「イニシエーション・ラブ」乾くるみ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

女性にあまり縁のない生活にを送っていた鈴木(すずき)は、友人に誘われた合コンの席で、一人の女性に繭子(まゆこ)と出会い、付き合うことになる・・・。
友人から薦められて読むことになった。結構賛否両論別れる内容だということで、大ハズレもあり得るかと構えたりもしていた。
軽く内容にふれると、鈴木(すずき)は繭子(まゆこ)と付き合っていたが社会人になったことを機に、状況し、そこで洗練された美女、美弥子(みやこ)と出会うのである。
タイトルである「イニシエーション・ラブ」というのがまさに本作のテーマ。人は常に変化するもの。過去自分が信じていたものさえも、その後自分が成長し、いろんなものを学ぶにしたがって、間違っていることに気づいて改めることもあり、むしろ改めることによってひとは成長していくと語っていて、それは恋愛についてもそれは同様で、今は好きになったひとを今後もずっと好きになるとは限らない、という考えである。
この考えはむしろ結婚などの広く日本人は広まっている慣習とは相反するものなのかもしれないが、常に周囲のものごとから学んで自分を発展させようと考えるひとにとっては、こちらの方が自然なのかもしれない。
そうやってこの本を受け止めたのだが、どうやらその裏には結構なトリックが隠されているらしく、読み終えてほかの人の書評を見るにいたって、ようやくそれに気づくことになった。
読みながらちょっとした違和感を感じたような気はするが、一読してそれを理解できる人がどれほどいるのだろうか?そういう意味では、なるほど、確かに賛否別れるかもしれない。
【楽天ブックス】「イニシエーション・ラブ」

「パーフェクト・ブルー」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校野球界のスターがガソリンをかけられて焼き殺されるという事件が起こった。元警察犬のマサは飼い主である探偵事務所の調査員たちとともに事件に関わることになる。
宮部みゆきの現代小説の長編はすべて読み終えたつもりでいたのだが、実は本作品だけ抜けていた。ふとそれを思い出して読んでみた。物語は高校野球のスターの諸岡克彦(もろおかかつひこ)が殺されたことによって、その弟の進也(しんや)とともに、真相を突き止めようとする探偵事務所の調査員、加代子(かよこ)やその父であり所長の行動を犬のマサ目線で描く。
宮部みゆきのデビュー作品ということで、やや荒削りな話の展開を感じなくもないが、新聞沙汰になるような事件に関わったら、たとえ被害者だろうと選手たちは甲子園出場をあきらめなければならない、という高校野球の不条理な「連帯責任」を物語に巧みに取り入れているあたりは「らしい」と言える。
そして物語が進むにつれ明らかになっていく、諸岡(もろおか)兄弟とその家族の本当の関係に、きっと何か感じるところがあるだろう。
【楽天ブックス】「パーフェクト・ブルー」

「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」ロバート・キヨサキ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
あの有名な「金持ち父さん貧乏父さん」の続編にあたり、そのタイトルにある「キャッシュフロー・クワドラント」とは、世の名の人を大きく4つにカテゴライズしていることに由来する。その4つとは、従業員(E)、自営業者(S)、ビジネスオーナー(B)、投資家(I)である。そして、この4つのなかでEとSの2つと、BとIの2つの間には大きな違いがると語る。それはEもSもお金を稼ぐためには相応に自分が動かなければならないのにたいして、BとIは準備さえ整えれば自分が何もしなくてもお金が生み出されるというのである。
そして、本書ではそんな、EおよびSからBおよびIへ移るためにやるべきこととして多くを語っている。書かれている内容はどれも当然のこと、と思えなくもないのだが、その書き方がいずれもシンプルで非常にわかりやすい。
世の中の多くが所属するであろうEのカテゴリの人たちを、「リスクをおそれてなにもやろうとしない」とか「勉強することを諦めた人」のように言っているので
ひょっとしたら本書を読んで不快に思う人もいるのかもしれないが、個人的には楽しむことが出来た。
【楽天ブックス】「金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント」

「カタコンベ」神山裕右

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第50回江戸川乱歩賞受賞作品。
新たに発見された鍾乳洞の調査に参加することになった水無月弥生(みなづきやよい)は、悪天候のための落石によって、アタック班の数名とともに洞窟内に閉じ込められることとなる。
まずケイビングという今まで聞いたことも無かったスポーツに興味を惹かれた。ダイビングの地上版、と例えるのがわかりやすいのだろうか。序盤はそんなめずらしいスポーツについての記述から始まる。
そして、鍾乳洞調査が始まり、調査隊のなかで最初に洞窟に入るアタック班の数名が閉じ込められることによって物語が動き出すのだが、それまでの過程で、アタック班および、その周辺の人の背景や性格がしっかり描かれている点が、物語を面白くさせているのだろう。権力者同士の駆け引きなどを含むそれぞれの思惑と背景、例えば、それは数年前にダイビング中の事故で父親を亡くしている弥生(やよい)や、その事故のときに同じ場所にいたケイブダイバーの東馬(とうま)にもあてはまる。そして、参加者の誰かが犯罪にかかわっているという情報も浮かび上がる。また、雨天のために洞窟が水没するまでに数時間、というタイムリミットもまたスピード感を増すのに一役買っている。
著者の別の作品「サスツルギの亡霊」は南極を舞台にした物語だったが、本作品も洞窟、ということで、今回もまた僕等が普段触れることのない世界を題材にスリリングな物語に仕上げている。
【楽天ブックス】「カタコンベ」

「バレエ漬け」草刈民代

おススメ度 ★★★☆☆ 3/5
映画「Shall we dance」で有名になったバレリーナ、草刈民代がそのバレエ漬けの生活を振り返る。
僕自身が、何か一つを極めるという生き方をしてこなかったため、何か一つを極めるために他の、普通の人間なら普通に楽むようなことをすべて犠牲にして一つの道を究めるような生き方には非常に興味を持っている。周囲の人が楽しそうにふるまう中、違う生き方をした自分が、その厳しい人生にどうやって意味を見出し続け、また、そこで感じた葛藤などが知りたいのだ。
そうやって読み始めたのだが、前半はむしろ幼いころの思い出話や、バレエのツアーを通じて体験した海外旅行記のような感じでやや期待はずれな感じを受けた。とはいえ、海外と日本とのバレエに対する社会の考えや環境の違いや、そもそもバレエそのものについてもおおいに好奇心を掻き立てられた。
後半になってようやく僕が読みたかった、その人生の意味や葛藤などに触れている。自分が何のために踊るのか、椎間板ヘルニアに悩まされたことによって改めてそんな問いかけをするのである。
当然と言えば当然なのだが、やはり文章にやや表現力に欠ける感は否めないが、こうして一つの道で大成した人がその人生を振り返った内容だけに、それなりに印象に残る部分はあった。むしろ驚いたのは「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「ドン・キホーテ」。いずれも名前に聞き覚えはあっても、物語の内容をまったく知らないことである。機会があれば劇場に足を運んでみたいものだ。
【楽天ブックス】「バレエ漬け」

「誰も知らない「名画の見方」」高階秀爾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「絵の見方」と称して、さまざまな西洋絵画を時代背景や画家の気持ちの変化などとともに解説している。
どうやら世の中には、「絵画の見方がわからない」と言って、それを避けてしまう人がいるようだ。考えて見れば僕の友人にもそんなようなことを言っていた人がいる。個人的には、絵画などというのは、何度も見ていれば、それなりにその画家の個性が見えてくるものだと思うし、その画家の絵のタッチや絵のテーマに興味を持てば、自然と宗教や神話や歴史にも興味が広がっていき理解が深まるもの。絵を見る前に「絵の見方」を学ばなければならないなんてものでは決してないと思っている。
本書の「はじめに」で著者が言っているものまさに僕の考えと一致している。著者のそんなスタンスがなによりも気に入った。
さて、本書はそうやって今まで気にしてなかった絵画の見えなかった部分を教えてくれる。たとえばモナリザについての興味深い説明はこうである。

モナ・リザが座っているのは、腰壁に囲まれたテラスである。つまり室内から外部へと続いていく空間のはざまであると同時に、自然と人工物ののはざまでもある。つぎに時間はどうだろう。どうやら夕暮れ時の光のなかのようだ。つまり、昼から夜へと変化していく時間のはざまだ。さらに季節は秋だ。これも暑い夏から寒い冬への変わり目であり、やはり、はざまといえる。

あれほど見慣れているモナ・リザにもこんな見方があったということに驚かされる。
さて、本書はまた、僕自身のお気に入りの画家について書かれている部分が思いのほか多かったのもうれしい。たとえば、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ジャン=フランソワ・ミレー、ギュスターヴ・モロー、ヒエロニムス・ボス、ビーテル・ブリューゲルなどがそれである。
絵画好きだけでなく、興味はあるけどいまいちわからない、などと思っている人にもオススメである。

ファン・エイク
兄のフーベルト(ヒューベルト)・ファン・エイクとともに油彩技法の大成者として知られる。フィリップ2世(豪胆公)の宮廷で活躍した。フーベルトの事績は不詳で、確実な作品もないが、現存のヤンの作例は兄との合作も含まれている。(Wikipedia「ヤン・ファン・エイク」

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「アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ」岡嶋裕史

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「クラウド」とはなんなのか。人々が漠然と受け入れているその言葉の意味とその有効性を、アップル、グーグル、マイクロソフトというIT界の巨人たちの動向をふまえて説明していく。
本書によると「クラウド」という言葉のブームは2006年に続いて2度目なのだそうだ。しかし一体、世の中のどれほどの人が「クラウド」という言葉の意味を言葉にすることができるのだろうか。実際僕も「Saas」と「クラウド」を同じものとして今まで受け止めてきた。本書ではまずはそんな言葉の意味から説明していく。
決してわかりやすいとは言いがたく、どこか教科書的になってしまう1章、2章は正直やや退屈だったが、「クラウド」「Saas」「Paas」「Iaas」という鍵となる言葉を理解するうえではおおいに役立つだろう。そして各社がどのような戦略をとっているのか、という視点にたってクラウド解説している後半は世の中に対する新しい見方を提供してくれる。
現在3社がそれぞれクラウドに向かって進んでいるが、それぞれの歩んできた道は異なる。印象的だったのが、マイクロソフトのとってきた戦略とグーグルのとってきた戦略が真逆だという考え方である。

マイクロソフトは既存のパソコンに多くの資産を持ち、クラウドを取り込もうとしているが、グーグルはクラウドに莫大な資産を抱え、次は人とクラウドの接点たるパソコンに入り込もうとしている。

そんなふうに中ほどまではマイクロソフトとグーグルの比較に多くのページが割かれるが、その後は、アップルやアマゾンの手法にも触れられる。この手の多くの著者同様、本書もアップルびいきが感じられるが、世の中の状況を見ると、今のアップルの手法を賞賛せずにはいられないのだろう。アップルの賢さ、(したたかさ?)ばかりが印象に残ってしまった。
スマートフォンや電子書籍など、今後のIT界の動向を見つめるのを少し楽しくさせてくれる一冊となるだろう。
【楽天ブックス】「アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ」

「Say Goodbye」Lisa Gardner

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
FBIの特別調査官であるKimberly Quencyを指名して助けを求めてきた女性は毒蜘蛛を飼いならす男性による暴力の支配から逃れたい、というものだった。
その女性によって、何人かの売春婦たちが殺されていることが告げられる。そこには、売春婦ゆえに、いなくなっても誰も気にかけない、という世の中の悲しい仕組みが指摘されているのだろう。
そして少しずつ犯人とその協力者の少年の姿が描かれていく。幼さゆえに人生の意味すら知らずにひたすら犯人に命じられるまま協力し続ける少年。その少年目線の記述もまた見所のひとつだろう。また犯人が毒蜘蛛を愛している点も好奇心を書き立ててくれる。
そんな犯人を次第に追い詰めていく、という、よくある面白さのほかに興味深いのが、物語の中心となるKimberlyが第一子を妊娠していて、これから母親になろうとしている点だ。FBIの第一線で仕事に没頭しながらも、子供を身ごもったばかりに、今までどおりに働くことができない。おなかの中の子供を危険にさらすことができない。そんな不自由や、自分の仕事を妨げる子供というわずらわしさに、自責の念を抱いたり、母親になるということに自信を持てない、そんな葛藤が物語の随所に見えて来るのである。
そんなKimberlyが同じく刑事である父親に自分が生まれたときのことをたずねるシーンが印象に残った。

お父さんが1年に100件もの捜査に関わっている中に、私たちはいた、家に帰ってきて一緒に食事を取ることを求め、学校の演劇に参加してくれることを求め、一緒にタレントショーを見ることを求めていた。どうやってそれにストレスを感じずにいられたの?そんなつまらない要求にどうやって答えられたの?

そして最後はなんとも切ない展開。世の中の犯罪のいくつかはきっと、本作品の彼ら、彼女らのように、簡単に、被害者と加害者の区別が簡単にはできないものなのだ。悲しい負の連鎖、犯罪の連鎖はきっと僕らの気づかないところで進んでいるのだろう。

ACLU(アメリカ自由人権協会, American Civil Liberties Union)
主に米権利章典で保証されている言論の自由を守ることを目的とした、アメリカ合衆国で最も影響力のあるNGO団体の一つ。1920年設立。2005年度の会員数は約500,000人。政府などにより言論の自由が侵害されている個人や団体に弁護士や法律の専門家によるサポートを提供している。(Wikipedia「アメリカ自由人権協会」

「北海道警察の冷たい夏」曽我部司

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2002年7月。渡辺司(わたなべつかさ)は覚せい剤をもって札幌北警察署へ向かった。それは北海道警察の冷たい夏の始まりだった。
映画化された佐々木譲の小説「笑う警官」とその続編「警視庁から来た男」「警官の紋章」の中で、常に過去の出来事として描かれている北海道警察の汚職事件。そのリアルな描写が、実は現実に起こっていた事件をベースに描かれていることを知ったのは恥ずかしながら最近のことである。本書はその現実にあった北海道警察の不祥事を克明にまとめたものである。
一人の男の出頭によって、稲葉(いなば)という一人の幹部警察官が、覚せい剤や拳銃の応手実績を挙げるために、暴力団やロシアンマフィアたちと共謀して事件を捏造していたことが明らかになり、さらに北海道警察がその事実を隠蔽しようとした、と筆者は本書で主張している。
興味深いのは、稲葉(いなば)が決してただ私欲に目がくらんで自らの立場を利用した犯罪者ではなく、彼は、その人を思う気持ちゆえに、自らのために危険を冒してくれた捜査協力者を守り、多くの人と同じように実績を挙げて認めてもらうために犯罪に走ったということだろう。
著者の目線ゆえにだろうか、稲葉(いなば)という人間がむしろ北海道警察という大きな組織によって仕立てられて被害者に見えて来る。そして、悲しいことに、その隠蔽体質は事件後も一切改善されていないということだ。むしろ、それは日韓ワールドカップや朝鮮拉致被害者など、同じ時期に起きたわかりやすい出来事のなかで、しっかりと目を向けるべきものに目を向けて、批判すべきものを批判することをしなかったメディアや国民にも責任があるのかもしれない。
また、本書を読みながらこんなことを考えてしまった。世の中には多くの警察小説やドラマが溢れていて、その多くに日常的に接していながら、一体僕自身がどれだけそれらを現実のものとして受け入れているのだろう…、と。そんな架空の物語の中で、覚せい剤や拳銃の密売、警察の腐敗などを描いているものにも多々出会ってきたが、実際その多くを、どこか物語の演出として過剰に描いたもののように受け入れてきた自分に気づかされたのである。しかし、本書を読むと、現実の世界でも警察は、暴力団の中に暴力団を装って捜査員を潜入させたり、Sと呼ばれる捜査協力者を利用して情報を集めたりするのである。そして、社会の秩序を守るべき警察が大規模な犯罪に手を染めたりする。
先日、ロシアの秘密警察の話を読んで、こんな国に生まれなくて本当に良かった、と思ったが、本書を読むと、日本も根本的にはあまり変わらなく、大きくなりすぎた組織が自らの失態を隠蔽する土壌は日本という国にも確かに存在するのである。
【楽天ブックス】「北海道警察の冷たい夏」

「万能鑑定士Qの事件簿II」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
各テレビ局に送られた2枚の番号まで同じ1万円札。日本中に偽札があふれている現実に世の中が慌てふためく。
「万能鑑定士Qの事件簿I」とほぼ2冊で一つの物語となっており、凛田莉子(りんだりこ)の紹介的な流れだった前作とはことなり、今回は偽札があふれかえったことによって混乱する日本を描いている。
実際、世の中に真偽の判定ができないほどの精巧な偽札が出回っていると世間が知ったときの世の中の動きというのは、なかなか想像しがたいものではあるが、商店が紙幣での支払いを拒否し、人は外貨への両替に走る、というように、そんな状態で起こりうるいくつかの人々の行動は本書のなかで描かれているように見える。「ほかにどんなことが起こりうるだろう」と考えながら読むと面白いかもしれない。
ちなみに偽札というと、偽札作りに命をかける男たちを描いた真保裕一(しんぽゆういち)の「奪取」などが頭に浮かぶ。紙幣に注ぎ込まれている最新技術などに興味のある方はこちらもお勧めしたい。
【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿II」

「万能鑑定士Qの事件簿I」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
出版社に勤める小笠原(おがさわら)は、東京の街中に張られている「力士シール」の鑑定を依頼するため、「万能鑑定士Q」という鑑定士と出会う。その鑑定士は凛田莉子(りんだりこ)。まだ20代前半の若く女性だった。
気がつけばずいぶん長いこと松岡圭祐作品から遠ざかっていた気がする。「千里眼シリーズはもう完結してしまったのか。そんな、松岡ワールドへ久しぶりに触れたいと思い、その新たなヒロインと思える本書を手に取った。
物語は、鑑定士である凛田莉子(りんだりこ)と、かなり不器用な雑誌記者小笠原(おがさわら)の出会いから始まる。同時に、高校を卒業し東京に出てくる凛田莉子(りんだりこ)という過去のエピソードが平行して展開する。本作品のメインはむしろその過去の凛田莉子(りんだりこ)のエピソードで、勉強は苦手なのにもかかわらず、東京での暖かい人たちの出会いでその才能を開花させ、鑑定士としての生き方光明を見出すまでが描かれている。
本書は物語としては凛田莉子(りんだりこ)の紹介に以上の部分はないと言っていいだろう。これから起こる大きな混乱が続編「万能鑑定士Qの事件簿II」で解決されるらしく、本書中にちりばめられた多くの謎は「II」まで持ち越しとなっている。
松岡圭祐作品はいままで現実的な話は「催眠シリーズ」で、やや過渡なエンターテイメント性を持った物語は「千里眼シリーズ」で展開していたが、本シリーズはどちらかというと後者に近くなりそうな印象を受けた。
ただの思いつきだけで出来上がったヒロインではなく、今後取り上げられるエピソードで、強く読者に訴えるものがすでに用意された上で、それをつくりあげられるために用意されたヒロインであってほしいものだ。

リンネ
スウェーデンの博物学者、生物学者、植物学者。(Wikipedia「カール・フォン・リンネ」

【楽天ブックス】「万能鑑定士Qの事件簿I」

「アップルvs.グーグル」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
iPhoneとアンドロイドで世の騒がせるアップルとグーグル。IT業界の2大巨人の動向を説明している。
まずは、当然のように世の中のスマートフォンの話題をさらっているiPhoneとアンドロイド携帯について話から入る。世の中では出荷量や販売台数など、多くのデータによって優劣がつけられているが、では実際はどうなのか。そして、それぞれの戦略や過去の発展の経緯についても語っている。
また世の中では一般的にアップルとグーグルは敵対しているように語っているが、実際にはどうなのか、そもそもアップルとグーグルのサービスは共存し得ないものなのか、など。そして、アップルとグーグルだけでなく、明らかに後手にまわっているマイクロソフトや、日本企業は今後どうあるべきか、なども含めて語られている。
僕らが、iPodやGoogleMapなど、すでに日常の中に自然と溶け込んでいる両者のサービスを使う中で、感じ取っているアップルとグーグルのベクトル違い理解するのに大いに役立つだろう。同時に本書によって今後の動向にもさらに関心を持つことになるだろう。

グーグルによる革命は、それまで敷居が高く、一部の人にしか手に入らなかった情報も、グーグルの側でお金をかけて敷居を下げ、誰にでも仕えてしまうようにするインスタントなチープ化革命だ。
アップルのやり方を見て、ただハードやソフトの見てくれを気にしているだけで、大したことないと思っている人もいるかもしれない。だが、見てくれや操作のしやすさは、それを使ってものをつくり出す人に大きな違いを生み出す。

【楽天ブックス】「アップルvs.グーグル」

「ジェネラル・ルージュの伝説」海堂尊

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれる東城医大の天才救命医、速水晃一(はやみ)の短編集。
速水(はやみ)を主人公とする「ジェネラルルージュの凱旋」は僕が海堂尊作品を好きになったきっかけとなる作品。そこで大活躍した速水晃一(はやみ)に焦点をあてた、短編集。「ひかりの剣」は速水の医大生時代を描いているが、本作品中の3編はいずれも医師時代。とはいえ最初のエピソードは新米医師の速水を描いており、類まれなる才能に恵まれながらも、自らの技術を過信し、先輩医師にはむかう生意気な新米を描き、物語としてはもっともオススメである。
実際の救命の混乱と、己を知らなかった自分と向き合い、自らを向上させる決意をする、と、言ってしまえばありがちな展開なのだが、その細かい展開と、速水という人物の魅力に楽しませてもらえる。相変わらず看護婦の猫田は存在感抜群である。

イカロスは人々の希望なの。その失墜を見て、意気地なしたちは安全地帯から指さしあざ笑う。だけど心ある人はイカロスを尊敬する。

2章目は「ジェネラルルージュの凱旋」と同じ時間を、経費削減に奔走する事務長三船(みふね)目線で描いた作品。すでに「ジェネラルルージュの凱旋」を読んだのが2年以上まえなために若干記憶が薄れているが、展開もほとんどそのままなのだろう。
そのとき心を動かされた言葉に、今回も同様にゆすぶられた。

だが、現実にはこの病院にはドクター・ヘリはない。なぜ?
事故を報道し続ける、報道ヘリは飛んでいるのに。

3編については満足だが、その後の「海堂尊物語」や登場人物の解説はページを稼ぐためだけのものにしか見えない。
【楽天ブックス】「ジェネラル・ルージュの伝説」

「姑獲鳥の夏」京極夏彦

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
20ヶ月も妊娠したまま出産しない女性。そんな奇怪な事件を知り、関口(せきぐち)は古本屋の変わり者、京極堂に話を持ちかける。やがて事件に深く関わることになり、忘れていた過去の出来事にも気づいていく。
見た目の厚さのせいで完全な食わず嫌いであった京極夏彦だが、友人が進めてくれたのを期に、京極作品の中でもっとも薄くもっとも有名な本作品を手にとった。そしてそれは予想通りユニークな世界だった。分厚い本の最初の1/10にもわたって古本屋の京極堂と関口の不思議な会話で占められる。
たとえば「幽霊が存在するかしないか」と考えるなら、なによりもさきに「存在」という言葉の定義をはっきりさせる必要があるだろう…。短くたとえるならこんな感じだろうか。
実際京極堂は徳川家康と妖怪のダイダラホウシを例に挙げて、「なぜ、どちらも実際にみたわけではないのに、家康の存在は信じて、ダイダラホウシの存在は信じないのだ?」と関口に問いかける。読者はその問いに対する自分なりの答えを持とうとするだろう。
個人的に、今まで深く考えもせずに受け入れていたもの、つまり「常識」にもう一度疑問を投げかけて考え直させるような流れは嫌いではない。とはいえ、嫌悪するひとも、逆に病みつきになるひともいるのだろう。
本作品の面白さはそんな独特な視点だけでなく、京極堂を含む不思議な登場人物にもある。探偵の榎木津(えのきづ)などもその一人である。本作品では微妙な存在感だけを残すにとどまったが、シリーズのほかの作品では活躍したりするのだろうか?
物語の流れはやや複雑怪奇で受け入れがたい部分もあるが、京極ワールドに病みつきになる人も気持ちもなんとなくわかる。

ダチュラ
全草(根・茎・葉・花・種子などすべての部位)に幻覚性のアルカロイドを含む有毒植物。モルヒネのような直接的な鎮痛効果はないが、痛覚が鈍くなる為、麻酔薬や喘息薬として知られる。(ダチュラとは? 朝鮮朝顔
シャルル・ボネ症候群
打撲、脳卒中、脳溢血、薬物などによって起こる脳の障害などにより、脳の情報伝達が正常に行われないことから起こる現象の総称。(マルチメディア・インターネット事典「シャルル・ボネ症候群」

【楽天ブックス】「姑獲鳥の夏」

「世界を変えたアップルの発想力」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
松下電器からアップルに転職した著者目線で、アップルという会社を主要人物が語った明言を引用しながら説明していく。典型的な日本企業である松下とアップルを比較することで、アップルのその異質な社風が見えてくる。
アップルがどれだけ偉大なことを成し遂げてきたか、ということを考えると、誰もがそんなプロジェクトに関わりたいと思うだろう。しかし、偉大な商品をつくったからといって、その会社が誰にとっても魅力的な労働環境を提供しているとは限らないのだ。よくも悪くもアップルという会社がユニークな会社であることが見えてくる。また同時に、僕らが「会社はこうあるべきだ」と考えているもののいくつかが、必ずしも会社に必要でないものであることも気づくだろう。
それでも思うのだ、アップルで働いたら、きっと何時間でも働かなければならないだろうし、仕事以外のことを一切放棄しなければならないときもあるだろう。それでもここまで熱意を注いで仕事ができることは幸せなんだろう、と。

真似はマイクロソフトにやらせておけばいい

本書で挙げられている歴史をつくったアップルの偉人たちの名言の中の、いくつかが胸に刺さるのかもしれない。
【楽天ブックス】「世界を変えたアップルの発想力」

「ファーストクラスの英会話」荒井弥栄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
元国際線のCAがその経験から、日本人が間違えやすい表現を、「ビジネスクラス」「ファーストクラス」とその丁寧さを2段階に分けて説明する。僕らは英語と日本語の違いを、「英語は直接的で日本語は遠まわし」などと漠然と思っているかもしれないが、どんな言語においても、相手に反対したりするときは、相手に不愉快な思いをさせないような遠まわしな言い方が必要なのである。
「英語で言いたいことを言う」の次のステップ、「英語で気持ちよくコミュニケーションをとる」の段階に移ろうとしている人には非常に役に立つだろう。
一般的な丁寧表現の「Could you?」「Would you mind if?」のほかにも、ビジネスシーンに使えそうな、丁寧表現が満載である。「add up」「up to scratch」「be snowed under」「under the weather」などはぜひ覚えておきたい表現である。
【楽天ブックス】「ファーストクラスの英会話」

「テレビの大罪」和田秀樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
昨今のテレビ番組がどれだけ世の中に悪影響を及ぼしているか、という視点に立った内容である。昨今の若者のテレビ離れは、インターネットなど、テレビ以外のエンターテイメントの普及だけによるものではなく、発信者としての責任を負うことを恐れて、ひたすらクイズ番組に走る、というテレビ局側のモラルの低下も影響しているのだろう。
僕自身ここ数年で一気にテレビを見なくなったから、その「テレビ離れ」の裏にある原因や人の考え方にはおおいに興味があったので、本書を手にとったのだが、ところどころうなずける部分はあるものの、著者のかなり強引な論理と断定的な書き方にやや抵抗を抱きながら読み進めることになってしまった。
とはいえ、確かに、テレビ局が東京に集中していなかったらおそらく飲酒運転の取り締まりは今ほど厳しくはならなかっただろう、という考え方には納得できるものがあるし、自殺報道は規制すべき、という考え方もうなずける。
結局テレビの大罪が「大罪」になってしまう原因は、情報を取捨選択せずに鵜呑みにしてしまう視聴者の側にもあるのだということは、改めて今回思ったことである。
【楽天ブックス】「テレビの大罪」

「ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか」井出洋一郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
西洋絵画を楽しむ上で、宗教とギリシア神話は欠かせないもの。本書はギリシア神話のエピソードとともに、その場面を描いた絵画を紹介している。
僕自身西洋絵画とギリシア神話はもともと好きなので多くの物語は知っているものばかりだったが、それでもいくつかの知らなかった逸話や、ギリシア神話の一場面と知らずに見ていた絵画、そして見たこともない絵画に触れることができた。
面白いのは神話上の人物が、絵で描かれる際の特長に触れている点だろう。アットリビュートと呼ばれるその人物の象徴となる持ち物を知ることで、より絵画のなかの人物を特定しやすくなるのということだ。
たとえばよく知られているものだと、エロス(キューピッド)の弓、ヴィーナス(アフロディーテ)の貝といったところだ。残念ながらアットリビュートの説明は文章だけで、資料となる絵画が載っていない点がやや物足りなかった。
絵画としてはピエロ・ディ・コジモ「アンドロメダを救うペルセウス」など、ペルセウス好きにはたまらない。ジュール・ルフェーブルの「パンドラ」も印象的である。どちらも今まで知らなかった画家なので、ぜひ覚えておきたいものだ

【楽天ブックス】「ギリシア神話の名画はなぜこんなに面白いのか」

「JUSTICE」Michael J.Sandel

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
「正しいこととは何なのか」。「正しいこと」。生きていれば数え切れないほど耳にするそんな当たり前の言葉に対して、「じゃあ、その「正しいこと」とは何なのか?」と問いかけ、突き詰めていく。
面白いのは本書のなかで、。「正しいのはどちらか?」といういくつもの選択肢が用意されている点だろう。いずれの選択肢も即答できるものではなく、いくつかは一生かかっても答えを出せないであろう問いかけである。もちろん本書でもその問いかけの先で示しているのは答えなどではなく、その答えにたどり着くための道筋である。
そしてその道筋を示す過程で、過去の哲学者など、多くの偉人たちの考え方を紹介している。自由主義者にとってはこちらはこの点で間違っている、功利主義者にとってはこちらが正義になる。…のように。
そして、それらの考え方に触れるうちに、「正しいこと」とは、「自由を尊重するもの」「倫理に従うもの」「世の中の実用性を重視するもの」「最大人数に対する最大の富を目的とするもの」など、人によってさまざまな考え方があることに気づくだろう。
30年も生きていれば誰しも、心の中に答えのない疑問を抱えていたりするのではないだろうか。たとえば、生き物の命は大切なのに、どうして人間は豚や牛を殺して食べるの?とか、買う側も売る側も満足している売春はなんで不法なの?とか。
そんな問いかけに対する答えの出し方のヒントを少しつかめた気がした。

「激流」柴田よしき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
修学旅行の途中で行方不明になった女生徒冬葉(ふゆは)。20年後、彼女から、同じバスにのっていた同級生6人にメールが届く。「私を憶えていますか?」。大人になった彼らは再び20年前の出来事と向き合うことになる。
移動中のバスからいなくなる女生徒。こんな謎めいて、「真実を知りたい」と思わせる序章は、エンディングのハードルまで上げてしまうとはいえ、読者を引き込むには最良の方法だろう。
物語は不思議なメールをきっかけに、集まった6人。再会をそれぞれの目線から見つめることで、20年という決して短くない期間の人生が見えてくる。20年前に抱いていたお互いに対する気持ちや、20年前とのギャップ、夢を掴んだものとそうでないもの、想像通りの生き方をしているものとそうでないもの…。本作品の面白さは、行方不明になった女生徒というなぞの解明よりも、その過程で描かれるそれぞれの人生にあるといってもいいのではないだろうか。

どちらも若かったのだ。若く幼く、必死だった。自分が心地好いと感じる価値観にしがみつき、それ以外はすっぱりと否定してしまう。妥協、という言葉はあの頃の自分たちにはとても汚らわしい響きを持つ言葉だった。

その同級生の中でも、特に特徴をもって描かれているのが、芸能人として有名になった美弥(みや)と、中学生のころから誰もがうらやむ美貌をもった貴子(たかこ)である。個人的には、そんな恵まれた容姿をもちながらも決して幸せな生き方をしていない貴子の生き方が印象的だった。
ラストの展開が冒頭で引き上げた期待値に達したかどうかは疑問だが、決して悪い作品ではない。ただ、同級生6人のなかに刑事、芸能人、美人というありがちな人物設定しかできなかった点がやや残念である。
【楽天ブックス】「激流(上)」「激流(下)」