「やがて、警官は微睡る」日明恩

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
横浜のホテルが犯人グループに占拠された。偶然居合わせた武本(たけもと)は状況を打開しようと、ホテルマン西島(にしじま)とともに行動を起こす。
「それでも警官は微笑う」シリーズの第3弾である。強面だが職務に忠実な武本(たけもと)と、饒舌だが切れ者のキャリア潮崎(しおざき)を中心に展開されるシリーズである。本作品はホテルの占拠と言うややシリーズの他の作品と比較すると派手な幕開けである。犯人グループの一人から手に入れた無線によって武本(たけもと)は潮崎(しおざき)と交信することになる。
犯人も無線を聞いているはず、という前提の中で武本(たけもと)に意思を伝えようと、潮崎(しおざき)はその饒舌さからくる世間話のなかに様々な情報を差し込んでいくのである。
そんな事件の渦中にありながらも、警察という組織の中で迅速な行動をできずにいる潮崎(しおざき)と同僚のやりとりが面白い。正義を全うしようとする警察間同士でも、それぞれ信じる方法は異なり、それが大きな組織の機能を弱めてしまうのである。そんなシリーズに共通して潮崎が持つ葛藤もまた物語の見所のひとつである。

技術はどんどん向上し、その恩恵に国民は積極的に与っている。同時に、技術の進歩に応じた、今までにはなかった犯罪も起こっている。そんな中、警察は取り残されつつある。その遅れをマンパワーと、団結力で補っている。それがこの国の現状だ。

全体的には日明恩らしさが所々に感じられつつも、事件自体を派手にしすぎたせいか、人間関係などの人と人との感情や世の中のシステムに対するやるせなさのようなものが他の作品と比較すると少なかった点が残念である。本作品の終わり方はまだまだ続編がありそうな雰囲気なので次回作に期待したい。
【楽天ブックス】「やがて、警官は微睡る」

「握る男」原宏一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
金森信二(かなもりしんじ)は生きていくために寿司職人になることを決意する。しかしそこで出会った年下の男ゲソこと徳武光一郎(とくたけこういちろう)はその才能と努力で彼を一気に追い抜きのし上がっていく。
序盤は寿司職人たちの厳しい生き方が描かれているが、同時に懐かしい昭和の時代を感じる事が出来る。その寿司屋が両国に位置する事から、1985年に現在の場所に両国国技館が完成した事で大きく変わっていくのである。
前半はそんななかで兄弟子の嫉妬やいろいろな人間関係のなかで努力する金森(かなもり)と、次第に頭角を現していくゲソの姿が描かれている。
後半では金森(かなもり)とゲソは社長とその右腕となってバブル時代をのし上がっていくのである。時に過剰ともおもえるゲソの行動や決断は一体どこへ向かっていくのか。
正直もう少し寿司職人の人生に迫った物を期待したのだが、どちらかというと寿司はただ物語に軽く味を添える素材の一つでしかなく、若い2人の成り上がり物語となっている。
タイトルから想像した内容とは若干異なるが、時代背景を反映しているのでそれなりに楽しむ事が出来るだろう。
【楽天ブックス】「握る男」

「Pretty Little Liars #3: Perfect」Sara Shepard

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Aliが遺体となって発見され、犯人として疑っていたxxが殺された。一体Aとは誰なのか。不安に怯えながらAria、Spencer、Emily、Hannaは日々の生活を送る。
「Pretty Little Liars」のシリーズ第3弾である。毎度のごとく恋愛や十代の女性にありがちな女性同士の見栄の張り合いや、派閥意識のなか普段の生活を送りながらも、4人はAと名乗る人間から来るメールなどに怯え続ける。そんな中やがてEmilyは自分のAliとの記憶のなかに抜け落ちている部分があることに気づくのである。そして、両親に寄るとどうやら幼い頃にもそういう経験をしたことがあったという。どうやらその抜け落ちた記憶の部分に真相にたどり着く鍵があるようだ、と不安になっていくのだ。
大きく物語の動く第3弾。すぐに続きを読みたくさせる。

「翻訳の基本 原文通り日本語に」宮脇孝雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
翻訳家である著者が、翻訳者の間違えやすい英語表現、文や、翻訳者がやってしまいがちなことについて語る。

英語の本を読んでいるとたまに意味のとれない文章や表現に出会う。自分一人で読んでいる場合は、物語全体の流れに差し支えない限り特に問題はないのだが、翻訳をするとなるとそうも行かないだろう。本書を読んで最初に驚いたのが、プロである翻訳者もそこらじゅうで間違った訳をしてそれが売り物として世に出回っているのである。

序盤は翻訳者が陥りがちなよくない翻訳傾向について語っている。例えばやたらとカタカナ言葉を翻訳に使ってしまう訳。外来語がカタカナとして定着してきてはいるが、どこまでそれを用いるのかが難しいのだという。例えば現代ではすでに「wine」は「葡萄酒」ではなく「ワイン」と訳した方が通じやすいだろうが、「店がオープンした」とか「道がカーブしている」あたりから翻訳者としては許容できなくなってくるそうだ。この辺の感覚はまた何年か経つと変わっている事だろう。

中盤からは英語のなかの間違えやすい表現について紹介している。例えば

「midnight」などは僕ら日本人は「真夜中」と訳しがちがだ、僕自信は「真夜中」というと夜中の12時から3時ぐらいをさすような印象を持っているが、英語の「真夜中」は「深夜12時」のことなのだという。またイギリスの駅のシーンで「entrance」を「改札」と訳すのも間違いだそうだ。なぜならイギリスの駅には改札がないから、だとか。
読めば読むほど、もはや翻訳は英語力ではなく文化に対する知識と言う気がしてくる。また、海外の作家の本は出来る限り英語で読もうと本書を読んで決意させられた。
【楽天ブックス】「翻訳の基本 原文どおりに日本語に」

「小笠原クロニクル 国境の揺れた島」山口遼子

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
先日読んだ垣根涼介の「人生教習所」という物語が小笠原諸島を舞台としていたため島の歴史に興味をもって本書を手に取った。
戦争に大きく影響を受けた場所について考えると、どうしても沖縄がすぐに思い浮かぶが、小笠原の歴史も予想以上に興味深い。小笠原の所属している国がアメリカから日本に変わるときはもちろん、そこに住んでいいた人たちには国籍の選択権と3年という猶予が与えられたのだが、そのタイミングでどの段階まで教育を受けていたか、という点が、アメリカか日本かを選択するうえでとても重要だったようだ。
兄弟、家族で異なった国籍を持ち、違った文化で生きる事を強いられるというのはどんな気持ちなのだろう。
本書のなかでそんな時代を生きた人々が当時を語る様子が描かれている。その内容はいずれも印象的である。アメリカ支配から日本支配になったことによって、過去の方が現在よりも豊かだった。という時代がこの島には存在したのである。
遠い場所で行われた国同士の取り決めによって翻弄されてた島。そこでは一体どんな文化ができあがるのだろう。いつか小笠原にいってみたいと思った。
【楽天ブックス】「小笠原クロニクル 国境の揺れた島」

「人生教習所」垣根涼介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
両親の勧めで人生再生セミナーに参加することになった東大生の浅川太郎(あさかわたろう)。会場である小笠原に向かうフェリーにそれぞれの参加者がぞれぞれの想いを抱えて集う。
3人の人生に悩む参加者に焦点があてられている浅川太郎(あさかわたろう)と、ヤクザとしての人生に疲れきった柏木真一(かしわぎしんいち)、自分の容姿に自信がないライターの森川由香(もりかわゆか)である。それぞれが出会った当初はそれぞれを蔑んだり敬遠したりしながらも、セミナーを通じてともに過ごす事に寄って少しずつ打ち解けていく。
著者が本書をもって何を訴えたいのかはわからないば、個人的に印象に残ったのはむしろ、そんな登場人物たちのエピソードではなく、舞台である小笠原の人々の経験談である。セミナー中に、戦時中の人々に当初の経験を話してもらうのだが、そこではアメリカから日本になった小笠原という場所に生きた人々の苦悩が見て取れる。彼らにとってはどこか遠くの地で決められたどうしようもないこと。その決定によって兄妹や友人とは離ればなれになってしまうだけでなく、日々使用する言葉までも変えなければならないのだ。

それまで学校に上がっていた星条旗がするすると降ろされると、代わりに日章旗が揚げられました。そしれそれまでハワイから来ていた先生に代わり、日本の本土から来た先生が日本語で言いました。
みなさん、おめでとう。『返還』により、小笠原は『日本』になりました。
アメリカ人が支配していた頃は、よかったなあ。物資が豊富でなんでもかんでもグアムから運んでくれた。

このような問題を語る時、人々の頭に浮かぶのは沖縄なのではないだろうか。小笠原という場所の歴史に興味を向けさせてくれる一冊。
【楽天ブックス】「人生教習所」

「The Sins of the Father」Jefferey Archer

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アメリカにたどり着いたHarry、Harryの子を宿したEmma、そしてHarryの親友であるGile。それぞれの人生が分岐し始める。
前作「Time Will Tell」の続編である。結婚を約束したEmmaが実は兄妹の可能性があることを知り、戦死した事にして他人の名義を乗っ取ってアメリカに入ったHarryだが、そこでは乗っ取ったアメリカ人の罪を被って服役する事と成る。一方でEmmaはHarryの戦死という事実に疑いを持ちその事実叙調査を独自に始めていく。Emmaの兄でありHarryの親友であるGileは兵役に志願しドイツとの戦地に赴いていく。
なかなか前作を読んでいない人にとって楽しむ事は難しいかもしれない。前作を読んでいる人には、前作では脇役に過ぎなかった登場人物たちが、それぞれ活躍していく様子を楽しむ事ができるだろう。
やがて物語は後継者選びへと発展していく。Barrington家を継ぐのはその息子のGileなのか、それとも別の男の息子として育てられたが産まれるのが数ヶ月早かったHarryなのか。すぐに続編へと手を伸ばしたくなる一冊。

「私の男」桜庭一樹

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第138回直木賞受賞作品。
婚約者と結婚することになった花(はな)。長年一緒に過ごしてきた養父の淳悟(じゅんご)ともこれからは別々に生活する事になる。そんな微妙な親子の関係を描く。
序盤は花(はな)の、社会人であるにも関わらず、若すぎる父親淳悟(じゅんご)との親密な関係が同僚たちの目から描かれる。そして、物語が進むに従って2人の持つ過去が少しずつ明らかになっていくのである。
個人的にはあまり印象的といえる箇所はなかった。というのも親子の禁断の関係というのは、昨今ではあまりにもそこらじゅうで使われており、特に新しさを感じないのである。
むしろ花(はな)が奥尻島の震災孤児という設定なので、その2年後に起こった阪神大震災によって、人々の記憶から薄れてしまった災害について再び目を向けさせてくれた点が印象的である。
【楽天ブックス】「私の男」

「約束の地」樋口明雄

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
大藪春彦賞受賞作品。
環境省の七倉航(ななくらわたる)は娘とともに八ヶ岳に赴任してきた。そこでは様々な人々が自然と関わって生きていた。
都会の文化のなかで育った七倉(ななくら)が次第に自然と向き合い、いくつもの苦難を経て、次第に引き込まれていく様子が描かれている。そんななかで今の日本が抱える自然保護の問題が見えてくる。後継者のいない猟師。密猟や乱獲による野生動物の減少。飢えて人里に降りてくる野生動物と人間のトラブルなど、いずれも都会に住んでいては意識しないことばかりではあるが、人々がもっと目を向けるべきことなのだろう。

人はむかし、山の動物と棲み分けをしていた。多少の干渉はあったにしろ、基本的には互いの生活圏を侵害しないという不文率を守り、それぞれが暮らしていた。そんなルールを一方的な都合で破棄し、山や動物をさながら所有物のように好き勝手に蹂躙し始めたのは人間なのである。自然がそんな人間を赦すはずがない。

本書ではそんな長年の人間の行いに対する自然の怒りの象徴のように、い「稲妻」と呼ばれるツキノワグマと「三本足」と呼ばれるイノシシが登場する。彼らの生き様、人間に対する振る舞いには感銘を受ける部分がある。自然に対する人間のありかたに目を向けさせてくれる作品。
【楽天ブックス】「約束の地(上)」「約束の地(下)」

「スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙」五條瑛

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第3回大藪春彦賞受賞作品。
北朝鮮の工作員チョンが日本に潜入した。葉山(はやま)はチョンの残したものを分析してその足取りを追ううちにしだいにチョンの人間性が明らかになっていく。
北朝鮮、日本、アメリカと国をまたいで繰り広げられる諜報活動。そんな中で生きる人々を描く。僕らは諜報活動やスパイと言った言葉を聞くと、そこに関わる人々は、どこか冷血で非人間的な印象をもっているが、むしろ本書で中心となるのはその生まれ育った境遇故に、国家間の陰謀に巻き込まれていったむしろ不幸な人々である。
物語はチョンと、チョンを追う人々と、人間としてのチョンと関わる事に成った、その家族の視点で描かれる。北朝鮮に住む、チョンの家族の目線では、その言論統制の厳しさが見え、また日本に潜入したチョンの目線からは日本の物質的な豊かさが感じられるだろう。
諜報活動を扱った物語は、往々にしてわかりやすい展開にはならず、どこか難しい印象が常にあり、そういう点では本書も例外ではない。ただ、国の違いに置ける文化や豊かさの違いなどが感じられる点が新しい。
【楽天ブックス】「スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙」

「光媒の花」道尾秀介

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回山本周五郎賞受賞作品。
人々の人生を切り取った6つの短編から成る物語。
母と息子、兄と妹、先生と生徒。この世界にある様々な人間関係のなかの6つを描いている。想い通りにいかないやり切れなさや希望のない未来は、自然と人の心を過去に向かわせるのだろうか。どの物語も、楽しいわけでも悲しい訳でも、希望を与えてくれるわけでもないが、なにか染み入ってくるものがある。
特徴的なのは、どの物語も植物や昆虫が象徴的に登場する点だろう。笹の花、キタテハチョウ、シロツメクサ、カタツムリ。幼い頃は昆虫や植物と触れる機会も多かったのに大人に成るに連れてそんな時間もとれなくなる。だからこそ植物や昆虫は過去の思い出とリンクするのだろうか。
この物語全体に漂うしみじみとした雰囲気は、周五郎賞受賞を納得させてくれる。
【楽天ブックス】「光媒の花」

「ALONE TOGETHER」本多孝好

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
殺した女性の娘を守って欲しいという依頼を受けた「僕」はその中学生の女性、立花サクラに近づいく。
一度は医者を志しながらもその道を諦めて塾の講師として働く「僕」はその特殊な能力で人の心に踏み込んでいく。誰もが自分自身が一番大切でありながらも人との関係を求めるのはなぜなのだろう。人間関係というものについて考えさせられるかもしれない。
独特なリズムと雰囲気を持った本多孝好の世界。簡素な台詞や控えめの感情描写で、物語中の意味の多くを読み手に委ねてしまっている点は読者に寄って好みの別れる部分だろう。
【楽天ブックス】「ALONE TOGETHER」

「Before I Go To Sleep」S J Watson

短期記憶しかもつことのできないChristineは一晩眠ると前の日の記憶を失ってしまう。だから毎日日記をつけることで前の日に起こった事がわかるようにした。彼女の毎日は、隣で眠る知らない男を夫と認識する事から始まる。
ここ数年短気記憶を扱った物語をたびたび目にする。「博士の愛した数学」「50回目のファーストキス」など、どちらかといえば、短期記憶しか持たないということを、毎日毎日を大切に生きる、ということにつなげる内容が多いように思うのだが、本書はもっとそれをミステリアスに使っている。
医者が言う事と、夫が言う事、そして自分が日記に書いている事に矛盾があるためにChrristineは悩む。そして同時に、今知った事を明日には忘れてしまうという恐怖も味わうのである。息子がいるのかいないのか、息子は生きているのか死んでいるのか、そもそも自分が記憶を失ったのは、交通事故なのか暴行をうけたからなのか。ときどき脳裏に浮かぶ記憶の断片が、少しずつChristineの過去を明らかにしていく。
もはや展開としてはどんな結末にもできる流れだったので驚きはなかったが、一つの物語の試みとしては面白い。

「ブルー・マーダー」誉田哲也

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
池袋で暴力団などを狙った殺人事件が連続して起きる。やがてその殺人者は「ブルーマーダー」と呼ばれるようになる。
姫川玲子シリーズの第6弾にあたり長編となっている。シリーズ第4弾「インビジブルレイン」の出来事によって所轄書に移動になり、それまでの姫川班とも離れる事になった玲子(れいこ)。そこで発生した殺人事件、「ブルーマーダー」を追う事になる。
シリーズすべてに共通する事であるが、事件を解決しようとする玲子(れいこ)だけでなく、犯罪者の側からも物語が描かれている点が面白い。犯罪者には犯罪者の、そういう行動に走らなければならなかった理由があるのだ。

お前も肝を括れ。もう、法律はお前を守っちゃくれない。自分の身は自分で守るんだ。自分の力で守るんだ。その力は、俺が授けてやる。
でもさ、この憎しみや殺意は、実は、愛情の裏返しなんだって、そういうふうには、考えられないかな。自分を大切に思っているからこそ、傷つけられると、悔しいし、悲しい。誰かを大切に思ってるからこそ、その誰かが傷つけられたら、殺したいほど憎くなる。

そして事件だけでなく、警察内の人間関係も面白く描かれている。今回は特に、かつでの部下で玲子に想いを寄せていた菊田(きくた)とのやりとりにも焦点があてられている。
このシリーズは短編集と長編が交互にしばらく展開されているが、短編集の方が深みを感じる。もちろん、長編によって積み重ねられた人物設定があってこそ短編が生きるのかもしれないが。
【楽天ブックス】「ブルーマーダー」

「Sleeping Doll」Jeffery Deaver

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人の心を自在に操るカリスマ的犯罪者Daniel Pellが脱獄した。人間の所作や表情を読み解く「キネシクス」分析の天才でカリォルニア州捜査局捜査官のKathryn Danceがその行方を追う事となる。
Rincoln Rhymeシリーズで何度か登場したKathryn Danceを主人公に据えたシリーズの第一弾。会話する人のわずかな動作からその真偽を見抜く技術に長けているゆえに、聞き込みや取り調べでその技術が発揮される。目の動き、手足の動作など、人の感情は実はかなりの部分が表面に現れているのだ。
そうして次第にDanceはPellを追いつめていくのであるが、同時にDanceの夫を失って1人で2人の子供を育てる姿も描かれており、そんな人間らしさがRincoln Rhymeのシリーズとは違って共感できるかもしれない。
やや結末は予想のついた部分もあったが全体的に無難な出来である。ただ、Danceのもつ技術の特異性で読者を引きつけられるのはおそらく一作目だけで、2作目、3作目と続くなかでどのようにシリーズを魅力的なものにしていくのかというのが、個人的には気になるところである。

「家族狩り オリジナル版」天童荒太

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第9回山本周五郎賞受賞作品。
都内で起こる一課殺人事件。非行に走った少年が起こしたものと考えられていたが、同様の事件が続く事となる。刑事馬見原(まみはら)、教師巣藤俊介(すどうしゅんすけ)、児童カウンセラーの氷崎游子(ひざきゆうこ)などそれぞれの悩みを抱えた人々が事件に関わる事になる。
物語の主な登場人物たちはいずれも家族に問題を抱えている。馬見原(まみはら)は息子を失い、それによって妻は精神を病み、娘は馬見原(まみはら)を憎む事となった。俊介(しゅんすけ)は美術教師であるために問題を抱えた生徒たちの対応しなければならない。游子(ゆうこ)は過去の経験から、子供たちを救う事を使命として仕事に打ち込んでいる。そんなそれぞれの思いを順々に描きながら、物語は進んでいく。
家族のあり方、子供の育て方、年老いた両親への接し方。いずれも正解のないものだが、結果だけで周囲には判断されかねないもの。そして、家族というつながりがあるゆえに、決して逃げ出す事のできないものである。本書はまさにそんな現実に改めて目を向けさせてくれる。
そういう意味では物語の発端として起こっている残虐な事件は、人々に家族のありかたに目をむけさせるための一つの要素に過ぎない。
【楽天ブックス】「家族狩り オリジナル版」

「「アラブの春」の正体」重信メイ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2010年にチュニジアから起こったデモがアラブ諸国に大きな動きをもたらした。そんな「アラブの春」と呼ばれる出来事の実態をアラブ社会で育った著者が語る。
「アラブの春」という言葉は知りながらもその実情はほとんどの日本人は知らないだろう。もともと日本と交流の多い欧米の国々のメディアはアラブ社会での出来事についてあまり多くを報道しようとはしないし、なんといっても日本は時を同じくして東北大震災に見舞われていたのだから。
本書を読むと、そんなアラブ社会に対する偏見が見えてくる。アメリカやヨーロッパのメディアは常にアラブ諸国での出来事を、視聴者に意図した形でねじ曲げて伝えようとする。アルジャジーラでさえも物事を完全に客観的に報道してはいないのである。それはスポンサーなくしては存在し得ないメディアにおいては避けられない事なのだろう。
さて、本書ではアラブ諸国について、チュニジア、エジプト、リビアだけでなく、カタール、サウジアラビア、シリアなど多くのアラブ諸国についてその実情を語っている。本当に表面的な部分だけなので、本書だけで理解できるとは言えないだろう。それでもアラブ諸国の実情や、イスラム教などの宗派など興味を喚起させてくれる内容である。
印象的だったのは、革命後の国々の多くの人々が革命前よりも不幸になるだろうという著者の見解である。

政府を倒すまでは民衆蜂起でできるのです。リーダーが必要になるのは、政権を倒し、新しい政権を作るときです。

革命後のアラブ諸国にもしっかり目を向けていきたいと思った。

パンナム機爆破事件
パンアメリカン航空103便爆破事件(パンアメリカンこうくうひゃくさんびんばくはじけん、通称:ロッカビー事件〔ロッカビーじけん〕、パンナム機爆破事件〔パンナムきばくはじけん〕)は、1988年12月21日に発生した航空機爆破事件。(Wikipedia「パンアメリカン航空103便爆破事件」
GCC
中東・アラビア湾岸地域における地域協力機構。(Wikipedia「湾岸協力会議」

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「さよなら渓谷」吉田修一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
幼児の殺害の容疑をかけられていた実の母親立花里美(たちばなさとみ)は隣に住む尾崎俊介(おざきしゅんすけ)との関係を示唆した。別の女性と同棲している俊介(しゅんすけ)は過去に強姦事件を起こしていたのである。
幼児殺人事件という体裁をとって物語は始まるが、その焦点は過去にその殺害事件そのものではなく、関係者の過去を洗っていたマスコミに寄って明らかになった、隣人尾崎俊介(おざきしゅんすけ)の起こした過去の集団強姦事件と、その関係者のその後の様子である。
同じ強姦事件の場にいながらも、そのことを忘れたように成功している人も入れば、それを機にその苦しみから逃れられない人もいる。同じ出来事でもそれを受け止める人に寄って、その記憶はよくもわるくも、長くも短くもなるのだろう。

ああ、この人もずっとあの夜から逃れられずにいたんだなぁって。あの夜から逃れて、自分だけが幸せになっていくことを、心のどこかで許せずにいたんだなぁって。

幸せになるというのが怖い、という行き方があることはなんとなく分かっているがなかなか、それを描いてくれる物語は少ないように思う。そういう意味では貴重で印象に残る内容である。

一緒に不幸になるって約束したんです。そう約束したから、一緒にいられたんです

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「それがぼくには楽しかったから 全世界を巻き込んだリナックス革命の真実」リーナス・トーバルズ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
リーナス・トーパルズはヘルシンキ大学在学中にOSを作り始めた。インターネット上でソースコードを公開し、ネット経由でたくさんのプログラマーの強力を得てLinuxを作り上げていった。その過程やリーナス・トーパルズの考え方などをまとめている。
そもそも「オープンソース」とは何なのか、単純に「ソースを公開する」とはいうけれど、それをどうやって管理するのか、そんな点の興味から本書に入った。残念ながらオープンソースの管理という面では、どうやら本書を読むと結構行き当たりばったりな部分が多かったようで、期待にそう内容とは言えない。しかし、本書で触れられているリーナスのプログラムに対する情熱にはとても刺激を受けた。何よりお金に執着しないで楽しみを求めるリーナスの行き方に感銘をうけるだろう。

多少なりとも生存が保証された世界では、お金は最大の原動力にはならない。人は情熱に駆り立てられたとき、最高の仕事をするものだ。

専門用語も多く残念ながらとてもすべてを理解できたとは言いがたいが、読み終わった後、久しぶりにプログラミングがしたくなる。寝る間も惜しんでパソコンの前にへばりつき、プラグラムに明け暮れる。そんな時間が恋しくなる一冊。

MINIX
1987年にオランダ・アムステルダム自由大学(蘭: Vrije Universiteit Amsterdam)の教授であるアンドリュー・タネンバウムが、オペレーティングシステム (OS) の教育用に執筆した著書 Operating Systems: Design and Implementation の中で例として開発したUnix系のオペレーティングシステム (OS) 。(Wikipedia「MINIX」
Shell
ユーザの操作を受け付けて、与えられた指示をOSの中核部分に伝えるソフトウェア。キーボードから入力された文字や、マウスのクリックなどを解釈して、対応した機能を実行するようにOSに指示を伝える。(e-words「shell」

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「虹の谷の五月」船戸与一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第123回直木賞受賞作品。
フィリピン、セブ島のガルソボンガ地区に祖父と住むトシオ・マナハン13歳。ある日、日本人と結婚したクイーンと呼ばれる女性が、故郷であるガルソボンガ地区に戻ってきた。それをきっかけにトシオは内紛に巻き込まれていく。
その描写からはずいぶん昔を舞台とした物語のようにも感じるが、実際には1998年の現代を描いている。祖父とともに強い軍鶏(しゃも)を育てることに夢中になっているトシオ・マナハンが少しずつ大人になっていく様子が描かれる。
日本人とフィリピン人の間に生まれたがゆえに「ジャピーノ」と呼ばれるトシオ。そんなトシオの生活の様子から、フィリピンの田舎町での生活が見えてくるだろう。電気もなく、警察や役人は汚職に手を染め、貧富の格差によって生活が大きく異なる。そんななかで信念を持って生きる事はきっと大変な事なのだろう。
本書のタイトルにもなっている「虹の谷」はガルソボンガ地区でトシオのみが行き方を知っているという不思議な虹のできる谷のこと。しかし、トシオはそれゆえに悲劇に巻き込まれていくのである。
フィリピンの歴史についてもっと知りたくさせてくれる一冊。

浮塵子
イネの害虫となる体長5mmほどの昆虫を指す。(Wikipedia「ウンカ」
タイタン・アルム
インドネシア、スマトラ島の熱帯雨林に自生する。7年に一度2日間しか咲かない、世界最大の花。(Wikipedia「スマトラオオコンニャク」

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