「The Lincoln Lawyer」Michael Connelly

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高級車リンカーンをオフィス代わりに忙しく働く弁護士Mickey Hallerは大きな利益を期待できる容疑者Louis Ross Rouletの弁護を担当することとなる。売春婦に暴行を加えた容疑で訴えられているRoulet。真実が明らかになるに連れて、Mickeyは逃れられない罠にはまっていることに気づく。
日本でも弁護士を扱った物語や検事を扱った物語はあり、内容は想像の範囲内と言えるだろう。序盤は、単にMickeyはお金のためにドライに弁護士という職業をこなしているように見えたが、中盤以降に、その職業ゆえに出会った困難によって心の葛藤を見せてくれる。

俺が弁護をした人の多くは「悪」ではなかった。彼らは有罪だったが「悪」ではない。そこには大きな違いがあるんだ。この曲を聞くと、なんで彼らがそんな行動をしたのかがわかってくる。人は誰も、与えられたもので生きていかなければならない、やっていかなければならない。でも「悪」とは違うものだ。

面白いのは、すでに2回の離婚暦を持ちながらも、2人の元妻と依然として良好な関係を維持している点だろう。2人との元妻との間ではどこか憎めない男といった雰囲気を出すMickeyに好感が持てる。
本作品はシリーズ物ではないが、同じ著者のほかの作品にも挑戦してみたいと思った。

「ファントム・ピークス」北林一光

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長野県の山中で半年前に行方不明になった女性の頭蓋骨が発見された。夫の三井周平(みついしゅうへい)は妻の原因不明の死の真相を知りたいと願いその後も頻繁に現場に足を運ぶ。そんな中、さらに女性が行方不明になる。
序盤に、一人ずつ女性が行方不明になるシーンは、大自然の中にある非科学的なものの存在を感じさせる。なにか得たいの知れない生き物が潜んでいるのか、本人が自ら行方をくらましたのか、それとも一緒にいた男がその女性を殺害したのか。やがて、その捜査線上には一匹の獣が浮上する。
謎めいた事件が起きて、その原因が明らかになり、人々がその原因に対して挑戦する、と物語の展開としては非常にオーソドックスであるが、オーソドックスであるからこそしっかり読者を引き込む力を備えている。何か書けば即ネタばれになりそうで書けないが、一気読みできる一冊である。
【楽天ブックス】「ファントム・ピークス」

「「天才」の育て方」五嶋節

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
五嶋みどり、五嶋龍と2人のヴァイオリニストを育てた五嶋節が、その子育ての考え方を語る。
タイトルを見て、どんな英才教育が語られるのだろう、などと少し身構えてしまったが、実際ここで語られているのは僕らが一般的に思っている子育ての考え方とそんなに大きく変わらない。親はこどもがいろんなものを見聞きする環境を作ってやることが大事なのと、子供に対しても敬意をもって接すること。そもそも、著者本人は2人のヴァイオリニストを「天才」とは思っていない。ただ2人がヴァイオリンに興味を持ったから与えて、教えただけなのだそうだ。
そんな母親の目線で語られる内容、その経験談に触れることで、なにか感じとることができるのではないだろうか。

【楽天ブックス】「「天才」の育て方)」

「日本語の謎を探る―外国人教育の視点から」森本順子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
外国人の日本語教師である著者がその経験から日本語を語る。
日本語教育の現場では、僕らが知らないたくさんの困難があることがわかる。たとえば文法をわかりやすく理解するために、日常会話で使うはずのないフレーズを学ばなければならなかったり、テキストは標準語をベースに作られているのに、関西と関東で一般的な表現方法がしばしば異なっていたりとる。
日本語の表現の難しさとしてよく語られる「は」と「が」の違いについて本作品でも触れている。本書では「は」=既知、「が」=未知と説明している点が非常にわかりやすく新しい。
説明のいくつかは少々専門的になりすぎて僕自身正直正確に理解できたのかは非常にあやしいが、それでも興味をもって読み進めることができた。
言語学習者はその過程で自身の母国語を客観的に見つめることがある。母国語である僕らにとってはまったく普通に受け入れてしまっているが、実は外国人にとっては不可解極まりない法則。その一部分に触れることができる。何かきっと新しい発見があることだろう。

「The Empty Chair」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Rhymeの手術のために訪れたノースカロライナの町で地元の保安官から誘拐事件の調査を依頼される。RhymeとAmeliaは手術までの1日、その捜査を手伝うこととなった。
事故によって四肢のマヒした犯罪学者Lincoln Rhymeのシリーズの第3弾である。普段はその操作の大部分はニューヨークにあるRhymeの部屋で多くの専用機器を用いて行われるのだが、今回は田舎町の操作ということもあり、機器を取り寄せ、またその操作をサポートするにふさわしい人材を選別するところから始まるのが面白く、シリーズのほかの作品とは異なるところである。
そして今回の追跡対象はInsect Boy。家族を交通事故で失ってから、虫に傾倒し、その習性にだれよりも詳しく、その習性から攻撃や防御の手段などを学んだ少年である。犯罪現場に残された微量な物質をてがかりに、RhymeはInsect Boyを次第に追い詰めていく。一方で、AmeliaはInsect Boyと対面し、その少年の言動から、その少年が過去に殺人を犯し、殺人を意図して今回も誘拐をしたという多くの人が語る少年のなかにある悪意の存在に疑問を持ち始める。
Insect Boyは本当に彼自信の言うように、ただ純粋に友人を守るために保護しただけなのか、それともその供述のすべてがAmeliaを導くための虚構なのか…、この謎が物語の大きな柱となる。Ameliaだけでなく、読者までもが次第にInsect Boyの無実を信じてしまうだろう。治安維持のために憤る保安官たち。報奨金目当てにInsect Boyを追う町の若者たち。物語は小さな田舎町全体を巻き込んで進行していく。そして、物語を面白くしているもう一つの要素は、その町が湿地帯に囲まれている点だろう。町では車での移動よりもボートでの移動が有効で、地図には載っていない入り江や水路が網の目のようにはりめぐらされている。Insect Boyはそんな地の利を利用して巧みに逃走していくのである。
最後まで誰が犯罪に関わっているのかわからない展開。シリーズの中でも異質な存在といえるだろう。

「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則」カーマイン・ガロ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アップル製品に興味のある人や、IT業界の動向に関心のある人は誰でも一度は彼のプレゼンを見たことがあるのではないだろうか。本書は、スティーブ・ジョブズのその魅力的なプレゼンテーションを分析し、聴衆を魅了するテクニックの数々を明らかにしていく。
僕自身はプレゼンなどほとんど縁のない仕事をしているが、それでも興味を持って読むことができた。魅力的なプレゼンをするための手法として印象的で僕らが陥りがちな手法は本書でたくさん触れられているが、パワーポイントの箇条書きの部分が一番耳が痛い。同じように感じる人は多いはずだ。

パワーポイントも上手に使えばプレゼンテーションをひきたてることができる。パワーポイントを捨てろというわけではない。用意されている箇条書き「だらけ」のテンプレートを捨てろと言うのだ。

そのほかにも「3点ルール」や「敵役の導入」「数字のドレスアップ」などは面白く読ませてもらった。

普通なら市場シェア5%は少ないと思うだろうが、ジョブズは別の見方を提示した。
「アップルの市場シェアは自動車業界におけるBMWやメルセデスよりも大きい。だからといって、BMWやメルセデスが消える運命にあると思う人はいないし、シェアが小さくて不利だと思う人もいない。

読めば誰もがプレゼンをしたくなるだろう。必ずしも大勢の人の前でのプレゼンだけでなく、コミュニケーションの根本にあるあり方について考えさせられる内容である。

スティーブ・バルマー
アメリカ合衆国の実業家、マイクロソフト社最高経営責任者(2000年1月 – )。(Wikipedia「スティーブ・バルマー」)
ジャック・ウェルチ
アメリカ合衆国の実業家。1981年から2001年にかけて、ゼネラル・エレクトリック社の最高経営責任者を務め、そこでの経営手腕から「伝説の経営者」と呼ばれた。(Wikipedia「ジャック・ウェルチ」)
YouTube「Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address」
YouTube「iPhone を発表するスティーブ・ジョブス(日本語字幕)」
YouTube「スティーブジョブズによるiPodプレゼン(2001)」
YouTube「MacBook Air 」
YouTube「The Lost 1984 Video: young Steve Jobs introduces the Macintosh」
YouTube「The First iMac Introduction」

【楽天ブックス】「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則」

「奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録」石川拓治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
農薬も肥料も使わずにりんごを実らせることを実現したりんご農家、木村明則(きむらあきのり)さんの8年に及ぶ試行錯誤の記録である。
僕らが「無農薬○○」と聞くと、農薬なしで作物を作るよりは手間はかかるのだろうが、決して不可能ではないだろう、と思ってしまう。ところが、本書序盤でその考えが間違っていることを教えられる。すでに僕らが「りんご」と呼んでいるものは、農薬なしでは育たないように何年、何十年もかけて品種改良された末の「りんご」なのだ、それはもはや難しいというものではなく、「不可能」の域のことなのだ。
では、その「不可能」をどうやって実現したのか、その努力の過程を本書は追っている。8年にも及ぶそれはもはや「信念」などというものではなく、本書でも書かれているように正気を失った、「狂気」に近い。それでも家族を支えていかなければならないというプレッシャー、とか、周囲の目にさらされながらも、その一つの道を突き進むなかで、木村さんがふとした折に何かに気づき、少しずつその不可能を可能にするためのステップを登っていく。
そこで教見えてくるのは、りんごや害虫や土の習性といったリンゴに直接的に関わる事柄がもちろん大部分なのだが、それ以外にも常識を打ち破るための人間としての心構えなどにも触れている。きっとなにか感じる部分があるだろう。

パイオニアは孤独だ。何か新しいこと、人類にとって本当の意味で革新的なことを成し遂げた人は、昔からみんな孤独だった。
リンゴの実をならせるのはリンゴの木で、それを支えているのは自然だけれどもな、私を支えてくれたのはやっぱり人であったな。
ジョニー・アップルシード
アメリカ合衆国初期の開拓者であり、実在の人物である。西部開拓期の伝説的人物の一人として、現在もさまざまな逸話や伝説で語り継がれている。(Wikipedia「ジョニー・アップルシード」
華岡青洲(はなおかせいしゅう)
江戸時代の外科医。世界で初めて麻酔を用いた手術(乳癌手術)を成功させた。(Wikipedia「華岡青洲」

【楽天ブックス】「奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録」

「武士道セブンティーン」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
剣道を通じて知り合った親友、香織(かおり)と早苗(さなえ)という2人の女子高生を描いた物語。
前作「武士道シックスティーン」でほぼ正反対な性格ながらもやがてわかりあった二人。残念ながら早苗(さなえ)は親の都合で福岡に引っ越して、2人は離れ離れになる。本作品はその後の2人を描いている。
前作同様本作品も2人の視点から交互に描かれる。福岡の強豪校福岡南の剣道部に入部した早苗(さなえ)はそこで黒岩レナと出会い、新しい環境での剣道に戸惑いながらも、順応していく。また、一方の香織(かおり)は早苗(さなえ)の去った後の東松高校で、部長かつ魔性の女である河合(かわい)とともに後輩を育てようとする。
全作品は香織と早苗が均等に描かれているように感じたが、本作品で物語性が強いのは早苗(さなえ)の方だろう。結果を重視する福岡南高校の剣道のスタイルに疑問を持ち、武道とスポーツの違い、自分の求める剣道のスタイルとの間で葛藤をし始める。
剣道の経験などまったくない僕でもその緊張感の伝わってくる内容。なんとも剣道がやりたくさせてくれるすがすがしい作品である。すでに単行本としては発刊されている「エイティーン」の文庫化も楽しみである。
【楽天ブックス】「武士道セブンティーン」

「シンメトリー」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁捜査一課刑事、姫川玲子(ひめかわれいこ)が関わる7つの事件を描いた物語。
もはやドラマ化もされてしまったゆえに人気シリーズとしての地位を固めつつあるのだろう。「ストロベリーナイト」「ソウルケイジ」に続く姫川玲子(ひめかわれいこ)の物語。
本来短編集は避けようとするのだが、読み進めてみるとむしろ、いままでは面白くはあっても二作品、二つの事件にしか僕ら読者の前で関わらなかった玲子(れいこ)が、本書では7つの物語に登場することもあり、その7つの物語を通じて、より彼女の個性に触れられることだろう。
前二作品と同じように、本作品でも犯人の気持ちに感情移入しやすい彼女の優れた感覚が、ほかの刑事が気づかない小さな手がかりを見つけ、真相に近づいていく。表題作の「シンメトリー」などはそんななかでも秀逸である。その物語のなかで玲子(れいこ)がつぶやいた言葉。この言葉がもっとも、心に残ったし、この言葉にこそ姫川玲子(ひめかわれいこ)の個性を凝縮されている気がする。

……私が犯人だったら、こんな夜は、現場を見たくて仕方なくなるだろうって……そう、思ったから
愛光女子学園
東京都狛江市に所在する東京矯正管区所属の女子少年院。(Wikipedia「愛光女子学園」
石膏ボード
石膏を主成分とした素材を板状にして、特殊な用紙で包んだ建築材料である。安値であるが非常に丈夫であり、断熱・遮音性が高い。壁や床を造る際には広く使われ、用途に合わせた種類がある。(Wikipedia「石膏ボード」

【楽天ブックス】「シンメトリー」

「怖い絵」中島京子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
タイトルのとおり、西洋絵画を「怖い絵」という視点で見つめなおす。「怖い絵」と言っても「怖い」の種類にはいくつかあり、単純に絵自体がグロテスクだったり残虐なシーンを描いたものを語ることもあれば、その時代の背景を知って初めてその絵が怖くなる場合や、その絵の描かれた前後に起こったことを含めて恐ろしかったりと、読者を飽きさせない。
確かに僕らはどうしても今の時代の常識をもって絵を鑑賞してしまう。たとえばドガはバレリーナを数多く描いたことで有名だが、現代のバレリーナと当時のバレリーナの持つ地位はまったく異なるもので、それを理解することで初めてこの絵の持つ意味が理解できる、と著者は書いている。
そうやって著者は多くの絵画のその背景に潜む意味を解説していくのだが、好感がもてるのは、いずれも断定せずに「?をあらわしているのではないだろうか」「?はなぜだろう」という表現を使用している点だろう。結局その絵が何を示そうとして描かれたのかは画家本人にしかわからない。鑑賞者はあくまでもそれを推測することで楽しむ、それが絵画の楽しみ方なのだろう。
本書を読んでまた少し絵画の見かたが変わった気がする。またいくつかの歴史的事実や神話のエピソードを知るきっかけになった。

ティントレット
師匠のティツィアーノとともにルネサンス期のヴェネツィア派を代表する画家。ティツィアーノの色彩とミケランジェロの形体を結びつけ、情熱的な宗教画を描いた。(Wikipedia「ティントレット」
サトゥルヌス
ローマ神話に登場する農耕神。英語ではサターン。ギリシア神話のクロノスと同一視され、土星の守護神ともされる。(Wikipedia「サートゥルヌス」
アルテミジア・ジェンティレスキ
17世紀イタリア、カラヴァッジオ派の女性画家。(Wikipedia「アルテミジア・ジェンティレスキ」
ガニュメデス
ギリシア神話の登場人物である。イーリオス(トロイア)の王子で、美しい少年だったとされる。オリュンポス十二神に不死の酒ネクタルを給仕するとも、ゼウスの杯を奉げ持つともいわれる。(Wikipedia「ガニュメーデース」
メデゥース号
フランス海軍のパラス級40門帆走フリゲート。1810年進水、就役。ナポレオン戦争後期、1809年から1811年にかけてのモーリシャス侵攻に参加し、またカリブ海でも活動した。メデュース号、メデューサ号などと表記されることもある。(Wikipedia「メデューズ (帆走フリゲート)」

【楽天ブックス】「怖い絵」

「モウリーニョの流儀 勝利をもたらす知将の哲学と戦略」片野道郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
今やサッカー界でもっとも有名な人間の一人と言っていいだろう。ポルトガルのポルトとイングランドのチェルシーで国内タイトルを獲得しただけでなく、チャンピオンズリーグでもポルトでは優勝、チェルシーでも常に優勝を狙えるチームを作り上げた監督。ジョゼ・モウリーニョ。
本書は、すでに監督としての手腕を認められ国内タイトルだけでなくヨーロッパナンバー1を勝ち取ることを目標として、イタリアのインテルの監督に就任したモウリーニョが、1年目のシーズンでスクデット(イタリア国内タイトルをタイトルの通称)を獲得するまでを描いている。
モウリーニョはもちろんサッカーの監督だが、本書の内容はフォーメーションなどの戦術よりもむしろ、どちらかといえば保守的で外から入ってくる文化を嫌うイタリアサッカー界のなかでの、モウリーニョの適応の過程を示してくれる。僕自身の持っている印象では、彼の考え方は、常に筋が通っていて、すべてが物事の目的とその手段を冷静に分析した結果の決断というような印象があるが、就任当初の記述からは、新しい環境と文化ゆえに肩に力が入っている様子が伝わってくる。
そんな中でも印象的なのは、シーズン途中で、スクデットを獲得するためにこだわっていた3トップから2トップにフォーメーションを変えたところだろうか。どんな環境でも信念を貫き通す強い心とともに、環境に適応してスタイルを変える重要性。その2つのバランスの重要性が見て取れる。
個人的には本書のなかでモウリーニョの考え方にはかなり共感できる部分があり、また、もともと持っている考えを改めて考えるきっかけにもなったように思う。なにもサッカーファンには限らず、仕事やスポーツなどのリーダー的立場にいる人や、常に発展、進歩を求めて生きている人にとっては、なにか刺激を受ける要素が見出せるのではないだろうか。
本書は1年目のスクデットを獲得した時点で終了しているが、サッカーファンならご存知のとおり、モウリーニョはその翌年にはインテルでチャンピオンズリーグを制覇し、見事任務を果たしたこととなる。同じ著者がその過程までも書いてくれるならぜひまた読みたいところだ。
【楽天ブックス】「モウリーニョの流儀 勝利をもたらす知将の哲学と戦略」

「イニシエーション・ラブ」乾くるみ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

女性にあまり縁のない生活にを送っていた鈴木(すずき)は、友人に誘われた合コンの席で、一人の女性に繭子(まゆこ)と出会い、付き合うことになる・・・。
友人から薦められて読むことになった。結構賛否両論別れる内容だということで、大ハズレもあり得るかと構えたりもしていた。
軽く内容にふれると、鈴木(すずき)は繭子(まゆこ)と付き合っていたが社会人になったことを機に、状況し、そこで洗練された美女、美弥子(みやこ)と出会うのである。
タイトルである「イニシエーション・ラブ」というのがまさに本作のテーマ。人は常に変化するもの。過去自分が信じていたものさえも、その後自分が成長し、いろんなものを学ぶにしたがって、間違っていることに気づいて改めることもあり、むしろ改めることによってひとは成長していくと語っていて、それは恋愛についてもそれは同様で、今は好きになったひとを今後もずっと好きになるとは限らない、という考えである。
この考えはむしろ結婚などの広く日本人は広まっている慣習とは相反するものなのかもしれないが、常に周囲のものごとから学んで自分を発展させようと考えるひとにとっては、こちらの方が自然なのかもしれない。
そうやってこの本を受け止めたのだが、どうやらその裏には結構なトリックが隠されているらしく、読み終えてほかの人の書評を見るにいたって、ようやくそれに気づくことになった。
読みながらちょっとした違和感を感じたような気はするが、一読してそれを理解できる人がどれほどいるのだろうか?そういう意味では、なるほど、確かに賛否別れるかもしれない。
【楽天ブックス】「イニシエーション・ラブ」

「パーフェクト・ブルー」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校野球界のスターがガソリンをかけられて焼き殺されるという事件が起こった。元警察犬のマサは飼い主である探偵事務所の調査員たちとともに事件に関わることになる。
宮部みゆきの現代小説の長編はすべて読み終えたつもりでいたのだが、実は本作品だけ抜けていた。ふとそれを思い出して読んでみた。物語は高校野球のスターの諸岡克彦(もろおかかつひこ)が殺されたことによって、その弟の進也(しんや)とともに、真相を突き止めようとする探偵事務所の調査員、加代子(かよこ)やその父であり所長の行動を犬のマサ目線で描く。
宮部みゆきのデビュー作品ということで、やや荒削りな話の展開を感じなくもないが、新聞沙汰になるような事件に関わったら、たとえ被害者だろうと選手たちは甲子園出場をあきらめなければならない、という高校野球の不条理な「連帯責任」を物語に巧みに取り入れているあたりは「らしい」と言える。
そして物語が進むにつれ明らかになっていく、諸岡(もろおか)兄弟とその家族の本当の関係に、きっと何か感じるところがあるだろう。
【楽天ブックス】「パーフェクト・ブルー」

「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」ロバート・キヨサキ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
あの有名な「金持ち父さん貧乏父さん」の続編にあたり、そのタイトルにある「キャッシュフロー・クワドラント」とは、世の名の人を大きく4つにカテゴライズしていることに由来する。その4つとは、従業員(E)、自営業者(S)、ビジネスオーナー(B)、投資家(I)である。そして、この4つのなかでEとSの2つと、BとIの2つの間には大きな違いがると語る。それはEもSもお金を稼ぐためには相応に自分が動かなければならないのにたいして、BとIは準備さえ整えれば自分が何もしなくてもお金が生み出されるというのである。
そして、本書ではそんな、EおよびSからBおよびIへ移るためにやるべきこととして多くを語っている。書かれている内容はどれも当然のこと、と思えなくもないのだが、その書き方がいずれもシンプルで非常にわかりやすい。
世の中の多くが所属するであろうEのカテゴリの人たちを、「リスクをおそれてなにもやろうとしない」とか「勉強することを諦めた人」のように言っているので
ひょっとしたら本書を読んで不快に思う人もいるのかもしれないが、個人的には楽しむことが出来た。
【楽天ブックス】「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」

「カタコンベ」神山裕右

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第50回江戸川乱歩賞受賞作品。
新たに発見された鍾乳洞の調査に参加することになった水無月弥生(みなづきやよい)は、悪天候のための落石によって、アタック班の数名とともに洞窟内に閉じ込められることとなる。
まずケイビングという今まで聞いたことも無かったスポーツに興味を惹かれた。ダイビングの地上版、と例えるのがわかりやすいのだろうか。序盤はそんなめずらしいスポーツについての記述から始まる。
そして、鍾乳洞調査が始まり、調査隊のなかで最初に洞窟に入るアタック班の数名が閉じ込められることによって物語が動き出すのだが、それまでの過程で、アタック班および、その周辺の人の背景や性格がしっかり描かれている点が、物語を面白くさせているのだろう。権力者同士の駆け引きなどを含むそれぞれの思惑と背景、例えば、それは数年前にダイビング中の事故で父親を亡くしている弥生(やよい)や、その事故のときに同じ場所にいたケイブダイバーの東馬(とうま)にもあてはまる。そして、参加者の誰かが犯罪にかかわっているという情報も浮かび上がる。また、雨天のために洞窟が水没するまでに数時間、というタイムリミットもまたスピード感を増すのに一役買っている。
著者の別の作品「サスツルギの亡霊」は南極を舞台にした物語だったが、本作品も洞窟、ということで、今回もまた僕等が普段触れることのない世界を題材にスリリングな物語に仕上げている。
【楽天ブックス】「カタコンベ」

「バレエ漬け」草刈民代

おススメ度 ★★★☆☆ 3/5
映画「Shall we dance」で有名になったバレリーナ、草刈民代がそのバレエ漬けの生活を振り返る。
僕自身が、何か一つを極めるという生き方をしてこなかったため、何か一つを極めるために他の、普通の人間なら普通に楽むようなことをすべて犠牲にして一つの道を究めるような生き方には非常に興味を持っている。周囲の人が楽しそうにふるまう中、違う生き方をした自分が、その厳しい人生にどうやって意味を見出し続け、また、そこで感じた葛藤などが知りたいのだ。
そうやって読み始めたのだが、前半はむしろ幼いころの思い出話や、バレエのツアーを通じて体験した海外旅行記のような感じでやや期待はずれな感じを受けた。とはいえ、海外と日本とのバレエに対する社会の考えや環境の違いや、そもそもバレエそのものについてもおおいに好奇心を掻き立てられた。
後半になってようやく僕が読みたかった、その人生の意味や葛藤などに触れている。自分が何のために踊るのか、椎間板ヘルニアに悩まされたことによって改めてそんな問いかけをするのである。
当然と言えば当然なのだが、やはり文章にやや表現力に欠ける感は否めないが、こうして一つの道で大成した人がその人生を振り返った内容だけに、それなりに印象に残る部分はあった。むしろ驚いたのは「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」。いずれも名前に聞き覚えはあっても、物語の内容をまったく知らないことである。機会があれば劇場に足を運んでみたいものだ。
【楽天ブックス】「バレエ漬け」

「誰も知らない「名画の見方」」高階秀爾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「絵の見方」と称して、さまざまな西洋絵画を時代背景や画家の気持ちの変化などとともに解説している。
どうやら世の中には、「絵画の見方がわからない」と言って、それを避けてしまう人がいるようだ。考えて見れば僕の友人にもそんなようなことを言っていた人がいる。個人的には、絵画などというのは、何度も見ていれば、それなりにその画家の個性が見えてくるものだと思うし、その画家の絵のタッチや絵のテーマに興味を持てば、自然と宗教や神話や歴史にも興味が広がっていき理解が深まるもの。絵を見る前に「絵の見方」を学ばなければならないなんてものでは決してないと思っている。
本書の「はじめに」で著者が言っているものまさに僕の考えと一致している。著者のそんなスタンスがなによりも気に入った。
さて、本書はそうやって今まで気にしてなかった絵画の見えなかった部分を教えてくれる。たとえばモナリザについての興味深い説明はこうである。

モナ・リザが座っているのは、腰壁に囲まれたテラスである。つまり室内から外部へと続いていく空間のはざまであると同時に、自然と人工物ののはざまでもある。つぎに時間はどうだろう。どうやら夕暮れ時の光のなかのようだ。つまり、昼から夜へと変化していく時間のはざまだ。さらに季節は秋だ。これも暑い夏から寒い冬への変わり目であり、やはり、はざまといえる。

あれほど見慣れているモナ・リザにもこんな見方があったということに驚かされる。
さて、本書はまた、僕自身のお気に入りの画家について書かれている部分が思いのほか多かったのもうれしい。たとえば、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ジャン=フランソワ・ミレー、ギュスターヴ・モロー、ヒエロニムス・ボス、ビーテル・ブリューゲルなどがそれである。
絵画好きだけでなく、興味はあるけどいまいちわからない、などと思っている人にもオススメである。

ファン・エイク
兄のフーベルト(ヒューベルト)・ファン・エイクとともに油彩技法の大成者として知られる。フィリップ2世(豪胆公)の宮廷で活躍した。フーベルトの事績は不詳で、確実な作品もないが、現存のヤンの作例は兄との合作も含まれている。(Wikipedia「ヤン・ファン・エイク」

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「アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ」岡嶋裕史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「クラウド」とはなんなのか。人々が漠然と受け入れているその言葉の意味とその有効性を、アップル、グーグル、マイクロソフトというIT界の巨人たちの動向をふまえて説明していく。
本書によると「クラウド」という言葉のブームは2006年に続いて2度目なのだそうだ。しかし一体、世の中のどれほどの人が「クラウド」という言葉の意味を言葉にすることができるのだろうか。実際僕も「Saas」と「クラウド」を同じものとして今まで受け止めてきた。本書ではまずはそんな言葉の意味から説明していく。
決してわかりやすいとは言いがたく、どこか教科書的になってしまう1章、2章は正直やや退屈だったが、「クラウド」「Saas」「Paas」「Iaas」という鍵となる言葉を理解するうえではおおいに役立つだろう。そして各社がどのような戦略をとっているのか、という視点にたってクラウド解説している後半は世の中に対する新しい見方を提供してくれる。
現在3社がそれぞれクラウドに向かって進んでいるが、それぞれの歩んできた道は異なる。印象的だったのが、マイクロソフトのとってきた戦略とグーグルのとってきた戦略が真逆だという考え方である。

マイクロソフトは既存のパソコンに多くの資産を持ち、クラウドを取り込もうとしているが、グーグルはクラウドに莫大な資産を抱え、次は人とクラウドの接点たるパソコンに入り込もうとしている。

そんなふうに中ほどまではマイクロソフトとグーグルの比較に多くのページが割かれるが、その後は、アップルやアマゾンの手法にも触れられる。この手の多くの著者同様、本書もアップルびいきが感じられるが、世の中の状況を見ると、今のアップルの手法を賞賛せずにはいられないのだろう。アップルの賢さ、(したたかさ?)ばかりが印象に残ってしまった。
スマートフォンや電子書籍など、今後のIT界の動向を見つめるのを少し楽しくさせてくれる一冊となるだろう。
【楽天ブックス】「アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ」

「Say Goodbye」Lisa Gardner

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
FBIの特別調査官であるKimberly Quencyを指名して助けを求めてきた女性は毒蜘蛛を飼いならす男性による暴力の支配から逃れたい、というものだった。
その女性によって、何人かの売春婦たちが殺されていることが告げられる。そこには、売春婦ゆえに、いなくなっても誰も気にかけない、という世の中の悲しい仕組みが指摘されているのだろう。
そして少しずつ犯人とその協力者の少年の姿が描かれていく。幼さゆえに人生の意味すら知らずにひたすら犯人に命じられるまま協力し続ける少年。その少年目線の記述もまた見所のひとつだろう。また犯人が毒蜘蛛を愛している点も好奇心を書き立ててくれる。
そんな犯人を次第に追い詰めていく、という、よくある面白さのほかに興味深いのが、物語の中心となるKimberlyが第一子を妊娠していて、これから母親になろうとしている点だ。FBIの第一線で仕事に没頭しながらも、子供を身ごもったばかりに、今までどおりに働くことができない。おなかの中の子供を危険にさらすことができない。そんな不自由や、自分の仕事を妨げる子供というわずらわしさに、自責の念を抱いたり、母親になるということに自信を持てない、そんな葛藤が物語の随所に見えて来るのである。
そんなKimberlyが同じく刑事である父親に自分が生まれたときのことをたずねるシーンが印象に残った。

お父さんが1年に100件もの捜査に関わっている中に、私たちはいた、家に帰ってきて一緒に食事を取ることを求め、学校の演劇に参加してくれることを求め、一緒にタレントショーを見ることを求めていた。どうやってそれにストレスを感じずにいられたの?そんなつまらない要求にどうやって答えられたの?

そして最後はなんとも切ない展開。世の中の犯罪のいくつかはきっと、本作品の彼ら、彼女らのように、簡単に、被害者と加害者の区別が簡単にはできないものなのだ。悲しい負の連鎖、犯罪の連鎖はきっと僕らの気づかないところで進んでいるのだろう。

ACLU(アメリカ自由人権協会, American Civil Liberties Union)
主に米権利章典で保証されている言論の自由を守ることを目的とした、アメリカ合衆国で最も影響力のあるNGO団体の一つ。1920年設立。2005年度の会員数は約500,000人。政府などにより言論の自由が侵害されている個人や団体に弁護士や法律の専門家によるサポートを提供している。(Wikipedia「アメリカ自由人権協会」

「北海道警察の冷たい夏」曽我部司

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2002年7月。渡辺司(わたなべつかさ)は覚せい剤をもって札幌北警察署へ向かった。それは北海道警察の冷たい夏の始まりだった。

映画化された佐々木譲の小説「笑う警官」とその続編「警察庁から来た男」「警官の紋章」の中で、常に過去の出来事として描かれている北海道警察の汚職事件。そのリアルな描写が、実は現実に起こっていた事件をベースに描かれていることを知ったのは恥ずかしながら最近のことである。本書はその現実にあった北海道警察の不祥事を克明にまとめたものである。

一人の男の出頭によって、稲葉(いなば)という一人の幹部警察官が、覚せい剤や拳銃の応手実績を挙げるために、暴力団やロシアンマフィアたちと共謀して事件を捏造していたことが明らかになり、さらに北海道警察がその事実を隠蔽しようとした、と筆者は本書で主張している。

興味深いのは、稲葉(いなば)が決してただ私欲に目がくらんで自らの立場を利用した犯罪者ではなく、彼は、その人を思う気持ちゆえに、自らのために危険を冒してくれた捜査協力者を守り、多くの人と同じように実績を挙げて認めてもらうために犯罪に走ったということだろう。

著者の目線ゆえにだろうか、稲葉(いなば)という人間がむしろ北海道警察という大きな組織によって仕立てられて被害者に見えて来る。そして、悲しいことに、その隠蔽体質は事件後も一切改善されていないということだ。むしろ、それは日韓ワールドカップや朝鮮拉致被害者など、同じ時期に起きたわかりやすい出来事のなかで、しっかりと目を向けるべきものに目を向けて、批判すべきものを批判することをしなかったメディアや国民にも責任があるのかもしれない。

また、本書を読みながらこんなことを考えてしまった。世の中には多くの警察小説やドラマが溢れていて、その多くに日常的に接していながら、一体僕自身がどれだけそれらを現実のものとして受け入れているのだろう。

架空の物語の中で、覚せい剤や拳銃の密売、警察の腐敗などを描いているものにも多々出会ってきたが、実際その多くを、どこか物語の演出として過剰に描いたもののように受け入れてきた自分に気づかされたのである。しかし、本書を読むと、現実の世界でも警察は、暴力団の中に暴力団を装って捜査員を潜入させたり、Sと呼ばれる捜査協力者を利用して情報を集めたりするのである。そして、社会の秩序を守るべき警察が大規模な犯罪に手を染めたりする。

先日、ロシアの秘密警察の話を読んで、こんな国に生まれなくて本当に良かった、と思ったが、本書を読むと、日本も根本的にはあまり変わらなく、大きくなりすぎた組織が自らの失態を隠蔽する土壌は日本という国にも確かに存在するのである。

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