「スターバックス成功物語」ハワード・シュルツ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
スターバックスのCEO、ハワードシュルツがその成功の奇跡を語る。
いろんな雑誌や本で何度も言及される本書。いつのまにか読まなければいけない本として僕の頭に残っていた。すでに13年前に出版された本ということで、現在のスターバックスの状況に本書の内容が追いついているとはいえないが、その発展の裏にある考え方、途中で超えなければならなかったたび重なる困難などを知るにはまったく問題ないだろう。
セールスマンだったシュルツがスターバックスと出会い、スターバックスに入社し、また考えの違いから独立して起業し、そしてスターバックスを買収して世界に広めていくまでが時系列に語られている。

人生はニアミスの連続と言ってもいい。われわれが幸運と見なしていることは実は単なる幸運ではないのだ。幸運とはチャンスを逃さず、自分の将来に責任を持つことにほかならない。

そしてそんな中でスターバックスの信念としてひたすら繰り返されるのが「真心を持って美味しいコーヒーを飲ませたい」というものだ。そしてその信念をスタッフ全体(「パートナー」という言葉を使っているが)にいきわたらせるためにさまざまな試みがされていることがわかる。一体、世の中のどれほどの企業の社員が、会社のやることに信念を感じて働けているのだろうか、と考えてしまう。こんな素敵な会社に自分の知識や時間やエネルギーを費やし貢献できたらきっと幸せだろう。
そして後半は、会社が大きくなったことによって生じる問題。そして、その信念と客の求めるものの間で悩み、下される決断とその結果について書かれている。
たとえばフラプチーノの登場の裏話や、空港への店舗のオープンなどがそれである。
普段日常的にスタバを利用している僕らがみているのは、その苦渋の決断の結果でしかないため、その前段階にここまで大きな葛藤があったなど知るはずもない。だからこそ、その決断までの過程はどれも興味深いものばかりであった。

スターバックスが硬直化した企業だったら、あのような形でフラプチーノが誕生することはなかっただろう。

そして、ハワード・シュルツの言葉からは企業を大きく成長するにあたっての経営者のあるべき姿のようなものが感じられるだろう。

自分より物事を知らない人間から何が学べると言うのだ。彼らは自尊心は満足させてくれるし、指示にも素直に従うだろう。だが、成長の支えにはならないのだ。

間違いなく本書はスタバへの見方を大きく変えてくれる。そして、次回スタバに行ったとき今まで見てなかったところまで見ようとしてしまうだろう。

絶えず変化しつづけるこの社会において、最も永続性のある強力なブランドは真心から生まれる。それは本物であり、必ず生き残る。こうしたブランドは強力な力で支えられている。なぜなら、それを築いたのは広告キャンペーンでなく人間の真心だからだ。長く続く企業とは信頼される企業にほかならない。

いつかシアトルに訪れることがあったら、1号店に行ってみたい。
【楽天ブックス】「スターバックス成功物語」

「The Twelfth Card」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
図書館で祖先の歴史をよんでいる最中に襲われた少女Geneva、RhymeとSachsはGenevaを救うべく、犯人を確保しようとする。
事故によって四肢のマヒした犯罪学者Lincoln Rhymeのシリーズの第6弾である。本作品では犯人が凶悪犯罪を繰り返すというのではなく一人の少女が繰り返し狙われる、という形態をとっている。「犯人は誰なのか?」とともに「なぜ彼女は狙われるのか?」という謎も本物語の焦点となってくる。
最初に襲われたときに読んでいたGenevaの祖先にかかわる書物が盗まれたことから、「過去の歴史にかかわることに命を狙われる理由があるのではないか?」とRhymeたちは考え、物語中では、Genevaの祖先が残した手紙から、南北戦争時代の混乱が伝わってくる。
そうして、少しずつ謎を解明しながら犯人に迫っていくのだが、同時に明らかになっていく少女Genevaの秘密。その強い生き方が物語を面白くさせている。同世代の女の子みたいに遊びまわらずお洒落もせずにひたすらいい成績をとり続ける。それは人に言えない理由を抱えているから…。
また、目の前で人が殺されたことにショックを受けてから自身を失った刑事Sellittoがそれを克服するために進んで現場に出て行くシーンなども印象的だ。そして、個人的には「The Vanished Man」で活躍した女性マジシャンKaraがわずかながら登場してくれたこともうれしい。本作品も見所満載である。

CPR
CardioPulmonary Resuscitation。心臓蘇生法
AAVE
African American Vernacular Englishの略。米国に住むアフリカ系アメリカ人により特徴的に話される英語。
GPA(Grade Point Average)
各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成績評価値のこと、あるいはその成績評価方式のことをいう。欧米の大学や高校などで一般的に使われており、留学の際など学力を測る指標となる。日本においても、成績評価指標として導入する大学が増えてきている。(Wikipedia「GPA」
Amarillo
テキサス州で14番目に大きな市。(Wikipadia「Amarillo」
Judge Judy
アメリカの法廷を舞台とした番組。(Wikipedia「Judge Judy」
Potters’ Field
アメリカ、カナダの言葉で、その土地の人や身元不明の人間が埋葬されている場所をさす言葉。
Edmond Locard
法医科学の先駆者。(Wikipedia「Edmond Locard」
ギロピタ
ギリシャ料理のひとつ。(Wikipedia「ギロピタ」

「太陽の坐る場所」辻村深月

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校卒業から10年。度々企画される同窓会。元同級生たちの話題は人気女優となったキョウコ。しかし彼女は同窓会を欠席し続ける・・・。
辻村作品には特に、なにか新しい興味を喚起させるきっかけも、作品を通して学ぶことのできる政治や経済的事実もない、にもかかわらずその作品が僕を惹きつけるのはそこで描かれる人々の感情の生々しさだろう。本作品はそういった意味で辻村作品が好きな人にとっては決して期待を裏切らないものになっている。高校時代同じクラスに属していた4人の女性と1人の男性が、10年後、お互いの状況や、高校時代、過去の出来事を思い起こしながら語る。
10年経ったからこそわかる過去の自分の未熟さ。東京に出て生活している人に対する、地元に残ったものの嫉妬。誰もが表の顔と裏の顔を使い分けて生きているのだ。そして、どんな美人も、頭のいい生徒も、悩みを抱え、ほかの誰かに憧れている。相手の持つ悪意ある意図に気づきながそれでも表面的には笑顔を保ち、復讐する機会を伺い続ける…。そんな計算高さは誰しもが持っているもの、しかしそれでもそこまで明確に意識することなく、どちらかといえば無意識のレベルで考え、結論を出し、行動しに移しているのだろう。そんな無意識の醜い悪意をはっきりとした文字にして見せてしまうところが、辻村作品の個性であり、怖さなのだろう。

知らなかったとは言わせない。私を見下していたはずだ。自分の男の話をしながら、男と別れる相談をしながら、結婚の報告をしながら。素敵な仕事をしていいなぁ、と自分を羨ましがるふりをしながら、「女」の価値を見せつけてきた。そうだろう?

身に覚えがある思いも、信じられないような考え方もあるだろう。人の気持ちがわからない人は辻村作品を読むといい。

わかってしまったのだ。あそこがどうしみょうもないほどの、小物の集まりだということを。皆が低い位置から、空に浮かぶ太陽を見上げるように彼女を見上げる。
何を言っているのだろう。あんなにふっくらとした身体をして、おいしそうにご飯を食べているくせに。ねぇ、きれいな洋服を着るために夕飯を抜く気持ちがわかる?水しか飲まず、空腹で眠れない夜がどれだけつらいか。想像したこともないでしょう?

そして辻村作品ではもはやお馴染みとなっているミスディレクションは本作品でも健在。その辺はぜひ読んで楽しんで欲しい。
個人的には、これだけリアルに人の感情を描けるなら、そのままストレートに物語を描いても十分魅力ある作品に仕上がると感じるのだがどうだろう。あとがきで語られたこんな文章が、まさに定まらない自分の居場所や生き方に悩みを揺れ動く本作品の語り手たちの気持ちを表しているようだ。

5人の語り手たちは、それぞれ自分が主人公の物語を生きている。誰にとっても自分の物語を自分が主人公のはずなのに、何かの弾みにそんな事実さえ覚束なくなる。

【楽天ブックス】「太陽の坐る場所」

「インビジブルレイン」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
一人の暴力団員が殺害された事件の捜査中に、刑事姫川玲子(ひめかわれいこ)はある一人の男の名前を上層部から伝えられる。そして、その男が捜査線上に浮かんでも一切調査はするな、とも。
女性刑事姫川玲子シリーズの第4弾である。暴力団員が殺害された事件を機に物語は始まり、そこに、警察内部の過去の失態に対する関心の再燃を恐れて、一人の男の捜査をするな、という圧力を上層部からかけられる。そんななかで玲子(れいこ)を服務、警察内部のさまざまな立場の人間の反応が面白い。また、前三作品と同様に、事件自体は深刻ながらどこかコミカルな雰囲気が漂う言葉のやりとりは健在である。
本作品では、物語は玲子の目線以外にも2つの目線で語られる。一人は暴力団員の牧田(まきた)。暴力団を殺した過去を持ち、それによって自らも暴力団員のなった男。そしてもう一人は、姉を亡くし、父を自殺でなくし、その恨みをはらすことだけを目的に生きている男。いずれも普段の生活では関わる事のないヒトの物事の考え方を読者に見せてくれるだろう。そしてこの2人がどうやって事件と関わっているのかも次第に明らかになっていく。
前三作品と比べるとやや僕の心に残した印象は薄いだろうか。犯人の気持ちに過剰なまでにシンクロしてしまう玲子(れいこ)の個性も本作品ではあまり出てこないように感じる。むしろ短編集となった前作「シンメトリー」の印象を引き立ててしまった感じさえある。
【楽天ブックス】「インビジブルレイン」

「ぼんくら」宮部みゆき

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

江戸の鉄塀長屋で起こる出来事を描く。とある事件によって評判のよかった差配人が行方をくらまし、その後、不自然にも鉄瓶長屋の差配人になった佐吉。そして次第に店子は減っていく。
江戸を舞台にした物語ということで、当時の社会の仕組みや職業など、その多くはもちろんしっかりとした説明がされてはいるが、少々わかりにくいかもしれない。それでも読み薦めるにつれて、鉄塀長屋で生活しているお徳やおくめ、平四郎など、個性あふれる登場人物たちの魅力に引き込まれていくことだろう。
小さな事件で始まる物語はやがてその背後にある大きな陰謀へと導かれていく。単純な物語として楽しむだけでなく、当時のしきたりや風習、人々の考え方の現在との違いなども含めて楽しめるだろう。

まいない
利益をはかってもらうために当事者にひそかに贈り物をすること。また、その物。賄賂(わいろ)。(Weblio辞書「まいない」
店子
家を借りている人。借家人。「大家」の対義語。(はてなキーワード「店子」
同心
江戸幕府の下級役人のひとつ。諸奉行・京都所司代・城代・大番頭・書院番頭などの配下で、与力の下にあって庶務・警察などの公務に就いた。(Wikipedia「同心」
岡っ引き
江戸時代の町奉行所や火付盗賊改方等の警察機能の末端を担った非公認の協力者。(Wikipedia「岡っ引」

【楽天ブックス】「ぼんくら(上)」「ぼんくら(下)」

「The Power of The Dog」Don Winslow

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2010年このミステリーがすごい!第1位。
1970年代から30年近くにわたり、メキシコ、アメリカ国境付近で広がるアメリカへの麻薬を密輸する組織と、それを摘発しようと奮闘するアメリカ人Artを描く。
なんといっても注目すべきはこの物語が実話をベースに描かれているということだろう。もちろん組織の名前などは架空のものが付けられているが、事実に詳しい人間が読めば、物語のなかの誰が実在した誰を描いているのかすぐにわかるのではないだろうか。。
メキシコの地名やアルファベットの頭文字だけで表現される多くの組織名など、お世辞にも読みやすいとは言いがたいが、メキシコとアメリカの国境付近の歪んだ空気が伝わってくる。
裏切りと制裁の組織のなかで地位を固めていくAdanとRaul。そしてニューヨークから成り上がったCallan。友人を拷問のすえ殺されたことで麻薬組織撲滅を使命としていきるArt。コールガールとして成功したがゆえに組織と深くかかわることになったNora。それぞれの視点からその犯罪を見つめて言うr。
平和な日本に生きている僕らには想像もできないような現実がそこにあることに驚くだろう。アメリカ、メキシコ国境で、なぜ何年もの間お金は北から南に流れ、麻薬は南から北へ流れるのか、その理由がわかるだろう。

DEA
アメリカ合衆国の麻薬取締局(まやくとりしまりきょく、Drug Enforcement Administration、略称:DEA)は司法省の法執行機関であり、1970年規制物質法の執行を職務とする連邦捜査機関である。(Wikipedia「麻薬取締局」

「いつかX橋で」熊谷達也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
空襲で母と妹を失った裕輔(ゆうすけ)は、靴磨きから生活を再開する。そこで彰太(しょうた)という同年代の青年と出会い意気投合する。戦後の混乱のなか生き抜く若者2人を描く。
戦後を扱った物語となると、その舞台は都心か、もしくは原爆の投下された広島、長崎になることが多いが、本作品は仙台を舞台としている。そもそも仙台に空襲はあったのか、そんなことも知らなかった僕にはその舞台設定が新鮮に感じた。
そして、そんな時代のなかでも堅実に生きようとする裕輔(ゆうすけ)と、そんな混乱の中だからこそ成り上がろうとする彰太(しょうた)や、アメリカ人に体を売ることで食いつなぐ淑子(よしこ)など、時代は違えどそれぞれの生き方に個性を感じる。
裕輔(ゆうすけ)と彰太(しょうた)は「X橋のうえに虹をかける」を合言葉に別々の道を歩むことを決めるが、さらなる困難が2人の行方を阻む。
現代の恵まれたなかで安穏と生きる僕らにはいい刺激になるのではないだろうか。
【楽天ブックス】「いつかX橋で」

「JAL崩壊 ある客室乗務員の告白」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2010年1月に自主再建を断念した日本航空。その知られざる内部を客室乗務員の著者が語る。
内部で長い間働いていたからこそ語れる内容ばかりである。機能しない評価手法。強すぎる組合によって弱腰な経営方法など、現在の日本航空の状況を作り出した原因らしきものは多々読み取れるが、なかでも印象的だったのはパイロットの世間ずれした感覚だろうか。パイロットというとどこか神格化されたイメージがあるからこそ、本書で語られる内容に驚くかもしれない。
そして後半は客室乗務員に焦点をあてている。出産によるメリットデメリット、外国人乗務員との条件の違いや、珍エピソードなど。それなりに面白く読ませてもらったが、やや全体的な文体が愚痴っぽいのが残念なところ。フライトアテンダントにあこがれる世の女性たちも一度本書を読んでみたらどうだろうか。少し考え方が変わるかもしれない。
【楽天ブックス】「JAL崩壊 ある客室乗務員の告白」

「年下の男の子」五十嵐貴久

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大手飲料メーカー勤務の37歳川村晶子(かわむらあきこ)はついにマンションの購入を決意。それはつまり独身で生きることを決意したのか。そんなとき取引先の新入社員と児島(こじま)と出会う。
14歳の年の差の恋愛を描いている。勢いだけで恋愛できる若い児島(こじま)に対して、もはや相手の収入や地位や、世間体など、現実的にならざるを得ない晶子(あきこ)の後ろ向きな考え方を理解できてしまうのは僕自身もそれに近い年齢だからだろうか。
とはいえ、物語を面白くするためだろう、晶子の周囲には意外と恋愛の機会が落ちていて少し非現実的な印象を抱いてしまうが、それでも全体を通じては爽快で、勇気をもらえるような内容である。三十代の独身女性が本書に対してどのような感想を抱くのかが気になる。
【楽天ブックス】「年下の男の子」

「The Lincoln Lawyer」Michael Connelly

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高級車リンカーンをオフィス代わりに忙しく働く弁護士Mickey Hallerは大きな利益を期待できる容疑者Louis Ross Rouletの弁護を担当することとなる。売春婦に暴行を加えた容疑で訴えられているRoulet。真実が明らかになるに連れて、Mickeyは逃れられない罠にはまっていることに気づく。
日本でも弁護士を扱った物語や検事を扱った物語はあり、内容は想像の範囲内と言えるだろう。序盤は、単にMickeyはお金のためにドライに弁護士という職業をこなしているように見えたが、中盤以降に、その職業ゆえに出会った困難によって心の葛藤を見せてくれる。

俺が弁護をした人の多くは「悪」ではなかった。彼らは有罪だったが「悪」ではない。そこには大きな違いがあるんだ。この曲を聞くと、なんで彼らがそんな行動をしたのかがわかってくる。人は誰も、与えられたもので生きていかなければならない、やっていかなければならない。でも「悪」とは違うものだ。

面白いのは、すでに2回の離婚暦を持ちながらも、2人の元妻と依然として良好な関係を維持している点だろう。2人との元妻との間ではどこか憎めない男といった雰囲気を出すMickeyに好感が持てる。
本作品はシリーズ物ではないが、同じ著者のほかの作品にも挑戦してみたいと思った。

「ファントム・ピークス」北林一光

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
長野県の山中で半年前に行方不明になった女性の頭蓋骨が発見された。夫の三井周平(みついしゅうへい)は妻の原因不明の死の真相を知りたいと願いその後も頻繁に現場に足を運ぶ。そんな中、さらに女性が行方不明になる。
序盤に、一人ずつ女性が行方不明になるシーンは、大自然の中にある非科学的なものの存在を感じさせる。なにか得たいの知れない生き物が潜んでいるのか、本人が自ら行方をくらましたのか、それとも一緒にいた男がその女性を殺害したのか。やがて、その捜査線上には一匹の獣が浮上する。
謎めいた事件が起きて、その原因が明らかになり、人々がその原因に対して挑戦する、と物語の展開としては非常にオーソドックスであるが、オーソドックスであるからこそしっかり読者を引き込む力を備えている。何か書けば即ネタばれになりそうで書けないが、一気読みできる一冊である。
【楽天ブックス】「ファントム・ピークス」

「「天才」の育て方」五嶋節

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
五嶋みどり、五嶋龍と2人のヴァイオリニストを育てた五嶋節が、その子育ての考え方を語る。
タイトルを見て、どんな英才教育が語られるのだろう、などと少し身構えてしまったが、実際ここで語られているのは僕らが一般的に思っている子育ての考え方とそんなに大きく変わらない。親はこどもがいろんなものを見聞きする環境を作ってやることが大事なのと、子供に対しても敬意をもって接すること。そもそも、著者本人は2人のヴァイオリニストを「天才」とは思っていない。ただ2人がヴァイオリンに興味を持ったから与えて、教えただけなのだそうだ。
そんな母親の目線で語られる内容、その経験談に触れることで、なにか感じとることができるのではないだろうか。

【楽天ブックス】「「天才」の育て方)」

「日本語の謎を探る―外国人教育の視点から」森本順子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
外国人の日本語教師である著者がその経験から日本語を語る。
日本語教育の現場では、僕らが知らないたくさんの困難があることがわかる。たとえば文法をわかりやすく理解するために、日常会話で使うはずのないフレーズを学ばなければならなかったり、テキストは標準語をベースに作られているのに、関西と関東で一般的な表現方法がしばしば異なっていたりとる。
日本語の表現の難しさとしてよく語られる「は」と「が」の違いについて本作品でも触れている。本書では「は」=既知、「が」=未知と説明している点が非常にわかりやすく新しい。
説明のいくつかは少々専門的になりすぎて僕自身正直正確に理解できたのかは非常にあやしいが、それでも興味をもって読み進めることができた。
言語学習者はその過程で自身の母国語を客観的に見つめることがある。母国語である僕らにとってはまったく普通に受け入れてしまっているが、実は外国人にとっては不可解極まりない法則。その一部分に触れることができる。何かきっと新しい発見があることだろう。

「The Empty Chair」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Rhymeの手術のために訪れたノースカロライナの町で地元の保安官から誘拐事件の調査を依頼される。RhymeとAmeliaは手術までの1日、その捜査を手伝うこととなった。
事故によって四肢のマヒした犯罪学者Lincoln Rhymeのシリーズの第3弾である。普段はその操作の大部分はニューヨークにあるRhymeの部屋で多くの専用機器を用いて行われるのだが、今回は田舎町の操作ということもあり、機器を取り寄せ、またその操作をサポートするにふさわしい人材を選別するところから始まるのが面白く、シリーズのほかの作品とは異なるところである。
そして今回の追跡対象はInsect Boy。家族を交通事故で失ってから、虫に傾倒し、その習性にだれよりも詳しく、その習性から攻撃や防御の手段などを学んだ少年である。犯罪現場に残された微量な物質をてがかりに、RhymeはInsect Boyを次第に追い詰めていく。一方で、AmeliaはInsect Boyと対面し、その少年の言動から、その少年が過去に殺人を犯し、殺人を意図して今回も誘拐をしたという多くの人が語る少年のなかにある悪意の存在に疑問を持ち始める。
Insect Boyは本当に彼自信の言うように、ただ純粋に友人を守るために保護しただけなのか、それともその供述のすべてがAmeliaを導くための虚構なのか…、この謎が物語の大きな柱となる。Ameliaだけでなく、読者までもが次第にInsect Boyの無実を信じてしまうだろう。治安維持のために憤る保安官たち。報奨金目当てにInsect Boyを追う町の若者たち。物語は小さな田舎町全体を巻き込んで進行していく。そして、物語を面白くしているもう一つの要素は、その町が湿地帯に囲まれている点だろう。町では車での移動よりもボートでの移動が有効で、地図には載っていない入り江や水路が網の目のようにはりめぐらされている。Insect Boyはそんな地の利を利用して巧みに逃走していくのである。
最後まで誰が犯罪に関わっているのかわからない展開。シリーズの中でも異質な存在といえるだろう。

「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則」カーマイン・ガロ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アップル製品に興味のある人や、IT業界の動向に関心のある人は誰でも一度は彼のプレゼンを見たことがあるのではないだろうか。本書は、スティーブ・ジョブズのその魅力的なプレゼンテーションを分析し、聴衆を魅了するテクニックの数々を明らかにしていく。
僕自身はプレゼンなどほとんど縁のない仕事をしているが、それでも興味を持って読むことができた。魅力的なプレゼンをするための手法として印象的で僕らが陥りがちな手法は本書でたくさん触れられているが、パワーポイントの箇条書きの部分が一番耳が痛い。同じように感じる人は多いはずだ。

パワーポイントも上手に使えばプレゼンテーションをひきたてることができる。パワーポイントを捨てろというわけではない。用意されている箇条書き「だらけ」のテンプレートを捨てろと言うのだ。

そのほかにも「3点ルール」や「敵役の導入」「数字のドレスアップ」などは面白く読ませてもらった。

普通なら市場シェア5%は少ないと思うだろうが、ジョブズは別の見方を提示した。
「アップルの市場シェアは自動車業界におけるBMWやメルセデスよりも大きい。だからといって、BMWやメルセデスが消える運命にあると思う人はいないし、シェアが小さくて不利だと思う人もいない。

読めば誰もがプレゼンをしたくなるだろう。必ずしも大勢の人の前でのプレゼンだけでなく、コミュニケーションの根本にあるあり方について考えさせられる内容である。

スティーブ・バルマー
アメリカ合衆国の実業家、マイクロソフト社最高経営責任者(2000年1月 – )。(Wikipedia「スティーブ・バルマー」)
ジャック・ウェルチ
アメリカ合衆国の実業家。1981年から2001年にかけて、ゼネラル・エレクトリック社の最高経営責任者を務め、そこでの経営手腕から「伝説の経営者」と呼ばれた。(Wikipedia「ジャック・ウェルチ」)
YouTube「Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address」
YouTube「iPhone を発表するスティーブ・ジョブス(日本語字幕)」
YouTube「スティーブジョブズによるiPodプレゼン(2001)」
YouTube「MacBook Air 」
YouTube「The Lost 1984 Video: young Steve Jobs introduces the Macintosh」
YouTube「The First iMac Introduction」

【楽天ブックス】「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則」

「奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録」石川拓治

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
農薬も肥料も使わずにりんごを実らせることを実現したりんご農家、木村明則(きむらあきのり)さんの8年に及ぶ試行錯誤の記録である。
僕らが「無農薬○○」と聞くと、農薬なしで作物を作るよりは手間はかかるのだろうが、決して不可能ではないだろう、と思ってしまう。ところが、本書序盤でその考えが間違っていることを教えられる。すでに僕らが「りんご」と呼んでいるものは、農薬なしでは育たないように何年、何十年もかけて品種改良された末の「りんご」なのだ、それはもはや難しいというものではなく、「不可能」の域のことなのだ。
では、その「不可能」をどうやって実現したのか、その努力の過程を本書は追っている。8年にも及ぶそれはもはや「信念」などというものではなく、本書でも書かれているように正気を失った、「狂気」に近い。それでも家族を支えていかなければならないというプレッシャー、とか、周囲の目にさらされながらも、その一つの道を突き進むなかで、木村さんがふとした折に何かに気づき、少しずつその不可能を可能にするためのステップを登っていく。
そこで教見えてくるのは、りんごや害虫や土の習性といったリンゴに直接的に関わる事柄がもちろん大部分なのだが、それ以外にも常識を打ち破るための人間としての心構えなどにも触れている。きっとなにか感じる部分があるだろう。

パイオニアは孤独だ。何か新しいこと、人類にとって本当の意味で革新的なことを成し遂げた人は、昔からみんな孤独だった。
リンゴの実をならせるのはリンゴの木で、それを支えているのは自然だけれどもな、私を支えてくれたのはやっぱり人であったな。
ジョニー・アップルシード
アメリカ合衆国初期の開拓者であり、実在の人物である。西部開拓期の伝説的人物の一人として、現在もさまざまな逸話や伝説で語り継がれている。(Wikipedia「ジョニー・アップルシード」
華岡青洲(はなおかせいしゅう)
江戸時代の外科医。世界で初めて麻酔を用いた手術(乳癌手術)を成功させた。(Wikipedia「華岡青洲」

【楽天ブックス】「奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録」

「武士道セブンティーン」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
剣道を通じて知り合った親友、香織(かおり)と早苗(さなえ)という2人の女子高生を描いた物語。
前作「武士道シックスティーン」でほぼ正反対な性格ながらもやがてわかりあった二人。残念ながら早苗(さなえ)は親の都合で福岡に引っ越して、2人は離れ離れになる。本作品はその後の2人を描いている。
前作同様本作品も2人の視点から交互に描かれる。福岡の強豪校福岡南の剣道部に入部した早苗(さなえ)はそこで黒岩レナと出会い、新しい環境での剣道に戸惑いながらも、順応していく。また、一方の香織(かおり)は早苗(さなえ)の去った後の東松高校で、部長かつ魔性の女である河合(かわい)とともに後輩を育てようとする。
全作品は香織と早苗が均等に描かれているように感じたが、本作品で物語性が強いのは早苗(さなえ)の方だろう。結果を重視する福岡南高校の剣道のスタイルに疑問を持ち、武道とスポーツの違い、自分の求める剣道のスタイルとの間で葛藤をし始める。
剣道の経験などまったくない僕でもその緊張感の伝わってくる内容。なんとも剣道がやりたくさせてくれるすがすがしい作品である。すでに単行本としては発刊されている「エイティーン」の文庫化も楽しみである。
【楽天ブックス】「武士道セブンティーン」

「シンメトリー」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
警視庁捜査一課刑事、姫川玲子(ひめかわれいこ)が関わる7つの事件を描いた物語。
もはやドラマ化もされてしまったゆえに人気シリーズとしての地位を固めつつあるのだろう。「ストロベリーナイト」「ソウルケイジ」に続く姫川玲子(ひめかわれいこ)の物語。
本来短編集は避けようとするのだが、読み進めてみるとむしろ、いままでは面白くはあっても二作品、二つの事件にしか僕ら読者の前で関わらなかった玲子(れいこ)が、本書では7つの物語に登場することもあり、その7つの物語を通じて、より彼女の個性に触れられることだろう。
前二作品と同じように、本作品でも犯人の気持ちに感情移入しやすい彼女の優れた感覚が、ほかの刑事が気づかない小さな手がかりを見つけ、真相に近づいていく。表題作の「シンメトリー」などはそんななかでも秀逸である。その物語のなかで玲子(れいこ)がつぶやいた言葉。この言葉がもっとも、心に残ったし、この言葉にこそ姫川玲子(ひめかわれいこ)の個性を凝縮されている気がする。

……私が犯人だったら、こんな夜は、現場を見たくて仕方なくなるだろうって……そう、思ったから
愛光女子学園
東京都狛江市に所在する東京矯正管区所属の女子少年院。(Wikipedia「愛光女子学園」
石膏ボード
石膏を主成分とした素材を板状にして、特殊な用紙で包んだ建築材料である。安値であるが非常に丈夫であり、断熱・遮音性が高い。壁や床を造る際には広く使われ、用途に合わせた種類がある。(Wikipedia「石膏ボード」

【楽天ブックス】「シンメトリー」

「怖い絵」中島京子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
タイトルのとおり、西洋絵画を「怖い絵」という視点で見つめなおす。「怖い絵」と言っても「怖い」の種類にはいくつかあり、単純に絵自体がグロテスクだったり残虐なシーンを描いたものを語ることもあれば、その時代の背景を知って初めてその絵が怖くなる場合や、その絵の描かれた前後に起こったことを含めて恐ろしかったりと、読者を飽きさせない。
確かに僕らはどうしても今の時代の常識をもって絵を鑑賞してしまう。たとえばドガはバレリーナを数多く描いたことで有名だが、現代のバレリーナと当時のバレリーナの持つ地位はまったく異なるもので、それを理解することで初めてこの絵の持つ意味が理解できる、と著者は書いている。
そうやって著者は多くの絵画のその背景に潜む意味を解説していくのだが、好感がもてるのは、いずれも断定せずに「?をあらわしているのではないだろうか」「?はなぜだろう」という表現を使用している点だろう。結局その絵が何を示そうとして描かれたのかは画家本人にしかわからない。鑑賞者はあくまでもそれを推測することで楽しむ、それが絵画の楽しみ方なのだろう。
本書を読んでまた少し絵画の見かたが変わった気がする。またいくつかの歴史的事実や神話のエピソードを知るきっかけになった。

ティントレット
師匠のティツィアーノとともにルネサンス期のヴェネツィア派を代表する画家。ティツィアーノの色彩とミケランジェロの形体を結びつけ、情熱的な宗教画を描いた。(Wikipedia「ティントレット」
サトゥルヌス
ローマ神話に登場する農耕神。英語ではサターン。ギリシア神話のクロノスと同一視され、土星の守護神ともされる。(Wikipedia「サートゥルヌス」
アルテミジア・ジェンティレスキ
17世紀イタリア、カラヴァッジオ派の女性画家。(Wikipedia「アルテミジア・ジェンティレスキ」
ガニュメデス
ギリシア神話の登場人物である。イーリオス(トロイア)の王子で、美しい少年だったとされる。オリュンポス十二神に不死の酒ネクタルを給仕するとも、ゼウスの杯を奉げ持つともいわれる。(Wikipedia「ガニュメーデース」
メデゥース号
フランス海軍のパラス級40門帆走フリゲート。1810年進水、就役。ナポレオン戦争後期、1809年から1811年にかけてのモーリシャス侵攻に参加し、またカリブ海でも活動した。メデュース号、メデューサ号などと表記されることもある。(Wikipedia「メデューズ (帆走フリゲート)」

【楽天ブックス】「怖い絵」

「モウリーニョの流儀 勝利をもたらす知将の哲学と戦略」片野道郎

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
今やサッカー界でもっとも有名な人間の一人と言っていいだろう。ポルトガルのポルトとイングランドのチェルシーで国内タイトルを獲得しただけでなく、チャンピオンズリーグでもポルトでは優勝、チェルシーでも常に優勝を狙えるチームを作り上げた監督。ジョゼ・モウリーニョ。
本書は、すでに監督としての手腕を認められ国内タイトルだけでなくヨーロッパナンバー1を勝ち取ることを目標として、イタリアのインテルの監督に就任したモウリーニョが、1年目のシーズンでスクデット(イタリア国内タイトルをタイトルの通称)を獲得するまでを描いている。
モウリーニョはもちろんサッカーの監督だが、本書の内容はフォーメーションなどの戦術よりもむしろ、どちらかといえば保守的で外から入ってくる文化を嫌うイタリアサッカー界のなかでの、モウリーニョの適応の過程を示してくれる。僕自身の持っている印象では、彼の考え方は、常に筋が通っていて、すべてが物事の目的とその手段を冷静に分析した結果の決断というような印象があるが、就任当初の記述からは、新しい環境と文化ゆえに肩に力が入っている様子が伝わってくる。
そんな中でも印象的なのは、シーズン途中で、スクデットを獲得するためにこだわっていた3トップから2トップにフォーメーションを変えたところだろうか。どんな環境でも信念を貫き通す強い心とともに、環境に適応してスタイルを変える重要性。その2つのバランスの重要性が見て取れる。
個人的には本書のなかでモウリーニョの考え方にはかなり共感できる部分があり、また、もともと持っている考えを改めて考えるきっかけにもなったように思う。なにもサッカーファンには限らず、仕事やスポーツなどのリーダー的立場にいる人や、常に発展、進歩を求めて生きている人にとっては、なにか刺激を受ける要素が見出せるのではないだろうか。
本書は1年目のスクデットを獲得した時点で終了しているが、サッカーファンならご存知のとおり、モウリーニョはその翌年にはインテルでチャンピオンズリーグを制覇し、見事任務を果たしたこととなる。同じ著者がその過程までも書いてくれるならぜひまた読みたいところだ。
【楽天ブックス】「モウリーニョの流儀 勝利をもたらす知将の哲学と戦略」