聴きながら事件の解決に挑むのである。CCの娘や夫との不思議な関係や、CCの周囲の人に嫌われることを厭わない行動が真実解明の焦点となる。

また、第1弾でその無礼な行動からGamacheに操作のメンバーからはずされたYvette Nicholも今回も登場する。前回の反省から心を入れ替えたというNicholだが、GamacheやBeauvoirは警戒しながら接する。Gamacheの真実を解明するにあたって人の考えに耳を傾ける姿勢が姿勢が印象的である。GamacheはBeauvoirに。どんな殺人やその手法も、一見突飛で衝動的な行動に見えても、犯人にとっては筋の通った理由があるのだと説明するのである。

Gamache、Beauvoir、Nichiol、またスリーパインズの芸術家Claraなども含め、事件解決のなかでそれぞれが人間として成長していく様子が伝わってくる。

「アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法」秋元雄史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ビジネス業界においてもアートに注目が集まる中、その考え方を語る。

まずはデザインとアーティストの違いを「解決策」と「問いかけ」と説明した上で、さまざまなアーティストやアートを紹介している。現代のビジネスに役立つとしたら、その常識を打ち破って問いを投げかける完成なのだという。

しかし、著者も「学びに即効性はない」としており、ビジネスにアートが役に立つと言われたから少しかじってみる程度ではまったく役に立たないし、そもそも「アートはビジネスに役に立つ」という考え自体が、現代アートの鑑賞は自らの頭で考えるトレーニングになるという。よく「現代アートはわからない」という人がいるが、著者に言わせれば、わからないからこそ面白いのだという。

なかでも「使用価値」と「交換価値」という考え方で現代アートを理解するという話が印象的であった。使用価値がほとんどないのに交換価値の代表的なものがお金であり、現代アートもまた使用価値がほとんどないにも関わらず、アーティストの著名度によって大きく値段が上がる可能性があるのである。

また、本書のなかではさまざまな現代アートのアーティストたちが紹介されている。それを一つ一つみるのも一つの楽しみになるだろう。章と章の間で、注意書きでそれぞれのアーティストを紹介しているが、特にページを割いて紹介している次のアーティストはしっかりチェックして、アーティスト名から作品がイメージできるようにしておきたい。ダミアン・ハーストの作品などは一度見たら忘れることはないだろう。

全体的に特にアートについて新しい考え方をもたらしてくれた印象はあまりないが、多くのアーティストを知ることができた点がありがたい。

  • ヨーゼフ・ボイス
  • リアム・ギリック
  • リクリット・ティラバーニャ
  • スゥ・ドーホー
  • ジェフ・クーンズ
  • 増田セバスチャン
  • 松山智一
  • 葉山有樹
  • 沖潤子

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