「The Burial Hour」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アメリカで発生した誘拐犯がイタリアで新たに活動を開始した。Rhyme、Amelia、Thomはイタリアに降り立ち、現地の警察とともに誘拐犯Composerを追い詰めていく。

Lioncoln Rhymeシリーズの13弾である。さすがに13弾目となると、犯人の手口もこれ以上新しくしようと思っても難しいだろうし、登場人物を増やすにも限界がありどうしても展開がマンネリ化してくる。しかし、今回は舞台を初めてアメリカ以外の国、イタリアに移して展開するという点で新しさを演出している。そして、それによってイタリアの警察関係者が多数登場するのも面白く、特に、トリュフなどの密輸入を管理する仕事をしながらも刑事になることに憧れていたErcoleがRhymeの捜査にへの知識からComposer追跡チームへと加わり、不器用ながらも成長していく様子や、イタリアの警察組織の仕組みを描いているあたりが新鮮である。

今回の犯人であるComposerは音に非常にこだわりがある点が新しい。拉致した人間の鼓動や息遣いに病的なこだわりを見せるのである。Composerはどのような基準で拉致する人間を選んでいるのか、なぜイタリアを選んだのか、などが今回の大きな謎となる。

ただ、追跡自体はいつものように現場に残されていたわずかな痕跡を辿りながら薦められていく。この過程においてはシリーズを読み続けている人にとっては特に目新しさはないだろう。ただし人間関係においては一捻りもふたひねりもある展開になっていく。

最後はついにAmeliaとRhymeの待ちに待った幸せな時間が訪れる。2人の結婚式である。おそらくシリーズの中でも結婚式を描くのは本作品だけだろう。そういう意味においてはシリーズを語る上で読まなければならない一冊かもしれない。

「ブラック・スワン 不確実性とリスクの本質」ナシーム・ニコラス・タレブ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
黒い白鳥と呼んでいる不確実な出来事について、それとどのように向き合っていけばいいのかを語る。

本書で黒い白鳥と呼んでいる事象は次のようなことを3つの特徴を備えている事象のことである。

1.以上であること。つまり過去に照らせば、そんなことが起きるかも知れないとはっきり示すものは何もなく、普通に考えられる範囲の外側にあること。
2.とても大きな衝撃があること。
3.以上であるにもかかわらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて、筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること。

そして、そのような黒い白鳥が起きる可能性を、「拡張不可能な月並みの国」と「拡張可能な果ての国」と、世の中を大きく2つに分けて説明している。

果ての国は格差が大きい。データ一つが集計量や全体に、圧倒的に大きな影響を及ぼす。

月並みの国風のランダム性なら、一つの出来事にすぎないのに全体の流れを左右するような黒い白鳥が起こって驚かされることはありえない。

今の世の中では、果ての国に属する事象のほうがはるかに多く、だからこそ黒い白鳥が現れるのだという。そして、残念ながら著者は終始、予測というのは限界があり、黒い白鳥は予測できないと強調している。

本書の大部分は予測できないことを説明する話が繰り返されていく。そんななかでも面白かったのが、物言わぬ証拠の問題についての話である。「ビギナーズ・ラック」や「水泳選手の肉体」の話は、世の中が物言わぬ証拠を軽視するせいで、世の中を正しく見ることのできないわかりやすい逸話である。

インターネットの普及やアウトソーシングなど、グローバリゼーションによって果ての国の領域は今後さらに広がっていくだろう。そんな現代において本書が語る不果実性にどのように備えるかは間違いなく大きな鍵となる。そんなことを改めて感ん替えさせてくれた。

ただ、言っていることの重要性はわかるのだが、話が難しくなりすぎていて、もう少し単純にして読みやすく説明できないいものかと感じてしまった。世の中の本書に対する評価は非常に高いのだが、必ずしも人にはお勧めできないと感じた。

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「星の子」今村夏子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
林ちひろは幼い頃体が弱く、そのため両親はちひろのためにある水の力を信じるようになる。そんな家族の中で生きる中学生のちひろを描く。

両親が信じる宗教とともに生きるちひろを描く。普通の中学生として、普通に友達を作り、普通に恋愛もしながらも、自分の家族が少し普通と違うこともわかってるし、水の力を信じる両親のことを恥ずかしく思う気持ちも持っている。それでも家を出るという大きな決断を下すことができずに、流されながら中学校生活を送っている。

大きな展開が起こりそうで起きないあたりが少し不思議な少し不思議な物語である。特に新鮮さは感じなかったが、この作品が本屋大賞にノミネートされているということは、もっと異なる解釈があるのかもしれない。

【楽天ブックス】「星の子」

「Found」Erin Kinsley

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
イギリスの町で少年Evanがラグビーの練習の帰り道、バス停で友人と別れたのを最後に行方がわからなくなる。

事件発生当初の家族や、友人たちの様子が生々しい、また、あわせて事件の発生から時間が経つとともに、世間や周囲の関心はより新しい事件や、自分たちの周囲の出来事に移っていき、少しずつ忘れられていく点も実際にありそうな話である。

物語は事件解決の謎解きの物語というよりも、息子の失踪によって苦しむEvanの両親ClaireとMattや祖父のJackとなど、家族の戸惑いや葛藤の様子をより鮮明に描いている点が新鮮である。また、警察のHagenやNaylorも限られて人員と絶え間なく発生する事件のために、Evanの発見に全力を傾けられないで苛立つ様子を描いている点も面白い。

また、物語の舞台がイギリスなので、イギリスの文化やイギリス英語特有の表現が多々出現する点が面白い。捜査官Naylorの様子は私生活や仕事場の恋愛模様も含めて描かれているので、ひょっとしたら著者の他の作品にも登場するのかもしれない。

しかし、残念ながら物語としてとりたてて強調するような面白さがあったわけではない。今後もこの著者の本を改めて手にとるかは怪しいところである。

「新装版 話を聞かない男、地図が読めない女」アラン・ピーズ/バーバラ・ピーズ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
男と女の違いを面白おかしく説明する。

タイトルのインパクトで名前だけは聞いたことあったが読んでいなかった本書。先日「自動的に夢がかなっていくブレイン・プログラミング」という同じ著者夫婦による素晴らしい本に触れたことにより、この本が生まれた時の話なども書かれていたため、せっかくなんで読んでみようと思い手に取った。

本書は新装版となっているが、本書のオリジナルが出版されたのは20年近く前になる。本書の当時の人気もあって、おそらく本書で書かれているようなことはその後多くのその後のメディアが似たようなことを語り、そのいくつかばすでに一般的な考え方になってしまったのだろう。残念ながら今読むと特に目新しさは感じなかった。

もっとも印象的だったのは、世の中、性別、人種を問わず人々を平等に扱おうという風潮だったため、このような男女の違いについた本を出すのは当時新しかったということ。今は平等よりも個性の尊重の方に重みが置かれていると感じるので、20年の間にたしかに時代は変わったなと感じた。

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「オムニバス」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ストロベリーナイトに始まる姫川玲子(ひめかわれいこ)のシリーズで7つの短編から構成される。

本書の面白いところは姫川玲子(ひめかわれいこ)やその姫川の近くにいるその同僚の視線で様々な事件とそれに対応するの様子が描かれることである。

姫川(ひめかわ)は直感的に事件に向き合い、時に姫川自身も理由を説明できない直感によって、捜査をする。それが結果として事件解決に結びつくことも多いため、警察のなかでも姫川(ひめかわ)を高く評価したり、憧れを抱いたりする人がいる一方、論理的な捜査をこのむ刑事のなかにはその存在を疎ましく思うものいるのである。

7つの物語はどれも犯人が早い段階で拘束されるが動機がわからないというもの。事件が解決される流れを見る中で、様々な境遇で生きている人々の生き方が見えてくるだろう。

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「フーガはユーガ」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
不思議な力を身につけた双子の兄弟の優我(ゆうが)は弟の風我(ふうが)との物語を語る。

正直伊坂幸太郎の作品は、その人気のわりにあまり面白いと思える作品がなく、自分には合わないと感じていたので敬遠していた。にもかかわらず今回は本屋大賞ノミネート作品ということとその魅力的なタイトルに惹かれて読むに至った。

物語は優我(ゆうが)が、とあるフリーのディレクターにその不思議な力とこれまでの出来事を語る形で進んでいく。なんと優我(ゆうが)と双子の弟風我(ふうが)は毎年誕生日になると2時間おきにお互いが入れ替わるというのである。その力を持った故に起こった学生時代のエピソードを語る中で、また同時に近所で続いていた幼い子を狙った殺人事件にも触れていく。

そしてやがて優我(ゆうが)と(ふうが)は少しずつその殺人事件に関わっていくこととなる。

作家として良いことなのかはわからないが、伊坂幸太郎の他の作品に比べてずいぶん読みやすく感じた。ただ、物語として特別何か新しさや学ぶ点があったかというとそんなことはない。空いた時間に適度に楽しむには悪くないかもしれない。

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「韓国人のボクが「反日洗脳」から解放された理由」ウォーク

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本語で韓国に関することを語るYouTuberの著者が日本と韓国について語る。

僕自身日本人の父と韓国人の母の家庭で育ったために、普通の日本人より多く日韓の問題に触れてきた。そんななか著者のYouTubeチャネルで語られている、どちらかというと日本寄りの韓国人(現在は帰化申請が通って日本人。)の意見に惹かれて本書を手に取った。

若い人はそうでなくなったというが、一般的には韓国人の日本嫌いはまだ多く存在し、義務教育の中でもそのような考えを植え付ける教育が今も行われているというのが僕ら日本人が持っている印象だろう。本書によると、最近では年配の人の中にもそのような考えや教育に不満を持っている人が多いのだという。しかし、法律や世間の目があってなかなかそれを公に言えないのだという。実際著者自身も韓国人からこれまでなんども脅迫を受けたことを告白している。

面白かったのは本当に著者が日本を好きで、日本のことを普通の日本人の何倍も調べて理解しているという点である。そんななか韓国について語る点からは、日本から見ると韓国も、ドラマや音楽の影響で、同じように発展した国に見えるが、まだまだ日本に比べると遅れている点が多いということである。

著者は過去の韓国と日本の間の出来事に触れながら、日本の政府はもっと韓国に対する自分たちの正当性を世界に強く伝えるべきである。と繰り返す。確かに、日本の慎ましい外交が日本を応援したいという著者にとってはもどかしいのかもしれないし、実際に外交という側面から見ると控えめでいることは正しくないのかもしれない。

日韓の関係に対して今まで知らなかったことまで教えてくれて、日本と韓国という国に対して新たな視点をもたらしてくれた。

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「The President is Missing」James Patterson, Bill Clinton

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アメリカ合衆国大統領Duncanがイスラム組織Sons of Jihadの脅威や様々な問題に刺さされながらも国民や国を守るために奮闘する様子を描く。

元大統領ビル・クリントンが共著者に名前を連ねていることから興味を持って本書を手に取った。

物語はあるDark Agesというウィルスが政府のコンピューターに現れたことから始まる。イスラム過激派組織Sons of Jihadの仕業なのか、それともロシアなどアメリカの転覆をもくろむ国によって行われたのか。そんな脅威を取り除こうとするなかで、多くの命が関わる中でそんな決断を繰り返す大統領の様子が見て取れる。側近達は意見は言いつつも、すべての決断は大統領によって行われ、テロリストの命も国民の命もその決断1つで救われたり失われたりするのである。自らの職務を全うしようとする大統領はもちろん、Carolyn Brockなどの側近達の仕事ぶりがなんともかっこいい。

やがて、2人の男女が大統領に接してきたことから物語は国を滅ぼしかねないサイバーテロへと発展していくのである。

全体的にはコンピューターウィルスを題材としたパニック物語という印象で、展開自体に特に目新しさは感じないが、大統領をとても忠実に(と思われる)描いているところが本書の魅力だろう。

アメリカの大統領や政府は日本のそれほどくだらないことに時間を費やさない印象を持っていたが、どこの国にも国や国民の利益よりも自分の立場を優先する人はいるもので、本書でもそんな様子が垣間見えた。

「きみはだれかのどうでもいい人」伊藤朱里

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
税金の滞納者からお金を回収する県税事務所。そこで働く人々を描く。

税金滞納者に日々対応するため、働く人々も悶々とした日々を送っている。本物語では、本庁から移動してきた中沢環(なかざわたまき)、中沢と同期でありながらも出世コースから外れた染川裕未(そめかわゆみ)、そして、四十代の田邊(たなべ)と掘(ほり)の4人の目線で進む。そしてギスギスした職場の近郊は須藤深雪(すとうみゆき)がアルバイトとして働き始めたことで少しずつ崩れ始めるのである。

公務員という大きな目標もなく、仕方なく働いている人々を描いた物語であり、登場人物が女性ばかりなところもまた物語を面白くしている。こういう一度いそう。と思わせる。決してこんな職場で働きたいとは思わないが、このように一見人生の目的もなく行きているように見える人々も、それぞれ複雑な事情を抱えているんだと気づかされる。

【楽天ブックス】「きみはだれかのどうでもいい人」

「世界の果てのこどもたち」中脇初枝

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
戦時中の満州で3人の少女、珠子(たまこ)、茉莉(まり)、美子(よしこ)が出会う。戦争に翻弄された3人の人生を描く。

珠子(たまこ)と茉莉(まり)は日本人、美子(よしこ)はミジャという名の朝鮮人だったが、満州にきたことで日本語を覚え、日本の名前を名乗るようになる。やがて、3人は戦争の終結とともに、日本と中国で別々の人生を歩んでいくのである。

珠子(たまこ)はそのまま中国に止まり、やがて中国の家族とともに生きることとなる。また、茉莉(まり)と美子(よしこ)はやがて日本に行きそこで終戦を経験する。家族を失ったり、兄弟と離れ離れになったりしながらも苦難の時代を生き抜く3人を描いている。

戦時中に中国人の家族の一因として育てらた日本人は山崎豊子の「大地の子」でも描かれていたが、本書はそんな珠子(たまこ)だけでなく、茉莉(まり)と美子(よしこ)による、日本の終戦後の様子も描いている。すでに終戦から80年だが、今後もなんども形を変えた物語として伝えられていくのだろうと感じた。

【楽天ブックス】「世界の果てのこどもたち」

「The Sentence is Death」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2021年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。離婚調停を専門とする弁護士Richard Pryceが殺され、殺人現場には182の文字が描かれていた。今回も前回と同様にHawthorneの事件解決を本にするためにAnthonyは事件に関わっていく。

前作「The Word is Murder」の続編で、物語としてもHawthorneとAnthonyのコンビで事件の真相に近づいていくのである。調べるうちに殺害されたRichardは数年前に洞窟探検の最中に友人Chalieを亡くしているという。また、Richardの離婚裁判によって被害を被ったAkira Annoという作家に脅迫されているのをレストランで多数の人が目的している。犯人はAkira Annoなのか、それとも洞窟探検で亡くなった友人の関係者の復讐なのか。

そんななか、警察のGrunshawはHawthorneに犯人逮捕の先を超されまいと、Hawthorneの動きを逐一報告するようにAnthonyを脅迫する。また、同時に、本を書くためには事件の経緯だけでなく主人公となるべくHawthorneの人柄を知らなければならないというAnthonyの努力は、今回も続いていくのである。

Anthony Horowitz作品は本作品で3作目だが、やはり「Magpie Murder」の印象が強くて、本作も物足りなさを感じてしまった。

「さくら」西加奈子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
父親が久しぶりに家に帰ってくるということで、薫(かおる)は実家に帰り飼い犬のさくらや妹のミキと再会する。そして、20歳で亡くなった兄や、破天荒なミキの行動のことを思い出す。

学校のヒーローだった兄と、美人だが凶暴な妹の出来事、そして過去の恋人たちとのエピソードなどを順を追って語っていく。世の中なんでも思い通りになりそうな幼い頃の思いと、それがだんだん少しずつ、勢いが失われて平凡な人生に飲み込まれていく様子を独特なテンポで語る。

本書で西加奈子の著作は二作目であるが、本作品も直木賞受賞作品である「サラバ」と似たような独特な雰囲気を持つ。もし著者の作品がみんなこの雰囲気であればしばらく読まなくてもいいかなと思った。悪い作品ではないが何冊も読むものでもないかもしれない。

【楽天ブックス】「さくら」

「キラキラ共和国」小川糸

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
鎌倉で文具店を営みながら、代書を行うポッポちゃんのその後の様子を描く。

「ツバキ文具店」の続編である。知らずに手に取ったので意図せずあの穏やかな鎌倉の世界観に触れることとなった。そして、なんと序盤からポッポちゃんが子持ちの男性ミツローさんと結婚したことが明らかになる。ポッポちゃんは代筆屋、文房具屋を営みながら、また、お相手のミツローさんは喫茶店を営みながら、少しずつ一つの家に移り住み、書類上だけでなく見た目においても、家族としての生活へ移っていく、その過程を本書では描いている。

興味深いのはミツローさんは前の奥さんと死別していると言う点である。そのためミツローさんやその家族のなかでも前妻の話題を出さないように気遣ったりする面があり、そんな気遣いがポッポちゃんを苦しめるのである。また、そんななか、ポッポちゃんの母親を名乗る人まで現れ、ポッポちゃんの悩みが増えていくのである。

相変わらず代筆への依頼は対応しており、そのそれぞれに一生懸命考えて作った手紙は前作同様魅力的である。ただ、今回はポッポちゃんの結婚生活への悩みや葛藤も多々含まれており、どちらかというとそれはよくある恋愛物語の一つという感じで、代書という仕事の面白さや難しさを焦点にあてた前作のほうが個性を感じた。

【楽天ブックス】「キラキラ共和国」

「The Word is Murder」Anthony Horowitz

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2020年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。ある女性が自分の葬儀の手配をしたその日に殺害された。そんな興味深い事件を教えてもらったAnthonyは元刑事のHawthorneとともに事件を本にすることを前提として事件の捜査に参加する。

小説と実際の作者の世界が交わるという点では、「Magpie Murders」と似ている点もある。また本書は著者自身を主人公としており、スピルバーグ等実際に存在する人物も何人か登場することからどこからが小説でどこからが現実の話なのかわからなくなる点も魅力と言えるだろう。

自らの葬儀を手配した当日に絞殺されたDiana Cowperだったが、調査を重ねるうちに、10年ほど前に自らが運転する車の交通事故である少年が命を落としていることがわかってくる。Dianaの死はその少年の死に関係があるのか。AnthonyとHawthorneは捜査を続けていく。

そんな真実を追求する動きのなかで、Anthonyはなかなか自分のことを語らないHawthorne人間性に疑問をもち、やがて自分一人で真実を見つけようとするのである。

本書もこのミステリーはすごい!海外編第1位を獲った作品ということで期待値が高かったが、前作「Magpie Murders」の衝撃が大きかったのでそれに比べるとやや物足りない感じを受けた。

「All the Light We Cannot See」Anthony Doerr

「All the Light We Cannot See」Anthony Doerr
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第二次世界大戦下、フランスで生きる目の見えない少女Marie-Laureと、ドイツで妹とともに生きる少年Werner Pfenningを描く。

パリの美術館で働く父のもとで過ごす、目の見えない少女と、ドイツで妹ともに貧しい生活を送りながら、ある日見つけたラジオに魅了される少年を交互に描く。過去と今を行ったり来たりしながら物語は進む。

Marie-Laureの父は目の見えない娘のために、自分たちが住んでいる地域の詳細な模型を作って娘に覚えさせる。やがてそれによってMarie-Laureは外に出歩くことができるようになる。やがて戦争が始まり、パリから海岸近くの街に住むk親戚のもとへと避難する。その際、父親は一つの宝石を預かるのである。持っているものは死なない代わりに、その周囲の人が不幸になるという宝石である。父親はその宝石が本物かどうかを疑問に思いながらも託されたものとして大切に扱う。

一方でWernerは妹のJuttaとともに他の孤児たちとともに生活するなか、ラジオに魅了され、分解、組み立てを繰り返しながらその技術を伸ばし、やがてその技術を必要とするドイツ軍の前線へと派遣される。ドイツ軍の行いを知らずに自らの技術が評価されたことを喜ぶWernerと、禁止されているラジオでドイツ軍の行いを知って疑問に思う妹Juttaは少しずつ距離を置いていく。

Is it right to do something only because everyone else is doing it?
みんながやっているかという理由だけでするのは正しいの?

また、ドイツ人将校Von Rumlpelは少しずつ体に不調をきたすなか、戦乱に乗じて噂を聞いた命を永らえさせるその宝石を見つけようと務める。やがて、少しずつMarie-Laureへと近づいていく。宝石の奇跡を信じるVon Rumlpelは父の教えに従って行動するのである。

See obstacles as inspirations.
障害を良い刺激として見るようにしなさい。

不可思議な宝石Sea of Flames、目の見えない少女、ラジオの好きな少年、やがてそれぞれの人生が近づいていく。

第二次世界大戦のヨーロッパの様子を描いた作品は、どちらかというとアメリカ視点のものに出会う機会が多いので、本書のように、ドイツ人、フランス人目線で描かれたものは新鮮である。戦時下の情報統制の中必死で生きる少年少女を描いた優しい物語。

「デザインの基本ノート 仕事で使えるセンスと技術が一冊で身につく本」尾沢早飛

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
いつものようにデザイン関連の本はすべて読むつもりでいるので、本書にはそんな流れでたどり着いた。

本書の著者は紙媒体向けのデザインを多く手掛けているらしく、印刷に関する内容が多くて改めて学びになった。また、全体的に例として挙がっているデザインが非常に綺麗で洗練されており、何か作りたくさせてくれる良い刺激になった。

印象的だったのは、あまり他のデザイン書籍では取り上げていない、視線誘導の重要性とそのテクニックについている点である。日本のデザイン業界でもただ単にフォーカスだけでなく視線誘導の重要性をもっと語るべきだと考えている身としては、本書はかなりお勧めできる。久しぶりに出会った、手元に置いておきたいと思えるデザイン書籍である。

【楽天ブックス】「デザインの基本ノート」

「JR上野駅公園口」柳美里

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
上野で生きるホームレスを描く。

特に大きな山場はない。上野の公園を根城にしながら、若き日のことを思い返す1人のホームレスの心を描いたいる。。福島から、家族のために出稼ぎに東京に来てお金を送るという生活をしてきた。やがて、家族が1人ずつ先立ち、東京で一人で暮らすことにしたのである。

家族や子供に先立たれるのは悲しいのは当たり前だが、そんななか特に悲しいと感じたのは、妻の節子の亡くなるシーンだろう。近くにいるひとには常に感謝の気持ちを伝えたいと思った。

そんな苦労と不幸の果てに行き着いたホームレスという存在に、社会や政府は容赦ない仕打ちを与えていくのである。天皇やオリンピックとい存在を優先されるさまは、世の中の構造の歪みを感じさせる。

僕らが普段、あまり意識することのないホームレスの生き方を描いた作品。誰もが最初からホームレスだったわけではなく、それぞれの人生の最後にそこにたどり着いたのだと気づかせてくれる。

【楽天ブックス】「JR上野駅公園口」

「伝わるデザインの授業 一生使える8つの力が身につく」武田英志

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
デザインの8つの力にフォーカスして紹介している。

僕自身すでにデザイナーを初めて20年近く経っているので、本書のようなどちらかというと初心者デザイナー向けの書籍にはそこまで多く学ぶ部分があるわけではないが、そでも0.1%でも学びがあれば自分のデザイナーとしての力を向上させることができる、そんな思いで本書も手に取った。

本書でいう8つの力とは

  • かんんたんに見せる
  • 正しく伝える
  • フォーカスを当てる
  • 情報を可視化する
  • ストーリーを作る
  • 想像させる
  • アイデンティティを作る

の8つで、ある程度経験を積んだデザイナーであれば当然のように知っていることばかりだろう。そんななか印象に残ったのは「想像させる」の章にあった象徴化のプロセスである。本書では象徴化のプロセスとして

  • 言語化・・・コンセンプトやメッセージを書き出し、訴求したいメッセージを確認する
  • 抽象化・・・訴求したいメッセージの中から中心となるものを抜き出す。
  • 象徴化・・・概念やメッセージを具体的な形を持つ別のものに置き換える
  • 具現化・・・象徴化したビジュアルのディティールや配色を整え、実際のデザインに使用できるようにする。

という4つのステップを挙げている。僕自身が普段行う方法として、言語化から抽象化に向かう流れは少し異なる方法を取っていたのだが、無駄を削ぎ落として一文にまとめる本書の抽象化というステップは今後取り入れたいと感じた。

【楽天ブックス】「伝わるデザインの授業 一生使える8つの力が身につく」

「デザインぺディア」佐藤可士和

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本を代表するアートディレクター佐藤可士和のデザインの考え方をまとめている。

すでに10年以上前の雑誌になるが、古くてもデザインの考え方は何かしら学ぶ部分があるだろうと思い手に取った。それなりにデザインについて熟知しているつもりでも、新たな視点や驚きを得ることができた。

そんななか佐藤可士和が以前言われたという言葉が面白い。

コレ、カッコつけてて、カッコ悪いなあ

どうしてもデザインというとカッコ良いものを作る、と思っている人はまだ多いようだが、実際には目的に応じてカッコ悪さを出すことも必要なのだ。そんなことを如実に表した一言だと感じた。また、これはデザインだけでなく人間においても言えることだと日々の感覚から思った。(カッコつけている奴が一番カッコ悪い)

そのほかにも、パスタのデザイン、レコードジャケットのデザインなど独自の視点でそのデザインの面白さを語る。そしてやがてAppleのデザインのすごさに至る。本書を読むまで、iPod Shuffleの画面をなくすという決断がすごかったという視点がなかったが、確かに組織として考えた時それはAppleという会社にしかできない大きな決断だったのだろう。

後半ではロシア・アバンギャルド、ロシア構成主義、バウハウスにも触れている。バウハウスはデザイン書籍の多くで取り上げられているので特に新鮮さはなかったが、ロシア構成主義、ロシア・アバンギャルドは本書で初めて知ったし、その印象的な写真と文字の使い方は、ぜひ仕事のなかにも機会を見つけて取り入れたら面白そうだと感じた。

冒頭でも語ったが、本書はすでに10年以上前に出版されたもの。しかし、今でも十分に役立つデザイン視点が詰まっていると感じた。

【楽天ブックス】「デザインぺディア」