オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
7つの物語で構成された短編集である。「八月の雪」という3つめの物語が印象的である。交通事故で右足を失った充(みつる)は家の中でおじいちゃんの遺書らしきものを見つける。これは一体なんなんだろう?そう思っておじいちゃんのことを調べてみようとする。
この世界に生きている人には例外なく、一冊の本にはおさまり切れないぐらいの物語があるということを再認識させてくれる。もちろん僕のおじいちゃんもおばあちゃんも、そして道ですれ違っただけの人生で一度しか会わないような人も、電車の中で隣にたまたまに乗り合わせた人も、例外などあるわけがない。どんな人にも敬意を払わなければならない。考えてみれば当たり前のことだ。
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カテゴリー: ★3つ
「パイロットフィッシュ」 大崎善生
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回吉川英治文学新人賞受賞作品。
編集者に勤める主人公の山崎隆二(やまざきりゅうじ)の元に、昔の恋人である由紀子(ゆきこ)から電話がかかってきたところから物語は始まる。過去の二人の出会いや別れ、二人の間に起きた出来事。そして今の二人の生活を描く。
タイトルとなっている「パイロットフィッシュ」とは、他の魚が生活しやすいように水槽の水を奇麗にする魚のことである。人との出会いや別れ、そしてその人との間に起きた出来事が今の自分の言葉や行動に確かに根付いていることを意識させてくれる作品。僕のパイロットフィッシュは一体誰なのだろう。僕は誰のパイロットフィッシュになれるのだろう。いろんな人と出会い、いろんな経験をすることがしっかりしたオリジナリティのある人間をつくる礎であることを再認識させられた。
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「人間の条件」森村誠一
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
意外なことに森村誠一の作品を読むのは初めてである。
物語は新興宗教「人間の家」の周囲で起こる犯罪の謎を、棟居弘一郎(むねすえこういちろう)が少しづつ突き止めて行く流れで進んで行く。この物語のヒントになっているのはもちろんオウム真理教なのだろう。そしてオウムの事件を知っているからこそ、リアルに物語の中に引き込まれて行く。
この物語がただの刑事物語と違うところは、刑事とはどうあるべきか。人間とはどうあるべきか。生き方とは何か。生き甲斐とは何か。そんな問いを投げかけてくるところであろう。
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「火の粉」雫井脩介
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元裁判官・梶間勲の隣に、以前、勲自身が、無罪判決を言い渡した男、竹内真伍が引っ越して来た。そんな奇妙な偶然で始まる。
竹内が引っ越して来たことによって、梶間家に少しずつ変化が起こりはじめる。そんな展開である。そう、実際に家族なんていうのは、つながりは薄く、隣人のちょっとした策略で簡単に崩れてしまうものなのかもしれない。特に、嫁、姑などの微妙なバランスで保たれている家族はそうなのだろう。
また、裁判官という仕事についても衝撃を受けた。改めて考えてみると、なんて責任の重い職業なのだろう。一つ間違えれば何もしていない人の命までも奪いかねない。そして一方一つ間違えれば凶悪な殺人者を「無実」として世の中に解き放つこともまたあり得るのである。これは裁判官だけでなく、弁護士、検察官についても同様のことが言えるかもしれない、実力があるか否かによって無実の人が有罪判決を受けて人生を棒にふったり、有罪の人が無罪となって世の中に出ていったりするのである。
一時期、弁護士という職業に憧れた時期もあったが、憧れだけに留めていて良かったと感じる。
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「蒼い瞳とニュアージュ」松岡圭祐
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松岡作品ではもはやお馴染みの登場人物である。岬美由紀、嵯峨敏也に続く3人目のカウンセラーの登場というテーマのこの作品。その3人目のカウンセラーと言うのが少々コギャルちっくな一ノ瀬恵梨香という女性。内閣情報調査室の宇崎俊一が絡んでストーリーは進んで行く。岬美由紀や嵯峨敏也のようなクールさや知的な主人公を求めている人には少し抵抗があるかもしれない。今回は一ノ瀬恵梨香の一作目だからか、登場人物の人となりに多くのページが費やされたためストーリー的には少し物足りなかった。今後に期待する。
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「宿命」東野圭吾
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「貧しい家庭に育った和倉勇作、裕福な家庭に育った瓜生晃彦。二人はお互いを意識しながら時には妬み、時には憎み、そして時には憧れてもいた。」キャッチフレーズをつけるならこんなところだろう。1つの殺人事件をめぐって大きな謎が少しづつ解明されていく。最後は「宿命」というタイトルのとおりすっきりと謎が解ける事になる。毎度のことながら東野圭吾の作品は疲れない。「疲れない」というのは、例えば読んでいる最中に前のページを読み返したりしなくても一気に読めるという事だ。この作品も例外ではなかった。
ただ、ひとつ言わせてもらうなら東野圭吾の作品はフィクションなのだ。もちろんこのブログに掲載している本の大部分はフィクションなのだが、ノンフィクションを折り混ぜた作品の方が、自分自身にとってもいろいろな方向に興味が広がることになり結果的に自分の世界を広げる事になる。東野圭吾の本は作者の空想の部分が8割,9割を占める。そのため読んで、そこで完結してしまう。例えば松岡圭祐はいつも現実の世界と関連したストーリーを展開してくれる。例えば9.11のテロや新宿の雑居ビル火災である。宮部みゆきは世の中のおかしな制度や現代にはびこる不思議な人間関係をえぐってくれる。そういうものが東野圭吾にはない。ある意味ラクではあるが、ある意味物足りないのだ。それでものんびりしたいときにはまた東野圭吾の作品を手に取ることだろう。
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「千里眼の死角」松岡圭祐
おススメ度 ★★★☆☆ 3/5
例によって飛躍したストーリー展開が今回はいつも以上に激しかった。人工衛星からマイクロ波を発射して地上の人を焼き殺す兵器が乗っ取られた・・という話から始まるのだが、残念ながら人間はここまで馬鹿ではない。核兵器をいくつかの国で開発されたからといって、すぐに核戦争になるわけではないのと同じ事で、一人の思惑で世の中の平和が壊れるなどということはあってはならない、そう、ここまで馬鹿なはずがない。そう感じた。だが、たしかに今後このまま兵器が発展して行けばこのような世界になる可能性もゼロではない。そういうことなのだろう。
ヒロインである岬美由紀の恋の行方は少し発展したのかもしれない。だが、彼女の1ファンとしてはこのまま一人で突き進んでもらいたいものだ。彼女の「強いゆえに孤独」というのは非常に共感できる部分がある。僕自身も弱音を吐かない人間なもので。
松岡圭祐作品を僕が読み続ける理由に、ストーリーの面白さはもちろん、いろいろな分野への興味を抱かせてくれるということもあげられる。今回のストーリー展開のなかで興味を持ったキーワードは「突沸」「ステファンボルツマンの法則」「GPS」などである。聞いた事あるけど「それってなんだっけ?」そう思う事柄を、この本を読んで調べたくなるのである。
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「変身」東野圭吾
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
脳を入れ替えることによって、別の体を手に入れる。そんな話はよくある話で、この「変身」もそのテの話かと思っていた。ところが実際には、事故で欠損した脳の一部に、別の人の脳を移植したことによって、少しづつ性格が変わってくるという話である。
この物語のテーマはというとやはり、脳がただの細胞の変化したもので他の臓器と同じものなのか、それとも脳は特別な存在なのか、ということである。この「変身」の中では、主人公が、ドナーの性格に少しづつ変わって行くことから、やはり「脳は特別な存在」というふうに位置付けているのだろう。
僕もやはり、「脳は特別な存在」と思いたい。前者の意見であれば、「死ぬ」ということは、機械の「電源が切れる」となんら変わらなくなってしまう。僕にはその考えは非常に受け入れにくいものなのだ。僕にとって「死ぬ」とは、脳に宿っている特別ななにか(おそらく「霊魂」と言われるもの)が体の外にでることを言うのである。だから僕は幽霊を信じるし、死後の世界を信じるのだ。
ちなみに脳のはたらきについてもう少し掘り下げた話を読みたい方は瀬名秀明の「BrainValley」なんてオススメです。
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「エイジ」重松清
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第12回山本周五郎賞受賞作品。
昨日まで普通にクラスメイトとして過ごしていた一人が、通り魔だった。主人公のエイジは自分とその友人との間になんのちがいがあるのか考え、悩む。
僕自身がこの本のエイジに近いのか、この本の作者に近いのかはわからないけれど、あまりにもドラマチックに描かれる学性生活に違和感があることは否めない。「キレる」という言葉がたくさん出てくるが、少なくとも僕が学生のときにはそんなに人は簡単に「キレ」たりはしなかった。今の大人が考える中学生のイメージはこんなものなのか・・・それとも実際今の中学生はこうなのか?いや、やはり決してそんなことはないだろう、そういう人がいるのも事実なのかも知れないが、一部の話題性のある中学生を取り上げて、「今の中学生はこんなやつらだ」そう語るのはやめるべきだ。
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「むかし僕が死んだ家」東野圭吾
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本にもいろんなタイプがあって、感動する本、悲しい本、笑える本などである。この本を「どんな本か?」と聞かれたら「作者のセンスを感じる本」とでも答えるだろうか。この設定、ストーリーそして、この読ませ方を思い付く作者のセンスがすごいのである。
小学校の入学式以前の記憶のない女性と、その友人がてがかりがあるであろう一軒の家を訪れ、その家にあるものを調べ行く内に徐々に真実が明らかになっていくという話である。要所要所にたくさんの伏線がしいてあるので、これから読む人は油断しないで読んでいただきたい。
ストーリーを楽しむだけで特にこの本から得た知識や刺激はほどんどなかったが、相変わらず東野圭吾作品らしくは、複雑なことを考えずに一気に読める。青春18きっぷの鈍行旅行の最中に読んだのだが、そんなシチュエーションにぴったりだった。
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「パラレルワールド・ラブストーリー」東野圭吾
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
主人公が自分の記憶に違和感を覚えることから物語は始まる。記憶の操作をテーマとした作品は昔からたくさん出ているが、この作品は日常的な恋愛がその中に絡んでくる。さすが東野圭吾と思わせるぐらい最初から最後まで一気に読める。
主人公たちが、記憶を書き換えるための研究を行っていることから起きるストーリーであるが、その内容は意外と興味をそそられる。考えてみると、小さな記憶の書き換えは誰の記憶にでも起きていることだ。幼いころの思い出を映像として思い浮かべると、自分の視点で見ていた出来事なのに、その映像の中に自分がいる。なんてことはよくあることで、それも些細な記憶の書き換えの一種なのかもしれない。
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「秘密」東野圭吾
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第52回日本推理作家協会賞受賞作品。
広末涼子主演で映画化されたのが1999年。もう5年も前の話である。そのような理由から、「交通事故によって死んだ母親の直子が娘の藻奈美の体の中に蘇る・・」というプロローグぐらいは知ったうえで読みはじめることになった。
僕がもう一度人生をやりなおせるとしたらどんな生き方をするのだろう・・?後悔しない人生を送ることをこころがけているとはいえ、やり直したいところはたくさんある。そう考えると、この本の中で藻奈美の体を借りて人生をやり直すことになった直子が選んだ生き方は非常に共感できる部分があるのだ。
何か一つのことを目指してひたすら突き進む人生、いろんなことを楽しむ人生。どちらがいい人生かはわからない。誰にとっても人生は一度きりなのだから。だからこそこの本を読んで思った。人生をやり直すということは、もっとも贅沢な願いであり、誰しも心の奥で抱いている願いではないだろうか・・昔話で良く出てくる「永遠の命」なんて、それに比べたらなんて小さなモノだ。
これから、「もし願いが一つ叶うとしたらどうする?」、そう聞かれたら、「人生をやり直す」そう答えることにしよう・・・いや、しかし、これもまたずいぶん後ろ向きだな。
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「世界の中心で、愛をさけぶ」片山恭一
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
基本的にはハードカバーの本は買わない。文庫の方が持ち運びにもいいし、値段も安いからだ。それでも、映画化、ドラマ化が進み、「本を読んでから映画を見る」という自分のポリシーに反するので遅ればせながら読むことにした。
2時間程で一気に読める。感想は?というと、とりあえず「狡い(ずるい)」と言いたい。もちろん泣けるのだが、一人の元気だった女性が少しづつ死に近付いて行くのを見れば誰だって涙が込み上げてくるだろう。それが活き活きと生きている人であればなおさらである。せっかくだから、インターネットという広い世界の片隅で僕も叫ばせてもらう。「泣ける話=いい話、では決してない!」と。
しかし、泣くことも、笑うことと同様に今の単調な世の中に生活している人にとってはいいことだ。そういう意味ではオススメする。ちなみに、TBSでドラマ化された「世界の中心で、愛をさけぶ」を見ているが・・たぶん毎週号泣するだろう。一人暮らしのメリットを生かして。
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「川の深さは」福井晴敏
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
福井晴敏の本はいつだって強い意志も持ち主が出てくる。彼等が大好きだ。
「平和が決して無償で与えられる恩恵ではないことを知る必要が有る」そんなメッセージが胸に響く。日本という国に生まれた以上、知らず知らずのうちに「平和は当然」。そう感じてしまっているのだ。
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「一瞬の光」白石一文
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本を代表する企業の人事課に勤める橋田。幼い頃から母親と兄から虐待を受けて来て、誰にも心を許すことの出来ない20才の女性、香折(かおり)。社長の姪ということで何不自由なく育てられた琉衣(るい)。
登場人物は嫌味なぐらい完璧な人が多い。中でも主人公である橋田は美男子であり、お金も地位も女も持っているのでなかなか共感しにくい。それでも橋田のような、わき目もふらず会社のために生きている生き方は、日本の社会の中では多いのかもしれない。会社の組織の上に行くにしたがって、同僚などを蹴落として行かなければならない現実は感じさせてくれた。
全体的には男1人女2人の三角関係を描いたストーリーなのだが、裏には深いのテーマがちりばめられている。生まれつき困難を背負う人のわずかな愛情と、暗然な立場にいる人の豊富な愛情では、後者の方が分があるかもしれないが、しかしそれがそのままその人の人間の価値と比例するとは言えるだろうか。僕の心に残ったのはそんな問いかけだ。
そしてラストは涙なしには読めないだろう。満足させてくれた内容ではあったが、「本の雑誌が選ぶ2003年度<文庫>第2位」という評価には少々首をひねらざるを得ない。
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「砦なき者」野沢尚
オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1994年、松本サリン事件のとき河野義行(こうのよしゆき)さんが容疑者として扱われたことがあった。テレビでニュースを見ていた僕は「こいつが犯人だろう」みたいに思っていた記憶がある。僕は、履歴書の「長所」の欄に「周囲には流されない性格である」と書くことが多い。それでもメディアの報道には知らず知らずのうちに流されているのだと思う。なぜなら情報化社会の現代において、インターネット、新聞、テレビを通じた情報を得ないでは生活できないからだ。
「砦なき者」ではニュース番組「ナイン・トゥ・テン」のディレクターの赤松を主人公としている。「テレビはこんなこともできてしまうのか」そう思わせる。個人的には物語の序章に当たる、第一章が印象的である。ニュースは真実を報道しなければならないのか、正義のためには偽りの報道をしても許されるのか、そんな疑問が生まれてくる。前作「破線のマリス」の続編に当たるが、もちろん前作を読んでいなくても99%この作品を楽しむことができる。
【Amazon.co.jp】「砦なき者」